061-#61特訓された主夫
阿部譲二作
マンションに住む共働きの夫婦でやり手の妻の給料が夫を上回るようになる。しかも不況で仕事を首になった男は妻に馬鹿にされ家事をすべて押し付けられる。妻と親しい隣家の奥さんにマッサージを習うように言われた男は、ついでに家事も仕込まれる。女に収入も無いのに態度がでかいと非難され、妻と隣の奥さんの二人に征服され舌奉仕を強制される。 |
山崎謙一の住むマンションは、郊外の新興
地の一角に数年前に出来たばかりの高層ビル
である。四十の坂を越えても未だ子供に恵ま
れず、妻と二人暮しの彼にとっては、4DL
Kの広さは、贅沢過ぎる位だった。
運良く抽選に当ったのを機会に、金融公庫
からの融資と銀行のローンを目一杯借りて、
いわば、可成無理をして購入したのである。
妻の節子は、丁度彼とひと回り違いの三十
歳だが、美術学校でインテリアデザインを専
攻し、卒業後は大手の建設事務所に勤めてい
た。その頃、山崎と見合で結ばれたのだが、
家庭に入ってからも、仕事を続けている。
それも、美術学校の同窓生に誘われて、新
しく出来た女性ばかりのデザイン・コンサル
タント会社に変ってからは、センスの良さを
買われて、水を得た魚の様にメキメキと成績
を上げ、今ではインテリア装飾部の課長をし
ていた。
山崎夫妻がマンションの購入に踏み切った
のは、共稼ぎの二人の収入、それも今や夫の
それを軽く上回った節子の給料を当てにして
のことだったのである。
器量は中の上と言ったところだが、細面て
のどことなく男好きする顔立である。
学生時代に水泳の選手をしていただけあっ
て、スタイルは抜群で、大柄な日本人ばなれ
したグラマラスな肢体は、擦れちがった男が
思わず振り返る程だった。
山崎謙一の方は、これと言って目立たない
どちらかと言うと貧相な男である。背は低い
方ではないが、ハイヒールを穿いた節子と並
ぶと、ちょっとしたノミの夫婦と言ったとこ
ろだった。
三月に入ると漸く寒さも峠を越して、穏か
な日が続く。マンションが立ち並ぶ住宅街の
並木もうっすらと青味がかって、春の到来を
告げていた。
夕方のラッシュアワーが間もなく始まろう
と云う頃、バスを降りて家へ向かう謙一の足
取りは、何時になく重かった。
実は、今日限りで、彼は会社をクビになっ
たのである。勿論、解雇の通告を受けたのは
先月のことだった。
しかし、妻の節子には何となく言いずらく
て、黙ったまゝである。それも、いよいよ今
日は打明けねばと思うと気が滅入った。
長期化した造船不況の煽りで、山崎の勤め
る会社の経営が赤字を続ける様にになったの
は、別に今に始まったことではない。むしろ
今迄持ちこたえて来たのが、不思議な位だっ
たのである。
倒産を防ぐ為、大幅な人員整理の方針が打
ち出され、そうやり手でもない山崎が、勤続
二十年を前にして退職勧告を受けたのは、む
しろ当然の成行だった。
事情が事情だけに、退職金は雀の涙程の額
である。貯金もマンションの購入時に、はた
いてしまって底をついていた。従って、残さ
れた頼みの綱は、妻の節子の稼ぎである。
彼女の勤めるデザイン・コンサルタント会
社は、女性デザイナーの集団と云うユニーク
さが家庭の主婦に受け、幸い地道に発展を続
けていた。会社の創業グループの一人である
節子は、今や押しも押されぬ幹部であり、収
入も安定している。
そのせいか、昔は態度も控え目でおとなし
かった節子が、此頃は家庭の中でも、時折、
夫の謙一に対してぞんざいな口をきく様にな
って来ていた。
これまで何とか、勤めと家事を両立させて
来た彼女が、仕事が忙しくなるにつれて、夫
に家の中の用事を時々頼む様になり、謙一も
いやとは云えなくなっている。それも、彼を
上回る経済力を身につけた節子の実力≠フ
しからしめる所だった。
「何ですって! 貴方、クビになったの?…
…それで、一体、これからの仕事のあてはあ
るの?」
彼が家に着いて暫くして帰宅した節子は、
謙一のくどくどした説明を遮って、ピッチの
高い声で叫んだ。
多少なりとも優しい慰めをと、内心期待し
ていた謙一は、詰問調の節子の言葉にドギマ
ギする。
「そ、それが、サッパリなんだ。……何しろ
この不景気だ。それに、この年じゃ……」
「フーン。私の給料が上って、漸くこれから
余裕が出来ると思ったのにね。……やぱり世
の中、うまく行かないことが多いわね」
「でも仕方がない。次の仕事が見付かるまで
俺も出来るだけ家事を手伝って、君の負担を
減らす様にする積りだ」
昔の節子なら、即座に
(いいわよ。私がお勤めする時に、家事も、
ちゃんとこなして貴方に迷惑かけないって、
約束したんですもの。この際、貴方も休養を
兼ねて、のんびりして頂戴)
といった言葉を返した筈だった。
しかし、このところついてない彼にとって
現実はいつも期待を裏切ってしまう。
「アラいやだ。手伝うだなんて。……勿論、
家事は全部やって貰うわ。……いいこと、貴
方は失業したのよ。お金を稼げないんだった
ら男の資格はないわ。……そうね、これから
は、女の私に養われることになるんだから、
よっぽど私にサービスしなきゃダメよ」
まるで、会社で部下にものを云う様な口調
だった。
えんじ色のマニキュアをした指で卓上の煙
草を取り上げると、口にくわえて顎をしゃく
る。謙一に火を付けろとの仕草だった。
彼は、急に尊大になった彼女の態度に気押
される様に、慌てゝライターを取り上げる。
「いくら会社が苦しいって云ったって、別に
つぶれた訳じゃないんでしょう。真っ先にク
ビになるなんて、よっぽど無能な証拠よ」
やゝ上向きにフーッと煙を吐き出しながら
節子は謙一の顔をジローっとながし見る。
そう言えば、もともと目の表情の豊かな女
だった。機嫌の良い時は、大きな瞳がキラキ
ラ輝き、オヤッと思う程美人に見えることが
ある。
しかし、今はそこには冷い蔑みの色が露骨
に現れていた。
「ちょっと腰を揉んで頂戴」
節子は立上るとテレビをつけ、ソファー
の上に長々と俯けに寝そべった。
謙一にとって、女房の腰を揉まされるのは
初めてである。
クビになった負目が無ければ、すかさず怒
鳴り付けるところだった。
「どうしたの? 早くしてよ」
謙一のためらいを見透した様に、節子が催
促する。
元々、覇気に欠け争いを好まない性格が、
彼をこの小さな屈服に甘んじさせた。
ソファーの横に膝をついて、ムッチリ盛り
上ったヒップに目をやりながら、腰のあたり
に掌を当てる。
「そこ、そこを指で強く押して!……そ、そ
う……でも、下手ねえ。……ホラ、今度は肩
を揉むのよ」
節子の口やかましい指示に振り回されなが
ら、三十分余も全身を揉まされる。
「ねえ、お隣の奥さん、橋本啓子さん知って
るでしょう。あの人、昔マッサージの学校に
行ったことがあるそうよ。貴方、これからは
時間がたっぷりあるんだから、彼女のところ
へ習いに行って頂戴。私から頼んどくわ」
礼も言わず、揉んで貰うのが当然の様な節
子の態度だった。しかも、マッサージの練習
までしろと言うのである。
いさゝかムカッときたものゝ、今更逆らう
気力も無かった。
そしてその晩、店屋物で夕食を済ませたあ
と、節子は、しぶる謙一を伴って隣家を訪れ
た。
戸口に出て来た啓子は、謙一も一応の顔見
知りだが、親しく口をきいたことも無く、会
えば会釈する程度である。
しかし、節子とはほゞ同年配で、ウマが合
うらしく、頻繁に行き来していた。
丸顔で背が低く、しかも太り気味で、義理
にもスマートとは言えない平凡な女である。
中へどうぞとの勧めに、節子はこゝでちょ
っと立話しさせてとことわって、後に従う謙
一を前に押し出した。
「啓子さん、こゝにいるうちの主人ね、都合
で明日から勤めを止めて、家事をやってくれ
ることになったの。それで、お願いなんだけ
ど、買物や家事のこまごましたやり方を色々
教えてやってほしいの。お礼に、毎日お宅の
家の掃除をさせるわ。……それと、出来たら
マッサージも仕込んでほしいんだけど」
「アラッ、御主人が家事をですって? うら
やましいわー。……勿論、色々コーチして差
し上げてよ。マッサージもオーケーよ。……
でもうちの掃除までして頂くなんて、畏れ多
いわ」
「いゝのよ。月謝代りなんだから。その代り
たっぷり特訓してやって。……私の口から言
うのもおかしいけど、この人、こり性で骨惜
しみしないから、掃除もきっと丁寧にすると
思うわ」
何時の間にか、女達の会話の中で、謙一は
隣家の掃除までさせられることになってしま
った。
「あなた。……ネ、いゝわね」
不満げな謙一の表情に気が付いて、節子が
念を押す。
謙一も黙って頷くほかなかった。
こうして、翌日から、謙一に対し、啓子の
手で家事の特別訓練……所謂特訓≠ェ始ま
ったのである。
もともと謙一の目には、男勝りのサッパリ
した女と写っていた啓子だったが、親しく家
事を教わる立場になると、意外に口やかまし
く、そして、ネチネチと意地の悪い所のある
女性だった。
しかも、目下や弱者にいばりたがるところ
がある。謙一の、おとなしい性格を見て取る
と、すぐにズケズケとえらそうな物言いをす
る様になった。
啓子は朝、貿易会社に勤めている夫を送り
出して一服すると、これも節子を送り出して
朝食の跡片付けをしている謙一の所へ上り込
んで、特訓を開始する。
先ず、汚れ物の洗濯にかゝった謙一に、早
速彼女の文句がついた。
「ダメダメ、そんなに何もかもいっしょくた
に洗濯機に入れるんじゃないの。色物やウー
ル地のものは、別に洗うのよ。……それから
下穿きは、お湯に浸けておいて手揉みで汚れ
を落してから洗濯機に入れるの」
「ウム、判ったよ」
「ウムじゃないでしょ。ハイとおっしゃい!
私は、貴方の家事の先生なのよ」
「ハイハイ、判りました」
これから、全てこの調子かと思うと、謙一
はいさゝかうんざりした。
「アラ、それ、奥さんのパンティーじゃない
の。どうして元へ戻すの?」
三、四枚のパンティーの塊りを、洗濯袋へ
戻そうとした謙一を、啓子がすかさず見咎め
た。
「これは、節子が今晩風呂に入った時に洗わ
せようと思ったんだけど……」
「マア、それどう云うこと? 貴方、奥さん
のパンティーを洗うのは嫌なの?」
「僕の郷里ではね、女は自分の下穿きは風呂
に入った時に洗うんだ。男が洗うなんて聞い
たことないよ」
いささか憤然として抗議する謙一だった。
「貴方は、もうこの家の主人じゃないのよ。
失業して、奥さんに養ってもらう身分に成り
下ったのよ。主夫として女主人のパンティー
を洗うのは当然のことだわ。……サ、洗い方
を教えて上げるから、出して御覧なさい」
きめつける様な啓子の物言いに、謙一は、
タジタジとなった。
(今晩、節子に言って話をつけてもらうこと
にしよう)
心の中で呟きながら、彼はその数枚の汚れ
物を手に取って拡げてみた。
裏返すと、股間の当る所が一様に黄色く汚
れている。茶褐色の滓が、ベッタリ付着して
いるものさえあった。
「ウフッ、節子さんって案外、澱物が多いの
ね。……そこをお湯に浸けて、両手で揉むの
よ。そうそう、滓を取ってから石鹸をつけて
……ダメダメ、そんなに強く擦っちゃ布地が
痛むわ。……そう、その調子よ」
妻のパンティーを洗う謙一のしぶい顔を見
て、啓子がいたずらっぽい表情になった。
「貴方は女のパンティーを洗っている姿が、
とってもお似合よ。……どおお? 私のパン
ティーも洗って見ない? ウフフ、今とって
来るわね」
彼女は身を翻えすと、戸をバタンといわせ
て出ていった。
流石に、口惜しさがグッと胸に込み上げて
くる。妻のばかりか、よその女のパンティー
まで洗わされるのかと思うと、情けなさで目
蓋が熱くなった。
「ホラ、暫く洗わないで溜めといたから、こ
んなにあるわ。ウフッ、とても臭いわよ」
戻って来た啓子の手から、ポンとひと塊り
の汚れ物が謙一の目の前に投げられた。
見ると、色とりどりの啓子のパンティーに
混って、汚れた男物のブリーフが何枚か入っ
ている。
プンと異臭が鼻を突いた。
「それ、主人のよ。クックックッ……それも
練習に洗いなさい」
啓子はニヤニヤ笑いながら、謙一の反応を
窺っている。
無念さで目が眩む思いだった。
しかし、優柔不断で事勿れ主義の謙一の性
格が、今度も啓子との衝突を避けさせた。
そんな彼を、啓子は組みし易しととった。
そして、頭から彼を馬鹿にし、次々と用事を
言い付ける。
ひと通り片付くと、今度は啓子の家に連れ
て行かれて、約束だからと、便所の中まで徹
底的に掃除させられた。
その後、畳に腹這いに寝そべった啓子は、
マッサージのコーチに入る。
「肩こりを揉みほぐすにはね、ただ力を入れ
れば良いってわけじゃないのよ。筋肉や筋の
しこりを捜し当てて、そこを、柔かくつまむ
様にして、根気良くマッサージするの。……
それから、背中から腰にかけては、指圧が良
いわ。背骨の両側にツボがあるから、そこを
両手の親指で、十分体重を掛けて強く押しな
さい」
脂肪のタップリ付いた啓子の身体は、節子
に比べてブヨブヨと柔かい。
あと、足のふくらはぎから、足頚の付根の
ツボと、順を追って教えて行く。
言われるまゝに懸命に手を動かすが、次第
に手首がだるくなって来た。
「最後はヒップよ。女のお尻は性感帯に繋が
っているから、慎重に揉むこと。人によって
は掌を当てるといやがるから、肘かこぶしを
押し付けてグリグリと回す様にするのよ。…
…そう、もう少し強くてもいゝわ」
啓子のヒップは、こんもり盛り上っている
だけでなく、幅が広い。そこに肘を当てゝ揺
すると、ヒップの肉がプリプリと震えた。
いささか妙な気分になり掛けるが、次々と
啓子に高飛車に命令されると、女の尻まで揉
まされている屈辱感の方が先に立って、すっ
かり覚めてしまう。
夕刻になると、啓子の後についておかずや
日用品の買物に行く。
野菜はこの店が新鮮で、魚はあの店が安い
など、こと細かく教えてくれるのは良いが、
買ったものは全部持たされ、さながら奥様に
従う、おとこ女中といった格好だった。
帰ると夕食の支度である。エプロン姿で慣
れない包丁を握る謙一に、次々と啓子の指示
が飛んだ。
その晩帰宅した節子に、朝からの顛末を報
告する謙一の口調には、抑え切れぬ無念さが
現われていた。
「ヘーッ、啓子さんも中々やるわね。あなた
に、私や自分のパンティーまで洗わしたとは
ね。……フフフ、あなたの口惜しそうな顔が
目に浮ぶわ。……でもね、彼女も一理あるわ
よ。家庭の中で女の方が主導権を握っていれ
ば、男が女の下着を洗わされたって仕方がな
いでしょう。……まあ、我慢なさい。その内
に何とも思わなくなるから」
数日が同じ様な調子で過ぎた後、謙一は啓
子に伴われて、同じフロアーの主婦連中の集
まりに参加した。
週一度、回り持ちで誰かの家に集まって、
昼食をとりながら、おしゃべりをするのであ
る。人数は、全部集まれば二十名を越えると
のことだったが、普段はその半分程度。謙一
は、勿論女の中の黒一点だった。
リーダー格の啓子に紹介されて、謙一は、
しぶしぶ挨拶に立つ。所が、啓子が自分のも
とで家事やマッサージを修行中と述べたもの
だから、好奇心をそそられた女達は、次々と
彼にぶしつけな質問を浴びせた。
中には、ニヤニヤ笑いながら、返事に困る
様なきわどいことを聞く女もいる。
どうやら、女に養われて家事をさせられて
いる男と云うイメージで、すっかりあなどら
れた様だった。
「毎晩、奥さんの腰を揉まされてるんですっ
て? 本当なの?」
「ネエ、奥さんとのセックスはどうなってる
の? それも、奥さんに命令されてするの?
どちらが上になるの?」
赤くなってモジモジする彼の回りで、一斉
に女達の笑いが弾けた。
週末になると、節子は会社の接待ゴルフの
ホステス役で、出掛けることが多い。
啓子の方も主人が在宅している時は、特訓
もお休みになり、謙一も何とか息抜きが出来
た。
しかし、節子が家に居ると、きまって啓子
がお喋りに来る。そして、謙一が二人の話の
肴にされることが多かった。
特訓が始まって、約一ケ月程経った週末の
ことである。主人が出張で不在とかで、昼か
ら啓子が上り込んでいた。
この頃になると、啓子の口やかましい指導
で、謙一の主夫としての腕も上り、マッサー
ジも節子に褒められる程上達した。
しかし啓子は、依然として特訓に名を借り
て、彼を雑用にこき使い続けている。
「あなた、コーヒーを入れて来て頂戴」
バスルームの掃除を終えて、ホッとひと息
いれていた謙一に、節子の声が掛かった。
直ぐに、盆に三人分のコーヒーを用意して
持参する。
余分の家具を置いてスペースを殺すのを好
まない節子の方針で、一面に絨緞を敷き詰め
たリビングルームには、窓際にソファーとサ
イドテーブルがあるだけで、広々と見える。
「あなた、啓子さんのお蔭で、すっかり家事
に慣れた様ね。……でも、啓子さんに言わせ
ると、ひとつ大きな問題があるんですって」
二人にコーヒーを配って、自分もカップに
口をつけたばかりの謙一は、節子の言葉に、
怪訝そうな表情を浮かべた。
「あとは、啓子さんから説明して貰うわ」
節子は、ソファーの背にゆっくりと身体を
沈めてコーヒーを啜る。
代って、啓子が身を乗り出す様にして口を
切った。
「それはね。謙一さん、貴方の態度なの。…
…私の言うことにも、時々返事をしないし、
万事しぶしぶやってるわ。……それに、自分
が女主人に仕える主夫だと云う自覚がまるで
無いの。だから、今でも節子さんのお許しも
ないのに、勝手に自分のコーヒーまで持って
来て飲んでるでしょう」
謙一は、いささかムッとした。
啓子から、そんなことを、とやかく言われ
る筋合は無い。その思いが、口には出さない
が、顔にハッキリと現われていた。
「ホラ、又、ムッツリしてしまうでしょう」
「それじゃあ啓子さんは、どうしたら良いと
思うの?」
節子の質問を待ち兼ねていたかの様に、啓
子の語調が弾んだ。
「まず、主夫の身分を自覚するために、節子
さんに対する言葉遣いを改めるのよ。ちゃん
と敬語を使って、奥様≠チて呼ぶの。……
節子さんの方は、この人をお前≠ニ呼んで
名前は謙一≠チて呼び捨てにすれば良いの
よ。……丁度、世間の男が自分の養っている
女に言う様にね」
「アラアラ、この人を、お前と呼ぶのね。面
白そうだわ」
謙一は、屈辱で顔がカーッと火照った。思
わず啓子を睨み付ける。
「ホラ、節子さん、この人の顔を見て御覧な
さい。俺はイヤだ≠チて書いてあるわよ。
やはり、心から敬語を使わせるためには、節
子さんが、この人を完全にお尻に敷く必要が
あるわ」
「お尻に敷くって、具体的には一体どうした
らいゝの?」
「征服するのよ。そして、本当にこの人の身
体を節子さんのお尻に敷くの。そうね、顔の
上に座るのが効果的だわ。……この人、女の
パンティーを洗うのにも、あんなに嫌がった
んだから、自分の顔を女のお尻に敷かれたら
一体どんな顔するかしら? ウフフフ」
長く尾を曳く様な啓子の嘲笑に、謙一は憤
激の余り全身が震え、手のコーヒー茶碗が、
カチャカチャと皿の上で音を立てる。
席を蹴って立とうとした彼を、節子がやや
厳しい表情で呼び止めた。
「待って。こゝに居るのよ。……啓子さんの
言うのも、もっともだわ。いくら口先で敬語
を使ったって、心から服従するのじゃなけれ
ば意味無いわ。……ネエ、あなた……じゃな
くって、お前、私のお尻に敷かれてみて、本
当にその気になるかどうか、実験してみたら
どおお?」
「黙っていれば、節子までが……だ、だれが
そんなこと。……やれるもんなら、やって見
たらどうだ。逆に、節子、お前の顔を尻に敷
いてやるぞ!」
吐き捨てる様な謙一の言葉に、啓子が傍か
ら、こゝぞとけしかける。
「節子さん、やりなさいよ! 私も手伝うわ
……何よ、この意気地無し! お前なんか、
毎日、女のお尻の下で、クサーい匂いを嗅が
されているのが、お似合だよ!」
謙一は、カーッと我を忘れて啓子に掴み掛
かった。
その剣幕に、啓子は飛び下って辛うじて逃
げる。その間に節子が割って入り、謙一の身
体をガッチリと受け止めた。
暫く揉み合う内に、二人は組み合ったまゝ
床の絨緞の上に転がった。
女とはいえ、水泳で鍛えた節子のしなやか
な筋肉は意外に力強く、ろくに運動もしたこ
との無い非力な謙一を次第に圧倒する。そし
て、遂に謙一は仰向けに寝たまゝ節子に組み
敷かれてしまった。
男の胸に跨がって、両手を抑え込んだ節子
は、歯噛みして口惜しがる謙一の身体の上で
少し宛、腰を前に移動して行った。
だだっ子の様に、足をバタつかせて身をも
がく謙一の両手を、自分の足の膝で扼した節
子は、男の顎を跨で挟む。
「ウフフッ、いゝこと? いくわよ!」
無念さを剥き出しにした男の顔をジーッと
上から見下ろしながら、次の瞬間には腰を弾
ませて、謙一の顔を完全に尻の下に敷いた。
顔面に被さる女の尻の中心が、パンティー
越しに彼の鼻と口をピッタリと覆う。
息苦しさに耐えかねて、懸命に呼吸に努め
る鼻孔を、ムーッとする臭気が襲った。
「ホラ、これでどお? ソーラ!」
節子は謙一の顔の上で、時折、掛声をかけ
て腰を前後に揺する。
「ウ、ウッ……ウッウー」
その度に、くぐもった男の呻き声が、節子
の尻の下から、きれぎれに洩れた。
その内、謙一の抵抗が次第に弱まり、彼女
の股間が男の息遣いで暖まると、燻蒸された
女の性臭が尻臭にミックスする。
それをっぷりと嗅がされる謙一の頭には、
恥ずかしさと情けなさが交錯したが、それも
やがて諦めと共に薄れていった。
尻の下の謙一の屈服を敏感に察して、節子
は啓子の方を振り向いてニヤリとする。
待ち受けていた様に、啓子が節子の耳に口
を寄せて何事か囁いた。
「クックックッそこまでやるの? でも面白
そうだわ」
節子は含み笑いをしながら、スカートをた
くし上げ、股間から覗く謙一の目を見下ろし
た。
「啓子さんがね。お前に、さっき反抗した罰
を与えたらって言うのよ。ウフッ、まあ見て
らっしゃい」
何をされるのか見当もつかず、怪訝な表情
の謙一の顔の上で、節子は軽く尻を浮かして
素早くパンティーを取る。剥き出しになった
翳りのある股間が、謙一の顔に吸い付いた。
節子は尻を少し前へずらして、アヌスで男
の唇を捉える。
「ホレ、唇を開いて! 舌を出して舐めなさ
い。私の身体の一番きたない所を、たっぷり
と味わうのよ!」
それは将に汚辱の際みであった。よその女
の前で、顔を妻の尻に敷かれ、その汚れたア
ヌスを舐めさせられるのである。その、おぞ
ましさにためらう謙一の唇を割って、節子の
括約筋の蕾が舌に触れる。
そして、そこに付着していたザラザラした
滓が唾液で溶けて、苦みが口中に拡がった。
「ホラ、どうしたの? 早く舐めないか!…
…ホラ、ホラ……どうだ……おいしいか?」
節子の尻が謙一の顔の上で弾む。その度に
顎が押し開かれ、ひしゃげた唇の中で逃げ場
を失った舌先が蕾に触れる。気が付いて見る
と、何時の間にか謙一は、積極的に節子のア
ヌスを舐め始めていた。
「フフフ、舐めてるわ。これで、こいつも二
度と私に対等の口をきけなくなったわけね」
と満足げな節子。啓子が合槌を打つ。
「そうよ。きっと恥ずかしくて節子さんの顔
がまともに見られない筈よ。でも、その味を
忘れない様に、これから毎朝毎晩繰り返して
覚え込ませるのよ。所で、ひとつお願い」
「何かしら?」
「私もこの男を征服してみたいわ。だって、
さっきは私めがけて飛び掛かって来たのよ。
思い知らせてやりたいの」
「いゝわ。抑えていて上げるから、思う存分
こらしめて御覧なさい」
節子が胸の上に後退し、代って啓子が謙一
の顔を跨いで、ゆっくりとしゃがんだ。
ピンクのパンティーに包まれた、いやらし
い程大きな女の尻が、謙一の顔面のすぐ上に
迫って静止する。
そして股の間から、啓子の顔が覗いた。
「ホラ、こっちを見て御覧。フフフ情けない
顔ね。……これから、私のお尻を味わって、
さっきの態度を反省するのよ!」
パンティーが押し下げられて茶褐色の蕾が
覗く。謙一は思わず懸命に顔を背けた。
妻の節子ならまだしも、他人の女、それも
節子をそそのかした、憎い張本人の啓子に辱
められるのである。
悔しさで全身の血が逆流する思いだった。
「ウフッ、未だ逃げられると思ってるの?」
啓子の手が謙一の髪を掴み、グイと顔を仰
向かせる。同時にアヌスが落下して彼の口を
塞いだ。啓子が尻を揺すると、謙一の意志に
関係無く唇が蹂躙される。
と、急に彼の舌の上で蕾が盛り上がり、は
じけた。プスッと音を立ててガスが彼の口中
に放出されたのである。同時に腸壁に付着し
ていた糞滓が口腔に飛び散り、澁味のある苦
い汚辱の味が拡がった。
「クックックッ、男のくせに女のオナラまで
食べさせられて……口惜しいか? お味はど
うだい? ホラ、もういっぱつ!」
今度は大量のガスが注入され、頬がプクリ
と膨らむ。直ぐにそれは鼻に抜け、その臭気
で謙一は、一瞬、気が遠くなった。
それは、将に謙一の人格を完全に粉砕し、
女への屈従を脳裏に叩き込んだのである。
「節子さん。この男に舌で奉仕させて、セッ
クスの頂点を味わってみたくない?」
「舌でですって?」
「そうよ。女にフェラチオを要求する男だっ
ているんだから、女だって男に舌奉仕ぐらい
させたっていゝわ」
「判った。男の舌でオナニーするのね。でも
うまく行くかしら?」
「それは訓練次第よ。良かったら、私が特訓
して、理想的な舌奴隷に仕込んで上げるわ」
「じゃあ、お願い! 朝晩、私のお尻を舐め
る男と、今更正常なセックスは出来ないもん
ね。睡眠薬代りに毎晩舌で奉仕させるわ」
「そうよ、それがこの男にはお似合よ。イン
サートは若い男とすればいゝわ。……そう、
その浮気の後を舐めさせてやれば?」
「クックックッそうね。こいつ、どんな顔す
るかしら? 楽しみだわ」
啓子のアヌスを舐めながら、謙一の耳に入
る女達の会話。それは今後の汚辱に満ちた新
たな特訓の計画だった。そして、謙一は今更
ながら、深い絶望の淵に沈むのだった。
完
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1988年4月スレイブ通信7号
----------------------------------------
2010/10/29