阿部譲二のMのある風景―ニューヨークSMクラブ(第二話)


ニューヨークSMクラブ(第二話)

だが、ケンはその後、思い出すだけで今でも悔し涙が出るという辛い経験をする。それはアルバイトを初めて1カ月余り経ち、ようやく過酷な勤務にもそれなりに慣れてきた頃だった。夕方出勤するとマネージャーが手招きする。今夜はツァーバスで日本人女性観光客の団体が立ち寄るので日本語で応対して欲しいと言うのである。ブースの扉にはすでに、
"ジャパニーズ・エージェント、オンデューティ"(日本人の奉仕者が勤務中)と書いた紙が張り出してあった。
 しかし、総勢20名を超す日本女性全員にアナルポッドを体験してもらうには、休憩抜きで一時間に3人の割でこなさなければならない。大体、20名余りの女性、それも母国の女たちに尻の穴を舐めさせられて慰み者にされるなんて、男として到底耐え難い屈辱なのだ。しかし客のより好みは出来なかった。泣く泣く木箱に横たわるとマネージャーはカチャッとロックを掛ける。客の意思に従順に従うように箱の中に拘束されたのである。
 やがてガヤガヤとあたりが騒がしくなり、便座の蓋が開けられて数人の女たちの顔が覗きこんだ。
「いるいる。……いやだ、なんだか冴えない男よ!」
「毎日、女の尻の穴ばかり舐めてるんだもの。どうせ変態よ!」
「お前、口きけるんだろ。……お客様にご挨拶したらぁ?……コラ、尻舐め豚!」
「こいつ、穴の中からうんこを吸い出すかもよ。……そうだ、私の便秘直してよ!」
 それぞれが、ケンに向かって口々に勝手に話し掛ける。
「ちょっと舌を出してみせて!フウン、長い舌だね。こいつ、クンニ向きかもね」
「残念だけどクンニは禁止だって。……でもおならはOKと書いてあるわ」
「フフフ、おなら、嗅がせてやろうか?……ホラ、もう涙目になった!……やっぱ、悔しいんだね」
 次第にエスカレートしそうになった時、ツァーコンダクターの女性の声が響いた。
「皆さん、時間の余裕が余り無いので、これから直ぐに開始します。先ほど抽選で決めた一番の方から便座に座って下さい。……順番待ちの方々は、次の方を除いて飲み物を取って、会場でフロアーショーをお楽しみ下さい」
「私ぃ、一番だぁ!……さあ、初体験するわよ!」
 若い女の明るい声と共にケンの視界が真っ暗になった。同時に異臭のする肉塊が顔面をべたりと覆う。
「ホラ、舌を出して!」
せっかちに尻割れを顔面に擦りつけられ、ケンは思わず呻きながら、女の尻の下から懸命に訴えた。
「ウ、ウェットティッシュで……き、清めてから……お願い……します」
しかし、唇を抑えつけられているので切れ切れにしか声が出ない。
「ウェットティッシュだってぇ?……ああ、これか。……分かった。終わった後でこれを使ってお前の唾を拭きとるのね。……分かったから早く舐めな、時間が無いんだからね」
 同時にレバーを引いたと見え、ケンの顔が女の股間に押し付けられ、女の勘違いに抗議するケンの声は哀れにも押し殺された。
「ホラ、舌を出さないと息をさせてやらないよ!」
 苦し紛れに出した舌を感じ取って、女は尻をずらして舌の上に肛門を据えた。
「舌の先を穴の中に入れて!……そうそう、そこで舌を出し入れしてごらん。……そう、それを続けてぇ……そ、その調子!……お前、なかなか上手だよ」
 女にほめられて、自分のみじめさが一層心に沁みる。
「タイムアップよ!」
 ドアの開く音がして、次の女が入って来た気配である。名残惜しそうに尻を上げると女はウェットティッシュで自分の股間を拭い、ついでケンの顔を拭った。
 一呼吸する間もなく次の女が便座に跨った。今度も汚れたままの肛門がケンの唇を蹂躙する。ブースの外で順番待ちをしている女が、ドアの外から親しげに話しかけてきた。
「……ねぇ、どおお?……舌の具合は?……くすぐったくない?」
「思ったより上手に舐めるわ。……気持ちいいわよ。……あっ、いけない。わたしガスがでそう!」
「大丈夫よ。おならOKってみんなが言ってたわよ。」
「そうかぁ。……じゃあ、出しちゃおっと!」
 ケンの舌の上で菊座が膨らみ、プスッと音を立てて大量のガスが放出された。それがまともに鼻孔を襲ったからたまらない。ウゥッと悲鳴に似た呻き声を上げてケンは身をよじらせた。その激しい臭気もさることながら、初対面の女に尻の穴を舐めさせられた上におならまで嗅がされる屈辱に、頭の中が真っ白になる思いである。
「聞こえたわよ!……その男、呻いてるじゃないの。可哀そう。」
「いいのよ。どうせ豚なみの男なんだから。……ホラ、お前、おならの後をしっかり舐めて清めるんだよ!」
 こうして、10人連続で使われて舌が痺れかけたところでようやく休憩になった。
(第二話完)


(完)