阿部譲二のMのある風景―屈辱の披露パーティ(第四話)
2010/12/25 阿部譲二作
犬の契り
結婚披露宴に引き続いて計画された若者たちだけの披露パーティは、未だ始まったところである。
「この席上に新婦の元カレ、田中幸夫をこの席に呼ぶのに違和感を持たれる方もいらっしゃると思いますが、今日の目玉イベントの主役でもあり、皆さんにもお楽しみ頂けると思いますので、幹事が独断でこれから連れてまいります。」
幹事の近森小夜子は、そう言い残すと夫と共に退席して、隣の控室に入った。
そこには、驚いたことに、パンツ一枚の裸で犬の首輪を嵌められた幸夫が床にへたり込んでいる。内心、これからの屈辱を思うと悔しさが頭を駆けめぐり、すでに目が潤んでいた。
「用意はいいこと?すべて打ち合わせ通りにするのよ。……間違えたり、途中で逃げ出したりしたら、あの懲罰要求書違反で先方から訴えられるわよ。」
「いいか、お前は痴漢で捕まった変態だということを忘れるなよ。どんな無理難題でも反抗したり、服従しなかったりしたら3カ月の期間がいくらでも延びるのだからな!……それと、うちのかみさんは、その後ではお前の上司になるんだからな。口答えでもしたら、うんといじめられるぞ!」
「フフフ、それでなくてもこれからはうんといじめるわよ。これまで何時も私に威張って来た報いを思い知らせてやるわ。……」
小夜子とその夫の言葉に無念さを抑えて黙って頷く幸夫。その首輪には小夜子の手で赤い曳き紐が付けられた。
そのまま小夜子夫妻に曳かれて四つん這いでパーティ会場に入る。
その姿に会場の好奇の目がいっせいに集中した。
「皆さん、新婚夫婦の犬の入場でーす。」
ドーッとどよめきが沸き起こる。部屋の中央に置かれたマイクの下で小夜子の足元に犬座りしながら、幸夫の胸の動悸がひときわ高まった。
「この犬は、つい先ほどまでは田中幸夫という人間だったのです。痴漢という恥ずべき行為を償うために、このほど3カ月の間、新婚夫妻のお宅で犬として飼って頂くことになりました。……そこで、皆さんの前で新婚夫妻と犬の契りを結んでもらうことになったのです」
「質問でーす。……'犬の契り'って何をするんですか?」
「それは、これから見てのお楽しみです。……要は、これから3か月間会社での懲罰勤務時間以外は、毎日、香川照男、久美子さん夫妻に自宅で犬として使って頂く訳ですから、その犬としての身分を認識するためのセレモニーを行うのです。」
会場は好奇心に包まれる。
「まず、三三九度の契りです。……照男さん、久美子さん中央にお越し下さい。」
小夜子に促されて、二人は四つん這いの幸夫の前に立った。
「この儀式には、お酒ではなく新郎新婦の唾と痰を使います。……それも盃なしに直接犬の口の中に吐き込んで頂きます。いいですか?……新婦の久美子さんからどうぞ……犬は大きく口を開けて!」
進み出た久美子は、ひざまづいて口を大きく開けた幸夫に近づき、腰をかがめた。
「まず、唾を溜めて犬の口の中に吐き込んで下さい。……犬は目を閉じないで!……そうそう、御主人の目を見上げながらその唾をよく味わうのよ」
久美子は幸夫の口に顔を寄せると、頬をすぼめ自分の口の中に溜めた唾を「ペッ」と男の口中に吐き込んだ。意外に量が多く飲みこむとゴクンと音がした。会場から一斉に拍手が起こる。幸夫の顔が無念さに歪んだ。
「ワンストライク!…それを3回繰り返して……そうそう、その調子よ。……ツーストライク……もうひとつ、ストラックアウト!……次は選手交代して照男さん、お願いしますぅー。」
男の唾は久美子のものより三回とも量が多く、何よりも自分の恋人を奪った憎い男にこんな形で皆の面前で辱められていると思うだけで、幸夫は気が狂いそうだった。
「三三九度ですから、あと三回づつ、あわせて九回になるまで、お二人に追加してお願いするのですが、今度は唾だけでなく痰をお願いします。……つまり犬として御主人たちの痰壺として使われる悲哀を味わってもらうためです。……さあ、どうぞ、久美子さんから!」
小夜子に再び促され、久美子はその表情に微かに憐みの色を浮かべて、再び幸夫の前に進んだ。鼻を啜って喉を「カーッ」鳴らし痰を舌の上に溜めると「ペーッ」と首を振りながら幸夫の口中に痰を吐き込む。ねっとりした女の痰が幸夫の舌の奥にまとわり付いた。
「痰壺へストラーイク!」
小夜子のひときわ声高なコールに、今度はドーッと会場が笑いに包まれる。
しばらく間隔を置いて2回目、そして3回目の痰が幸夫の喉を直撃した。塩っぽい痰の味とねっとりと口中全体が覆われる不潔感、そして軽蔑を露わにした久美子の表情に胸がつぶれる思いである。
でも、照男が交代すると幸夫の屈辱感は倍増した。男の痰はその量も多く味も比較にならぬエグさだったのである。ゴクンと音をたてて飲みこむ幸夫の姿が皆の注視の的になった。
「きもーいっ!」
「ここまで落ちるかぁ……とても、人間とは見えないわね」
「犬にふさわしいざまだわ!……痴漢するとこんな目に会うんだ!」
女たちの呟きがひときわ目立った。
最後の三回を終えた時には、幸夫の顔は悔し涙でクシャクシャだった。
でも、それは未だ序の口だったのである。
「これで、三三九度の契りはめでたく完了しました。契りを終えた犬は御主人さまご夫妻にキスを許されます。犬としてのキスですから、もちろん人間の口には出来ません。……では、ここでクイズです。……犬はご主人様のどこにキスを許されるのでしょうか?……はい、そこの女性の方!」
「決まってるわ。ご主人様の足をペロペロ舐めるのよ。そうでしょう?」
「正解に近いですけど。それは舐めるのであってキスではありませんよね。……」
「犬だからキスの代りに舐めるんじゃなくって? ペロペロとね。フフフ」
「分かりましたわ。それも後で実演してもらいましょう。……でも、ここでは契りを固めるキスですから、特別に新婚のお二人のアナルにキスさせることとします。」
「アナルって、お尻の穴?……本当!こいつ二人のお尻の穴を舐めさせられるの?」
「そうですわ。それも、自分から土下座してお願いするそうです。……ホラ、お願いするのよ、お願いを!」
小夜子にせき立てられるように、幸夫は二人の前の床に頭を着けた。かねてからの打合せ通りの進行とは言え、改めて無念さがこみ上げる。
「ど、どうか、私が犬に落されたしるしとして、お二人の、お、お尻の穴にキスさせて下さい。……ど、どうかお願いします。」
「やっぱり変態だな。久美子さん、こいつと結婚しなくてよかったな!」
「私、知らなかった!こんな変態だなんて。しかも皆の前でこんないやらしいお願いするなんて」
「おい、おれも久美子さんも、お前のお願いがよく聞こえなかったんだ。もう一度言ってみな!」
グッと込み上げるものを抑えながら、幸夫はその屈辱の言葉を繰り返す。
「涙声でよく聞こえないわ。もう一度、皆さんによく聞こえるように繰り返して!」
今度は久美子がダメを出す。
幸夫の声は、はっきりするどころか、段々しゃがれてしかも嗚咽が混じる。
「もういいわ、キスさせて上げる……でも幹事さん。……私、どんな姿勢を取ればよいの?」
「こいつを仰向けに寝かせて、顔の上に跨って下さい。……スカートの中でパンティを脱ぐところは会場から見えないように、私がショールで隠しますから」
小夜子に手伝ってもらってパンティを脱ぐと、久美子は仰向けに床に寝た幸夫の顔を跨いだ。ロングスカートの下から仰ぎ見る女の股間、その茂みが幸夫の涙目に滲んで写る。
衣擦れの音と共に股間の黒い影が落下し、幸夫の顔面を覆った。久美子は両足を小刻みに前後させて位置を決め、彼の口にアナルをあてがった。同時に両手で尻割れをぐいと開く。ぐにゃりと久美子の生温かく柔らかい秘肉が彼の顔面に密着し、彼女の菊座が幸夫の唇を蹂躙した。
「ムムーッ、……ウ、ウ、ウ。」
最後の嗚咽はむなしく女の尻の下に消えた。
「これでお前も人間失格ね。これから一年間、毎週久美子さんのそこを味わうのだよ。……さあ、舌をもっと出して、……もっと吸って!」
司会の小夜子が幸夫に話し掛けながら、久美子の股間にマイクを寄せると、ピチャッ、ピチャッと隠秘な音が響いた。会場から「オーッ」とため息にも似た嘆声が聞こえる。
10分ほど経って、ようやく久美子が尻を上げた時には幸夫の顔は粘液でべとべとになっていた。でも、次には照男が控えていたのである。
照男は小夜子が差し出したタオルで幸夫の顔を拭うと、もどかしげにズボンとショーツを下ろし白い尻を露出させる。小夜子が慌ててショールで隠そうとしたが、その手を抑えるようにして、そのまま幸夫の顔を尻に敷いた。ムッとする饐えた臭気が鼻を突く。男のやや骨ばった尻肉が幸夫の顔を覆い、ねっとりと湿りを帯びた男の肛門が彼の唇をにじった。
「オイ、もっと強く舐めろ!……そう、そうだ。これから毎週、彼女のと俺のとを、ダブルで舐めるんだぞ。……オヤ、お前、泣いてるな。そんなに悔しいか!……ざまー見ろ、痴漢なんかしやがって!……これでもか……これでもかぁー」
近寄った小夜子に見せよがしに照男は幸夫の顔の上で白い尻を躍らせるようにしてその唇を蹂躙し尽くす。その敵意むきだしの凌辱ぶりに最初は面白がって注視していた久美子も思わず哀れを覚えて顔を背けた。
「皆さん、すごい迫力ですわ!……よかったら、みんなもっと近寄って見て。失恋した男が恋敵の男の尻でこんなに辱しめられるのって、すごいわぁー。私、はじめて見たわ」
司会の小夜子も嘆声を洩らすばかりだった。