阿部譲二のMのある風景―ニューヨークSMクラブ(第五話)


ニューヨークSMクラブ(第五話)

 ここは、広大な豪華住宅のプールサイドに設けられたブライダル・パーティの会場。催しの内容が内容だけにホテルを避け、料理や飲み物はすべてケータリングサービスを利用している。 敷地内の広いグリーンの一角に張った天幕からは音楽が流れ、参加者たちは全て上流社会の夫人や令嬢たちで圧倒的に白人女性が多かった。
 幹事のバーバラは、アシスト役の例の二人の女性と一緒に準備に大わらわである。ケンはといえば、天幕の隅のポールに犬の首輪を嵌めた四つん這いの姿で繋がれている。全裸のままだがニューヨークの夏はかなり暑く、夜になってもムーッとしていた。哀れなのはケンの尻から突き出しているドッグテール(犬のそれを模した付け尻尾)だった。肛門に差し込まれた端の部分が内部で風船のように膨らみ、簡単には抜けない様になっている。
 開始には未だ間があったが、既に出席者の半数近くが到着していて、ワインやカクテルグラスを手にしながら、プールサイドやグリーン周りで談笑していた。
「ヘイ……ナウ、イッツユアターン(そろそろお前の出番だよ)」
 バーバラは屈辱に打ちひしがれたケンの首紐の端を握り、ポンと彼の尻を蹴る。
 四つん這いで天幕から這いだしたケンは、バーバラの手の紐に曳かれて女客たちの足元に向かった。裸の背中には、" Ladie's clit licker dog here!"(女性のクリ舐め犬!)と大きく書かれている。その異様な姿に皆の視線が集まった。
「ルックヒア、レイディーズ(皆さん、こちらを見て下さい)」
 バーバラがマイクを手に取り、足元のケンを指さしながら説明を始める。ここにいるのが今夜のクリットリッカー・ドッグ(クリ舐め犬)で、普段はダウンタウンのクラブで女性に尻舐めサービスをしているプロだということ、今夜は、最初に花嫁が使うことになっていて、そのあと全員に回すから期待して欲しい。そして、とりあえずカクテルタイムの間は、自分の身分を認識させるために、皆のアナルの臭いを嗅ぐオリエンテーションを言いわたしてあるので宜しくと結んだ。そして、身をかがめてケンの口元にマイクを差し出し、ヒールの先で頭をこづく。
「プリーズ、レットミースメル、ユアアスホール(どうか皆さんのお尻の穴を嗅がせて下さい)」
 とケンが屈辱に震えながら予め打ち合わせた通り言うと、女たちの間に軽蔑の笑いがザーッとさざ波のように広がる。
 四つん這いまま女たちの足元に這い寄ると、最初のグループのところでいきなり頭を足蹴にされた。
「ゲットアウト、シットイータードッグ(あっちへお行き、このクソ喰い犬)」
そして、次のグループの所では、やや太めの女性が彼の背に尻を乗せた。女に椅子代りに使われたのだが、時間が経つにつれ辛さが増し腕が痺れる。もう一人が並んで腰を下ろした時が限界で、ケンはもろくも崩れ落ちた。女たちは反射的に立ち上がったので、転倒は免れたが、手に持ったカクテルグラスから飲み物が零れる。
 不始末を詫びるつもりで土下座して額を芝生に擦り付けたケンの背に衝撃が走った。首を上げるとバーバラが鞭を手に仁王立ちになっていた。
「ヤップ、ライクドッグ(犬みたいに鳴くんだよ)」
 鞭が再び一閃し、言われた通りキャンキャン鳴きしながら跳ね上がる。次の鞭の痛みを逃れようと身をねじって横転したケンの顔の上に先ほどの女が勢いよく尻を乗せた。ムーッとする尻臭と共に圧力が掛り、呼吸が奪われる。
 ワーッと女たちがはやす声が耳に入り、途端に屈辱感が込み上げてきた。苦し紛れに顔を捩じろうとするが、女は意地悪く尻割れを密着させて固定する。漸く許されて女の尻が上がり、視界が開けた。汚いものでも見るような女たちの視線をはねのけるように、また元の四つん這いに戻って次のグループの方に進む。
 こうして、ケンは次から次へと女たちのカクテルトークの肴として、慰み者にされた。
 一時間ほどすると、ようやくディナータイムとなり、豪華な料理を盛ったフードトレイが運び込まれる。ビュッフェスタイルなので、各自好きな料理を皿にとっておしゃべりを続けながらの会食だった。
 皆を尻目にケンはバーバラに首の紐を曳かれて、パウダールーム(化粧室)に向かった。個人の家でも豪邸ともなると化粧室の規模もケタ違いで、一面に鏡を張り詰めた休憩室にはゆったりとしたソファーセットが置かれている。中央のコーチ(寝椅子)兼用の椅子には主賓のブライド(花嫁)がくつろいでいた。バーバラと同じブロンド(金髪)で、目の大きな体格の良い白人美女である。酔いが回ってほんのりと上気した花嫁の姿からは、すでに淫蕩な雰囲気が漂っていた。
 ケンがソファーの前に引き据えられると、花嫁は両足を折ってソファーに上げて股を開いた。ケンの目の前には突然、天然の繊維に隈取られた女の股間が威圧するように迫る。バーバラが残した曳き紐が手繰られ、ケンの顔はさらに近付いた。
「セイハロー、ツー、マイアスホール(私の肛門にご挨拶するのよ)」
 ソファーの座面に顎を付けて薄いピンク色のアナルにそっと口づけすると、菊の花のような括約筋がピクッと震えた。ケンはクラブの客に何時もしているように、舌先を尖らせて穴の中に差し入れた。ウフッと女が軽く笑う。
「オープンユアマウス(口を開けて)」
 女は身を屈めるようにして喉を鳴らし、ケンの口中にペッと痰混じりの唾を吐き込んだ。言うまでもなく、身分の違いを認識させるための辱めだった。
 女の手がケンの髪を掴み男の口を股間に押し付ける。太ももで両頬を固定しケンの後頭部を軽く叩いた。始めろとの意思表示である。懸命に伸ばした舌が波のようにうねる股間の粘膜に巻き込まれて行った。それから2時間近くの間、休みなく奉仕を続けさせられ、女は少なくとも3回は達したようだった。
 花嫁が満足した後は、文字通りの修羅場がケンを待っていた。女が男たちに輪姦されるように、ケンの舌と唇に欲情をむき出しにした女たちの股間が次々と襲いかかる。それは深夜に至るまで続いた。数十人の女たちが野獣のようにケンを弄び、漸く解放された時は、既にケンの舌と唇、それに頬までが痺れて、殆ど口がきけなくなっていたのである。

(第五話完)


(完)