阿部譲二のMのある風景―屈辱の披露パーティ(第五話)
2011/01/25 阿部譲二作
照男はたっぷり半時間を越えるいたぶりの後、漸く幸夫の顔から尻を上げる。そして、司会の小夜子の耳に何やら囁いた。
「私、忘れていました!これじゃ、司会役失格ね……では、遅まきながらお二人による犬の命名式を行います。……フフフ、この犬にはすでに素晴らしい名前が用意されているのですよ!」
小夜子は思い入れたっぷりにいったん言葉を切って息を入れる。その間に幸夫はやっとの思いで身を起こし四つん這いに戻った。顔には照男の股間から擦り込まれた粘液がまだべっとり付着している。
「じゃあ、僭越ながらお二人に代って、この犬の新しい呼び名を発表します。……それは……」
皆が好奇心に包まれて一瞬、静まり返る。
「それは、"クソ"、そう、"クソ"でーす。」
会場がドッと笑いに包まれた。
「皆さんが今ご覧になったように、この犬はお二人のお尻の穴にディープキスをしたところです。だから、その穴から出てくるものに因んだクソというのはこの犬にこれ以上なくふさわしい呼び名ですね!……ではおふたりに新しい名前で呼んで貰って命名式とします。」
マイクの傍に立った二人は、幸夫の方を見やって声をかける。
「クソ、こっちへいらっしゃい!……」
「そらっ、クソ、ここへ来るんだ!」
二人に呼ばれた幸夫は、すごすごと二人の足元に這い寄る。
「では、素敵な名前を頂いた犬に、お二人へのお礼のご挨拶をさせまーす。」
小夜子は同時にポンと幸夫の尻を足蹴にした。そんな仕草にも軽蔑が露わだった。
「す、素敵な名前をあり…ありがとう…ございました。これからはお二人に毎週末にクソと呼ばれて……ウ、ウッ……名前に恥じない立派なクソになるよう、ど、努力します……」
込み上げる無念さを抑えながら、幸夫は二人の靴に舌を這わせた。途端に二人の靴が幸夫の後頭部を踏みつけ、顔を床に押し付けた。
こうして、ハイライトのイベントが興奮の余韻が漂う中で、会場の皆がまた雑談に戻り暫くは歓談の時間が過ぎた。ひとしきり座が落ち着いた頃、照男と久美子が司会の小夜子に近寄って何やら囁いた。プッと吹き出して大笑いしながら、小夜子は中央のマイクに近寄った。
「皆さん、ここでハプニングのショーをお目に掛けます。出演は勿論新婚のお二人とその犬です。まずはその会話をお聞きください!」
首の紐を曳かれて二人の前にかしこまった幸夫に、久美子がマイクを手に芝居がかった調子で声を掛ける。
「ねえ、私たち二人とも、おしっこが出たくなっちゃったの。……お前は私たちのクソなんだから、おしっこともお付き合いしたらどう?……お前、どうしたい?」
ウッと幸夫は呻いた。来るべきものが来たのである。かねてから言い渡されていて、十分覚悟していた筈だが、皆の視線のもとで生き恥を曝すのかと思うと、不覚にもまた涙が出てきた。幸夫は自らを奮い立たせるようにして二人を見上げた。
「わ、私をお二人の便器にして下さい。……お二人の、お、おしっこを飲ませて下さい」
途端に会場からざわめきが起こった。
「キャーッ、変態!……チカンだけじゃないのね。」
「私、読んだことあるわ。マゾって便器願望があるんですって。……それ、こいつがそれなのよ!」
「皆さん、どうかお静かに!……まず、ここはレディファーストで行きましょう。……ホラ、クソ便器!……久美子さんが先よ!」と小夜子。
久美子の足が幸夫の肩を蹴り、横転した男の顔にロングスカートの裾がかぶさる。幸夫の足の方を向いた女の股間が再び幸夫の顔を捉え、手足をばたつかせる男の口には今度は尿孔が、そして鼻孔にはアナルがあてがわれた。
「皆さーん。便器ショーの始まり始まりぃ。……元恋人にお尻の穴の臭いを嗅がされながら便器にされる男の心境や如何にぃー!」
小夜子がおどけた調子で皆を煽る。あちこちでクスクス笑いが起こった。
「クソよ、行くわよ!……」
幸夫の口中にちょろちょろと汚水が注がれ始め、次第に勢いを増す。
遠慮のない女客たちは周囲に寄って覗き込む。幸夫の喉が大きく動き久美子の小水を懸命に飲んでいるのが手に取るように分かった。
「飲んでる、飲んでるわー。すごーい!……」
「ホラ、鼻の穴が久美子さんのお尻の穴にぴったり当たってるわ。みじめねぇー」
ゆっくりと時間を掛けて男の口中に用を足した久美子は、いったん尻を持ち上げようとしたが、まだ残尿感があると見え、再び腰を下ろし、尿を絞るため下腹に力を込めた。とたん、「プスッ」と大きな音と共にガスが漏れる。それが幸夫の鼻孔に注入され、まともに吸い込んだ幸夫は思わず「ウウッ」と呻いた。臭気が鼻の奥を刺し、激しい屈辱感で頭が真っ白になる。
「あら、ごめんね!……出ちゃったわ……アラッもう一発……どうにも、止まらないわ。フフフ」
この予想外のハプニングに、また周囲がドッと湧いた。
しかし、勿論これで終わりではない。漸く身を起こした幸夫の髪を掴んだ照男は、立ったままグイとばかり男の顔を自分の股間に引き寄せる。ズボンのチャックを下ろすと、ぐにゃりとした男のものが、幸夫の唇を割る。
「クソ、口を大きく開けろ……俺のが御婦人たちに見えないように全部口の中に入れて隠すんだ。……ホラ、お前が好きな俺のションベンだ。女のションベンとどちらがうまいかよく味わうんだぞ!」
口の中にすっぽり押し込まれた照男の男根から幸夫の喉の奥に直接汚水が注がれた。
「ア、ア、ム、ム、ムッ……アー、アー」
涙でくしゃくしゃになった顔を曝しながら、幸夫は懸命に照男の小水を飲む。傍で覗き込んでいる久美子の顔に軽蔑の色が露わに浮かんだ。
「意気地のない奴ね、男のくせに……でも、仕方ないか。犬だもんね……それに、これから一年間は毎週、私たち二人の専用便器として、しょっちゅう使われるんだからね」
久美子の蔑みに溢れたつぶやきが幸夫の心を深くえぐった。
それから、ほぼ一時間後、お床入りの準備と称して、新郎新婦の二人はホテルの最上階にあるスィートルームに向かった。
「準備が出来たら小夜子さんに携帯でお前をよこすように言うからね。それまで、会場のみんなになぶってもらいなさい。そう、もちろんお前からお願いするのよ。……何でもいいわ、とにかくおまえの新しい身分にふさわしい屈辱をおねがいするといいわ」
久美子と照男が退場すると、座は途端に統一を失って三々五々と幾つかのグループにわかれて料理や酒を楽しみながら談笑があちこちで始まった。そんな場では四つん這いで皆の足元にすり寄る幸夫のみじめさは際立つばかりだった。
「ちょっと、クソ、こっちへおいで」
顔なじみのカップルから声が掛った。クソと呼ばれる情けなさがぐっと込み上げる。
「お前、これからあの二人に何されるの? フフフ、口に出して言ってごらん? え? 二人のセックスに奉仕させられるんでしょう?……そうか、お前の恋人が他の男とやるのを見せつけられるのよね。さぞ悔しいでしょうね」
「その憎い男の尻の穴を散々舐めたんだから、今度はチンポを舐めるんだな。お前のあこがれの彼女のオマンコに入れる前と後にな。」
「お前、元カノ様にお願いして、オマンコの方も舐めて清めさせて頂くのよ。そして二人のセックスが始まったら、結合部を舐めて、っと。……お汁もきっと吸わされるわ」
「ハハハ、後始末はお前の役目さ。彼女のオマンコに吸いついて、中出しのジュースをチューチュー吸うんだ。さぞみじめな格好だろうな」
「そう、憎い彼氏のオチンコもスポスポ吸って清めるのよ。……アラッ、私ったら感じてきちゃったわ。……ねえ、二人が新婚旅行に行ってる間に、久美子さんに頼んでお前をレンタルしてやるからね。今言った奉仕を私たちにもするのよ!」
「クソ、こっちよ。……いやだ、未だ自分の名前をおぼえていないようね」
「もっとアクセントを付けて呼ぶのよ……ホラ、クソッ!」
「クソ、クソ、こっちのお尻はくーさいぞぉ」
三人組の女性たちが笑い転げながら手で招く。すごすごと女たちの足元に這い寄ると、ヒールの先で頭を撫でられた。
「さっきは御苦労さま!……ところでお前、女のオシッコだけじゃなくって男のも飲むんだね。これから一年間もあの二人のを飲まされるんだって?」
「ネ、ネ、クソって、お尻の穴から出るでしょう。お前も毎週あの二人のお尻の穴を吸うんだから、ぴったりね。お前にふさわしい呼び名ね。フフフ」
突然、携帯の着メロが響いた。電話に出た小夜子が笑みを含みながら何回か頷く。
「クソ、お二人の床入りの用意が出来たそうよ。……ただ、お前のためにお風呂は一回目が終わってからにするんですって……」
「どうして?」と横から不審げな声。
「セックス前に、このクソに二人の性器を舐め清めさせるんですって。汚れていた方が舐め甲斐があるようにですって。……そう、彼女、今朝まで生理でお風呂は何日も入ってないんですって。気が遠くなるほど臭いってクソに言っておいてくれとの言伝てよ。彼の方もチン滓が一杯溜っているんですって」
「面白いわぁ……私、見て見たい! このクソが泣きべそかきながら二人の股の間に顔を突っ込む所!」
「まあまあ、それはこいつが二人の新婚旅行のお供から帰ってきてからたっぷり報告させますから……」
「アララ、このクソは新婚旅行にまで連れて行かれるの?……みじめだわねぇ……可愛そ!」
周囲の女たちの嘲りの言葉が次々と耳に飛び込んできて、悔しさもひとしおである。
「じゃあ、クソ、いよいよ出番よ。元恋人とそれを奪った憎い男の二人に一晩中うんと嬲って貰うのよ!」
小夜子の手に握られた紐で首輪を曳かれ、幸夫は四つん這いで皆の足元をくぐり、パーティ会場の出口に向かう。
「クソ、頑張るのよ。……しっかり舐めて来なさい!」
足元を通り過ぎると、女の笑い声と共に幾つものヒールが幸夫の肩や頭を蹴った。
こうして、屈辱と転落の披露パーティの最後を飾って、皆の拍手と軽蔑の笑いに送られて、幸夫は「クソという名の犬の生活」に送り込まれたのである。