#25転落のフライト勤務(屈辱の女子寮・懲罰勤務)
阿部譲二
K航空に入社し整備見習員として働く男が、同期入社のスチュワーデス見習の女子社員達に言い寄られるが袖にして恨みを買う。ところが仕事のミスでエンジンを壊してしまい、降格処分を受けて女子寮で懲罰勤務に服することになる。毎日トレーニング用のペダル漕ぎマシンのサドル代わりに顔を女達の尻に敷かれたうえ、フライト勤務で便器にされる。 |
K航空の本社は都心を外れた、とある工業
団地の近くにある。
あたりは中小企業の事務所やショールーム
が軒を接して並ぶ一寸したビジネス街だが、
しょぼくれた住宅地やゴミゴミした路地裏の
商店通りを傍に控えたしょせんは三流の土地
がらだった。
大手の日本航空や全日空とは比較すべくも
ないが、K航空も一応名前だけは、れっきと
した航空会社である。
もちろん、航空機事業法に定められた最小
限の機材と整備施設を有していたし、貨物運
送に限っていえば、かなりの実績も重ねてい
た。
ただし、旅客運送はこれまで路線を限定し
た小規模の運営だったが、最近、東南アジア
への国際路線の認許が得られたのを機会に、
パイロットを確保し、スチュワデスや事務員
達も大幅に増員したばかりである。
柿沼三郎、23才。彼もこの機会に地上勤
務員としてK航空に入社したひとりだった。
T大の機械工学科を卒業した彼の職場は、
機体整備部である。
ここで整備見習員として一年間の課程を終
えた後で、正式社員として登用されるシステ
ムだった。
パイロット見習の連中は、直ちに社外の専
門の養成所に送られたため、入社式の際に顔
を合せただけだったが、大学卒の地上勤務見
習男子十名と、高校卒のフライト勤務見習す
なわちスチュワデス候補の女子十五名は、三
ケ月の本社実習期間中ずっと行動を共にした
こともあって、お互いにすっかり親しい間柄
になっていた。
三ケ月の実習を終えた後は、女子は全員が
先輩のスチュワデスと同じ女子寮に入って、
本格的な訓練に入る。
一方、柿沼等は各職場へ配属されて、それ
ぞれ専門の指導員の元での実習が始まった。
柿沼のように親元を遠く離れて就職した社
員達は、会社の直ぐ傍の独身寮に寝泊りして
いたが、休日や余暇には、近くの女子寮にい
る同期入社の女の子達に呼び出しをかけるこ
とが多かった。
もっとも、まだ一対一のデートではなく、
グループでハイキングやテニス、それに夜は
映画やディスコへと繰り出すこともあった。
さらに毎月一回、同期会と称して全員参加
のリクリエーション行事を企画することが提
案され、一同の間柄は益々親しいものと成っ
て行った。
皆が集まると、勢い職場での不満や上役の
批判が格好の話題となる。しかし、女の子達
の語るスチュワデスの世界は、柿沼等男性に
は想像もつかぬものだった。
彼女達の言によれば、それは徹底した年功
序列の世界である。
入社年度もさることながら、それに付随し
た給料の差が、そのまま人間の階級の差とな
っていた。
彼女等は、先ず給料の上の先輩には絶対服
従することを叩き込まれる。
それは、かっての軍隊における上下関係を
思わせるものだった。いや、女だけの特殊世
界におけるそれは、もっと陰湿でねちねちし
たものである。
新入のスチュワデス見習は、女子寮ではひ
とりづつ先輩のスチュワデスと同室にされ、
徹底的に仕込まれるのである。
それも、仕事の内容は二の次で、先ずどん
な命令にも絶対服従することが優先する。
「ひどいのよぉー。下着を洗わせたり、肩や
腰を揉ませるの。それも、ちょっと力を抜く
と、気が入ってないって罰を与えられるわ」
重松京子が、口を尖らせながら訴えた。
一寸受け口の、ぽっちゃりした笑窪の可愛
い子である。
「へえー、いったいどんな罰だい? 鞭でで
もひっぱたかれるのかい?」
柿沼の隣りで一諸に聞いていた男が、身を
乗り出すようにして口を挟んだ。
「いやーね。……口ではとてもいえないわ」
男の目に好奇の光を見てとると、京子はと
たんに口をつぐんだ。
「京子のかわりに、私が言って上げる。……
犬のように四つ這いにさせられて、汚い足の
裏を舐めさせられるのよ。……顔の上に跨が
られて、アヌスを舐めさせられた女の子もい
るわ。……ようするに、うんとみじめな目に
会わされて二度と反抗出来ないように洗脳さ
れるのよ」
勢い込んで続けたのは、京子の親友の緒方
徹子である。
大柄で丸顔の彼女は、高校時代バレーボー
ルの選手だったそうで、みるからにがっちり
したボリュームたっぷりの体格だった。
二人共、柿沼に好感を持っているらしく、
何かと口実を設けては彼に接近しようとして
いる。
しかし二人に関心の無い柿沼にとっては、
何ともわずらわしいかぎりだった。
ともあれ、先輩にいびり抜かれた見習達も
一年の実習期間が終りに近付くと、たくまし
く成長して一人前のスチュワデスとしてフラ
イト勤務につくようになる。
また同期の男子地上勤務員達も、見習のカ
リキュラムを終って実務実習についていた。
そして、この頃には、柿沼の同期生達の間
でも、自然の成行として幾組かの男女のカッ
プルが出来ていたものゝ、柿沼自身は依然と
して重松京子と緒方徹子の二人に、しつこく
付き纏まわれて閉口していた。
ある夜のこと、夕食を終って独身寮の一室
でくつろいでいた柿沼は、突然、緒方徹子に
電話で呼び出された。
近くの喫茶店まで出て来てほしいというの
である。
春三月とは云え、まだ肌寒い気候である。
彼は厚手のジャンパーを羽織ると、寮の直
ぐ裏手にある待合せの場所へ赴いた。
場末には珍しく本格的なコーヒーを飲ませ
る店で、薄暗い店内にはテーブル毎に淡い照
明が置かれ、甘いムードを醸し出している。
そして、奥まったコーナーの席に待ってい
たのは、緒方徹子だけではなく、重松京子の
顔も並んでいた。
二人は何時になく真剣な面持である。
柿沼の脳裏にいやな予感が走った。
果して、二人は彼に向かって、両名のうち
どちらを選ぶのか、この場で決めてほしいと
迫ったのである。
「そ、そんなことを、急に言われたって……
よ、よく考えてみなくっちゃ……」
たじろぐ柿沼は、しどろもどろである。
その顔を見つめながら、京子が身を乗り出
すようにして、幾分切口上で続けた。
「いいこと。私達、もうこれ以上我慢出来な
いの。……貴方がどちらを選ぼうと、文句は
いわないわ。……だから、今、こゝで貴方の
心底を伺いたいの」
「そうよ。私達二人に気を持たせながら、ど
ちらにも良い子になろうなんて、もう許せな
いわ。はっきりさせてちょうだい!」
徹子も感情が激して来たと見えて、声が上
ずっている。
追い詰められた彼は、こゝに至っては、よ
うやく腹を決めざるをえなかった。
「わかったよ。じゃあ言わして貰うけど、僕
は今後は、君達のどちらとも付き合って行く
気は無いんだ。……もともと、僕の後を追い
回していたのは君達の方なんだぜ。僕にとっ
てみりゃ良い迷惑さ。……そりゃあ、僕も男
だから、女の子にもてるのは悪い気はしない
さ。しかし、こういっちゃ失礼だけども君達
は学歴も高校卒だし、僕の相手としてふさわ
しい女の子とは、僕自身思っていないんだ。
……まあ、二人とも悪しからず僕の立場を理
解してくれたまえ……」
向いの二人の顔がスーッと青ざめ、そして
今度は怒りで紅潮するのを見て、柿沼三郎の
声はしだいに弱々しくなって行った。
「ひ、ひどーい! 迷惑だなんて、良くいう
わー」
「そうよ。それに私達が高校卒で、何が悪い
のよ!……私達が、あなたにふさわしくない
って、それ、どういうことなのよ!」
徹子と京子が、交互にヒステリックな声を
上げる。
これ以上かゝり合っても話合いはつかない
と見て取った柿沼は、中腰になって椅子を横
へ押しやった。
「じゃあ、僕はこれで……悪く思わないで…
…失礼するよ」
二人を残して立去る彼の背に、追いすがる
ように
「逃げるの?……卑怯者!」
「覚えてらっしゃい!……このまゝではすま
さないわよ」
と女達のかん高い声が突刺さる。
耳を塞ぐようにして店を出た彼は、足早に
寮の自分の部屋に戻って、ようやく落着きを
取り戻した。
(やれやれ、少し荒療治だったかな。……で
もこれで、やっと厄介払いが出来たわけだ)
幾分ホッとした気持になったものゝ、まだ
耳の底に二人の非難の声が残り、後味の悪い
思いだった。
その翌日、彼は寝不足で腫れた目を擦りな
がら、試験運転台のコントロールパネルの前
に立っていた。
さすがに昨夜は、あれから熟睡出来なかっ
たのである。
「オーイ。エンジンの上に誰か工具を置忘れ
てるぞ!」
反対側で彼を見守っている作業長が、よく
透る声を張り上げた。
ちょうど、そのエンジンの運転スイッチを
入れたばかりの柿沼は、慌てゝ機体の下に走
り寄った。
爪先立ちで手を延ばし、彼が置忘れた工具
を掴む。……その瞬間、ツルッと手が滑り、
工具はエンジンの吸気孔の中へ落込んだ。
とたんに、バリバリッとすさまじい音がし
て、ピタリと運転が止まる。
「馬鹿ヤロー! いったい、何てことしてく
れたんだ。……コントロールパネルを離れる
時は、必ずスイッチを切ってからと、あれほ
ど繰返していったのに、いったい何を聞いて
たんだ!」
作業長の怒声が、柿沼の耳に雷のように響
いた。本当に一瞬の出来事である。
それから一時間後、彼は整備部長の机の前
で、青ざめて立すくんでいた。
作業長が、くどくどと状況を説明する。
それを聞く部長の顔が、ひきつったように
歪んだ。
いたゝまれぬ風情でいったん、腰を浮かせ
た部長は、再び、どっかりと腰を下ろすと、
怒りを抑えながら口をきった。
「オイ、柿沼。えらいことをしてくれたな。
あのエンジンはな、ロッキード製の新品なん
だ。……お前のミスのおかげで心臓部のロー
ターがめちゃめちゃに壊れたんだ」
「す、すみません。私の不注意でした。……
あ、あの、必ず弁償しますから……どうか…
…」
「弁償だと? 修理費は少く見積っても、五
千万円はするんだぞ。それに、一ケ月は使用
不能だ。……その間あの機は運行不能になっ
たんだからな。……会社の営業損失は莫大な
ものさ」
部長と作業長の二人は、黙って頂垂れる柿
沼をしばらくにらみ付けていた。
K航空の常務取締役会で柿沼の処分が決っ
たのは、それから約一ケ月後のことである。
整備職員から雑役労務員に降格されたうえ
に、女子職員寮で無期限の懲罰勤務に服する
こととの但し書きが付いていた。
雑役労務員と云うのは、中学出の見習い女
子社員よりも低い、もちろんK航空では最低
の身分である。
しかも、社の賞罰規定には、いちおう懲罰
勤務の記述があるものゝ、実際に適用された
のは彼が最初とのことだった。
余りに厳しい処分にたまりかねた柿沼は、
早速、辞表を片手に勤労部の人事課長の所へ
出向いた。
「君、辞表を出すのはいいが、その後どうな
るかわかっているのかい? 会社は、直ぐに
君を相手取って損害賠償の訴訟を起すことに
なるよ。君が訴えられてないのは、あくまで
君が当社の社員だからさ。……恐らく莫大な
金額が提示されて、君は支払い不能で監獄行
きだろうな」
「で、でも、降格は仕方がないとして、懲罰
勤務とは厳しすぎます。……私だって悪気が
あってやったことじゃないんですから……そ
こを何とか……」
辞表の提出を封じられた柿沼としては、最
早嘆願するしか方法がなかった。
「それはね、君、みせしめ≠ネんだ。わか
るかね? 君の会社に与えた損失は莫大なん
だよ。こんなことが繰返されたら会社は潰れ
てしまう。……だから、全社員の気を引きし
めさせる必要がある。それには、君が厳しい
懲罰を受けている姿を見せて、皆に警告する
のが一番なのさ」
「しかし、せ、せめて女子寮勤務だけでも勘
弁願えませんか?……同期の女の子達に笑い
者にされるのは……どうにも我慢出来ないん
です」
「きみぃ、何か勘違いしてやしないかね?
女子寮での君の懲罰勤務は、女の子達に笑わ
れることじゃなくって、彼女等に嬲られるこ
となんだぞ。……君が女の嬲り者にされてい
るのを目の辺りにすれば、皆が気を引締めて
ミスをしないようになるのさ」
「ひ、ひどい! 何とか助けてください……
お、お願いします!」
しかし、柿沼の咽喉を絞るような哀願は、
冷たく無視されただけだった。
その翌日、女子寮に着任した柿沼は、早速
全員の前に引き出された。
寮長の斎藤敦子がニヤニヤ笑いながら彼を
紹介する。
「皆さん。ここに居るのが、今日からこの女
子寮で懲罰勤務に服する柿沼三郎です。……
ここでの呼び名は、そうね、サブにしましょ
う。……こいつは、雑役労務員なんだからサ
ブって呼び捨てでいいわ。……もちろん、皆
さんに対しては敬語を使わせます。……いい
わね、サブ!」
斎藤敦子は、柿沼の方を振り向くと意地悪
く念を押した。
黙って頷く彼の頬に、いきなり彼女の平手
打ちが見舞われる。
ピシッと意外に大きな音が響き、女の子達
の間からクスクス笑いが起った。柿沼の顔は
みるみる赤味を帯びる。
「いいかい。目上の人への返事をさぼるんじ
ゃないよ!」
「わ、わかりました」
「わかったら、罰として、そこで四つん這い
になって犬鳴きをして御覧!」
それは彼にとって、目から火が出るような
屈辱だった。昨日まで、同僚だった若い女性
達の前でみじめな姿を曝すのである。
目が眩む思いで、四つ這いになった彼の頭
を斎藤敦子のハイヒールが踏み付けた。
「ソラ、頭が高いわよ。……サー、鳴いてが
らん。フフフ」
ワ、ワン……と元気の無い声が彼の口から
洩れる。……とたんに、女達の中でドッと笑
いが爆発した。
「じゃあ皆さん、このサブのオリエンテーシ
ョンの係りを任命しまーす。つまり、犬の飼
育係みたいなものね。……重松京子さん、そ
れに緒方徹子さん、宜しくね。サブをたっぷ
り仕込んでちょうだい。……サブ、これから
は、この二人がお前の上司なんだからね。ち
ゃんとお仕えするんだよ」
何ということだろうか。よりによって、こ
の二人が自分の上司とは! 柿沼は泣きたい
思いだった。
一同が解散したあと、彼は寮の談話室で、
ソファーにくつろいだ重松京子と緒方徹子の
二人の前の床に正座させられていた。
昨日まで、夢にも思わない事態だった。
先日冷たく突放した二人に、今はしっかり
捉えられている。
それも、労務員に降格された彼に上司とし
て君臨する立場なのである。
「顔をお上げ!」
頂垂れた彼の頭上に京子の声。
そっと見上げると、二人の顔には意地悪そ
うな薄笑いが浮んでいる。
「実はね、お前がこの寮で勤務すると聞いた
から、私達の部下に欲しいと申し出たのよ」
やはり彼の想像した通りである。
「この前のお前の態度はなーに? これから
は毎日、たっぷり思い知らせてやるわ」
京子の横から、徹子が、いかにも憎々しげ
に続ける。
柿沼の背筋に、スーッと冷たいものが走っ
た。……彼のすぐ目の前で組まれた京子の足
先から、スリッパがコトリと落る。
裸の足先から微かに饐えた臭いが漂った。
「サブ、お舐め!……どうしたの? わから
ないの?……フフッ、そう、私の足を舐める
のよ」
思わず京子を見上げる彼の顔を、スーッと
伸ばした彼女の足裏が捉えた。
「ホラッ、足の裏の汚れを、お前の舌で舐め
て清めるのよ……そうそう、その調子よ!」
彼の唇を、ザラザラした京子の足の踵がに
じる。
思い切って出した舌が足指に挟まれ、慌て
て開いた口の中に女の足先が差し込まれた。
塩っぽい苦味が口の中いっぱいに拡がる。
「フフフ、昨日まで、あんなに威張っていた
男が哀れなもんね。……クックックッまるで
犬そっくり! サブ、どうだい? 女の足の
裏はおいしいかい?」
徹子の言葉で、今までこらえていた無念さ
が一勢に噴き出して、目の前がボーッと涙で
曇った。
「サー、今度は私のを舐めるのよ!」
徹子の足が横から割り込んでくる。
こちらは汚れもひどく、足裏が鼠色に光っ
ていた。
「そうよ、もっと丁寧に心を込めるのよ。…
…どおお? 思い知った? お前は、もう二
度と私達に頭が上らないのよ。……サ、いっ
て御覧。私は貴女達の奴隷です。毎日うんと
辱めて下さいAってね……フフフ、さぞ悔し
いでしょうね」
徹子に強制されて、その屈辱の言葉を、途
切れ途切れ口にする彼の咽喉から、思わず嗚
咽が洩れるのだった。
K航空では、この業界の慣例ではあるが、
スチュワデス達を五人宛のグループに分け、
各グループの勤務を交代制にしている。
つまり、彼女等は二週間のフライト勤務を
終った後は、一週間の地上勤務に服すること
になっている。
したがって、女子寮には在籍十二グループ
のうち、常にその三分の一の四グループが、
たむろしていた。
地上勤務といっても、特に決まった仕事が
ある訳ではなく、女子寮での雑用をする程度
で、いってみれば、フライト勤務での疲れを
とるための一種の休養に外ならない。
重松京子と緒方徹子のグループは、たまた
まこの地上勤務期間に入った所だった。
その上、柿沼にとって不運だったことは、
彼のミスで運行不能になった機体の補充がつ
かず、彼女等の乗るフライトがキャンセルさ
れたことである。
このため、彼女等は計四週間もの間、地上
勤務が続くことになっていた。
したがってこの時期に女子寮での懲罰勤務
に着いた柿沼三郎は、暇を持て余し気味の彼
女等にとって格好の慰み者だったのである。
寮の談話室で、京子と徹子に散々辱しめら
れた後、柿沼はこの建物の地下に設けられた
トレーニング用のジムに連れて行かれた。
体育館を思わせる広い板張りの部屋に、い
ろいろな体力トレーニング用の器具が並んで
いる。
朝食後のこの時間帯は、腹ごなしの運動に
こゝを利用する者が多く、どの器具の周りも
殆ど満員の盛況だった。
服装は、本格的なレオタード姿や、トレー
ニングウエァで身を固めた者が多かったが、
中にはカジュアルなスカートにセーター姿の
者もいた。
とにかく、若い女達の汗と体臭でムンムン
と熱気がたちこめている。
その入口に近いコーナーに、自転車のペダ
ル漕ぎ方式のトレーニング器具がある。
ペダルもハンドルも自転車そのものだが、
車輪は前輪だけで、ペダルからベルト掛けで
駆動され、ブレーキの調節でペダルを踏む荷
重が変るようになっていた。
この器具の前で立止まった京子は、意味あ
りげに柿沼の方を振り返った。
「これ、わかるでしょう。ペダル漕ぎで足の
贅肉が取れるから、一番利用度が高いのよ」
何のことかわからずポカンとしている柿沼
の前で、京子はその器具に近付くと、サドル
の部分を取り外した。
そして、代りに徹子が傍の戸棚から出して
来た、奇妙な形をしたサドルを取り着ける。
それは、普通の自転車のサドルと全く変っ
て全体に形が大きいと同時に、上面がくぼん
でいた。後端には短い革紐が付いている。
京子は、このサドルの後方に小さな腰掛け
を置き、ニヤニヤ笑いながら柿沼を手招く。
「サブ、こゝに掛けなさい。そう、サドルに
背を向けるの。……首を後へ曲げて上を向い
て……そしてサドルを枕にして御覧」
彼の後頭部は、すっぽりとサドルのへこみ
に嵌まり込む。
彼女は、サドルの高さを調節して彼の頭を
水平に保つと、革紐を彼の首に巻きつけて固
定した。同時に彼の両手を後に回し、サドル
の支柱に縛り付ける。
「これでいゝわ。……サブ、わかった?……
今度は、お前の顔がそのまゝサドルになるの
よ。フフフ」
京子の言葉は、正に晴天の霹靂だった。
内心、こゝで曝し者にされるのかと想像し
ていた柿沼の身体に、一瞬、衝撃が走った。
反り身になった上半身がピクリと震え、腰
掛がカタンと音を立てる。
しかし、両手と咽喉の拘束は、びくともし
なかった。
「アラアラ、びっくりしたの? でもね、こ
れは私達二人で考えたアイディアよ。お前の
懲罰が決まってから、大急ぎで造らせたの」
そして、徹子が、いかにも楽しそうに続け
る。
「お前はね、これで完全に洗脳されるわよ。
……何しろ、私達全員が毎日お前の顔に跨が
ってペダル漕ぎをするんてすもの。女の尻の
臭いをその頭の芯に刻み込ませてやるわ。…
…どおお? 悔しい? 少しはこたえた?」
彼の歪んだ顔を見下ろしながら、京子が、
ゆっくりスカートをめくって、これ見よがし
に片足を上げた。
そのピンクのパンティの股間が、汚れで黄
色く変色している。
「ホラ、お前のためにこんなにに汚しておい
たのよ。……じゃあ、私がお前の筆下ろし…
…じゃなかった、顔下ろしをしてやるわ!」
京子は、柿沼の顔を挟み込むようにして、
顔をそのぽってりした尻に敷く。
異臭がツーンと彼の鼻の奥を突いた。
すげなく捨てた女の部下にされ、辱しめら
れる身のみじめさが、その臭気と共に脳裏に
焼付けられて行く。
そのうち、鼻と口を塞がれた息苦しさが、
しだいに募って来た。
そのとたん、顔の上の京子の尻が、モコモ
コと動き始めたのである。
明らかに、彼女の足がペダル漕ぎを開始し
たに違いなかった。
そして、それは実に予想外の刺激を彼にも
たらした。
彼の両頬を挟み込む尻球が左右に躍るたび
に、股間の割れ目が、彼の鼻を口を、ぐいぐ
いとにじるのである。
その度に、饐えた尻臭が、まるでポンプで
押し込むように、彼の鼻孔に送り込まれる。
しかも、しだいに汗ばんで来たパンティは
その汚れを燻蒸し、臭いを一層強烈なものと
して行く。……それは、彼の屈辱感をこれ以
上ない程、効果的に高める役目を果したので
ある。
「ウッ…ムゥ…ウッ…ムゥ…」
ほどなく京子の尻の下から、柿沼の嗚咽が
洩れ始めたが、それも彼女の反復する尻の動
きに合わせてリズミカルに変調され、聞く者
に一種の滑稽感を与えた。
珍しい見世物に、周囲に群がって来た女達
から、一斉にドッと笑い声が上がる。
京子の尻の下でそれを聞く柿沼の無念さは
まるで胸を破らんばかりに募る一方だった。
彼にとっては、その辛い時間が無限に続く
ように思えたが、京子の尻に敷かれてから、
彼女がようやく足の運動を終えて尻を上げ
るまで、ものゝ十五分もかゝっていない。
顔面に掛かる重圧から解放されて、ホッと
したのも束の間、今度は徹子が、皆の黄色い
嬌声の中で彼の顔を跨いだ。
京子に劣らぬボリュームのあるヒップが彼
の視界を閉ざし、顔の上ではずむように躍動
する肉塊が、また一味違った臭気をパンティ
越しに彼の脳裏に刻み込む。
柿沼の顔面を思う存分蹂躙して、やっとペ
ダルを漕ぐ足を止めた徹子は、体重を尻に掛
けて一休みした。
呼吸を奪われてもがく男を見下ろして、僅
かに尻を浮かす。
救われた気持で大きく息を吸い込む彼の鼻
孔めがけて、パンティの布地を震わせる勢い
で、一発、また一発と派手な音を響かせなが
ら、彼女のアヌスからガスが放出された。
予想もしなかった辱めに不意を付かれて、
柿沼は全身を痙攣させて悲痛な呻き声を立て
る。……と、同時に、周囲でこの有様を見守
っていた女達の間に爆笑の渦が巻起った。
京子と徹子に嬲り抜かれる無抵抗な男の姿
は、女達に激しい軽蔑と同時に、弱い者いじ
めの誘惑をかき立てたようだった。
徹子が柿沼を解放すると、女達は次々と彼
の顔に跨がる。そしてペダル漕ぎを、いや、
尻の下で呻き声と共にモゾモゾと身もだえす
る男のもがきを股間に感じ取って楽しんだの
である。
昼食を知らせるチャイムが鳴った時には、
ちょうど十人目の女のヒップが、柿沼の顔の
上で激しく躍っていた。
革紐を解かれようやく解放されたものゝ、
彼は床の上にへたり込んで、大きな吐息をつ
く。……女達の尻でにじり抜かれた顔は、鮮
かに紅潮して火照りを帯びていた。
「フフッさすがにこたえたようね。いいわ、
昼からも続きをしましょう。……アラ、お前
のその顔、くさーい臭いがするわよ。私達の
お尻の香りが、擦り込まれたって訳ね。……
そうだ、お前、これからは、いつも、頭を私
達のお尻より低くしていなさい」
「プッ、それがいいわ。いつでも私達のお尻
を上に仰いで、四つ足で這い回るのね。……
お前の新しい身分にふさわしいわよ。後で、
犬の首輪を穿めて上げるからね」
京子と徹子は、完全に気力を失った柿沼を
今度は言葉でいたぶる。彼もさすがに無念さ
で目がボーッと霞んだ。
この女子寮の食堂は一階の談話室の隣で、
もちろんセルフサービス方式である。
入口の横に各自食事を受取る配膳窓が設け
られ、出口の傍にある食器返却窓の下には、
食べ残しを捨てる大きなポリバケツが置かれ
ていた。
昼食で賑う食堂の人混みの中で、食事を載
せたトレイを片手に、テーブルを探す京子と
徹子の足元には、柿沼三郎が哀れな四つ這い
の姿で従ってっている。
首には、早速、古い犬の首輪が穿められ、
そこから延びた鎖が、京子の手にしっかりと
握られていた。
みなの注目の的になっていることを意識し
て、彼の首筋のあたりは屈辱でで真っ赤に染
まってい。
「ホラ、サブ、お前の食べる分は、あのバケ
ツの中の残飯だよ。横の汚れたお皿で掬って
持っておいで。……コラ! 立ち上がるんじ
ゃないよ。四つ這いで、口にくわえて持って
おいで」
京子の放した鎖の端を床に垂らしながら、
柿沼は、彼女等の残飯を盛った皿をくわえ、
席についた女達の足元へ引きずって行った。
その、みじめさを絵に書いたような男の珍
妙な格好に、あちこちで女達の嘲笑が浴びせ
られる。
彼を迎える京子も思わず噴き出した。
「プフッ、お前、本当に犬そっくりだよ。さ
ぞかし恥ずかしいだろうね。でも、もっと皆
に笑ってもらうんだよ。……ソラ、そこでチ
ンチンしてごらん!……ホレ、どうしたの?
私の命令がきけないのかい!」
テーブルを前の椅子に座りながら彼を見下
ろす彼女は、柿沼にとって最早昨日までの京
子ではなかった。
部下にされた挙句、足裏を舐めさせられ、
尻臭を嗅がされて卑しめられた結果、彼女は
彼にとって征服者として君臨する存在になっ
ていたのである。
僅か半日だが、すでに彼の中に卑屈でオド
オドした態度が芽生えていた。
ためらいながらも、膝まずいたまゝ両手を
前に垂らして犬真似をする。
「いいわよぉ……次は三辺回ってワンと鳴い
てごらん!」
周囲の女達の好奇の視線を痛い程感じなが
ら、彼は懸命にその屈辱の行為を演技する。
蚊細い声で犬鳴きをすると、女達の間から
いっせいにクスクス笑いが起った。
柿沼の顔は、真っ赤に染まっている。
「ウフフッ、お前、犬がとってもお似合よ。
鳴き声も今朝よりずっと犬らしくなったわ。
……さ、それじゃ、その残飯をお上がり。も
ちろん、手を使わずに這いつくばって食べる
のよ。……ア、一寸待って」
京子は、目の前のスープを口に含むと、頬
を震わせて含嗽をする。そして、身をかがめ
ると、彼の前の床に置かれた皿の残飯の上へ
プーっと吐きかけた。
「味付けして上げたのよ。有難くお礼をいっ
てから、食べなさい!」
目の前の皿には、色とりどりの食べ残しが
雑然と盛られ、その上に、京子の唾混じりの
スープがかゝって、ぬめりを帯びている。
皿の上に顔を寄せたものゝ、不潔感が先に
立って思わずためらいが出た。
と、彼の後頭部をスリッパを履いた女の足
がぐっと踏み付ける。柿沼の顔は、残飯の上
へ押し付けられた。
諦めの念が彼の心を満たすと、自棄気味に
ピチャピチャと音を立てゝ、残飯が次々とそ
の咽喉へ送り込まれる。同時に悔し涙がポタ
ポタと残飯の上へ落ちた。
午後も再びペダル漕ぎのトレーニング器具
に拘束された柿沼は、引き続きスチュワデス
達の嬲り者になる。
夕刻に解放されるまで、彼は新たな十数人
の若い女性の尻の下で呻き声を上げ続けた。
その後は夕食まで、女達の下着やソックス
の洗濯である。
色とりどりの汚れたパンティが彼の前に山
と積まれ、異臭を放った。
洗濯機では汚れの落ちにくい股間のあたり
を、手揉みで洗うのである。
黄色や茶褐色の便の滓や、赤味を帯びた生
理の澱物まで様々で、臭気にむせびながら手
を動かす柿沼の胸は、改めて情なさでいっぱ
いになった。
夕食も昼と同様、女達の残飯を四つ這いで
食べさせられる。……今度は徹子が味付け役
で、意地悪い笑を浮べながら、彼の目の前の
残飯にたっぷり唾を吐き掛けた。
夕食後は休憩の時間も与えられず、便所掃
除を命じられる。
そして、その後、風呂場の脱衣場で湯上り
の女達の身体を、延々とマッサージさせられ
た。
くたくたになって与えられた便所横の物置
の中で横になったのは、もう深夜近かった。
こうして、柿沼の女子寮での懲罰勤務は、
苦しみと屈辱の連続で蓋を開けたのである。
もあった。
その後、女子寮のジムでのペダル漕ぎは、
彼を洗脳するメーンエベントとしてますます
エスカレートして行った。
新たにフライト勤務から帰ったスチュワデ
スが加わり、彼は日中の殆どの時間を、ベダ
ル漕ぎの器具に縛り付けられ、彼女等の尻を
顔に受けて過ごすのである。
徹子が、皆に先がけて、始めてパンティを
脱いで彼の顔面に跨がったのは、あの同期会
の次の日のことだった。
アヌスの粘膜をじかに鼻に、口に受け、そ
の上、クレバスの秘肉まで顔面に押し付けら
れる。
唇がまくれ、粘膜がこれを擦ると、これま
での匂いだけでなく、女の股間の様々な味ま
でも口にさせられるのである。
しかも、彼女はペダルを漕ぎながら、巧み
にクリトリスやラビアを彼の顔面に押し付け
て、オナニーと同様の効果を得ることに成功
した。
彼女の喘ぎ声と共に、まるで卸し金のよう
に彼の顔面には女の股間が擦り付けられる。
彼女の気分が高まると、匂いの強い粘液が
クレバスから分泌され、彼の顔を覆った。
徹子が彼の顔の上で首尾良く頂点に達する
のを見て、当然、外の女達も彼女を見習うよ
うになる。
哀れにも柿沼の顔は、スチュワデス達のオ
ナニーの道具と化してしまった。
こうなると、頂点を何回も味わいたくなる
のが人情で、彼の顔に跨がる一人当りの時間
も二十分、三十分と延び勝ちになる。
徹子に先を越された京子も黙っていなかっ
た。
「サブ、お前、私がペダルを漕いでいる間、
口を開けて舌を出してゝ御覧。……そうそう
もっと出すのよ。……フフフそうよ。あゝ良
い気持!」
彼の舌は、京子のクレバスに挟み込まれ、
彼女の尻が前後に動く度に、まるでスポンジ
のように揉みくちゃにされた。
人一倍、分泌液の多い京子が達した後は、
彼の顔は一面にねばねばした粘液で覆われ、
目も開けられない。
激しい動きにヘアも何本か抜けて付着し、
見る者に不潔感を起させるぼどの無残なあり
さまだった。
しかし、傍に置かれた濡タオルでそれが拭
われると、休憩の暇も無く次の女が跨がって
くる。
こうして使われているうちに彼の心には、
女の尻や股間に対する、恐怖にも似た威怖心
が芽生えてきた。
すなわち、ペダル漕ぎの器具から解放され
た後でも、四つ這いの姿勢で女の尻や股間を
仰ぎ見ると、威圧感を覚えるのである。
我ながら情けなかったが、毎日その尻や股
間に顔を敷かれ、にじられ、汚される身にと
っては、当然の帰結だったかも知れない。
彼のそうした反応を敏感に感じ取ったのは
やはり京子だった。
「サブ、お前はこの頃、私達のお尻を見て震
えるようになったわね。……とうとう、お前
も洗脳されたって訳ね。……ホラ、これが恐
い? ホラホラホラ!」
京子は彼の顔のすぐ前で、わざとその大き
な尻を振って見せる。
それに文字通り圧倒されて、たじろぎを見
せ、いっそう卑屈になる彼を見て、女達はま
すます彼を馬鹿にし見下げるようになった。
こうして四週間が経ち、いよいよ京子や徹
子達が、東南アジア路線のフライト勤務に着
く日がやって来た。
K航空のスチュワデスは、ジャンボ機のフ
ライトの場合、五人が一組になって乗り込む
のがきまりだった。
ひとくちにスチュワデスといっても、年功
によって序列があり、グループリーダー役を
パーサー、その補助役を勤めるのがアシスタ
ントパーサーで、何れも一定の勤続年数が要
求される。
入社して何年かは、役の付かないただのス
チュワデスの扱いだった。
京子と徹子は同じグループで、もちろんヒ
ラのスチュワデスである。
外の三人は役付きの先輩達で、彼女等も頭
が上がらなかった。
ことにパーサーの斎藤敦子は女子寮の寮長
だった。
そこに柿沼が、京子と徹子の部下の雑役用
務員として乗り込むことになったのである。
二人にとって、彼は、先輩にいびられた時
の格好のうさ晴らしの対象であった。
K航空では経費節減のため、以前から機内
の清掃はスチュワデスの役目とされている。
乗客を乗せる前の機内の掃除の際、早速、
柿沼は雑役労務員として、彼女等に顎でこき
使われる羽目になった。
それも、トイレやキッチンの床等、人の嫌
がる場所ばかりが割り当られる。
それでも、終始四つ這いの生活から、初め
て人間並に二本足で立つことを許され、生き
返ったような気持だった。
京子や徹子以外の三人も、女子寮で、毎日
柿沼を尻に敷いていた連中で、彼を馬鹿にし
切っている。
したがって、少しでも抜け落ちがあると、
頭ごなしに彼を罵倒した。
出発の時刻が近付き、客が乗り込み始める
と、さすがに人前をはばかって、彼を口ぎた
なく罵ることは無くなった。
その代り、パントリーを兼ねた狭いキッチ
ンの中で、客に出す飲物のワゴンの準備や、
機内食のトレーへの盛り付け等が、彼の仕事
になる。
彼に取っては馴れぬ仕事のため、失敗が続
出する。
その度に、女達は、お仕置と称して、彼を
床に平伏させ、ハイヒールで彼の頭や顔を足
蹴にした。
そのうち、機は順調に離陸し、急角度で上
昇を続けて行く。
ほどなく、それが水平飛行に移り、機長の
アナウンスが始まった。
とたんに、スチュワデスの動きが慌ただし
くなり、乗客への飲物のサービスが始まる。
飲み物に続いて、食事が出される。
この頃になると、キッチンは戦場のような
忙しさである。
柿沼もとうぜん、女達の矢継ぎ早の命令で
キリキリ舞いをしていた。
忙しさで気の立った女達は、まるで洪水の
ように彼に小言を浴びせる。
「サブ、そこの紙コップを取って! それじ
ゃないったら、マヌケ!」
「ホラ、ナプキンが落ちたわよ。ボヤボヤし
ないで、すぐ拾いなさい。このドジ!」
ナプキンを拾うために身をかがめた彼の腰
を、罵声と共に徹子がポンと蹴る。
とたんにバランスが崩れて、彼は床に突ん
のめった。
「オーオー、やっぱりお前は、床を這い回る
のがお似合だね。……こゝはもういいから、
あっちでトイレの掃除でもしておいで!」
徹子にいわれるまゝに、機内四ケ所に設け
られているユニット式のトイレを、次々に掃
除にかゝった。
出発からそう時間が経っていないのにすで
に汚れが目立つのは、満席の団体客のマナー
の悪さが一因である。
出発前に教えられたように、便器の中まで
手を突っ込んで、付着した汚物を拭い取り、
床を洗い、洗面台を清める。……これを繰返
して行くうちに、みじめさが彼の心を満たし
て行った。
機は順調に光度を維持して飛行を続けてい
る。……天候も良好で、揺れも少く穏やかな
フライトであった。
食事の跡片付けが終ると、スチュワデス達
はホッとひと息つく。
間もなく映画が始まり、客からの呼び出し
が絶えると、彼女等はキッチンに集まって、
カーテンを閉めておしゃべりをしながら食事
を始めた。
二畳程の狭いキッチンに、折りたゝみ式の
低いスツールを出して五人が座ると、さすが
に窮屈だった。
柿沼はといえば、五人の女達の足元にペタ
リと座り込んで、彼女等の足を揉まされてい
た。
突然、ガタンと音がして、京子の座ってい
るスツールのヒンジが外れ、彼女の身体が大
きくかしぐ。
やっとのことで踏みとどまったものゝ、ス
ツールが、最早使いものにならなくなったこ
とは明かだった。
「サブ、こゝへ来て、私の椅子におなり!」
いわれるまゝに四つ這いになった彼の背に
京子はドンとヒップを据える。
何事もなかったかのように、食事とおしゃ
べりが再開された。
椅子にされた柿沼は、彼女等に完全に無視
された形である。
背中の京子の重量は一部が腰から足に、そ
して残りが肩と腕にズッシリと掛かり、時間
が経つにつれて、それはジリジリと確実に重
味を感じさせて行った。
三十分もすると、彼の顔は紅潮し、床に着
いた腕の肘から手首にかけてジーンと痺れて
来る。
せめて食事の終るまでと、祈るような気持
で我慢したのに、京子は食事を終えた後も、
そのまゝ煙草に火をつけ、おしゃべりに余念
がない。
みじめな姿勢で無視され続ける屈辱と、し
だいに感覚が薄れて行く両腕……柿沼は辛さ
の余り、思わず低い呻き声を洩らした。
隣に座っている徹子が気付いて覗き込む。
「ちょっとちょっと、京子、サブの様子を見
てごらんなさい。……顔を赤くして、うなっ
てるわよ」
「ホント。……サブ、これしきの辛抱が出来
ないなんて、本当にだらしないわよ!……フ
フフ、どおお?……もっと辛くして上げよう
か。ホラ、これでどう? ホラホラッ!」
京子は、彼の背中でわざと尻を揺すってみ
せた。
限度に来ていた彼の腕がガクンと崩れ、肩
が前へ落込む。
幸い、背中の京子は予期していたとみえ、
素早く立上がっていた。
「危ないじゃないの! 私が転げ落ちて頭で
も打ったら、どうする積りだったの? ヨー
シ、何か罰を上げるわ!」
その時だった。カーテンの向こう側で、女
客の声がした。
「アノー、スチュワデスさん。トイレを流す
水が出ないんですけど……」
キッチンの中で、一同は顔を見合わせる。
「ハイ。一寸お待ち下さい。すぐ見に行かせ
ますから」
入口近くに座っていたパーサーの斎藤敦子
がカーテン越しに応答すると、柿沼に向かっ
て顎をしゃくった。
「サブ、行って見ておいで。出来れば直して
来るんだよ。……サ、早く!」
カーテンをくぐって通路へ出た柿沼は、女
客の後について機体中央部へと赴いた。
こゝには計八ケのトイレが、四ケ宛向かい
合って設けられている。
女客の指す扉を開けると、悪臭がムッと鼻
を突いた。
便器の中には汚物が溢れ、流出孔が完全に
詰まっている。
フラッシュのレバーを押し下げても、水は
一滴も出て来なかった。
念のため、残りの七ケ所を調べると、驚い
たことに全部が同じ状態である。中には汚水
が床に溢れている所もあった。
幸い、機内の映画がまだ続いているため、
トイレを利用する乗客は少なく、苦情が拡が
っていないのが救いだった。
修理不能と判断してキッチンに戻った柿沼
は、パーサーの斎藤敦子の指示を仰いだ。
彼女の判断で、スチュワデス全員が手分け
して機内のトイレを点検したところ、残り三
ケ所のうち、二階席用の二ケが同様使用不能
だが、前部及び後部の分は異常がない。
結局、水の出ない中央及び二階席の分を、
ドアに使用禁止の札を貼って閉鎖する処置が
取られた。
やがて映画が終り、機内にトイレ故障につ
き、前部及び後部の分を使って欲しい旨のア
ナウンスが流れる。
映画が終るまで尿意を抑えていた乗客達が
一斉に前後部のトイレに殺到し、長い列が出
来た。
そして、その混乱は、一時間経ってもまだ
解消しない。
スチュワデス達は、乗客に不自由をかけて
相済まぬ旨のアナウンスを繰り返すだけで、
なすすべが無かった。
各人の利用時間を短くするように付け加え
たのだが、一向に効果は現れない。
列に加わる乗客もブツブツぼやくものゝ、
不可抗力と諦めざるをえなかった。
ところで、キッチンのカーテンの中では、
たまたま、京子と二人で残された徹子が、お
しゃべりをしながら何となくソワソワし始め
る。
ときどき身をよじるようにするのは明かに
尿意を抑え兼ねてのものだった。
京子がキッチンの隅の床に正座させられて
いる柿沼の方をチラッと見やると、何やら徹
子と小声で囁き合い、ゆっくり彼の方に近付
いた。
顔に例の意地悪そうなニヤニヤ笑いを浮べ
ている。
柿沼は悪い予感に背筋がゾクリとした。
「サブ、お前には、さっき罰が預けてあるの
よ。……それで、お前も察しがつくだろうけ
ど、トイレの故障で、お客様が終るまで私達
スチュワデスは待たされるの……いいこと。
そこで、お前はさっきの罰に私達のトイレに
なりなさい……フフフ、わからないの?……
そこに仰向けに寝て、私達のオシッコを飲む
のよ」
それは、柿沼にとって強烈な衝撃だった。
女の、それも先日まで同僚だった女性の汚
水を彼女等の股間に顔を敷かれて、強制的に
飲まされるのである。
それは、男として到底絶え難い汚辱の行為
だった。
「ど、どうか、そればかりは……お、お許し
を……」
床に這いつくばり、口ごもりながら必死で
訴える語尾が震えを帯びて消える。
見上げる彼の目には、転落の恐怖に対する
強い脅えの色があった。
「フフフ、そう、そんなにいやなの……でも
お前は懲罰勤務の身なのよ。……懲罰という
のはね、それがお前にとっていやな行為であ
ればある程、効果があるのよ。……つまり、
お前の骨身にこたえるってわけ。……それに
私達は、お前の上司よ。上司の命令に逆らっ
たら、さらに辛い罰が待ってるわ。諦めるの
ね!」
諦める……この言葉が彼の頭の中でこだま
のように繰返して響き渡った。
「徹子、あなた、もう我慢出来ないんでしょ
う。……先に使ってもいいわよ」
「じゃあ、遠慮なく、そうさせて貰うわ」
床に仰向けに横たわって、細かく身体を震
わせている柿沼の顔を跨いだ徹子は、素早く
パンティを押し下げてクレバスを彼の口に押
し当てる。
「全部飲むんだよ! 零したら、もっとひど
い罰を与えるわよ」
徹子の声が、天上のものゝように遠くに響
き同時に、彼の口にチョロチョロと汚水が注
がれる。ゴクリゴクリと必死で飲み干す彼の
頭上で、京子の声。
「どおお? クックッ、ちゃんと飲んでるじ
ゃないの。これで、こいつも、私達の便器に
転落したってわけね。フフフ」
徹子の流れが細まり、ようやく我を取りも
どした柿沼の耳に京子の嘲笑が刻み込まれて
行く。
臭いゲップを出しながら屈辱にむせぶ彼の
顔に、今度は京子が跨がった。
ふたたび、咽喉を鳴らして飲み始めたとこ
ろに、他のスチュワデス達が戻って来た気配
である。
ヒャーッと嬌声が上がったが、直ぐにそれ
はクスクス笑いに変る。……そして、(次、
私よ)(私も)との囁き声が続いた。
「もうすぐ交代しますわ。……そのうちに、
フフフ、大の方も食べるように仕込むつもり
なの」
その京子の無情な言葉が、女の尻の下の柿
沼の意識を、深い深い異常の世界へと転落さ
せて行くのだった。
〔完〕
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1987年4月スピリッツ4月号(スレイブ通信39号に再掲載)
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2010/07/12