阿部譲二のMのある風景―ニューヨークSMクラブ(第一話)


ニューヨークSMクラブ(第一話)

 この作品は執筆を始めたところで中断していますが、書き継ぐ時間がないので、取りあえず書いた分だけ分割して以下に紹介します。次の第二話をお楽しみに。
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アメリカのSM愛好者たちの手軽な交流手段は、スーパーやドラッグストアのフライヤー(ちらし)コーナーに置いてある様々なローカル情報紙が一般的だ。求人広告欄が付いているものが多く、Wanted(求人)の欄に必ず男女別Partner(交際相手)募集のメッセージがあり、様々な嗜好の相手を求めていることが分る。セミ・プロの女王様のメッセージも時々見かけるが、その殆どがB&D(ボンデージ&ディスシプリン:拘束と調教)で、言わばソフトSMといったニュアンスの分野である。ただアメリカでは夫婦スワッピング愛好者の同好会が極めてオープンで、SMがその一分野と位置付けられていることもある。
日本のSMクラブの様なものは全くなく、その代わり、個人ベース(たまに2〜3人)のミストレス・ハウスが客を取っている形態が一般的だ。ただし、ニューヨークの場合は規模、形態とも特殊で国際的、内容も何でもありといった感がする。SM関係では、一般向けの鞭打ちや拘束具のショーといったものや、会員制の特殊クラブが存在する。そうした秘密クラブの女性用トイレで、便器に固定された男性たちが便座の下から顔を覗かせ、女性の小水を口で受けさせられている写真が公開され、物議をかもしたことは有名だ。
私の作品で「隷従への条件」(1990年スレイブ通信16号)はニューヨークを舞台に罠に落ちた留学生が白人夫婦のセックス・スレーブに落される筋書きだが、これとは別に、当時、私がニューヨークで知り合った日本人留学生から聞いた体験談があるので紹介しよう。
その日本人留学生はケンと呼ばれ、元来SMとは無縁の男性だったがニューヨークで金に困り、夏休みの3カ月の間、秘密クラブでアルバイトをしていたそうだ。最初は鞭打ちショーへの出演だったものの、たまたま力加減を知らぬ大柄な金髪女の客から鞭を受けて背中に傷が付き、2日で諦めたのだが、代りに当時そのクラブで人気のアナルピットを受け持たないかと打診されたそうだ。時給が高く収入は倍以上になるのだが、引き受け手が定員3名のうち1名しかいない。それというのも、サービスの内容が女性たちのアナル・サービスというのだから当然とも言えた。アナル・サービスといっても自分のアナルを提供するのではなく、女性たちのアナルに舌奉仕する、いわゆるアニリングス・サービスというやつだ。米国の殆どの都市では、エイズ防止ため、店やクラブでの性交や、性器へのオーラル奉仕の営業を禁止している。そこで、規制対象外のアニリングがloopholeつまり抜け道となっている。しかし、kiss my asshole(尻の穴を舐めろ)がson of a bitch(淫乱女の息子から「畜生!」の意)と並んで軽蔑を表す罵声の代表とされるお国柄である。文字通りのアスホール、それも女の尻の穴を舐める仕事の引き受け手は滅多にない。よほど金に困った外国人男性ぐらいしか候補者が居ないのである。
そのクラブでは女子トイレの中の二つの仕切り内から便器を取り払ってそれぞれ代りに棺桶を改造した木箱が置かれていた。サービス・エージェント(奉仕人)はその中に死人よろしく横たわる。その顔の当たる部分には、丸い穴が開けられその上に便座が取りつけられていた。アナルピットとは便座を通して尻を箱に差し入れる穴を言い、便座の蓋を開けるとそのピットから男の顔が覗いて見える。木箱に寝た男の頭の下には可動式のリフトが設けられていて、箱の外から梃子を利用したレバー操作で持ち上がるようになっていた。便座に座った女性は、自分の尻に好きな強さで男の顔が当たるよう、自由にコントロール出来る。
このアナルピットのエージェント勤務は夕方から深夜まで毎日6時間、その中間に舞台でのショータイムの間を利用した30分の休憩がある。二つあるブース(仕切ったスペース)に3人のエージェントのうち2人が交代で勤務することになっていた。ブースの扉にはアナルピットの表示板の下に手書きで、ファースト・クリーン・ユア・アスホール(事前に肛門を清めること)、ファートOK・バット・ノーシット(おならはOKだが糞出しは禁止)、ノーカニリングス(クンニ禁止)、との3カ条の注意事項が大きく張り出してある。
予期した通り、ケンの初日は気が狂うような屈辱に満ちた辛い思い出となった。一緒に勤務する筈のもう一人のプエリトリコ人の男性が前日で辞めたので、ケン一人の連続勤務となったのも不幸だった。賃金は5割増にして貰えたし、チップも独占できたが一人30分の時間枠で休憩を挟んで6人ずつ、一晩で12人の客を取るのは重労働だった。
最初の客は若い黒人女性だったが、幸いマナーが良い方で、置いてあったウェットティッシュで肛門を拭いてから便座に跨ってくれた。褐色の豊満な臀部の中央にピンク色の菊座がケンの視野に入ったが直ぐに目の前が真っ暗になり、グニャリと柔らかい粘膜が鼻と唇を覆った。多くの襞で周囲を縁取りされた肉厚の粘膜で囲まれた肛門が彼の舌先を捉えると、レバーが引かれて顔面が股間に押しつけられた。バギナに呼吸を奪われて呻くと、気付いたと見えレバーを少し緩めてくれる。
「ヘイ、ゲットスタート」(始めるのよ!)
 ケンの舌先が菊座の中心をまさぐるのを助けるように、女の両手が尻割れをぐいと開いた。途端に大きく広がった肛門に舌全体が吸い込まれる。直腸の襞を擦るように舌を出し入れすると同時に、唇で菊座を吸った。
「グッド。……ゴーオン」(いいわよ、続けて!)
 女に褒められたものの、却って情けなさが込み上げる。30分の時間枠一杯尻を据えたままで、少しでも休むとレバーが引かれ呼吸が奪われた。舌を動かすとまた緩める。思うがままに女の尻の穴を舐めさせられ、つくづく悲哀が身にしみた。
(第一話完)


(完)