#08屈辱のスパイ教育(狙われた企業秘密)(前編) 阿部譲二

ハイテク会社の製品企画担当の課長の部下がラブホテルで死ぬ。SMプレイの果ての事故死らしく、その調査に乗り出した課長はSMクラブで女の罠に落ち屈辱的な写真を撮られる。それを種に女の夫に、会社の機密を持ち出して競争相手の会社に持って行くように強制され、相手の会社の女子社員達に散々嬲られる。不始末が露見した課長は降格される。

発端

「平田課長、お客様がお見えです」
 庶務担当の女の子の明るい声に、平田は今迄没頭していた報告書から漸く顔を上げた。
 ここは東洋電子の製品企画室。そして彼、平田靖夫はその中枢とも言うべき技術計画課の課長である。
 月曜の朝は十時からの定例企画会議を前にして、企画室の各課は資料の準備で慌ただしかった。
 平田自身も、会議で発表する新製品の開発状況報告書の検討に余念がない。
「なんだ。面会は午後しか受け付けない筈じゃないか。飛び込みのお客は困るな。しかも会議の前だというのに」
「一応はそのように申し上げたんですが、どうしてもとおっしゃいますので、第一応接室にお通ししてあります。……あの……こういう方だそうです」
 そっと差し出された二枚の名刺には、〔警察庁特捜警部補〕といかめしい肩書が肉太の活字で並んでいた。
 予想外の客に盲点を突かれた感じで、思わずハッとしたが、同時に何の用だろうと不審の念が湧いた。
「やあ、丁度お忙がしい時にお邪鹿してしまったようで、お手間は取らせませんので宜しく御協力下さい」
 二人ともさすがに目付きが鋭く、身体付きもがっしりしているが、肩書に似合わず腰の低い切り出しだった。
「あの……私で宜しければ、お話は受けたまわりますが……全般的な事でしたら、総務部の渉外課長を呼んで御説明させますので……」
 警部補は、平田のつっかえ気味な言葉をさえぎるように手を上げた。
「いや。これは貴方から是非お話を聞く必要があるんです。……まあ、この写真を見て下さい」
 キャビネ判に引き延ばした二枚のモノクロ写真のうち、一枚には浴室のタイルの上にうつ伏せに倒れている全裸の男が写っている。
しかも、男は後手に手錠を嵌められ、咽喉には鎖の付いた首輪が光っていた。
 何か、ドキッとする思いで、もう一枚に目を走らせた平田は、思わずアッと低い驚きの声を上げた。
 それは一枚目のうつ向きの男を抱き起こした所で、顔がはっきり写っている。
意外にも、それは彼の配下で働いている係長の山田信彦だったのである。
「お判りですか? やはり、それは貴方の部下の山田さんですね。……実は今朝、市内の某ホテルの一室で、死体になって発見されたんです」
「…………」
「いや、出田さんの奥さんには、今、警察の方へ来て頂いて担当の者から事情をお聞きしている所なんですが、御都合がつけば平田さんにも、午後からで結構ですから、おいで願えると有難いのですが」
〔山田係長が……死体で……しかも、こんな格好で一体どうしたんだろうか?〕
 疑問が次々と雲のように湧き起こってくる。
「あの、昼からで宜しければ、二時頃迄に伺えると思いますが……それはそうと、死因は一体何でしょうか? まさか……殺されたんでは?」
 警察側の二人は、ちらっとお互いに顔を見合わせたが、
「いや、それは今、死体を調査中ですから何とも言えません。……しかし、いずれにせよ変死という事に成りますので、他殺の線も含めて調査を進めている所です」
 二人を送り出した後も、平田は余りの事に気も動転し勝ちだったが、ふと、我に帰るとその足で上役の企画室長の所へ向かった。
 企画室長の長沼は、取締役へのコースを着実に歩んでいるきれ物で、これ迄幾度かの会社のピンチに際してのキビキビした処理は常に水際立っていた。
「君、これは慎重に処理しないといかんな。企画室の係長が変死という事が書き立てられると、当然世間の注目の的に成るし、君の言うように手錠や首輪を嵌めて死んでいたとなると、猟奇殺人という事で、ジャーナリズムはワッと飛び付くぞ。……会社のイメージは滅茶苦茶に成る」
 長紹は、眉間に皺を寄せて考え込んだ。
「ともかく、君。会議の方はいいから、直ぐ警察の方へ行ってくれたまえ。……外部への発表を、出来るだけ抑えて貰うんだ。……こちらは渉外課長に新聞や週刊誌の方の対策を至急考えさせるからな。君は、出来るだけ時間をかせぐんだ」
 慌てて部屋を出る平田の背に、重ねて長沼の声が飛んだ。
「それからな。死体のあったホテルの名前と場所を聞き出して直ぐ電話で連絡してくれ。こちらからも人をやって、従業員の口を塞ぐからな。……俺も後から警察に行くが、多分午後になる。それ迄頼むぞ」
 テキパキした指示に、圧倒されるような気持で平田は警察に向かった。
 係長の山田との関係は、仕事の上だけではなかった。大学の後輩でもあり、丁度二年前に彼が仲人に成って結婚させた男である。
 それ迄独身貴族をきめ込んでいた山田も、三十の坂を越えた途端、奔放な遊び人的生活を精算して結婚する気になったと見えて、平田に妻の遠縁の娘で女子大を卒業したての若い光子を推薦められると、案外あっけなく〔宜しくお願いします〕と陥落してしまった。
 背は高い方ではないが、色白でキュートな顔立であり、それでいて仲々のグラマーな光子とは半年程の交際でゴールインした。
 その後、平田の妻が病をえて急死した時も、当然とはいえ山田夫妻は真っ先に駈け付けて色々手伝ってくれたし、その後も子供の無い平田が独身生活で不自由だろうと、頻繁に夕食に呼んでくれていた。
 また、二人の間でもめ事があると、必ず彼の所へ相談が持ち掛けられるのが常だった。
 警察の取調室でポツンと寂し気にうなだれていた光子は、平田が担当刑事に伴われて入って行くと、如何にもホッとした風情で顔を向けた。
「奥さん、気を確かに持って下さいよ。僕がいくらでも相談に乗りますからね」
 平田の言葉にうなずく彼女の目に、うっすらと涙がにじんでいた。
「奥さんから聞いた所では、山田さんはこの一週間、行方不明だったそうですが……平田さんには何か心当りは有りませんか?」
「いや、全く初耳です。会社には風邪で休暇を取りたいと奥さんから適格があったので、そうとばかり思っていました」
 取調べはとり立てて死亡の核心に迫るというより、山田信彦の平常の勤務状況調査といった所で、昼前に終了した。

 誘惑

 電話で会社へ簡単に報告を入れた後、彼は光子を伴って近くのレストランへ入った。
食事を注文した後、やっと落ち着いた気分になって光子と顔を見合わせた。
 丸顔に二重瞼の整った顔立が幾分憂いを含んでいるものゝ、目の前の赤い厚めの唇に、ふっくらとした頬、それに思ったより豊かな胸が彼には何か官能的に迫って来る。
「行方不明だなんて、どうして言ってくれなかったんですか。それに、あのホテルで山田君が何をしてたか本当に心当りは無いんですか?」
「二、三日、友達と旅行するから、会社には風邪という事で休暇の届けをしておいてくれって……出掛けに言い残して行ったんです。あの人、結婚前に随分遊んでいたらしいから色んな友達がいて……私には良く判りません」
「何か最近変った事は無かったかな。例えば、女友達から手紙が来るとか……」
「別に、……でも、手紙とはいえないかもしれないけど、三ヶ月程前に、どこかからアンケート調査の依頼が来て回答したらしいんだけど、その後又電話があって、調査員に呼び出されていましたわ」
「三ヶ月前……アンケート……そうだ、もしや緑色の封筒に入った……」
「そうよ。回答を出した後、お礼だって立派なタオルセットが届きましたわ。一体どんな調査だったのって聞いても、ニヤニヤして言ってくれなかったけど」
 それは、平田にも心当りがあった。というより彼の所にもそのアンケートが来て、回答のお礼に同様の品を貰っていたのである。
 確か、中央性科学研究所とかの調査で、内容は男性の性傾向を統計的にまとめるとか、質問にはかなり際どい表現も含まれていたのが想い出された。
 そして、彼をハッとさせたのは、その中に貴方のSM度についてと題する質問のべ−ジが何枚かあった事と、山田の死体が手錠に首輪という状態で発見された事実が、頭の中でダブってひらめいたからである。
「それじゃ、少し立ち入った事を聞きますが、山田君はSMの趣味はありましたか?」
「SMって、サドマゾの事ですの? いいえ、心当りありませんわ。……でも、そう言えば、六本木のドミナっていうクラブから何回か電話が掛かって来た事がありますが、そこがSMクラブだったんでしょうか?」
 光子も彼の推測を察したと見え、問いかけるような口調になった。
「いや、判りません。しかし、これは山田君の名誉のためにも、また会社に迷惑を掛けないためにも、警察には黙って私がこっそり調べて見ましょう」
「そうして頂けると有り難いわ。私、もう平田さんしか頼れる人がいないんですもの」
 首を少しかしげるようにして彼の顔をじっと見詰める光子の濡れた黒い目は、濃い長めのまつ毛に縁取られ、ゾクッとさせるような媚びを感じさせた。
 彼女を家まで送る途中、二人がラブホテルに立ち寄ったのも自然の成り行きというより、光子の一方的な誘惑に、男やもめの平田がひとたまりもなく陥落した結果といった方が良い。
 常日頃、目を掛けてやっていた山田が変死して日も経たぬ内に、その妻である光子とねんごろになる事はさすがに気がとがめたが、これ迄にも憎からず思っていた彼女でもあり、多分夫に裏切られていた光子を保護してやるのは一種の義務だと自分に言い聞かせた。
ラブホテルの一室でバスにつかった彼女の後を追って裸に成りかけた彼の前に、しどけなく脱ぎ捨てられた光子のカラフルな下着が目に入った。
 思わず、その中からパンティを手に取って顔に当てる。妻を亡くして以来、忘れていた女の匂いがプーンと鼻に飛び込んで来た。
 と、突然、背後から声がした。
「フフフ、あなたには、そんな趣味があったのね。人に見られたら変態だと思われてよ」
 夢中で香りに没頭している内に、光子が風呂から上がって見ていたのに気が付かなかったのである。彼は思わず恥ずかしさに顔がほてるのを覚えた。
「あら、もうこんな時間だわ。ちょっと電話させてね」
 彼の返事も待たず、彼女はベッドに寝そべって受話器を取った。
 急に彼女の言葉使いがぞんざいになる。その態度には今の出来事で彼を軽蔑し、すっかり馬鹿にしている様子がありありと伺えた。
「今、家にかけて見たら、もう約束してた人が来て待ってるのよ。折角だけど今日はこれで失礼するわ。その代り、フフッ、そのパンティはあなたに差し上げるわ」

 SMクラブ

 幸い山田信彦の死亡事件は新聞の片隅に小さく載っただけで、世間の話題にもならずに済みそうだった。勿論、それは会社をバックにした長沼室長の懸命のもみ消し運動が効を奏したために外ならない。
 平田が六本木のはずれにあるクラブ「ドミナ」を訪れたのは、それから丁度一週間たった週末だった。
 鼓膜をつんざくようなトランぺットの音が、クラブの扉を開いた途端、平田の耳に飛び込んで来た。たまたま開いていた中仕切のドアからナイトクラブ形式のステージと、フロアーに並べられたテーブルが目に入った。
「お一人様ですか? 今丁度ショータイムが始まった所でございます」
「いや、一寸聞きたい事があるんだけど、誰か責任者はいませんか?」
 受付の女の子に代って、マネージャーと称する中年の男が出て来た。
「友達がここの常連で、SMプレイをしに通っていたと聞いて来たんだけど」
「はい、プレイルームは二階にありますが、会員制ですので入会金を頂いて登録してからになります。……宜しければ、この申込書に記入して頂けますか?」
「いやいや、私はプレイをしに来たんじやなくて、その常連の友達の消息を聞くのが目的なんだ。出来たら彼のプレイの相手に会って話がしたいんだが」
 予期していた通り、会員の秘密は一切外へは漏らせない規則だと、にべもない返事が返ってきたが、押し問答の未、平田自身が入会してプレイ費も払った上で相手から聞きだすのは勝手という事になった。
 山田信彦の相手をしたと覚しき女を探し当てて貰い、二階のプレイルームで対面する迄意外な程スラスラと運んだ。
 女としては大柄な方だろうか、背も平田と余り変らない。真っ赤なバレリーナ風のコスチュームから、黒いタイツに包まれた形の良い足がスラリと伸びていた。
 やや面長で彫りの深い顔立が、濃い眉と張りのある瞳に引き立てられた仲々の美人である。
 殺風景なプレイルームの片隅に置かれたソファに無造作に腰を掛け、足を高く組んで煙草を取りだすと、高慢そうな態度で顎をしゃくった。
思わず気圧されてマッチを擦って差し出すと、彼女はニヤリと笑みを浮かべた。
「私は和美。……あなたが山田さんの友達ね。名前は平田靖夫、そうでしょう」
 彼は思わず息を飲んだ。申込書には出鱈目の名前しか書かなかった筈である。
「驚かなくてもいいのよ。あなたの事はすっかり調べてあるんだから。……ホラ、先ず、これを御覧!」
 緑色の封筒に入った書類が、ポンと彼の膝の上に投げられた。中身は彼の記入した例の中央科学研究所の調査アンケートだった。
「ど、どうしてこれが……」
「フフフ、私のバックには或る組織がいるのよ。……そのアンケートを見ると、お前も山田程じゃないけどMの素質があるわよ。なんなら私が仕込んで上げようか。クックックッ」
「と、とんでもない。それより、山田君は死んだんだよ。殺されたかも知れないんだ。君も事情を知っているんだったら、僕に話してくれたまえ。……いやなら警察へ届けるかもしれないぞ」
 警察という言葉が彼の口から出ると、彼女の目がキラリと光った。
「警察に届けられて困るのはどちらかしら? ホレ、これでも判らないのかい」
 数枚の写真が、彼の前に突き付けられた。
平田は思わずアッと声を上げた。それは思いも掛けず、先日の光子とのラブホテルでの場面の写真だったのである。
 特にパンティを鼻に当てている彼の背後で、裸の光子が冷笑を浮かべて見下ろしている場面は、あの時の恥ずかしさを蘇らせた。
「い、いったい、こ、これをどこから撮ったんだ。プ、プライバシーの侵害じゃないか」
「さっき言った組織の連中が、お前達を見張ってたんだよ。……そのラブホテルの部屋の鏡は、マジックミラーになっているのさ」
 いまや攻守は完全に逆転していた。背筋が寒くなる思いで、彼は一旦引き上げて態勢を整え直す決心をして立ち上がった。
「どこへ行くの? こゝ迄話したからには、このまゝ帰す訳には行かないわ。明日は日曜日で休みなんだから、今夜はゆっくりここで過ごすのよ」
「な、何だって! 僕の自由まで束縛しようったって、そうは行かないぞ」
「まあ、落ち着きなさい。私はここではSの女王なの。君は自分では意識していないかも知れないけど、アンケートの内容を分析してみるとMの傾向があるのよ。今夜一晩、私に付きあってくれれば、さっきの写真を返して上げる。……いいわね、じゃ、諦めて裸になって!」

 

 一体何をされるのか不安が残ったが、SMに対する漠然とした興味もあり、なによりも写真を返して貰えるのが魅力だった。
 腹を決めて服を脱ぎ、言われるまゝに彼女の前に跪く。カチリと音がして後にまわした
手に、そして足に手錠が嵌められ、続けて鎖の付いた犬の首輪が嵌められた。
 一瞬、山田の死体の写真が頭をかすめ、それと同じ状態にされた事に気付くと又、新たな不安がこみ上げて来た。
「フフッ、そうよ。……これで、あの山田と同じになったのよ」
 まるで、彼の心の中を見通しているような彼女の言葉だった。
「じ、じゃあ……山田君が死んだのは……やっぱり君が……」
「違うわ。あの晩、一緒にプレイしたけど、直接手を下したのは私じゃない。……それより、自分の事を心配したらどうなの。お前はこれから山田の代りに……フフフ、私の奴隷に成るのよ」
 ハッとして身を起こし立ち上がろうとしたが、首の鎖をぐいと引かれて、不様に和美の足元に転がった。
「じたばたしたって駄目よ。お前の自由は完全に奪われてるんだから。ホラ、……ホラ、どおお? 判った?」
 彼女の足が彼の首筋を捕え、もがこうとする彼の動きを封じた。
「そうよ、今晩一晩だけと言ったのは嘘。……本当はお前が来るのを待ってたのよ。お前は、いつまでも奴隷として私のセックスに奉仕しなさい」
〔そうか……罠にかけられたんだ!〕
 平田はおとなしく手錠を嵌められた自分のうかつさを悔やんだが、後の祭りである。
「心配しなくてもいいのよ。私がみっちり仕込んで上げるから。……ひと月もしない内に、フフッ、身も心も豚にしてやるわ」
 和美は足で彼を仰向けに転がすと、立ち上がって彼の首を跨いだ。彼の顔を見下ろしながらおもむろにタイツを脱ぐ。
 ショートスカートの中に、白いパンティに包まれた豊かなヒップが浮かび上がった。
 と、それがスーッと落下して来て彼の目の前でピタリと止まった。
 尻の割れ目に沿って茶褐色の汚れが拡がり、生臭い異臭がプンと鼻をつく。
「私ね、パンティはいつも穿き捨てにするのよ。でも、こうして後継ぎの奴隷が出来たんだから、山田にやらせたようにこれからは、お前の口の中で汚れを清めさせるわ。……そして今日はその初日。だから……フフッ今朝はトイレの後、わざと紙を使わないでパンティに吸い取らして来たの」
「でも順番だから、先ず臭いを覚えなさい」
 和美は割れ目の汚れた部分を、軽く平田の鼻に押し当てた。
 ムッとする臭気が鼻孔を満たし、トイレのアンモニア臭に似た刺激が臭覚を襲う。
 あわてて顔をそらしたものゝ、すぐに彼女の手が彼の髪を掴み、元の上向きに戻されてしまった。
 彼女は尻をゆっくり前後に移動し、割れ目に添って彼の鼻をじゅうりんする。
 ツーンとする尿臭混りの性臭から、饐えた強い糞臭のする尻臭に至る迄、彼の鼻孔に順々と擦り込まれて行った。
 身の自由を奪われた上に、女から与えられる生まれて初めての屈辱に彼の身体は震え、目頭が熱くなった。
「クックックッ。どおー? 恥ずかしい?……アラ! 震えているじゃないの。よっぽどウブなのね……ホラホラ、これでどうだ! 臭いか? フフフ、男のくせに女のお尻を嗅がされて、……くやしいかい? ホレ、情けないかい?」
 時折ぐっと割れ目が押し付けられ、高まる屈辱感が和美の執拗な言葉なぶりに増幅され、目尻からツーと涙が零れる。
「さあ、もう良い頃ね。次は奴隷の接吻よ」
 彼女は立ち上がると、無造作にパンティを脱ぎ、真っ白な豊かな尻を惜し気もなく彼の限前に曝した。
 褐色に汚れたアヌスが彼の唇を捉える。
「しっかり清めるのよ! そら舌を出して! そう、唇で軽く吸うの。 お上手よ。……どんな味? フン、これでお前は私の奴隷。二度と対等の口は利けなくなったのよ」
 和美は更に両手で双球を押し拡げ、ムッといきみ声を立てる。
 彼の唇の上でアヌスが膨らみ、内部の粘膜がめくれて付着していた槽が口中に擦り込まれた。
 ホロ苦い渋味が口腔一杯に拡がる。
 無念の思いが彼の胸を掻きむしった。
 同時に敗北感と諦めとが訪れ、彼は、知らず知らずの内に熱心に彼女のアヌスを舐め、味わっていた。
「そら、見てご覧! お前は生まれついてのマゾ男なのよ。……今度はその舌と唇で私のセックスに奉仕しなさい」
 勝ち誇った和美は尻を少し後へずらし、じっとり湿ったクレバスを彼の唇の上に据えた。
「もっと舌を出して! そう、大きく舐めるの……そう、その調子。……今度は舌の先を尖らして、うんと伸ばして御覧……もっと、もっとよ」
 彼の舌が精一杯伸び切り、付け根にしびれに似た痛みが走った。
「唇も使うのよ、もっと強く! 駄目ね。まあ、いいわ。……その内たっぷり仕込む事にするわ。今日は、ホラ、こうして上げる」
 和美は、彼の髪を馬のたてがみよろしく両手でしっかり握り直し、顔面の上に乗せた尻をゆっくり前後に揺すり始めた。
 たっぷり溢れ出した彼女の分泌液が、その股間と彼の顔面との間に拡がり、潤滑剤となって彼女の尻を滑らす。
 平田の顔に押し付けられた彼女のラビアが、クリトリスが、彼の鼻を擦り唇をめくった。
ピチャ、ピチャと音を立てゝ彼女の股間が、哀れにも悔やし涙にむせぶ彼の顔をじゅうりんし尽くした。
 やがて、動きがひとしきり速まったかと思うと、彼女は〔ううっ〕とうめき声を立て、背筋を反らし頂点に達する。大きく拡げた下肢が平田の顔面を覆ったまま、かすかにピクリピクリと痙攣した。
 息苦しさに思わず口を開け、クレバスに沿った隙間から空気を吸うと、ねっとりした分泌液がズズッと音を立てて彼の口中に流れ込んだ。
 暫くして尻を上げ、その下を覗き込んだ彼女は、べっとりと一面粘液にまみれた彼の顔を見てニヤリと笑った。
「女に征服された男なんて、哀れなもんね。……でも私は未だ満足してないのよ。次のラウンドはベッドに移って続けるわ」
 和美は傍らのタオルで彼の顔を拭うと、彼の首に着けた鎖をぐいと引く。
 手足の自由を奪われている彼は、やっとの思いで起き上がると、膝でにじり歩きしながら部屋の隅に置かれたベッドへ導かれた。
「これは調教用に特別に作らせたのよ。……ホラ、見て御覧! ここに穴があるでしょう。フフフ、何のためか判る?」
 彼女は掛布団をめくると、ニヤニヤしながらマットレスの中央やゝ裾寄りに開けられた直径十センチ程の穴を指差した。
「…………」
「判らないの? 鈍いわね。さ、そこへ入るのよ」
 彼女はベッドの下へ彼の身体を押し込むと、マットレスを持ち上げて彼の頭を下からその穴に当てがい、すっぽりと上に引き出した。鎖も穴を通して、ベッドの足に固定する。
「そーら、もう動けないでしょう。これでお前は私のオナニーの道具に成り下がったのよ。今夜は一晩中私のセックスにしっかり奉仕しなさい」  彼女がベッドに横たわると、丁度股間に彼の顔がぴったり当る。
 ベッドの高さが彼の座高に合っていて、座った姿勢の際、尻が床に着いているので思ったより楽だった。勿論、先程迄の彼女の尻に敷かれている形より遥かにましである。
 ただ、手足の自由が奪われ首も固定されていて、彼の髪を鷲掴みにした彼女の手足の命ずるまゝに奉仕させられる我が身が、何とも情けなかった。
 上からフワリと布団がかぶせられ、目の前が真っ暗に成る。いやでも臭覚と味覚、それに舌先の触覚に神経が集中した。  暫く奉仕を続けると、和美の高まりに伴って髪が強く前に引かれ、平田の顔が一層彼女の股間に押し付けられる。舌の力を強めたが未だ不満らしく、彼女の足のかかとが彼の後頭部に当てられ、力が加わると同時に、彼女の腰が緩やかにくねり出した。
 やがて動きが速まり頂点に達すると、瞬間、彼の頭はけいれんする彼女の下肢に強く締め付けられた。
 暫く余韻を楽しんだ後、何を思ったか彼女は仰向けのまゝ布団の中で太腿を上げて身体を丸める。彼女の腰が持ち上がり、今度は尻の割れ目が彼の顔に覆い被さった。
 じっとり湿った彼女のアヌスが彼の唇に押し付けられ、同時に足のかかとが彼の後頭部をこずいて屈辱の奉仕をうながした。
 散々アヌスをねぶられされた後は、又、クレバスに再度の舌奉仕である。
 あくまで食欲に快楽を求める女の執ような命令に、耐え難い屈辱感にさいなまれながらも屈服を余儀なくされた彼だったが、余りの長時間の奉仕にその舌はしびれ、そのうち次第に意識が遠のいて行った。

 記念写真

 闇の中を果てしない道が続き、罠から抜け出した彼は追われながら懸命に走る。突然、足元が崩れ身体が沼に沈んだ。辛うじて首だけ出してもがく内に、突然髪を掴まれ土手に顔を押し付けられる。息苦しさにハッとして目が覚めた。
 寝不足でぼんやり霞のかかった頭には、今自分が布団の中で彼女に再び奉仕を強制されているという現実を理解する迄、かなりの間が必要だった。夢中で舌を延ばして目の前のクレバスを撫で上げたが、力が入らない。唇の感覚が薄れ、舌の付け根も腫れ上がっていると見え、痛みが走った。
「フフッ、大分参ったようね。もうとっくに夜が明けてるのよ。……今回は最初だから、これで勘弁して上げるけど、癖にならないように罰を与えるわ」
 和美は布団の中で足を揃えて曲げ、彼の後頭部にかかとを当てると、ぐいと彼の顔をその豊かなヒップに押し付けた。
「クックッ、良いこと? 行くわよ。……ホラ、いっぱぁーつ」
 彼の鼻の前で彼女のアヌスがじわりと盛り上がり、プスッとガスが放出された。
避けようもなく、略その全量が彼の鼻孔に注入される。
ツーンと臭気が脳天に突き抜け、情け無さに涙がにじんだ。
「そら、にいーはぁーつ……フフフ、さぁんばぁーつ」
 布団の中を覗き込みながら、高らかに数える彼女の声が耳に入る。
その度に彼は放出される異臭にむせびながら、またひとしきり無念の思いを味わった。
 たっぷり余香を嗅がせた後、突然布団がめくられ室内の明りがパッと目に飛び込んだ。
 彼女は身を起こしてニヤニヤ笑いながら、股間の彼の顔を見下ろす。
涙と女の分泌液に隈取られた顔が、征服された口惜しさと、オドオドした怯えに歪んでいた。彼女はおもむろに立ち上がると、壁の電話を取った。
「もしもし……あ、もういいから、写真撮りに来て。……大丈夫よ、すっかり奴隷に成り切ってるわ」
 電話を切ると和美はベッドに戻り、マットレスから首だけ出している平田の側に腰掛け、煙草に火を付けると、フーッと煙を彼の顔に吐き掛ける。
「これからね、ここで記念写真を撮るのよ。フフフ、勿論お前が私に征服されているところ。……何のためか判るわね。……そうよ、お前が私から永久に逃げられないようにするの。……これからは当分毎晩ここへ来て雑役夫として働きなさい。その合間を見て私がみっちり仕込んでやるからね」
 月曜の朝、重い足を引きずって出勤した平田は憂鬱な疲れた表情を隠せなかった。
 昨日は和美から解放された後、ショックで何も手に付かなかったし、昨夜はまんじりともしなかったのである。
 幸い臨時取締役会のため企画会議が中止になってホッとしている所へ山田の妻の光子から電話がかかった。
「あのー、課長さん? 先日は失礼しましたわ。フフッ、私のパンティお役に立ったかしら?」
 やゆするような光子の口調に軽蔑の響きを感じ取って、平田は顔の赤らむ思いだった。
「それはそうと、さっき警察から連絡がありましたの。……主人の死因は事故による窒息死ですって。あのホテルの部屋はSMパーティーに良く使われていて、あの日も何人かの男女が出入りしていたそうよ。結局犯人は複数かも知れないし、プレイの最中のアクシデントという事で捜査は打ち切りになったんですって。……どうやら会社の方からも裏へ手を回してもみ消したらしいわ」
 あたりを気にして簡単な合槌にとどめる彼に対し、光子は一方的にしゃべりまくった。
「あのー……例のクラブとの関係は……警察では……」
「あら、そうだったわね。あなた、調べに行って下さったのね。それでどうでしたの?」
「い、いや……その話は又お会いした時にでも……」
「そうね。とにかく警察は何も気付いていないわよ。……じゃ、又お会いしましょう……それから、よかったら又私のパンティ差し上げてよ……フフフ、それも臭い付きのをね」
 光子の電話は彼の心を少し軽くしたものの、これから和美に毎晩なぶられるかと思うと、依然重苦しい気分が彼を包んでいた。
正午のチャイムがオフィスに流れると、まるでそれを待っていたかのように彼の机の電話が鳴った。
「平田課長だね。わたしはクラブドミナの和美の代理の者だがね、君の居るビルの向かいの喫茶店からかけてるんだ。待っているから、今すぐ来てくれたまえ」
 太い男のダミ声が、否応を言わせぬ調子で彼の耳を打った。喫茶店のドアを聞けると、ガランとしたフロアの奥のテーブルから見知らぬ男が手を上げて合図をした。
「初めまして。わしはこういう者です」
 男の出した名刺には、(昭和秘密探偵社主任山村隆三)とある。
皮のジャンパーを無造作に羽織った、四十がらみの一見ダンプの運転手といった風体だった。
「それじゃ、まあ、先ずこの写真を見て貰いましょうか」
 山村が取り出したのは想像通り昨日の和美との所謂(記念写真)である。
 それにしても、そこに撮られた幾つもの恥ずかしいポーズは、改めて平田の顔を赤らめさせるに十分だった。
和美の大きな尻に、そして黒く縁取られたクレバスに顔を半ば敷かれたもの、舌を大きく延ばして舐め奉仕中のもの、四つん這いで馬にされたり女の足を舐めたりしているもの、中でもベッドのマットレスの穴から首だけ出して和美の股間に顔を挟まれている光景は、彼にあの辛い屈辱の一夜をまざまざと想い出させた。
「まあ、これはあんたも覚悟して撮ったもんだからいいとして、相談したいのはこれから
後の事さ。……あんたには死んだ山田さんの後縦ぎをやって貰う」
 山村はパイプを取りだして火を点けると、じっと彼の顔を見つめた。
「実は山田さんはうちの探偵社のためにスパイをやってたんだ。……といっても別に給料
を取って仕事をしてた訳じゃないさ。自分の会社の機密を盗み出して我々に渡す。それを
我々はよそに高く売り付ける。それだけの事さ。……まあ言ってみれば一種の産業スパイ
かな」
「そ、そんな馬鹿な事が僕に出来るもんか! 会社の機密をよそに売るくらいなら死んだ方がましだ」
「ほほうー。中々御立派な事をおっしゃるじゃないか。そこでこの写真が物を言うって訳さ。これがバラ撒かれたら、君がそんな立派な男と思う人がいるかな? 女になぶられる変態男、誰でもそう思うさ。……それに山田さんの死亡に関係していると見る人も、当然
出て来るだろうしな」
「…………」
「まあ、悪い事は言わんから、諦めてわしの言う通りにするんだな。……じゃあ、この書類にサインしてくれ」
 山村が取り出した紙には、和文タイプで契約書と表書されている。中身は探偵社の依頼に従って東洋電子の機密事項を調査し提出するというもので、探偵社はこれに対価を支払うとあった。
「その対価とあるのはな、金じゃないんだ。山田さんの時は、クラブドミナでの費用一切を探偵社が持つ事にしてあった。……あそこのS女性は一時間で二万円も取るから結構物入りだったよ」
「で、でも僕は山田君とは違うんだ。金を払うどころか、金を貰ったってあんな所へ行くもんか!」
「ふん、きっとあんたはそう言うと思っていたよ。……でも和美に聞いた所では、あんたも素質は十分だそうじゃないか。あいつは一ヶ月であんたを山田さん以上のマゾ男にして見せるって言っていたぜ」
「それだけは、な、なんとか勘弁してくれ。……それじゃ、こうしよう。これから一ヶ月だけそのスパイ役を引き受けよう。……その代り和美の所へ行くのは許してくれ」
「うーん、そう言われると困るんだが、我々としては一ヶ月じゃなくって、半永久的にこの仕事をあんたにやって貰いたいし、あんたが和美の完全な奴隷に成ったら彼女の言う事は何でも聞く筈だ。……ところで和美の亭主はうちの探偵社の社員、つまり俺さ。だから気の毒だが、今夜からあそこへ行ってくれ」
 和美に夫があり、それがこの山村とは思いも掛けぬ事だった。
仕掛けられた罠が蜘蛛の糸のように幾重にも巻き付いている事を悟ると、平田もさすがに諦めざるを得なかった。
 がっくりうなだれ、目の前に突き付けられた書類にサインする。
「さあ、これでいい。じゃあ、今夜から和美にたっぷり仕込んで貰うんだな。……柔順なスパイになる為の教育といった所さ。ワハハッ」

それから一ヶ月が経った。それは彼にとって一年、いや数年にも相当する長い長い屈辱の日々だったのである。
会社を終えると、夕食もそこそこにクラブ「ドミナ」に直行する。
 第一回目のフロアショーが始まる八時までは客もまばらなので、女達は控室で思い思いに過ごしていた。
 そこはワンルーム式の大部屋になっていて、メーキャップ用の化粧台が並び、奥には壁添いに衣装掛けと下着頬の収納棚が設けられている。
窓際のコーナーにはソファが幾つか置かれ、そこで、くつろいでおしゃべりする者が多かった。
 女達はSMのプレイ要員が、六、七名、それにショーの踊り子が五、六名、給仕専門の子が三名といった所で、常時十名内外の女の子がたむろしていた。
 平田はこゝで閉店の十一時迄、女達の雑役夫としての勤務を命じられた。
 勿論、和美にこゝで思う存分なぶり者にされたのは言うまでもない。
 最初の内は、他の女達の見ている前で辱められるのが死ぬ程の辛さだった。
しかし間もなく女達にすっかり馬鹿にされ、和美のいない時には彼女等に代わる代わるいたぶられるようになり、その内、全員から奴隷扱いされる始末だった。
山田係長の時はプレイルームで週に二回程のプレイだったと聞かされたが、平田の場合はスパイ教育期間という事で探偵杜の方からも金が出ず、従って女達の奴隷として酷使される羽目になってしまった。
 女達の中でS役の者は和美を含めて三名だったが、他の者達、それもM役の女達ですら男に奉仕させられた鬱憤を晴らすかのように時間さえあれば彼をいじめ、辱めるのだった。
 四つん這いでの足舐めから、座布団代わりに顔を尻に敷かれたり、汚れたアヌスや局部を舌奉仕させられる毎日が続いたが、一週間目に、遂に和美に皆の前で顔面に跨がられた姿勢で小水を飲まされたのである。
 彼にとって生まれて初めての体験で、それこそ全身が震える程のショックだったが、何回も繰り返される内にその屈辱の味にも慣れ、以前にも増して彼女等の前での屈従の卑屈な態度が身に付くようになった。
 たまたまトイレが控室から遠かったため、女達の何人かが彼を便器代わりに使い始める迄そう長くはかからなかった。
「そこの豚、おしっこ飲みにおいでよ」
「ブーちゃん、トイレの御用よ」
女達は彼のことを豚のブー公と蔑みを込めて呼び、遠慮なく命令するようになった。
メーキャップ中の女は、彼が呼ばれて近ずくと手を休める事もせず黙って尻を上げる。
 仰向きになって後ろから顔を尻の下に滑り込ませ、手を延ばしてパンティをめくると、とたんに顔面を少しずらして、唇を排泄口に当てると同時に鼻からの呼吸を確保する。
 やがてチョロチョロと汚水が口に流れ込み、口腔から胃の腑を満たすが、一滴たりとも零す事は許されなかった。
 後を奇麗に吸い取って唇で清め、パンティを元に戻して顔を抜く。この間、女はせっせと化粧に余念がない。
「お小水、どうも有難うございました」
 和美に仕込まれた通り、お礼を言いながら床に額を擦り付けると、
「フフ、どうだい。豚の身分が判ったかい」
「お味を覚えるんだよ。この変態男!」
 といった嘲笑が浴びせられた。
 この時のぐっと込み上げる悔しさは、たとえようがなかった。
 一ヶ月の教育期間の終りには、和美が予言したように、彼は全く柔順な豚に成り下がっていた。
 女達の辱めが即、彼の喜びに通ずる、いわゆるマゾ男の境地には達していなかったが、少なくとも、女から与えられる屈辱が前程苦にならず、どんな恥ずかしい行為でも和美に命令されると諦めて従うようになっていた。

(続く)
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1985年4月スナイパー4,5月号
(スレイブ通信23号に部分掲載)
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2010/06/29