#43転落のアリバイ(奴隷犬への凋落)(前編)
…Alibai to Fall(Part-One)…
阿部譲二
二年前に妻を亡くした作家の男が愛人の殺人事件に巻き込まれそうになり、グラマーな美女の姪にアリバイへの協力を頼む。彼女は承知したものの条件があると宣言。警察の疑いが晴れた後、再び現れた彼女は彼に舌奉仕を要求し、小水まで飲ます。しかもそれ以来、彼女が発行した「奴隷使用券」を持参して彼を訪れ、舌奉仕を要求する女性が急増した。 |
こゝは都心の一流ホテル。
食堂で軽い昼食を済ませて、何時ものセミスイートの
客室にチェックインした萩原浩一は、携帯用のワープロ
を机の上にセットすると、大きく深呼吸をして、おもむ
ろにスイッチを入れた。
雑誌の原稿締切りを一週間後に控え、流行作家の萩原
にとっては恒例のホテル篭りが、始まったのである。
もっとも、二年前に妻を亡くして以来独り暮しの萩原
にとって、外部と隔絶した環境を作るという理由だけな
ら、必ずしもホテルに篭る必要はない。
電話は録音テープで応答させれば良いし、アパートの
ドアには旅行中とでも貼紙をしておけば、しつこい訪問
客も撃退出来る筈だった。
しかし、彼の様に締切りに追われる作家の、ナイーブ
な神経にとっては、圧迫感から解放されるための何らか
の気分転換が必要だし、何時でもルームサービスが利用
出来る居心地の良いホテルは、食事を用意するわずらわ
しさも無く、ゆったりとした気分に浸れる点、全く理想
的である。
その時、突然、部屋の電話のベルが鳴った。
「叔父さま?……私、京子。……今、下のロビーよ。…
…叔父さまの葉書に、そろそろホテル篭りをするって、
あったから、陣中見舞に来たの。……お部屋に行って良
いかしら?」
甘ったるい若い女の声が、受話器の中からたゝみかけ
る様に零れて来る。
萩原浩一の姉の娘、つまり姪に当る藤島京子だった。
「うん、いゝとも。……でも今度は、早々のお出ましだ
な。……今朝、こゝにチェックインしたところだぜ!」
萩原の声が明るく弾んだ。
「ウフフッ、ジャスト・イン・タイムだったのね。……
実は、一寸したニュースがあるの。……お部屋で、ゆっ
くりお話しするわ」
エレベーターが混んでいるらしく、彼女がその屈託の
無い笑顔を見せるまで十分程掛かった。
彼女も考えてみれば、私立K女子大の三年生である。
八つ年上の姉が学生結婚をして京子を生んだ時、浩一
は十二才だったから、浩一と京子との年齢差も十二才、
つまり、ひと回り年が違うことになる。
しかし、小さい頃から所謂おませだった京子は、よく
面倒を見てくれる浩一が、大のお気に入りだった。
そして、高校生の頃から萩原の前で次第にコケティッ
シュな態度を見せる様になり、彼の前で大胆に胸を大き
く開いて見せたり、わざとショートスカートの裾を乱し
て、ピンクのパンティーをちらつかせ、彼を大いに悩ま
せたものである。
京子が女子大に入ったころのこと、バレンタインデー
にチョコレートが萩原の自宅に贈られて来た。
女性のヌードのチョコレートで、紙で出来たピンクの
ブラジャーとパンティーを付けていた。
そして、それには、
「ブラジャーとパンティーは、おじさまが脱がして下さ
い。……そっと優しくね!」
という京子の自筆のメッセージが添えられていた。
当時既に病床にあった萩原の妻がこれを見て、大いに
腹を立てた。
これは、所謂義理チョコ≠ニは思えない。自分自身
をチョコレートに見立てゝ、自分の身体をプレゼントす
る意思表示だと言うのである。
萩原は、二人の間に入ってとりなすのに苦労したが、
それも、今となってみれば懐しい想い出だった。
ドアのノックに応えて京子を招じ入れた萩原浩一は、
何時ものジーンズ姿と異り、真赤なブラウスにプリーツ
の入った長目の白のスカートで、艶やかにドレスアップ
した彼女を見て、目を見張った。
「今日は大学の学園祭なの。夕方からパーティーがある
のよ。……この衣装、どう?」
京子は、問わず語りに説明しながら、部屋の中央で、
フッションモデルの様に、しなを作ってグルリと身体を
一回転してみせた。
やや長身の均斉のとれたプロポーションだが、腰から
ヒップのかけて圧倒的なボリュームがあり、外人なみの
グラマーな姿態である。
どちらかと言えば面長だが、目鼻立ちのハッキリした
美人顔で、厚い唇と濃い眉が南国風の官能的なムードを
醸し出していた。
ムーッと女の匂いが立ちこめ、男やもめの萩原にとっ
ては、悩ましさに頭がクラクラする。
「そうだわ、叔父さま。……大変なニュースがあるの」
ソファーにくつろぎ、手土産の果物を二人で食べなが
ら、京子は勢い込んで言葉を続けた。
「この前、連れてっていただいた、叔父様の行きつけの
銀座のバーで会った、ホステスのマリさん……あの人、
叔父様のお馴染みでしょう?」
「ウム、ま、そういったところかな」
「そのマリさんが殺されたのよ。……大手の新聞では、
扱いが小さいし、第一、匿名だから、叔父様は気付かな
かったでしょうけど、昨日の芸能新聞には、写真入りで
出てたので、私にも判ったの。……ホラ、これよ」
京子は、バッグの中から折り畳んだ新聞を取り出す。
それを拡げる、萩原の手が思わず震えた。
無理もない。マリとはこの一年の交際だが、このとこ
ろ、頻繁に会っている仲だったのである。
記事を読みながら、彼の顔は傍目にもそれと判るほど
青ざめて行った。
警察は、犯人をバーの馴染み客のひとりとみて、彼女
の男関係を徹底的に洗っているとある。
早晩、萩原浩一にも警察の調査の手が伸びることは、
免れまい。いや、今日にでも、警察官が尋問に来ること
だって考えられた。
新聞によると死亡推定時刻は一昨日の午後九時。
彼女のマンションの管理人の話から、その日の夕刻、
たまたま非番で家に居た彼女を訪ねて来た客があったこ
とが確認されている。
ただし、訪問客は、外部から直接インターホンで各部
屋に連絡し、マンション入口のドアを解錠して貰うシス
テムのため、管理人室では、解錠スイッチを入れた部屋
番号のランプが点灯するのを見て、訪問客の行先を知る
ことが出来た。
「叔父様、随分真剣なのね。……さては、彼女は叔父様
の愛人だったのかな?」
しかし、萩原には、幾分おどけてみせる京子に調子を
合わせる余裕すら無い。
「京子ちゃん。……お願いがあるんだが……」
口篭る萩原の顔を、京子は不審気にジッと見つめた。
「実は、マリとは少しばかり付合ったことがあるんだ。
……も、もちろん、僕が殺す筈はないが……警察から、
痛くもない腹を探られるのも嫌だし……もし、出来たら
このマリが殺された時間に、僕が君と会っていたことに
してくれると……とても有難いんだが……」
弱々しい声とともに、思わず目を伏せる萩原の顔を、
京子はヒタと見詰める。
「と言うことは、私に叔父様のアリバイを作ってくれと
おっしゃるのね」
「ま、……そう言ったところだが、……勿論、君には、
絶対に迷惑は掛けない」
京子は、答える代りに、スッと立ち上って窓際に寄り
外を眺める。初春の靄に包まれた町並が、下界に拡がっ
ていた。
「いゝわ、叔父様。協力して上げる。……でも、条件付
きよ」
暫く間を置いて、萩原の方を振り返った京子は、手を
後ろに組んで近寄りながら、キッパリと言った。
やゝ上気した顔に、黒目勝ちな瞳がキラキラと輝いて
いる。窓から差し込む薄日の中で、その顔は、ハッと息
をのむほど美しかった。
「有難い!……で、その条件とは?」
圧倒される感じを払いのける様に、萩原は、勢きこみ
ながら聞き返す。
「その条件は、いずれ警察の尋問が終ってからお知らせ
するわ。……でも、叔父様。ひとつ、誤解が無い様にし
て欲しいの。……私にとって殺人事件のアリバイに協力
するってことは、大変なリスクだってこと。……万一の
ことがあれば、私だって偽証罪に問われて、退学させら
れるかもしれないのよ。……だからその見返りに、叔父
様には、相応の犠牲を払って頂きたいの」
「犠牲……だって?」
「そうよ。それも、お金じゃないの」
京子はソファーに戻ると、意味ありげに、萩原の目を
ジーッと覗き込む。
「何だか判らなけど、僕に出来ることなら何でもするか
ら、宜しく頼む」
背筋がゾクッとする様な不吉な予感を感じながら、萩
原は強引に依頼した。
「いゝわ。……その言葉を忘れないでね」
京子は、謎めいた笑みを浮かべて席を立つ。
萩原はホッとして、彼女を見送った。
それから数日間の展開は、萩原の懸念をそのまゝ裏書
する様なものだった。
出版社からの連絡で、警察に出頭を求められたのが、
翌日の朝のことである。
参考人と言うことだったが、二人の担当官から個室で
詳細な尋問を受け、事件当夜のアリバイについては、書
面に記述したものに署名までさせられたのである。
アリバイの裏付けに警官が京子の自宅を訪れたのが、
その二日後で、彼女の電話によれば、やはり証言書に署
名させられたとのことだった。
幸い、警察の疑いも晴れたとみえ、旅行等を差し控え
る様にとの指示も、一週間で解除になり、犯人が見付か
らないまゝに、世の中も平静を取り戻したかに見えた。
そして、その翌週。
萩原は、ホテルに再び京子の訪問を受ける。
彼女が、アリバイ証言の代償を求めに現われことは、
疑いもなかった。
先日と同じ服装で、ソファーに彼と向い合って座った
京子は、ゆっくりと口を開く。
「私ね。昔から叔父様に興味を持ってたの。……そう、
勿論、ひとりの男性としてね。……でも、歳が違い過ぎ
るから、勿論、結婚やセックスの対象としてでは無くっ
てよ」
京子は、バッグの中から煙草を取り出すと、慣れた手
付きで火を点ける。
彼女が煙草を吸うのを始めて見る萩原は、その大人び
た態度に瞠目する思いだった。
「叔父様に限らず、小説家って、思索的な物静かなとこ
ろがあるでしょう。……その穏やかなムードが私、好き
なの。……それに、叔父様って、女性に優しくて献身的
だし、……私、叔父様のような男を、召使いとして傍に
侍らしたいと思ったことがあるのよ」
京子は、目を細めて、フーッと萩原の顔に煙草の煙を
吹き掛ける。
「それにね。私、叔父様の秘密を知ってるの。……三ケ
月程前の叔父様の小説に、グラマーの女のヒップに魅せ
られた男の物語りがあったでしょう。……あのモデルは
私。その女のヒップに顔を埋める主人公の男は、叔父様
あなた自身でしょう!」
京子は、決め付ける様に言うと、煙草の火を灰皿で揉
み消し、立ち上る。そして、萩原の目の前で後向きにな
り、スカートをたくし上げると、やゝ前屈みの姿勢で、
ピンクのパンティーに包まれた豊満なヒップを彼の前に
突き出した。
「最初の条件はね、叔父様の本性を私の前で曝け出すこ
と。……ソレ、あの小説の主人公の様に、行動したら?
……ホラ、ホラ、ホラ!」
京子の掛け声と共に、萩原の目の前で、巨大なヒップ
がプリプリと左右に揺れる。
カーッと頭に血が上った萩原は、絨緞の上に跪くと、
京子の腰に抱きついて尻の割れ目に顔を埋めた。
尻臭とともにムーッと鼻をつく濃厚な女の匂い!
それは、萩原の理性を狂わせ、めくるめく官能の世界
へ彼を没入させた。
「フフフ、やはり思った通りね。……まるで盛りの付い
た犬みたい!」
京子は、軽蔑し切った口調で嘲笑すると、萩原の肩に
足を絡ませ、ひねり気味に彼を押倒す。
そして、仰向けに絨緞の上に転がった彼の顔の上に、
京子の尻が覆い被さった。
「ホラ、叔父様、小説と同じよ。……どう? 本望でし
ょう?」
京子の広い腰骨が、萩原の頬をスッポリ包み込み、股
間の柔肉が彼女の体重を乗せて、彼の顔面全体をジワリ
と圧迫する。
呼吸を奪われて、もだえながらも必死で吸引すると、
尻割れに沿って、僅な空気が強烈な臭気と共に彼の鼻孔
へ流れ込んだ。
思わず、ウウーッと潜もった呻き声を洩らす。
京子は、僅に尻を浮かすと、萩原の顔面を擦る様にし
てパンティーを押し下げる。そして、男の鼻に押し付け
ていたアヌスを彼の顎の上に据えると、今度はクレバス
の襞を萩原の唇の上で押し開いた。
「これからは、小説と違って私の創作よ。……さ、舌を
出して!……アリバイに協力した条件の第二として、私
を天国の気分にして頂戴ね」
彼女は、股間から覗く彼の目を見下ろしながら、高圧
的に命令する。
「そう、そうよ。……その調子。……私が、もういゝと
言うまで、しっかり舐め続けるのよ!」
それから小一時間もの間、萩原は姪の京子の尻に敷か
れて、命ぜられるまゝに、彼女のセックスに延々と舌奉
仕を強いられる。
アリバイを頼んだ弱味につけ込まれたとえは言え、実
の姪に本性を見破られ、嬲られ翻弄される屈辱に、萩原
の顔は紅潮し、口惜し涙で目も霞むのだった。
彼女は、気分が高まって来ると、彼の顔の上で腰を前
後に滑らす様に揺すって、頂点を迎える。
しかも、一回では満足せず、次の高まりまでの間、腰
をずらしてアヌスを男の唇に押し当てた。
「そこを舐めて! 私、そこも感じるの」
耐え難い不潔感、そして女に、こともあろうにアヌス
を舐めさせられる屈辱感に、床に寝た萩原の身体がワナ
ワナと震える。
しかし、京子は容赦しなかった。
萩原の顔の上で、両手を尻に掛けて左右に押し開き、
ウッといきむと、菊座が彼の唇の上で開花する。
京子は、萩原に、その汚れた粘膜の中に舌を差し込む
様に命じたのである。
余りの屈辱に、嗚咽を洩らす萩原。
それを、嘲笑しながら、汚辱の行為を強いる京子。
その光景は、征服者と敗者の明暗を、くっきりと浮立
たせたものだった。
「今日のところは、この辺で堪忍して上げる。……でも
これからは、私が催した時は何時でも、こうやって奉仕
するのよ」
可成りの時間が経った後、京子は、萩原の顔面から、
ゆっくりと腰を上げながら、彼の目をジーッと見詰めて
念を押す。
そして、改めて、自分の股の下で女の分秘液にまみれ
ている萩原の哀れな顔を見下ろすと、勝ち誇った京子の
表情に激しい軽蔑の色がよぎった。
彼女は、口をすぼめていきなりペッと彼の顔面に唾を
吐き掛ける。
新たな辱めにクシャッと顔を歪める萩原。
その顔へ、二度、三度と京子の唾が繰り返して吐き掛
けられた。
「これからは、お前のことは浩一って呼び捨てにするか
らね。……私のことは京子さまと呼んで、敬語を使うん
だよ。いゝね」
のろのろと身体を起し、洗面所へよろめいて行く萩原
の背を、京子の言葉が追い掛ける。
そして、顔を拭いて戻って来た彼に、京子は新たな命
令を下した。
「浩一、お前、こゝへ来て私の前で四つ這いにおなり。
……そして、私の足の裏を舐めるんだよ!」
唇を噛んで床に手を付き、ソファーで足を組んだ京子
の足元にいざり寄る萩原。
その男の顔に、京子の薄汚れた足裏が、ぐっと押し当
てられた。
最初は女の黒ずんだ踵が唇をにじり、ホロ苦い味を彼
の口中に拡げる。次いで足指の付け根が、そして足指が
彼の舌を繰り返し繰り返しもてあそんだ。
「条件の第三……お前は、これからは私の召使い……と
いうより、何でも命令に従う奴隷になること。……いゝ
わね。……コラ、舌を休めるんじゃないの!」
慌てて舌を伸ばす萩原を見下ろして、京子は満足の笑
みを洩らす。
「フフフ、お前のその格好、犬そっくりよ。……でも、
判らないものね。……つい先日までは、私に叔父様と呼
ばれて威張っていたお前が、今じゃ私の奴隷として辱め
を受ける身ね。……これも身から出た錆、アリバイから
始まった転落ね。……で、どう? 自分の姪に奴隷にさ
れた気分は」
「……………………」
「……でもね私の条件は、これで全部終ったわけじゃな
いのよ。……フフッ、びっくりしてるわね。……その、
最後の条件は、当分お楽しみ。……いずれあとで判った
時には、きっとお前は肝を潰すわよ」
何と言うことだろうか!
若い姪に、その奴隷に落された上に、未だ条件を付け
られるとは!
「アラ、私、また催して来たみたい。……ウフッ、私っ
て、足を舐められると欲情する傾向があるのかしら?…
…今度はベッドの上で、たっぷりお前の舌奉仕を受けて
上げる。……さあ、おいで!」
スゴスゴと四つ這いのまゝ、京子の後を追う萩原のさ
まは、既に彼女に完全に征服された奴隷の姿だった。
(続く)
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1990年7月スピリッツ7,8月号
(スレイブ通信42号に再掲載)
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2010/07/31