024-#24転落したエリート社員(かいま見た情事)
阿部譲二作
一流大学を出て商事会社に入社したエリートが美人の女子社員に魅せられデートを重ねる。ある夜、重要書類を金庫にしまい忘れたのを思い出して会社に戻った彼は、彼女が彼の上司の部長と応接室で不倫セックスしている現場を見てしまう。後日、彼女に呼び出された彼は、罠にかかって自由を奪われ、口封じのために女の奴隷にされ便器に落とされる。 |
六月と云えばもう初夏である。朝からじっとり汗ばむ様な、湿気の多い一日だった。
K商事の新入社員達は、二ケ月の訓練期間を終えて、本日付けで、漸く所属の部署に配属された。
青木竜彦、二十四才、一流大学の修士課程を卒業して入社したエリートである。
青雲の志しを抱いて、独り、郷里を遠く離れた中央に学び、そのまゝ都下で就職した彼にとって、これから初まる会社生活こそ、彼の人生の新しい第一歩であった。
彼が配属された企画室は、総勢約三十名で比較的こじんまりした所帯だが、会社の経営戦略を担当する機能を持ち、社長直属の重要な部署である。
従って、ここに所属するメンバーは、社内きっての優秀な人材が集められていた。
但し、庶務担当の女子職員は、隣接の総務部から交代で派遣されるシステムである。
総務部には、社長及び幹部の世話をする秘書役の女子職員が所属していることもあって、美形の女性達が集められていた。
中でも、訓練期間中から青木竜彦の目を惹いたのは、文書管理を担当している佐山美智子である。
そのピチピチ弾む様な活気に満ちた立居振舞、そして、誰にでも人見知りせず話し掛ける男まさりの積極性は、ひっこみ思案の竜彦に、あこがれに似た新鮮な印象を与えた。
やゝ丸顔の整った顔立の美人で、その爽かな笑顔は男達を魅了するに充分である。
大柄とは言えないが、肉付の良い、女らしい体形で、その豊満な胸と、くびれたウエストの下には、ぐっと張った腰骨、そして重量感に溢れた形の良いヒップが続いている。
企画室のメンバーへの紹介が終って、与えられた真新しい事務机に向かって座った竜彦の目の前に、スッと白い女の手が伸びてお茶が置かれた。
「青木さん、お疲れさま」
深味のあるアルトが彼の耳をよぎる。
振返った彼に、横手でお茶の給仕を続ける佐山美智子の目がニッコリ微笑んでいた。
地味な紺色の事務服に彼女の白いうなじが際立ち、長いまつげの下でキラキラ輝く大きな目が竜彦の心に焼き付いた。
彼は……そう、この日から美智子にすっかり魅せられてしまったのである。
新入社員達は、例年、それぞれ誘い合って社内の様々な運動や趣味のサークルに参加する。それは学生時代の様なハードな競技団体ではなく、あくまで社会人としての個人の趣味を楽しむものだった。
青木竜彦も御多分に洩れず、幾つかのサークルから勧誘を受けたが、ためらわずにコーラス部を選んだ。それも、学生時代にこれと言った経験があった訳ではなく、あの佐山美智子がメンバーに居ると聞いたからである。
週三回、月、水、金の昼休みに屋上で行なわれる練習に、竜彦は熱心に出席し続けた。
初心者の竜彦が、バスのパートをおぼつかない音程で、辛うじてついて行くのに対して、美智子は自信に満ちた艶のある美声で、アルトのメンバーをリードして行く。
"アルトの女王"の呼名がまさにピッタリだった。
指揮者を中心に円陣を組んだ列の間から、竜彦はいつも美智子の姿を目で追う。
そして、晴れ晴れとした明るい彼女の表情にうっとりし、それが、たまに憂を含めば竜彦の心も曇るのだった。
当然のことだが、同じコーラス部員として竜彦は美智子に積極的に接近する機会に恵まれている。しかし、学生時代に、倒々これといったガールフレンドを持たなかった生来の引っ込み思案の性格が、暫くの間、その機会を利用することを躊躇させていた。
しかし、恋は人の性格を変えるに充分な力がある。竜彦も、遂にボツボツと彼女に話し掛ける様になった。
そして、彼女の屈託の無い明るい受け答えは彼のぎごちなさを次第に取り去り、コーラスに参加して三ケ月目にして、漸く彼は美智子にデートを申し込んだのだった。
息を飲んで彼女の返事を待つ彼の耳に、
「いいわ、じゃあ今度の日曜日にね。楽しみにしてるわ」
と、彼の心を有頂天にさせる答えが返って来たのである。
その日曜日の来るのが待ち遠しかったこと!
そして、その当日、早くから待合せの場所で胸をときめかせながら佇む竜彦だったが、彼女の姿は仲々現れなかった。
「御免なさぁい。すっかり待たせちゃって」
彼女が小走りに近付いて来て囁いたのは、約束の時間を三十分も過ぎてからだった。 時計を睨みながら一時間余りを過ごした竜彦の顔が、パッと輝く。
今迄の不安といらだちが、彼女の笑顔と華かな雰囲気の前に嘘の様に消え去っていた。
「うちの部長からの急な電話で、書類を届けに行ってたの。本当に御免なさぁい」
しっとりとした声音だったが、その如何にも物馴れた口調が、男を待たせることに馴れた女の空々しい言い訳ともとれた。
「い、いや……いいんです。どうせ暇なんですから。……そ、それより、どこかでお茶でも飲みませんか?」
幾分上り気味の竜彦が、多少どもりながら答える。
「お茶は後でいいわ。私、映画を見たいの。付き合って下さるわね」
「え、も、勿論です」
元々、ハキハキした積極的な物の言い方が彼女の持ち味ではあったが、思惑を外された竜彦はタジタジだった。
しかも、彼女の選んだ映画は、ロマンチックなラブストーリーならぬ活劇である。
それは"ランボー"と名乗る主人公がベトナムの米軍捕虜を救出に向う筋書だった。 女性には刺激の強過ぎる、血生臭い殺戮の場面が次々に出てくるが、美智子は顔を背け様ともしない。そして驚いたことに、敵に捕えられたランボーが、縛られて数々の拷問に会うシーンでは、彼女は身を乗り出す様にして熱心に見入っていた。
映画から出た後、淡い照明がテーブル毎にムードを醸し出している、とある地下の小さなコーヒーショップに落着いた二人は、甘いムード音楽に耳を傾けた。
美智子は、バッグから煙草を取り出すと、赤いカルチェ風のライターで火を点ける。
コーラルピンクの派手なマニキュアをした形の良い指が、照明の中に浮び上って見えた。竜彦は、何となく圧倒される思いを振り払う様に、口を切った。
「あの映画、随分、乱暴なもんでしたね」
ランボーと乱暴を掛けたジョークの積りだったが、彼女は薄く笑っただけである。
「美智子さんは、ああいったアクションものがお好きなんですか?」
何となく、はぐらかされた様なバツの悪さを紛らす気分で、竜彦は、努めて明るい声を出した。
「そうね。私、ランボーみたいな、野生的なたくましい男に惹かれるの。……アク
ションが特に好きって訳じゃないんだけど、あの拷問の場面なんかゾクゾクしたわ」
「そうすると……残酷なシーンなんかが……」
「そうじゃなくって、男が痛めつけられたり、いじめられたりしてるのを見ると、スカッとするの。ウフフッ、変ってるでしょう?」
「…………」
口には出さなかったものゝ、竜彦は内心、(本当に変ってる!)と呟いていた。
同時に何か、ひやっとした冷いものを感じたが、熱し切った彼の美智子への思いに影響を与えるには、それは余りにも些細な出来事だった。
美智子とのデートは、しかし、残念なことに竜彦にとって、これが最初で、しかも最後のものとなった。
その後の度重なる竜彦の誘いに、美智子が、さっぱり乗って来なかったからである。
特に彼女の機嫌を損じた覚えもない竜彦に取って、美智子のつれない態度は理解に苦しむものだった。しかし、不思議なもので、彼女に冷たくされゝばされる程、彼の思いは募るばかりである。
見兼ねた同僚が、ある夜、彼を飲みに誘ってそれとなく、忠告に及んだ。
「おい、青木。あの女には、決まった男がいると云う噂だぞ。それも、どうやら社内の幹部らしい。……それに、以前、彼女と一諸に住んでいた姉さんと云う女は、今じゃナイトクラブの経営者と称する、やくざまがいの男と同棲しているそうだ」
「へえー、お前、そんなこと、一体何処から聞いたんだ?」
竜彦は不審げに聞き返した。
「実は、こゝだけの話だがな、総務部に居る俺の学校の先輩が、曾て彼女に熱を上げてな……結婚を前提に、興信所に調べさせたんだ。今だから言うが、俺も彼女にフラッ
となった時期があってよ、その先輩に意見を聞きに行って初めて知ったって訳さ。お前も用心した方がいいぜ」
しかし、その忠告を素直に信じ込むには、竜彦のそれ迄の気持の高ぶりが大き過ぎた。
彼の心に幾分の引っかかりは生じたものゝ、彼女への関心は薄れるどころか、高まる一方だったのである。
そうした或る日、独身寮に帰ってひと風呂浴び、残業の疲れを夕食のビールで癒していた竜彦は、ふと、極秘の資料を金庫に入れ忘れて帰宅したことを思い出した。
思わず舌打ちをして、慌てゝ会社に戻った彼は、人気の無い暗い廊下を辿ってオフィスに入り、書類を探し出して金庫へ戻した。
ホッとして廊下に出た竜彦は、静まり返った暗闇の中で、横手の応接室から何やら軋む音が微かに洩れて来るのに気付いた。
夜も九時を過ぎたこの時間にと、不審の念に駆られた彼は、躊躇せず応接室のドアを開くと暗闇の中で壁のスイッチを押した。
アッ、と女の声が上り、ライトに佼々と照らし出された室内のソファーの上で、半裸で抱き合う男女の姿が目に入った。
そして、その、驚きに目を見開いた女の方は、あの佐山美智子だったではないか!
彼女の上に覆い被さった男は首をひねって、戸口で茫然と佇む竜彦を睨む。
驚いたことに、それは彼女の上司である総務部長に外ならなかった。
仰天した竜彦は、反射的にスイッチを切ると、ドアをバタンと閉め、慌てふためいて走り去った。
会社を出た後もショックが収まらず、惰性で走り続けたものゝ、人通りの多い繁華街へ出ると、漸く人心地が着き、高鳴る胸を抑えながら夜道を早足で寮へと歩く。
しかし、先程の美智子のあられもない姿が、目の前にちらついて離れなかった。
翌朝、会社に出勤した竜彦は、暫く落着かない思いでソワソワしていたが、肝腎の美智子は、風邪で今週中休むとの連絡で、出勤していない。一方、総務部長も、今日から長期出張とのことで、彼も漸くホッとした。
その週の週末になって、寮で休日を過ごしていた彼の許に、突然、電話があった。
出てみると、意外にも相手は美智子である。
先日のことを説明したいから、今夜、自宅迄来て欲しいと云うのだった。
複雑な気持で、教えられた彼女のアパートを訪ねた。
思ったより立派な高級マンションで、招じ入れられた広いリビングルームには一面に絨緞が敷き詰められ、豪華なソファーセットが置かれている。
「ここは私の姉が買ったんだけど、今は私がひとりで住んでるの」
美智子は、やや固くなって、かしこまっている竜彦に、コーヒーとケーキを勧めながら説明した。
ピンクの部屋着にくつろいだ彼女は、若い女性特有の、如何にもなまめかしい雰囲気を発散している。
「アノー、先日のことなんだけど……」
普段、はっきり物を言う彼女も、流石に言い難そうだった。
竜彦の方は、思わず反射的に身を固くする。
「あの事は、絶対に秘密にしておいて欲しいの……私の為だけじゃなく、部長さんの為にも、是非お願いするわ」
「…………」
「あんな所を見られたら、私達、さぞふしだらな関係と思われても仕方ないけれど、私と部長さんの間柄は、単なるオフィスラブじゃないの」
「で、でも、部長には、お、奥さんが……」
「そりゃ判ってるわ。でも、奥さん、身体が悪くてずーっと病院暮しなのよ。お子さんもいないし、もうひとつ性格も合わないから、退院したらちゃんと話し合って別れることになってるの」
「…………」
「疑ってるのね。……いいわ、あななに信じて貰わなくっても。これは私と部長さんの問題ですもの。……でも、秘密を守ることだけは約束して頂戴ね」
美智子は、コーヒーカップ越しに、その大きな張りのある目で竜彦をじっと見据えた。
「ええ、そりゃあ僕だって、他人の秘密を、軽々しく外へ洩らすようなことは、決してしませんよ。……それに、外ならぬ美智子さんのことだし。……でも、僕、残念なんです。あこがれていた美智子さんが、部長と結ばれていたなんて……」
「きっと、幻滅なさったでしょうね」
「昨夜は、正直言ってショックでした。でも美智子んが嫌いになった訳じゃないんです。……いや、それどころか、貴女を思う気持は強くなるばかりで……これは、自分でもどうしようもないんです」
「まあー、本当に不思議ですこと!」
美智子は、本心からそう思ったらしく、まじまじと彼を見詰める。その内、スッと表情を柔げるとニコッと微笑んだ。
「もしかしたら、貴方、私の魅力の虜になったのかしら?」
少し冗談めかした彼女の言い回しが、座の思苦しく張りつめた空気を柔げ、彼を苦笑させた。
「でも、秘密は守りますから……ま、また交際して頂けませんか? そしてもしも……将来部長と別れる様なことがあったら……」
「フフフ、そしたら、私が、部長の後釜として、あなたを選ぶと思うの? でも、あなたに秘密を守らせるには、何か御褒美が要りそうね……判ったわ。時々会って上げてもよくってよ」
美智子は、煙草を片手にニヤニヤ笑いながら竜彦を幾分見下す様な目の色になった。
「ちょっと待ってね」
彼女は、ツと立上がると隣の部屋に入る。
開け放ったドアから、色彩豊かなカバーを掛けたベッドの一部がチラッと目に入った。
ライトを消して、その部屋から現れた彼女は今迄まとっていた部屋着を脱いで、手に下げている。上半身は豊な胸を覆うブラジャーだけで、その白い丸味を帯びた肩から、ぐっとボリュームのある胸へかけての滑かな素肌が官能的だった。
竜彦の胸がドキンと大きく鼓動し、顔が熱く火照った。
思わず、生唾をゴックリと飲み下す。
彼女が手を伸ばして、壁際のスイッチを廻すと、リビングルームの天井のライトが減光され、部屋の中は急に薄暗くなった。
美智子は、彼女を迎える様に立上がった竜彦に近付くと、フーッと熱い吐息をかける。
同時に、甘い香水のかおりが漂った。
しかし、美智子を抱きしめようとした竜彦の腕をスルリとくぐった彼女は、そのまゝ彼の背後へ廻った。
そして、彼の上着を脱がせると、後から回した彼女の手が、優しくシャツのボタンを外して行く。そして、……ズボンがスルッと下に落ちた。
彼女の髪が彼の肩にまつわり、弾力のある女の胸のふくらみが、彼の裸の背中に押し着けられる。
思わず振り向こうとする彼の動きを優しく制すると、彼女は、彼の両腕を後ろから抱え込む様にして背中へ引込み、自分の胸の隆起へと導いた。
興奮に細かく震える竜彦の手の指が、彼女の胸の蕾に触れ、彼の息づかいが一層荒くなった。
……その時である。
何やら冷たい固いものが彼の両手首に触れ、カチッと金属音がしたかと思うと、彼の両手は背後で拘束されてしまった。
しかし、甘いムードと官能に痺れた彼の頭の動きは、信じられぬ程鈍かった。
一体、何をされたのか、いぶかしむ間に、背後でしゃがみ込んだ彼女の手が、素早く彼の両足首に、これもヒヤッとする金属の感触を押し着ける。
カチャッと今度は大きな音がして、微かな痛みに似た圧迫感が足首を襲った。
「サァー、これで良いわ」
彼女の冷たい声と共に、リビングルームのライトが、サッと明るさを取り戻し、部屋の中央にパンツひとつで立ちすくむ竜彦の姿を照らし出す。
哀れにも、それは、後ろ手錠と足錠を穿められたみじめな姿だった。
「ウフッ、良い格好だこと!」
茫然と我を失っていた竜彦が、ハッとして声の方を振り向いた。
「ひ、ひどいじゃないか! い、いったい君は……こんなことをして……何のつもりなんだ!」
興奮の余り、叫び声が咽喉に詰って、半ば涙声になっている。
「お黙り!」
凛とした女の声が響いた。
「下手に出てたら図に乗って! 秘密を守る代りにデイトをしろだとか、部長さんの後釜に成りたいだとか、勝手なことを言って……思い知らせてやるわ!」
黒い瞳が、怒りでキラキラ光り、頬にはポーッと赤味が射して、キッと結んだ赤い唇が彼女の勝気さを示しいる。
それにしても、彼女の凄艶な美しさは、竜彦を圧倒して余りあった。
途端に、彼の態度が卑屈さを加える。
「お、お願いだ!……これを外してくれないか? 君達のことは、決して言わないから……デ、デイトのことは、取り消しても良いんだ」
文字通りの哀願だった。
身体を美智子の方へ捩じって、足を踏み出した途端、足の拘束具に阻まれてバランスを失い、ガックリと膝を着く。
そして、そのまま、前に立ちはだかった美智子に向かって、自然な形で頭を低く垂れるのだった。
余りに脆い、男の屈服を見下ろす美智子の顔に、アリアリと軽蔑の色が浮ぶ。
そして、勝誇った高慢さが、女の表情に一面に溢れていた。
「ウフッ、いいざまね。もっと恥ずかしい格好にして上げようか?……ホーラ、どおお?」
美智子は、足を上げて目の前に膝まずく竜彦の胸をドンと蹴った。
男はたまらず仰向けにひっくり返る。
背中の手錠がカチカチと冷たい音を立てた。
身を起そうとする男の動きを、喉元に当てた女の素足が易々と封じる。
そして、美智子は傍らのソファーに腰を下しながら、もう一方の足で彼の顔面をじわりと踏み付けた。
「フフフ、エリートさん、女の足に顔を踏み付けられて、どんな気持? 恥ずかしい?それとも悔しい?……そうだわ。言葉使いも、改めた方がいいわ。……こんなみじめな姿に成っちゃ、ウフッ、もう青木さん、なんて呼ぶのはおかしいわね。そう、お前で沢山。……そして、お前は、私には敬語を使うのよ。いいわね。」
「…………」
「アラ、返事がないわね。ショックで口が貼り着いてしまったのかしら? でも、ソラ、こうすれば開くわね」
喉元の足が顎の上に当てられ、ぐっと重みがかゝる。たまらず開いた唇を割って薄汚れた女の足の指が、ぐいとばかり口腔に押し込まれた。
「ムウーッ、ウー、アグウー」
男の咽喉から絞り出す様な呻き声は、苦しさからよりも、むしろ女の足に嬲られる屈辱に耐えかねての悲鳴と言えた。
口腔の中で、足の親指がグリグリと舌の腹を擦る。とたんに塩っぽい苦味が口中一杯に拡がった。
「どおお? 女に足の指舐めさせられたの、初めてでしょう。どんな味がするの? おいしい? クックックッ……アラッ、お前、泣いてるのね。さぞ悔しいでしょうね。同情するわー……でも、イイ気味! 思い知った?」
竜彦の目尻から溢れた涙が、ツーと耳へ流れる。
(クーッ、悔しい! チクショー、残念!)
彼の声無き叫びは空しくつぶれ、苦しげな呻き声となって女の耳を楽しませた。
「もっと、もっと、辱めてやるわ。ソーラ、口を開けて!」
咽喉を塞いでいた足先がゆっくりと引き抜かれて、土踏まずが鼻を抑える。息を吸う為に開けた彼の顎をもう一方の足裏がそのまゝ固定した。
〔ズーッ……カーッ……ペッ〕
と一連の派手な音がして、彼の口腔の中に若い女の痰が勢いよく吐き出された。
風邪気味の彼女の鼻腔の奥から吸い出されたねっとりした、所謂、青痰がたっぷりと注ぎ込まれたのである。
ヌルッと咽喉にまつわり着いた多量の痰汁は彼の全身を震わす程の屈辱感をかき立てた。同時に、耐え難い不潔感が吐気を誘う。
しかし、続いて、すかさず唇を割って彼の口に押し当てられた女の踵が、丁度栓の役を果たして、吐き出そうとした痰汁が逆に口腔一杯に拡がり、その、ぬめっとした塩味を舌一面に受けて味わう羽目になったのだった。
そして、遂に咽喉がゴクリと鳴る。
気が狂う程の屈辱感と共に、汚物が咽喉を伝って胃に落ちていった。
「ソーラ、今度は痰壷にされてぇ……お前も、さぞかし悔しかろぉ、悔しかろ」
彼女は歌う様に口ずさむと、ニヤニヤ笑いながら、無念の涙が湧き上がる彼の目を覗き込んだ。
そして、辱めの効果が充分なことを見て取ると、おもむろに足を顔から外した。
「さあ、そこに正座しなさい……さ、早く!……どうしたの? これだけ辱められたら、もう反抗する気力は残っていないわね……そう、それでいいわ」
ソファーに深々と身を沈めた美智子の前で竜彦は手錠、足錠の不自由な身体を起して、やっとのことで正座する。
彼女の組んだ足の先が、その額をトントンとこずいた。
新たな屈辱感がグッと込み上げる。
「お前ね、これからは私の奴隷になるのよ。当分は会社を休んで、こゝで私の奴隷教育を受けなさい。……私に辱め抜かれて、身も心も従順な奴隷になったら、手錠と足錠は外して上げる。それ迄は、そのまゝでいるのよ」
思いがけない彼女の言葉に、彼の唇がワナワナと震えた。
「そ、そんな酷い! どうして、ぼ、ぼくがそんな目に……」
「いいこと。私は、お前が信用出来ないの。お前に秘密を握られて、ビクビクして暮すなんて真っ平よ。……それより、お前を私の奴隷にして、二度と反抗出来ない様に、ここで徹底的に仕込むことにしたの。……お前も、私のことが好きなんだから、満足でしょう?」
「…………」
「フフフ、そう、判らないの? でも、今に私に嬲られて喜ぶ男に性格改造して上げる。お前には、その素質が充分ある筈よ」
そして、その晩は、竜彦に取って永久に忘れられない汚辱の夜となった。
美智子は、戸棚から真新しい犬の首輪と鎖を出して来ると、それを彼の首に着ける。
「ホーラ、こうすると、鎖に繋がれた男奴隷らしくなるわ。お前は、私の意志に逆らわずに、命令された通りにすることを忘れちゃ駄目よ。ホラ、こっちへおいで!」
鎖がツイと引かれ、彼は両膝でにじる様にして、隣りの寝室へと連れ込まれた。
中央に置かれたセミダブルサイズのベッドの横の壁に、大きな鏡が埋め込まれている。
如何にも女性の寝室らしい色彩豊な装飾で、なまめかしい雰囲気を醸し出していた。
ベッドの裾に腰掛けた彼女の前で正座させられた彼の前に、薄汚れた女の足の裏が突き付けられた。
「サァ、さっきは足の指、今度は足の裏よ。御主人様の足を舐めるのは、奴隷の第一歩。たっぷり時間をかけて、味わいなさい!」
鎖が軽く引かれ、思わず前のめりになる男の顔を女の足裏が受け止める。観念して舌を出すと、そこはザラザラした踵だった。
何故か、ピリッとした苦味が舌に辛い。
首を左右に傾けながら、踵の周囲迄舌を回した。
無心に目の前の物体を舐めることに専念すると、屈辱感が幾分薄まる。
土踏まずに舌が移ると、足が瞬間ピクッと震えた。苦味が減り、舌触りが柔かい。
更に前に移って、指の付根の部分ヘ来ると、プンと饐えた臭いが鼻を突いた。
「そこ、そこよ。続けて! そこが感じるの……アーッ、いいわー」
首を左右に振って、足指の付根の窪みを舌先でなぞる様に舐めると、女の快感が増す様だった。
「今度は、こっちの足よ。……ウフッお前、さっきに較べて随分従順になったじゃないの……ホラ、横の鏡を見て御覧。……マアマア、お前にふさわしいシーンだこと」
そこには、首輪を穿められた裸の男が、後手錠のまゝ、犬の様に舌を伸ばして女の足をペロペロ舐めている浅間しい光景が映し出されている。
忘れていた屈辱感が、サアーっと噴き出して来る思いだった。
「お前ったら、急に赤くなって……ホホホ、おかしいったらありゃしない! でも足の方は、すっかり奇麗になったわ。……さあ、これからが本番よ。覚悟なさい」
美智子は、竜彦の舐め清めた自分の足を、ひと通り見詰めると、ニヤリとした。
ベッドに座ったまゝ少し腰を浮かし、スルッとパンティーを脱ぐ。それを、指で摘まむと彼の鼻先にかざして、ゆっくり揺すった。
「ソーラ、御褒美よ。この臭い、どおぉ?」
白い木綿地のそれが、彼の鼻をくすぐる。
美智子の指が、それをゆっくり裏返した。
股間の当る部分が黄色に汚れ、じっとりと湿っている。途端にプーンと異臭が漂った。
「風邪で、一週間もお風呂に入ってないの。匂うでしょう? アラ、この臭い、お気に召さないかしら」
思わず上体を後ろに引いて、顔を背けた彼を見て、美智子の目が意地悪くキラッと光った。首輪の鎖がグイッと引かれ、彼の鼻の上に、パンティーの汚れの一番ひどい部分が押し当てられる。
〔ムーッ、ウ、ウーッ〕
思わず、彼の口から呻き声が洩れる程の強い悪臭だった。
「奴隷としての次のステップはね、この臭いを覚えるの。……私のおしもの匂いを毎日嗅いで、他の女の匂いと嗅ぎ分けられる様になりなさい。……ソラ、ここが、お尻の穴が当たっていた所よ。少し違う匂いでしょう。ウフフ、どおぉ?」
褐色の糊がじっとり泌み込んでいる個所が鼻孔を塞ぎ、異臭と屈辱に頭がクラクラッとする。彼の反応をニンマリしながら見守っていた美智子は、パンティーを押し着けている手に力を加え、竜彦をそのまゝ後ろへ押し倒した。
絨緞の上に、仰向けにひっくり返った男の頭を跨いでスックと立った彼女は、じーっと足元の竜彦の顔を見下ろした。
これから何をされるのか脅えながら見上げる彼の目に、聳える二本の円柱のかなたで、蔑みを浮かべた女の表情が、壁のライトに照らされて威圧する様に浮き上がって見える。
手錠ごと背中に敷かれた両手首が、次第に痺れて行くのが意識された。
「これから実物教育よ。私のおしもを、直に嗅げるなんて、光栄と思いなさい!」
スーッと女の腰が落下し、円柱の根元の黒い陰りが眼前に迫る。
先程の覚えのある異臭が、今度は耐え難い程の強さで覆いかぶさって来た。
大きく開いたピンク色のクレバスが、顔にスレスレの所で止まる。その、ぬめりを帯びた襞肉のあたりには、白い恥垢がべったりと糊状に付着していた。
いくら、風邪で暫く風呂に入っていないと言っても、これ程の汚れとは、想像もつかぬひどさである。或いは、彼女が彼を効果的に辱めるために、計画的に仕組んだことかも知れなかった。
「ソラ、良く嗅ぐのよ。この臭いにたっぷり塗れなさい。……フフフ、きっと奴隷らしくなるわよ」
美智子は、その部分を彼の顔面に軽くタッチさせると、襞肉で男の鼻を擦る様にして、ゆっくりと尻を前へ移動して行く。
クレバスの後端迄来ると、今度は、アヌスをびったり彼の鼻孔に当てゝ尻臭を嗅がす。暫くすると再び尻を前へ移動し、同じ動きを繰返した。
それは、恐ろしいほど、完全に男の自尊心を粉砕し、屈辱感を高める効果があった。
竜彦の臭覚は、その屈辱の念で、かえって研ぎ澄まされ、汚辱の臭いを確実に脳裏に刻み込んで行く。
無念さが、被征服感を助長して奴隷としての身分を心に焼き付けて行った。
〔ウ、ウーッ。ム、ムーン〕
激した男の感情の迸りが、獣の遠吠えに似た、しかし、くぐもった呻き声と成って続くのも哀れだった。
「さてと、臭いと味は表裏一体と言うわね。今度は、お前の舌で、その汚れを良く味わうのよ。……その臭いを嗅いだだけで、それの味が思い出せる様になりなさい。……ホラ、どうしたの、早く舌を出して!……今さら、反抗したって遅いわよ。何さ、犬だって寄り付かない様な、おしものくさーい臭いを、散々嗅がされたくせに!」
加速されて行く辱めに、彼の羞恥心はズタズタに傷つき、判断力は完全に麻痺してしまっていた。
催眠術にかゝった様に、言われるまゝに舌を伸ばし、懸命に動かす。同時に命じられた通り、唇で、肉襞に付着した糊状の滓を吸い取って行く。発酵した麹に似た酸っぱさと、強い生臭さが、口中一杯に浸透して、麻痺しかけていた屈辱感を刺激した。
「いいわよー。とっても奴隷らしく成って来たわ。……ホーラ、今度はアヌスよ。……オー、よしよし。お前も、とうとう、女性のお尻の穴を舐める変態男に成り下がったわね」
痛烈な美智子の辱めの言葉に、竜彦の目には、何度目かの悔し涙が、溢れて流れた。
「こっちへおいで。ソラ、早く!」
たっぷり時間を掛けて、男の顔をその股間で蹂躙した彼女は、おもむろに立上がる。
クロゼットからピンクのネグリジェを取り出して、ふわりと羽織った。
後手錠の不自由さに、もがきながら漸く身体を起した彼を横目でチラッと捉えると、美智子は戸棚から鋏を取り出し彼に近付いた。
「楽にして上げるわ」
彼女の手が男のブリーフにかかり、鋏が布地を裂く。アッと言う間もなく、竜彦は一糸まとわぬ全裸にされていた。
「どうなってるの?……ウフフ、元気無いのね。ホーラ……やっぱり、奴隷にされると、一人前の男じゃ無くなるのね」
彼女は、蔑みを露わにして足指で彼の股間をまさぐり、ぐにゃりとした感触を楽しむ。
そして、赤くなって俯く男を尻目に、ベッドの上へ、その豊満な身体を横たえた。
「今度は、今迄、お前を教育してやったお礼を、お前がする番だよ。……さあ、ここへ上がっておいで」
彼女の声の調子に、幾分優しさが加わる。
ホッとして、よろけながらベッドにたどり着き、横から這い上ろうとした竜彦は、女の足で邪険に蹴り落された。
無様に転がった彼を、ベッドの上で半身を起した美津子が、冷たく見下ろす。
「馬鹿ね、お前は裾から上がるのよ。……アラアラ、お前のそれ、何時の間にか、ちゃんと元気に成ってるじゃないの。……ア、そうかぁ。私がベッドに上がれと言ったからね。プッ、奴隷の分際で、私と一人前にセックスする気だったの?……でも、お生憎様!お前は奴隷、それも明日の朝迄、私のセックス奴隷として一晩中、奉仕するのよ。……勿論、お前の舌と唇でよ。お前のけがらわしい道具なんか論外だわ。それに、少しでも手を抜いたら、それを一生使えなくしてやるわよ」
ベッドの裾に回った彼の首の鎖が、ぐいと引かれる。そのまゝ倒れ込む様にしベッドの上へ這い上がった彼の頭の髪を、女の手がムズと掴んだ。
「ストップ。そこ迄よ、奴隷が上れるのは」
竜彦の頭は、うつ伏せのまゝ美智子の股間に挟み込まれる。鎖が彼女の太股の下をくぐって、ベッドの隅の柱に固定された。
髪が引かれ、彼の顔が女のクレバスに密着する。
「サア、心を込めて舌奉仕するのよ。お前は奴隷と成って地獄に落ちるの。そして、私には、何回も天国の夢を見せなさい!」
観念した男の舌先が、折り重なった肉襞の間をかき分けて上下する。彼女の手が、今度は彼の耳を掴んで、彼の舌をクリトリスへと誘導した。
「最初は軽く……ゆっくりよ。段々、力を入れて同時に唇も使うの。……そうそう……あとは、お前の耳を手綱代りにするわ。私の意志通りにしてない時は、こうして合図するからね」
彼女は、もう一方の手の拳で、彼の頭の頂点をコツコツとこずいて見せた。
彼の舌が、彼女の思うまゝにコントロールされる様になるのは、時間の問題だった。
耳が時にはちぎれる程引かれ、頭の頂点に何回か拳が見舞われはしたが、その内、竜彦は自分の意志を失った、女の舌人形として、命ぜられるまゝに奉仕を続けさせられていた。
クリトリスの刺激の合間に、クレバス全体に舌を上下させたり、肉襞を吸いながらその付根をまさぐる様に舌を這わす。
すべてが、彼女の無言の指示のまゝに、試行錯誤を繰返しながら行われていった。
その内、膣の奥から独特の香りの分泌液が湧き出して来る。女の微かな身もだえが、次第に振幅を増して来たかと思うと、彼女に最初の頂点が訪れた。全身が身震いと共に突張り、太股が彼の両頬を強く締めつける。
〔ウ、ウーン〕 満足の溜息と共に、彼女の身体がぐったりした。しかし、それは、ほんの序の口だったのである。
シーツを汚さない様にと、股間に溢れた蜜をすべて彼に吸い取らせた彼女は、股間を開いたまゝ立膝ををする。
枕を腰の下に当がって、尻の位置を高めると、美智子は、彼に向かってアヌスを舐める様に命じた。先程は、表面を舐め清めさせられただけだったが、今度は違っていた。
舌の腹で強く粘膜を擦って充血させ、柔かくなった所で、舌の先を菊座の中心に押し込む様に命じられる。あまりのことに、竜彦は、思わず屈辱で身体が震えた。
尖らせた舌の先が、弾力のある括約筋を押し分けて、辛うじて三分の一程埋まったものの、それ以上は進まない。
しかし、彼女が両手を自分の尻に掛けて、ぐいっとアヌスを引き開く様にすると、彼の舌はスッポリと肛門の中に吸い込まれた。
一杯に伸ばした舌の付根に、痛みが走るのを堪えながら、言われるまゝに、舌先で菊座の奥をまさぐる。すると、溜っていた便の糟が、丸めた舌の腹の上で溶け、ピリッとした苦みが彼の味覚を刺した。……それは、彼の、男としての自尊心を、完膚無きまでに粉砕する、汚辱に満ちた行為だった。
「ウフフッ、お前、それでも男? 自分が今させられてること、どう思うの?……普通の男なら、いくら強制されたって、女の尻の穴に舌を入れるなんてこと、死んでもやらないわよ。……と言うことは、お前は普通の男じゃ無いってこと。つまり、生れつき奴隷の素質があるのよ」
「…………」
「奴隷って言うのはね、人間扱いして貰えないのよ。……判る? だから、私は、これから毎日お前に命令して、人間ならとても出来ない様な、恥ずかしい事をさせるわ。お前は、私の命令を守って、一人前の奴隷になりなさい。もう、二度と普通の人間には戻れないんだから、諦めて服従するのよ」
淡々と述べられる美智子の宣託は、竜彦がこうして彼女の手で人間の資格を剥奪され、もう、再び普通の生活には戻れないことを、意味していた。
「サァー、そのまゝ舌を出し入れするのよ。……そうよ、中々上手じゃないの。まさに、奴隷にピッタリの仕事だわ。フフフ」
反抗を諦めた竜彦の心は、最早、彼女の思いのまゝである。そして彼は、命ぜられる通りに、女の股間に顔を打ちつける様にして、その屈辱の作業を繰返した。
「それじゃ、今度はもう一度、前の方を舌で舐めるのよ。サ、早く」
そして、再度、クレバスへの舌奉仕が、始まる。彼女のぽってりした太股が、再び激しく痙攣して頂点を告げたのは、初回よりずっと長い時間を掛けた後だった。
彼女が、心地良い余韻に身を委せている間、彼は、流れ落ちて来る蜜を吸わされつゝ再びアヌスへの舌による刺激を強いられる。
この繰返しがいつ果てるともなく、際限無く続いたのである。
竜彦の舌の付根は、充血して腫れ上がり、唇は痺れて感覚が薄れて来る。その内、彼の耳を掴んでいた彼女の指が緩み、微かな寝息が聞こえて来た。
ホッと気が緩んで、竜彦は、女の股間に顔を伏せたまゝ泥の様な眠りに落入っていた。
それから、何時間が経ったであろうか。
突然、彼は美智子に、ベッドから邪険に蹴り落され、眠りから覚めた。
「一体、今何時だと思ってるの? とっくに朝に成ってるのに、お前ったら、図々しく目を覚さないんだから!……ソラ、そこに仰向けに寝るのよ」
未だ、半分寝呆けた状態で、竜彦は彼女に命じられるまゝベッドの傍の床に寝た。
途端にノーパンティーの剥き出しの尻が、顔面に降って来る。
「ホラァー、口を大きく開けて!」
何の事か判らず、素直に開けた男の口に、女の局部が押し当てられた。彼女の股間のデルタ地帯の繁みが鼻に触れ、顎に掛かる体重が、口を更に大きく押し開く結果となる。
「零すんじゃないよ。絨緞を濡らしでもしたら、ひどいからね!」
言葉と同時に、彼の口の中に、ポタポタと生暖い滴が落ちる。それが間も無く、チョロチョロと細い流れとなって、彼の口腔に注いだ。
その異常な臭気と味は、彼の朦朧とした頭に電撃の様なショックを与える。
竜彦が、こともあろうに美智子に、その小水を飲まされている事をはっきり覚ったのは、既に口に溢れた汚水を一口、二口と飲み込んだ後だった。
「ムーッ、ム、ムーッ」
呻き声と共に、身もだえしたが、手足を拘束されている上に、口の上にどっしりと載せられた尻が、顔を背けることも、口を閉じることも許さなかった。
彼女は、水流を一時止めて、股間から目だけ出している彼の顔を覗き込む。
「フフフ、どうしたの? 今頃、私の便器にされていることに気が付いたの? ウフッ、もう手遅れよ。諦めて、おとなしく飲みなさい。それが、お前の運命なんだから」
再び、汚水の注入が始まった。
彼女は、そのまゝ、じいっと彼の目を見下して、反応を見守っている。その瞳には、強い蔑みの光を湛えていた。
それは彼にとって、正に、胸を掻きむしる様な情けなさ、みじめさを実感させる。
ゴクリ、ゴクリと咽喉を鳴らして飲み続ける彼の目には、この新たな屈辱に、流石に、みるみる涙が溢れ、上から覗き込む美智子の顔が、視野の中でボーッと霞んだ。
「そうそう、それでいいのよ。今は悔しいだろうけど、そのうち、この味にも馴れるわ。これでお前は私の便器、最低の男に成り下がったのよ。おうおう、咽喉を鳴らして、臭いお水を……フッフッフッ、哀れだこと!」
美智子の嘲りの言葉は、微かに残る彼の男としての誇りに、キリキリと突刺さゝり、それを跡形も無く砕いて行く。
済んだ後を、丁寧に舌で清めさせられて、彼の、女の便器としての初体験は終った。
丁度、女性が処女を失って、一人前の女と成る様に、竜彦も、その誇りを失って、一人前の奴隷に生れ変ったのである。
それからの一週間は、彼にとって一年にも相当する長い長い屈辱の時間だった。
美智子は、会社に電話して、竜彦が親戚の不幸で郷里へ帰った旨、連絡すると、本格的に彼の奴隷教育に没頭したのである。
手錠をかけられた手首が、擦り剥けて赤く腫れ上ったが、彼女は包帯をぐるぐる捲いてくれただけで、手錠を外そうとはしない。
食事は、彼女の食べ残しを、その足元で這いつくばう様にして食べさせられた。
しかも、彼女は、ご丁寧にもその残飯の上にたっぷり唾を吐き掛け、ニヤリと蔑みの笑みを浮かべながら顎をしゃくる。
そして、不潔感をこらえて、それに唇を当てる竜彦の頭の上に、彼女の裸足の足裏が載せられた。
「食べなさい。お前にふさわしい食物よ。それに、とっても良い格好だわ。ホラ、ホラ、ホラ!」
彼女の足が、彼の頭をトントンとこづく。
「でもね、お水は飲ませないわよ。お前の飲めるのは、私の体内を通った、くさーい水だけ。……ソラッ! 判ったわね」
女の踵が、確認する様に、彼の後頭部を抑え付けた。
「む、うー……わ、わかりました」
唾のかゝった残飯を頬張りながら、くぐもった声で返事をする竜彦の態度には、早くも奴隷としての卑屈さが現われていた。
彼女は、宣言通り彼に一切水分を与えず、一日に数回、彼の顔に跨がって小水を飲ませた。流れの強さをコントロールしなくても、竜彦が、零さずに飲める様に成ったと看て取ると、今度は、様々な体位で飲ませてみる。
仁王立ちに立ったまゝ、彼の頭を股間に挟み、その目をじーっと見下ろしながら飲ませたり、顔の上に後向きに跨がり、アヌスを鼻に当てゝ臭いを嗅がせながら、汚水を注ぎ込んだりした。
三日目には、朝尿をベッドの傍で飲ませた後、トイレの洋式便器に跨がり、用を足す間足舐めを命じる。そして、終った後の清めを彼に舌でやらせた。流石に顔色を変えて尻込みする竜彦を床に押し倒すと、髪を掴んで顔を固定し、べっとりと汚れたアヌスを、彼の唇へ押し付けたのである。
屈辱に咽びながら、それでも諦めて舌を這わす彼の口中に、突然ガスが注入された。
思わずクックッと笑う美智子、そして彼女の尻の下で、ショックに身体を震わせて呻く竜彦……その対照的な反応の違いは、征服する者と、される者との大きな落差を二人に実感させた。 こうした彼への奴隷教育……或いは調教と言った方が、ぴったりするかも知れぬが……それに熱中している時の美智子は、如何にも楽しそうだった。
鞭や蝋燭、潅腸といった、所謂、SM用の小道具こそ使わなかったが、男を辱め、屈服させる事に彼女が喜びを感じていることは確かで、日々に驕慢さを加えて行った。
その点、美智子は天性のサジスチンと呼べるかも知れない。
一方、竜彦の方は、反抗を封じられた状態で、思い焦がれる女に辱められ、嬲り抜かれるうちに、次第に卑屈さを増して行く。
未だ、辱めを与えられる事に喜びを感じる境地には達していないが、これ又、彼女の見抜いた通り、マゾヒストの素質充分なのかも知れなかった。
一週間目の土曜日、彼女は、調教の合間にカメラを持出して、竜彦の様々なみじめな屈従の姿をフィルムに収めた。
三脚とセルフタイマーを使用して、足舐めに初まって、女のアヌスに舌を這わす彼の顔のクローズアップや、小水を飲まされる場面などが、次々に記録されて行く。
それは、この一週間に調教された彼の奴隷ぶりを収めた総集篇とも言えた。
そのフィルムを持って外出した彼女は、中々帰って来ない。漸く夕刻になって戻ってくると、外出着のまゝそそくさとパンティーを脱いで、いきなり彼の顔に跨がった。
プーンと異様な臭いがして、生臭い液が彼の唇を濡らす。
「ホラッ、吸いなさい! それから、舌を出して清めるのよ」
ズズーッと音を立てゝ、その液が咽喉を通り、彼の胃に収まる。思ったより量が多く、後から後から湧いて出てきた。
「フフフ、それ何か判る?……お前の飲んでるのはね、私と部長さんのフレッシュジュースよ。今日は久し振りでデートして来たの。……お前は、今、私と部長さんのセックスの後始末をしているのよ。……ソレ、しっかりお舐め!」
彼女の膣に溜められていたのは、恐らく、二人の何回かの激しいセックスの分泌液に違いなかった。淡白な味だが、吐気を催す様なしっこい生臭さである。
しかし、その液自体に対する不潔感よりも、惚れた女に、他の男と寝た後始末をさせられていると云う屈辱感とみじめさが、彼の胸を掻きむしった。
「部長さんがね、お前の退職届けを出しておいてくれるそうよ。最初の一年間は見習い期間だから、手続きは簡単なんですって。……これで、お前も、晴れて私の奴隷に成れるってわけ。……嬉しい? それとも、悔しい? それから、来週から私は出勤するから、今みたいに、四六時中お前の面倒を見る訳には行かないわ。別に、お前のする仕事を考えなくっちゃね。……実は、それも決めて来たの。……お前は、私の姉のやってるクラブで働いて貰うわ。……どうしたの? 聞いてるの?」
「ウウウ……ム、ムウー」
くぐもった呻き声が、彼女の尻の下から戻って来た。
「アラアラ、お前仕事中だったわね。……いいわ、大体奇麗になったから、この辺で許して上げる」
漸く、美智子の尻の下から解放された竜彦は、ソファーに座った彼女の前に正座する。「クラブでの仕事は、行ってみてのお楽しみよ。でも、姉が、お前にふさわしい仕事を考えてくれている筈だわ。……いずれはここから毎日通いになると思うけど、最初の
内は暫く、住込みで行きなさい。姉が、徹底的に仕込むそうよ」
「で、でも、美智子様は……」
「心配しなくてもいいの。毎日、覗きに行くわよ。……そして、姉と一諸に嬲って
上げる。私の便器であることも忘れない様にさせてやるわ」
「あ、あのう、この手錠と足錠ですけど……」
「フフッ、すっかり忘れていたわ。勿論、外して上げる。……でもね、今日撮ったお前の写真を部長さんに預けてあるの。もしお前が逃げたり、反抗したりしたら、直ぐにあの恥ずかしい写真が、あちこちにバラ撒かれる手筈になってるのよ。……お前の郷里の親戚や、学校の同窓生達にもね」
竜彦は思わず唇を噛んだ。これからの自分の人生は、この女の意志のまゝなのである。
激しい悔しさが、一瞬胸に込み上げて来た。
一方、美津子は、勝ち誇った目でジーッと彼の反応を見守っている。
所詮、彼に勝ち目はなかった。衝動が静まると、彼女の黒い大きな目に次第に圧倒され、彼の心に負け犬根性が、そして諦めの念が拡がる。
「判ったわね。……一生、私の従順な奴隷に成ると誓うわね」
男の心の動きを敏感に読んだ美智子は、すかさず畳み込む様に念を押した。
「わ、わかりました。ち、ちかいます」
苦い苦い屈服の言葉だった。そして、漸く、手錠と足錠を外してもらったものゝ、首輪とそれに付いた鎖はそのまゝである。
「お前、この家では、人間並に立ち上がって歩くことは許さないわよ。お前は、いつも四つん這い……そう、その首輪にふさわしく、犬並に扱ってやるわ。……それから、私が足で蹴ったら、直ぐ床に仰向けに寝て、私の、おしもの御用を勤めるのよ」
女の言葉に、竜彦は黙って首を垂れるばかりだった。
翌、日曜日の朝、彼は美智子に伴われて、彼女の姉の経営するクラブを訪れた。
思ったよりこじんまりした店構えで、スナック風のナイトクラブと云った所である。
棚にはボトルキープのカラフルな洋酒の壜が並び、コーナー部には、カラオケ用の小さなステージが設けてあった。
開店は午後からだそうで、店の中はガランとしている。
聞けば、ホステス役の女の子達、総勢八名が出揃うのは、夕方五時以降とのことで、それ迄は、その日の早出当番を割り当てられた女の子二人が、ウエートレス役を勤めて、喫茶店として営業しているとのことだった。
彼女の姉の志津子は、美智子をひと回り豊満にした感じで、顔立ちも良く似ている。
特に、目元のあたりや、張りのある黒い大きな瞳は、そっくりと云っても良かった。
違っているのは声で、美智子のアルトに対して、姉の志津子は、鈴を振る様な奇麗なソプラノだった。
予め話が着いていたと見えて、店に入るなり、客席の椅子に座った二人の前に、土下座させられた。
「ソラッ、お姉さんに、初対面の挨拶をするのよ。……頭が高いわ。もっと顔を床に擦り付けなさい!」
美智子の叱咤する声に脅えて、竜彦は平蜘蛛の様に床に這いつくばった。 その有様がおかしかったと見え、志津子の高いピッチの笑い声が響く。
「オホ、ホッ、ホッ……あー、おかしい。アラアラ、お前、震えてるのね。よっぽど、美智子に厳しく仕込まれたと見えるわね……いいわ、それなら手が省けるわ。お前は、この店で、私やここで働く女の子達に、奴隷として仕えるのよ。いいわね」
「は、はい。判りました」
口では答えたものゝ、竜彦の声には元気がない。ここでは、まともに人間として扱って貰えるかもと期待していたのが、見事に外れたからである。
「と、云うことは、私や女の子達の命令には絶対服従するのよ。……例え、そう、便器に成れと云う命令でもよ。フフフ」
「…………」
「聞いたわよ。……お前は、この一週間、美智子のお小水を全部飲まされたそうじゃないの。……汚れたお尻の穴も舐めるんですってね。とんだ変態の豚男だわ!」
如何に美智子の姉だからと云って、初対面の女性に、こうまで罵倒されると、流石に竜彦の胸も悔しさで一杯に成る。
しかも、ホステスの女の子達にまで、奴隷として奉仕させられるとは、予想もしないことだった。
涙を飲んで、美智子に屈従したのは、あくまで彼女に恋い焦がれていたからこそ、我慢出来たのである。見も知らぬ若い女達に、嬲られ、小水まで飲まされるとあっては、目の前が真っ暗になる思いだった。
「姉さん。こいつ、身の程知らずにも、奴隷にされても未だ私に惚れてるのよ。だから、私の便器に落してやったの。ここで、お姉さんに使われるのは仕方ないけど、女の子達全員の便器にされたら、気が狂うかも知れないわ。……何とかならないかしら?」
美智子は、流石に竜彦の心中を察して、助け船を出す。
しかし、姉の志津子の言葉は冷たかった。
「だから、美智子の考えは甘いって言われるのよ。奴隷に落とされた男は、女に嬲られ、辱められるのが宿命なのよ。……気が狂うですって? 気が狂ったって良いじゃないの。……いゝこと。ここでは私が主人よ。私の思う様に仕込んでやるわ。……三ケ月頂戴。その間に、こいつを身も心も完全な豚にして見せるわ」
竜彦は、思わず、背筋が寒く成るのを覚えた。血筋なのであろうか、明らかに、姉の志津子は、妹の美智子と同様、いや、その上を行くサジスチンだったのである。
「じゃあ私はこれで帰るわ。明日から毎日、様子を見に来て上げるからね。姉さんの言う通りにして、立派な奴隷に成るんだよ。三ケ月したら、又、引き取ってやるから、それ迄の辛抱だよ」
別れを告げて帰る美智子が、意気消沈している竜彦に囁いた。 美智子の姿が消えると、早速、志津子の命令が飛ぶ。
「お前、こゝは冷暖房完備なんだから、服を脱いで裸に成りなさい。裸の方が、自分がみじめに思えるし、第一、奴隷らしいわ。そして勿論、いつも四つ這いで歩くこと。……それから、ここでは女の子達に会った時に、毎日お前の方から、奴隷としての挨拶を願い出るのよ。……その挨拶と言うのはね、フフフ、アヌス舐めよ。判った?」
それは、彼にとって、頭をガンと殴られた様な衝撃だった。
「ア、そうそう、お前に良い物を付けて上げるわ。……ホラ、これよ。首輪よりも可愛くって効果的なのよ」
志津子が取り出したのは、鎖の付いた小さな皮の輪だった。
その使い方を想像して、竜彦の全身が、思わずブルブルッと身震いする。
想像通り、それは彼の股間の一物の根元に穿められた。志津子に鎖を引かれて、四つ這いでフロアを引き回される彼の背中は、屈辱でピンクに染まっていた。
「お早うございまーす」
元気の良い声と共に、早出当番の女の子が二人、相次いで入って来た。
「アラーッ、これがママの言っていた奴隷男なの?」
二人の前に、這い出た竜彦を見て、一人が素頓狂な声を上げた。
「そうよ。今、面白い事をさせるわ。……ホラッ、早く奴隷の挨拶をお願いしないか!」
屈辱で目を真っ赤にした竜彦が、漸く意を決して、口を開いた。
「ど、どうか、貴女様方の……ア、アヌスを……な、なめさせて下さい」
「ママ、アヌスって、一体なーに?……アラ、いやだ! お前、私達のお尻の穴が舐めたいの? キャーッ、へんたーい!」
賑やかな嬌声が収まると、二人の態度が手の平を返す様に打って変る。そして、ニヤニヤ笑いながら、彼の目の前に尻を突出した。
「ホラ、お舐め! パンティーはお前の歯でそっと下げるんだよ。……そうそう、ヒヤーッ、気持悪いわー。もう少し舌に力を入れないと、くすぐったいじゃないの!……そう、その位でいいわ。……どおお? お味は、おいしい? フフッ」
二人の若い女に、良い様に嬲られて、竜彦は、ポロポロ涙を流しながら、二人の汚れたアヌスを清めさせられた。
その日の夕刻、八人のホステス役の女の子達が勢揃いした前で、志津子は、全員に申し渡した。
「この男はね、さっき、皆が体験した様に、女の汚い所を、ペロペロ舐める変態豚だよ。これから三ケ月、こゝで奴隷として皆に奉仕することになったの。……ところで、こゝではお客様用のトイレを従業員も使ってるだろう。洋式便器だから、お客様がいやな顔をすることがあるんだよ。……そこで、今日から、このフロアーのトイレは、お客様専用にするからね。みんなは、こいつをロッカールームで、便器として使うんだよ」
女達の中から、どーっとざわめきと、笑い声が噴き出した。
「ホラ、ぼんやりしてないで、お前からも、皆にお願いするんだよ。便器として使って下さいってね! クックックッ」
志津子の嘲笑を含んだ言葉が、竜彦の理性を完全に痺れさせた様だった。
途切れ途切れに、その屈辱の願いを口にする彼の目は、虚ろに焦点が定まらず、脳裏には転落して行く我身のみじめさが、鮮明に焼付けられて行くのだった。
(完)
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1987年2月スピリッツ2月号
(スレイブ通信31号に再掲載)
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2010/12/03