阿部譲二のMのある風景―飲尿と食糞
英語では、この小水プレイをWater sportと言うことがあります。即ち、小水を使った遊び、じゃれ合いといった意味です。それも、飲尿より小水掛けが一般的で、男女の区別なく愉みます。アメリカでは小中規模ホテルを借り切ってスワッピングの同好者たちが大会を開くことがあり、SMやBD愛好者にも門戸を開いていることが多く、このWater sportマニア向けの部屋も用意されていると聞いたことがあります。
これも飲み方(飲ませ方)で、その性格付けが大きく変わるようです。俗に聖水プレイとも呼ばれますが、純粋(?)の飲尿派は小水そのものより、女性の放尿というベールに包まれた行為に興味があり、しかも顔騎状態で目の前で、自分の口中に放尿して貰って好奇心を満足させる傾向があります。それに引き換え、M男性は「女性に飲まされる」「女性の便器にされる」という行為の異常性に強い屈辱を感じて性感が高まる人が多いようです。バリエーションとして、女性の軽蔑の眼差しを浴びながらであれば、男性に小水を飲まされてもよい、とするM男性もいます。現に私もその例にもれず、口に咥えた大きな漏斗にカップルの男女が同時に放尿し、そのミックスを味あわされた経験があります。
でも、苦みと塩味のミックスした濃い朝尿はなかなか喉を通り難く、しかも顔騎状態で女性に飲まされる場合は、こぼさない様に神経を使って懸命に飲みこむ必要があります。飲んでいる時より、飲み終わって後を舌で清めさせられている時に、ドッと屈辱感が押し寄せてくることがあります。
体位としては、ベッドに横臥した女性の局部に吸いついて全量吸い飲みさせられる場合(全くこぼさない様にするには回を重ねる要があります)もありますが、顔面騎乗の姿勢で女性の便器として使われる場合が多いようです。ことに女性が男の足を向いて顔面に跨り飲尿させる体位では、舌奉仕やセックスの後始末の場合と同様、同時に肛門を男の鼻孔にあてがって屈辱感を増幅させることが可能です。
ただ、頭の方を向いて跨った体位でも同様ですが、股間を顔面に密着させたまま、男の口中に全量を排尿する場合は、男がむせて外部に漏らす恐れがあり、女性としては男を予め自分の専用便器としてしっかり仕込んでおく必要があります。ですから最初は、尿孔を男の唇に軽くあてがうか、僅かに離して男の口を目がけて排尿する方が零れ難く、男の方も飲み易いでしょう。
ただ、俗に黄金プレイと呼ばれる食糞の場合は少し事情が異なります。密着顔騎の体勢の方が、女性はM男性の口を尻割れに固定し易いようです。一旦、開けた口に肛門をあてがわれそのまま女性に体重を掛けられた男性は、首をひねって逃げる手段を殆ど封じられます。結果的には、強制的に口中に脱糞されるわけですから、飲尿の場合と比較にならないほど大きな被虐感を味あわされるわけで、女性の便器にされた実感が大きく、その屈辱感、転落感はひとしおだと思われます。時間を掛けて少しずつ口中に脱糞されれば飲みこむことも可能で、食糞のトレーニングになりますが、吐き気を催してもがくこともあり、最初の経験では喉を通らないことが多いようです。ただ、軟便や下痢便の場合は咀嚼が不要で、むしろ胃に送り込みやすいかもしれません。しかし女性にとっては、自分の便を男性に咀嚼させて味あわせ、同時に嘲りの言葉を掛けて辱めたり、征服感に浸る愉みも捨てがたいものです。
なお、女性が排泄後にM男性の顔に跨って局所や肛門の清めを強要する、いわゆるトイレットペーパー奉仕とかウォッシュレット奉仕と言われるプレイは、食糞より現実的ですので、実際に経験されたM男性は多いのではないでしょうか?
また、これらの屈辱系のプレイと異なり、いわゆるスカトロ系の食糞や塗糞愛好者の場合は、糞そのものへのフェティッシュな執着が基盤になっているので、形態は似ていても全く違った愉しみ方になります。
最後に、私の小説「転落の居候生活」(「召使奴隷の悲哀」としてスレイブ通信44号に再掲)の最後の部分で取り上げたトイレットペーパー奉仕のくだりを紹介します。
「いったい、なんのお話よ。ちっともわからないじゃないの。はっきりおっしゃい」
山崎の言い方がはっきりしないので、聞き手の静子がじれていた。
例の、朝の"おしつけ"が終って、静子が化粧台から離れてソファ―へ移った直後のことである。
今まで化粧台のスツ―ルの上で、静子の尻に顔を敷かれていた山崎は、何時もなら便所掃除にかかっている筈だった。
山崎は、静子の足元で額を床にこすり付けて平伏している。
彼のこの姿勢も、今ではすっかり「身に着いたもの」になっていた。
静子の前に出た時は、この姿でかしこまるように仕込まれていたのである。
静子は、ソファ―に背を埋めて、足を組んでいた。
大家の令夫人としては、やや厚すぎる化粧だったが、それが、派手な彼女の顔立ちをい
っそう引き立てている。傍目にもまぶしいほどの美貌であった。
煙草に火を付ける気配がして、フーッと煙を吐く音がした。
「あのう、奥様。一昨日の夜のお勤めの事でございます」
「うん」
それがどうしたと、静子の美しい視線が、伏せた山崎の頭に真っ直ぐに射付けられていた。先日の山崎の舌奉仕の快い感覚が、彼女の跨間に残っている。
又、今夜にでも、この男の舌を使ってやろうかと思っていた矢先だった。
「ですから、そのう、私が、昨日下痢をしましたのは、そのお勤めの後でした」
「お前が下痢をしようがしまいが、私の知ったことじゃないわよ」
静子にピシャッと決め付けられた。
「はいっ」
さながら、蛇ににらまれた蛙である。こうして静子に訴える方法を取ったことを、彼は今や後悔していたが、もはや引下るには遅過ぎた。
以前、山崎が静子のバーへ通いつめていた頃は、遠慮深くではあったが、たまには冗談のひとつぐらい、彼女に向かって言えない彼ではなかった。
が、何と言う立場の激変であろう。
借金奴隷の境遇と、静子のきびしい"おしつけ"とが山崎から、何時の間にか、まともな言葉を奪ってしまっていた。
「奥様、お部屋のお片付けをさせていただいて宜しいでしょうか?」
君子の声である。
「いいわ」
静子の応答と共に、散らかった室内を片付ける物音が始まった。
「で、どうなの? お前の下痢がどうしたって言うの」
静子が山崎の返事をうながす。
しかし、同じ室内の君子の存在が、彼の舌を一層重くした。
「で、ですから、お勤めの時に、大腸菌が……それで、下痢を……」
少し離れた所で、クスリと笑い声がした。
君子に笑われている事に気付くと、山崎は思わず顔がほてった。
「お勤めの時にって……アラ、いやだ。お前、私のお尻を舐めたのが、下痢の原因だって言うの?」
「もしかしたら……、ですから、今度からはお風呂に先に入っていただけたら……」
「まあ、とんでもない言いがかりだわ。……第一、お風呂に何時入るか、お前の指図は受けないわよ。それに大腸菌は消化を助けるのよ。そりゃ、外の雑菌があったのかも知れないけど、人間、そんな事で下痢なんか起さないわよ」
「……………」
「ねえ、君子、今の聞いてたでしょう。お前はどう思う?」
静子は、すぐ傍で立ち働く女中に問を投げた。
「あの、私は良くわかりませんけど。……何でしたら、もう一度、実験なさったら如何がですか?」
君子がニヤニヤ笑いながら答える。
「プッ、そりゃ良い考えだわ。……ねえ、山崎、お前、明日の朝、寝室に来ておトイレの前で待機してらっしゃい。お前の舌で、後始末させてあげる。……いいわね。でも念のため二、三日は続けるのよ。お前の下痢の原因を、突き止める為だからね」
がんと頭を殴られたようなショックだった。薮蛇とはまさにこの事である。
しおしおと部屋を出る後から、ワッと女たちの笑い声が追いかけて来た。
その翌朝、庭掃除を終えた後、山崎は重い足を引きずりながら、夫婦の寝室のドアを叩いた。
「おう、お前か。とんだ実験をさせられるそうだな。……まあ、入れ」
勝造がニヤニヤ笑いながら招じ入れた。
引かれたカーテンから漸く朝日が射し込んではいたが、室内には未だ生暖かい夜の空気が澱んでいる。静子もベッドの中で目を覚ましたばかりの模様だった。
奥のバスルームに続くタイル張りの洗面所の隅に、洋式便器がある。その前の冷たいタイルの上に、正座して待つ山崎の心は、みじめな思いに満たされていた。
ベッドの方では、勝造といちゃついているのだろうか、静子の嬌声が聞こえて来る。
やがて、洗面所に現れた静子は、無造作に便器に跨がった。
その前に平伏する山崎の頭の上に、スリッパを穿いた静子の足が乗せられた。
派手な排泄音が続くところから、彼女の腹の調子はもうひとつのようだった。
やがて静子のスリッパの先が、彼の頭をこずいた。
「終ったわよ。しっかり、清めるのよ」
彼女の豊満な白い尻が、仰向けにタイルの上に寝た山崎の顔の上に覆いかぶさった。
プ―ンと異臭が鼻を突く。
白い双球の間が、見た目にもべっとりと汚れていた。
「何してるの? 早く舐めなさい」
ハッとして、舌を動かし、唇で汚れを吸い取る。苦い渋味が口の中一杯に拡がった。
懸命に吐気をこらえて汚れを飲み込んだ。
ごくり、と咽喉が鳴る。
「フフフ、おいしいかい?………返事がない所を見ると、お前の口に合わないようだけどこれからは、逆にお前の口の方を、その味に合わすんだよ」
涙にかすむ山崎の目の直ぐ前で、ピンクの肉ひだが勝ち誇ったように息づいていた。
それから三日目の午後、山崎は静子の前に呼ばれた。
「どう? お前のお腹の調子は。下痢でも起した?」
「実は、………何ともあるません」
「そう。じゃあ、お前の感違いだったのね」
「はい。申し訳ございませんでした。……充分わかりましたので、これからは、朝の清めは御勘弁下ださい」
額を床に擦すり付けて嘆願する男を、冷たい目で見下ろしていた静子は、決めつけるような調子で宣言した。
「駄目よ。ダメダメ。お前は私に言いがかりを付けたのよ。……間違っていたから水に流すと云う訳にはいかないわ」
「……………」
「考えて見たら、お前、私にとても失礼な事をしたと思わない? その罰を受けるのは当然よ」
「……………」
「黙ってる所を見ると、覚悟している訳ね。じゃ、いいこと。お前は、これから、永久に毎朝私のトイレの後の清めを続けること。……いいわね、永久によ!」
平伏している山崎の肩が、ビクッと振れ、言葉にならない呻きが洩れた。
「それだけじゃないわ。お前は、これから当分の間、毎朝、女中たちのトイレの後も舌で清めるの。……いいこと。女中たちのお尻の汚れもお前が舐めて清めるのよ」
「おうーっ」
と、びっくりするほど大きな嗚咽が、山崎の口から出た。背が大きく波打っている。
「人には、それぞれ、うつわと云うものがあるのよ。うつわでわかり難くかったら、身分と言ってもいいわ。お前の身分はね、私たちのよりずっと低いの。でもせめて女中たち並にしてあげていたわ。……それを、お前は身のほど知らずにも、私に言いがかりをつけるような事をしたでしょう。……だから、私はお前の身分を女中たちよりもずっと低い所に落す事にしたの。当然の罰だと思わない?……そして、その身分をお前に充分認識させるために、毎朝のトイレの後の清めを命じたのよ。………さ、諦めて、新しい身分を受入れなさい」
山崎の荒々しい号泣は、やや落着いた、しのび泣きに変っていた。
静子の足元で泣きじゃくりながら、彼は恋いこがれる女に、辱しめられ、転落の淵に沈められて行く自分を、心底情けなく感ずる一方、不思議にも自分が一種のめくるめく陶酔状態に置かれているのを意識するのだった。
〔完〕