#37転落した人質(転落の狂騒曲) 
                阿部譲二

アフガン駐在の商社マンがゲリラに誘拐され、会社が身代金を払うまでの間、毎日ゲリラの男達と慰安婦達のセックスの後を吸い清めさせられる。ある日、ゲリラの幹部の妻になっていた昔の恋人と再会するが、彼女は慰安婦達の股間で汚された彼を軽蔑し、日に何回も彼の顔に跨って小水を飲ませ、トイレットペーパー代りに大の方の後まで舌で清めさせた。

  アフガンの冬は寒さが厳しく、山岳地域か
ら可成り離れた都市周辺のなだらかな丘陵地
帯でも、三月までは雪に閉ざされている。
 幾つかの日本の商社が進出している、こゝ
アフガニスタンの首都カブールでは、ソ連の
正規軍が撤退した後、新たな経済活動を期待
して、人の動きが激しくなりつゝあった。
 雪解けが始まり、春の訪れが肌で感じられ
る様になると、堰を切った様に人の往来が増
え、ビジネス街も一斉に活気を帯びて来る。
 先月、この地に支店長として赴任して来た
ばかりの商社マン、遠山一郎は前任者との引
き継ぎもそこそこに、このところ関係先への
挨拶回りに忙殺されていた。
 彼の勤務する商社は、日本では大手に続く
中堅どころだが、昔からアフガニスタンの市
場では、羊毛を主とした原材料を手広く取り
扱っていて、日本より進出している現地会社
の規模としては、カブールでナンバーワンの
位置にある。
 しかし、ソ連軍の進駐以来、アフガン市民
のレジスタンス運動が地下に潜り、山岳地帯
を根城にしたゲリラ活動に発展すると、治安
面での不安が拡がって、カブールでの民間外
国人の数は激減した。
 最後まで残ったのが仕事熱心な日本人だっ
たわけだが、戦時体勢のもとでは居心地も悪
く、海外勤務がつきものゝ商社マンにとって
も、アフガン駐在は貧乏籖とされている。
 遠山一郎が、自ら進んでこの地に身を投じ
たのは、三十代の若さで支店長のポストを占
める魅力もあったが、昨年、妻を交通事故で
亡くしたショックで、やゝ捨鉢になっていた
せいもあった。
「お早うございます。……山並が霞んで見え
ますわ。もう春なんですのね」
 オフィスのあるビルの屋上で、一服しなが
らぼんやりあたりの景色を眺めていた遠山の
背後から、明るい若い女の声が響いた。
 同じオフィスで彼の秘書役を勤める木下敬
子である。
 二年程前に通訳として現地採用で入社した
彼女は、今では支店長秘書も兼ねていた。
似てる!……あの茂子そっくりだ
 遠山の横に立って、新緑に目を派せる敬子
の横顔に、遠山はかっての恋人であった進藤
茂子の面影を見ていた。
 鼻筋の通った端正な顔立だが、潤んだ大き
な目と、ぽってりとやゝ厚めの赤い唇が男の
官能をそそる。
 形ちの良い胸が大きく息ずき、くびれたウ
エストの下に、はち切れんばかりに発達した
ヒップがスカートを膨らませていた。
 五年前、遠山が未だ新入社員だった頃、ふ
としたことで知り合った進藤茂子は、ロシア
文学を専攻する女子大生だった。
 熱烈な恋愛関係にあった二人の間を裂いた
のは、当時、急速に過激化の度を加えていた
学生運動だった。
 理想に燃える彼女は、反体制派の中心であ
る革新グループに所属し、その頃、女ながら
も既に左翼学生運動のリーダーの一人になっ
ていた。
 当然、警察にも目を付けられる。
 遠山の再三の忠告にも耳を貸さず、茂子は
次第に彼から遠ざかって行った。
「支店長、今日は建設局の幹部の方達と昼食
の予定になってをりますので、お忘れになり
ません様に……」
 木下敬子の声に、五年前の想い出からハッ
と現実に戻った遠山は、黙って頷くと、背を
返してオフィスに戻る。
 折から一陣の強風が屋上に渦巻き、上着の
裾を持ち上げ、今迄の暖かいムードを吹き飛
ばして、ゾクッとする不吉な冷たさを背中に
送り込んだ。
 昼食は、謂わばビジネスランチで、何とか
官辺に、最近の新倉庫の入札を認許して貰う
工作の一環でもある。
 無事ランチを終えた遠山は、一同と分れて
もたれる胃をさすりながら、車でオフィスに
向かった。
 橋を越えて、街路樹の繁る広いアベニュー
から、オフィス近くの人通りの少ない露地に
車が折れた時である。
 突然、車の前にパラパラッと数名の男が飛
び出して来た。
 見ると、各々が手にチェコ製の自動小銃を
持っている。
 慌てゝ急停車すると、男の一人が窓から銃
口を突き付け、顎をしゃくって車から下りろ
との身振りでだった。
 震える手でドアを開け、転がる様に外へ出
た遠山の両側から、二人の男が腕を抱き拘え
る様に身体を挟んで、その先に止めてある黒
塗りのベンツに連れて行かれる。
「な、なにをする。ひ、ひと違いだ! ……
私は、日本人だ。……その先の事務所で働い
ている遠山一郎だ!」
 上ずった声の遠山の抗議に耳もかさず、男
達は、邪険な仕草で彼を車の後席に押し込む
と、タイヤを軋ませながらフルスピードで発
車した。
 車中で両側に座った男達の手が、遠山の上
着をまさぐり、財布と運転免許証を取り上げ
て前の助手席の黒眼鏡の男に渡す。
 免許証の写真の頁を手に、後を振り向いた
その男は、黒眼鏡越しに彼の顔をジーッと確
認する様に眺めて微かに頷いた。
 財布を取られた時点では、或いは物盗りか
と考えていた遠山は、不吉な予感に思わず身
が震える。
 その時、横の男がガムテープを彼の目に貼
り付け、一切が闇に沈んだ。
 続いて、再びピーッとテープを裂く音がし
て、今度は彼の口が、すっぽりとガムテープ
で覆われる。
 それから、可成りの時間が経った頃、車の
揺れが激しくなり、身体が背もたれに押し付
けられる。
 どうやら、車は郊外の上りの山道にかゝっ
た様だった。
 やがて、車が止まり、車外に引きずり出さ
れた遠山は、再び別な車に押し込まれる。
 今度は、硬いヒヤリとしたビニールシート
で、乗り心地も悪い。
 つづら折りの山道を可成りのスピードで飛
ばすと見えて、身体が左右に揺れた。
 何時間かその状態が続き、いゝ加減、背や
腰が痛くなった頃、車が止まって暫くの間休
憩する。
 そして又、延々と長距離のドライブが続く
のだった。
 半日近くの行程の後、漸く目的地に着いた
とみえて、降り立った一同を一斉に出迎えの
男達の声が囲む。
 口だけではなく目までガムテープで塞がれ
ているため、さっぱり周囲の状況が分らない
が、しのび寄る夜気が湿気を含んで肌に冷た
く、時々足にまつわる深い草叢の感触から、
人里離れた山中と推測された。
 二人の男に両側から腕を取られて、引き立
てられて行く内に、意外にも滑らかな石畳の
路面になり、ギーッと軋む木製のドアから、
建物の中に連れ込まれた様である。
 曲りくねった長い廊下を辿った後、黴臭い
部屋の中に入ると、目を覆っていたテープが
手荒にはがされた。
 目の周囲の皮膚が火傷をした様にヒリつく
のをこらえてあたりを見回すと、部屋の中の
テーブルの上に置かれた蝋燭の火がボーッと
にじんで見える。
 肩を押す様に椅子に座らされて、次第に目
が慣れると、彼の周囲を自動小銃を手にした
男達が囲んでいるのが見えて来た。
 その内のリーダー格の男が、机を挟んで遠
山の前に座り、険しい顔で語り掛ける。
 日本人にはむしろ判り易い、英国風のアク
セントの強い英語だった。
 ソ連圏では英語を使う人は多くはないが、
西欧各国からの応援団体が入り混ったゲリラ
の中では、共通言語として英語が使われるこ
とは驚くにあたらない。
 しかし、遠山が驚いたのは、横手に立って
いる背の高い男が、それを日本語に通訳して
伝えたことだった。
 それも流暢な標準語である。
「あなたは、我々の人質としてこゝに連れら
れて来たので、抵抗せずに命令に従っていれ
ば安全を保証します」
 思わず振り向くと、眉の濃い東洋系の顔が
蝋燭の光の中に浮んでいる。
 遠山は思わず、ガムテープで塞がれた口の
中で呻き声を上げていた。
「君にも判っているだろうが、我々は地下組
織のグループで、祖国の解放のためにゲリラ
活動を続けている。各国からの人の支援はあ
るが軍資金が足りない。……それで、金のあ
る日本の商社に目をつけたんだ」
「………………」
「心配しなくても良い。君の会社が、身代金
として我々の要求額を払ってくれれば、君は
即刻送り返すつもりだ」
 リーダー格の男は、その彫りの深い表情を
動かさずに、たんたんと喋る。
 それが日本語に変ると、却って生々と躍動
して聞こえるのが不思議だった。
「しかし、ひとつ問題がある。……それは、
君が解放されてから、世界のマスコミに君の
体験談が記事となって伝わることだ」
「………………」
「勿論、我々としては祖国解放の目的の為に
したことだから、何等恥ずることはないが、
我々を支援してくれている諸国に与える影響
を考えると、君の口を塞ぐ必要がある」
 遠山の背に冷たいものが走った。
私は喋らない。……決して喋らないから、
私を信用して無事に返してくれ!
 遠山は、テープで塞がれた口の中で思わず
絶叫していたが、勿論声にはならない。
 それを見透した様に男は言葉を続けた。
「君は、きっとマスコミには沈黙を守ると言
いたいんだろうが、我々にはその保証が必要
だ。……そこで名案がある。つまり、君には
こゝでマスコミにはとても喋れない様な体験
をして貰うことにした」
「………………」
 怪訝な表情の遠山の前で、男は初めて顔に
気持の悪い笑みを浮べた。
「君の口から話せない様な体験と言っても、
ピンとこないだろうが、それは明日から実地
に経験して貰えばすぐ判るさ。……言ってみ
れば君は男として、とても口に出来ない程、
恥ずかしい目に合うんだ。……恥ずかしさの
あまり気が狂ったとしても、それはそれで、
君の口を封じる目的を達したことに変りない
さ。ワハッハッハッ」
 最後の意味ありげな笑い声は、通訳の男を
含めて部屋に居る男達の全員に拡がった。
 その夜、部屋の角に置かれたマットの上で
毛布にくるまりながら、遠山は不安に胸を締
め付けられていた。
 漸く、口のテープは取ってくれたが、その
代り、後ろ手に手錠をかけられ、自由を束縛
されている。
 そればかりか、頚に革の首輪を穿められ、
鎖で傍の柱に繋がれていた。
この首輪の意味は何だろう?……きっと、
俺を犬並に扱って辱める積りだな。畜生、負
けるものか!=@            
 遠山は、心の中で精一杯、自分を元気づけ
てみたが、それも長くは続かない。
会社は、俺の身代金を払ってくれるだろう
か? もし、金額が莫大でとても払えない様
な場合、俺は一体どうなる?
 思い悩む内に昼の疲れが出て、彼はやがて
泥の様な深い眠りに落ちて行った。
 翌朝、扉の鍵がガチャガチャ鳴る音でハッ
と目覚める。
 慌てゝ身を起そうとして、頚が、そして両
腕が拘束されているのに気付き、昨日の忌わ
しい記憶が瞬時に蘇った。
 入って来たのは、昨夜通訳を勤めた背の高
い男である。
「眠れたかね? 我々で相談した結果、私が
暫くの間、君への連絡の窓口を受持つことに
なったから宜しく」
 男は、マットレスの上に起き上った遠山の
傍に椅子を寄せて腰掛ける。
「き、きみは日本人か? ここで一体何をし
てるんだ」
 遠山は、性急な口調で問い掛けた。
「御想像通り日本人さ。いや、日本人だった
と行った方が良い。今は国際人として、この
国の解放運動に加わっている。……まあ言っ
てみれば、君を誘拐した犯人の一味さ」
 男は、ニヤリと笑って話を続ける。
「俺は日本の資本主義社会に反発して、国を
飛び出したんだ。この地球上で理想の国家を
建設する運動に参加したくてな。……まあ、
それには金が要る。だから、君を利用して、
日本の資本家連中に、一寸したカンパをさせ
ようってわけだ」
「………………」
「ここはな、昔の僧院さ。俗界と縁を切って
修行するために、こんな山中に建物を作った
んだ。これが、今では我々の格好の本拠地に
なっている。……ところで、昨日言い渡した
様に、早速今日から君には、所謂、口封じの
体験をして貰うんだが、覚悟は良いかね?」
 男は足を高く組むと、ジーッと遠山の顔を
見下ろした。
「君の体験の相手は、この建物の二階の奥の
部屋に滞在している女達だ。今は三人だが、
四人になる時もある。みんなカブールの街か
ら出稼ぎに来ている慰安婦達で、一週間経つ
と次の組と交替するんだ。……勿論、彼女等
を選んでこゝへ連れて来るのも、送り返すの
も我々が責任を持ってやっている」
「それで、私は一体彼女等と何をするんだ?
……まさか、こゝでセックスをするわけじゃ
あるまい?」
 遠山は、空元気を出して、幾分茶化す様な
調子で聞いた。
「勿論、彼女等は金を貰ってセックスする為
に来ているんだが、生憎、相手は君じゃなく
って、こゝで命を掛けて戦っている我々の仲
間さ。……君は、我々と彼女等のセックスの
後始末をするんだ」
 男は唇に薄笑いを浮かべている。
 遠山は、男の言葉の意味が良く判らず、ポ
カンと呆気にとられて聞き返した。
「後始末って……一体何をするんだ?」
「俺達は物資不足で、ティッシュペーパーが
無いんだ。トイレの後だって布で拭き、それ
を繰返し洗って使うのさ。……セックスの後
はガーゼを使っていたんだが、それも品切れ
でね……」
「そ、それで……」
 悪い予感で冷いものが遠山の背筋に走る。
「それで、君の出番さ。……君が女の局部を
吸って、汚れを舌と唇で清めるのさ」
 男は、こともなげに言い放った。
「そ、そんな馬鹿な!……そんなこと、死ん
だって出来るもんか」
「ホー、そうかい。人間、命あっての物種と
は良く言ったもんでな、死ぬ気になりゃあ、
大抵のことは出来るもんだ。……女達には、
良く言い含めておいたから、まあ、たっぷり
仕込んで貰うがいい。……その途中で死にた
けりゃ、女の股の間で舌でも噛み切って自殺
するんだな」
 男は、背を見せて部屋を立ち去ろうとした
が、また戻って来た。
「すっかり忘れてた。……お前、咽喉が乾い
たろう。何か飲物が欲しくないか?」
 そう言えば、遠山は昨日から飲まず食わず
である。先程から、空腹で目眩がすると同時
に、咽喉がヒリヒリと焼けつく様だった。
「た、たのむ! 何でも良い。何か飲物と、
それから食物をくれ」
「よしきた。食物は女達から貰え。……俺は
お前にふさわしい飲物を持って来てやる」
 扉の外に消えた男は、間もなく洗面器大の
白い琺瑯引きの容器を抱えて現われた。
 蓋を取って、それを遠山の前の床に置く。
「さあ、飲め。……ただし、その手錠は外し
てやれないから、犬の様にこの容器に頭を突
っ込んで飲むんだぞ」
 両手を使えぬ不自由な身体で、首輪の鎖を
引きずりながら、遠山はやっとのことで容器
に顔を入れる。
 途端に、プンと異臭が鼻をついた。
 白い容器の底に溜っている黄色の液から、
おなじみのアンモニア臭が、微かな湯気に運
ばれて漂っている。
 顔色を変えて思わず後ずさりする遠山の頭
の上で、男の笑いが爆発した。
「ワハッハッハ、判ったかい……その通り、
それは小便さ。それも女の小便だ。……実は
俺は女房持ちでな。今、部屋で女房の出した
ホヤホヤのやつを、そのまゝ持って来たって
わけさ」
「………………」
「こゝでは水も貴重品よ。一時間もかけて遥
か下の谷川に汲みに行くんだからな。……人
質のお前には、これを飲んでもらうしかない
んだ。……水分を取らなきゃ食物だって咽喉
を通るまい。死にたくなかったら、目をつぶ
って飲むことだな」
 男の言うのはもっともだった。
 遠山の唇はカサカサに乾き、口中には唾液
すら溜らない。
 無念の思いをぐっとこらえて、再び容器の
中へ顔を入れた。
 異臭と不潔感にためらう遠山の後頭部を、
男の足が催促する様に軽く踏み付ける。
 一旦、顔全体が小水にまみれると、遠山は
ふっ切れた様にその汚水を啜り始めた。
 塩辛い女の朝尿は彼の舌を刺して屈辱感を
増幅するが、咽喉のヒリ付きは癒やされる。
 何時の間にか、遠山は夢中で容器の汚水を
すっかり飲み干していた。
「ちゃんと飲めるじゃないか。フフフ、どう
だ、女性ホルモン入りの味は?」
 男は軽蔑し切った顔で嘲笑する。遠山は、
口惜しげに唇を噛んで顔を伏せた。
 男が去って暫くすると、銃を手にした屈強
の男が二人、遠山の両腕を抱える様にして、
彼を部屋の外へ連れ出す。
 長い石畳の廊下を通り、鐘楼の横の階段か
ら二階に上った。
 パッと眺望が開け、バルコニー風の廻廊か
ら緑に包まれた山間が見渡せる。
 古びた木製のドアが並ぶ一画の奥の部屋に
辿り着くと、男達は、ノックに答えて出て来
た派手な衣装の女に遠山を引き渡した。
 部屋の中はワンルーム方式のレイアウトで
意外に広く、窓際の居間コーナーには絨緞が
敷かれソファーセットが置いてある。
 その隣りには食卓と椅子、そして横の壁に
は小さな調理場まで設けてあった。
 居間の部分に続く反対側の壁に沿ってベッ
ドが四つ並び、その各々が木製の衝立で個室
風に仕切られている。
 部屋の入口で遠山を受け取った女は、彼の
首輪から垂れている鎖を握ると、犬でも曳く
様にぐいとたぐった。
 後ろ手錠の遠山は、思わずバランスを失っ
てよろめいたが、辛うじて踏み留まって女の
後に従う。
 窓際のソファーで茶を飲みながらくつろい
でいる女が二人、近付いて来る彼に好奇の眼
差を向けた。
 鎖を片手にその隣に腰を下した女は、前の
床を顎で指す。座れと言う意味らしかった。
 絨緞の上にへたり込む様に座った遠山は、
目の前の三人の女を見上げる形ちになる。
 鎖を手にした女はアラブ系らしく、黒い瞳
の大柄なグラマーである。
 あとの二人の内一人はスラブ系と見え、茶
色の目で肌の色が白く、スラリとした姿態な
がら、くびれたウエストからボリュームたっ
ぷりのヒップが目立っていた。
 もう一人は北欧系の青い目の女で、見たと
ころ中肉中背とは言え、小柄な遠山よりたく
ましそうである。
 三人とも容姿はまずまずで、とても慰安婦
には見えなかった。
 もともとカブール市には色々な人種が流れ
込んで来ており、売春婦も半ば公認で数が多
い。男にとって、選りどり見どりの買手市場
だったのである。
 スラブ系の女が時計を指して何か告げ、立
ち上って、調理場の流しから水で絞った布を
持って来た。
 それで遠山の汚れた顔を拭くと、首輪に手
を掛けて彼の身体を後ろに引き倒す。
 女は仰向けに転がった男の胸に跨がると、
ジーッと遠山の顔を見下ろした。
 その体重で、手錠で拘束された背中の手首
が圧迫され、思わずウーッと呻き声が出る。
 女はスカートを捲くって白い太股を露出さ
せると、おもむろに腰をひねってパンティー
を脱いだ。
 柔かい白い布地のパンティーが、彼の顔を
擦りながら女の肌を離れた後は、彼の顎に触
れんばかりの距離に、女の股間の濃いヘアが
むき出しになっている。
 これから何をされるのだろうか?……その
不安と、女の自由にされる屈辱とが入り混っ
て、遠山の胸の動悸が高くなった。
 女は太股で男の顔を挟みながら、腰を前に
ずらして行く。
 ヘアがスッと顔を撫で、女の柔かいクレバ
スが彼の顔にペタッと乗り上げた途端、濃厚
な女の性臭がムッと彼の鼻を突いた。
「ヘイ、ユー。……リック!」
 片言の英語でお舐め!≠ニ言われ、遠山
の頭は屈辱で火の様に熱くなった。
 男の唇が固く結ばれたまゝなのを覚ると、
女はグーッと彼の顔に体重を掛けて、その呼
吸を奪う。
 勝負は短時間でついた。
 苦しさにたまり兼ねた遠山が、遂に屈服し
て、舌を女のクレバスに這わせたのである。
 女の尻が僅かに浮き、男の舌先をラビアで
捉えながら前後にゆっくり揺れた。
 プンと鼻を突く尿の臭いから、彼女の股間
の汚れが尋常ではないことが判る。
 ねっとりした澱物が舌で掬われて、彼の口
中に刺す様な酸味を広げた。
 彼女が、快楽を追求しているのではなく、
実は、男の舌で股間を清めているのだとはっ
きり彼に判ったのは、最後に、汚物でねっと
り湿ったアヌスを、唇にぴったりと当てがわ
れた時だった。
 頭の中に火が燃え上り、気の遠くなる様な
屈辱感が彼を圧倒した。
 女の湿ったアヌスは、嘲ける様に男の唇を
にじり、汚れを彼の口中に擦り込んで行く。
 女の尻の下で、余りの情なさに涙を流しな
がら、遠山は強制的に女のアヌスを吸い清め
させられたのだった。
 通訳の男が言った様に、こゝでは物資不足
でトイレットペーパーさえ無い状態であり、
しかも水も充分使えないとあっては、彼女等
が用を足した後を拭かずに放置していたのも
無理なかった。
 しかし哀れを留めたのは遠山である。
 スラブ系の女の尻からやっと解放されたの
も束の間、続いて北欧系の女の白い双球が彼
の顔を跨いだ。
 そして最後には、アラブ系の女の巨尻が、
気の遠くなる様な異臭と共に、彼の顔面を蹂
躙する。
 三人の女達が、遠山の舌を使って股間を清
め終ると間もなく、ドアがノックされて最初
の男が入って来た。
 その男は、着ているものをかなぐり捨てる
様に脱ぐと、三人の女の内、ひとりを選んで
早速ベッドインする。
 ベッドが音を立てて軋み始めた頃、次の男
が現れ、隣のベッドへ女を伴って入った。
 三人目の男が、残った女と端のベッドで抱
き合った時には、最初の組はもう頂点に近付
いたと見え、荒い喘ぎ声があたりに響く。
 暫くしてそれが治まった時だった。
 絨緞の上で、ショックのため仰向けのまゝ
死んだ様に横たわっていた遠山の顔の上に、
最初の女が男の精液にまみれた股間を被せて
来たのである。
 恐らく経口避妊薬を使っているのだろう。
 膣の中に夥しいザーメンの放出を許した女
は、その清めを遠山に強いたのだった。
 予告されていたとは言え、それは彼にとっ
て生まれて初めてのおぞましい経験だった。
 女の淫液とミックスしたそれは、晒粉に酢
を混ぜて臭いを付けた様な、何とも言えぬ、
えぐい生臭さである。
 思わず込み上げる吐気を抑えながら、ズル
ズルと音を立てゝその粘液を咽喉に送り込む
遠山の顔は、余りの屈辱にどす黒く紅潮して
いた。
 膣孔を広げる様にして、男の舌先をバギナ
に導き膣の中まで清めを強制した女は、一段
落すると、ソファーに身を投げて休憩する。
 その時には、もう次の女が遠山の顔に、濡
れそぼった尻を据えていた。
 恐らく廊下では、順番を待つ男達が一列に
なって待機しているに違いなかった。
 ひとりが部屋から出て行くと、きっちり、
一定の間隔を置いて新手の男が入って来る。
 従って遠山はゆっくり休む暇も無く、次々
と交替で顔面を覆う女達の股間を吸わされた
のだった。
 その日に割り当てられた男達が、全員性欲
の処理を終えた時には、遠山の腹は男の精液
と女の淫液のミックスジュースで蛙の様に膨
れ上がっている。
 口の中から咽喉にかけて、ヌルヌルと粘液
が一面に貼り付いて、たとえ様のない気持悪
さだった。
 しかし、遠山が受けた気も狂わんばかりの
精神的な打撃は、何にもまして彼の心を蝕ん
でしまっている。
 只、奇妙な一種の満腹感が、先程までの飢
餓状態を緩和していた。
 その晩、寝る前に与えられた女達の残飯を
容器から犬の様に頬張りながら、今日一日の
屈辱を思い起し、遠山の目からは涙がとめど
なく流れるのだった。
 こうして、遠山にとって想像だにしなかっ
た汚辱に満ちた人質生活が、毎日判で押した
様に繰り返されて行く。
 食物は一日一回、晩に女達の残飯が与えら
れ、水分としては、朝昼晩の三回、通訳の男
の妻の小水が、琺瑯引きの容器で与えれた。
 その他に、勿論、例のミックスジュースを
屈辱極まりない状況で、毎日いやと言う程飲
まされるのである。
 夜は、女達の部屋の中の角に敷いたマット
レスの上で、首の鎖を柱に繋がれたまゝ、古
毛布にくるまって寝るのだった。
 一週間が過ぎると、女達はジープに乗せら
れてカブールの街に帰って行く。
 そして、その日の内に新手の女達が、帰り
車に乗せられて繰り込んで来た。
 そして又、屈辱の一週間が繰り返される。
 こうして一ケ月が経った。
 遠山にとっては一年にも相当する長い日時
である。
 しかし、身代金の方は、さっぱり進展がな
いらしく、何回聞いても埒が明かなかった。
会社も、きっと俺に身代金を出す気が無い
んだ!=@               
 日が経つにつれ、遠山の心の中で、絶望感
が次第に大きくなって行く。
 そして或晩のこと、何かの拍子で柱に繋い
だ首の鎖が緩んで、彼の寝ている上にその端
がポトリと落ちて来た。
 ハッと目覚めた彼の胸が早鐘の様に鳴り、
興奮で頭に血が上る。
 女達の寝息を確めて、そっと起き上った彼
は、鎖の端を口にくわえて、音を立てぬ様に
ドアに忍び寄った。
 後手錠のまゝドアに背を向けて、ノブを掴
んで静かに回す。
 幸い鍵も掛かってなく、木製のドアが低い
軋み音を立てゝ開いた。
 ドキッとして女達の寝息に耳を澄ませたが
規則正しく続いているのでホッとする。
 そのまゝ身体をドア隙間から滑らして、回
廊へ出た。
 冷たい石畳を裸足の足でとらえながら、階
段へと急ぐ。
 鐘楼の横まで来た時である。
 階段をコツコツと音を立てゝ上って来る足
音がした。
 ギョッとして、慌てゝ後戻りする。
 回廊の曲り角に隠れたものゝ、足音は更に
近付いて来る気配だった。
 切羽詰った遠山は、角の部屋の把手を回し
その中に滑り込む。
 どうか空部屋であってくれ!=@   
 祈る様な気持だった。
 後ろ手でそっと扉を閉める。カチャッと低
い音がした。
「だれ? だれなの、そこに居るのは?」
 部屋の奥から女の声がした。
 驚いたことには日本語である。
 パッと懐中電灯の光が遠山の顔を照らす。
と、同時に、ランプに火が付けられた。
 あたりが明るくなって遠山の目に入ったの
は、二台並んだベッドの上に起き上った人影
である。
し、しまった。……人が居たのかぁ!
 地団駄を踏む思いで唇を噛んで立ち竦む遠
山の前に、ベッドから降りた女がランプを片
手に近付いて来た。
 その顔を見て、遠山の表情に強い驚愕の色
が浮ぶ。
 彼の秘書の木下敬子……
いや、違う。……そ、そうだ! 昔の恋人
だった進藤茂子じゃないか!
 遠山は、思わず茫然として佇んだ。
「ウフッ、判った様ね。……そう、私、茂子
よ。本当にお久し振りだわ。……ところで、
どうして私達の寝室に入って来たの?」
 怪訝そうな茂子の後から、例の通訳の男が
のっそりと現われた。
「きっと逃げ様として、迷い込んで来たんだ
ろう。……それにしても偶然だな。俺達夫婦
の部屋に飛び込んで来るとはな!」
 男は悠然とした態度である。
そうか。この男の妻とは茂子のことだった
のか!
 遠山は余りの偶然に驚くと同時に、一縷の
希望が湧くのを覚えた。
「茂子さん。お願いだ! 僕を逃がしでくれ
ないか。……ここへ人質として連れて来られ
て、ひどい目に合っているんだ!」
 かって学生運動家として、リーダーのひと
りだった茂子である。こゝでも、革命支援の
活動家として重きをなしているであろうこと
は想像出来た。
「そうね。出来たら逃がして上げたいけど、
それは無理ね。……だって、貴方をこゝへ人
質として誘拐する計画を立てたのは、私なん
ですもの」
 茂子の言葉に、遠山は、思わず自分の耳を
疑がった。
「貴方の秘書の木下敬子ね。あれは私の妹な
の。勿論、私達と一緒にこの革命運動に加わ
ってるわ。その手引きがあったから、スムー
スに貴方を誘拐出来たのよ。……そう、それ
からね、貴方の口封じに恥ずかしい体験をさ
せたのも私の案よ」
「そ、それじゃあ、君は……」
「そうよ、貴方は毎日私の小水を飲んでるの
よ。……勿論、私の意志でね」
 何と言うことだろうか。自分をこんな運命
に転落させた張本人が、昔の恋人の茂子だっ
たとは!
 遠山は、未だ信じられぬ思いだった。
「貴方には、成可く真相を隠しておきたかっ
たの。……だって昔の恋人の手で地獄に落さ
れるなんて、あまりにみじめですものね。…
…でも、私は主義のためには一切を犠牲にす
るのが信条なの。貴方はその犠牲者よ。……
でも、こうして判ってしまった以上、私の手
で口封じをしなくちゃね」
 茂子の口元にうっすらと笑いが浮かんだ。
「口封じって……まさか……」
 遠山は、思わず絶句する。
「貴方は、もう既に身も心も汚れ切ってるの
よ。……毎日、売春婦達の股の汚れを舐めさ
せられてるんですものね。……私に、人間並
に扱って貰えると思ったら大間違いよ」
 茂子は、遠山の首から垂れている鎖の端を
取り、ぐいと引いた。
 よろめく男の腰を蹴って倒れた所を足で踏
み、自由を奪う。
 後手錠のうえ不意を付かれて、遠山は赤子
の様に茂子にされるまゝになった。
「もう、これからはあの容器で飲まなくても
いゝのよ。……フフフ、私がじかに飲ませて
上げるからね。ホラ、こうやってね」
 茂子は、遠山の顔を跨ぐと、パンティーを
下げて腰を降ろし、性器を彼の口に押し付け
た。
「そら、口を開けて。……どうしたの?……
諦らめるのよ。諦らめて私の便器になりなさ
い!」
 諦らめるのよ。……諦らめるのよ。
 遠山の心の中で何かが音を立てゝ壊れると
同時に、茂子の言葉が天啓の暗示≠フ様に
繰り返しこだまの様に響きわたる。
 顎が緩み、唇が開いて、茂子の股間に男の
屈服が伝わった。
「ウフッ、それで良いの。それが今のお前に
お似合よ。……一ケ月も毎日女のおしもを吸
わされた男って、もう人間の資格は無いわ。
……御飯茶碗だって、糞壷に浸ったら二度と
食卓には使えない理屈よ。……じゃあいくわ
よ!」
 遠山の唇の上で茂子の秘肉が震え、ポタポ
タと滴が舌に落ちる。
 それがチョロチョロと流れに変ると、この
一ケ月毎日欠かさず口にさせられていた、お
馴染みの味が口一杯に広がった。
 いつもの琺瑯容器と違い、その汚水は茂子
の体温を保ったまゝ、柔かい排泄孔から直接
彼の口に注がれて来る。
 茂子の尻の下で、ゴクリゴクリと続けて男
の咽喉が鳴り、彼女に驕慢な征服感をつのら
せた。
「あと、ちゃんと舐めて奇麗におし!………
そうそう、それでいゝわ。お前、素質あるわ
よ。……これからトイレットペーパーとして
も使ってやるからね。クックックッ」
 その翌日から、遠山は身柄を茂子夫妻の部
屋へ移され、四六時中、茂子の監視下に置か
れることになった。
 しかし依然として、慰安婦達への奉仕は、
続けさせられた。
 毎日午後になると、四時間余りを慰安婦の
部屋で過し、みじめにも女達の股間の汚れを
たっぷり味わされ、生臭いミックスジュース
で腹を膨らませて帰って来るのである。
 そんな遠山に、茂子は軽蔑を露わに示し、
顔に唾を吐き掛けたり、足の裏を舐めさたり
して嬲り抜いた。
 勿論、日に何回も彼の顔に跨がって、小水
を飲ませたし、宣言通りトイレットペーパー
として股間を舐め清めさせた。
 茂子の部屋のベッドの下には、例の琺瑯引
きの容器が置かれている。
 毎朝、遠山に朝尿を飲ませた後、茂子はこ
の容器に跨がって、大の方の用を足す。
 その後、屈辱に震える遠山の顔を跨いで、
あとを清めさせるのである。
 慰安婦達のアヌスにうっすらと付着する汚
物を舐め取るのですら、未だに吐気を催すこ
とが多かった。
 べったりと茂子のアヌスに付着した褐色の
糊は、新鮮なだけ臭いも強く量も多い。
 それを口にさせられる無念さと、おぞまし
さは例え様がなかった。
 その内、茂子夫婦のセックスの後始末もや
らされるようになる。
 慰安婦達の時と違って、夫婦のベッドの裾
に引き据えられ、舌による前戯から徹底的に
仕込まれた。
 セックスの後始末は、夫婦が未だ余韻を楽
しんでいる時に、その結合部に口を付けて、
滲み出る汁を舐めることから始まる。
 結合を解く瞬間に、シーツにこぼさぬ様に
口を当てがって、素早くミックスジュースを
啜る時の情けなさはひとしおだった。
 しかも、茂子の命令で、男のものまでしゃ
ぶって清めさせられる。
 週に二、三回のこととは言え、遠山にとっ
ては気も狂わんばかりの屈辱だった。
 こうして、遠山が転落の淵に沈んで、三ケ
月が過ぎた時である。
 殆ど諦めかけていた身代金を、会社が払う
との報せが飛び込んで来たのだった。
 半信半疑で待つ内に、地下組織のグループ
に金を渡すのと交換に、彼の身柄を釈放する
手筈が進んだ。
 最後の夜、茂子夫妻のセックスの慰み者と
して明方まで奉仕を繰返させられ、カブール
へ遠山を送るジープが発車する直前にも茂子
の朝尿をたっぷり飲まされた。
「いゝこと、お前は沈黙を守るのよ。こちら
の切札は、このビデオテープ。……お前の恥
ずかしい行為が全部収められてるわ。少しで
も喋れば、これをコピーしてあちこちにばら
撒くからね」
 茂子の念押しの言葉に頷く遠山は、漸くこ
の地獄から解放される嬉しさで、気もそぞろ
だった。
 もうすっかり夏の盛りを向えた山々は、欝
蒼とした緑で覆われている。
 山道をとばすジープにしがみ付く遠山の顔
に、心地良い風が吹き付けた。
 カブールで市の警察に保護された遠山は、
予想通りしつこい程の取り調べを受けたが、
遠山は、言葉少なに当り障りの無い範囲での
受け答えに終始した。
 勿論、あのおぞましい経験を話せば、天下
に生恥を曝すことになる。
 例え口が裂けても、遠山から言いだせるこ
とではなかった。
 幸い、事件は極秘裡に処理されたと見え、
報道陣に囲まれることも無く、新聞にも取り
上げられていない。
 数日後には、会社から派遣された介添え役
の社員と共に、一路帰国の途についていた。
 日本では、とりあえず健康診断を受け、衰
弱した身体を回復させるため一ケ月入院する
ことになった。
 病院に見舞に来た会社の幹部には、警察に
話したと同様の報告で納得させる。
 それからの一ケ月の療養期間はあっと言う
間に過ぎた。
 そして言われた通り、本社の人事部に出頭
した遠山は、新しい辞令を受け取る。
 しかし、それは彼の期待を大きく裏切って
大幅な降格を公示したものだった。
本人の不注意で、会社に多大の迷惑を掛け
た責任を追求し、カブール支店長職を免じ、
本社資料課庶務係勤務の雇員を命ず
 思わず息を飲む遠山に、ベテランの人事部
長が解説する。
「今度の君の身代金は会社の経営上、大きな
痛手だった。……これだけの損害を掛けられ
た以上、首にするのが当然だが、それは世間
の目がうるさい。と言って処分しなければ、
社内へのみせしめがつかない。……だから、
新しい職場では懲罰として、ひらから出直し
て貰う。その内、我慢出来なくなれば、君の
方から辞職を申し出ても良いが、少なくとも
一年は我慢してくれたまえ」
 打ちのめされた思いで、足取りも重く新し
い職場に赴いた遠山は、そこで思いも掛けぬ
事態に仰天することになる。
 昔からの顔馴染みだった資料課長に伴なわ
れて、二十人余りの女子社員が働く庶務係の
部屋へ入った時であった。
 正面の窓を背にした係長席に座っているの
は、あの木下敬子ではないか。
 カブールでの彼の秘書であり、地下組織に
手引きして彼を人質にした張本人である。
 しかも、実はあの進藤茂子の妹で、姉と共
に革命運動に加わっている筈の女だった。
 思わず目を疑ったが、彼女に間違いない。
「驚いただろう。カブールで君の秘書だった
木下君だ。……でも、こゝでは君の上司にな
るんだから、そのつもりでな」
 資料課長は彼を敬子に引き渡すと、また席
に戻って行った。
「こちらへいらっしゃい。お前の仕事を説明
するわ」
 敬子にお前≠ニ呼び掛けられ、遠山の胸
にはグッと怒りが込み上げる。
 敬子は素知らぬ顔で、彼を隣りの会議室に
伴った。
「お久し振り。身体の方はすっかり回復した
様ね。……それで、お前の仕事は女子社員へ
のお茶汲みサービスと女子トイレの清掃よ。
……あ、それと、こゝでは、お前は私の部下
なんだから、私には敬語を使うのよ」
 敬子は高圧的に命令した。
「何を言うんだ! 君が進藤茂子の妹で、僕
を地下組織に引き渡したことは、ちゃんと判
っているんだぞ。……そんな口をきいても良
いのか!」
 遠山は声を荒げて抗議した。
 途端に、ピシーッと敬子の平手打ちが彼の
頬に炸裂する。
「お黙り! 人質になってる間、口では言え
ない恥ずかしいことをしてたくせに。……姉
さんから送って来たビデオを見て、私、思わ
ず吐気がしたわ。……お前は、もう人間じゃ
ない。その証拠に、ホラ、この臭い懐しいだ
ろう!」
 敬子は素早くパンティーを脱ぎ、まるめて
彼の顔に押し付けた。
 ムッとする女の股間の臭いが、彼の脳裏に
あの屈辱の記憶を呼び戻す。
 茫然として我を失った遠山を見下ろして、
敬子は勝誇って言葉を続けた。
「姉さんの手紙にあったわ。お前が反抗した
ら、ビデオのコピーをばら撒けば良いって。
……それからね、来年になったら夫婦で帰国
するから、また毎日奉仕させてやるって。…
…でも、その間にやき≠ェ戻らない様に私
につないどいて欲しいんですって。……フフ
フ、どんな意味か判る?」
「………………」
「さ、そこへ仰向けに寝るのよ。……バカ、
きまってるじゃない。私の便器になるのよ。
ウフッ、姉さんと味を較べて御覧!」
 ガンと頭を殴られた思いで、遠山は唯うろ
たえるばかりである。
 結局、敬子の思惑通り、彼女の尻に敷かれ
る羽目になってしまった。
 茂子とそっくりの量感のあるヒップが、彼
の顔面に据えられ、繁みを鼻に触れさせなが
ら口中に汚水が注ぎ込まれる。
「姉さんからお前に言付てよ。糞壷に浸っ
た御飯茶碗は、二度と食卓には上れない≠ナ
すって。……ウフフフ、お前のことね。さあ
糞壷に戻りなさい!」
 敬子の汚水は、この一ケ月、忘れていた屈
辱の味を彼に思い起させ、再び転落の道を歩
み始めた己れの運命を、はっきり意識させた
のだった。
(完)
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1989年6月スピリッツ6月号
(スレイブ通信34号に再掲載)
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2010/08/07