#16転落の心理実験(汚辱のモルモット)      
                阿部譲二

性心理学教室のクラスで三人の女子学生が卒業論文のテーマに「M性が後天的な属性であることの証明」を取り上げて共同研究することになる。正常な男性をMに仕込む過程を観察するために、多額の報酬でモルモットになる男性を募集。同じクラスの学生が父親の入院費のために応募し、三人の女性に辱められMに仕込まれる。最後は彼女等の便器に転落

「じゃあ、これで今学年度の私の講義を終り
ます。それから先月の期末試験の結果、この
クラス全員が好成績でパスした事をお知らせ
しておきます。……四月からは、これまでの
性心理基礎概論に続いて、新たに性心理学特
論と題して男性女性の性心理の様々なケース
について論じてみたいと思います。……それ
では、皆さん。よい春休みを過して下さい」
 坂上教授の言葉に、クラスの学生達は待ち
兼ねたように立ち上った。
 誰の顔も、今学年最後の講義を終えた解放
感に満ち、明日からの春休みを控え、それぞ
れの期待感に輝やいていた。
 ここK大学は、私立の一流校で、その心理
学部は定評がある。中でも、坂上教授を中心
とする性心理学教室は、ユニークな存在とし
て学界の注目を集めていた。
「あ、それから諸君。……ひと言、教室主任
として伝達事項がある」
 教授の声に、教室を出かけていた学生達は
足を止めて振り返った。
「君達も四月から四回生だ。従って春休み中
に、卒業論文のための研究テーマを各自で決
めて、新学期早々に研究計画を私のところま
で提出すること、いいね。前にも言ってある
ように、研究期間は四月から来年二月まで。
毎日の授業は午前中だけで、午後はすべて各
自研究のための時間になる。……それから、
グループ研究を希望する場合は、実験研究に
限り三人までが共同で論文をまとめて提出し
てよろしい」
 薄暗い教室から初春に満ちたキャンパスに
出ると、白っぽかった芝生も、所々、青味を
帯び、構内の木々の枝にも新芽のつぼみが膨
らんでいた。
 同じクラスの学生達が群がる中で、ノート
とテキストの詰ったブリーフケースを小脇に
抱えた宇津木芳夫は、思いきり身体を反らせ
て新鮮な大気を胸一杯、吸い込んだ。
 三月の初めにしては暖かい日和で、人の心
を和ませるような柔かな日差しが皆を包む。
 この大学の心理学部は、社会心理学、医療
心理学それに性心理学の三つの教室に分れて
いて、おのおのの教室には、三十人内外の学
生が所属している。
 御他聞に洩れず、この学部も文科系の他の
学部同様、女性の進出が著しく、じつに八割
までが女子学生で占められていた。
 授業料の高い私立のこととて、学生は裕福
な家庭の子女が断然多かったが、それでも、
欧米の大学並に様々な奨学金制度が設けられ
ていて、宇津木芳夫のような比較的貧しい家
の者も少くない。
「皆さぁーん。これからクラス運営資金の会
計報告報告をしますから、ユーハイムに集合
して下さぁい」
 性心理学教室三回生のクラス委員を務めて
いる正木礼子である。
 地方の資産家の一人娘とかで、いつも高価
なアクセサリーを身に付け、毎日、洋服を取
り替えて来てくるので、男子学生の間では、
ファッションモデルを縮めて、モデルちゃん
の愛称がある。そのニックネーム通りのプロ
ポーションのとれたグラマーな肢体に垢抜け
した美貌は、男子学生の熱い視線を集めるの
に充分だった。
 喫茶店ユーハイムは大学の正門横にある学
生達の溜り場である。
 広い面積のフロアーに山小屋風の木目をそ
のまま出した細長いテーブルが所狭しと置か
れ、椅子もベンチ式の粗末なもので、若者達
が身体を押し付け会って議論を交す光景が日
常のものだった。」
 中庭寄りの一角に陣取ったクラス全員に、
礼子から型通りの会計報告が行われた後は、
皆がコーヒーカップを片手にテーブルごとに
思い思いの話が弾んだ。
 話題は自然に皆の関心の高い卒業研究論文
のテーマの事になる。
 たまたま礼子と同じテーブルに座った芳夫
は、皆がもうすでに各自の研究内容について
具体的な構想を持っているのに驚ろくと同時
に、いささかあせりを覚えた。
 じつは、彼の郷里の家では父の定年退職に
加えて、母の持病が悪化して医療費が嵩み、
芳夫への学費の仕送りどころか、逆に彼の奨
学金を国元へ送らざるをえない始末で、彼と
してもこの際、一年間休学してアルバイトに
専念する事も考えていた。従って、卒業のこ
となど、今は全く脳裏になかったのである。
「私達三人はね、男性の変態性欲心理につい
てのグループ実験を計画しているのよ」
 正木礼子は両隣りに座っている斎田政子と
片倉夏代とで肩を組み、お互いに顔を見合わ
せるようにして得意げに発表した。
「へえー。……坂上教授の講義にも、変態性
欲論があったけど、正直いって判りづらかっ
たな」
 彼女の向いの芳夫の隣りに座っている男が
気のない合槌を打った。
「それは、あまりに抽象的な理論で説明しよ
うとしたからよ。……どうしても、実験によ
る例証がないと判りづらいし、第一迫力がな
いわ」
「それじゃ、君が実験で坂上理論を証明しよ
うと言うのかい?」
「そうよ。素敵なアイディアじゃない。……
宇津木さん、あなたどう思って?」
 彼女のほんのりと紅潮した美しい顔にみと
れていた芳夫に、突然、お鉢が回ってきて、
彼は思わずドギマギした。
「う、うん……でも、どうやって実験するん
だい?」
「そこがポイントよ。男性の変態性欲心理と
いったって、S、M、それにHOMOだって
あるでしょう……そこで、とりあえず、対象
をMに絞って計画を立ててるの」
「でも、誰かモデルが要るんじゃないかな。
M男性のモデルなんか、プライバシーもある
し、募集したってなり手があるかなぁ」
 机の端に座っている男が、首をかしげるよ
うにして発言した。
「そりゃあ、モデルは要るけどMの必要はな
いわ。……正常な男性のモデルをMに仕込む
過程を観察するのよ」
「そうなのよ。坂上先生の言うようにM性が
その人の天性ではなくって、外部の刺激によ
って形成される後天的な属性だってことが証
明されればいいのよ」
 礼子に続いて隣りの斎田政子が勢い込んで
説明を加えた。小柄で丸顔のおっとりした娘
だが黒目勝ちの大きな目が特徴的なキュート
な顔立ちである。
「それはそうと、君達の中で誰か私達の研究
のモデル……というよりもモルモットになっ
てくれる人はいな〜い? ウフフ、とっても
優しく仕込んであげてよ。……それに報酬は
うんとはずむわよ」
 三人目の片倉夏代が、茶目っ気たっぷりに
しゃべりながら皆の顔を見渡した。
 ボリュームのある胸と張りのあるヒップ、
そして、それに似合のバタ臭いい派手な顔が
ほどよく日焼けして、礼子ほどではないが、
これも、なかなか魅力的な女性である。
「礼子さんみたいな美人にMに仕込んでもら
えるなら、俺、志望してもいいんだがなぁ…
…でも、女三人がかりじゃ、おっかないから
なぁ……やっぱりお断わりだなぁ」
 先ほどの机の端にいる男子生徒が、お経で
も読むように節をつけて冷やかしの相の手を
入れると、ドッと一座が湧いた。
「こら! それ、どういう意味なの? 礼子
さん以外の二人がブスだとでも言いたいんで
しょう……こいつ!」
 斎田政子が立ち上って、傍らの片倉夏代と
一緒に殴り掛かるゼスチャーをすると、その
男子生徒は、ごめんごめんとばかり、大袈裟
に頭を抱えてうずくまってみせる。
 また、ひとしきり笑いの渦が起った。
 宇津木芳夫は皆と同様、苦笑しながら見守
っていたが、心に秘めた正木礼子への熱い思
いからか、ひそかに我身をその男子学生に置
き換えてみて、何か甘酸っぱい思いに駈られ
るのだった。
 それから、しばらくして春休みも残り少く
なったある日のことである。
 ちょうど、アルバイト先から下宿へ帰った
ばかりの芳夫に、珍しく国許の父から長距離
電話が掛かった。
 母が入院して手術したとの報である。
 手術そのものは成功で、その後の経過も良
いとのことでホッとしたものの、病院の支払
いに困って東京で何とか金策が出来ないかと
の相談である。
 奨学金はすべて国許へ送り、アルバイトで
なんとか生活を支えている芳夫にとっては、
それは、目をみはる様な金額であった。
 すがりつくような父の声の調子に、つい、
何とか当ってみると答えて電話を切ったもの
の名案が浮かぶはずもなかった。
 学生仲間に無心するには大き過ぎる金額だ
ったし、第一、金のあり余っている友達など
彼には縁の無い存在だった。
 翌日、芳夫は藁をも掴む思いで大学の生活
協同組合の中にあるアルバイト斡旋所を訪れ
てみた。幸い新学期を間近に控えて、ちょう
ど店開きしたところで、顔馴じみの女事務員
が暖かく迎えてくれた。
「あら、宇津木さん。久し振りね。また仕事
捜し?」
「うん、まあね。だが今度は、ちょっと虫の
いい注文なんだ。……つまり、少し長期の仕
事で最初にまとまった額の前借りをさせてく
れる所はないもんだろうかね?」
 当然、否定的な答えを予期していた芳夫に
彼女はニッコリ微笑むと、
「あるわ……あら、そんなびっくりしたよう
な顔をしなくてもいいのよ。ちょっと待って
……ほら、あったわ。これよ」
 芳夫は彼女の差出すカードの一ケ月当りの
報酬欄にまず目を走らせた。
 そこに並ぶ思わず目を疑うような数字に、
彼の胸は大きく波打った。慌てて確認したが
間違いない。それは、まぎれもなく彼の今ま
で体験した額の優に二十倍にも達するものだ
った。
「こ、これ、どうしてこんな……」
「そう、驚いたでしょう。でも下の勤務時間
の欄を見て御覧なさい。毎日二十四時間、そ
れも全く休み無しで一年間拘束されるのよ。
仕事の内容も、ただモデルとあるだけではっ
きりしないし、第一、寝てる間まで自由を縛
られるなんて異常よ。……一週間前にこの求
人カードが出されてから、何人か興味を示す
人があったけど、この勤務時間を見て、みん
な尻込みしたわ」
「で、でも報酬の六ケ月分を前払いするって
あるけど……」
「そうね、その点はあなたの希望にピッタリ
ね。……で、どうする? 求人主に会って話
を聞いてみる?……そう、それならこのカー
ドをお渡しするわ。連絡先は裏に書いてある
から……話が纏まらなかったら、またカード
を返しに来て頂戴」
 斡旋所を出た芳夫は、期待にはずむ胸を抑
えながら裏面の連絡先を確かめた。
 住所と電話番号の次に求人主の氏名に視線
を走らせた芳夫は、思わずハッとして立ち止
まった。
 そこには、彼の同級生の正木礼子の名前が
記入されていたのである。
(そうだ、モデル……グループ実験のモデル
……いや、モルモットだ)
 彼の耳には先日のユーハイムでの彼女等と
の会話が鮮かに蘇えっていた。
 斡旋所へとってかえしてカードを返すこと
も考えたが、父の窮状をこの報酬で救えると
思うと、芳夫の胸は千々に乱れた。
 一旦は下宿へ戻ったものの、どう考えても
これほどの好条件の仕事が外にあるとは思え
ない。……散々迷った末、目をつぶってこの
仕事を引き受ける決心がついたのは、翌日の
ことだった。
 正木礼子の住所を訪ね当てた芳夫は、それ
が豪華な高級マンションと知って、いささか
威圧される思いだったが、意を決してそのド
アの前に立った。
 澄んだチャイムの音が室内に響くと、間も
なく、ドアが開いて顔を覗かせたのは礼子で
はなく、斎田政子だった。
「あらっ、宇津木さんじゃないの! おめず
らしいわ。よかったら、お上がりなさいな」
「あ、あのっ……正木礼子さんは、ここに居
られないんですか?」
「もちろん居るわよ。……でも、ここは彼女
の外に私と、それに片倉夏代との三人暮しな
のよ……何か礼子にご用事? 彼女を呼びま
しょうか?」
「じゃあ、ちょっと、上がらせて貰ってから
お話しします」
 彼の案内されたのは柔かな絨緞を敷き詰め
た広いリビングルームである。
 ゆったりしたソファーといい、高価な調度
品といい、すべてが学生の住まいとは思えぬ
豪華さだった。
 礼子、政子それに夏代の三人にむかい合っ
た芳夫は、さすがに一瞬ためらいを覚えたが
思い切って例の求人カードを差し出した。
「あら、いやだ。まさか宇津木さんが私達の
実験のモルモットになりたいって言うんじゃ
ないわね。……それとも、そうなの?」
 カードを手にしていぶかしげに、彼をマジ
マジと見付める礼子の視線が、彼にはまぶし
く感じられた。
「あの……どうしても、まとまったお金が要
ることが出来て……それで……一年、休学し
て働くことにしたんです」
 思わず顔を伏せて答える芳夫に、三人の女
の好奇の目が集まる。そして、礼子が身を乗
り出すようにして口を開いた。
「いいこと。この仕事がどんなものか、あな
たは判っているの?……君はクラスメートの
女の子達に、心理実験のモルモットにされる
のよ。……それも、ただの実験じゃないわ。
これから一年間、ありとあらゆる辱めを受け
てマゾヒストに仕込まれるのよ」
 礼子に続いて、さらに政子が、そして夏代
が口々に言葉を挟む。
「そうよ。宇津木さんにどんな事情があるの
か知らないけれど、この実験のモルモット役
を引き受けたら、仕事の上とはいえ、君は私
達になぶりものにされるのよ。……将来も、
二度と、対等のお付合いは出来なくなるわ。
……本当にそれでいいの?」
「坂上教授の理論が正しければ、君は一年後
には後天性マゾヒストに性格改造されてしま
うわ。……そしたら、女に辱められなければ
セックスの興奮が得られなくなるのよ」
 彼女達に言われるまでもなく、それらの事
情は覚悟の上でここへ来たはずだったが、改
めて彼女等の口から聞かされると、さすがに
芳夫の心は揺れ動いた。
「でも、宇津木さんが、どうしてもお金が必
要で身を売りたいのなら、買って上げる……
ただし、この場合は、ただの身売りじゃなく
て、心も一緒に売ることになるのを忘れない
で頂戴」
 礼子の声音が、やや冷やかになり、宣言す
るように言い切ると、彼女はソファーに背を
埋めて、ジーッと芳夫の顔を見詰める。
 先ほどらいのやりとりで幾分上気してか、
ポッと頬に紅がさし、大きな目がキラキラ輝
やいて、うっとりするような美しさだった。
 どのような立場であれ、ひそかに恋いこが
れていた女性と、これから一年間ずっと身近
に過せる……その思いが芳夫に最後の決断を
させた。
「どうか、お願いします。私を、一年間モル
モットに使って下さい。……お金を払って頂
ければ、私の身も心も差し上げます」
 自分でも思いがけないほど、それはスラス
ラと素直に口から出た。
 礼子の顔に、そして横から芳夫を見付めて
いた政子と夏代の顔に、それぞれ三人三様の
軽蔑の色が露骨に浮かんだ。
「それじゃ、この契約書に署名して頂戴。…
…そう、それでいいわ。じゃあ、これが半年
分の前払いの小切手よ。後の分は契約期間が
満了してからお支払いするわ。……仕事は、
明後日、四回生の始業の日からスタートよ。
……いいわね」
 キビキビと取り進める礼子に圧倒される思
いで、芳夫はただひたすら彼女の言うままに
するしかなかった。
「あの、明後日の朝、ここへ来ればいいんで
すか?」
「そうよ。君はそれから一年間、このマンシ
ョンで過すのよ。……それまでに、休学届を
出して、関係先との連絡や下宿の始末も済ま
しておいて頂戴」
 三人の女達に送り出された芳夫は、まず銀
行へ直行して郷里の父の口座へ小切手を振り
込んだ。やっと肩の荷を下して下宿へ戻って
落着くと、先ほどまでのことが何か悪夢でも
見ていたかのように思い起される。
(なるようにしか、ならないさ!)
 いささかやけっぱちな苦い気分も、礼子の
面影が頭に浮かぶと甘酸っぱいムードに変っ
てしまう。ただ、同時に斎田政子や片倉夏代
にもなぶられるのかと思うと、再び憂欝にな
るのだった。
 下宿の荷物をひとまとめにして、一年後に
また帰って来るからと、そこの古びた倉に押
し込むと、あとは当座の着替えを入れた袋ひ
とつである。それを片手に提げ、当日の朝、
芳夫は文字通り身ひとつで正木礼子のマンシ
ョンへ赴いた。
 抜けるような明るい四月の空からは、柔か
な日差しが一面に溢れ、すべてが希望に満ち
ているようであった。
 途中、大学の事務所に寄って休学手続きを
済ませると、もともと楽天的な性格だったせ
いか、芳夫自身、これまでのしがらみをすべ
て断ち切って、彼女等との新生活に入る決心
がついたように思えた。
 しかし、その新鮮な明るい気分は、やはり
束の間のもので、長続きはしなかった。
……と言うより、現実はそんな甘さをふっ飛
ばす厳しさだったのである。
 マンションのリビングルームに通された芳
夫は、三人の女達の前に跪かされ、裸になる
よう命じられた。
「いいこと。お前は今日から私達のモルモッ
ト……と言うことは私達にとっては奴隷……
いえ、むしろ、それ以下の家畜と言った方が
いいわね」
 礼子が宣言すると、政子がなおも意地悪く
続ける。
「私達には敬語を遣うこと。それから、お前
はこのマンションでは家畜なんだから、……
フフフ、いつも裸のまま、そして必ず四つん
這いで歩くこと。いいわね」
 そして、いつの間にか後ろへ回った夏代が
芳夫に首輪を嵌める。ヒヤリとした革の感触
が首筋におぞましい違和感を与え、首輪に付
けられた鎖が夏代の手でグイと引かれると、
たまらず芳夫は床に這った。
「そうそう、それでいいのよ。それ、まだ頭
が高いわよ」
 夏代の足が、いきなり彼の頭を蹴る。覚悟
して来たとはいえ、こうして現実になぶられ
ると、芳夫の胸は口惜しさで一杯になった。
「ちょっと、夏代、まだ早いわよ。先にデー
タを取らなくっちゃ。……政子、測定の用意
はいい?」
「あ、そうだ。いけない、忘れてたわ」
 政子は慌てて部屋の隅から、病院にある医
療機械のような器具を持ち出してきた。
 四つん這いになったままの芳夫の頭に、そ
して胸に、細いワイヤーの付いたセンサーを
仕込んだバンドが手際良く嵌められる。
「いいこと。これからお前の脳波と心電図、
それに血圧を記録するのよ。……あ、それか
ら一番肝腎な、フフフッ、お前のセックスの
興奮度もね」
 政子の手が股間をまさぐり、彼のシンボル
を掴むや、その根元にヒヤリとする金属製の
輪が巻き付けられた。
「用意が出来たら、これからお前に五種類の
刺激……つまり、はっきり言うと辱めを与え
て、その反応を記録するの。そして毎週一回
これを繰返すわけ。その間、もちろん私達は
毎日お前を訓練するわ。つまり一週間分の訓
練でどんな変化がお前に生まれるかを、毎週
記録して観察するってわけなの」
「坂上教授の理論だと、お前は、段々と私達
の辱めにセックス面での反応の度合を増して
くるはずだわ。……そして一年後には完全な
マゾヒストが誕生することになり、私達の論
文も完成するわ」
「礼子も政子も、解説はそのくらいにして、
早く記録を取ろうよ。午前中には大学に顔を
出して、選択科目の登録をするんでしょう」
「判ったわ。じゃあ最初の刺激よ。……デー
ターシートは入っている?」
「オーケーよ。スィッチも入れたわよ」
 芳夫の顔の前に、スッと礼子の形の良い足
が延びる。
「さ、舐めなさい。足の裏の汚れをお前の舌
で清めるのよ。……あら、どうしたの?……
私の言うことがきけないの? 今さら反抗し
たってダメ。お前はちゃんと契約したのよ。
無理矢理にだって舐めさせるからね」
 礼子の足の指が芳夫の唇を割り、ホロ苦い
味が舌先を突く。思い切って舌を出し、足裏
をペロペロ舐め始めた。
「いいわよ。思ったよりお上手よ。でもまる
で犬そっくりね。……フフフ、これが昨日ま
で私達のクラスメートだった宇津木君のなれ
の果てかと思うと、ちょっと可哀そうだわね
……それ、さぼるんじゃないの。今度はこち
らの足よ」
 礼子の顔には薄笑いが浮かび、満足げな、
そしていかにも高慢そうな表情で、四つ這い
になって自分の足裏を舐める芳夫を見下ろし
た。続いて政子が、そして夏代が同じように
芳夫にその屈従の奉仕を強いる。
 思い焦がれていた礼子への屈服は、まだ我
慢出来たが、政子の脂ぎった足裏へ、そして
夏代のひときわ汚れで黒ずんだ足裏へ舌を這
わせた時は、さすがに芳夫は情けなさで胸の
締め付けられる思いだった。
「今のが、お前の舌の触覚と味覚、それに視
覚に加えた複合刺激よ。次は、お前の臭覚を
刺激してあげる」
 礼子は足を上げて芳夫の肩を蹴り、床に仰
向けに転がすと、顔の上にゆっくりと股がっ
た。上から見下ろす礼子の薄笑いを浮かべた
顔がスカートの裾でさえぎられ、ピンク色の
パンティーに包まれた豊かなヒップが目の前
に迫り、それがグイとばかりに顔面に押し付
けられた。
 同時に、すえた尻臭が鼻孔一杯に拡る。
「フフフッ、これこそ本当に女の尻に敷かれ
た男ってわけね。……よくその臭いを嗅いで
覚えるのよ」
 礼子の嘲笑が耳に入ると、芳夫の屈辱感が
増幅され、頭にカッと血が上った。
 かなりの時間、尻臭を嗅がされ、しばらく
解放されたかと思うと、続けて政子が跨がっ
てきた。ご丁寧にも、両手で自分の尻割れを
拡げて、汚れたパンティーに包まれた局部が
芳夫の鼻と口をぴったり覆うようにする。
 呼吸を制限された芳夫は、鼻を政子の尻に
こすりつけるようにしてもがいた結果、辛う
じて割目に添って流れ込む強い臭いの付いた
空気を吸わされた。
 三人目の夏代も負けじと彼の顔の上でグラ
グラと尻を揺すり、彼女の尻割れに翻弄され
る芳夫を嘲笑した。
「今度は、お前の味覚を刺激する番よ」
 礼子は再び芳夫の顔を跨ぐと、彼の目の前
でパンティーをくるりと脱ぐ。白い卵のよう
な光沢のある豊満な尻が、彼の視野一杯に拡
がるや、その中心のピンク色の粘膜が芳夫の
唇を捉えた。
「さあー、良く味わうのよ。女の身体の中で
一番汚ない所をお前の唇で清めるの。フフフ
口惜しい? これがお前の新しい身分を示す
行為なのよ。……そうそう、それでいいわ」
 礼子の声の調子には、もうかってのクラス
メートに対する思いやりは毛ほども無く、自
分の手、いや尻で転落の淵に深く沈めた男奴
隷を、はるか下に見下ろす勝ち誇った女主人
の高慢さが溢れていた
 政子と夏代はパンティーをずらして、立膝
した形で長椅子に並んで腰掛ける。
 鎖を引かれるまま、彼女等の前に引き寄せ
られた四つ這いの芳夫の顔の前には、ずらさ
れたパンティーの下から覗くやや褐色がかっ
た二人のアヌスが待ち構えていた。
「こうすると、お前がどんな顔をして舐めて
いるかよく判るわ。おうおう、涙なんか出し
て、口惜しいのかい? 情けないのかい?」
 政子は片足を延ばして、かかとを目の前の
芳夫の後頭部に引っ掛けるや、彼の顔をグイ
とばかり股間に引き寄せた。
 涙でぼやけた視界の中で、政子の褐色に汚
れた菊座が急速に拡大され、唇に衝突する。
粘膜に付着していたザラザラした澱が唇の間
で溶けて、渋味となって舌の上へ拡がった。
 政子の股間とかかとに挟まれた彼の頭は、
彼女が腰を揺するたびにグラグラゆれた。
「さあ、今度はこっちよ。……味をよくくら
べて覚えるのよ」
 夏代は芳夫の頭の後ろであぐらをかくよう
に両足首を組み、太股とふくらはぎで彼の首
をすっぽりとだき抱える。
 パンティー越しに鼻孔を突く性臭と、舌を
差すアヌスの粘膜の苦味がミックスして芳夫
の脳裏に焼き付いた。
「お次は、いよいよお待ち兼ねの舌奉仕よ。
いいわね、お前は女性のセックスへ奉仕する
舌人形になるってわけ。しっかり心を込めて
励みなさい。……礼子、データーシートの番
号を切り換えて頂戴。このまま続けてなぶっ
てやるわ」
「いいわ。でもこいつの口、汚れてるわよ」
「そうだわ、忘れてた。このままでは本当に
フフフッ、味噌も糞も……じゃなくって女の
セックスのおつゆも糞かすもいっしょくたっ
てわけね。……お前、洗面所でうがいして清
めてらっしゃい。……そうそう、ちゃんと四
つ這いで行くの。とってもお似合よ」
 再び夏代の股間に引き据えられた芳夫の目
の前で、パンティーが取り除かれる。
 彼にとって生まれて始めて間近に見る女性
の性器は、豊かな恥毛に縁取られて、今や、
すっかり卑屈になった彼を威圧した。
 芳夫のオドオドした眼差しが、自分の割れ
目をあがめるように見詰めているのを見てと
ると、夏代はニンマリと勝ち誇った笑みを浮
かべて、再び彼の顔をゆっくりと股間に包み
込んだ。
 同時に、背をソファーに深く沈め、両手で
彼の髪をしっかりと握って芳夫の唇をクリト
リスへと誘導する。
(ああ、これが礼子さんのだったらなぁ…)
 芳夫の脳裏を一瞬、切ない思いがかすめた
が、むせるような強い発情した花の臭気が、
彼の脳髄をしびれさせ、理性を奪う。
 彼の唇は、そして舌は、彼の髪を鷲掴みに
した夏代の手の命ずるまま、柔順にクレバス
を這いまわった。
 夏代が意外に早く背筋を硬直させて果てる
と、続いて政子が執拗に彼の舌を酷使する。
 そして最後に礼子が彼の顔に跨がった。
 彼女は芳夫に舌を一杯に延ばしたままでい
るように命じた上で、腰を前後に揺すり、ピ
チャピチャと音を立ててクレバスを芳夫の鼻
に唇に擦り付ける。やがて満足した礼子が腰
を上げると、その尻の下から痴呆のように、
口をポカンと開けた芳夫の顔が現れた。
 哀れにも、それは、おびただしい蜜にベッ
トリと覆われている。
「あらあら、礼子の分泌液ってすごいわね」
「本当! こいつも、これで完全に征服され
たって感じね」
 横から覗き込んだ政子と夏代が感嘆する。
「あらいやだ! こいつ、気分出してるわ。
ひょっとするとこの男、先天性のMじゃない
かしら?」
 仰向きの裸で横たわった芳夫の剥き出しの
股間にひょいと目をやった礼子が、素っ頓狂
な声を上げた。
「レコーダーの記録では夏代への奉仕が始ま
ってからは興奮のしっぱなしよ。……でも、
それは女性の秘部を目のあたりにしたための
正常な反応かも知れないわ」
 政子が眉間に皺を寄せて、分別くさそうに
意見を述べた。
「最後のメニューは、鞭打ちでしょう。……
どっちみち、それではっきりするわ。……生
まれて初めて女性に鞭打たれて興奮するよう
なら、間違いなく真性のMよ」
 夏代の言葉は、至極もっともに聞こえた。
 かくて、部屋の中央に四つ這いのまま引き
出された芳夫の前に、まず黒革の鞭を手にし
た礼子が立ちはだかったのである。
「お前、女に鞭打たれるのは、もちろん初め
てだわよね。……フフフ、どんな声をあげる
か楽しみだわ」
 礼子の手に握られているのは、子馬の調教
用に使われるゴム紐を芯にした革編みの本格
的な鞭である。握りの柄には赤い房が付き、
しなやかな細身の作りで、油が引いてあると
みえて全体が黒光りしていた。
「これは、音だけが派手なSMプレイ用の房
鞭じゃなくってよ。知り合いの牧場の人から
貰って来た実用品だから、叩かれると痛いに
違いないわ。…でも安心なさい。柔かな子牛
のなめし革で編んであるから、痕は付くけど
皮膚は破れないそうよ。ひとり三発ずつだか
らすぐ済むわ。……いいこと、いくわよ」
 礼子は片足を挙げて、四つ這いのまま震え
ている芳夫の頭を踏み付けると、彼の裸の背
にピシリと軽く鞭をくれた。
「ぎゃーっ」
 絶えいらんばかりの悲鳴と共に、芳夫の身
体は電撃を受けたように跳ね上がった。
 みるみる彼の背には、赤い条痕が浮かび上
がる。それは芳夫にとって文字通り生まれて
初めての衝撃だった。痛みは背中だけでなく
全身を走り、脳髄にまで響き渡る。
 第二発目の身構えに入った礼子を見て、彼
は殆ど本能的に逃げ出そうとした。しかし、
彼女の手に握られた紐で首輪がグイと引かれ
ると、再び部屋の中央に引き戻される。
 四つ這いで、目の色を変えて逃げ惑う芳夫
を見下ろす三人の女の目には、あらわな侮蔑
の色が浮かんだ。
 礼子は紐をたぐると、尻込みしながら引き
寄せられてくる芳夫の肩口から背にかけて、
第二撃を加える。
「ぎゃおーっ」
 最初よりも力の入った鞭さばきは、彼の理
性を奪い去るのに十分な威力を秘めていた。
「お、お願いです。……ど、どうか、お、お
許し下さい」
 芳夫は礼子の足元に這い寄り、頭を床に擦
り付けて彼女に哀願する。
 それも虚しく、首筋を礼子に踏み付けられ
て、ピンで止められた昆虫よろしく手足をバ
タつかせてもがくうちに、力のこもった第三
打が加えられた。
「ひいーっ」
 悲鳴もかすれ、殆ど悶絶せんばかりの苦痛
に全身が痙攣する。
「意気地無しねぇ。……今度は私よ」
 政子は彼の横腹を蹴って仰向けにすると、
肩から胸にかけてピシリと鞭をくれた。
 呻き声と共に、身体を海老のように丸めて
転がる彼の背に、そして横腹にと続けさまに
追い打ちがかけらられる。
 三人目の夏代が鞭を握った時には、芳夫は
部屋の隅にうずくまって震えていた。
 夏代は、おかまいなしにツカツカと近ずく
と、無造作に一撃した。
 悲鳴を挙げて這い回る芳夫を追い詰めて、
さらに一撃。続いて、今度はわざと狙いを外
して鞭を鳴らし床を叩く。
 その度に飛び上がり、逃げ惑う彼の有様は
三人の女達にとって格好ななぐさみ物に外な
らなかった。
 女達の笑い声の中で、夏代が止めの一撃を
彼の尻に加えると、芳夫は、やっと解放され
た。彼の全身にはみみずい腫れが走り、まだ
震えが止らない。
「フフフッ、相当こたえたと見えるわね……
あらあら、こんなに小さくなっちゃって!」
 礼子が足の指で、すっかり縮み上がった芳
夫の股間の物をまさぐる。
「やっぱり、お前はノーマルだったのね。…
…でも、これでよかったのよ。私達はお前が
少しずつMに変っていくのを観察して初めて
論文が書けるんですものね」
 政子が嘲笑うように続ける。
 股間のシンボルだけでなく、芳夫の態度に
は、この鞭打ちを境にして、明らかな変化が
現われていた。先ほどまでの甘えが脅えに変
り、クラスメートに対する馴れ馴れしさが、
主人に対する卑屈さに置き変ったのである。
 やがて、三人はそれぞれ外出の身仕度にか
かったが、芳夫は夏代に首輪を掴まれて洗面
所に引かれて行った。
 広いバスルームとトイレの前に二畳ほどの
ユーティリティールームが設けられていて、
洗面用の流しと洗濯機との間に、金属製の檻
が置いてあった。
 鈍く光るステンレス製のポールが格子に組
まれ、底には内側から木の板が張ってある。
「フフフッ、これが、これからのお前の住居
よ。犬小屋よりずっと高かったんだから」
 片方の端が落し戸になっていて、芳夫は流
しの下から檻の中へ追い込まれた。
 ピーンと音を立てて鍵が掛けられる。
 恐らく狩猟の獲物用に作られたものらしく
猛獣でも破れないと思われる頑丈さである。
 中は思ったより広く、もちろん高さは四つ
這いがやっとだが、膝さえ曲げれば充分横に
なれる長さだった。
「私達が帰るまでに、これを全部お前の口で
しゃぶって奇麗にしておくのよ。少しでも汚
れが残っていたら……ククッ、お前のお馴染
みの鞭が待ってるわよ」
 後から入って来た麗子が、傍らの洗濯機か
ら色とりどりの汚れたパンティーを選り分け
て、檻の中の芳夫の鼻先へ投げ込んだ。
「そこに着いている私達の臭いと味を、じっ
くり頭に叩き込むのよ」
 政子も、檻の中の芳夫を覗き込んで、から
かうような調子で付け加えた。
 三人が出て行き、ドアを閉める音が響いて
しばらく静寂が戻ると共に、先ほどまでの屈
辱の数々が想い起こされ、改めて涙が湧いて
くる。ふと異様な臭いに我に返ると、目の前
の汚れたパンティーに気がついた。
 十枚を越える数もさることながら、いずれ
も股間の当る部分が黄色に、或いは褐色に染
まっている。
 それは思わず吐気を催すほどの汚れようだ
ったが、同時に、先ほどの麗子の言葉と鞭の
痛みが彼の脳裏によみがえった。
 全身を震わすような鞭の痛み、と言うより
脳神経までズタズタにするような衝撃は、彼
の誇りを砕き去るに充分だったのである。
 芳夫は、パンティーのひとつを取り上げる
と、股間の汚れた部分を思い切って口の中へ
入れた。唾で湿して歯で軽く噛みしめ、汚れ
た汁をすする。生臭い苦みを帯びたその味は
彼に新たな屈辱の涙を滲ませた。
 やけ気味に、次々と同様に清めて行く。
 やがて、臭みが口中から咽喉の奥まで拡が
り目の前がボーッとかすんでくるのだった。
 こうして、最初の何ケ月かが飛ぶように過
ぎて行った。夜は例の檻の中へ閉じ込められ
て、彼女等の汚れたパンティーをしゃぶりな
がら寝る毎日だったが、時には彼女等が寝つ
くまで次々と女達のセックスに舌奉仕させら
れ、舌の付根が腫れ上ることも珍らしくなか
った。
 朝になると、檻から引き出されて、終日な
ぶり抜かれるのである。
 彼女等は、三回生の時に卒業に必要な単位
はほとんど取ってしまってをり、後は卒業に
必要な研究論文作りに専念すればよかった。
 ただ時折、代り合って授業に出ることはあ
ったが、その時でも必ず誰かが残って芳夫の
調教を続けることにしていた。
 そして、週一回、例の五種類の刺激、つま
り辱めに対する彼の反応が記録され、データ
が蓄積されていった。
 不思議なことに、クレバスに対する舌奉仕
の時の興奮度が次第に低下していき、その代
り最初は緊張と恐怖しか示さなかった鞭打ち
に対する反応が、徐々にではあったが、セッ
クスの興奮に置き代っていったのである。
 つまり彼は、女性に鞭打たれることに性的
な興奮を感じるように改造されつつあった。
 と同時に、足舐め、尻臭嗅ぎ、そしてアヌ
ス舐めの辱めに対しても、敏感な性反応を示
すようになっていた。
 これこそ正しく、M性は後天的に育成し得
ると主張する坂上教授の理論を裏付ける結果
に外ならない。
 彼女等の喜びと得意さはひとしおで、それ
はまた一段と彼への調教をエスカレートさせ
ていった。
 例年になく暑さの厳しかった夏も過ぎ、九
月から後期の授業が開始されて間もない頃で
ある。研究論文の中間報告が、それぞれの指
導教授に対して行なれた後、各教室ごとに、
学生同士、各自の論文を中間的に発表し合う
恒例の催しがあった。
 運営はすべて学生達に任されていて、教授
連や学校側の職員は、一切出席しないのが慣
例だが、一年下の同じ教室の学生達は傍聴を
許されていた。
 ここ性心理学教室の発表会は、在籍する女
子学生の比率の高さに反映して、聴衆の殆ど
が女性で占められてをり、カラフルな色彩が
溢れている。
 一人または一グループ当りの発表時間は約
三十分。スライドやビデオを使っての説明は
むしろ月並で、実験材料やサンプルを聴衆に
直接見せて興味を引くプレゼンテーションが
喝采を博していた。
 正木礼子、斎田政子そして片倉夏代の三人
の共同研究テーマ〔後天性マゾヒズムについ
ての坂上理論の実証〕は、かなりの注目を集
め、時間も特に倍の一時間が割り当てられて
いる。
 三人を代表して、礼子が演壇に上がると、
大きな拍手が巻き起った。
 礼子はスライドを使って、実験の条件を、
そして、色々な角度から整理されたデータを
次々と説明して行く。ひと区切りしたところ
で、おもむろに聴衆の方に向き直り、やや、
トーンを上げて口を切った。
「では、これから皆さんの前に私達の使った
モルモットを引き出して、この場で実験をし
て御覧に入れます。……じゃあ、どうぞ!」
 礼子の声を合図に、演壇の横手のドアが開
き、政子と夏代が、四つ這いの、しかも首輪
以外一糸まとわぬ姿の芳夫を従えて入場して
来た。
 ホーッと言う嘆声が、会場から一斉に起り
ざわめきがなかなか静まらない。
 芳夫の身体に、そして股間にセンサーが取
り付けられると、演壇に並べられた幾つかの
計器の目盛がオーバーヘッドプロジェクター
でスクリーンに映し出された。
「皆さん、お判りのように私達の実験材料は
我々の元クラスメートだった宇津木芳夫君で
す。……彼は自らの人間性を放棄して、一匹
のモルモットとして約半年にわたって私達の
調教を受けたのです」
 礼子は、ツカツカと芳夫の傍へ寄り、四つ
這いの彼を聴衆の方を向かせ、その頭の上に
ハイヒールを載せてグイと踏み付けた。スカ
ートの裾が割れ、チラッと白い太股が覗く。
「ホラ、頭が高いわよ。皆さんにご挨拶をす
るのよ。それ、こうやってね!」
 彼女が足に力を込めると、彼の額は床に擦
り付けられる。
「今度は頭を上げて……フフフ、そら、もう
一度! いいわ、それを繰返すのよ」
 額と鼻が黒く汚れ、礼子のハイヒールに頭
を踏み付けられたまま、米搗きバッタのよう
に平伏を繰返す芳夫の姿に、会場からいっせ
いに笑いが起った。
「皆さーん! この状態で計器の針をちょっ
と見て下さぁーい。……ホラ、彼のシンボル
からの信号が、こんなに振れてますわ!」
 プロジェクターでスクリーンに映し出され
ている計器の中で(セックス興奮度)と貼紙
がしてある目盛の針が大きく振れ、女性達に
笑いものにされることで、明かに彼が性的な
興奮を感じている事実が示されていた。
「次は、先ほどデータでご説明した五種類の
刺激を、政子さんと夏代さんから順次、彼に
加えて貰って、皆さんにその反応を見て頂だ
きます」
 礼子の言葉を待ち兼ねたように、夏代が芳
夫に近ずき、サンダルを履いていた素足を彼
の鼻先に差し出す。
 遠目にも薄汚れた素足に顔を寄せ、微かに
揺れる足の裏を追いながら、舌を一杯に伸ば
して舐め清めていく彼の浅ましい姿は、哀れ
さを通りこして滑稽ですらあった。
 続いて政子が芳夫の肩を蹴り、彼を仰向け
に転がして胸の上に馬乗りになった。
 手拭いで芳夫の顔を念入りに清めると、尻
をずらして彼の顔を覆う。たっぷり尻臭を嗅
がせた後、腰を浮かせてパンティーを下げ、
再び尻割れで顔を捉え、アヌスを唇に押し付
けた。横では礼子がスクリーンでブルブル震
える計器の針を指して皆の注意を集める。
 代って夏代が、脱いだパンティーを片手に
持って彼の顔面に跨がり、そのクレバスで芳
夫の舌を捉えた。さすがに公衆の面前なので
その部分はスカートに隠されているが、彼女
の腰の動きと彼のくぐもったうめき声は、会
場にも淫靡なムードをかもし出した。
 最後に礼子が演出効果を狙って黒いタイツ
姿に衣装を替え、鞭を持って登場すると、ド
ッと盛んな拍手が飛んだ。
 鞭の痛みには慣れたはずの芳夫だったが、
聴衆を意識して普段より力のこもった礼子の
一発に、彼は思わず悲鳴を上げながら、次の
一撃を避けるため這い回った。
 その余りに無様な情けない姿に、会場の聴
衆から失笑が洩れる。
 二発目を肩口に、そして三発目を逃げ惑う
彼の尻に叩き付けると、礼子は再び聴衆の方
に向き直った。
「いかがですか? 今ではこの男が、先ほど
のそれぞれの刺激に性的な興奮を感じるもで
に調教されてしまっていることが、よくお判
りと思います。……ところで、ここで少し時
間を頂き、皆さんの中の有志にここへ出て来
てもらって、皆さん自身で彼への刺激を与え
その反応を確かめて頂きます。……希望者は
前に出て来て下さい。ただし男性はご遠慮願
います。……そうですね、時間の関係で人数
は五人、そして刺激は〔アヌス舐め〕に限ら
せてまらいます」
 礼子の呼び掛けに応じて、競うように希望
者が演壇に集まる。先着順に五人が選ばれ、
芳夫の前に一列に並んだ。いずれも芳夫にと
っては顔見知りのクラスメート達である。
「ご協力有難うございます。では、まずこの
五人の方達に、このモルモットからが挨拶を
させます」
 礼子は、足元で四つ這いになっている芳夫
の耳に何事かささやいて指示を与え、五人の
前に送り出す。
「あ、あの皆様、有難うございます……皆様
のアヌスを……舐めさせて頂けて……こ、光
栄です。……お、お味を一生忘れぬよう……
覚えさせて頂きます」
 口ごもりながら屈辱の口上を述べる芳夫の
尻を、途中で礼子がポンと蹴って合図する。
 彼は、ためらいながらも四つ這いの身体を
起こし、肘を曲げ手首を前に垂らしてチンチ
ンの格好をしながら言葉を続けた。
 その珍妙な格好に五人はたまらずプッと噴
き出す。会場の聴衆にも、ドッとばかり、賑
やかな、しかしたっぷり軽蔑をこめた笑いが
拡がった。
 先日までクラスメートだった女性達の前で
生恥をかかされ笑い物にされる。……その恥
ずかしさに芳夫は首筋まで真っ赤になった。
 それまで多少、遠慮もあってどこかぎごち
なかった五人の女達も、すっかり緊張が解け
て慣れ慣れしい態度で彼を取り囲んだ。
 しかし、すでにクラスメートに対する以前
からの親しさが、ペットを扱うような気安さ
そして優越感に裏付けされた強い軽蔑に変質
してしまっている。
「ホラ、こんな変態犬になり下って、よくも
オメオメ私達の前に出られたものね」
「そうよ。しかも私達のアヌスを舐めるなん
て最低よ!……でも、フフフ、お前が頼むん
だから、望みを叶えて上げようじゃないの」
 仰向けに寝かされた彼の顔にポッテリした
白い丸い尻が、そして唇にジットリ湿ったア
ヌスが次々とにじるように擦り付けられた。
 聴衆は礼子の指すスクリーン上の目盛と演
壇の上で次々と女達のスカートの中で、彼女
等の尻に顔を敷かれていく芳夫とを交互に見
比べる。
「皆さん。この男の興奮度が、顔に跨がる女
性一人一人で異なることが、この針の動きで
お判りになることと思います。……つまり、
いまこの男は味覚を主とした刺激を受けてい
ますから、アヌスの味が濃いほど、つまり、
汚れがひどいほど針が大きく振れるのです。
……この最後の女性の場合は味が薄いとみえ
て、指度がこんなに低くなっています」
 ところが、その時、ちょっとした異変が起
ったのである。演壇の床で芳夫の顔に跨がっ
ている女のスカートの中で、うめき声が起り
スクリーンの中の針が突然ピクリと大きく振
れる。けげんな面持で理由を聞きに女の傍へ
行った礼子は、やがてクスクス笑いながら、
スクリーンの前に戻って来た。
「皆さん、判りました。たった今の針の振れ
は、この男が突然、臭覚に強い刺激を受けた
からなんです。……つまり、フフフ、宇津木
君は可哀そうに彼女のガスを嗅がされたんで
す。……それ、ご覧なさい。もう一度!……
クックックッ、ああ、おかしい!」
 再び針が振れ、うめき声が繰返された。
 そして、もう一度、今度はスカートの中か
らハッキリと派手な音が聞こえ、会場は爆笑
に包まれた。ツカツカと演壇に戻った礼子は
ようやく女の尻から解放された芳夫の髪を掴
んでグイと引き起した。
「さあ、お前の顔を皆さんに見て頂くのよ。
まあまあ、涙でクシャクシャね。……それに
お前の顔は、まだおならの臭いがするわ」
 礼子はおどけて大仰に鼻を摘んでみせる。
 再び爆笑が巻き起った。
「では、ここで最後に、これからの予定につ
いてご説明しておきます。私達はあと半年間
この男の調教を続けて、マゾヒズムの進行度
合を調べるのですが、先ほどの五種類の刺激
の内、鞭打ち以外の四つの項目を新しいメニ
ューと組替えます。……では、この計画につ
いて、政子さんと夏代さんにパネルで説明を
お願いします」
 礼子に代って演壇に上った政子は、夏代の
かかげる大きなパネルに書かれた内容の説明
を始めた。
「まず、今度の新しい四つのメニューは、こ
こに示されているように味覚に主眼点を置い
たマゾヒズムの極限を追求するものです。…
…つまり、女性の四種類の排泄物を繰返して
口にさせることで、転落感と屈辱感を徹底的
に頭に叩き込みます。また、鞭打ちを継続し
て被征服感を固定させると共に、反抗心を抑
えて従順に調教に従うように仕込みます」
 夏代は、ここでパネルを壁に立て掛けると
政子と交互に、さらに説明を続けた。
「一番目の刺激は、痰壷奉仕です。女性の唾
や痰を口中に吐き込まれる男性の屈辱感を、
性感にまで昇華させようとするものです。…
…二番目はアンネ奉仕と名ずけました。お判
りのように女性のアンネをすべて吸わせ、味
あわせるのです」
「三番目と四番目は便器奉仕です。もちろん
三番目は小、四番目は大の方ですが、後者に
は同時にたっぷり出るガスも含まれます。…
…女性の便器になり下って、汚辱にまみれる
男性の極限状態の心理が、セックスの絶頂感
に相通ずると言う、坂上教授の仮説に挑戦し
てみようという訳です」
「もちろん、段々慣れてきたら、私達女性の
排泄物の味から、便器奴隷として女主人の身
体の調子や、その日の食事の内容まで味わい
分けるように仕込みます」
 そして、最後に礼子が演壇に戻って締めく
くった。
「では、来年三月の論文発表の時には、完全
に人間便器に変身した宇津木君を、ここに引
き出して、今日のように皆様に実地に試して
頂く事をお約束して私達の発表を終ります」
 嵐のような拍手が演壇を降りる三人に、そ
して四つ這いの裸身を鎖に引かれて後に従う
芳夫の哀れな姿に送られたのである。
                 (完)
----------------------------------------
1985年8月スピリッツ8月号(スレイブ通信28号に再掲載)
マドンナメイト文庫[黒い爪先]に「M性心理実験材料」として収録
----------------------------------------

2010/06/17