#22転落した関白亭主(逆転した夫婦関係)
阿部譲二作
結婚して二年も経たぬうちに関白亭主ぶりを発揮しだした夫に怒鳴られ続けの若妻が昔の恋人と偶然出会ってセックスに耽る。そのうち海外登山で風土病に倒れた夫が病院生活の末に帰宅するが筋力を失い廃人同然になる。妻に虐められてむしゃぶりつくが軽々と組み敷かれ征服される。妻は恋人を家に入れ夫を舌奴隷として二人のセックスに奉仕させる。 |
「オーイッ、靴が磨いてないぞ。何をボヤボヤしてるんだ!」
台所の洗い物で濡れた手を、エプロンで拭き拭き、小走りに夫の見送りに出た香織に、玄関
から茂雄の怒声が飛んだ。
「す、すいません。只今……今、直ぐにやりますから」
オドオドした態度で、ウロウロと靴ブラシを探す妻の要領の悪さに、茂雄のいらだちは高ま
るばかりである。
「だいたいお前はグズなんだよ。それに俺の身の回りの世話がちゃんと出来ない様なら、主婦
として失格だぞ。……オイ、お前聞いているのか? 少しは反省しろ!」
茂雄の足元にうずくまって、黙って靴にブラシを掛ける香織の目に、ポッツリ涙の粒が浮か
んだ。
結婚して、未だ二年にもならない若妻である。夫の甘い言葉ならぬ、ガミガミした罵声は、
ひとしお胸にこたえた。
それも、この所、毎日の様に怒気を含んだ小言を浴びせられ続けている。
少しでも口答えしようものなら、暴力で口を封じられるのが常だった。
〔あの人、結婚した頃と随分変ったわ……〕
やっと夫を送り出して、玄関にへたり込んだ香織は、思わず心に呟いた。
昨夜、夫に殴られた頬の痛みが微かにうずく。
平凡な見合結婚ながら、最初の三ケ月程は、茂雄も結構優しかった。……イヤ、少くとも、
優しい夫に見えたのである。
しかし、もともと徹底した男社会である地方の旧家に育った松本茂雄にとって、結局、妻と
は、夫にかしずく従属物以上の何者でもなかった。
ハネムーンが終り、郊外にあるマンションの新居に落着いて暫くすると、甘やかされて育っ
た彼の生来のわがままな気質が、次第に首をもたげて来た。
家庭では文字通りワンマンだった亡父の思い出が、それに加わって、茂雄は手の付けられな
い関白亭主になってしまっていた。
都会の中流家庭で伸び伸び育った香織にとって、そうした夫の態度には、いちいち反発を感
じたものゝ、離婚する勇気も無いままに、ズルズルと二年の月日が流れていた。
比較的大柄なグラマーで、彫りの深い派手な顔立の香織は、その個性的な美貌で、在学中は
演劇部のスターだったし、将来は舞台女優を夢見たこともある。
一方、茂雄は小学生時代から山野を走り回って育った根っからの山好きで、背はそう高くな
いが、がっしりした体格に眉の太い男性的な顔立だった。
貿易商社に勤める傍ら、休みの日には、家庭サービスどころか、必ずと言って良い程、山仲
間とサッサと山登りに出掛けてしまう。
連れてってくれとせがんでも、女には無理だ≠ニ、にべもない。
しかも、今度の五月のゴールデンウィークには、一年分の休暇をはたいて、約一ケ月の海外
登山旅行の計画を立てていた。
アフリカの奥地にある処女峰とかで、張り切って準備に余念の無い夫を、冷やかな目で見守
る香織のこの頃だったのである。
その日の午後、気を取り直して市場へ夕食の買物に出掛けた彼女は、スーパーマーケットの
前の雑踏の中で、後ろから軽く肩を叩かれた。
「宮内さん。……宮内香織さんじゃありませんか? 僕ですよ。僕、滝沢守男ですよ」
振返った香織の目の前に、背の高いハンサムな若い男が微笑んでいる。
大学の演劇部で知り合った、香織の昔のボーイフレンドの守男だった。
「まあー、滝沢さん。……本当に、お久し振りね」
意外な出会に、香織も思わず心が弾んだ。
「とりあえず、その辺でお茶でも……」
と誘われるまゝに、買物篭を気にしながら、角のコーヒーショップを訪れる。
〔変ってない。……本当に昔のままだわ〕
向い合って、守男の整った顔を、そしてその黒い瞳の輝きを見詰めながら、香織の脳裏には
いつしか、その昔、守男との会う瀬ごとに繰り拡げた、あの、ただれる様な愛欲の世界が、思
い出されていた。
セックスには極めて淡白な現在の夫の茂雄は、この守男に較べれば、性的にはまるで子供で
ある。
ボーッと頬に赤味が差し、目が微かにうるみを帯びた香織の顔は、久し振りに再会した守男
にとって、うっとりする程の美しさだった。
「五年、もう五年になりますね。……香織さんが、僕の世界から飛去ってから」
その口調は、香織に、演劇部時代の仲間達がよく使った、気取った言い回しを思い出させて
くれた。
「ええ、本当。……時、人を待たず……だわ」
それは、香織に取って、昨日のことの様でもあったし、又、遠い過ぎ去った昔の様にも思え
るのだった。
何気なく開いた昔のアルバムの一ページが、思いも掛けず目の前で現実になっている。……
そんな気がしていた。
それから、一気に話が弾んだ。
守男が偶然、夫の勤務先と競争相手の商社に就職していること、未だ独身でこの近くの社員
寮に居ること、そして……いまだに、香織のことが忘れられずにいること等々が、彼の口から
矢継ぎ早に語られた。
一方、香織も、知らず知らずの内に、今迄心に溜っていた現在の夫への不満を、母親に告口
する幼児の様に守男にぶつけていた。
「ひどい、そんなひどい男が、今の時代に居るなんて考えられないな。……香織さん、子供の
出来ない内に、さっさと離婚すべきですよ。あとは……」
守男は、流石に、唐突過ぎると思ってか、一瞬、言葉を飲んだが、その目は、
〔あとは、僕が引き受けますから〕
と熱っぽく語っている。
コーヒーショップを出て、別れを告げ様とした香織を、守男が強引に誘った。
このところ、精神的に落込んでいた香織の、気分転換を望む心の隙に、その誘いはタイミン
グ良く忍び込んだ。
人目につかないラブホテルの一室で、五年振りで守男に抱かれた香織は、身を捩らせ、声を
上げて燃えた。
未だ火照の残った身体で帰宅した彼女は、夕食の支度に掛かりながら、頭の中で今日の情事
をひとつひとつ反芻していた。
不思議なことに罪悪感は全く無く、むしろ、横暴な夫への仕返しとして、小気味良ささえ感
じられる。
それが発端で、香織と守男は人目を忍んで会う瀬を重ねる様になった。
その度毎に、繰返し離婚を勧める守男の言葉に、香織も漸くその気になり始めていた。
その矢先のことである。
約一ケ月の予定でアフリカの奥地へ登山旅行に出掛けた夫の茂雄が、現地で遭難したとの報
が飛び込んで来た。
遭難と言っても、登山につきものの事故ではない。
未開地の奥深く分け入った一行三人が、たちの悪い風土病で倒れたとの報せだった。
土民に助け出されて都会の病院に移された時は、三人共、全く意識も無い重体で、茂雄を除
く二名は、相次いで病院で死亡した。
茂雄も命は取りとめたものゝ、全身に麻痺が残り、日本に送還されて来た時は、未だ口もき
けない有様だった。
早速入院して、主としてリハビリに主眼を置いた治療が続けられることになった。
香織が毎日病院に通うかたわら、守男とのデートを続けていたのは言うまでもない。
その頻度も、何時の間にか、月に一回から週に一回に増えていた。
そしてその場所も、夫の留守を良いことに、ホテルならぬ香織の暮すマンションに舞台を移
しての情事が恒例化し、守男がそのまゝ泊り込むこともしばしばだった。
秋の紅葉が終り、日差が弱まって、毎日がめっきり冬めいて来た頃、茂雄が半年近い病院生
活を終えて、やっと帰宅して来た。
退院と言っても、完全に身体が元に戻った訳ではない。
それどころか、これ以上入院を続けても良くなる見込が無いとの診断で、いわば、見放され
ての退院だった。
それでもリハビリの効果は可成あって、歩行は勿論の事、軽い作業も出来る様に成っていた
が、力仕事や運動は無理だし、何より致命的なのは、可成の言語障害が後遺症として残ったこ
とである。
主事医は、夫の退院手続きを済ませた香織を別室に呼んで、気の毒そうに説明した。
「この病気はね、未だ世に知られてない未開地独特の難病のひとつでね、……命を取りとめた
のが、むしろ奇跡的なんですよ。……ホラ、筋ジストロフィーと云う筋肉の力が無くなって行
く病気があるでしょう。あれは治療不可能とされているが、あなたの御主人の場合は、その進
行が途中で止ったと思えば良い。……つまり、筋肉の繊維がダメージを受けたんだから、回復
したと言っても、十歳の子供の筋力迄しか戻らないんです。……言語障害の方は、咽喉の声帯
がやられたせいで、これも回復は難かしいが、唇や舌の機能は健全だから、食事には差し支え
ありません。……ただ、顎の筋肉が弱まっているので、固い物は噛めませんから注意して下さ
い」
「アノー、先生、これから時間さえ掛ければ、もっと良くなる見込みは無いんでしょうか?」
「お気の毒ですが、これ以上は無理です。……ですから、社会復帰も諦めて下さい。それと、
御主人のセックスのことですが、男性としての欲望は残っているんですが、前立腺の機能がや
られているので、排泄には支障ないものゝ、性交は不可能です。……でも、幸い脳には全く異
常ありませんし、視覚、聴覚、臭覚、味覚、それに触覚の所謂五感は、全く健全です」
それは、香織にとって、一生身体の不自由な廃人を、突然、夫として押し付けられた様なも
のだった。
幸い、茂雄が出発前に、虫が知らせたのか、多額の傷害保険金を掛けていたのが救いで、病
院の高額な治療費はもちろん保険でまかなわれていたし、その上、社会復帰出来ない後遺症が
残った場合の条項が適用されて、事故当時の月収が、一生保険で支給されることになったので
ある。
久し振りで我が家に帰った茂雄は、流石に喜びを隠せなかったが、意外に冷やかな妻の態度
に、とまどいの色を見せていた。
「お、お前は……俺が……退院して……う、うれしくないのか?」
声帯の大半が麻痺しているため、咽喉の奥から絞り出す様にして途切れ途切れに出る声は、
幾分どもり勝ちで、それに、ゆっくりでないと発音出来ない。
従って、うんと間延びして聞こえると同時に、知恵遅れの子供の話し方を連想させる。
「いいこと、あなたは自分で勝手に旅行に出掛けて、そんな身体に成ったのよ。……それは、
自業自得だけど、私にまで迷惑を掛けることになったじゃないの。……それなのに、あなたが
家へ帰って来たと云って、私が喜ぶとでも思っているの?」
この、香織のズケズケした言葉の調子は、これ迄の二人の間では決して聞かれなかったもの
だった。
関白亭主の茂雄の前で、香織は何時もどこかオドオドした態度だったし、言葉使いも、茂雄
が癇癪を起さぬ様、気を使って極力下手に出るのが常だった。
しかし、茂雄の咎める様な視線をはね返して、ぐっと夫の顔を見据える香織の態度は、今や
自信に満ち溢れている。
〔私、もう、あなたの暴力なんか、おそれてないのよ。……何さ、子供並の腕力しかないくせ
に!〕
彼女の目は、暗黙の内にそう語っていた。
茂雄にも、それが伝わったのであろうか、彼は弱々しく目を落し、黙り込んだ。
「第一、あなたは、もう夫の役目を果せないのよ。一生、私のお荷物になるんだわ」
「で、でも……段々、良くなる筈だし、……ほ、保険だって……」
「あなたは、もう、これ以上良くならないのよ。先生から聞いたんだから、確かだわ。それに
重度の後遺症が残ったからこそ、保険金だって出るんじゃない。……第一、治療費は当然とし
て、保険から出るのは毎月の生活費だけよ。……私への慰謝料なんて一銭も無いのよ」
びっくりした様に大きく見開いた茂雄の目は、明らかに、妻の言葉から強いショックを受け
たことを示していた。
〔アラッ、この人、自分がもう良くならないのを知らなかったんだわ。……そう云えば、お医
者様は、私にだけ言うけれどって前置をしてたっけ。……でも、構うことないわ。遅かれ早か
れ判ることですもの〕
香織が心に呟いている間に、茂雄はフラフラした足取りでソファーに近ずくと、身体を投げ
出す様にして腰を下ろした。
「こ、これ以上……良くならない。……ほ、本当か、それは。……じゃあ……これも……」
自分の股間にジッと視線を落す茂雄の表情は、蒼白だった。
「そうよ。……あなたは、一生インポになったのよ。男の資格を喪失したんだわ」
香織の言葉が意地悪く響く。
しょげ返った夫の姿は、逆に彼女を精神的に優位に立たせた。
〔今だわ。この男に思い知らせてやるのは〕
彼女は大きく息を吸うと、夫の前に腰を下ろし、出来るだけ厳しい調子で口を切った。
「あなた、これで自分の立場が判ったでしょう。……あなたは、もう社会では通用しない廃人
になったのよ。……で、この家では、これからは、あなたに家事をやって貰うわ。あなたには
もうその位しか、やれる仕事がないのよ」
「か、家事って……それじゃ、お前は……い、いったい、何をするんだ?」
「私はね、あなたに命令するの。……この家ではこれからは、私が主人よ。廃人のあなたは、
私に使われる使用人。……いいこと、私に少しでも反抗したら、ひどいわよ。……そうそう、
これからは二人の間では、お互いに呼び方を変えましょう。……私のことは奥様≠チて呼ぶ
のよ。あなたのことは、お前≠チて呼び捨てにしてやるわ。……フフフ、あゝおかしい」
香織は、夫を見据えながら嘲笑った。
この二年余り、横暴な夫にしいたげられていた香織にとって、この瞬間こそ、待ち望んでい
たものだった。
夫の顔が見る見る赤味を帯び、怒りで唇がわなわな震えるのを、香織は一種の小気味良さを
感じながら、冷たく見守っていた。
「な、なにを……言うか。お、お前は……き、気でも……く、くるったのか」
激すると、茂雄はどもりが激しくなり、発音が不明瞭になる。
それが自分でも判るだけに、彼のいら立ちも、ひとしお高まった。
「エッ? 何を言ったの? お前の言葉は、さっぱり判らないわ。もっと、落着いて! さあ
そこに膝まずいて、私を奥様って呼んで御覧!」
香織は、興奮して口も聞けなくなった夫をニヤニヤ笑いながら、更に挑発する。
たまりかねた茂雄は、立上がると、こぶしを振り上げ、覚つかない足取りで、香織に殴りか
かった。
それこそ、香織の予期していた事だった。
勝負は、彼女自身、意外に思った程あっけなくついた。
筋力が大幅に低下して、ガックリ腕力が弱った上に、動作がすっかり緩慢になった茂雄は、
香織の敵ではなかった。
最初の一撃をなんなく外されると、足を払われ仰向けに倒れた所を、簡単に組み敷かれた。
夫の胸に跨がった香織は、両足を拡げ、夫の両手を踏み付けて自由を奪う。
「いいこと。さっきも、お前に言ったでしょう。……私に反抗すると、どんな目に会うか教え
て上げるわ」
ニヤニヤ笑いながら、香織は手を大きく上げて、夫の頬めがけて振り下ろした。
茂雄の頬がパチーンと高らかに鳴る。
続けて女のもう一方の手が、反対側の頬を襲った。
その反応を楽しむかの様に、男の歪んだ顔をジーッと見下ろしながら、ゆっくりと間隔を置
いて、ひとつ、又ひとつと香織の往復ピンタが茂雄の顔に炸裂する。
〔思い知ったか! 今迄、私を散々泣かせて来たむくいよ。……ホラ、これでもか。ソレ、こ
れでどうだ!〕
心の中で叫びながら、香織の平手が次々と振り下ろされ、夫の頬を紅に染めて行った。
二十発近く殴ると、流石に彼女の手の方も痛くなる。
香織は、やっと腰を上げて夫を開放した。
そして、彼女がソファーの方へ歩み寄ろうとした時である。
ウーッと、嗚咽に似た声を立てゝ、茂雄が香織の背にむしゃぶりついて来た。
不意を打たれてよろめいたものゝ、彼女はすぐに立直って夫の首に腕を巻き付ける。
男は息をはずませ、全身の力を振り絞って彼女を倒そうとするが、大柄な香織には、まるで
こたえない。
〔本当だわ。さっきは、良く判らなかったけど、やっぱり子供並の力しか出せなくなってる。
……これなら、私の自由にして、うんと嬲ってやれるわ〕
香織は心の中で頷くと、わざと力を抜いて茂雄と互角にもみ合って見せた。
彼の方は、手加減されている事に気付く余裕も無い。
ここぞと、足をからめて彼女を押し倒そうとしたが、今度は逆に切り返されて、絨緞の上に
仰向けに崩れ落ちる。
結局、先程と同様に、香織に組敷かれてしまった。
「どおお? お前はもう私に反抗する力が無いことが判って? それとも、もっと私に叩かれ
たいの?……いいわ。今度は別な罰を与えてやる。……フフフ、それも、お前にふさわしい罰
をね」
彼女は、屈辱に歪む男の顔を見下ろしながら、腰を前に移動し、顔全体をすっぽり尻に敷い
た。……男の鼻をクレバスに挟み込む様にして、ぐっと圧力を掛ける。
パンティーが男の悔し涙を吸って、内股がヒヤリとしたかと思うと、男の熱い吐息が股間を
走った。
「ウフッ、妻の尻に顔を敷かれた夫の感想はどおお?……どんな臭いがするの? その臭い、
好き? 嫌い?……そおお、好きだけど、恥ずかしくって言えないのね。……じゃあ、たっぷ
りお嗅ぎ!」
香織は、そのままの姿勢でスカートをたくし上げると、太股を拡げる様にして、股間から辛
うじて覗く男の眼を見下ろす。
嘲りと軽蔑をたっぷりと込めて見据えると、男の眼に新たな口惜し涙がにじみ、香織の胸は
驕慢な征服感で満たされた。
一方、茂雄の頭の中は、屈辱で火の様に熱く燃えていた。
結婚以来、女中並に追い使って来た妻に、二度も不覚を取った上に、顔面に跨がられて、こ
ともあろうに尻臭を嗅がされているのである。
出来ることなら、舌を噛み切って死にたい気持だった。
しかし、顎に力が入らない。女の尻に噛み付くことも出来ないのである。
第一、顔面にのしかゝるボリュームたっぷりの女の尻も、両手を抑えている女の膝も、情け
ないことに、磐石の重みがあって、跳ね返せないのである。
如何に自分の体力が衰えてしまっているかを、骨身にこたえて思い知らされていた。
それにしても、苦しい呼吸の度に、尻割れに食い込むパンティーの布地を通して鼻孔に侵入
する女の尻臭は、饐えた性臭とミックスして、茂雄の脳裏に強烈な屈辱感を焼付けて行った。
……三十分余りも経っただろうか。
たっぷりと汚辱の香りを嗅がされた後、香織の尻が少し浮いた。ホッとした途端、目の前の
パンティーがくるりと剥けて、白いスベスベした尻が視野一面に拡がる。
それは間髪を入れず落下して、再び茂雄の顔面を捉えた。
モゾモゾと尻が前後に揺れ、女のアヌスが男の唇を探し当てると、そのまゝぐっと圧力が増
した。
「どおお? 今度は、お前は私のアヌスを舐めるのよ。クックックッ、今朝トイレの紙が切れ
て十分拭いてないから、その分、お前の舌で清めなさい。……ホレッ、どうしたの? 私の命
令が聞けないの?」
女の尻が茂雄の顔の上で揺れ、じっとり湿ったアヌスの粘膜が、男の唇をにじった。
ねっとりした付着物が、めくれた唇の裏側から、男の口の中に入り込む。
苦い、刺す様な味が口中に拡がった。
「ウウッ……ムウッ、ウッウー」
悲痛な呻きが、くぐもった嗚咽となって香織の尻の下から洩れ、勝誇った彼女は、尚も催促
する様に尻を揺り続けた。
やがて彼女は男の唇が、そして舌がもぞもぞと動き始めたのをアヌスの粘膜に感じ取る。
それは、茂雄の香織に対する屈服であると同時に、二人の間がこれで完全に逆転した事を意
味していた。
「いいわよ。しっかりお舐め。……これでお前は私の召使い、と言うより奴隷に成ったのよ。
それも、私の身体で一番汚れたアヌスを舐める最低の奴隷にね。……その味を良く覚えて、私
に二度と逆らわない様にしなさい」
満足げな香織は、微かにいきんでアヌスを開き、茂雄の舌先を受け入れる。
新たな苦味が、彼の味覚を刺激し、男の屈辱感を増幅した。
〔大成功だわ。とうとう、この男を完全に征服してやったわ。……あとは、毎日、徹底的に辱
めて、二度と私に対等の口がきけない様にしてやるわ〕
香織の心は、今や誇り高い勝者の驕りに満たされていた。
しかし、自分では意識していなかったが、彼女には敗者を憐れみ許すことなく、更に徹底し
て屈服を強いる、生来のS性が潜んでいたのである。
そんな女の心を知る由もなく、茂雄は、まるで果しない悪夢を見ている心境である。
そして、おぞましい屈辱の行為を強いられ、心ならずもそれに従ったことによって、自分の
人間としての自尊心が、今や、徹底的に砕け散った事を悟るのだった。
……その晩、近くのコーヒーショップで、香織は守男と向い合っていた。
彼はニヤニヤ笑いながら、夫の茂雄を彼女が征服した一部始終に耳を傾けた。
「これで、君も、積る恨みが晴らせてスッキリしただろう。……あとは、出来るだけ早く離婚
して、僕と一諸になろうよ」
「私も、そう思ってたんだけど、あなたが、もう少し待ってくれたら、良い考えがあるのよ」
「待つって……一体、何時迄?」
「一年、これから一年丁度よ」
怪訝そうな守男の表情を見詰めながら、香織は更に言葉を続けた。
「あなた、今度の事故で、あの人に生活補助の保険金が下りたのは知っているでしょう。……
重度の後遺症のお蔭で、現在の月収が一生保証されることになったの。……勿論、物価指数に
基ずいて毎年見直されるから、少し宛増額されて行くわ」
「………………」
「大切なことは、本人が生活能力と同時に、法的な管財能力も失っていると見なされること。
……だから、その保険金を受け取るのは、この場合、本人じゃなくて、その保護者になるの。
……つまり、法律的に本人の妻である私が、毎月、保険金を貰えるのよ」
「じゃあ、君は、保険金のために離婚を取り止めるのかい?」
「そうじゃないのよ、聞いて。……本人の保護者として、法的に認定して貰うには、妻として
本人と一諸に退院後一年間暮せばいいの。……その後は、離婚しようが、他の人と結婚しよう
が私の勝手。保険金は一生貰えるわ」
「じゃあ、本人は一体どうなるんだい?……肝腎の本人は、君が再婚した後、どうやって暮す
んだい?」
香織は、一瞬、キョトンとして守男の顔を見詰めていたが、やがて、プッと噴き出してしま
った。
「御免なさい。私、あなたと結婚する事ばかり考えていたもんだから。……勿論、本人は私に
養ってもらう必要があるわ。……でも、必ずしも一諸に居る必要はないのよ。あなたがそうし
ろと言うんだったら、どこか安い施設に放り込んでもいいわ。……でも、私の考えでは、あの
男を私達の奴隷として、一生こき使ってやりたいの。……掃除や洗濯等の家事をやらせたり、
私の身体をマッサージさせたりね。……それに、フフッ、私達の夜の慰み者にしてやるのよ」
「それも良いけど、一年も待ちぼうけは辛いなあ。……それに、あのマンションの所有権は、
どうなるんだい?」
「それも調べたのよ。……今はあの男のものだけど、一年経って正式に離婚した時に、慰謝料
として、あの男の財産の半分を貰うことにするの。丁度、結婚して間もなく、郊外に土地を買
ったのがあるから、それをあの男に残してやればいいのよ。……その土地だって、ほとぼりが
覚めたら、売り払って代金は私達が管理する、つまり私達のものにすればいいわ。……茂雄が
それを知って、いくら地団駄踏んだって、奴隷の身ではどうしようもない筈よ」
一年待つことで、保険の月収のみならず、可成の財産まで手に入ることが判ると、守男は漸
く納得した様だった。
……それから一週間が過ぎた。
香織は心に決めた通り、夫の奴隷化をゆっくりと、しかし着実に実行に移していた。
先ず、家事の雑用すべてが茂雄に課せられた。
香織は何もしないで、ソファーに寝そべって、えらそうに指図するだけである。
そして、彼女は、些細な点までも口やかましく指示し、どんな小さなミスも見逃さずに叱り
つける。
殊に言葉使いにはやかましく、自分に対しては徹底して敬語を使わせた。
二日目の朝、寝ぼけまなこの茂雄が、ついうっかり香織にお前≠ニ呼び掛けた時などは、
初日同様、往復ピンタを浴びせ、土下座して謝らせた。
茂雄にしてみれば、そう急に心から態度が改まる筈がなかった。
しかも、力関係が急に逆転して無理矢理に従わされるのである。
あまりに威圧的に命令されると、どうしても口惜しさと反感が先に立った。
それが、時折、香織の挑発的とも思える屈辱的な取扱いで爆発する。
便所掃除のやり方が、性根が入っていないと咎められ、床に這いつくばって謝る所を、便所
のスリッパを履いた女の足で、顔をしつこく蹴られた時もそうだった。
逆上すると、前後の見境なく香織にむしゃぶり付いたが、哀れにもその都度、楽々と組敷か
れ、反抗の罰として彼女の汚れたアヌスを舐めさせられたのである。
その度に、呻き、咽び泣きながらも屈従させられる茂雄は、次第に負け犬根性が身に付いて
来て、知らず知らずの内に、香織の顔色を伺いながら、へつらう様に成って行った。
洗濯は、週に一回、まとめてやらされたが香織は自分の下着は、洗濯機を使わせなかった。
布地が痛むというのが理由である。
パンティーの股の部分は、軽く手で揉みながら時間をかけて汚れを落すのである。
一週間分のパンティー七枚に、小一時間もかかる。
それは、かって香織を顎で追い使い、亭主関白ぶりを存分に発揮していたこの男として、将
に屈辱的な時間だった。
しかも、その後、香織の厳しい点検で、やり直しを命じられることも珍しくない。
このマンションの南側には、直ぐ接近して隣りのビルが建設中である。
それが、各階のバルコニーの物干し場に絶えず影を落し、日差しを遮っていた。
日照権の侵害だと、マンションの住民が騒ぎ立てたが、交渉は難航している。
とりあえず、居住者の為に、マンションの屋上に共同の物干場が設けられていた。
香織に命じられて、屋上に洗濯物を干しに行かされた茂雄は、人目を気にして身の縮む思い
だった。
幸い、物干場には人気が無く、ホッとしてロープを張り、先ずパンティーを干しにかかった
茂雄は、その時、停まったエレベーターから突然溢れ出た嬌声に、ドキッとした。
悪いことに、顔馴染みの奥さん連中が、連れ立って干し物に来たのである。
それは、女達のリクリエーションを兼ねた、一種の井戸端会議である。
殆どが二年前に、このマンションが出来た時に入居した若夫婦のグループだった。
「マアー、松本さんの御主人じゃありませんの。……退院なさったそうで、お目出度うござい
ます」
最初に声を掛けたのは、同じ階の遠山夫人だった。
その丸顔に全く不似合な、角張った眼鏡の奥から、如何にも詮索好きらしい鋭い瞳が覗いて
いる。
常日頃、女性を下に見ていた茂雄は、夫人連の会釈にもそっぽを向くことが多く、近所での
評判は最低だった。
「入院中、お見舞にも伺わず、失礼しましたけど、お元気そうで何よりですわ。……アラッ、
干し物にいらっしゃったんですの?」
遠山夫人は、如何にも、わざとらしく初めて気付いた素振りをする。
「エ、エー。……う、運動に……し、しばらく……か、家事を……」
「ヘーッ、御主人が家事をねえー。……しかも、奥様のパンティーまで洗うんですの?」
「………………」
赤くなって、うつ向く茂雄を、組みし易しと見た女達は、いっせいにニヤニヤ笑いながら、
彼を取り囲んだ。
時間を持て余し気味の女達にとって、それは、暇つぶしに格好の標的である。
「ね、ねえ、遠山さん。……男って、女の汚れたパンティーに興味を持つ人があるんすって。
案外、これも、松本さんの御主人の趣味かも知れなくてよ」
遠山夫人の傍の女が、横目でチラチラと茂雄の顔を窺いながら、聞こえよがしに囁く。
クスクス笑いが、漣の様に拡がった。
茂雄の顔は益々赤味を増す。
「御主人、それ本当ですの? 奥さんの汚れたパンティーを洗うのが御趣味?」
「………………」
「アラアラ、黙ってらっしゃる所を見ると、そうなのかしら。……じゃあ、私のパンティーも
洗っていただこうかしらね」
遠山夫人のネチネチした意地悪い物言いに、茂雄は、ひと言もない。
女達は図に乗る一方で、ガヤガヤとかしましくなった。
「賛成! 私のもお願いするわ。とっても汚れてて、臭いけど、いいかしら?」
「バカね、貴女。よごれてるのが良いのよ」
「アラ、どうして?……ア、そうか、雑誌で呼んだことがあるわ。臭いを嗅いだり汚れを舐め
たりするんだわ。……マアいやらしいこと!」
ドッと爆笑が巻き起った。
茂雄の顔は、怒りと恥ずかしさで、青くなったり赤くなったりする。
とうとう、女達のいびりに耐えかねて、干し物もそこそこに、逃げ帰った。
戻ると、待ちうけていた香織に一部始終を報告させられる。女達の笑い者にされた模様を、
不自由な咽喉で声にするのは、茂雄にとって二重の苦痛だった。
「ウフフ、そんなことまで言われたの。さぞ口惜しかったろうね。……でも、お前には良い薬
になった筈よ。……第一、これで自分が、とうとう、近所の奥さん連中にまで馬鹿にされる身
分に、成り下がったことが良く判ったでしょう」
こうして一ケ月が経った頃には、松本家では夫婦の地位が逆転したこと、それも病気の後遺
症で体力の弱まった夫が、妻に力ずくで屈従させられていることが、近所にも知れわたった。
不思議なことに、茂雄の亭主関白ぶりが有名だったせいか、香織を非難する者は一人も無く
かねて茂雄の女性に対する傲慢不遜な態度を憎んでいた近所の女達は、心の中で快哉を叫び、
それが、彼に対する軽蔑の形となって、はっきり態度にも現れる始末だった。
買物に行かされる茂雄は、暫々彼女等に呼び止められ、皆でからかわれたり、嬲られたりす
るのである。それを、香織に報告しても笑われるばかりだった。
茂雄が、こうして香織の柔順な召使に成りきった或日のことである。
呼ばれて、彼女の前に正座した茂雄に、香織の新しい命令が伝えられた。
「お前も、この一ケ月で随分変ったわね。……でも、それでいいのよ。新しい環境に順応する
のが、お前の務めですもの。……そこで、今迄の家事に加えて、もうひとつ、新しい仕事をお
前に上げるわ」
「………………」
「お前は私の召使いだけど、未だ戸籍上は私の夫になってるわ。でも、お前は夫の勤めを果た
せない身体に成ったんだから、本当は夫の資格は無いわね。……でも、私のお情けで離婚しな
いで、召使いとして使ってやってるのよ。判ってるわね」
「は……い」
「そう、それなら話が早いわ。……私のお情けに応えて、お前も、お前の出来る範囲で夫の義
務を果す努力をなさい。いいわね?」
茂雄は不安げに、それでも柔順に頷いた。
「お前、舌を出して御覧。……もっと長く! そうそう。……いいこと。今夜から、お前はそ
の舌で、毎晩私のセックスに奉仕するのよ。判ったわね」
それは、茂雄にとって、予想もしなかった要求である。いや、それは、今や拒絶出来ない命
令でもあった。
「で……でも……い、いま迄……や、やったことが……そ、それに……ち、ちからが……」
懸命に咽喉を振り絞って、かなわぬ抵抗を試みてみる。
しかし、それも香織には通じなかった。
「いいのよ、経験が無くっても。私が、ちゃんと仕込んで上げるから、心配せずに言う通りな
さい。……それに、お医者様の話では、お前の舌と唇の機能は、全く健全だそうよ。……そん
な理由で、さぼろうとしたって駄目よ!」
黙ってうなだれる茂雄に、香織の言葉が更に追打ちをかける。
「そうだわ、今からリハーサルしましょう。……お前、そこに仰向けに寝なさい。……私が、
お前に跨がって、舐める場所と力加減を教えるから、良く覚えるのよ。……ウフッ、お前抵抗
する気? 無駄だってこと判らないの? ホラ、ホラ……ソーラ御覧!」
茂雄のもがきも空しく、彼の頭は、しっかりと香織の太股に挟まれてしまう。
彼の唇に押し付けられた香織のクレバスは、既にじっとり濡れ、強い臭気を放っていた。
「サー、舌を出して! もっと大きく……そうそう、その調子よ」
諦めて、思いきり長く突き出した彼の舌先を、香織の秘肉が捉え、同時に彼女の腰がゆっく
りと前後に揺れる。
「ホレ、ぼんやりしてないで、舌を動かすのよ!」
彼女の腰の動きを迎える様に、舌先を下から上に走らせ、クレバスを舐め上げた。
「そうよ、その調子。そのまま続けるのよ」
その単調な繰り返しが、何時終るともなく延々と続く。
その内、舌を伝って彼の口に流れ込む女の分泌液が、次第に臭気を増し、同時にねっとりし
た味の濃さが加わって来た。
香織の腰の動きが、段々とリズミカルにピッチを早め、彼の顔面に加わる圧力が、じわじわ
と強まる。
やがて、女のクリトリスが、彼の舌から鼻にかけて、ピチャッピチャッと音を立てゝ押付け
られ始めた。
同時に、彼の顔に女の尻の重圧がまともに掛かり、目蓋を繁みが擦る。
そして、まるで茂雄の顔が卸し金であるかの様に、彼女の股間が強く擦り付けられ出して間
もなく、クライマックスが訪れた。
彼の顔面にぺったり座り込んだ形で、余韻を楽しむ香織の尻の下で、茂雄は哀れにも呼吸の
自由さえ制限され、女の分泌液と耐え難い屈辱とにまみれて、むせび泣くのだった。
この日から、茂雄の舌は、香織のセックスの道具として、彼女の意のままに使われる様にな
った。
実の所、若い女のセックスが、かくも貪欲なものとは、茂雄はもとより香織自身も気付いて
いなかった様である。
毎夜欠かさず、茂雄は命ぜられるままに、ベッドに横たわる香織の股間に首を差し入れる。
彼女の手が、彼の髪をぐっと鷲掴みにすると、茂雄の顔面はぴたりと女のクレバスに押し付
けられ、太股が彼の両頬を挟んで、舌奉仕を催促した。
それも、ゆっくりと、時間をたっぷり掛けて楽しむのである。
頂点に達しても、仲々開放して貰えず、再度の快楽に向かって、続けて舌を動かす用命ぜら
れることも、珍しくはなかった。
翌日は舌の付根が腫れ上がって、熱を持つことすらある。
そんな時でも彼女は容赦せず、新たな舌奉仕を強いた。
昼間、香織が突然催して、茂雄を呼ぶこともあった。
ソファーに座った彼女は、煙草をふかしながら、目の前に膝まずいた男の首に足を巻き付け
ると、ぐいと股間に引き寄せ、後頭部に両足の踵を当てがって、彼の顔を自分の股間に押し付
ける。
その踵が彼の頭を蹴って、舌奉仕の開始を命ずるのである。
それは、さながら、馬に跨がった女騎手が、鐙で馬の腹を蹴って前進させるのに似ていた。
そして、それは、彼にとって申し分なく屈辱的で、女に意のままにコントロールされる悲哀
感を、心の底から味わせられたのである。
そうした念を振り払って、何も考えずに、奉仕に没頭しようとする茂雄に、意地悪く、香織
は様々な表現で追打をかける。
「女の私に、こうして毎日舌奉仕させられて……それでも、お前は男かい?……悔しくないの
かい?」
「ホラ、今日は、トイレの後を拭いてないんだよ。……そんな汚れた所を舐めさせられて、さ
ぞ口惜しいだろうね。フフフ」
「お前、まるで私の舌人形だね。……その内、近所の奥さん連中にも、こうして使って貰うん
だよ。覚悟しておくんだね」
こうして香織は、茂雄が瞑想の世界に逃避することを許さず、絶えず、現実の世界で、醒め
たまゝ、屈辱の思いに浸る様に仕向けたのだった。
所で、香織と滝沢守男との情事は、香織が茂雄の奴隷化に熱中していた間、一時的に中断し
ていたが、漸くその方の目処が立つと、また再開された。
久し振りに、ラブホテルの一室で、お互いの身体をまるでむさぼり合う様に激しいセックス
を重ねた二人は、やっと満足して、ベッドの上にぐったりと横になっていた。
「アー、良かったわー。やっぱり本物じゃなくっちゃ駄目ね」
「インポの旦那の舌奉仕と較べるのは、失礼だぜ。……これからは、また週に一回のペースに
戻そうよ」
「いいわ。……でも、あいつの舌技も私の仕込みで大分上達したわよ。一度あなたのも舐めさ
せようか?」
「オイオイ、もう、そんなこと迄命令出来る様に仕込んだのかい?……しかし、怒って噛み付
かれでもしたら、大変だな」
「大丈夫よ。顎の筋肉が麻痺してるんだから噛む力も弱ってるわ。……それに、彼にとって、
もう、私の命令は絶体よ。反抗なんかしないわよ」
「それじゃあ、楽しみにしてるぜ。……所で、先にシャワーを浴びて来いよ」
「いいの。私、このまま帰って、あいつに後始末させてみるわ。……フフッ、あいつ、どんな
顔するかしら?」
それから間もなく、タクシーで帰宅した香織に呼ばれた茂雄は、着替えもせずにソファーに
腰を下ろした彼女の前の床に正座して、かしこまった。
白い細かなプリーツのフレァースカートが、彼の目の前で高く組んだ彼女の膝をフワリと覆
い、その下から覗く黒いメッシュのストッキングをきわ立たせている。
先程迄の守男との激しい情事が、未だ香織の顔をポーッと上気させ目の潤みを残してをり、
それとは知らぬ茂雄の目にも、ハッとする程美しく、なまめかしい風情だった。
不能に成ったとは言え、茂雄の男としての情欲は人並、いや、抑圧されている分だけ高まっ
ている。
そうした香織の姿に、ムラムラとしたものを感じるのは当然とも言えた。
「煙草とって。……早く!」
香織の命令にピクリと反応して、飛付く様に煙草を取って捧げ、続けて火を差し出す茂雄の
屈従振りに、満足の笑みを洩らす香織だったが、フト、何時にない男のへつらうような目の中
に、ねっとりした暗い情欲の炎を感じ取っていた。
〔こいつ、インポのくせに、一人前に催しているのかしら?〕
心の中で呟いた彼女は、組んでいた足をほどくと、わざと股を大きく開き、両足をソファー
の上にのせた。
スカートの裾が持ち上がり、ノーパンの白い豊かな尻と黒い繁みが、男の視野にチラつく。
茂雄の呼吸が荒くなり、身体が小刻みに震え出した。
〔間違いないわ。それにしても、いつも私の舌人形にされているくせに厚かましい。……いい
わ、うんと嬲り者にしてやるから!〕
男の顔をジーッと見下ろながら、香織は、心の中にこれから茂雄に与える辱めを思い浮べて
いた。情事の余韻が残る股間に、またジーンと熱いものが湧き出して来る。
「私ね、今、外で浮気して来たの」
香織は一気に言い切ると、黙って茂雄の反応を窺った。
一瞬キョトンとした表情になった茂雄は、その意味が、良く飲み込めない模様である。
「浮気、う、わ、き、よ。……よその男とセックスして来たの」
茂雄の表情がクシャッと崩れ、今にも泣き出しそうな顔に成った。
「でも、お前は文句を言う権利は無いわね。……フフフ、どうせインポなんだから」
「で……でも、い……いつも、し、したで……。だ、だから……お、おっとの……つとめは…
…は、はたしている……」
「へえー、お前、私がお前の舌だけで満足するとでも思ってるの? 男と女のセックスはね、
抱き合って結合して完結するのよ。……お前のはね、私の単なる慰みもの。……第一お前は、
私のおしも専用の舌人形じゃないの」
がっくり、首を落した茂雄に、香織の非情な言葉が続く。
「でもね、ここに、お前にふさわしい仕事があるのよ。……私の浮気の跡を、お前の舌で清め
るの。ウフッ、どおお?」
ブルッと身を震わせて、逃げ腰になる男をすかさず香織の足が捉えた。
両足の踵で、青ざめた茂雄の首を挟んだ彼女は、そのまま自分の股間に引き寄せる。
「ホラ、良く見て御覧。随分汚れてるでしょう? お前に掃除させる為に、洗わないで帰って
来たのよ。クックックッ」
それは、茂雄にとって、気も狂わんばかりの屈辱だった。
妻に浮気されたばかりか、その浮気の相手とのセックスの跡を吸わされるのである。
目の前に触れんばかりに接近した女のクレバスには、べっとりと白濁した粘液がまとわり付
いていた。
プーンと鼻を突く刺激臭は、栗の花の香りに似て、茂雄の頭をクラクラさせる。
「何してんの。……早く舐めないか!」
香織のいらだった声に、ビクッと身を震わせた茂雄は、恐る恐る舌を差し延べた。
同時に、香織の足が彼の頭をぐっと股間に押し着ける。
と、膣に溜っていた粘液が、一時に溢れ出して来た。
「こぼさない様に、しっかり吸うんだよ。これが、一人前の男と女のセックスのお汁さ。……
今のお前には高根の花なんだから、せめて、香りとお味だけでも良く覚えておくんだね」
ズ、ズーッと大きな音と共に、粘液が茂雄の咽喉に吸い込まれ、胃の腑を満す。
耐え難い屈辱の思いに、臭味の強い味がだぶって、茂雄をめくるめく陶酔の世界へと誘って
行った。
人間は、許容限度を越える刺激に会うと、精神的な安全弁が働いて、一瞬、頭が空白に成る
と言う。もし安全弁が無ければ、気が狂うしかないのかもしれない。
茂雄の置かれた極限状況で、彼が空白の世界、つまり一種の陶酔状態に落ち込んで行ったと
しても不思議はなかった。
ともあれ、彼は、無心に吸い、舌と唇で奉仕に熱中した。
しかし、時折、香織の投げ掛ける意地悪い辱めの言葉が、茂雄をふっと現実の世界に引き戻
し、屈辱の思いに浸らせるのだった。
「お前も、到頭、最低の男に成ったわね。……その味を、これからは、しょっちゅう何回も味
わうのよ。どおお? 口惜しい? フフフ」
「………………」
「あの人とは、さっき三回も続けてセックスしたのよ。だから、三回分のミックスジュースが
溜ってるわ。……ゆっくり時間を掛けて、全部吸うの。……そして、もう一度、私に虹の夢を
見せなさい」
何時果てるともない、無限の時間が二人を包んでいる様だった。
しかし、さすがに堪能した香織が物憂げに身を起した時は、帰宅して三時間もたっていた。
それからは、週に一回の守男とのデートが判で押した様に恒例となり、そして、その後始末
が茂雄の仕事として定着した。
冬が過ぎ、初春の暖かい日差しが、ふんだんに撒き散らされている或日のことである。
例によって、デートの後始末をさせた後、香織は、茂雄が腰を抜かす様なショッキングな宣
言をした。
「明日からはね、……フフフ、私の浮気の相手の滝沢守男と云う人が、この家に越して来るこ
とになったの。……つまり、私達、ここで同棲するの」
冷たい目で、未だ粘液にまみれたままの茂雄の顔が驚愕に歪むのを見下ろして、香織は言葉
を続ける。
「お前が退院してから、もう半年になるわ。お前も、自分が一生このまま廃人で終ることが、
充分納得出来た筈よ。……でも、私はお前に付き合って一生を棒に振るわけには行かないわ。
だから、新しい生活の第一歩として、来月から滝沢さんと同棲することに決めたの。……心配
しなくてもいいのよ。私は、お前をここに一諸に置いてやり度いの。……でも、ひとつはっき
りさせておくことがあるわ」
「………………」
「お前の、この家での立場よ。……今迄、私はお前を、私専用の召使い兼奴隷として仕込んで
来たけど、滝沢さんは、たとえ奴隷であっても第三者の人間を同居させたくないの。……でも
人間じゃなくてペットなら、差支えないのよ」
「………………」
「お前だって、この家から追い出され度くないでしょう? だから、これからは、お前はもう
一段身分を落して、私達二人のペット犬に成るのよ。……勿論、犬としての教育は、これから
滝沢さんが越して来る迄の間に、たっぷり施してやるし、奴隷としての仕事も今迄通り続けさ
せるわ……」
それは、茂雄にとって、突然、頭をがんと殴られた様なショックであった。
「い、いぬ……は、ひ……ひ、ひどい。……だ……だい……いち、こ、このいえは……お……
おれのものだ」
「何を馬鹿なこと言ってるの! 要保護者の廃人のくせに、所有権が認められるとでも思って
るの?……第一、お前は私の奴隷。私の意志に逆らうことは出来ないのよ。……それに、いず
れ、お前を離婚して滝沢さんと結婚する時には、慰謝料として、このマンションは私が頂くつ
もりよ。……その同意書には、フフフ、保護者の私がお前に代って判を押すんだから問題ない
わ。……でも、離婚した後でも、お前は私達の奴隷犬として、一生使ってやるわよ」
「ひ、ひ……どい!」
「うるさいわね! 満足に口もきけないくせに。……そうだわ。たった今から、お前は犬に成
るんだから、私の許可無しに人間の言葉を喋ったり、二本足で歩いちゃ駄目よ。……犬並に四
つ足で這いつくばって歩くこと。そして呼ばれたら、ワンと鳴くのよ。……もし、それに背い
たら、……そうね、今迄の様にアヌスを舐めさせるだけじゃなくて、罰として私のオシッコを
飲ませるわよ。……いいわね!」
その香織の言葉の効き目は絶大だった。
女の小水を飲まされと云う屈辱を回避する為に、茂雄は、彼女のあらゆる無理難題を受入れ
て、忠実な彼女の犬に変貌して行く。
それからの香織の態度は、今迄より一層厳しくなり、茂雄を徹底的に犬として扱った。
あの、犬への転落を宣言された日の翌日、香織に、買って来た犬の首輪を穿められ、自分で
は外せない様にと、小さな南京錠が首の後でカチリと音を立てた時には、あまりのみじめさに
茂雄の咽喉から、低い、きれぎれの嗚咽が洩れた。
食事も、今迄の様に食卓に付かせては貰えず、香織の足元で四つ這いになって、彼女の残飯
を食べさせられた。
そして、最早ベッドの上に寝ることは許されず、香織の足元の床に鎖に繋がれて寝るのであ
る。
彼女のセックスに対する舌奉仕は、以前にも増して頻繁に、そして長時間に亘って続けさせ
られた。
毎晩必ずと言ってよい程、睡眠剤代りに顔を股間に挟まれ、散々その舌を使われたあげく、
用済みになるとベッドの裾に蹴落された。
更に、茂雄の人間性を奪い去り犬として完全に屈服させるため、彼女が考え出した調教は、
足舐めだった。
ソファーに座った香織の足元に、ひき蛙の様に這いつくばって、彼女の薄汚れた足の裏を舐
め清めるのである。……それも毎日、数回にわたって強制される。
それは、男として到底耐え難い屈辱の行為だったが、嬲り抜かれて腑抜け同然になっている
茂雄にとっては、自分の新しい身分に甘んずるひとつの踏絵として、自然に定着して行った。
一ケ月が過ぎ、爽かな五月の或日、滝沢がマンションに引越して来た時には、香織の意図し
た通り、茂雄は、哀れにも文字通り卑屈な犬に成り下がっていた。
しかし、香織の浮気の相手である滝沢守男の前で、犬として生恥をかかされた時には、流石
に、死に勝る口惜しさにさいなまれた。
「ホラ! この方が、お前の新しい御主人だよ。……昨日、教えておいた様に御挨拶おし!…
…ソラ、チンチンするんだよ。……プッ! そうそう、その調子だわ。まるで本物の犬そっく
りね。クックックッ」
涙で顔をクシャクシャにして、犬真似をする茂雄に、更に追打がかけられる。
「サァー、次は、いよいよ奴隷犬としてのお前の身分を披露する番だよ。……ソラ、ここを、
お舐め!」
香織は、ソファーに背を深く倒し、膝を折り畳んで両手で抱え込む様にすると、彼女の豊満
な尻が、茂雄の目の前に威圧する様に突き出された。
彼女の指が、ピンクのパンティーの縁にかゝると、ソッと少しだけ持ち上げる。
白いすべすべしたヒップの間に、褐色の菊座が現われた。
命じられるままに、そこに顔を寄せた茂雄は、プンと鼻を突く異臭に、思わずたじろいだ。
しかし、香織のじれったそうな催促の声に、思い切ってそこに唇を当て、舌で舐め清める。
じっとりと湿った糟が、口中にホロ苦い屈辱の味を拡げた。
「みじめなもんだな。……自分のかみさんに犬にされて、ケツの穴をねぶらされるとはな」
滝沢守男の嘲りが、ぐっと茂雄の胸を刺した。目頭がジーンと熱くなる。
「いいざまね! その味を覚えたら、次は守男さんのアヌスよ。フフッ、四つ這いになって、
ワンと鳴いてお願いしなさい!」
全身の血が逆流せんばかりの屈辱とは、このことであった。
こともあろうに、妻の浮気の相手に頭を下げて、最大の辱めを請わされるのである。
しかも、香織はソファーの上で、これ見よがしに、守男と抱き合ってみせる。
その足元で四つ這いのまま、犬鳴きをする茂雄の目は充血して真っ赤だった。
「うるさいな! この変態犬め。……ホラ! 好きなだけ舐めろ」
守男は、香織と抱き合ったまま、ズボンを降ろしブリーフをずらす。
そして、香織の上に覆い被さる様にして、茂雄の方へ尻を突き出した。
チラッと足元の茂雄に軽蔑の視線を投げると、香織を抱き締めて、熱烈なディープキッスに
入る。
四つ這いの茂雄は、男の股間に後から首を差し延べたものゝ、見た目にも酷い汚れと異臭に
しばしためらった。
「ウ、ウーン……」
香織の悩ましい呻き声に、ハッと我に帰った茂雄は、目の前の汚れた括約筋に舌を差し延べ
た。……死んだ気になって舐め上げる。
途端に、苦い澱が舌を伝い、不潔感と共にやりきれない辛さが心に拡がった。
「どおお、舐めてる? 私のと、お味の違いが判った?……フフッ、意気地の無い奴ね。……
最低の犬だわ!」
守男の両腕に抱かれたまゝ、首を延ばした香織が、軽蔑の調子を声音に込めて嘲った。
そして、……その日の晩、茂雄は、二人の夜の慰み者として、生れて初めての激しい辱めを
受けたのである。
かっては、自分が香織を抱いたベッドの上で、今、外の男が彼女と抱き合っている。
それを、ベッドの裾に繋がれた犬として、眺めねばならぬ辛さ、そして、香織の発案で無理
矢理口に押し込まれた、二人の汚れた下穿きの屈辱の香りと味、それ等がミックスして、茂雄
をこの世のものならぬ異常な世界へと導いて行った。
抱き合ったまゝの長いペッティングの後、香織の上にピッタリ身体を重ねた男の挿入が始ま
った。……ゆっくりした上下運動のピッチが早まる頃、香織の声が茂雄を呼ぶ。
「お前、こっちへお上り。横から顔を差し入れて、私達の結合部を舌で舐めるのよ。……さ、
早く!」
同時に、何時の間にか香織の手に握られていた鎖が、ぐいと引かれる。
首輪を穿めたまゝ、二人の股間に横から首を入れた茂雄の舌は、命ぜられるまゝに、その、
結合部を下から舐め続けた。
ピストン運動の度に、男の袋がピタッピタッと茂雄の頬を叩く。
その内、結合部の肉襞から、ねばっこい白濁した分泌液が強い香りと共に、茂雄の舌の上に
溢れ出して来た。
やがて、ピッチが早まり、香織のあえぎ声が高まると、頂点が訪れる。
二人の太股が痙攣し、茂雄の顔は瞬間、香織の股間に押し潰された。
暫く余韻を楽しんだ二人は、ゆっくりと身体を離す。
「すっかり吸い取るんだよ。……こぼすと承知しないわよ!」
香織の叱咤する様な命令に、茂雄は反射的に反応した。
女の尻割れを伝って流れる生臭い二人のジュースを舌と唇で受け止め、吸い込むのである。
「フッフッフッ、いいざまだな。……犬畜生にふさわしい仕事じゃないか」
男の嘲笑が、茂雄に忘れていた屈辱感を呼び覚ます。
「これから毎晩こうして使ってやるからね。……ホラ、後をしっかり舐めて! アラ、お前、
こぼしたのね。シーツがビショビショだわ。……明日の朝、罰を与えるから覚悟しなさい。…
…サー、もう一度、私を良い気持にさせるのよ!」
香織の太股が、催促する様に茂雄の首を締め付け、彼を深い屈辱の淵に沈めて行った。
その翌朝、目覚めた香織は、茂雄に命じて彼の食器代りに使っている古い洗面器を持って来
させた。
ベッドから降り立った彼女は、無造作にパンティーを下ろすと、洗面器に跨がり、勢いよく
放尿した。
「……さ、後を清めて!」
香織の突き出す尻に顔を寄せて、舌を股間に這わせる。
四つ這いで滴を吸い取る茂雄の起きぬけの目に、女の白い尻が眩しかった。
「ソラ、昨日の罰だよ! 私のオシッコをお飲み。……フフフ、犬の様に舌を出してね」
ぐっと胸に込み上げるものを抑えて、茂雄は洗面器の中の汚水に口を寄せる。
激しい無念の思いが、彼の理性を麻痺させていた。
「おいしいかい?……そおお、返事が出来ない程おいしいの。それじゃ、これから毎朝飲まし
てやるよ。クックックッ」
香織の言葉の下から、茂雄の嗚咽がピチャピチャと汚水を啜る音に混じって、何時迄も続く
のだった。
(完)
--------------------------------------------------------------
1986年10月スピリッツ10月号
(スレイブ通信17号に再掲載)
--------------------------------------------------------------
2010/07/06