#14奪われた恋人(取り上げられた恋人) 「転落の改造人間」
                阿部譲二

卒業を来春に控えた学生がOLの女性と恋仲になり、結婚の約束をする。ところが彼の友人が横恋慕し、その姉と組んで、彼を罠に掛ける。デートの最中、雇われたやくざに恋人を誘拐された彼は彼女を追ってラブホテルへ。そこは友人の姉の所有のホテルだった。友人の姉に拘束された彼は、隣の部屋で犯される恋人をマジックミラーを通して見せつけられる。

「英夫さーん……こゝよ、ここ!」
 初冬の弱々しい午後の日差しを受けた公園
のベンチで、所在なげに文庫本を開いていた
杉山英男の背に、明るい女の声が響いた。
 ハッと振り返った彼の目に、通りに面した
棚の向う側で手を振っている清水雅子の笑顔
が飛び込んで来た。
 待ちくたびれて、苛立ちかけた英夫の顔が
パッと明るくなり、胸の動悸が大きくなる。
手を上げて応える彼の許に、モスグリーンの
スカートをひるがえしながら、彼女が小走り
に近付いて来た。
 中々の美貌で、色白のふっくらした丸顔に
やや長目にカットした髪型が良く似合う。
 意志の強そうな来い眉の下には、二重目蓋
の黒目勝ちの大きな目が活き活きと輝やいて
英夫の心を魅了した。
 中肉中背と言っても良い均斉の取れたシル
エットの中で、胸の膨らみと腰骨の張りが際
立ち、中々のグラマーである。
「大分待たせちゃって、御免なさい。……お
洗濯に手間どったもんだから」
 やゝ首をかしげて、英夫の顔を斜めに見上
げる様にして喋るのが彼女の癖である。
「いゝさ。学校の方は、もうじき冬休みで、
どうせ暇なんだ。……雅子さんは会社勤めだ
から、週末は忙しいんだろう?」
「ううん、そうでもないわ。でも、アパート
の独り暮しって案外不便なの。……第一、家
事をしてくれる人がいないから、掃除や洗濯
それに買い物なんかがどうしても週末に集中
するわ。……でも土曜日の午後は英夫さんと
の時間と決めてるのよ」
 知り合って、ようやく一年になるかならぬ
かの二人である。こうして毎週デートする様
になったのは、こゝ半年のことだった。
 郷里の遠縁の親戚を除けば、全く身寄りの
無い英夫なとって、ここ東京での学生生活は
決して明るいものではなかった。少なくとも
雅子と知合うまでは……。
 経済的にも奨学金とバイトに頼る生活で、
時には下宿代を待って貰うことすらあった。
体格は標準並だが、スポーツは苦手の方で、
穏かで知的な顔立ちのため、人には何処とな
く弱々しい感じを与える。
 しかし、芯は強く、風邪以外に病気らしい
病気をしたことがなかった。
 昨年の学園祭で偶然に出合った継子が、彼
同様、身寄が無く、東京で独り暮しをしてい
ると聞いて、お互いに惹かれるものを感じた
のが、きっかけである。
 交際するにつれて、英夫は雅子の魅力に次
第に捉えられていった。
 今日で彼女とのデートは三十回を越える。
そして彼の心の中で、雅子への思いは最早消
し難いものになっていた。
 何時もの様に二人で映画を見て、その後の
つつましい夕食。……そして、行きつけのコ
ーヒーショップでの楽しい語らいのひと時。
……それは今や、彼にとって何物にも買え難
い貴重な心躍る時間だった。
 二人の前のコーヒーカップ底が見えて来た
頃、彼はやゝためらった後、幾分固い口調で
切り出した。
「雅子さん。ぼ、ぼくは、この前からずっと
考えてたんだけど……。あの、来年の春に卒
業して就職したら……どうか僕と結婚してく
れませんか?」
「………………」
「も、もちろん、僕には財産も無いし、今は
ただの貧乏学生に過ぎないけど……就職して
収入の道が出来たら、一生懸命働いて、君を
幸せに……」
 それまで、黙ったままうつむいて目を伏せ
ていた雅子が、スッと顔を上げて英夫の目を
ジーッと見詰めた。
 彼女の上気した美しい顔に、黒い大きな瞳
が濡れてキラキラ光っている。
「いゝの。私には貴方さえいれば……。結婚
しましょう。そして、二人で新しい生活を築
くのよ!」
 その夜、英夫はベッドに入っても中々寝付
かれなかった。
 彼のプロボーズに対する彼女の承諾、そし
て別れ際に生れて初めて交した彼女との熱い
くちずけ、その溶ける様な甘い寒暑が何時ま
でも唇に残り、彼を興奮させたのである。
 近い身寄りの無い英夫にとって、雅子との
婚約……と云っても、バイト代をはたいて買
った細い金の指輪を、彼女に贈ったに過ぎな
かったが……を報告する先も無かったし、東
京で独り会社勤めをしている雅子の場合も、
事情は大差無かった。
 二人の間で、漠然と式は来年の五月頃と決
め、年が明けたら、具体的に日取りを決定し
て、英夫の学部の教授に、仲人を頼むことに
していた。勿論、二人の逢瀬の密度は増し、
どちらからともなく、週二回は顔を合わせて
将来を語る様になったが、昔?の彼女の考え
固から、二人の間柄は、キス以上の段階には
進まなかった。
 これまで、アルバイトのため時間が無かっ
たせいもあって、英夫の学校での交際範囲は
狭く、固定した友人とて無かったが、同じ口
座の学生である斎藤浩が唯一の例外だった。
 溶棒も無い資産家の長男である斎藤は、ご
多分に洩れず勉強嫌いの遊び好きで、彼が英
夫に近付いたのも、几帳面な英夫の厚誼ニー
トを借りるためだった。
 しかし、奇妙にウマが合って、英夫も、桁
外れに広壮な斎藤卦の邸宅へ何回か遊びに行
ったし、彼からの借金で危機を乗り切った事
も少くなかった。
 もっとも、万事派手好きの斎藤の交遊関係
は複雑で、英夫はあくまでその中の一人に過
ぎなかったが、英夫にしてみれば、ささやか
な二人の披露バーティーに呼び友人は、彼く
らいしかいない。
 十二月に入って、講義のあと、木枯しの舞
うキャンパスを彼と連れ立って歩きながら、
英夫は思い切って、自分の婚約のことを打明
け、式の後の披露宴に出席して、司会をして
欲しいと頼んだ。
 とたんに、スポーツで鍛えた斎藤の肉厚の
大きな手が、ドンと英夫の背を叩く。
「オイ、水臭いぞ! どうして今まで黙って
たんだ。……勿論、お前のためなら司会でも
難でもやってやるさ。でも、その相手の女性
に前もって引合わせろ。……そうだ、今度の
週末に俺の家に連れて来いや。皆でテニスで
もやろうや」
 斎藤の勧めに応じて、早速次の土曜日に英
夫と雅子は、斎藤家の豪華な門をくぐった。
 幾分、訪問をしぶっていた雅子も、その広
壮さに目を見張った。
「やあ、いらっしゃい。僕が斎藤浩です。…
…今後とも宜しく」
 斎藤が招じ入れた彼の二間続きの書斎は、
見晴しの良い三階にある。
 目の前に広い日本庭園が一望され、その外
れにはテニスコートや屋外プールが見える。
思わず嘆声を上げる雅子に、斎藤は得意そに
解説した。
「ここは、昔の有名な政治家の私邸だったの
を、不動産業であてた父が買い取ったんです
よ。あのテニスコートの横手に小さな家があ
るでしょう。あれが昨年結婚した姉夫婦の新
居。ついでに言うと、道をへだててツーブロ
ック程向うに見えるラブホテルは、姉の小遣
いかせぎに、結婚の引出ものとして、父が譲
ってやったもんですよ」
「まあ、じゃあ、お等差間は随分色々と事業
を手広くやっていらっしゃるのね」
「父のやっている斎藤産業は、主に盛り場の
ナイトクラブやレストラン、それに、ああい
ったラブホテルまで手掛けてるんですよ……
もっとも、つい先頃、過労で倒れて、今は入
院中。あんまりがめつく金儲けに精出した報
いが来たんですね」
 三人は、革張りのどっしりしたソファーに
身を委ねて、女中の運んで来たケーキとコー
ヒーを前に、ひとしきり話をはずませた。
 その内、皆でテニスをやろうと斎藤が言い
出し、一同は広いプールサイドを通って、テ
ニスコートに降り立った。
 高いグリーンのフェンスの中に二面のコー
トが設けられ、アンツーカーの赤茶色が日を
浴びて、目に鮮やかである。
「浩さーん。今行くわ」
 フェンスに隣接した家の窓から、若い女の
張りのある声が降って来た。
 斎藤が手を上げて応じる。
「あれが、僕の二つ上の、姉の陽子です。さ
っき電話で誘っておいたんです。主人が海外
出張で暇を持て余しているんですよ」
 雅子も英夫も、借り物の運動靴で足ごしら
えしたが、やがてコートに洗われた陽子は、
本格的な白いテニスウエァーに身を固めてい
た。
 大柄で背も浩と余り変らない。
 豊満なヒップを包んだショーツから、スラ
リとした魅力的な脚線がこぼれていた。
 エキゾチックの派手な顔立ち、濃いめの口
紅が目立っている。
「お待たせ! アラッ、奇麗な方ね。浩さん
の新しい恋人かしら!」
「違うよ、姉さん。こちら清水雅子さん。そ
こにいる杉山英夫君の婚約者だよ」
「フフッ、失礼。私、池村陽子。来週、結婚
一周年になるんだけど、主人は先日出張でア
メリカへ行ったきりなの……今日は、皆さん
のお仲間に入れて頂戴」
 それぞれのペアで、ダブルスのゲームに興
じたのち、組み合わせを変えてプレーする内
に、若い一同はすっかり打解けた仲になって
いた。
 程良い汗をかいて後、陽子の提案で部屋に
戻って、皆で麻雀の卓を囲む。
 結局、夕食まで御馳走になって、二人が帰
路についたのは、かなり夜も更けていた。
 派手好きの浩は、毎月の様に、自宅の広い
ホールで、ダンスパーティーを開いている。
 それ以来、英夫と雅子は、浩に熱心に誘わ
れるまゝに、テニスにパーティーにと、斎藤
家へ頻繁に出入りする様になった。
 その華かなダンスパーティーの夜、ミラー
ボールに反射してキラキラ輝やくカクテル光
線の中で、黒いロングドレスに身を包んだ陽
子の姿は、言葉に現わし難い妖しげな魅力を
放ち、人妻ながら一際目立つ存在だった。
 踊りながら、陽子は甘い息を英夫の耳に吐
き掛ける。しかし、英夫の目は、浩と楽しげ
に談笑しながらステップを踏む雅子の姿を、
心配気に追い続けていた。
 三月も半ばを越すと、めっきりとあたりが
春めいてくる。五月下旬に式の日取りを決め
た二人にとって、何か気忙しい毎日だった。
 その矢先、斎藤浩から、次の週末に式の司
会の段取りを打合わせたいから、二人で遊び
がてら家に来て欲しいと連絡があった。
 考えてみると、二人共忙しさにかまけて、
このところ斎藤家から足が遠のいている。
いつもの様に、斎藤家に程近い地下鉄の駅を
出た所で落合うこととした英夫は、これも、
いつもの様に早目に来て彼女を待った。
 ちょうど雨あがりの陽光が、目の前のラブ
ホテルの赤い屋根を照す。その北欧風の凝っ
た造作が、ロマンチックなムードを醸し、人
目を惹いた。
 英夫は、ふと、そのラブホテルが、いつか
斎藤家の三階から、浩が指射した、あの陽
子への結婚の引出物≠ナあることに気が付い
た。
(商社マンの御主人はノータッチと聞いてい
たから、陽子さんは、このホテルの実質的な
経営者のはずだけど……)
 しかし、テニスにダンスパーティーにと、
暇を持て余している陽子が、このホテルのフ
ロントに座っているはずも無く、誰かに任せ
切りにしているに違いなかった。
 その時だった。物思いに耽っていた英夫に
ドンとふつかって来た男がいた。
「ボヤボヤするない。そんな所に突っ立って
いやがって!」
 派手な模様のアロハシャツに、黒眼鏡の若
い男である。やくざっぽい口のきき方はして
いるが、街の何処にでも居る普通のヤングと
一人に違いなかった。
「何を言うんだ。そっちから、ぶつかって来
たんじゃないか! それに……」
 道を塞いでいた訳じゃないぞ……と言い掛
けて、思わず言葉を飲み込んだ。
 反対側から引き返して来た、同じ様な身な
りの連れの男達が二人、英夫を取り囲んだの
である。
「何か文句あるのか?……オイッ、どうなん
だ? 黙ってないで謝まったらどうだ」
 いわゆる因縁をつけるというやつである。
 心なしか青ざめて立ちすくむ英夫の耳に、
突然、雅子の声が飛び込んで来た。
「英夫さん、お待ちどうさま……アラ、どう
したの?」
 怪訝な顔で近付いて来た彼女を、三人組の
二人が遮った。
「オイ、お前に助っ人が来た様だな。お前の
代りに、あの女に謝まってもらうぜ……文句
あるまいな」
 残ったリーダー格の、身体の大きい男が、
ニヤニヤ笑いながら、英夫を見据える。
「こ女を連れて、先に行ってるで!」
 連れの男の声と同時に、雅子の悲鳴が響い
た。
「ちょっと、あんた達、何をするの?……英
夫さん、助けて!」
 見ると、雅子は二人の男に腕を取られて、
向いのラブホテルの方へ、引きずられる様に
して連れ去られて行く。
「オイ、待て! な、なにをするんだ!」
 慌てた英夫は、二人の後を追おうとした。
その肩が、目の前の男にくっと掴まれる。
「ジタバタするなよ。あとで返してやるから
心配するなって。……ちょっとだけさ」
 男の腕を振り払って、駈け出そうとした英
夫は、後から組み付いてきた男に羽交締めに
され、身動きが出来ない。
「オーイ、待て! 誰かぁー……」
 途端に口を抑えられて、後は声にならなか
った。雅子は、この間に、男達に両脇を抱え
られる様にして、建物の中に消えてしまう。
不運なことに、あたりには、人影もまばらで
気付いた人もいない。
 雅子もやはり、最初に助けを呼んだ後は、
声を封じられたまゝ連れ去られた様だった。
 男と揉み合った末、英夫は、ようやく男の
手を振り切った。一瞬、この男を捉えて仲間
の行方を追求したものか迷たものゝ、しぶと
そうな男の面構えを見て、諦らめて雅子の後
を追った。
 ラブホテルの中に息せきって飛び込んだ英
夫は、人影の無い狭いロビーで立往生した。
 この種のホテルに良くある様に、各部屋の
写真がパネル一面に張り出されていて、客が
自分で部屋を選択するシステムである。
 従って、客を受け付けるフロントのカウン
ターも無く、片隅に小さな会計の窓口が設け
られているのみで、完全なセルフサービス方
式だった。
 見渡した限りでは、狭いロビーには、今入
って来た正面以外に出口は無い。すると、雅
子は、あの男達にこのホテルの一室に連れ込
まれたに違いなかった。
 英夫は、会計の窓にかじり付き、中から出
て来た係員に、気ぜわしく今入室した三人組
の客の部屋番号を聞いた。
「こゝでは、お客様のプライバシーに関する
ことは、お教え出来ない規則ですので……」
「そ、そんな馬鹿な。私の連れが、い、いま
誘拐されてこゝに連れ込まれたんだ! プラ
イバシーも時によりけりじゃないか」
「でも……そう言うことでしたら、警察の方
に言って頂かないと、当方では処理しかねま
す」
 英夫の剣幕にたじろぎながらも、係員は屈
しなかった。
 今から警察に言っても、目撃者でもいれば
ともかく、係官を説得してこゝへ連れて来る
までには、かなりの時間が掛かることは目に
見えている。
 その間に雅子に万一のことでもあれば取り
返しが付かない。それに、こうして押し問答
している瞬間にも、彼女の身に何が起ってい
るか、気が気ではなかった。
 その時、英夫の頭に、このホテルが斎藤浩
の姉の陽子のものであることが閃いた。
「陽子さん、池村陽子さんが、このホテルの
経営者でしょう……私は、陽子さんの友人な
んです。す、すぐに、あの人に連絡して下さ
い。……私の名は杉山英夫です。大至急お願
いします!」
 係員のダイヤルを回す手付が何とももどか
しく、英夫は思わず足を踏み鳴らしたい気持
だった。
「池村さまは、今直ぐこちらへ見えるそうで
す。五分程お待ち下さい」
 係員の応対が目に見えて丁寧になった。
 その時であった。先程、英夫と揉み合った
男が、何くわぬ顔で、ロビーに入って来たの
である。
 その男は素知らぬ顔で、英夫を完全に無視
してエレベーターのボタンを押すと、中に乗
り込んだ。
 明らかに、先程の仲間と連絡を取って、ホ
テルの一室で合流するに違いない。
 英夫が、身を翻えして同じエレベーターに
飛び込んだのも、当然の反応だった。
 意外なことに、英夫に腕を掴まれたその男
は、おとなしく彼を一味の部屋に案内する。
 男は、最上階の奥まった部屋のドアのノブ
に手を掛けると、ドアを大きく開いた。
 勢い込んで飛び込んだ英夫は、茫然と立ち
すくんだ。
 中は、からっぽだったのである。
 騙されたと覚って後ろを振り向くと、男は
ニヤニヤ笑いながら、ドアを後手で締め、ゆ
っくりとした足取りで近付いて来た。
「ど、どこに居るんだ。お前の仲間は」
 英夫の目は血走っている。
「見た通りさ。どこかは知らんが、ここに居
ないことは確かだな」
「け、警察に、き、来て貰うからな。お前も
共謀者だ。ただでは済まないぞ!」
 電話に近付いて受話器を掴もうとした英夫
の手が、男の太い腕に遮られた。
「少し、おとなしくして貰おうかな」
 男は、行きなり、英夫の二の腕を掴むと、
グイと後ろにひねり上げた。
 先程、路上で揉み合った時は、多分手加減
していたのであろう。あの時とは比較になら
ぬ強い力だった。
英夫は、もるで赤子の様に扱われた。
 結局、そのまゝ壁際に引きずって行かれ、
男の手で素っ裸にされた上に、壁から下がっ
ている手錠に、両手を広げた状態で固定され
てしまった。
 入った時は気付かなかったが、この部屋は
いわゆるSMルームで、壁の拘束金具の他に
も奇妙な椅子や首輪、鞭、ロープ等の責め具
が揃っている。
 英夫は、両手だけでなく、両足も大きく開
いた形で、文字通り大の字なりに壁に鎖で繋
がれ、蒼白な顔で唇を震わせていた。
 突然、表でノックの音がした。
 ドアを開けに行った男が、入口の所でボソ
ボソと何やら話す声が続く。どうやら相手は
女の様だった。
 話し合いの結果、男は外へ出て行く気配で
ある。
 英夫は、一縷の望みを託して、入口の方を
見詰め続けた。そして、ドアがカチャリと閉
まって、男に代って部屋に姿を見せたのは、
彼が待ち望んだ陽子だった。
「あ、やっぱり、陽子さん、来てくれたんで
すね。よかった!……は、はやく、この手錠
を外して下さい。……雅子が、雅子が大変な
んです!」
 勿論、英夫は、陽子が走り寄って彼の縛め
を解いてくれることを、つゆ疑わなかった。
 しかし意外なことに、陽子は傍らのベッド
に腰を下ろすと、悠々と煙草に火を付けた。
 ジーッと英夫を見詰める冷たい視線は、さ
ながら、捉えた獲物を見る猟師の目を思わせ
る。
「ど、どうしたんですか? 私ですよ、杉山
英夫ですよ。は、はやくして下さい!……陽
子さん、どうかしたんですか?」
 英夫の言葉に一向に反応しない陽子の不可
思議な態度に不安を抱き始めた英夫の声は、
その語尾が弱々しく震える。
「綿入はどうもしないわよ。杉山さん。あな
たが私の虜になっただけよ」
「と、とりこですって? じゃあ、雅子は、
一体どうしたんですか? 彼女が攫われたの
も貴女の差金なんですか?」
 陽子は、それに答えず、黙って煙草の煙を
吐いた。英夫の顔を見る彼女の目が、彼をじ
らす様に笑っている。
「ま、雅子を、か、かえして下さい! な、
なんの目的で、雅子を……それより、いった
い、何の恨みで、貴女はこんなことを……」
「貴方には、何の恨みも無いのよ。でも、雅
子さんは、貴方みたいな貧乏学生にはもった
いないわ……ウフフッ、日は、これは浩が言
った言葉よ」
「ひ、浩君は、どこなんですか? 彼はこの
ことを知っているんですか?」
「まあ、見てらっしゃい。段々判って来るか
ら……とにかく、私達、貴方から雅子さんを
取り上げることにしたの」
「な、何ですって? 取り上げるだなんて、
そ、そんな馬鹿なことが出来ると思ってるん
ですか? 直ぐ元通りしてくれないんだった
ら、警察に届けますよ!」
「アラ、警察だったら、どうぞ御遠慮無く。
電話だったら、そこにあるわよ」
「で、でも、この手錠を外して貰わないと…
…」
 陽子はゆっくりと立ち上がると、煙草を片
手に英夫に近付いた。しかし、一向に彼の拘
束を解いてくれる気配は無い。
 それどころか、ニヤニヤ笑いながら、全裸
の英夫の身体を、まるで品物でも見る様にジ
ロジロ眺め回した。
「思ったより肉付きが良いわね。……それに
ホラ、こんなものまで、レディーの前に露出
して、恥ずかしくないの?」
 陽子は、足を上げると、英夫の股間をハイ
ヒールの先でチョンチョンと突つく。
 英夫の顔は、思いがけない屈辱でカーッと
紅潮した。
「私ね、さっき、雅子さんを貴方から取り上
げると言ったけど、訂正するわ。……貴方が
雅子さんを諦らめて身を引くのよ」
「そ、そんな馬鹿な!」
「まあ、見てらっしゃい。びっくりして腰を
抜かさない様にね」
 陽子は、英夫に背を向け、反対側の壁に近
付くと、その全面を覆っている辛苦のカーテ
ンに手を掛け、まったいぶった仕草でサーッ
と開いた。
 キラキラ光る鏡の肌が、壁一面に広がった
かに見えた。しかし、よく見ると、そこに移
った映像は、この部屋のものでほなく、実は
マジックミラーを透過して見える隣室のもの
だったのである。
「どおお? 向こうからはただの鏡で、こっ
ちは見えないのよ」
 陽子は自慢げに解説した。
 そして、そこに繰り広げられていた光景は
まさに英夫の肝を奪うに十分なものである。
 ちょうど、壁に拘束されている英夫と対象
の位置に、全く英夫と同様に、全裸で大の字
にはりつけにされている女があった。
 雅子である。髪は乱れ、手首と足頚に嵌め
られた枷のあたりに、赤く擦れた痕が見え、
彼女が精一杯抵抗したことが判る。
 ふっくらした美貌が涙にまみれ、グラマラ
スな裸身が紅潮している。大きく引き裂かれ
た股間を覆う繁みの間から、ピンクの肉襞が
露出し、それが彼女の腰の動きで息付く様に
震える。
 そして痛々しいと同時に、淫靡な雰囲気を
あたりに捲き散らしていた。
 その周囲に村がる様に、三人の男がたむろ
している。その内の一人は、先程まで英夫の
部屋に居た大男だった。

 その白い布が、英夫の顔面に押し付けられ
た。鼻にツーンとくる刺激臭に、クラクラッ
とし、思わず開いた英夫の口に、それが押し
込まれる。そして、吐出さない様に、陽子の
ソックスが猿轡代りに巻付けられた。
「フフッ、それを味わいながら、隣のショー
を見物するといいわ。・・・・・どおお? 
自分の恋人が親友に犯された時のジュースの
味は? 又、格別でしょう。クックックッ」
 ねっとりとした、アルカリ臭の強い味が口
中に拡がり、情け無さで胸が一杯になった。
 一方、雅子には、新手の男が覆い被さって
いる。しかし、これも、アヌスへの挿入だっ
た。
 ひと呼吸置いて、今度は浩が雅子の背中に
抱きつく。だが、浩の場合は、二人の男に続
けて汚されたアヌスは避け、後背位で膣に挿
入した。
 最後は、待ち兼ねていた三人目の男が、こ
れは、雅子のアヌスの中めがけて、溜ってい
た精液を放出した。
 結局、雅子の性器を犯したのは浩だけで、
三人の男は、代用品の彼女のアヌスで我慢さ
せられたことになる。
しかし、雅子にしてみれば、三人の男に前後
の秘所を、計五回に亘って犯されたと、受け
取っていたに違いなかった。
 生れて初めての、暴力に依る辱めである。
しかも輪姦と云うおぞましい烙印であった。
 壁に向かって、両手首の鎖にぶら下がる様
に、ぐったりと尻を落した股間から、夥しい
白い粘液が太股を伝って流れていた。
男の暴力に思いのまゝ翻弄され尽くした、哀
れな女体がそこにあった。
 隣室の英夫はと云えば、身体を拘束された
上に、愛する雅子が男達に連続して凌辱され
る様を、しかも汚辱の粘液を味わされつゝ、
目の当りに眺めさせられたのである。ショッ
クで、これも、虚脱状態にある。
 その時、向いの雅子の部屋では、身繕いを
終えた男達の間で、次の舞台の幕が開きつゝ
あった
 こっそり、部屋を抜け出した浩が、部屋の
ドアを、外から破けんばかりに叩く。
その音は、廊下を通して、隣の英夫の部屋迄
響いた。
「ここからは、無声映画じゃ判り難いから、
トーキーを入れて上げるわ。ゆっくり鑑賞な
さい。フフフ」
 陽子は、マジックミラーの壁に近寄り、隅
のスイッチを押した。途端に隣室の声が、マ
イクを通して流れて来た。
ドアを叩く音が、途端に耳を聾するばかりに
高まる。男達の一人が扉を開くと、浩が足音
荒く飛び込んで来た。
「雅子さん! どこに居るんだ。助けに来た
ぜ!」
 浩の声が、高らかに響く。       
続いて、雅子に走り寄った浩は、壁の拘束具
を手早く外し、傍らのバスタオルを彼女の腰
に巻くと、抱きかゝえる様にしてベッドの上
へ寝かせた。
 雅子はと云えば、ぐったりして半ば放心の
態である。しかし、大きく見開いた目には、
顔見知りの斎藤浩に助けられて、ホッと安堵
の色が浮んでいた。
「オイッ! 君達、こんな事をして無事に済
むと思ったら大間違いだぞ。これから一諸に
警察に行って貰うからな!」
 浩は、そこで未だぐずぐずしている三人の
男達に向かって怒鳴った。
隣室から見ると、如何にも白々しい演技だが
当の雅子は知る由も無い。
「そりゃあ、おかど違いだぜ。俺達は、この
スケの連れの男と、ちゃんと話がついている
んだ」
 リーダー格の男が、これも、芝居っ気たっ
ぷりに答えた。更に、傍らの二人の男が得た
りと言葉を継ぐ。
「そうだそうだ! この女の連れの男はな、
俺達への借金が返せないから、この女の身体
で勘弁してくれと俺達に頼んだんだ」
「どうやら、この女に因果を含めてなかった
と見えて抵抗するから、少し手荒らに扱った
がョ、俺達は据膳を頂いたまでよ。警察だな
んて笑わせるぜ。・・・・・第一、この女の
連れは、下でおとなしく事の終るのを待って
いるんだぜ」
 彼等の言葉を聞いて、雅子の顔に怒りの色
が浮んだ。
「斎藤さん、この人達の言うのは、みんなデ
タラメよ。英夫さんが、そんな事をする筈が
ないわ。直ぐに警察に突き出して頂戴!」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、雅子さん。
そう言えば、思い当る事があるんだ。・・・
・・僕がこゝへ来たのは、このホテルの持主
の姉の陽子から電話があったからで、姉は、
たまたま下の事務室に居て、雅子さんが連れ
込まれる所を目撃したんだ。僕がホテルに着
いた時には、英夫君は確かにホテルの前に居
た。しかも、雅子さんとはここで待ち合せて
いるが、未だ会ってないと言うんだ」
「ウソよ! 私、英夫さんが、この男達に囲
まれている所へ来て、ちゃんと声を掛けたの
よ。会ってないなんて言う筈がないわ」
「それじゃあ、彼が嘘をついたんだ。・・・
・・それで判ったよ。僕が姉からの電話の事
を言っても、彼は人違いだと言い張るんだ。
・・・・・挙句の果てに、彼は他に心当りが
あると言って、逃げる様に地下鉄の方へ行っ
てしまったよ」
「ひ、ひどいわ! そんな、そんなことって
あるかしら!」
 僕は半信半疑でホテルの中に入って、姉に
会ったら、雅子さんに間違いないって言うか
ら、慌てゝ駈けつけたんだ。・・・・・残念
ながら間に合わなかった様だけど・・・・」
 浩は、こっそり、三人の男達に目くばせを
する。
「じゃあ、俺達は帰るからな。警察なんかに
言ったら、そちらの恥も明るみに出る事を忘
れるなよ」
 捨てぜりふを残して男達が去った後も、雅
子は未だ割り切れぬ表情である。
「でも、どうして英夫さんが、そんなひどい
ことを・・・・・」
「僕も、二ー三日前に相談を受けたんだが、
彼には、君と交際を始める前に同棲していた
女が居たんだ」
「同棲ですって? まさか!」
「本当だよ。君と交際をする様になっても、
その女とは身体の関係は続けていたんだ」
「ふ、ふけつだわ! よくも、そんなことが
・・・・・」
「その女が、可成の手切れ金を要求したんだ
な。それで、彼は思い余って、いかがわしい
金融業者から多額の金を貸りるはめになった
そうだ」
「それが、あの連中だったのね。・・・・・
私、悔しいわ! あの人の女への手切れ金の
為に、こんな恥ずかしい目に会わされるなん
て!」
「狂犬に噛まれた様なもんさ。あの男の正体
が、結婚する前に判って、かえって良かった
じゃないか。・・・・・あいつも、これで、
もう二度と君の前に姿を現すことは無いだろ
うよ」
「判ったわ。良い勉強をしたと思って諦らめ
るわ。・・・・・もう二度と、あの人のこと
は考えません」
 雅子の言葉は、まるで自分自身に一語一語
言い聞かせているかの様だった。
結婚を前にして、いったん心に決めた男を諦
めるのである。気丈な彼女ではあったが、流
石に乱れる思いに涙が止まらなかった。
 隣室で、この一部始終を見聞きさせられた
英夫は、気も狂わんばかりだった。
無駄と知りつゝ、何度か抗議の叫びを上げた
ものゝ、口に詰められた彼女のパンティーで
微かな呻き声が洩れるのみである。
いたたまれず、身もだえするが、いたずらに
手足の鎖がカチャカチャ鳴るだけで、拘束具
はビクともしない。
頃を見計らって陽子が立上り、壁のカーテン
を閉め、マイクのスイッチを切る。
部屋は再び陽子と英夫だけの世界に戻った。
「どおお? これで一巻の終りね。でも、あ
なたの方は、未だ諦めがつかないかも知れな
いわね。浩が、雅子さんに一方的な作り話を
ふき込んで引き離したんだから当然よ。・・
・・・でも、今度は私が、あなたに雅子さん
を諦めさす番よ。どんな方法でやるか知りた
いでしょう。フフフ」
「・・・・・・・」
「君は、ここで私の手で、人間の資格を奪わ
れるのよ。そうね、一年か二年かかるかも知
れないけれど、最終的には人間の皮を被った
犬にして上げる。・・・・・それも、女に仕
える最低の奴隷犬にね。それで、二度と雅子
さんと結婚はおろか、人間として対等の口を
聞けない様になるのよ。・・・・・クックッ
クッ、未だ良く判らない様ね。それじゃ、具
体的に教えて上げる」
 陽子は煙草の煙を、フーッと天井に向けて
吐き出した。
「先ず、第一の段階として、今日から君はこ
の部屋で、私の奴隷教育を受けるのよ。君は
犬に成るんだから、鼻が利かなくっちゃね。
だから、毎日私のお尻の臭いを嗅がして上げ
る。それから舌も大切よ。私の汚れた足の裏
や、ウンコの付いたアヌスを舐めて味を覚え
なさい。私のセックスにも、舌で奉仕するの
よ。食事はここで四つ這いになって私達の残
飯を食べること。・・・・・それから、これ
が肝腎な事だけど、君は、もうこれから普通
のお水は飲ませて貰えないのよ。その代り、
私のオシッコを飲ませて上げる。どおお? 
君はこれから一生、毎日女のオシッコを飲ん
で、人の残飯を食べて暮すのよ。・・・・・
そうすれば、いやでも雅子さんの事を諦める
様になるわ」
 それは、英男にとって、思いもかけない衝
撃的な宣言だった。雅子を失ったばかりか、
我身も自由を奪われて、陽子の手で汚辱の底
に落とされるのである。・・・・・陽子が本
気だとすれば、英男は、人間の誇りを失った
女の奴隷、それも人間の皮を着た奴隷犬にさ
れるのだった。
 蒼白に変った英男の顔を眺めながら、陽子
はおもむろに近付いて英男の前に仁王立ちに
なった。
キラキラ光る黒目勝の瞳と、くびれた腰の下
に拡がるボリュームたっぷりのヒップが彼を
威圧する。
「さあ、これから君を、地獄に落として上げ
る。覚悟なさい!」
 そして、この瞬間から、英男の人間として
の生活は終りを告げ、新たに女の奴隷犬とし
ての一生が始まったのだった。
 英夫が陽子の所有するラブホテルの一室に
監禁され、彼女の奴隷に身を落として、一週
間が過ぎた。
毎日が、彼にとって汚辱の連続である。
陽子は、一刻の休みもなく英夫を辱め、いた
ぶり、嬲り抜いた。
 夫の海外出張で暇を持て余し気味の、しか
も欲求不満でいら立っていた陽子にしてみれ
ば、格好の吐け口が出来た様なものである。
ホテルに泊り込んだ陽子は、殆ど外出せず、
部屋に篭り切りで英夫の奴隷化に熱中した。
流石に用心してか、英夫の両手は後手に革手
錠を穿められたまゝだし、両足も短い鎖で繋
がれた足錠で拘束されているので、ヨチヨチ
歩きしか出来ない。
それも、陽子に軽く蹴られると、簡単にバラ
ンスを失って無様に床に転がった。
 陽子は宣言通り、頻繁に英夫の顔に跨がっ
て尻臭を嗅がせた。それもテレビを見たり、
食事をしたりする時の座布団代りに、英夫の
顔を長時間尻に敷くのである。
幸いパンティーを穿いたまゝなので、布の間
から辛うじて呼吸することは出来たが、同時
に饐えた尻臭が遠慮無く英夫の鼻孔に侵入す
る。被征服感と屈辱感が、その臭いと共に英
夫の脳裏に焼き付けられて行った。
 足舐めも彼の日課となった。椅子に座った
陽子は彼の顔を足の裏で踏み敷いて、汚れを
舐め清める様に英夫に強いた。
午前に一時間、午後に一時間、陽子に足を舐
めさせられる英夫の心は、その都度、みじめ
さで満たされる。
 そして、一日に数回、彼女の小水を飲まさ
れる屈辱が、その度に、彼を更に深い汚辱の
底に突き落した。
仰向けに寝かされた英夫の顔の上に、これ見
よがしに近付く陽子のクレバス。それが、ぴ
ったりと彼の開いた口を覆い、尻の重みが下
顎を押し下げて、最早口を閉じることが出来
なくなる。
 最初は、流石の陽子も精神的に幾分抵抗が
あったと見え、仲々尿が出て来なかった。
初めての経験に、文字通り息を飲んで緊張し
ている英夫にして見れば、これで当面は屈辱
を免れたかとホッとしかけた矢先、その期待
感を裏切るかの様にチョロチョロと汚水が口
中に落ちて来る。・・・・・その時の失望と
絶望感。そしてそれが段々量を増して、ゴク
リゴクリと必死で飲み下す耳に、クックッと
陽子の満足そうな笑い声が聞こえて来る。
その時の、気も狂わんばかりの悔しさ。・・
・・・それ等は、女性が暴力で初めて処女を
失った時に似て、英夫の心に深い傷を刻んだ
のだった。そして、その傷は、この一週間、
毎日数回、陽子に小水を飲まされる度に生々
しく蘇り、傷口を拡げて行った。
 一週間目の朝のことである。いつもの様に
陽子のシツコイ味の朝尿を飲まされ、英夫は
彼女の足元で臭いゲップを連発していた。
 彼女は彼の頭上で、昨晩届けられた封筒か
ら、何やら書類を取り出すと、それを英夫を
前に突き付けた。
「ホラ、こゝにサインしなさい。これは、お
前を、私の完全な奴隷犬にするための同意書
よ。内容は読まなくていいわ。単なる形式的
なものだし、私はお前の意志に関係無く、お
前を仕込むんだから、どうせ拒否出来ないの
よ」
 寝不足の目をしばたきながら、英夫は差し
示された個所に盲目的に署名する。自由を奪
われ、陽子の意のまゝにされている身では、
反抗する気力も無かった。
 突然、ドアにノックの音が響く。
腰を上げて戸口のロックを外しに行った陽子
は、やがて中年のでっぷり太った男を伴って
戻って来た。その後に大きな鞄を下げた若い
女が続く。
「わざわざ出向いて頂いて、有難うございま
す。実はこの男ですの。先生の手術をお願い
したいのは」
 陽子に先生と呼ばれたのは、どうやら外科
医の様であった。すると、付き従う女は、さ
しずめ看護婦と云うことになる。     
「判りました。手術の内容は、昨日御連絡頂
いた様にピアス二ケ所、それに靭帯及び腱の
カットでしたね」
 医師の確認に、陽子は大きく頷いた。  
「間違いありませんわ。それと、先生のおっ
しゃっていた咽喉の方の手術が、今ここで簡
単に出来るのでしたら、それも追加して頂け
ません?」
「局部麻酔で簡単に出来ますけど、費用は嵩
みますよ」
「結構ですわ。・・・・・ハイ、これが本人
の同意書、そして、これが手術費用の前払い
分の小切手です」
 陽子から手渡された書類と小切手を、医師
は慎重にチェックする。
「それと先生、手術の間中、この男をずっと
眠らせて下さいません? もしかして、気が
変ってあばれでもすると困りますから」
 何か判らぬが、この医師の手で陽子の云う
@手術Aが、我身に行われようとしている。
英夫は、本能的に激しい不安に駈られて、膝
でにじりながら後ずさりした。
しかし革手錠と鎖に手足を拘束されている悲
しさ、陽子に髪を掴まれ、簡単に中央に引き
戻された。
 横から、医師の手が英夫の腕を掴み、麻酔
の注射が打たれる。次第に薄れゆく意識の中
に、今は失われた恋人の雅子の笑顔が浮んで
いた。
 何時間経ったであろうか、果しない暗い闇
の中で、灯を求めてもがく夢が続き、ふと目
が覚めた。最初に目に入ったのは、部屋に溢
れる照明を反射してキラキラ光るガラスのス
クリーン・・・・部屋の片側に拡がる鏡の壁
である。
〔今迄の部屋とは違うが、どこかで見覚えが
ある・・・・・そうだ、雅子が男達に暴行さ
れた部屋に移されたんだ・・・・・すると、
あの鏡の後で誰かが見ているんだろうか?〕
 幸い両手足が自由になっている。しめたと
ばかり、英夫は、両腕で身体を支えて身を起
そうとしたが、意外にも両手先が痺れて感覚
が無い。両膝から下も同様で、まるで自分の
足と思えない。
 もがいた拍子に、ベッドからドシンとばか
り床に転落した。辛うじて起き上がって見た
ものゝ、痺れた足では立ち上がることも出来
ず、歩こうとすると四つ這いの姿勢しかとれ
ない。ふと顔を上げると、目の前の鏡に全裸
で四つ這いの我身が写っていた。
 驚いたことに、鼻のあたりに鈍く光る金属
の輪が下がっている。
慌てて手で触って見ると、鼻に鈍い痛みが走
った。どうやら、その輪は鼻の穴の間の軟骨
を貫通しているらしい。
つまり、鼻輪を穿められたのである。
 動転して身体を起し、鏡の前にへたり込ん
だ英夫は、自分の股間にも輪が下がっている
のに気付いた。良く見ると、それは実に、ペ
ニスの亀頭の中央を貫通している。輪のサイ
ズも鼻輪よりひと回り大きく、そのまゝでは
明らかにセックスも不可能である。
 あまりのことに、呆然となった英夫の後ろ
から、何時来たのか勝誇った陽子の声が聞こ
えて来た。
「フフフ、判ったかしら? とうとう自分が
本当の犬になったことが。・・・・・君は、
手術で両膝の靭帯と、両足首のアキレス腱を
切られたのよ。それも、それぞれ、二ケ所で
カットしてあるから、その間の組織が死んで
二度と回復しないそうよ。と云うことは、君
は二度と立って歩けないの。そして、掌の靭
帯も何ケ所かで切ってあるから、手の指も一
生使えなくなったのよ」
〔ひ、ひどいじゃないか、な、なんとか元に
戻してくれ! それに、こんな所に輪まで穿
めて!〕
 英夫は怒りに身を震わせながら叫んだ・・
・・・イヤ、叫ぼうとした。しかし、咽喉が
ヒューヒュー鳴るのみで声が出ない。
「フフッ、判った? 君はもう声も出せない
のよ。声帯を切除したんだから、二度と人間
の言葉は喋れないわ。ただ、練習すれば、犬
の鳴声は出来る様になるんですって・・・・
・・ワンワンとかキャンキャンとかね・・・
・・クックッ、あゝおかしい!」
「ウッ、ウッ、ムーッ」
 英夫の口から嗚咽が洩れる。
「それに鼻とペニスのピアスは気に入った?
そこの輪は、継目を電気溶接してあるから、
一生外れないのよ。・・・・そこに鎖を付け
て、君を思い通り引き回して嬲って上げる。
もう、手錠や足錠無しででも二度と私に反抗
出来ない身体に成ったのよ。どおお? 悔し
い? 情けない?」
 陽子は、自分の言葉で英夫が涙を流し、気
の狂った様に身もだえするのを、冷たく、そ
して笑いさえ浮べながら見下ろしていた。
 それからは英夫にとって、これ迄にも増し
て辛い日々が続いた。
 咽喉には長い革紐の付いた犬用の首輪が穿
められ、鼻輪とチン輪・・・・これは陽子の
命名だったが・・・・には細いが丈夫な鎖が
取り付けられた。
 手術の麻酔が切れた直後は、一晩眠れぬ程
の痛みに苦しんだが、それも二、三日で収ま
り、一週間もするとそれ等の輪が昔から肉体
の一部であったかの様に、違和感が無くなっ
ていた。
もっとも、輪に付けられた鎖を引かれると、
鼻やペニスがちぎれるかと思う程の痛みに襲
われ、痺れが後に残った。しかし、痛みに懲
りて、反応が敏感になり、少しでも輪を引か
れると、直ちにその方向に身体が動く習性が
自然に身に付いた。そのうち、ピアスした穴
自体が固まり、出血もめったにしなくなるに
従って、痛みも薄らいで行った。
 鼻輪は、上へ引き上げると鼻の周囲にぴっ
たりと収まり、顔面を女の尻やクレバスで覆
われた時でも邪魔にならない。しかも鎖を通
じて命令を否応無しに即時実行させる手段と
して、絶大な威力を発揮した。
陽子は、股間に挟み込んだ英夫の舌の動きを
鼻輪を通じて自由自在にコントロールする。
舌奉仕を続ける英夫は、鼻輪を引かれる強さ
と方向で、〔もっと上〕〔そう、そこ〕と位
置を知らされると共に、ピクッピクッと鎖を
引く小刻みな信号で、〔もっと強く〕〔さぼ
らないで!〕と云った陽子の意志を、言葉が
無くても的確に察する様に、仕込まれて行っ
た。
 最早、反抗はおろか、疲れたからと云って
勝手に舌を休めることも許されない。
又、これ迄、彼女に命令されてしぶしぶ尻に
敷かれた動作も、鼻輪を軽く引かれただけで
自ら進んで、素早く女の尻に顔を押し当る様
になった。               
少しても躊躇すると、ぐいと輪が引かれ、そ
れこそ鼻がちぎれる様な痛みが襲って来る。
その恐怖心が、英夫をびっくりする程従順な
奴隷犬に、急速に変身させて行った。
 一方、ペニスに下がった金輪を、陽子は英
夫を服従させるためよりも、もっぱら彼を発
情させ、辱める道具として使った。
尿道を避けて亀頭の海綿体に深々と突刺さっ
た大ぶりの金輪を、陽子は手にした鎖で軽く
ツンツンと引く。それに応じて、男のものが
ブラッブラッと揺れて次第に固さを増して来
る。最初はよく穴に血がにじんだが    
ピアスした穴が新しい表皮で完全に覆われる
と、それも全く無くなり、その輪の動きは英
夫の意志と無関係に、彼の男性を刺激し、隆
起させ、発情させてしまう。
 陽子はそうした状態で英夫の顔に跨がり小
水を飲ます。そして、常に汚辱の中で彼に頂
点を迎えさせた。
 条件反射・・・・陽子が英夫の奴隷化に利
用した手段のひとつがこれである。
やがて、英夫は金輪の助けが無くても、陽子
の辱めを受ける度に発情する様に仕込まれて
行った。
欲求不満の男のセックスが起爆剤と成って、
英夫は陽子の辱めを待ち望み、熱望する様に
成る。こうして、英夫は、時間こそかかった
ものゝ、後天的なマゾヒストに変貌を遂げた
のである。
 しかし、それは可成後のことで、捕えられ
てから約一年間と云うものは、女の小水を飲
まされる屈辱が、その度に英夫の心をさいな
んだ。
 手術の後の手足は、陽子の言った通り、二
度と機能を回復しない。英夫の体力が回復す
ると、陽子は英夫の背に跨がり、四つ這いで
部屋の中をぐるぐる回らせた。時には客の無
い時を見計らって長い廊下を往復させる。
そして、それを英夫が背中の女の尻の重みに
耐えかね、ダウンしてへたり込む迄続けるの
である。ダウンした罰として、陽子は英夫の
背に鞭を振るった。
部屋の中を四つ這いで逃げまどう英夫を、彼
女はクスクス笑いながら追い詰める。
そして、ヒューッとうなりと共に、革の一本
鞭の一撃がその背に炸裂し、彼に脳天迄痺れ
る様な衝撃を経験させた。
 ダウンが早いと、おまけの第二撃が、男の
背中にX字の赤いマークを、くっきりと刻み
込む。最初の内は、その跡にプップッと赤い
血が噴き出したものだった。
 キャンキャンと哀れな悲鳴を上げると手加
減して貰えることが判ると、英夫はなりふり
構わず、声帯を切り取られた咽喉を振り絞っ
て、犬鳴きを試みる。その浅ましさに陽子の
嘲笑が浴びせられた。
「クックックッ、本当にお前は犬そっくりに
鳴ったよ。ホラ、チンチンして!・・・・・
そうそう上手だよ。その鏡に写る自分の姿を
見てごらん・・・・・雅子さんがこんなお前
を見たら、なんと思うだろうかねえ」
 恋いしい人の、その名前が陽子の口から出
る度に、そして、その人と自分との距離が、
どんどん遠ざかって行くのを意識させられる
度に、英夫の目に新しい涙が浮んだ。
 英夫の耐久力が増して、四つ這いの時間が
長引くと、その運動量に比例して水分の補給
が必要になる。もともと陽子の小水の分だけ
では足りず、慢性的な咽喉の乾きに苦しむ日
々だったが、それが次第に度合を増して行っ
た。自分の尻の下で、むさぼる様に小水を飲
み下し、終った後も未練げにクレバスを吸い
続ける様になった男に、陽子は一階の事務所
に勤務する女の子達を紹介した。
 このホテルの従業員は、別の控室を使って
いる清掃専門の中年女性達を除くと、総勢六
名の若い女子従業員が、交代で出勤する様に
なっている。常時、最低二名が事務室に勤務
していた。
 部屋に閉じ込められている英夫とは初対面
だったが、毎日二回、昼と夜に与えられる残
飯の食事は、陽子と彼女等の食べ残しと聞か
されていた。
彼女等の方も薄々噂に聞いていて、好奇心を
かき立てられていた所だった。
 偶々、給料支払い日で六人が顔を揃えた時
に、英夫は従業員専用のエレベーターで初め
て階下の事務所へ連れて行かれた。
背中に陽子を乗せて、四つ這いで事務所のド
アをくぐり、中央のソファーに思い思いに腰
掛けた女達の前に、にじり寄る。
素裸の英夫の鼻と股間に、それぞれ、ぶら下
がる鎖付の金輪に、女達の好奇の目が集まっ
た。
「皆さん、こいつが上のSMルームに飼われ
ている奴隷犬よ。みんなの残飯と私のオシッ
コで命を繋いでいるわ。ところが、この所、
水分不足で、私の分だけではとても足りない
の。・・・・そこで、お願いだけど、みんな
の分を、この男に飲ませてやってくれない?
勿論、直接じゃなくってもいいわ。残飯の上
に引っ掛けてやるの。そして、こゝで、みん
なの前で食べさすのよ。そうすれば、今迄み
たいに残飯を運ぶ手間もいらなくなるわ」
 社会に出て間もない、好奇心の旺盛な年頃
の女の子達である。しかも、こう云ったラブ
ホテルに勤務したこともあって、全員がSM
も含めて、様々な男女の愛欲の世界をかい間
見て、或程度の免疫性を身に着けていた。
雇主で、ここの社長でもある陽子の提案が、
スンナリと受け入れられたのも不思議ではな
かった。
 その内、毎日昼と夜に、事務所に引き出さ
れて、女達の足元で、未だ湯気の漂う泡立っ
た小水を掛けた残飯に、首を突っ込む英夫の
姿が日常のものとなった。
勿論、英夫を人間として扱う者は一人も居な
い。最初のうちこそ、トイレに残飯の入った
容器を持ち込んでいた女達も、間もなく英夫
の目の前で容器に跨がる様になった。
「アラ、紙が無いわ。お願い、ティッシュ借
して!」
 陽子の留守中に英夫の食事を頼まれ、残飯
の上で用を足し終った女が、同僚に声を掛け
る。
「ここにはないわ。二階のロッカーに入れた
バッグの中よ。・・・・・ネ、ネエ、それよ
り、この犬に後を舐めさせたら? 社長が直
接跨がって飲ます時は、何時もそうしてるわ
よ」
「フフッ、少し気味が悪いけど、初体験して
みようか。・・・・・ちょっとお前、こっち
へ来てティッシュの代りにお成り!」
 女の股間に首を差し入れる英夫の顔にポタ
リと滴が落ちる。情けなさをぐっと押し殺し
て、舌を出して清めると、上でキャーッと嬌
声が上がった。
それ以来、女達は、英夫に小水を恵んでやる
んだからと恩に着せながら、残飯の上に跨が
った後、彼に舌による清めを強いる様になっ
た。
 陽子の夫が帰国して、彼女のラブホテルに
居る時間が、夫の勤務中の昼間に限られる様
になったのは、丁度この頃である。
自然に、英夫は、晩は事務所の女達の慰み者
になった。この頃には、女達の股間を清める
舌が、当然の成行として、彼女等のセックス
への奉仕に使われる様に成る。
しかも、女達の中には、陽子を真似して直接
小水を飲ませる者も出て来た。
小さな窓口でホールに面する事務所は、外か
ら中が覗けない構造になっている。それを良
いことに、女達は交代にソファーの上で英夫
の首を股間に挟み、快楽に耽った。
 一方、雅子は、その後どうなったであろう
か?                  
 結婚の夢も破れ、暴漢に犯されたショック
の癒えぬまゝに、傷心の毎日を送っていた彼
女も夏が過ぎ、秋を迎える頃には、大分元気
を回復していた。
 彼女の立ち直りを助けたのは、意外なこと
に斎藤浩である。最初は、暴漢を雇って彼女
をこっそりと自ら犯した、罪滅ぼしの気持が
働いたことは疑いなかった。
しかし、元々、姉の陽子と共謀して英夫の手
から、雅子を取り上げるために、ひと芝居打
った程、雅子に惹かれていた浩である。
彼女の身体をひそかに知っただけでは満足出
来ず、彼女を完全に自分のものにしたいと思
う様になったのも、当然の成行と言えた。
そして、遂に、彼女を結婚の対象として真剣
に考える様に成ったのである。
 かって英夫を魅了した、雅子の清楚な美し
さ、グラマーな姿態、そしてウイットに富ん
だ内容のある会話・・・・・それ等は、浩に
とっても、彼女と共に過ごす時間を心躍るも
のとしていた。
 雅子の方も、英夫に裏切られたと思い込ん
だ悔しさが、その反動として、自分を救出し
てくれたと信じている浩に、心を寄せる引金
になったのかも知れない。
 斎藤家の莫大な資産は、金銭への執着心の
薄い彼女にとって、さして魅力ではなかった
が、その富が醸し出すリッチな雰囲気には、
浩との交際を通じて自然に馴染んで行った。
そして、あの事件から丁度一年目の春、雅子
は浩の求婚を受け入れ、盛大な式典の後、彼
の妻として広壮な斎藤家に住む様に成ったの
である。
 その邸宅と目と鼻の距離にあるラブホテル
で、昔の恋人の英夫が汚辱の底に沈められて
いるとは、神ならぬ身の雅子にとって、知る
由も無かった。
 母を早く亡くして、姉の陽子と二人だけで
育った浩は、結婚以来、この一年余り入院し
たっきりの父に代って、斎藤興業のビジネス
に次第に引き込まれて行く。
 浩と雅子の結婚披露宴に出席して、ヨーロ
ッパへの新婚旅行に旅立った二人を見送った
陽子は、その晩、夫を家に残して英夫の許に
立ち寄った。
事務所のソファーで、何時もの様に女の股間
に敷かれていた英夫を、大事な話があるから
と上の部屋に連れ帰る。
 ベッドの裾に腰を下ろした陽子は、足元に
控えた英夫に、何時になく静かな調子で話し
掛けた。
「今日の昼、私がどこへ行って来たか判るか
い?」
「・・・・・・・?」
「びっくりしない様に、心を落着けて聞くの
よ。・・・・・今日、弟の浩と雅子さんが結
婚したの。二人は今頃はヨーロッパへの飛行
機の中よ」
 足元の英夫の顔から、サーッと血の気が失
せて行く。唇がワナワナと震え、咽喉が声な
き声でヒューと鳴った。
 その様子をジーッと見守っていた陽子は、
フーッと溜息をついた。
「可愛そうに。やっぱり、お前は雅子さんの
ことが諦め切れなかったんだね。・・・・・
と言うことは、お前は奴隷犬に未だ成り切っ
てないことになるわ。そんな身体になって未
だ人間のつもりなの? 良くその鏡を見なさ
い!・・・・・膝から下は動かなくなってる
し、手の指も使えないのよ。一生立って歩け
ない四つ這いの奴隷犬よ。それに、このチン
輪はどうなの? 皆の前に出たら物笑いの種
になる珍妙な格好よ。これで、お前は一生、
正常なセックスは出来ないのよ」
「・・・・・・・」
「口を開けて御覧! 舌も唇も私達のおしも
専用じゃないの。第一、口の中自体が女の便
器よ。オシッコの臭いが染みついてるわ。そ
の口で雅子さんとキスが出来るとでも思って
いたの? 雅子さんが、便器に口付けするな
んて考えられる?・・・・・身の程を知りな
さい! 身の程を!」
 陽子の痛烈な言葉は、鋭いキリの様に英夫
の心を何回も刺し抜いた。
「ウッウッウッ」
 辛うじて洩れる嗚咽が、英夫の受けたショ
ックの大きさを物語っていた。
「どうやら、もう少し身を落す必要がありそ
うね。・・・・・いいわ、明日から、お前は
ここで客を取るのよ」
 涙に濡れた顔に、怪訝な表情を浮べる英夫
を前に、陽子は説明を続ける。
「このホテルはね、父のやっている斎藤興業
チェーンのひとつだから、系列会社の人達に
利用して貰うだけでも可成の客が見込めるの
よ。これから各方面に広告を出すわ。・・・
・・@男奴隷付SMルーム格安で開放Aとか
@舌技抜群の奴隷犬利用乞うAってね」
「・・・・・・・」
「つまり、お前は、この部屋で一般の女性客
に毎日いじめられるの。勿論、お金を取るん
だから、どんな要求でも応えるのよ。・・・
・・水商売の女性で男をいじめて欝憤を晴ら
したい人も居るだろうし、欲求不満のOLや
中年女性も対象よ。それと、女性の団体を積
極的に受け入れて、奴隷犬ショーを企画して
も良いわね。・・・・・不特定多数の女性達
に毎日めまぐるしく嬲り物にされていれば、
雅子さんのことは直ぐに忘れられるわよ。勿
論、客の無い時には、私や事務所の女の子達
に今迄通り奉仕するのよ」
 陽子の言う@客を取るAと言うことが具体
的にはピンと来なかったが、英夫にも、これ
迄以上の新たな屈辱が、前途に待ち構えてい
るであろうことは、ぼんやりと想像出来た。
しかし、それを拒絶出来る立場でもないし、
第一、雅子を永久に失った、それも自分をこ
の境遇に落とし込んだ友人の浩に奪われたと
の、胸を噛む様な無念さが、英夫をすっかり
自棄気味にしていた。
 陽子の発案は、その翌日から直ちに実行に
移された。流石に宣伝広告の方は、直ぐには
間に合わなかったが、斎藤興業系のスナック
やバーのホステス達に、くちコミで根回しが
行なわれ、毎日三ー四組の客がつき初めたの
である。
もっとも、陽子が採算を度外視して、最初の
一ケ月はサービス期間として、部屋代半額割
引きを打出したこともあって、次第に、それ
が効を奏し、客の数もうなぎのぼりだった。
 ただ、見込みと違ったのは、単独の女性よ
りも、複数で連れ立って来る女性客が多かっ
たことである。物珍しさもあって、ホステス
連中がママに連れられて繰り込んで来たり、
女子大生のグループがA舌技抜群のオナニー
犬@の宣伝に惹かれて来ることもあった。
クラス会や職場の催しの後の二次会組も結構
多かった。
 陽子は、当面@男性はお断わりAの線を、
はっきり打ち出し、団体の客には、唯見てい
るだけでなく、各人が少なくともひとつ以上
のプレーに参加することを条件にした。
その結果、単なる冷かし客はシャットアウト
出来たし、最初から見世物化することも防止
出来た。
 部屋を入った所の横の壁に、奴隷犬に対す
るプレー上の注意事項が掲げられている。
身体に傷を付けないこと、有害なものを食べ
させないこと、便器奉仕は小水に限ること等
が箇条書にされた後に、初心者に推薦するプ
レーとして、先ず顔面騎乗で尻臭を嗅がせ、
アヌスを舐めさせて征服すれば、びっくりす
る程、従順になると記されてあった。
 殆どの女性客は、これに従ったが、中には
いきなり、自分の女性自身に舌奉仕を命ずる
客もあった。
 ともあれ、それは英夫にとって、おぞまし
いとしか言い様のない新しい経験だった。
特に、多数の客の場合、一人一人の顔を確認
する暇も無く、いきなり押し転がされ、パン
ティーに包まれた女の尻が視界に拡がる。
臭気に咽ぶ内に、パンティーがめくられアヌ
スが唇に押し当てられる。これが連続して延
々と続くのである。
英夫に識別出来るのは、顔面に受ける女の尻
の形と重量、そしてアヌスの臭いと味だけで
ある。人間としてよりも、動物として女達の
肉体に蹂躙されるみじめさが、英夫の心を段
々卑屈にねじ曲げて行った。
 こうして、次の一年が瞬く間に過ぎた。
陽子が予言した様に、最早、英夫の脳裏に雅
子の笑顔が浮ぶことはなかった。日夜、常に
目蓋に浮ぶのは、顔目がけて落下して来る数
限り無い女の尻の映像である。
四つ這いで見上げる女達の身体で先ず目に入
るのは、その股間と尻だけで、それ等は常に
彼の屈服と奉仕を求めて、彼を威圧した。
この一年の間に、英夫の女性観は全く変貌を
遂げてしまったのである。
 一方、斎藤家の嫁となった雅子の身にも、
この一年間に大きな変化が訪れていた。
浩の父が亡くなったため、浩は斎藤興業の社
長として家業を継ぐことになり、雅子も斎藤
気の女主人として、一切を取りしきる立場に
成ったのである。
 広い邸内には、その維持のために、多くの
使用人が働いていた。住み込みの女中だけで
も三人、それに通いの運転手や、庭師達であ
る。プールやテニスコートの清掃や保守は外
部の専門管理会社に委託されていて、定期的
に人が派遣されて来る。
それ等の使用人達に細々した指示を与え、テ
キパキと危な気なく家事を処理して行く雅子
の姿には、主婦としての貫録すら備わって来
ていた。
 幸い斎藤家には縁戚が少なく、又、浩の仕
事関係の交際も、家庭に持込まれることは稀
で、来客の応接の機会が少ないことが、雅子
の負担を軽くしていた。
彼女としてはそれだけ、自分自身の時間が豊
富に持てたし、浩の世話にも神経を行き届か
せることが出来た。
 ただ、月一回の斎藤家恒例のダンスパーテ
ィーは、浩の希望もあって続けられており、
招待客の選定やパーティーの運営はすべて雅
子に委された。
しかし、勝気な雅子は、このパーティーのホ
ステスとしての役割も立派にこなし、その際
立った社交振りには、浩の姉の陽子も一目置
く程だった。
 なお、陽子は、最近夫が一年間の海外駐在
に任命されたため、その間は浩夫妻と暮すこ
ととなって、斎藤家に戻って来ていた。
 浩と雅子の結婚一周年のパーティーが終っ
て客を送り出した後、主役の二人に陽子が加
わって、就寝前のひと時をブランデーグラス
を片手に談笑していた時のことである。
 陽子が、ほんのりと上気した顔にやゝ真剣
な表情を浮べて、二人にとり、いや、雅子に
とって意外な話を持ち出した。
「あのね、この事は、実はあなた達には絶対
秘密にしておくつもりだったんだけど・・・
・・誰か他の人から、あなた達の耳に入る可
能性もあるし・・・・・そうなったら、私の
立場が誤解されてしまうので思い切ってお話
しするの」
「何だい、姉さん。改まって」
 浩は、いかにも屈託なげなポーズを装う。
「あの、以前、雅子さんの相手だった杉山英
夫って云う男のことよ」
「え? あの英夫さん・・・・・いえ、杉山
英夫の行方が判ったんですの?」
 雅子は、ハッと全身に緊張の色を見せる。
「そうなの。あの男、あれから下宿にも帰ら
ず、行方をくらましていたんだけど、つい最
近、盛り場のSMクラブで、客を取らされて
いる事が判ったの」
「SMクラブで・・・・・客を・・・・・で
すって?」
 不審げな雅子の疑問に応える陽子の舌は、
如何にも滑らかだった。
「そうよ! 聞けば、その筋の金融会社から
借金をしては、踏み倒す常習犯だったのね、
彼は。・・・・・それが、とうとう捕まって
生れもつかぬ片端にされた挙句、SMクラブ
のホストにされて、金を払った女の客に嬲り
者にされていたの」
「片端にされて、SMクラブの・・・・・・
ホストにですの?」
「声帯を取られて口はきけないし、手足の腱
や靭帯を切られて、四つ這いでしか歩けない
身体になっていたわ。・・・・・それでも、
まんざら知らない仲じゃないし、あまりに可
哀そうだったから、私が彼を買い取ったの。
マア、昔風に言えば身請けしたってわけ」
「まあー、それで今どこに居るんですの?」
「私の経営しているラブホテルの、一番上の
階よ。・・・・・そうだわ、以前、雅子さん
が暴漢に襲われた部屋だわ。・・・・アラ、
御免なさい。いやな事を思い出させちゃった
かしら?」
 雅子の美しい顔に、スーッと曇りが射した
のを見て、陽子は一時、話を途切らせた。 
しかし、雅子がかぶりを振るのを見て、再び
口を開く。               
「でも彼、意識や記憶ははっきりしていて、
私のことも直ぐ見分けたけれど、精神的には
すっかり変ってしまって、もう人間とは言え
ないわよ。・・・・・SMクラブでよっぽど
仕込まれたと見えて、私の前に来るなり、四
つ這いで私の足をペロペロ舐めるの。まるで
犬そっくり! 精神科の医者に相談したら、
異常な精神状態にある者ほど、急にその環境
を変えると精神障害を起すんですって。・・
・・・それで、当面彼がSMクラブでやって
いたと同じ様に、客を取らすことにしたの」
「それじゃ・・・・・」
「そうよ、彼、あの部屋で、毎日女性客の嬲
り者に成っているわよ。それに傑作なのは、
鼻とあそこにピアスされ、輪を穿められてる
の。どおお? 一度見に行かない? 彼に気
付かれないで、部屋の様子を覗ける仕掛が、
最近完成したところよ」
 その翌日の夕刻、浩と雅子は陽子に案内さ
れて、例の部屋の隣から、マジックミラーの
窓を透して、英夫が客を取らされているさま
を見守っていた。
 丁度、中年の女客が二人、入室してプレー
が始まったところで、女達は交互に英夫の顔
に跨がり、たっぷり尻臭を嗅がせた後、パン
ティーを取ってソファーに座り、彼の顔を股
間に挟んだ。
「どおお? 哀れなもんでしょう? あゝや
って、女のセックスに奉仕させられるのよ」
 陽子の言葉も上の空に、雅子はジーッと、
女の股間で舌を動かす英夫のあさましい姿を
見詰めていた。             
二年前、自分が暴漢に辱められたその部屋で
今度は、かっての恋人の英夫が、女客に辱め
られている。それは、英夫の裏切りを信じ込
んでいる雅子に取って、めぐる因果を思わせ
る光景だった。
「ホラ、浩さん、見て御覧なさい!」
 延々と続く舌奉仕を見飽きてベッドに腰を
下ろし、煙草を一服していた浩に、陽子が声
を掛ける。
英夫の舌で満足した女客が、今度は彼の顔面
を尻に敷いている。突然、男の咽喉が大きく
震え、胃のあたりが微かに上下した。
「判る? 彼、女にオシッコ飲まされてるの
よ。・・・・・ウフフッ、この男、普通の水
は飲ませて貰えず、結局、皆の残飯と女のオ
シッコで命をつないで来たのよ」
 雅子の顔から、次第に、それ迄の憐れみの
表情が消え、代って強い蔑みの色が浮んだ。
浩が、吐出す様な調子で言葉を継ぐ。   
「見下げ果てた奴だな! これも雅子を暴漢
に売った報いだ。いい気味じゃないか、なあ
雅子」
 雅子は、ゆっくりと頷いた。何か思い付い
た時のくせで、下唇を軽く噛んでいる。
その翌日、三人で朝食の折に、雅子は改まっ
て義姉の陽子に話を切り出した。
「昨日は、本当にびっくりしましたわ。あの
男が、あんなに落ちぶれていたなんて・・・
・・でも、あの時考えたんだけど、同じこと
なら私の手で、もっともっと奈落の底に突落
してやりたい。そして、二年前のことを思い
知らせてやりたいの」
「判るわ、その気持!」
「それでお願いなんですけど、あの男、私に
売って頂けないかしら? 出来れば、あの恨
みを晴らす為に、この家で、私の奴隷として
毎日卑しめてやるわ。・・・・・ねえ、浩さ
ん、いいでしょう?」
「いいとも。どうせ口がきけないんだから、
遠慮することはない。夜は、俺達夫婦の慰み
者にして、うんと嬲ってやろうじゃないか」
「私も異存ないわ。雅子さんが奴隷として飼
うんだったら、お金はいらないわ。私も協力
して、ここで、うんと懲しめてやる!」
 陽子も、ふたつ返事で承知した。
「そこで、あの男を思い知らせる方法なんだ
けど・・・・・私、ひとつアイディアがある
の。陽子姉様、相談に乗って下さる?・・・
・・浩さんにはヒ、ミ、ツ。後でびっくりさ
せて上げるわ」
 こうした相談が、斎藤家で進められている
とは、勿論英夫は知る由もない。
その日も、何時もの様に深夜迄、何組かの女
客を取らされ、床の上で泥の様な深い眠りに
落ちていた。
長時間の奉仕で舌に残った、痺れる様な疲れ
が、夢の中で何時の間にか下顎の付根にまで
拡がっている。それが、鋭い痛みに変って、
突然、目が覚めた。
 ぼんやりした目の前の映像が、次第にはっ
きりした形になり、見覚えのある、あの白衣
を着た太った医者の姿が目に写った。
又、何かされたんでは・・・・・との不安が
胸一杯に拡がる。
その内、陽子と医者の会話が耳に入った。 
「先生、今度は、随分簡単でしたわね」
「局部麻酔ですからね。それも直ぐ覚める軽
いやつです。ホレ、もう意識が戻って来てま
すよ。じゃ、私はこれで・・・・・」   
 医者を送って戻って来た陽子は、床に寝て
いる英夫を邪険に蹴った。
「起きなさい。もう昼過ぎよ。注射で気が付
かなかったかも知れないけど、今度はお前の
顎をちょっと手術したのよ。・・・・・実は
私、お前を、昨日さる人に売ったの。・・・
・・この手術も、お前の新しい主人の注文な
のよ。さあ、これから、その人の所へ連れて
行ってやるからね」
 鼻輪を引かれて、慌てて四つ這いで陽子に
従う。下顎の付根がズキズキ痛んだ。
 従業員用のエレベーターで下迄降りると、
裏口の前にハイヤーが待っている。
 このホテルから外へ出るのは、丸二年振り
である。二度と生きて出られるとは思ってい
なかっただけに、英夫の胸にはサッと希望の
光が射した。しかし、陽子の言う新しい主人
のことを思うと、未知の不安に、その光も色
が褪せる。
 玄関の車寄せでハイヤーが止まって、地面
に手を付いて車を降りた英夫は、今度は首輪
の革紐を引かれて、敷石の上を伝って玄関の
土間に入った。女中が投げて寄越した雑巾で
手足を拭い、首輪を引かれるまゝに、玄関脇
の応接間に上がる。           
 何やら見覚えのある周囲の様子に、思わず
不吉な予感がして、ブルブルッと身体が震え
た。
「どうしたんだい? お前も、新しい御主人
にお目見えするとなると、緊張するんだね。
じゃあ、私は席を外すから、しっかり御挨拶
するんだよ。それから、許される迄顔を上げ
ちゃ駄目。いいわね」
 それから十分余り、広い応接室の中央に、
ポツンと独りで四つ這いのまま、新しい主人
の出現を待つ英夫は、身も心も緊張で張り裂
けんばかりだった。
 背後のドアが開き、シャンデリアにパッと
明りが付く。初めて、もう夕闇がしのび寄っ
いたことに気付いた。
 衣擦れの音と共に、英夫の前のソファーに
座った女が、声を掛けた。
「顔を上げなさい。こちらを見るのよ」
 聞き覚えのあるその声に、ハッとして見上
げる英夫の前に、あの恋いしい雅子の姿があ
った。二年振りで見る彼女の顔は、幾分ふっ
くらしたものゝ、大きな黒目勝の瞳の輝きは
昔のままである。
瞬間、英夫の心は、この二年間に自分の身に
起ったいまわしいことを全て忘れ、恋人同志
の昔に戻っていた。
〔ま、雅子さん、会いたかった! ぼ、僕、
英夫だよ。判るかい?〕
 しかし、精一杯、振り絞ったその声も、声
帯の無い咽喉を通ると、クーンクーンと云う
犬鳴きに変ってしまう。
「英夫さん、お久し振りね。・・・・・どう
したの? 私の前に出ても、そんな犬みたい
な声しか出せないの?」
〔雅子さん。た、助けてくれ! 君は騙され
てるんだ。僕をこんなにしたのは、陽子と浩
の二人なんだ。そして、二年前、君を犯した
のは、浩なんだ!〕
 しかし、それも所詮、人間の声にはならな
かった。                
 雅子にして見れば、先日、遠目に見た英夫
をこうして間近にすると、やはり一瞬懐かし
さの念が胸をよぎった。しかし、雅子の呼び
掛けにも応えられず、四つ這いで狂った様に
口をパクパクさせて犬鳴きする英夫を眺めて
いる内に、先日のあさましい光景が思い出さ
れ、英夫を見る目に、みるみる軽蔑の光が溢
れて来る。
 中々意志が通じないのに、やきもきした英
夫は、前ににじり寄って雅子の膝に手を掛け
た。途端に、雅子の足が上がり、英夫の顔を
蹴る。恋いしい人にまともに顔を足蹴にされ
た英夫は、哀れにも無様に横転した。
「失礼ね! 優しくしてやれば、つけ上がっ
て! お前の正体は、先日、あのラブホテル
で、とっくり見せて貰ったわ。それに、二年
前のお前の裏切りは、私、決して忘れないわ
よ。・・・・・ホラ、お前のお得意のポーズ
よ! この臭いが嗅ぎたいのでしょう?」
 雅子は、英夫の頭を背にしてその首を跨ぐ
と、いきなり英夫の顔の上に、ムズとばかり
尻を据えた。
「お前は、これから一生、この家で私の奴隷
として飼われるのよ。・・・・・・そして、
二年前の仕返しに、お前を私の便器してやる
わ。それも、今迄お前が口にしていたオシッ
コだけじゃないのよ。・・・・・フフフ、大
便もアンネも、私の排泄物は全てお前の口に
押し込んでやるわ」
 雅子の豊かな尻に顔を敷かれて、尻臭を嗅
ぎながら、無慈悲な雅子の宣言を聞く英夫の
心中には熱いものが、狂おしく荒れ凄んだ。
会いさえすれば、・・・・・そう、会いさえ
すれば彼女に説明して判って貰える。・・・
・・その思いで、今迄支えて来た心の柱が、
もろくも崩れたのである。声を失った英夫の
説明は決して雅子の耳には届かない。・・・
・・それが痛い程、彼の身に泌みて判った。
「丁度、催して来たわ。朝からトイレを我慢
していたのよ。・・・・・フフッ、早速だけ
ど、使い初めをするわよ」
 英夫の顔の真上で、ピンクのパンティーが
ずらされ、白桃の様な雅子の尻割れが彼の口
を捉える。チョロチョロと、小水が彼の口を
満たし咽喉を濡らした後、雅子は尻を上げて
覗き込み、今度はアヌスを英夫の口に押し当
てた。
 その僅かな隙を捉えて、英夫は口をしっか
りと閉じる。かっての恋人であり、そして今
も忘れられない恋いしいその雅子に、便器に
される辱めを忍ぶより、舌を噛み切って死ん
だ方がましと、心に決めたのであった。
しかし、手術で靭帯を切られた下顎には、全
く力が入らず、やはりものゝ役には立たなか
った。余りの情けなさに、思わずジーンと目
が熱くなる。
 尻の下での、英夫のささやかな抵抗に気付
いた雅子は、尻を浮かして、まじまじと英夫
の一文字に閉じた唇を見詰めた。
「アラアラ、私に逆らうの? でもダメよ。
ホラ、こうすれば簡単でしょう? ウフフッ
本当に手術しておいて良かったわ」
 雅子の手が、グイと英男の顎を押し下げる
と、それは雅子の意志のまゝに、力無く動い
て、ポッカリ、大きな口が開いた。
そこに、女のアヌスがピタリと押し当てられ
る。そして、微かないきみ声と共に、プスッ
とガスが洩れ、続いてヌルッとした塊りが英
男の口に滑り込んだ。          
 吐気を催す酸味と共に、強烈な異臭が鼻に
抜ける。英夫は、雅子の尻の下で悲痛な呻き
声を上げた。
「ホーラ、思い知った? これからは、毎日
こうして使ってやるわ。・・・・・それに、
お前の下顎は今朝の手術で、もう物が噛めな
くなってるのよ。だから、これからは残飯を
噛むことも出来ないわ。お前は、一生、私の
排泄物で生きるのよ。・・・・・もっとも、
私のだけじゃ、十分栄養が取れないかもしれ
ないから、陽子さんや女中達のも食べさせて
貰いなさい!」
 その間にも、雅子のアヌスは息付きを続け
る。その度に、英夫の胃が大きく波打ち、汚
物を逆流させようとするが、それを妨げる様
に、次々と新しい塊りが、英夫の咽喉を嚥下
されて行った。
 雅子は、尻の下で身もだえする英夫の身体
の横から、例のチン輪の鎖を拾い上げた。排
泄を続けながら、その鎖をツイツイと引く。
その動きに呼応して、英夫の男の物が、むっ
くりと頭をもたげた。
「フフフ、こんなに辱められながらも、お前
は気分を出せるんだね。ホラ・・・・・ホラ
ホラ!」
 雅子の手の動きに、その怒張は英夫の意志
と無関係に猛り立つ。・・・・・そして、ひ
ときわ大きな塊りが、彼の口中に排泄された
途端、痙攣と呻きが英夫を襲い、白濁した液
が、英夫の股間から宙を飛んだ。
下半身の突上げる様な快楽の衝動が、上半身
の苦しみと屈辱を押し流し、英夫をめくるめ
く異常の世界へと導いて行く。
 こうして、斎藤家における、雅子の従順な
便器奴隷としての、英夫の新しい生活が始ま
ったのだった。
 (完)
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1987年2月スナイパー2,3月号
(スレイブ通信21号に再掲載)
マドンナメイト文庫[半獣の拘束具]に「転落の改造人間」として収録
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2010/07/16