063-#63ホームパーティーの生贄
                 阿部譲二作

会社の新人歓迎会の後で、男は秘書課のマドンナとよばれる女性を車で送る途中、人をはね殺してしまう。翌日の新聞でひき逃げ犯を捜索中との記事を読んだ男は、彼女に口止めする。ところが彼は女の姉の家に呼ばれ、夫婦のセックスへの舌奉仕に使われ更に口止め料として自宅でのSWパーティで女の尻を舐める変態マゾ奴隷の役をやるよう強制される。

「じゃあ、これで新人歓迎会はお開きにします。……皆、気を付けて帰ってください」
 幹事の閉会の言葉で、人波が会場の入口に向かった。
 K商事の新人歓迎会は、毎年五月に職場の各部単位で行われる。
 幾つかの課の新入社員をまとめて部としてお披露目≠キることにより、各課毎のセクショ
ナリズムを防ぐのが目的だった。
 今日は、社内で六つの課を持つ大所帯の総務部の番である。
 ホテルの宴会場を借りての催しが、漸く終ったところであった。
「山内さん、送って頂けるのは嬉しいけど、……あなた、本当に運転大丈夫?」
 男子社員から秘書課のマドンナと呼ばれている桜本志津子が、軽い酔に頬を染めて心配気に
尋ねた。
 やや細面てのエキゾチックな顔立で中々の美人だが、社内で浮名を立てられた相手は十指に
余る。
 エアロビクスのインストラクター助手を勤めたこともあるよしで、プロポーションも抜群の
グラマーである。
 かっては、二十台後半のハイミスの彼女に言い寄られて、当時新入社員だった山内は、散々
悩まされたものだった。
 しかし、その彼女も、漸く数ケ月前に見合結婚の式を挙げ、姓こそ木村から桜本に変ったも
のゝ、相変らずもとの秘書課で勤務を続けている。
「大丈夫さ、僕はアルコールには強いんだ。……それに、どうせ清水郁子さんを送って行くん
だから、その少し先の君の家まで足を延ばしたって、大して違わないさ」
 山内志郎は上機嫌である。
 かねてから思いを掛けていた同じ文書課の清水郁子と、最近やっと交際するところまで漕ぎ
つけたのだから無理もない。
「アラーッ、私、清水さんの御相伴なのね。どうもご馳走さま!……フフフ、そうだったの。
道理で私がモーション掛けても、一向に通じなかった訳ね」
 志津子の揶揄する様な言い回しも、今の山内志郎には一向に気にならなかった。
 それから約三十分後、清水郁子を無事自宅まで送り届けた後、山内の運転する車は、坂をひ
とつ越えた新興地にある、桜本志津子の家に向かっていた。
 軽やかなエンジン音を立てゝ夕闇の中を疾走するのは、中古ながら欧州の名車・BMWで、
山内のご自慢の愛車である。
 ただ、清水郁子を下ろすと、すぐに助手席に移って、隣りから何かと話し掛ける志津子が、
何ともわずらわしかった。
「アーッ、危なーい!……キャーッ」
 突然、けたゝましい志津子の悲鳴と共に、一瞬、車の左のフェンダーのあたりで鈍い音がし
た。
 志津子との話の応答につい気を取られていた山内が、露地横からフラリと現われた男を避け
そこなったのである。
 キーッとブレーキを軋ませながら停車したのは、可成り行き過ぎてからだった。
 リヤウインドーから覗くと、街灯の下に横たわっている黒い人影が見えた。
「どうするの? 戻ってみる?……それとも警察へ行く?……でも、貴方、お酒飲んでるでし
ょう。……このまゝ逃げた方が良くはなくって?」
 志津子の言葉にも、山内は咄嗟のことで気が動転し、返事すら出来ない。
「大丈夫、すぐ気が付くわよ。……ホラ、もう身動きしてるわ」
 二人の視野の中で、黒い影はかすかにうごめいている様に見えた。
「ほっておこう! 一寸当たっただけで、命に別状ないさ」
 山内は、志津子よりもむしろ自分に言い聞かせる様に呟くと、あたふたと車を発進させた。
 その翌朝の始業前のことである。
「山内さん。……ちょっと」
 桜本志津子が、秘書課のカウンター越しに手を振って、丁度ロッカーから出てきた山内に声
を掛けた。
 そして、近付いた彼に、手に持った朝刊を意味ありげに見せる。
 志津子に誘われるまゝに、傍の人気の無い会議室に入り、彼女の示す新聞の社会面を見て、
山内はハッとした。
 小さな見出しではあったが、〔引き逃げ殺人〕の文字が目に飛び込んだのである。
まさか! そんな馬鹿な
 心の中で呟いたものゝ、手に取った新聞がブルブル震えた。
〔昨夜、市内北部の坂道で引き逃げがあり、被害者の男性は、病院に収容されて間も無く死亡
した。医師の話では、手当てが早ければ助かっていた可能性も大きいとのこと。警察では、悪
質な引き逃げ殺人として捜査を開始した。〕
 記事に食い入る様に目を走らせる山内の顔色が、蒼白に変っている。
「こ、これが昨晩の男とは限らないさ。……第一、場所や時間だって曖昧じゃないか」
 山内は、無意識の内に志津子に突っかゝる様な口調になった。
「私ね、さっき、新聞社に電話してみたの。勿論匿名でよ。……同居している親戚の人が朝に
なっても帰って来ないので、ひよっとしたらと思って問い合わせるんですけど……と言ったら
詳しく教えてくれたわ。……それによると、場所も時間もぴったり。間違いなく昨晩の男よ」
「………………」
「ねえ、どうする。……警察に届けた方が良いんじゃなくって?」
 志津子の声音も、心配そうである。
「きみは良いかも知れないけど、……ぼ、ぼくはどうなるんだい? きっと、殺人犯で逮捕さ
れるよ。……ねえ、こうなったら黙り通すしかないさ。証拠は一切無いんだから絶対大丈夫。
……きみも協力してくれるね?」
 山内も、最後は嘆願調になった。
 桜本志津子も、深刻な顔付で同意を現わす様に頷ずく。
 ひとまずホッとした山内は、そそくさと仕事に戻って行った。
 それから暫くというものは、山内にとって毎日が不安一杯の日々だった。
 車の方は、幸い左前のフェンダーが凹んだ程度で、塗料も剥げておらず、一応走行に支障は
無い。
 しかし、この際は大事を取って、修理は何れほとぼりが醒めてからとし、当分、車の運転も
控えることとした。
 事故の日から約一ケ月が経ち、やっと落着きを取り戻した山内は、仕事の後、近くの喫茶店
で桜本志津子と向かい合っていた。
「大事な話ってなんだい?……この前のことだったら、もう大丈夫さ。警察もそろそろ諦めた
頃だよ」
 山内は、ホットコーヒーを啜りながら、志津子の顔を見詰めた。
「あのね。そのことだけど……私、実はあの後で叔母さんと相談したの。叔父が弁護士をして
いて、叔母も法律に明るいの。……そしたら、隠していると私まで殺人罪の共犯になるって言
われたわ」
「そ、それで……きみは何て言ったんだ」
 山内は、心にヒヤリと冷たいものを感じて、途端に緊張する。
「その場では、あなたと相談するって言ったの。……それっきり叔母の所へは行ってないわ。
でも、昨夜、その叔母から電話があってね、警察へ行ったかって聞かれたの」
 志津子は、固唾を飲んで耳を澄ます山内を見やりながら、おもむろに続けた。
「それでね、私が未だだって答えると、一度あなたに会いたいって言うの。……会って、直接
あなたに自首を勧めたいんですって」
 志津子の言葉に、山内は完全に動転した。
「そ、それこそ余計なおせっかいだ!……いったい、きみは僕の名前まで叔母さんに喋ったの
かい?」
「だって、殺人罪の共犯になるって言うんですもの。……仕方無かったのよ」
「いやだ! 誰が、きみの叔母さんなんかに会うもんか。そんな必要は全く無いよ」
 山内の口調には、怒りがこもっている。
「でも、あなたが会いに行かなければ、叔母は警察に電話するかも知れないわ」
 志津子の言うのももっともだった。
 しぶしぶ承知した山内を席に残して、志津子は叔母へ電話を掛けに行く。
「叔母さんたらね、今、これから貴方に家へ来てほしいんですって。……今晩は叔父が居ない
からゆっくり話せるそうよ。……それから私は来ない方が良いって。……地図を書くから貴方
ひとりで行って頂戴」
 こうして思いも掛けぬ話の成行で、山内は不本意ながら、その晩、志津子の叔母の家を訪れ
ることになってしまった。
 地図をたよりに行き着いた先は、郊外の岡の上にある高級マンションの一画である。
 エレベーターで上って行くと、窓越しに華かな夜景が眼下に広がった。
「いらっしゃい。あなたが山内さんね。……私が志津子の叔母の斎藤俊江ですわ。どうぞ奥へ
入って頂戴」
 愛想良く出迎えたのは、三十代半ばの色っぽい女である。山内は、志津子が私の母の一番
下の妹で未だ若いのよ≠ニ言っていたのを思い出していた。
 色っぽく見えるのは、全体に丸味を帯びた体形と派手なデザインの服のせいだろうが、大き
な黒い瞳に、やゝ官能的な厚い唇が濃い目の化粧とマッチして、どことなく水商売の女を思わ
せる。
 しかし、腰のくびれとポッテリ張り出したヒップには、年を感じさせぬ若さがあって、なか
なか魅力的な美人だった。
 俊江の後に付いて廊下を進むに従って、山内はこのマンションが意外に広いのにびっくりし
ていた。
 部屋数も、恐らく十を越えるに違いない。
 奥の眺望の良い、広々としたリビング兼応接間に通された彼は、俊江には未だ子供が無く、
夫婦二人だけでこゝに住んでいると聞いて、二度びっくりした。
 調度もこったもので、空調も完備しているデラックス・マンションである。
 床の絨緞と言い家具と言い、また落着いたトーンで統一されたソファやカーテンにも、リッ
チなムードが溢れていた。
「早速ですけど、あなたの引逃げ事件に、姪の志津子を巻き添えにしないで頂きたいの」
 ソファに腰を下した途端、俊江は切口上で山内に話し掛けた。
「あなたは殺人罪に問われても仕方がないでしょうけど、志津子は結婚したての大事な時期な
の。あなたが逃げ回れば、それだけ罪も重くなるし、志津子もそのとばっちりで迷惑するわ。
……今直ぐ自首すれば、情状酌量されて七年から十年の刑で済むのよ」
 俊江は、煙草に火を付けると赤い唇から煙をスーッと吐く。
「七年から十年ですって?」
 山内は、背筋がゾクッと冷えた。
「そうよ、これ以上逃げ回れば十五年の刑はまぬがれないわね」
 俊江は、喋りながら、まるで犯罪人を見る様な目付になっていた。
「お、お願いです。私を助けて下さい。……もうひと月も捜査が進展していないのは、警察が
手掛りを掴んでない証拠です。あなたと志津子さんさえ黙っていて下されば、この事件は永久
に立ち消えになるんです。……お願いです。黙っていて下されば、どんなことでもします。…
…ほ、ほんとうです!」
 繰り返し嘆願する山内の態度には、真剣味が溢れている。
 俊江の目には、キラッと獲物を見る鷹の鋭い光りが写った。
「私と志津子を共犯にしようって言うのね。……あなた、私達にそんな危険を背負わすからに
は、勿論それなりの見返りは考えてるんでしょうね?」
「み、みかえりって……お金のことですか?それとも……ほかに……」
「勿論、お金じゃないわ。私ね、黙っていて上げてもいゝけど、その代り、あなたにやって欲
しいことがあるの」
「なんでも言って下さい。ど、どんなことでもしますから」
 俊江の言葉に希望を見出した山内は、思わず身を乗り出していた。
「私達、子供が居ないでしょう。……だからセックスの面で、思い切り楽しむことにしている
の。……具体的には、こゝで週に一回、親しいメンバーでホームパーティーをやってるの。そ
う、所謂スワッピング・パーティーよ」
「………………」
「でも、こゝの所、マンネリ気味なので、何か新しい趣向を探してたの。そこで思い付いたの
がSMよ。……あのね、実はあなたにはこゝで、M男の役をやって貰いたいの。……フフフ、
驚いた?」
「M男って……あの、マゾの……」
「そうよ。でも、SM雑誌によくある様な、鞭で叩いたり、潅腸や蝋燭攻めにしたりするハー
ドな責めは、私達には一寸刺激が強過ぎるわ。……私の欲しいのは、女性の命令通りに何でも
聞く男奴隷よ。つまり、女性の性器に舌奉仕したり、男女のセックスの後を舌で清めたりする
マゾ奴隷なの。……君にやれるかしら?」
「………………」
「それから、もうひとつ。……ただのマゾでは面白くないから、皆に軽蔑される様な変態の役
を演じて頂戴。……そうね、女性のお尻が大好きで、臭いをクンクン嗅いだり、汚れたアヌス
をペロペロ舐めたがる変態男ってのは、どうかしらね」
 俊江はニヤニヤ笑いながら、いたずらっぽい目付で彼を見詰める。
 山内の顔は、みるみるうちに上気して真っ赤になった。
「そ、そんな……そんな恥ずかしい事が出来るもんですか!」
 吐き出す様な口調で、山内の拒絶が返って来る。
「アラ、さっき、何でもするって言うから、その通り信じたのにね。……じゃあ、警察に知ら
せても良いのね?」
 俊江の意地悪い言い回しに、山内は思わず絶句した。
 考えてみれば俊江の言う通りである。
 致命的な弱味を握られた以上、たとえ、それがどんな屈辱的な行為であろうと、俊江の意志
に従うしかないのだった。
 がっくり俯いた男の態度に無言の屈服を読み取った俊江は、途端に居丈高になる。
「じゃあ、いゝね。お前は、たった今から、いやらしい変態マゾ男だよ。……ソラここ、私の
お尻を見て御覧。……どおお? たまらないだろう。ソラ、臭いをお嗅ぎ!」
 俊江は、背を向けて立ち上ると、スカートをめくって、白いパンティーに包まれた豊かなヒ
ップを山内の顔の前に突き付けた。
 目も眩む様な屈辱とはこのことだろうか。山内の頭はショックで痺れ、一瞬、思考能力を失
なってしまう。
 男の誇りをグッと咽喉の奥に飲み込んで、催眠術にでも掛かったかの様に、その尻丘のはざ
間に顔を当てた。
 途端に、女の手が後頭部に掛かり、彼の顔面をぐっと自分の尻割れに押し付ける。
 ムーッと独特の臭気が鼻を覆い、情けなさの余り、頭の芯がクラクラッとした。
「この臭いよ。……お前は、この臭いが大好きな変態になったのよ。フフフ、鼻を鳴らして御
覧。……そうそう、まるで豚ね。本当にいやらしいわね」
 男の顔を尻に当てたまゝ、俊江はそろそろと腰を突き出す様にして重心を下げ、山内を仰向
けに寝かすと、彼の顔の上で尻を回転させ、頭の方に向き直って跨がった。
 顔に女の尻の重みをまともに受け、呼吸を制限された山内は、尻の割れ目に食い込む汚れた
布地を通して、必死で空気を吸う。
 たっぷり尻臭を嗅がせた俊江は、尻を少し浮かしてパンティーを脱ぎ、じっとり湿ったアヌ
スで男の唇を覆った。
「今度は味を覚えるのよ。昨日からお風呂に入ってないから、大分汚れてる筈よ。……その汚
れを舐めて味わうの。いゝこと、お前はこの味が大好きな変態なのよ。フフフ」
 山内が唇を動かし、舌を女の括約筋に這わせると、渋い苦味が口中一杯に広がった。
 無念の思いが胸を掻きむしり、目尻からはツーと涙が零れる。
 俊江は、さらに尻をゆっくりと揺らして、男の唇に繰返し汚れを擦り込んで行った。
 こうして、山内にとって屈辱に満ちた、俊江との取り引きの幕が開いたのである。
 その翌日、再び俊江のマンションに呼び出された山内は、今度は俊江の夫、斎藤康平に紹介
された。
 山内は俊江から、もし弁護士である康平が真相を知ったら、職業柄、必ず警察に届けること
になると警告されている。
 従って、山内は康平の前でも変態マゾ男の仮面を強制されたのだった。
「ホーッ、この男は女のケツの穴を舐めるんだって? オイ、お前、そんなまねをして、汚な
いとは思わんのか」
 康平は、軽蔑を露わにして問い掛ける。
「あ、あのぉ、汚れている方が……そのぉ、味が濃くって……それに臭いも、たっぷり嗅げま
すし……」
 山内は、しどろもどろである。
「フーン、味と臭いねぇ。……それじゃ、女の尻に付いてる糞を、舐めたり嗅いだりするのが
好きなわけか」
「あのー、それによって、女性から馬鹿にされ、軽蔑されるのが望みなんです」
 山内は、心ならずも俊江から口写しに教えられた科白を繰返す。
「そりゃー、女は馬鹿にするだろうよ。……第一自分の尻の穴の汚れを舐める男なんて、人間
扱いする気にならんだろうな」
 康平も呆れ顔である。
 そこへ俊江が、したり顔で会話に割り込んで来た。
「私が言った通りでしょう。この男は犬か豚として扱えばいゝのよ。……そうだ、名前は志郎
だから、シロがいゝわ。犬らしくって、こいつにぴったり。……ねえ、こいつを今度のホーム
パーティーの生贄にして、皆で思い切り嬲ってやりましょうよ」
「そりゃあ良いが、今夜はどうする。こいつを我々夫婦のセックスの慰み者として使うんじゃ
なかったのかい?」
「勿論、それはそれで仕込んでやるわ。……さあ、シロ、そこへ四つ這いにおなり!」
 俊江は、手早くソックスを脱ぐと、スカートの下からこぼれる白い足を、目の前の絨緞の上
に這った山内の顔に突き付ける。
「サー、足の裏をお舐め! 舌で奇麗にするのよ」
 女の足裏は幾分黒ずんで、汚れているのがはっきりと判った。
 一瞬、おぞましさで身体が震えたが、昨夜俊江の尻に征服された記憶が蘇ると、山内の心は
萎え、捨鉢な気持が頭を占める。
 首を延ばして、足の親指の付根あたりに舌を這わせると、その瞬間、ピクッと女の足が震え
た。
「……もっと舌を出して!」
 俊江に促されて出した舌の腹に女の足裏が当てがわれ、足指が軽く鼻を押す。
「そのまゝ首を使って舐め上げるのよ。……そうそう、その調子」
 幾分苦味を帯びた塩っぽい味が、口中一杯に広がった。
 かかとはザラザラしていて固いが、土踏まずは柔かく、しかも敏感に感じるとみえて、舌の
動きに応じる様に微妙に表面がくねる。
 続いて五本の足指の付根を、裏から舌マッサージさせられ、最後には、指一本一本を口に含
んでしゃぶり、清めさせられた。
「上手よ。いゝ気持だわ。こっちの足もね」
 足が替えられ、もう一方を同じ様に繰り返させる。
 足指を終えると、足の甲に移り、かかとの横を経てふくらはぎに舌が延びた。
 再び、もう一方の足に移り、両足を均等に舐めながら、膝の部分まで進んで来る。
 そこで俊江が軽く股を開き、太腿に男の舌を誘った。
 顔にまつわるスカートがたくし上げられると、食い込んだ白いパンティーが見え、その際ま
で太腿を舐め上げる。
「大分、気分が出て来たわ。あとはベッドで続けましょう。……シロ、お前、四つ這いでつい
といで!」
 俊江はしどけない姿で、康平に寄り掛かる様にして寝室へ向かう。
 その後から四つ這いで従う山内の無様な姿は、哀れを通り越して滑稽ですらあった。
「いゝこと、夫婦の寝室での奴隷の作法を教えるわ。……先ず唖になること。でも、耳は澄ま
して、私の命令を聞き落さない様にするのよ。それから、舌と唇を最大限に使って私達の下半
身に奉仕すること。いゝ? さぼっちゃ駄目よ。……次に、私達の身体から出る液は、すべて
口で吸い取ること。零してシーツを汚したりしたら承知しないわよ」
 俊江は、キングサイズの豪華なベッドに腰掛けて、足元にうずくまる山内に指示した。
 成り行きとは言え、到々、俊江夫妻の夜の奴隷にされるのである。
 山内は、俯いたまゝ、胸を締め付ける様な無念さと闘っていた。
 全裸になって、ベッドの上で横向きに抱き合った二人は、先ず唇を合せる。
 俊江が、そのまゝの姿勢で片足を曲げ、股を大きく開いた。
「シロ、何をしてるの? 早く、首を私の股の間に入れるのよ。……鈍いわねぇ」
 頭をガンと殴られた様なショックで、動転しながら、山内はベッドの横手に回り、こちらに
背を向けて抱き合っている俊江の太股の間に首を差入れた。
 途端に、俊江の手が彼の髪を掴み、ぐいとばかりに男の顔を股間に固定する。
「馬鹿! 早くお舐め」
 女に叱咤されて、山内は、顔にぺったり押し付けられた柔肉に慌てゝ舌を這わせた。
 舐めている間にも、抱き合った二人のペッティングが続き、男の愛撫に応えて女は腰をくね
らせる。
 女の股間に挟まれた山内の首は、その度にぐらぐらと揺れた。
 長いヘビーキッスが続き、女のクレバスにねっとりしたジュースが溢れた頃、二人は、横向
きの体位を崩し、仰向けに寝た女の身体に男が覆いかぶさる。
「今度はお尻。……邪魔にならない様に、横から頭を入れるのよ」
 漸く女の股間から解放された山内に、俊江の指示が飛ぶ。
 立膝した女の太腿の下に、横から顔を差し入れた山内は、男のものを横目で見ながら、俊江
のアヌスを吸った。
「アーッ、あなた、早く入れて!」
 俊江の声に応じて、康平が濡れそぼった女芯にジュニアを当てがう。
「アラ、あなた、未だ柔かいじゃないの」
 山内の顔の上で、俊江の手が男のものに添えられた。
「だめね。……一寸、シロ。私のお尻はいゝから、主人のものを立たせなさい」
 山内は、やむを得ず目の前のフニャリとしたかたまりに舌を延ばし、先端を口に含む。
 その裏側の敏感な所を、舌先で繰返し刺激すると、それは次第に膨張し固さを増した。
 漸く挿入が可能になると、今度は結合部を下から舌で懸命に擦って刺激を続ける。
 やがて、ピチャッピチャッと音を立てゝ激しく差し入れが繰り返され出すと、男の陰嚢が、
山内の頬をピタピタと打ち、ひとしお彼にみじめさを意識させた。
 激しいピストン運動が頂点に達すると、二人の身体に痙攣が走り、硬直する。
 暫く余韻を楽しんだ後、山内の顔の上を怒張を引き擦る様にして男の身体が離れると、プー
ンと生臭い臭いが漂い、目の前の割れ目に、みるみる白い粘液が湧き出して来た。
「何してんの! 後始末するんでしょう。……さ、早く!」
 俊江の声にハッと我に返ると、溢れて尻割れにツーと垂れて来た液を舐め上げ、股間に顔を
当てると思い切って吸い込んだ。
 ズズーッと音を立てゝ、思ったより多量のジュースが口中に入り、ゴクリと飲み干す。
 晒粉を水糊でまぶした様な味だが、女のアヌスの様なピリッと来る酸味は無く、別に吐き気
も催さない。
「あと、続けて頂戴!」
 俊江の太腿が、催促する様に山内の両頬を挟み込み、両手が男の髪の毛を掴んで、その顔面
を局部に押し付ける。
 それから延々と舌奉仕を強制され、漸く女の身体が大きくしなって頂点を告げた時には山内
の舌はだるく痺れていた。
「御苦労さん。お前、合格よ。……ウフフッこれからも毎週使って仕込んでやるからね」
 含み笑いを洩らしながら、粘液にまみれた山内の顔を覗き込む俊江の表情には、男を征服し
た優越感と、屈従した山内に対する軽蔑の色が露わに浮んでいた。
 それから間もない或る日、予告されていたホームパーティーの夜である。
 言われた通り、開始時刻の三十分前に来てマンションの呼び鈴を押す山内の手は、心なしか
震えていた。
 これから大勢の会員の前で、マゾ男の仮面のもとに生恥を曝すのかと思うと、目の前が暗く
なる思いである。
 先日の広いリビング兼応接間には、ソファが壁際まで交替して、中央に大きな空間がこしら
えてあった。
 この前は気付かなかったが、絨緞はシックなグレイ。
 日本では珍しい毛足の長いシャギイと言われるタイプで、ふかふか感は抜群である。
「そこへお座り。……そうね、服を脱いで裸になってから、これを着けて!」
 俊江の声と共に、絨緞の上にへたり込んだ山内の膝に、ポンと犬の首輪が投げられた。
 途端に山内の胸に、グッと情け無さが込み上げる。
 しかし、引き逃げ事件を種に、既に二回にわたって俊江の辱めを受けた彼には、女の命令に
逆らう気力は残っていなかった。
 おずおずと立ち上がって全裸になると、自らの手で首輪を穿める。
 俊江の手で、それにカチリと音を立てゝ鎖が付けられ、グイと引かれると、忽ちよろけて四
つ這いになった。
 やがて玄関のチャイムが鳴り、最初のカップルが、そして続けて二組がかたまってリビング
ルームに入って来た。
 中央に首輪を穿められ四つ這いになっている山内を見ると、ほう≠ニかまあ≠ニか嘆声
を上げ、近寄って顔を覗き込む。
「これがマゾの男ですか。こんな格好をさせられて……。これが良いんですかねえ」
「何だか可哀そうみたいだわ。……世の中には色んな人がいるんですね」
 まるで、見世物の動物に人が集まる様なもので、ひとしきり視線が集中した後は、皆、思い
思いにソファに落着いた。
 皆、顔馴染みらしく、初対面のぎごちなさも無く、俊江が茶菓子を配ると早速話がはずむ。
 話題は、勢い、SM談義になった。
「最近のSM雑誌を見ると、男のMも結構多い様ですな。……M専門のクラブの広告が、やた
らに出てますよ」
「そうですね。……でもこゝにいるMの男は、縛られたり鞭で叩かれたりするのじゃなくて、
奴隷として女性に奉仕するタイプですの」
 俊江は、客に合槌を打ちながら山内の紹介を始めた。
「どんな汚れた所でも、舌で舐めるんですのよ。……実は先日私達夫婦で試しずみですの……
それに、一寸、変った趣味がありますの。……つまり、この男は女性のお尻に異常な興味を持
っていて、女のお尻の臭いを嗅いだり、汚れたお尻を舐めたりして興奮する変態ですのよ」
 俊江は、如何にも軽蔑した口調である。
「まあ、なんていやらしい!」
「きたないところが好きだなんて、不潔ね。まるで豚みたい!」
「これでも男かしら? 吐気がするわ!」
 座の空気が一変して、女達の山内を見る目が一斉に冷える。
 明らかに彼は、女達の蔑みを一身に集めたのである。
「でも、男のマゾって、普通は女にいじめられて喜ぶんでしょう?」
 無邪気に質問したのは、どう見ても二十代の女だった。
 話している内に、あと二組が加わり、何時の間にか、ホストの夫妻を加えて六組になってい
る。
「この男の場合は、女に命令されて恥ずかしいことをさせられたり、女に馬鹿にされて奴隷扱
いされることが嬉しいのよ。……それが女のお尻と結び付いて、どうしようも無い変態に成り
下がったって訳。……だから、こゝでは皆さん、こいつを犬や豚並に扱いましょうよ。その方
が喜こぶわよ、きっと」
 俊江の説明は、山内にとって心外極まりない。
 しかし、こゝで今更、マゾ奴隷の演技を中止するわけにはいかなかった。
「賛成! 面白いわぁ。……この男、みんなでうんと嬲ってやりましょうよ。……そうだわ、
こいつ、このホームパーティーの生贄よ!」
 さっきの若い女が陽気に叫ぶ。
 こうして、あたりの雰囲気が、次第に淫蕩の度を加えて行った。
「そろそろ皆さん、次々とお風呂に入って下さい。……そうそう、その前にこの男にお股の汚
れを舐め取らせてやりましょうよ」
 俊江の提案に、流石に一同は顔を見合わせて逡巡する。
「いゝわ。じゃあ私が見本を見せますわね。……シロ、こっちへおいで!……いゝわ、ここで
仰向けに寝てごらん」
 俊江は山内の顔を跨いで立つと、スカートの裾から手を入れ、パンティーをずらして、ため
らいなく尻を下ろした。
 顔がすっぽりスカートに包まれ、薄暗い中に饐えた臭いが鼻をつく。
 目の前のアヌスに舌を延ばして舐めると、尻がさらに下りて唇を塞いだ。
「ホラ、見てごらんなさい。……舐めてるでしょう」
 スカートが持ち上げられると、光を背に、何人かの顔が覗き込んでいるのが見える。
「じゃあ、交替しましょうか」
 スーと尻が上がり、今度は、客の女の一人が代って彼の顔を跨いで立ちはだかる。
 その股間を覆うピンクのパンティーが、下から見上げる目に鮮かだった。
「思い切ってやってごらんなさい。……案外感じちゃうわよ」
 俊江のけしかける声と共に、ピンクのパンティーが近付き、顔に触れかけた所で止まると、
すっと取り去られ、白い尻が露出した。
「舐めないわよ。……私のだと、いやなのかしら?」
「そんなことないわよ。ペタリと押し付けて御覧なさい」
 顔面に圧力が掛かる。ハッと夢心地から醒めて、舌を動かした。
「ヒャー、舐めてるわ。私、お尻の穴舐められたの初めて! 何だか変な気持。アーッ、たま
らないわ」
 山内の顔面は、くねる女の尻でにじられ、呼吸がとぎれとぎれになる。
「この辺で止めとくわ。これ以上やると気分が出過ぎちゃう。……また、後でお願いね」
 こうして、女達は山内の舌で股間を清めた後、夫婦単位で次々と風呂に入り、出て来ると皆
オールヌードでリビングルームに戻って来る。
 そして山内は、最後の女の尻から解放されると、再び四つ這いに戻った。
 ビールが抜かれ、ウイスキーの水割りを自分で作って飲む者も居る。
 その内、思い思いに席を替えてカップルが出来、ソファの上で抱き合う組もあった。
 リビングルームに繋がる四つの六畳間への間仕切りが外され、それぞれの部屋に敷布団が敷
かれている。
 やがて、そこもカップルで塞がり、六組があちこちで絡み合った。
 ため息が呻き声に変り、嘆声が聞こえて来ると、それが又刺激になって、次々と愛撫が本番
に変って行った。
 部屋の角に四つ這いのまゝ控えている山内も、この異様な雰囲気に興奮気味である。
 三十分程すると、
「シロ、おいで!」
 と、ソファの上で抱き合っているカップルの女性から声が掛かった。
 四つ這いのまゝ近付くと、上になった男性が身を起して結合を解く。
「あと始末、お願いね」
 女性自身に顔を寄せると、ねっとり光るその部分にみるみる白濁した液が湧き出して来る。
 流石に一瞬ためらったが、
「何してんの、早く!」
 の声に、思い切って舌を延ばした。
 尻割れにツーとたれ落ちて行く液を舌で受け、唇を尖らせてチューッと吸い込む。
 もう、おなじみの味だが、塩味が先日のより少ない代りに、生臭さが際立つ。
 割れ目に舌を入れて、すっかり吸い取ったと思うと、女は身体を反らし、足を回して山内の
後頭部にふくらはぎを当て、ぐいと引き寄せた。
 顔全体が、ピタリとその部分に押し付けられ、慌てゝ口から空気を吸い込む。
 女の意図を察して舌を動かすと、上の方でアーッと声が出た。
 やがて、ピクリピクリと下半身が痙攣し、びっくりする程大きな声を出して果てた。
 山内は女の足の間から頭を抜き出し、ぐったりした女体から離れる。
 すると、こちらを見ていたとみえ、近くのもう一組のカップルから声が掛かった。
「シロ! 今度は、こっちよ」
 ここでは、結合したまゝの状態で、アヌスを舐めてと指示される。
 そこを終ると、休む間も無くシロ!≠ニ今度は隣りの六畳間から声が掛かった。
 こうして、結局、四組に奉仕したところで中休みとなった。
 全員、ソファーに戻ってビールで咽喉を潤おし、歓談が始まる。
 その時、思いも掛けぬ事態が起きた。
 トイレから帰って来た女の一人が、紙が切れてると言うのである。
 トイレットペーパーを探しに行った俊江が戻って来るなり、山内に命じた。
「紙のストックを切らしちゃったの。……シロ、お前、これから暫くトイレの前に居て、トイ
レットペーパー代りにお前の舌で皆さんの汚れを清めておくれ!……クックックッ、いゝわね
しっかりやるのよ」
 含み笑いを洩らしながらの、俊江の残酷な命令だった。
 否応を言わせず、山内の首の鎖が引かれ、彼はトイレの前に繋がれてしまう。
 ハプニングとは言え、予想もしなかった屈辱に身を震わせる彼に、女達は遠慮無くその汚れ
た股間を突き付けた。
 或る時は、仰向けに寝た顔に跨がられ、又ある時は、立ったまゝの女の股間に顔を挟み込ま
れ、舌での清めを強制されたのである。
 何人目かには俊江自身が現われて、山内の顔を尻に敷いた。
 用を足した後のべっとりと汚れたアヌスが彼の唇をめくり、舌に触れる。
 思わず呻き声を洩らす男に、俊江の驕慢な笑い声がダブッた。
「フフフ、お前はこれから毎週、ホームパーティーの生贄になるんだよ。そして、退屈しのぎ
に皆に嬲られるのさ。……そうだ、来週は、姪の志津子夫妻も来る筈だよ。クックックッ、志
津子に使われるお前の顔は見物だろうね」
 俊江の尻の下で彼女の宣言を聞く山内の呻き声は、次第に啜り泣きに変って行くのだった。
(完)
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1989年7月スレイブ通信12号
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2010/12/19