#38転落したエリート課長
阿部譲二作
アメリカの大手金融機関に買収されたR商事の課長が、会社に乗り込んできた外人の女性部長に虐められる。過去の業務責任を問われ、社内で見せしめのために生き恥を曝す罰を科せられ、降格されたうえに女性社員の奴隷にされる。毎日「私はたった今、部長のお尻の穴を舐めさせられました」と書いた板を首にかけ各課を回らされ、皆の笑いものにされる |
沈欝な雰囲気に包まれた、こゝR商事の大
会議室では、課長以上の幹部達が深刻な面持
で朝から延々と討議を続けている。
昼の休みを挟んで、それは、もう五時間に
もなろうとしていた。
昨日、突然にアメリカの有名な大手金融機
関が、当のR商事の買収を発表したのだから
無理もない。
文字通り寝耳に水のR商事の幹部達は、そ
のニュースが事実であることを知って、一種
のパニックに陥入っていた。
中規模の総合商社で、これ迄そこそこの業
績を上げていたR商事の株を、このところ資
金繰りに苦しんでいた大手株主の親銀行が、
アメリカの取引先にこっそり売り渡したのが
真相だった。
企業の買収や統合が、日常茶飯事のことと
して行なわれているアメリカと異り、日本の
企業では会社の乗っ取りはそう多くない。
しかも、外国の企業にテークオーバーされ
た例は稀だった。
従って、乗っ取られた側に、冷静な対応を
望むのは無理な相談である。
しかも悪いことに、すべてを取り仕切って
いたワンマン社長が、つい先日、交通事故で
急死したばかりで、社内の体制も固まってい
ない時期だった。
結局、会議は結論らしい結論を得ること無
く終り、幹部はもとより社員全体が不安な気
持のまゝ成行を見守るしかなかった。
それから約一ケ月後、臨時株主総会が開か
れ、これまでの重役は会長を筆頭に全て辞任
し、新しい役員が選任された。
勿論、R商事を買収したアメリカの金融会
社から送り込まれた連中が、経営権を握った
ことは言うまでもない。
次のステップは、新経営陣と組合との折衝
であった。
組合員の雇用と給与の維持を全面的に呑ん
で、組合の協力を取り付けた会社側は、続い
て社内部課長クラスの中間管理職の再編成に
手をつける。
その結果、六人の部長のポストは全て米人
が占めることになり、しかも、その内四人は
女性だった。
しかし実務の中心となる課長・主任のレベ
ルは、流石に日本人に委せざるを得ない。
そこで、米人の部長グループは、現職の課
長及び主任達全員との個別面接を開始した。
課長クラスで一人二時間、主任でも一時間
たっぷり掛けて、新経営陣に対して忠誠を尽
くすかどうか、現在のポストにふさわしい実
力と実績があるかどうか、徹底的に試される
のである。
その結果、反抗的な態度を示したり、過去
の成績がパッとしない者は、どんどん降格さ
れ、その反面、協力的で成績の良い者はどし
どし抜擢された。
そればかりではない。
これまでは、殆ど男性で占められていた課
長・主任のポストに大幅に女性が登用された
のである。
男女の差別をしない米国の企業風土を意識
的に持ち込んだともとれるし、六人中四人の
女性部長達が、女性管理職の登用を積極的に
バックアップしたともとれる結果だった。
もっとも、総合商社と言っても主力は繊維
と雑貨である。
日用品に強い女性向きの商品とも言えるの
で、女性管理職の方が人によっては男性より
適性を持っている可能性があった。
雑貨二課長の東山誠一は三十一歳、昨年抜
擢されて昇進したばかりの独身エリート課長
である。
一流大学を出て入社以来、さしたる業績も
無いのにトントン拍子で昇進したのは、先日
急死した社長の遠縁だったからというのが、
社内のもっぱらの噂だった。
それだけに、今度の乗っ取り事件には反発
も大きく、面接の時には退職覚悟でズバズバ
と歯にきぬ着せずに応答した。
その態度が反抗的と見られた様で、彼は数
日後、人事部に呼び出される。
そして、その場で雑貨二課長の職を免じら
れた上、明日から同じ課の平社員に降格の辞
令を渡された。
東山はかねて覚悟していたことでもあり、
早速、用意した辞職届けを叩き付けて退席し
する。
そして彼が帰り支度をしていると、秘書か
らの電話で、今回雑貨部長になったメリー・
ホプキンスの個室に、直ぐ来る様にとのこと
だった。
雑貨部長の個室は、執務室も兼ねていて、
広いスペースには絨緞が敷き詰められ、応接
セットやテレビも置かれている。
外の続き部屋には、これも新任の部長秘書
の永井敬子が控えていた。
先週迄は彼の部下だった永井敬子は、ツン
とした美人で、英語の出来るのを鼻に掛ける
生意気な所が東山の癇に障り、雑貨二課では
散々彼にしごかれた女である。
当然、東山には良い感情を持っている筈も
無く、彼に対する応対も無愛想を絵に描いた
態度だった。
ホプキンス部長の部屋のクッションの効い
たソファーに座って、このアメリカ育ちの女
性部長と向い合った東山は、彼女が意外に若
いのを発見して、いさゝか驚いていた。
面接の時には気付かなかったが、人を惹き
込む様な青い瞳と整った顔立、そして緩やか
にウエーブのかゝった金髪が魅力的である。
そう言えば、結婚して間がないとの噂だっ
たから、恐らく彼より年下であろう。
傍には永井敬子が座り、通訳を勤める。
気詰りな沈黙を破って先に口を切ったのは
ホプキンス部長の方だった。
「さっき人事部の方に辞職届けを出したそう
だけど、もし貴方が今回の降格辞令に不満で
会社を辞めるのなら、会社としては貴方を訴
える用意があります」
メリー・ホプキンスの深みのあるアルトを
永井敬子のソプラノが日本語に訳して伝える
と、内容までまるっきりトーンが変った感じ
を受ける。
「訴えるって……、まさか……。僕にだって
辞令を拒否したり、好きな時に会社を辞める
自由はある筈だ!」
「貴方が辞めることを訴えるのではなく、三
年前の貴方の背任行為を訴えるのです」
「三年前の背任ですって?」
「そうです。……今回の調査で判ったのです
が、三年前に貴方がイランへ出張してまとめ
た契約は、政府への所定の手続きもされてな
いし、社内でも正式に報告されていません。
……しかも、その後の戦乱で契約自体が無効
になり、会社としては莫大な損失を蒙ってい
ます」
「あっ、そ、それは、社長の命令で……」
東山は思わず口ごもった。
社長の密命で進めた契約が、その後の政変
と戦乱で不調に終ったのは、全く運が悪かっ
たとしか言いようがない。
先方の政府関係者への工作費や保証金等で
莫大な金が使われたが、全て回収不能になっ
ていた。
商談が不調になったこともあって、蔭で采
配を揮った社長の名前は最後まで表面に出ず
じまいで、取締役会にも報告されずに損金と
して処理されたのが実状である。
「記録を吟味した所では、カントリーリスク
の見通しを誤った貴方の責任なのは明らかで
す。……これが処罰の対象にならなかったの
は、貴方が社長の縁戚だったためと言う人が
ありますが、どうですか?」
「そ、それは違う! あれは、全て社長の指
示でやったことなんだ」
「その証拠は何処にあります?」
メリー・ホプキンス部長のたゝみかける様
な追求に、東山はぐっと詰まった。
社長が急死した以上、彼の話を裏付けてく
れる者は居ない。
東山は、すっかりしょげ返って黙り込んで
しまった。
「会社としては、貴方を背任で訴えて損害賠
償を求めても、貴方に返済能力が無い以上、
何の得にもなりません。……それより、他の
社員のみせしめとして、貴方が降格に甘んじ
ている姿を見せた方が意義があります」
「………………」
「今度の人事移動で降格された人達が、会社
を辞めて行くのは仕方がありませんが、職場
に残って不平分子になるのが困るのです。…
…だから、如何に会社の処分が厳しいものか
知らせるために、貴方が犠牲になって、職場
で生恥を曝して貰いたいのです」
「い、生恥って……」
「アメリカでは、仕事の失敗を罰する一番厳
しいやり方は、恥をかゝせることです。……
例えば、昨日までマネージャーだった人を降
格して受付に回します。そして馴染の客の前
に、その落ぶれた姿を曝させるのです」
「………………」
「日本でも人間の感情に変りはありません。
目の前で恥をかゝされている人を見れば、自
分はあんなになりたくない、との意識が強く
働く筈です。……ただ、日本ではアメリカと
違って、未だ男尊女卑の風潮が多少残ってい
ると聞いています。従って日本の男性に恥を
かゝせる最も効果的なやり方は、女性から辱
めを与えることでしょう。違います?」
「そ、それは、その通りですが……」
「雑貨二課はもともと女性が多い所ですが、
この際、男性社員は雑貨一課に移して女性だ
けの課にします。勿論、課長も主任も女性で
す。……だから、貴方の場合、自分が今まで
課長だった所で、ヒラに落されて働くだけで
なく、今迄部下だった女性達に顎で使われる
という二重の屈辱を味わう訳です」
「そ、そんな! それは勘弁して下さい」
東山が顔色を変えて嘆願するのを、ホプキ
ンス部長は冷たく無視して続けた。
「ですから、貴方の身分は、平社員の中でも
最も低いサーバントにします」
「な、何ですか? その、サーバントって言
うのは?」
東山が聞き返すと、通訳の永井敬子も充分
理解出来ないらしく、ホプキンス部長に色々
質問して確かめる。
やがて納得したと見えて、彼の方を向き直
った敬子の顔には蔑みの笑いが浮んでいた。
「サーバントって言うのはね、普通、召使い
とか従者と訳すんだけど、こゝでは少し違っ
た意味ね。昔アメリカの南部で黒人を使って
いた時に、その中でも最も身分の低い者のこ
とを言ったんですって。……会社の中では、
トイレ掃除をやらされたり、もっぱら雑用に
使われるの。それに、上司の命令に服従しな
い時は、罰を受けるのよ。ウフフッ……一般
に言う召使と区別したい時は、スレーブと言
うんですって」
「スレーブって……そ、それは奴隷のことじ
ゃないか!」
「そうよ、よくお判りね。……東山課長さん
も明日からは女性のスレーブとして生恥を曝
すことになるのね。クックックッ」
永井敬子の笑いを含んだ揶揄する様な言い
回しに、東山の頭は火の様に熱くなった。
二人の会話からスレーブの単語を聞き取っ
たホプキンス部長が、ニヤニヤしながら付け
加える。
「スレーブと言っても、別に鞭で叩くわけじ
ゃないから安心しなさい。罰は全て身体では
なく、心に痛みを与える方式を取るからね」
完全に打ちのめされ、蒼白な顔で部長室を
出た東山は、人事部へ寄って先程提出した辞
職願いを返して貰うと同時に、改めて降格辞
令に従う旨を伝え、その足で会社を出た。
会社側から訴えると脅されて、簡単に辞表
を引っ込めた自分の不甲斐無さに腹が立ち、
むしゃくしゃする気持を酒に紛らわすため、
行きつけの飲み屋へ直行したが、未だ陽が高
く閉まっている。
止むなく盛り場をうろつき、深夜まではし
ご酒を重ねた。
翌朝、寝過した上、二日酔でガンガンする
頭を抑え、やっとの思いで出勤する。
始業時間から一時間余も遅刻であった。
どうせ今日から課長を首になるんだ。慌て
て引き継ぎをやらなくたって、待たせておけ
ばいゝさ
内心の不安を抑える様に自分に言い聞かせ
て会社のビルに入った。
何時も愛想良く会釈する顔馴染みの受付の
女の子が、今朝は冷たい視線を投げ掛けるだ
けでニコリともしない。
畜生、俺が降格されたことを知ってるんだ
な。現金な奴め!
心の中で罵りながら、雑貨二課のドアを開
けて足を踏み入れる。途端に、課長席の前に
集まってミーティング中の全員の視線を浴び
て、思わず立ち止まった。
「こっちへ来なさい。皆の前で言っとくこと
があるから」
昨日まで東山が座っていた課長席に収まっ
た工藤俊江が声を掛けた。
昨日までは主任の末席で、彼の前で平身低
頭していた女である。
年は彼のひとつ下の三十歳だが、丸顔で太
目の、どこといって特色の無いオールドミス
だった。
「今日から、お前は平社員、それもこの課で
一番最低の身分に落とされたんだからね。…
…まず、言葉を改めて皆に敬語を使うこと。
……皆もいゝわね。こいつのことはお前
って呼び掛ければいゝし、名前を呼ぶ時は、
勿論呼捨てよ。……いいえ、一寸待って……
そう、東山の東をとってトン≠ノしましょ
う。……ソラ、麻雀であるでしょう。東西南
北を、トンナンシャペーと読ますじゃない。
トンは豚のトンにも通じるし、こいつのニッ
クネームにふさわしいわ」
工藤俊江は、ニヤニヤ笑いながら、思い入
れたっぷりに一同を見回した。
昨日まで部下だった女に、お前呼ばわりさ
れ、しかも屈辱的なニックネームまで付けら
れて、東山は血が逆流する様な思いである。
一方、女達はお互いに顔を見合わせてザワ
ザワと私語する。
前の方に陣どった昨年入社したばかりの若
い女子社員が、一同を代表する様に訴えた。
「課長、それは一寸無理ですわ。……だって
昨日まで課長さんって呼んでいた男の人を、
いくら降格されたからと言って、今日の今か
ら手の平を返した様にお前≠ニかトン
なんて呼ぶなんて、抵抗がありますわ」
そうだわ、そうだわ≠ニ一同の中を同感
の囁きが走った。
「いゝわ、判りました。……要するに、皆の
中に未だ、東山課長のイメージが残っている
のが原因よ。……私がこれからそのイメージ
を壊して、皆がこの男を軽蔑する様に仕向け
て上げる。……そうすれば抵抗無く、お前と
呼べるわよ」
工藤俊江は、後ろの方でどうなることかと
心細げに成り行きを見守っていた東山の方に
向かって、顎をしゃくった。
「トン、こゝへおいで。……そう、私の机の
横に立って皆の方を見るのよ。……さーて、
お前はこゝで私の罰を受けるのよ」
「ば、罰って……一体、何の罰ですか?」
意表を衝かれて、東山はうろたえる。
「そーお、何の為に罰を受けるのかも判らな
いらしいわね。……それじゃ、罰をもっと重
くしなくっちゃね」
「………………」
「馬鹿ね! お前、今朝は何時に出勤して来
たと思ってるの。一時間以上も遅刻してるの
よ。……もっとも、勤怠上、遅刻は三十分ま
でしか認めてないから、無断欠勤と言った方
が良いかしらね。……さあ、身に泌みて判る
様に、たっぷり罰を与えてあげるわよ」
俊江はニンマリと笑みを浮かべる。
東山の胸にヒヤリと冷たいものが走った。
「体罰は部長に禁止されてるから、鞭で打つ
ことは出来ないけど、私の言うことに少しで
も反抗してごらん。直ちに背任罪でブタ箱行
きだからね。……判ってるわね」
「………………」
「じゃあ、そこで着物を脱いで、パンツひと
つになるのよ。そして、犬の様に四つ這いに
なってごらん」
俊江の残酷な命令が、キリの様に彼の耳に
突き刺さる。
屈辱に身をブルブル震わせながら、女達の
前で衣服を取り、言われた様に床に四つ這い
になった。
「顔を上げて! 皆にお前の情けない姿を、
良く見て貰うのよ。……さあ、それじゃあ、
三べん回ってワンと言って御覧。それから、
チンチンするのよ」
目が眩む様な恥ずかしさをこらえながら、
半ばやけ気味に、のそのそと四つ這いで円を
描く。その姿に女達の中に、クスクス笑いが
広がった。
彼が両手首を垂らして膝立ちになり、チン
チンの犬真似をすると、その珍妙さに爆笑が
起る。
「クックックッ、お似合だよ。お前はきっと
犬の生れ変りだったんだねぇ。……さあ、次
は足元に来て、私の靴をお舐め!」
屈辱に顔を真っ赤に火照らせながら、東山
は俊江のスカートの下に身を屈して、その黒
いハイヒールに舌を這わせる。
「馬鹿! 靴が唾で汚れるじゃないか。……
そこじゃないよ。……ウ、ラ、そう、靴の裏
を舐めるんだよ。……ソラ、舐め易くしてや
るよ」
俊江は片足を上げると、靴の底を男の顔に
押し着けた。
鼻がひしゃげ、唇に舌に、ザラザラした汚
れた靴の裏が触れる。
不潔感を必死で抑えて、そこに舌を這わせ
ると、苦味が口中に広がった。
ワーッと、女達のざわめきが耳に入って、
彼の屈辱感が増幅される。
「こんどは、こっちよ!」
足が組み替えられ、もう一方の靴底が彼の
唇を捉えた。
たっぷり時間を掛けて舐めさせた後、俊江
の次の命令が飛ぶ。
「さあ、今度は、うちの課の全員の靴の裏を
舐めるんだよ。……それも、一人一人の足元
に這いつくばって、お前の方から、どうか、
舐めさせて下さいってお願いしてね」
俊江は、残忍な笑みを唇に浮かべて命令す
ると、課員一同にも念を押した。
「いゝこと、皆も協力するのよ。男に靴の裏
を舐めさせたって、どうってことないわよ。
……ブタにお臍を舐められるよりましよ」
女の子の中でドッと笑いが渦巻く。
これで一同の緊張が解けたとみえて、東山
が床を這って女の子達の足元に顔を近付ける
と、ホラッとばかり、女のハイヒールが次々
に差し延べられた。
「いやだぁ。キャーッ、汚ないわ!」
「本当に舐めてるぅー。まるで犬みたい!」
「頭がおかしいんじゃない? こいつぅ」
女の子達の嬌声が、あちこちで上がる。
そこでは、昨日までの自分達の課長に対す
る感情はどこかに消え、犬の様に自分達女の
靴底を舐める男に対する、驚きと軽蔑が渦巻
いていた。
大胆になった女達は、今や積極的に彼の顔
に靴底を押し着ける。
中には、面白がって、尖ったヒールを彼の
口中に押し込む女さえいた。
全員の靴を舐め終えた東山は、みじめに汚
れた顔で、俊江の足元に戻る。
「どおお? これで、この男を気兼ね無く、
トンとかお前とか呼べるでしょう?」
工藤俊江は得意満面である。
「最後にダメ押しをするわ。一寸、皆、目を
瞑っていてね」
俊江は、机の蔭に屈むと、自分の股間に手
を差し入れて何やらゴソゴソする。
やがて立ち上がると、片手で握った糸の先
にぶら下がる赤い塊りを皆に示した。
「これ、何か判る? 私の生理で汚れたタン
ポンよ。……フフッ、これをこの男に吸わせ
てやるの。……ホラ、口を大きく開けて!」
俊江は、流石に動転する男の髪を手で掴む
と、ぐいと顔を上向かせる。
鼻を摘んで無理矢理口を開かせ、手にした
糸の端に下がる汚れたタンポンを、その中に
投げ入れた。
たっぷり経血を吸って赤く膨らんだ綿の塊
りが、彼の目の前で自分の口に押し込まれ、
塩辛い汚物の味が咽喉を焼く。
ワーッと悲鳴に似た、高音の混った女達の
歓声が、彼の耳を打った。
「不潔だわぁ。……汚ない奴ねぇー」
「ブタにも劣る男ね。こいつが課長だったな
んて、恥ずかしいわ」
「あんなものを口に出来るなんて……まとも
な人間じゃないわ。……そうだわ。トイレの
掃除が似合の男よ」
刺激的な情景を目のあたりにした女達の中
から、幾つか興奮した声が洩れる。
「ホラ、聞いたかい? みんな、お前を軽蔑
してるんだよ。……勿論私もさ。ソレ、この
通りだよ」
俊江は、タンポンを口に含んで茫然として
いる東山に顔を寄せると、口をすぼめ、ペッ
と唾を彼の顔面に吐き掛ける。
屈辱に歪む男の顔をジーッと見詰め、ニヤ
ニヤしながら、口を揉む様にして唾をたっぷ
り溜めると、再びペッと吐き付けた。
横から、女子社員が二、三人、身を乗り出
す様にして、これにならう。
みるみる東山の顔は、女達の唾で覆われて
行き、その粘っこい唾液は、照明の光の中で
キラキラ光りながら、ツーっとその首筋まで
垂れて行った。
「ホラ、その情け無い顔を皆に見て貰うとい
いよ。……そして、うんとうんと馬鹿にして
貰うんだね」
その瞬間から、彼は、女達の軽蔑を一身に
集める立場になったのである。
課の中で彼一人だけは机が無く、用の無い
時は戸口の傍に立っている様に言われた。
当然、絶えず、課員のみならず、出入する
社員の視線を浴ることになる。
宿題を忘れた小学生よろしく、直立不動で
立たされている彼を見る女達の目には、明ら
かに侮蔑の色が浮んでいた。
「トン、この書類を直ぐコピーしといで!」
「これを、総務課に届けるんだよ。ホラァ、
ボヤボヤしないで、直ぐお行き!」
女子社員達は、次第に彼を小間使いの様に
雑用にこき使う様になる。
それも、会社の仕事だけでなく、明らかな
私用にも使われた。
「お前、私、肩がこるの。……一寸、揉んで
おくれ」
「雨で靴が汚れたわ。トン、お前こゝへ来て
奇麗にしなさい。……馬鹿! そこに立って
ちゃ出来ないでしょう。机の下に這い込むの
よ。……そうそう、ウフッ、何てみじめな格
好だこと!」
「トン、会社の前の洋品屋へ行って、アンネ
のタンポン買っておいで。……ソラ、お前が
先だって工藤俊江課長にしゃぶらされたのと
同じのでいゝわ。……クックックッ、お前っ
たら顔を赤くして。……よっぽど、恥ずかし
かったのね」
集団心理と言うものは面白いものである。
先日まで自分達の課長だった男が、今や身
分の低いヒラ社員として自分達の思いのまゝ
になる……その優越感が余裕となり、興味半
分に男の反応を試したくなるのだった。
そして、弱者をいじめ、いたぶる女性特有
の残酷さが、集団の中では大っぴらに公認さ
れる。
いや、むしろ、皆のやることに自分も遅れ
まいとして、先を争う様になるのだった。
工藤俊江課長が東山に与えた仕事は、女子
社員の雑用だけではなかった。
課の全員に対する日に三度のお茶汲みと、
女子トイレの清掃が、彼に義務付けられた。
「馬鹿ぁ、それ私のお茶入れじゃないでしょ
う。……何度言ったら判るのよ。間抜け!」
「お茶がぬるいわよ。……皆の分もやり直し
なさい! お茶汲みさえ満足に出来ない能無
しだから、課長をクビになったのね」
先日まで部下として使っていた若い女子社
員達に叱られ、罵倒される。
余りの無念さに、口惜し涙が目ににじむこ
とも度々だった。
それを目敏く見付けた女達は、面白がって
それを種に彼を嬲る。
「アラアラ、お前、泣いてるのね。男のくせ
に本当に意気地がないわね。どおお? もっ
と泣かせてやろうか?……ホラ、この前みた
いに靴の裏を舐めるかい? フフフッ」
一方、東山にとって更に辛い仕事は、女子
トイレの清掃だった。
そこには、当然ながら他の課の女子社員も
用を足しに来る。
その前で面白半分言い掛かりを付けられ、
ののしられ、衆人に恥を曝すのは身を切られ
るほど辛かった。
軽蔑の輪が次第に他の課に、そして会社全
体に広がって行く。
数日の内に彼は、受付の総務課の女の子に
までお前≠ニ呼ばれる様になっていた。
転落の一週間が過ぎ、彼は部長のメリー・
ホプキンスに呼ばれ、彼女の前にかしこまっ
ていた。
通訳を勤める秘書の永井敬子が、傍に控え
ているのは勿論のことである。
東山の態度は、一週間前と別人の様に変っ
てしまっていた。
身体を固くして、オドオドした態度で相手
の顔色を窺いながら返事をする。
それも、最大級の敬語を使ってであった。
メリー・ホプキンスは、そんな彼の様子を
満足そうに眺めながら、いかにも高慢な態度
で言葉を続ける。
永井敬子の訳す言葉も、それに合わせて、
ぞんざいな表現になっていった。
「そおお、みんなに靴の裏を舐めさせられた
の。……それで、工藤俊江課長のタンポンの
味は未だ覚えているかい?」
「は、はい。身に泌みております」
「それで、お前も漸くふっ切れたんだね。…
…やっぱり、転落した身分を認識するには、
その位のことが必要なのね。……ところで、
お前、こんどは私との身分の隔たりを実感す
る必要があるわね」
「………………?」
「判らないのかい? うわべだけでなく、心
底から私に屈従する様になるには、私の辱め
を、それも繰返し受ける必要があるって言う
こと。……お前が、この一週間体験した様に
ね」
「じ、じゃあ、貴女も、私に靴の底を舐めろ
と……」
「靴の底じゃ二番せんじで面白くないわ。…
…アメリカで人に与える最大の侮辱の言葉は
ね、キス・マイ・アスホール!≠ネのよ」
もうひとつピンと来ていない東山の様子を
見て、通訳の永井敬子は軽蔑に唇を歪めなが
ら、さらに解説を付け加える。
「アスホールって言うのはね、肛門のこと。
普通はアヌスとかエイヌスとか言うし、その
形容詞がアナルなんだけど、アスホールはそ
の俗称で略してアスとも言うわ。……感じの
出た訳はケツの穴≠チて所かしら」
「で、でも、まさか……本当には……」
「それが、本当なの。ホプキンス部長は、本
気でお前に、自分のアスホールにキスさせる
つもりよ」
狼狽の色を見せる東山の顔を見やりながら
永井敬子は冷たく答えた。
自分の意図が伝わったのを察したメリー・
ホプキンスは、スッと立ち上ると彼に向かっ
て顎をしゃくり、否応言わせぬ厳しい態度で
ソファーの横の絨緞の上を指す。
そこへ仰向けに寝ろとの意思表示だった。
女が心持ち足を開いて立つと、その豊満な
腰のスカートがふわりと膨らむ。
薄い紫のワンピースに紺のベルトがきりっ
としたアクセントになっていた。
永井敬子に促されて、オズオズと床に寝た
東山の唇は、極度の緊張と屈辱にワナワナと
震えている。
彼の頭の方を向いてその首を跨いだメリー
・ホプキンスは、上からジーッと男の顔を見
下ろした。
長めのスカートの裾が彼の顔の上で揺れ、
白いパンティーに包まれた股間が、たくまし
い円柱の付根に見え隠れする。
やがて、彼女はゆっくりと男の顔の上に腰
を下ろした。
すっぽりと彼の顔を包んだスカートの内部
で、薄明りに浮ぶ外人女の圧倒的なボリュー
ムのヒップが、彼の顔面めがけてじわじわと
落下し、やがてぴったりと鼻と口とを覆う。
ムーッと生臭い気の遠くなる様な異臭が、
女のパンティー越しに彼の鼻から侵入して、
その脳を痺れさせた。
「ファースト、スメル!(先ず、臭いをお嗅
ぎ!)」
永井敬子の通訳を介して、メリー・ホプキ
ンスの叱咤が彼の耳に届くが、その命令に従
うまでもなく東山の圧迫された呼吸は、その
臭気を何回も胸一杯吸い込んでいた。
頭がクラクラする程の恥ずかしさとみじめ
さに、思わず涙が滲む。
「オーケイ。……ナウ、ユー・メイ・キス・
マイ・アスホール(それでいゝわ。……今度
は、お前に私の肛門へのキスを許すわ)」
彼女は心持尻を浮かすと、彼の顎を擦る様
にして、尻の方からパンティーをずらし、そ
のじっとり湿った尻割れを露出させた。
太腿に絡むパンティーの上縁部からはみ出
した陰毛が、東山の鼻から額をくすぐる。
両手で尻丘を押し開く様にしながら、彼女
は茶色の蕾を男の唇にじわりと押し付けた。
括約筋に力を込めると、彼の唇の上で蕾が
開き、糞滓に塗れたピンク色の粘膜が外側に
はじける。
それは女の口唇に似て、ねっとりと彼の唇
に貼り付いた。
ただ、甘いセクシーな唾液と異なり、女の
ゆっくりした尻の揺れに伴なって、苦い排泄
物の糊が彼の口中に擦り込まれる。
「ヘイ! リック・イット……リック・マイ
アスホール!(そこをお舐め……お尻の穴を
舐めるんだよ!)」
彼は反射的に慌てゝ舌を出すと、彼の唇の
上でぐっと重みを増して圧迫してくる粘膜を
懸命に舐めた。
渋味のある苦さが口中に広がり、無念さが
胸一杯に込み上げる。
女はぐっと体重を彼の顔面に預け、完膚無
いまで男の唇と舌を蹂躙し、征服した。
十分も経ったであろうか。
東山にとって、一時間にも相当する、長い
屈辱の経験であった。
漸く尻を上げたメリー・ホプキンスの勝ち
誇った顔をかい間見ながら身を起し、惨めな
気持でスゴスゴと部屋を出た東山は、永井敬
子に呼ばれて立ち止まる。
「一寸待って! これを首に掛けて、皆の所
を回りなさい。……ウフッ、うんと軽蔑され
るわよ」
彼女は、四角く切った大きなベニヤ板の両
端に紐を付け、彼の首に掛ける。
「自分で読んでごらんなさい。……どおお?
傑作でしょう?」
東山の胸一杯に広がるその板の表面には、
紙が貼られ、太いマジックペンで大きく字が
書かれている。それは、
私はたった今、メリー・ホプキンス部長に
お尻の穴を舐めさせられました
と読めた。
「いゝこと。社内の全部の課を回って、その
文章を皆に見てもらうのよ。そして、たっぷ
り生恥をかいてらっしゃい!……あ、それか
らね。お前はこれから毎朝、こゝへ来て部長
に今のキスを繰り返すのよ。その後で、必ず
その板を首に掛けて皆の所を回ること。……
いゝわね!」
永井敬子の残酷な宣言に、ショックを受け
た東山の顔が歪む。
しかし、女達に連日嬲り抜かれた彼には、
最早、反抗する気力も残っていなかった。
よろめく足を踏みしめながら、隣りの課の
通路を歩く。
途端に、女の子達から反響があった。
「ちょっと、ちょっと。あれ見て!」
「雑貨二課のトンじゃないの。どうしたの?
首に板なんか掛けて。……なになに、お前、
部長のお尻舐めたんですって? プーッ」
「一寸、顔を良く見せて御覧。……ヘーッ、
お前、良く平気で恥を曝せるわね」
「そう言えば、お前の顔、臭いわよ。トイレ
の臭いがするわ。……クックックッ、部長の
お尻の臭いが泌み込んだのね、きっと」
素っ頓狂な声を上げる者、思わず噴き出す
者、軽蔑の言葉を掛ける者、そして嘲笑を浴
びせる者……それぞれ反応は異なるものゝ、
彼が皆に軽蔑され、笑いものにされたことは
確かだった。
翌日から毎朝、日課の様に板を首に掛けて
各課を回る東山の姿があった。
勿論、メリー・ホプキンス部長からは、朝
一番に尻に敷かれるのである。
朝のトイレを済ませた後の尻臭は、鼻が曲
る程強烈だったし、彼の舌に備えて、わざと
よく拭いてない局所には、いつもねっとりと
した糊が付着していて、彼を悲哀の極に駈り
立てたのだった。
一ケ月が過ぎる頃には、女子社員達の東山
に対する態度には、あけすけの蔑みと侮りが
日常のものとなって来る。
「トン! そんなところでボンヤリしてない
で、こゝへ来て私達の椅子になりなさい」
昼休みの屋上で、ラケットボールに興ずる
女子社員達を眺めていた東山にコートサイド
の観戦組から声が掛かる。
言われるまゝに、彼女等の足元で四つ這い
になった彼の背に、女達が肩を組みながら腰
を掛けた。
暫くすると女達の体重が、四つ這いの姿勢
を支える彼の両腕に、じわじわと痺れに似た
苦痛を引き起す。
遂に耐え切れなくなって、頭から崩れ、地
面にへたった。
「危ないじゃないの! いゝわ、初めから腹
這いに地面に寝なさい」
長々と地面にうつ伏せになった男の身体の
上に、女達は次々と腰を下す。
「さあ、交替よ。……アラッ、トンったら皆
の座布団にされてるのね! ウフッ」
今までプレイに興じていた、永井敬子の声
である。
「面白いこと、して上げるわ。……みんな、
トンを裏返すのよ」
アッと言う間に、彼は仰向けに転がされ、
背中の代りに今度は、胸や腹の上に女の尻が
乗せられる。
「いゝこと。こいつはね、毎朝アメリカ女性
の部長にこうされてるのよ」
中天の陽を遮って敬子のスカートが彼の頭
を覆い、暗転した視界にピンクのパンティー
に包まれた女の股間が落下して来た。
「キャーッ、傑作!」
黄色い声が、敬子の尻に顔面を敷かれた東
山の耳に届く。
メリー程の重圧は無いものゝ、今しがたま
でラケットで球を追っていた敬子の股間は、
汗で臭気が燻蒸され、パンティー越しとは言
え、耐え難い匂いである。
多数の女子社員の面前での、この辱めに、
彼の頭にはカーッと血が上った。
「部長はね。この後パンティーを脱いで、じ
かに跨がるの。……こいつったら、アヌスの
汚れをペロペロ舐めるのよ。いやらしいった
らないわ!」
敬子が吐き出す様に説明する。
「ネ、ネエ。永井さんも、部長の様に舐めさ
せたら?」
「ウフッ、それも面白そうね。……でも、今
朝部長の汚れを吸った口ですもの。私のお尻
が穢れるわ。……暫く、このまゝで観戦よ」
屋上のコンクリートの固さで後頭部が痛い
が、それ以上に、人間性を無視されて傷付い
た彼の心がキリキリと痛んだ。
そして、こうした事件も、早速、女子社員
の間の噂となって広がり、皆の彼への軽蔑を
ますます深めて行った。
或る朝、何時もの様にメリー・ホプキンス
部長の部屋へ赴いた彼は、秘書の永井敬子に
部長が米国に長期出張と聞かされ、ホッとし
て踵を返した。
その背に敬子の呼び止める声が掛かる。
「トン。……ねーえ、私、お前に帰っていゝ
と言ったかしら?」
その声に、底意地の悪い、鼠を嬲る猫の陰
湿さを感じ取って、東山の背筋にゾクッと冷
たいものが走る。
「部長はね、私にちゃんと指示を残して行っ
たのよ。……出張の間は、ずーっと私が部長
の代りを勤める様にってね」
「と……と言うことは……」
「そう、部長がお前にしていることを、私が
代りにするの。……どおお? 判った?」
永井敬子の表情には、嘲笑と、密かな楽し
みに酔う女の満足感がミックスされていた。
「それは……でも、……部長に直接聞いてみ
ないと……」
東山にしてみれば、精一杯の抵抗である。
「こゝにインストラクション・シートつまり
命令書があるわ。英語だけど、コピーを上げ
るから後で辞書を引いて読んで御覧なさい。
納得が行くわよ」
敬子は、部長のサイン入りの書類を手にか
ざして見せる。
思わずウウッと呻き声に似た悲鳴が、彼の
咽喉から洩れた。
先日まで部下だったこの小生意気な女に、
これから毎朝辱められるかと思うと、腹の中
が煮えくり返る思いである。
「さあ、部長室に入りなさい。……皆の前で
舐めさせないだけ、情けを掛けてるのよ」
先に立って部屋に入る敬子のぽってりした
厚みのある尻が、急に、彼の目に威圧感を帯
びて写り、先日、屋上でそれに敷かれた感触
が蘇って来る。
敬子は、部屋の隅にあるテレビのスイッチ
を入れると、その前に彼を招いた。
頭をテレビに向けて仰向けに寝かされた彼
の顔に、敬子は無造作に跨がって座る。
彼の顔を尻に敷いたまゝ、テレビを楽しも
うというのだった。
たっぷり時間を掛けて尻臭を嗅がせた後、
パンティーを脱いで再び彼の顔に跨がる。
「しっかりお舐め! 私、アヌスにも性感帯
があるらしいの。だから、お前の舌を楽しみ
にしてたのよ。……うんと時間を掛けて上げ
るわ。フッフッフッ」
無念さに目を熱くして、汚れた粘膜に舌を
這わす彼に、敬子は、さらに勝誇って話し掛
ける。
「私ね、このあいだまで、エリート課長だっ
たお前に散々いじめられたのよ。そのことは
決して忘れないわ。……今度は、私がお前を
いじめる番。そしてお前は毎日私に泣かされ
る身分に転落したのよ。……クックックッ、
いゝ気味だこと!」
「………………」
「さあ、この辺で次のインストラクションを
実行するわ」
「………………?」
「部長の指示にはね、追加があるの。……聞
きたい? それはね、部長が出張の間に、お
前をもっと卑しめておくようにって。その方
法も書いてあるわ。……フフッ、それはね、
お前が女のオシッコを飲める様に仕込むって
こと。判る? ホラ!」
敬子は、尻を揺すって彼の注意を促す。
東山の顔がグラグラ揺れ、思いも掛けない
敬子の言葉に動転して洩らした悲鳴が、くぐ
もった呻きとなって途切れ途切れに出る。
「サー、お前も諦めなさい。……大きく口を
開けて! そうそう、それでいゝわ。……零
さない様に全部飲むのよ!」
まるで催眠術に掛かった様に、敬子の言い
なりになった彼の口中に、チョロチョロと汚
水が注がれる。
ゴクリと咽喉が鳴り、飲み込むと同時に、
生臭い臭気が鼻を刺し、無念さと情け無さが
彼の胸を掻きむしった。
「いゝわよぉ……私のが終ったら、工藤俊江
課長や、雑貨二課の女子社員のも飲むのよ。
……お前の役目は、これから女性用共同便器
になり切ること。本当にみじめだわね。……
おかしいわぁ。クックックッ」
敬子の嘲笑が耳を圧し、彼の心を深い深い
転落の淵に沈めて行くのだった。
(完)
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1989年9月スピリッツ9,10月号
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2010/06/08