#41転落への罠(舌奉仕奴隷への罠)-前編
                阿部譲二

4年前KK商事の営業に入社した男が接待の目的でSMクラブへ下見に行く。そこで同期の友人の罠に掛かりプロのS女性に自由を奪われ股間の一物を踏み潰され不能になる。彼の恋人は財産の提供と舌奉仕を条件に結婚してくれるが、その内、彼を罠に掛けた友人と浮気するようになり、彼は二人のセックスに舌で奉仕させられ果ては便器奴隷に落とされる。

 KK商事の大会議室では、新年早々、朝から、近く導
入される新しい職制の説明会が行われている。
 従来の課係制を廃してプロジェクト別の小グループ制
にするという画期的な改革であるだけに、出席者も喰い
入る様に、説明者の差す組織図に目をこらしていた。
「ですから、各プロジェクト・グループの人数は平均五
名程度とし、そのリーダーを主任と呼びます。……現在
の係長に相当しますが、小グループ制をとるため、その
数は約四倍に増え、皆さんの昇進の機会は飛躍的に高く
なるのです」
 説明のトーンがひときわ強まり、聴衆の間に低いさざ
めきが熱っぽく広がる。
 サラリーマンにとって最大の関心事である昇進の機会
が広がることは、職場の活性化に繋がり、即、売り上げ
の増大になる。……それが、会社側の狙いであることは
明らかだった。
 そしてその晩、近くの中華料理店に集まったKK商事
の中堅社員の一団があった。
 四年前、KK商事の業績が最高潮だった時に入社した
大卒の同期会で、男女それぞれ四人宛、計八名のいわば
仲良しグループだった。
 営業品目が雑貨主体であることもあって、KK商事の
社員には、人件費の安い高卒の女子が圧倒的に多い。
 八名もの大卒が一時に入社したのは、後にも先にも、
この年度だけだった。
 皆からは、いずれ将来の幹部と目されていたし、それ
だけに社内の風当りも強い。
 自然、この八名の間には一種の連帯感が生れ、オフの
時等には、同期会と称して事あるごとに集まり、ダベっ
たり会食したりする様になっていた。
 当然の成行ではあったが、やがてこの中で、グループ
公認のひと組のカップルが誕生する。
 総務部のマドンナと目されている芹沢葉子と、営業部
のホープとして最近社内で抜群の営業成績を挙げている
山田靖夫の二人だった。
 丸顔で派手な顔立の芹沢葉子は、同じグループの神田
真理子と同窓で、共にK女子大の出身である。
 葉子に劣らぬ美人ではあるが、大柄でどこか男っぽい
神田真理子と対照的に、芹沢葉子は、そのグラマラスな
姿態と、どこか色っぽい身のこなしで、常に成熟した女
の臭いをあたりに振り撒いていた。
 山田靖夫は、少年時代に両親を亡くし、アルバイトを
しながら一流大学を上位の成績で卒業しただけあって、
そのシャープな頭のきれは上司からも注目されている。
 同期のグループ仲間で仕事のライバルと目される玉井
三郎とは同じ営業部だが、成績の面では、富裕な家庭に
育ったオットリ型の玉井を断然リードしていた。
「…………じゃあ、こゝで、我々全員の主任昇格が実現
することを願って乾杯!」
 玉井三郎の音頭で、八人の男女の手にした水割のグラ
スが、カチカチと音を立てゝ合わされる。
 その中で、山田靖夫の視線は、神田真理子の隣りにい
る芹沢葉子の、それも幾分上気して輝く様に美しい面て
に、熱っぽく注がれていた。
 それに気付いた玉井が、ニヤリと笑って付け加える。
「それからこの機会に、こゝにいる山田靖夫君が、かね
てから熱っーい想いを寄せていた芹沢葉子さんと、この
程正式に婚約した事実を報告しまぁーす」
 幾分揶揄する様な玉井の言い回しに、一同がワーッと
湧く。
「お目出とう、葉子。……こいつ、私に黙っていたなん
て水臭いわよ。……それで、式は一体何時なのよ」
 神田真理子が、ポンと隣りの芹沢葉子の肩を叩きなが
ら声を掛けた。
「御免なさい。式は再来月、今年の三月なの。……でも
あまり早くから言うと、貴女に靖夫さんを横取りされそ
うだったもん」
「そう、学生時代から、貴女のものは私のもの……それ
が私達のルールだったわね。……でも、式を挙げるまで
は、何が起るか判らないわよ。御用心、御用心!」
 おどけた真理子の口調で、また、ひとしきり座に笑い
が弾ける。
「それと、もうひとつ。……山田君は、先週、莫大な遺
産を相続して、今や億万長者でーす」
 玉井三郎の、やゝ羨望の調子を込めたアナウンスに、
今度は山田靖夫が慌てゝ抗議した。
「そ、それは誤解だ! 郷里の叔父が突然亡くなったの
で、その不動産を相続したのは事実だけど、それは全部
処分して都内のマンションを買うことにしたんだ。……
税金を引いたら、手元に残る額は僅かなもんさ。億万長
者なんて、とんでもない!」
「でも、都内のマンションなんて、素敵じゃない!……
そうだわ。葉子、靖夫さんに飽きたら、何時でも私が引
き受けるわよ。……勿論マンションごとね!」
 神田真理子が真顔で茶化すと、続いて玉井三郎も悪の
りして混ぜっかえす。
「そうしたら、芹沢葉子さんは僕が引受ける。……実は
何を隠そう、葉子さんは僕の初恋の人なんだ!」
「オイオイ、玉井、お前は学生時代に何人も恋人がいた
そうじゃないか。……いまさら初恋はおかしいぜ」
「いや、おかしくない。……つまり、卒業以来の初恋っ
てことさ」
 一同の間に間断無く笑いが渦巻き、和やかな雰囲気の
内に宴が終った。
 それから数日後のことである。
 山田靖夫は、その次の週に営業部の大事な客先の接待
を担当することになり、下見の為に盛場のナイトクラブ
を訪れていた。
 そこは、夜の巷に強い玉井三郎に紹介された所で、店
のママは、仕事だからと辞退する靖夫に、この店オリジ
ナルのスペッシャルカクテルと称する飲物を運ばせた。
 大振りのリキュールグラスに満たされた緑色のカクテ
ルは、甘い口当りで彼を陶然とさせる。
「………で、お客様は、お食事の後こゝへお寄りになる
として、その後、よろしければ一寸面白いショーがあり
ますのよ」
 ママは、紫の口紅を薄く引いた口元に、意味ありげな
笑みを浮べて、誘う様に続けた。
「ショーって、ストリップか何かの?」
「いゝえ。一寸、刺激が強いけど、一種のSMショーな
んですの。……場所は、このビルの上の方にあるSMク
ラブですけど、宜しかったら、今から一寸覗いて御覧に
なりません?」
「………………」
「最近のお客様は、ありきたりのおもてなしでは、仲々
満足なさらないと聞きますし、SMと言っても、ショー
自体、今やテレビにも登場する時代ですから、きっと喜
ばれると思いますわ」
 山田靖夫はママの説明を聞きながら、来週の客は接待
慣れしてるから、出来たら何か趣向を考えといてくれ、
と課長に言われていたことを思い出していた。
「このビルの中なら、一寸寄ってみようか」
「じゃあ、電話をしておきますから。……あら、お酔い
になったのかしら。どうか、お気を付けて……」
 立ち上った拍子に、一寸足元がよろけた靖夫をママが
優しく支える。爛熟した女の襟元から漂うガーベラの花
の香水が、心地良く靖夫の鼻をくすぐった。
 教えられたSMクラブはそのビルの中程の階にある。
 ドアの外には、会員制クラブと書かれたラベルが貼ら
れているだけで、何の変哲も無かった。
 しかし、チャイムを鳴らして中へ招じ入れられてみる
と、小じんまりしたレセプションカウンターの奥に、豪
華なシャンデリアの光に溢れた赤い絨緞敷きの広い空間
が彼の目を奪う。
 ショーの内容を聞きたいが、と用件を伝えると、予め
電話で通じてあったと見えて、その赤い絨緞敷きの部屋
に通された。
 すぐにマネージャーから御説明しますと、受付の女の
子に言われ、部屋の隅に置かれたソファーに腰を掛けた
が、誰も来ない。
 その内、耐え難い眠気に襲われて、ソファーの上に横
になったところで、彼の記憶は途切れてしまった。
 暫くして意識を取り戻した時、彼は自分が異常な状態
にあることに気付いて、文字通り動転した。
 部屋の中央で膝を絨緞についたまゝの姿勢で、何と、
両腕を高々とロープで天井に吊り上げられている。
 しかも、衣服はすべて脱がされ、全裸の状態だった。
 慌てゝ立ち上ろうとしたが、両足が縛られている。
 声を出して助けを呼ぼうとして、初めて、彼は自分の
口の上にガムテープが貼られているのに気付いた。
「ウ、ウーッ……ム、ムウー……」
 と、弱々しく呻き声が咽喉から鼻を通して洩れるだけ
で、一向に言葉にならないのである。
 身体を懸命に揺すってみたが、両手首を縛ったロープ
は天井の滑車を通して横の柱に固定されていて、ビクと
もしない。
「フフフ、気が付いたのね。………」
 横から女の声がした。
 首をひねって見ると、金ラメの入った黒のレオタード
を穿いた見知らぬ若い女である。
 長い黒い髪が、白い肌をむきだしにした肩まで届き、
全体に整った顔立ちだが、太目の眉と厚い肉感的な唇、
そして抜群のプロポーションが、どこか野生の活力を秘
めていて、しなやかな黒豹を思わせる。
 驚いたことに、右手には、先が幾つかの房に分かれた
黒い革鞭を持っていた。
「お望み通り、いたぶってあげる。……覚悟は良いわね
……ソラ、いくわよ」
 女は、おもむろに彼の背後に回ると、無造作に彼の背
に鞭を炸裂させた。
「ウワーッ……」
 と靖夫の上げた悲鳴も、ガムテープの下ではくぐもっ
たうなり声にしかならない。
(お、俺はSMの客じゃない……こ、これは、何かの間
違いだ!)
 靖夫の心の中の絶叫も、外へ伝えるすべがなかった。
 一方、女の鞭は次々と彼の肩、背、そして尻を目がけ
て振り降ろされる。
 その度に、彼は衝撃に身をもだえ、吊るされたまゝ、
まるで海老の様に跳ね回った。
 元来、SMクラブで使用する所謂房鞭は、一本鞭と異
り皮膚をまともに裂くことは少いが、力の入れ様によっ
ては、内出血を起し皮膚全体が腫れ上ってしまう。
 勿論、鞭の痛みを味わったことの無い者にとっては、
強烈な刺激であることに変りはなかった。
 彼の背は、みるみる真赤に色付き、あちこちにうっす
らと血が滲む。
 ひとしきり鞭の嵐を浴びせた後、女は彼の正面に回り
靖夫の顔を覗き込んだ。
「どうだい、堪能したかい?……ウフッ、もっと苦しめ
てやろうか?」
 女が柱のロープを解くと、滑車に吊り上げられていた
彼の身体が解放され、はずみで床に転がる。
 彼女は、靖夫に抵抗の機会を与えず、手早くその両手
足を床に埋め込んだ金輪に縛り付け、彼の身体を仰向け
のまゝ大の字に固定した。
 ニヤニヤ笑いながら、女は、黒いハイヒールの先で靖
夫の股間をまさぐる。
「ホラ、こんなに縮こまってるよ。……本当に役立たず
だね。クックックッ」
 屈辱と恐怖で大きく見開いた男の目を、威圧する様に
ジーッと見降ろしながら、女は靖夫の男根を靴底で転が
していた。
 そして……頃合を計って、女は突然、全体重を靴に掛
けて、男のシンボルを一気に踏みしだいた。
「ギャーッ………」
 ガムテープの下で絶叫した靖夫は、激痛の余り、その
まゝ気を失ってしまったのである。
 彼が意識を取り戻したのは、可成り時間が経った後、
それも、病院のベッドの上でだった。
 股間には鈍い痛みが残ってをり、身体を動かすと刺す
様な激痛が下腹部に走る。
 たまたまその時、見舞に来た玉井の口から、靖夫は大
体の状況を聞かされた。
「いや、驚いたぜ。……あのナイトクラブのママからの
電話で、あの晩、お前が救急車で病院へかつぎ込まれた
と聞いた時は、てっきり交通事故だと思ったさ。……そ
れが、SMクラブでプレイ中の事故だと聞いて二度びっ
くりよ。……お前が、そんな趣味を持っているなんて思
いも付かなかったからな」
 玉井は、どうやら、靖夫が自分のSM趣味から事故を
起したと思い込んでいる模様である。
 そして、むきになって否定する靖夫の弁解も、まとも
に取りあおうとはしなかった。
 それから三週間後、漸く退院したものゝ、不幸なこと
に靖夫の男根は二度と元の形状には戻らなかった。
 即ち、ペニスの海綿体の損傷が激しく、手術でその可
成りの部分を切除した結果、陰茎の勃起が不可能になっ
てしまったのである。
 と言うことは、男としてのセックスが不能になったと
言うことである。
 芹沢葉子との結婚を目前に控えて、それは、山田靖夫
にとって、痛恨の出来事だった。
 しかし、止むなく、婚約の解消をオズオズと申し出た
靖夫に、葉子は意外な提案をしたのである。
「靖夫さんさえ良ければ、私は結婚してあげてもいゝわ
よ。……ただし、条件があるの」
「…………………?」
 思わず呆気にとられる靖夫に向かって、葉子は、余裕
たっぷりに微笑んだ。
「先ず、貴方は普通のセックスが出来なくなったんだか
ら、代りに舌を使って私を満足させて頂戴。……それも
私が要求した時には、決して断らないこと」
 葉子はジーッと靖夫の反応を窺いながら話を続ける。
「それから、貴方の相続した財産で買ったマンションを
私の名義にすること。……そして、最後に、私が浮気し
ても、一切文句を言わないこと」
 一語一語、念を押す様に、葉子はゆっくりと喋る。
 耳を澄ます靖夫は、やや上気した面持だった。
「そ、その……最後の条件だけど、き、きみに浮気され
ては僕として……」
「ばかね。……最初から浮気をするなんて、言ってない
わ。……貴方が私を誠心誠意満足させてくれれば、浮気
なんか考える筈がないでしょう。……でも、不能の夫を
持つ妻として、その位の条件は当然と思わない?」
「………………」
「靖夫さん、貴方、私が好きなんでしょう?……私は、
貴方が可哀そうだから、お情けで結婚して上げるのよ。
……この機会を逃したら、不能の貴方は一生結婚出来ず
に過すことになるわ」
 次第に高圧的な口調になる葉子の前で、靖夫は頭を垂
れた。ひとつには、如何に屈辱的な条件であろうとも、
やはり、葉子への想いが断ち切れなかったのである。
「お、お願いします。……条件は必ず守りますから、ど
うか、結婚して下さい」
 自分の前に深々と頭を下げる男を満足げに見守りなが
ら、葉子はニンマリと笑みを浮べる。
「じゃあ、いゝわ。お情けを掛けて上げる。……でも、
マンションの名義は、必ず式までに切替えるのよ」
 こうして、一組の奇妙な夫婦が誕生したのである。
 結婚式に続く盛大な披露宴に出席した客の大部分は、
まさか新郎が不能の身とは露知らず、見た目は幸せ一杯
のカップルに、惜しみなく祝福の言葉を贈った。
 しかし、新婚初夜の晩、新婦の股間に顔を挟まれて、
延々と舌奉仕を強制される哀れな男の姿があった。
「あ、そこ……そこを、もっと強く!……そう、その調
子よ。……そのまゝ何時までも続けなさい。……フフフ
でも、まるで犬みたいね」
 葉子の股間は、貪欲に靖夫の舌をむさぼる。
「今度は、舌の先を尖らせて、割れ目にぐっと差し込ん
で御覧。……そう、もっと舌を延ばして!……そう、そ
こで舌先を動かすのよ」
 舌の付根も裂けよとばかり、懸命に延ばした舌先が、
やっとのことでバギナの奥の襞に達し、溢れる蜜が味覚
を刺激する。
 その内、漸く頂点に達した葉子が、彼の頭を挟んだ太
股を痙攣させて果てた。
「まだよ。……余韻が続いている間、暫くバックの方を
お願い。……そう、そこ。……もう一度、舌先を尖らし
てそこに差し込むのよ」
 ねばっこい蜜液の溢れたクレバスに顔を押し付けなが
ら、女のアヌスの中にまで舌を延ばすみじめさは、又、
ひとしおだった。
 苦い味がピリッと舌先を刺し、途端にぐっと不潔感が
込み上げる。
「今度は姿勢を変えて、第二ラウンドよ」
 葉子は身体をひねって靖夫の顔に覆い被さると、上半
身を起して男の顔を尻に敷く。
「ソラ、舌を一杯に出して!」
 女の腰が、ゆっくりと彼の顔の上でグラインドし、大
きめのラビアに包まれたクレバスの柔肉が、彼の鼻を、
舌を、そして唇を、ピチャッチャッと淫靡な音を立てゝ
繰り返し繰り返し蹂躙する。
「中々良いわ。……お前の顔、私のオナニーの道具とし
ては合格よ」
 女の体重を顔に受け、洗濯板よろしく、股間を擦り付
けられる屈辱に、彼の男としてのプライドが跡形も無く
崩れ去って行く。
 執拗に快楽を追求する葉子は、靖夫の顔面の上で尻を
痙攣させて達した後、呼吸を奪われてもだえる男の口を
再び股に深々と挟み直すと、ベッドに身を横たえて第三
ラウンドに入った。
 こうして、疲れ果てた靖夫は、漸く満足した葉子の股
間に顔を当てたまゝ、深い眠りに落ちる。
 翌日も、そしてその翌日も、実に同じことの繰り返し
であった。
 そうして漸く、彼も、彼女が思いも掛けなかった淫蕩
な性癖を持っていることを覚るに至ったのである。
 それは、医学用語で言うニンフォミァ(女子色情狂)
に分類される病的な性向であり、往々にしてサディズム
(加虐色情狂)やマゾヒズム(被虐色情狂)に進行転化
する素質でもあった。
 葉子の告白では、高校時代より毎日、ベッドの中で朝
晩オナニーを欠かしたことが無く、昼間でも突如として
衝動に駈られて自慰に耽ることが多かった由である。
 新婚旅行中彼女は、日中でも、催す度に靖夫に舌奉仕
を要求した。それも、突然彼を押し倒しては顔面に跨が
るのである。
 勿論、人目につく場所では差し控えたが、ホテルの部
屋の中や人気の無い野外では見境なかった。
 それに、葉子は、約束を盾にとって靖夫の抵抗を許さ
ない。女の意志のまゝに、顔を尻に敷かれる無念さは、
男として耐え難いものだった。
 新婚旅行を終えて、新居のマンションに落着いても、
状況は同じだった。と言うより、むしろ悪化したと言う
べきであろう。
 最初の内は、少くとも股間を清めた上で、彼の舌奉仕
を受けていたが、次第に汚れたまゝの状態で、無遠慮に
彼の顔面に覆い被さる様になった。
 それに、時が立つにつれ、無抵抗に自分の尻に敷かれ
続ける靖夫に対し、葉子の態度が次第に横柄に成り、蔑
みを露わにする様になってくる。
 それと並行して、靖夫の態度にも、征服者である葉子
に対する、オドオドした卑屈さが身についてきた。
 何時の間にか二人の間では、靖夫は、葉子にお前
と呼び捨てにされ、葉子に対しては奥様≠ニ呼ばされ
敬語を使う様に馴らされてしまった。
 二人共、仕事は従来と変りなく続けていたが、家事は
葉子に命じられるまゝ、靖夫が担当する様になった。
 こうして、山田靖夫にとって、屈辱に満ちた新婚生活
が二ケ月目を迎えた時のことである。
 新しい職制が導入される五月の人事移動で、懸案の小
グループ制への組織の編成替えと共に、新しいポストで
ある主任への昇格者任命が発表された。
 山田靖夫を除く同期会のメンバーは、全員が揃って昇
格したが、靖夫は、例のSMクラブの事件が祟って、昇
格を逸したばかりか、同期の神田真理子のグループに編
入され、彼女の部下にされてしまったのである。
(続)
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1990年3月スピリッツ3,4月号
(スレイブ通信41号に再掲載)
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2010/08/18