#26転落した人質(尻嗅ぎ発情ドッグ)
阿部譲二作
付き合っていた女を袖にして会社経営者の娘との結婚に漕ぎ着けた男が、結婚式の会場から女に雇われた男達に誘拐され、SMクラブの檻に監禁される。男は女達に顔を敷かれ尻臭を嗅がされながらバイブで射精させられ、尻臭を嗅ぐと射精する条件反射が身に付く。三年後、別の男と結婚した経営者の娘の前に引き出されセックス奴隷兼便器に落とされる。 |
桜の花の蕾が漸くゆるみ始めた三月初旬、
おりしも大安吉日とあって、夕刻のローヤル
プラザホテルのロビーは、結婚披露宴の客で
ごったがえしている。東京から私鉄で約一時
間の距離にある小さな地方都市にしては、分
不相応とも思える豪華なホテルだった。
ホテル内に設けられた結婚式場は、三十分
きざみに次々と、新しいカップルとその親族
達を飲み込んで行く。
このホテルで最も格式の高い鳳凰の間は、
この地方の旧家である山城家の長女、雅子の
結婚披露宴会場に当てられ、準備がたけなわ
だった。
新郎は、このたび山城家に婿養子として迎
えられることになった荒木研一。……山城家
の当主、山城栄蔵の経営する科学肥料会社、
山城工業の営業部に籍を置く社員である。
幼い頃、両親を亡くし、叔父夫妻に育てら
れた研一にとって、披露宴に招く親族、友人
は、ほとんどひとにぎりしか無かった。
一方、山城家は親族も多く、披露宴への招
待客もこの地方の名士を網羅していると言っ
てよかった。
掲示の札には、荒木家、山城家と並べて書
かれてあっても、両家の間の格差は歴然とし
ていたのである。
「荒木家の皆さん、あと三十分したら式が始
まりますから、必ず五分前には式場に入って
下さい」
ホテルの係員が控室へ連絡に来た。
この式のために、遠い郷里からはるばる出て
来た叔父夫婦と話し込んでいた研一は、それ
をしおに手洗いに立った。
貸衣装のタキシードの身繕いを正し、髪に
櫛を入れる。鏡には二十八才の端正な彫りの
深いマスクが、やゝ緊張した固い表情で写っ
ていた。
思えば、短い様で長いこの四年間だった。
地方大学を卒業して山城工業に就職し、営業
部員として実績を積む一方、山城家の一人娘
雅子の心を掴むため、彼はあらゆる努力を払
った。
富と権力に対して、異常に強いあこがれと
夢を持つのは、彼のような境遇の青年として
当然だったが、研一はそれ以上に、入社早々
出合った雅子の輝くばかりの美貌と、その男
まさりの気丈さ、聡明さにすっかり魅せられ
てしまったのである。
もちろん、競争相手も多かったし、山城家
の所有する会社の一従業員で、何のバックも
持たぬ彼と、山城家の令嬢との身分の差は、
想像できぬほど大きい。
たまたま、彼と同じ営業部にいる川本美智
子が山城家に住み込みの女中の娘で、毎日、
同家から通勤していること、そして、つい先
頃まで彼女自身も女中として雅子の身の回り
の世話をしていたことを知ると、さっそく、
彼女に接近を計った。
まさに将を射んとすれば馬を射よのたとえ
である。美智子を映画やダンスに誘って親密
になると、いつしか、狙い通り山城家の内情
について、彼女から色々聞き出すことができ
るようになった。
美智子は、もちろん、雅子とは較ぶべくも
ないが、十人並の器量だったし、高校でバレ
ーの選手をしていたと言うだけあって、大柄
の、がっちりした体格のグラマーである。
安月給でセックスの処理もまゝならぬ研一
が、美智子と身体の関係を持つようになるの
に、そう時間はかゝらなかった。
そして、彼女が研一との結婚の夢を抱くよ
うになったのも、当然の成行だった。
しかし、研一にとって、初めから美智子は
結婚の対象と考えていない。何かと口先で適
当にあしらう状態が続いていた。
この美智子から、山城雅子がクラブでテニ
スを初めたと聞いたのは、美智子と交際を始
めて一年目のことである。彼は早速、貯金を
はたいて同じテニスクラブに入会した。
テニスにかけては、彼は大学時代テニス部
の主将をつとめた程の腕前である。そのうち
雅子とクラブで顔を合わせる機会をとらえ、
テニスをコーチする名目で、とうとう彼女に
接近することに成功したのだった。
中肉中背ながら、雅子の身体は、豊かな胸
に続く腰のくびれで張りのある大きなヒップ
が強調され、見事なプロポーションである。
白球を追って躍動する彼女のグラマラスな
姿態と、あでやかな美貌は、研一を悩殺する
に充分だった。
荒木研一の方も、容姿には自信がある。
女好きのするマスクに、しなやかな長身、
そしてスポーツで鍛えた厚い胸は、健康その
もので周囲に爽かな印象を与えた。
もちろん、美智子から仕入れた知識はフル
に活用した。例えば、雅子の愛読書を美智子
から聞き出して研究し、なにくわぬ顔で自分
の好きな本として披露する。
テレビ番組や映画の好みも、雅子に合わせ
て共通の話題作りに努力した。
その結果、研一は、親切にテニスのコーチ
をしてくれるだけでなく、話の合う好ましい
青年として、雅子の心の中に次第に食い入っ
て行った。
そして、とうとう、彼のプロポーズを雅子
が受け入れ、いや、そればかりか彼女自身が
渋る父親を説得して、二人の結婚を実現する
段階に漕ぎつけたのである。
男親の常として、山城栄蔵も娘の懇願には
弱い。しかも数年前妻に先立たれ、目に入れ
ても痛くない程可愛がっている娘が、目に涙
を溜めて訴える願いを、突っぱね通す勇気は
栄蔵にはとうてい無かった。 それに、永年
の持病である心臓病が最近とみに悪化してき
て、ことごとに弱気になり勝ちだった。
父親として栄蔵が望んでいたのは、山城家
にふさわしい名門から婿を取ることである。
その点、彼が目をかけていたのは、荒木研
一と同期入社の樋口光男だったのである。
旧家の出で、一流大学卒の秀才ではあった
が、いつも自分の知識を鼻に掛ける樋口光男
を、研一は徹底的に嫌い、軽蔑していた。
職場が同じ営業部で、お互いに成績を競い
合っていたことも、研一の彼に対する敵愾心
をいっそう高めていた。
そのうち、雅子を争う二人のライバルとし
ての反目が次第にエスカレートして、二人は
お互いに憎み合う様になる。そして、樋口光
男のスポーツ嫌いが、最終的に雅子の心を荒
木研一に傾ける決定打となった。
もちろん、川本美智子の情報が無かったら
研一は樋口光男と争う土俵にすら上れなかっ
たに違いない。
いっぽう、研一と雅子の婚約が発表され、
自分が利用されていたに過ぎなかったことに
気付いた美智子は、当然のことながら歯ぎし
りして悔しがり、激しく研一をなじった。
しかし、彼女が主筋に当たる雅子に正面切
って抗議できる筈がない。………それが研一
の計算でもあった。
「覚えてらっしゃい! そのうち必ず仕返し
して上げるから」
真っ赤に泣き腫らした目で、研一を睨みな
がらヒステリックに叫ぶ美智子を、冷たく突
放しながらも、その姿が何故か研一の脳裏を
暫く離れなかった。
「おい研一、そろそろ時間だぞ。………俺達
は先に行ってるからな」
しゃがれた叔父の声で、ハッと物思いから
覚め、我に返った研一は、もう一度、鏡の中
の自分をじっくり点検してから廊下へ出た。
ホテル内の結婚式場は、新郎新婦の控室と
同じフロアだが、丁度反対側の棟にある。
赤い絨緞を敷いた細長いひと気の無い廊下
が、幾重にも折れ曲って続いていた。
叔父に追い付こうと足を早めた研一が、最
初の角を曲った時である。
横手のドアから不意に現れた二人の男が、
研一の前に立ちふさがった。色眼鏡をかけて
カムフラージュしてはいるが、人相風体から
ひと目で組織の人間と知れた。しかも、二人
とも、手に光る刃物を持っている。
「オイ、声を立てるんじゃないぞ。…………
黙って俺達について来るんだ!」
驚愕に、物も言えぬ研一を両側から挟む様
にして、二人は突当たりの非常階段へ出た。
建物の壁に沿って渦巻いている春の風が、
とたんに研一の髪にまといつく。
「早く歩け!……怪我をしたくなかったら、
人に覚られない様にするんだぞ」
非常階段から地上に降り立った二人は、さ
すがに刃物をコートの蔭に隠したものゝ、ぴ
ったりと研一に身体を寄せて、彼に逃亡の隙
を与えない。
ホテルの裏手に止めてあった黒い大型の車
がスーッと滑る様に近付き、研一はむりやり
その後席に押し込まれた。二人がその両側に
研一を挟んで座る。運転手も二人と同様色眼
鏡を掛けた黒ずくめの服装だった。
車が動き出すと、我に返った研一がわめき
出す。
「ひ、ひと違いするな! 僕は荒木研一だ。
………ひ、ひどいじゃないか! たった今、
山城工業の社長の娘と結婚式を挙げようとし
ていた所なんだぞ………」
研一が山城の名前を出しても、二人からは
いっこうに反応が無い。
運転手も黙々と車を滑らして行く所を見る
と、明かに、山城家の婿である研一を狙った
計画的な誘拐行為であることが判る。
「静かにしろ。黙らないと俺達にも覚悟があ
るぜ」
ぞっとする程、冷い声音だった。背筋が凍
る思いで、研一は黙り込んでしまう。
(今頃、式場ではどうしてるだろうか……き
っと僕を探して大騒ぎしているに違いない…
…早く気付いて警察に届けてくれないかな。
……もう少しで永年の夢が実現すると云うの
に、チクショー!)
研一は、心の中で歯ぎしりするばかりであ
る。
車はやがて高速道路に入り、東京へと向かっ
た。一時間余りで首都高速から都心に入った
ところで、研一は目隠しされてしまう。
それから約二十分、車は、あちこち曲って
漸く停車した。
「さあ、降りろ。目隠しは取るんじゃないぞ
………そら、階段だ」
ステップを足で探りながら、四階迄上った
目の前で、プザーの音に続いてドアがガチャ
リと開き、女の低い声がした。
「さ、早く入って。………この男ね。判った
わ。……アラ、まだ帰らないで! ちゃんと
監禁するところまで立会ってよ」
二人の男に背中を突飛ばされる様にして、
部屋に足を踏み入れたとたん、上り框につま
ずいて、前のめりにがっくり膝を着いた。
目隠しが外されると、パッと明るい照明が
目に入って、思わず反射的に目蓋を閉じる。
漸く目が馴れると、あたりの異様な光景が
研一を驚かせた。
壁には輪の付いた鎖が取り着けられ、その
横には黒光りする革鞭やロープが一面に掛け
られている。
反対側には天井から滑車が下り、隅には木
馬に似た台や、産婦人科の診療用に似た椅子
が置いてあった。研一も、雑誌等で見たこと
のある、所謂SM用のプレイルームである。
男達に命じられるまゝに素裸になった研一
は、後手に手錠を掛けられ、足にも短い鎖で
繋がれた足錠が穿められた。
部屋に入った時には気付かなかったが、入
口の傍に、衣装函大の小さな金属製の檻が置
かれていて、研一はその中へ追い込まれる。
カチッと女の手で錠が掛けられ、研一は身
体の自由を奪われたあげく、裸のまゝ狭い檻
の中に閉じ込められてしまった。
「オイ、いいか。俺達はお前の身の代金が目
当てなんだ。お前の身体と交換に、山城工業
の社長から、しこたま絞り取ってやるのさ」
男達の一人が、檻の中を覗き込みながら声
を掛ける。もう一人がダミ声で続けた。
「お前は大事な人質なんだからな。こゝで暫
くおとなしくしてればいゝのさ。金が入った
ら、直ぐにでも解放してやるぜ。………ただ
し、逃げようなんて気を起したら、生命が無
いぜ。いいな!」
男達が捨てぜりふを残して立去ると、研一
は女と二人で部屋に残された。
檻のスペースは狭く、身体を曲げて横にな
るのがやっとである。身を起すと頭が天井に
つかえるので、座る時には絶えず首を曲げて
いなければならない。
がっしりしたアルミの枠組で、格子の部分
も頑丈に出来ている。たとえ手錠・足錠が外
れても自力で外へ出ることは不可能だった。
女は珍らしい動物でも見る様に、檻の中の
研一を覗き込んでいる。
全体に肉付きの良い、なかなかの美人で、
肌の大部分を露出させたタイツ風の大胆なコ
スチュームを身に纏っていた。
セピア色にむらなく焼上げた肌が、エキゾ
チックな顔立と長い黒い髪に良くマッチして
いる。
「お、お願いだ。僕を………僕をこゝから逃
がしてくれ! お礼はいくらでもする。……
…ほ、ほんとうだ!」
研一の訴える声に、女はニヤリと笑っただ
けだった。
「僕は、結婚式の会場から誘拐されたんだ。
僕の結婚する相手の家は資産家だから、貴女
の欲しいだけの金は出せる。……ネ、頼む、
頼むから………」
研一の言葉は次第に弱々しく震えを帯びて
来た。突然、女の力強い声が、覆い被さる様
に研一の訴えを遮る。
「うるさいわね! お前が何と云ったって、
私達が身代金を手に入れるまでは、こゝから
出られないんだよ。………こゝはね、M男専
用のSMクラブさ。この部屋の外にも幾つか
同じ様なプレイルームがあるんだよ。控室に
は、女の子達が常時待機していて、会員が何
時でもプレイ出来る様になってるわ………お
前はこゝでは、当分この檻の中で過ごすんだ
よ。……フフフ、そう、まるで動物の様に飼
われるってわけ」
何と云うことだろうか………結婚式場から
攫われて、人質として監禁されるばかりか、
檻の中で飼われるとは!
研一の胸は、みじめさで一杯になった。
「おとなしくしてれば、そのうち檻の中では
その手錠と足錠は外して上げる。それからト
イレは、その隅に入れてあるオマルにするん
だよ。こゝはプレーをする人の為に、何時も
エアコンで温度を調節してるから、裸でいて
も苦にならない筈だわ。……そうそう、私の
名はマキ。お前はケンと呼ぶことにするわ」
こうして始まった檻の中での人質生活は、
研一にとって屈辱に満ちたものだった。
マキが運んでくる食事は、控室の女の子達
の食べ散らした残りを皿に盛ったもので、歯
型の付いたかまぼこや、唾にまみれた蜜柑の
袋まで混じっている。
それを、檻の入口に開けられた小さな穴か
ら首だけ出して食べるのである。
「ウフッ、まるで犬そっくりね」
残飯の皿の横に置かれた洗面器に首を突っ
込んで、ピチャピチャ音を立てて水を飲む研
一を見下ろしながらマキが嘲笑う。
その度に彼は、悔しさと怒りで目蓋が熱く
なるのだった。
それにも増して我慢がならないのは、控室
の女の子達が、退屈しのぎに入れ代り立ち代
りやって来ては、彼のみじめな姿を笑いもの
にすることだった。
我慢し切れず、檻の中で恥ずかしさをこら
え、プラスチックの便器に跨がって用を足す
研一を、好奇心旺盛な彼女等は鼻を摘まみな
がら、クスクス笑って見守る。
その目は、動物園で檻の中を見詰める観客
のものと変りなかった。
手足の拘束は外してもらったものゝ、毎日
一回、便器の始末をするために檻の外へ出さ
れる際は、必ず前手錠に足錠の格好をさせら
れる。夜は檻の中で身体を折り曲げたまゝ与
えられた毛布にくるまって寝る生活だった。
こうして二週間程経った日のことである。
マキがいつになく真顔で部屋に入って来る
なり、檻の前に座り込んだ。
「一寸、ケン。大事な話よ。今、あの男達か
ら電話があってね、山城家では、お前の身代
金を出すのを断ったんですって」
研一の表情が、一瞬、驚きで歪んだ。
「そ、そんな馬鹿な! 今度の出来事で結婚
式こそ済んでないが、僕はれっきとした山城
家の婿養子だ。身代金を払うのを断る筈がな
いんだ!」
「お前はそう思っていても、先方は違う様だ
よ。それに、あの男達が欲張って、法外な金
額をふっかけたのかも知れないしね。………
払いたくっても払えない場合だってあるだろ
うさ」
「でも、それなら、金額が折り合う迄折衝す
れば………」
「それこそ、余計なお世話さ。………とにか
くあの男達は、山城家から金が出ないと言っ
て来たんだ。だから、残る方法は、お前自身
か、お前の親戚が身代金を払うしかないね。
……それなら、お前が自分で金額の交渉だっ
て出来るしさ」
「そりゃ駄目だ。第一僕は素寒貧だし、唯一
の親戚の叔父は、結婚式に来る旅費の工面が
やっとだったんだ」
研一はがっくりと首を垂れた。
「フーン。しけてんだね。………それじゃ電
話で相談して来るから、待っといで」
マキが再び戻って来るまで、小一時間もか
かった。そして、やきもきして待ちあぐんで
いた研一に、無情な答が返って来た。
「あの男達はね、金にならない人質は、やば
いばかりだから、直ぐ始末するって言うんだ
よ。……でもね、お前のでかたによっちゃぁ
私のいちぞんで、あの男達から隠まってやる
ことだってできるんだよ」
マキは、真剣な表情で、みるみる青ざめた
研一の顔をジーと見すえる。
恐怖に脅える研一の目が、すがる様にマキ
に向けられた。
「か、金の代りに、な、なんでもします。…
……何でもしますから、……生命だけは助け
て下さい。お願いです!」
悲痛な声で懇願する研一に、マキはニンマ
リする。
「それじゃね、お前は、今からこゝで働くん
だ。………と言っても、当面はプレイルーム
とトイレの掃除、それに女の子達の下着の洗
濯をおやり。そのうち客を取って稼いで貰う
からね」
マキの「客をとる」という言葉にひっかか
るものを感じたものゝ、今にもあの男達が戻
って来て、危害を加えられるのではないかと
の懸念が去って、研一はホッと胸をなで下ろ
した。
「それから、お前の身分だけどね。もう人質
としては役に立たないんだから、たった今か
ら、こゝの奴隷になるんだよ。私達には敬語
を使って、どんな命令にも従うこと。………
そして逃げようなんて了見を起したら、ただ
では済まないからね。いいね!」
マキの言う「奴隷」の身分が人質とどう違
うのか……研一は、直ちに身をもって味わさ
れることになった。
何しろ、女の子達はすべて、このSMクラ
ブで女王役を演じるS女性達である。マキを
含めて、男をいたぶり辱めるすべには、熟達
していた。
研一は、檻から出されると依然全裸のまゝ
の姿で控室に連れ込まれ、女の子全員、と言
っても総数八名だったが……の前で四つ這い
にさせられ、マキの手で鎖の付いた犬の首輪
を穿められる。しかも、それだけではない。
マキがニヤニヤ笑いながら取り出した小さ
な革の輪が、あろうことか研一の股間の一物
の根元に穿め込まれたのだった。
もちろん、これも鎖付である。
首と股間から垂れる二本の鎖が、研一の新
しい身分を象徴するかの様だった。
「フフフ、いゝ格好だこと。………お前は、
こゝでは何時も四つ這いで歩くんだよ。判っ
たね。………それじゃ、私達に、お前の奴隷
としての最初の挨拶をおし。………ホラ!」
目の前に、スッとマキの薄汚れた足が伸び
た。四つ這いのまゝマキの顔を振り仰ぐ研一
に、マキは(ソラ早く!)と言わんばかりに
顎をしゃくる。
ぐっと込み上げる悔しさを抑えて、研一は
マキの足の甲に唇を寄せた。
「バカッ! そこじゃないよ。奴隷が舐める
のは足の裏さ。………そうそう、それでいゝ
のさ。汚れをすっかり舌で舐め取るんだよ」
ザラザラした足の裏からは、ピリッとした
苦味を混えた塩辛さが口の中一杯に拡がる。
初めは恐る恐る舌を這わせていた研一も、
顔をにじる様に押し付けて来るマキの足裏を
顔で受けながら、何時しか懸命に舌で舐め清
めていた。
「アラアラ、こいつ奴隷の素質充分よ。これ
から毎日、みんなでたっぷり仕込んでやるか
らね」
頭上から落ちて来るマキの言葉が、研一に
は、まるで彼の運命を予告する天の声の様に
思えた。
この控室は思ったより広く、八畳大の洋室
である。表面のぺったりした安物のナイロン
製のブルーの絨緞が敷詰められ、壁に沿って
コの字型にソファーが置いてあった。
女の子達は絨緞に寝そべったり、ソファー
に足を投げ出して座ったりマチマチの姿勢だ
が、その殆どが煙草を口にしている。
マキの足を舐め終えて、次々と女達の足裏
に舌を寄せる研一を、全員が軽蔑し切った表
情で見詰めていた。
「ホラ、口を開けて!」
何人目かの足裏を舐め終えた研一が次に移
ろうとした時に、横の女から声が掛かった。
何のことか判らず、振り仰ぎながら開けた
口の中に、赤いマニキュアの指に挟んだ煙草
から、灰がポンと落される。なんのことはな
い、彼の口が灰皿代りに使われたのである。
アクの強い灰の味に思わずむせる研一。
女達の笑い声がひびき、彼は無念さに目の
前がボーっとかすんだ。
それからの研一の日々は、それ迄の人質と
しての生活よりも、一段と汚辱にまみれたも
のとなった。
女達の、それもプロのS女性達の奴隷とし
て、それこそ息を付く暇も無く、酷使され、
嬲られるのである。
少しでも手を抜くと股間の鎖が引かれ、痛
さに呻く研一の顔に女の足蹴が見舞われる。
掃除と洗濯が一段落すると、決まって彼女
等は研一にマッサージを命じた。
うつ伏せに寝そべった女の足を腰を、そし
て背中を、指圧を含めて延々と揉まされる。
その上、なにかと難癖をつけて罵倒され、
辱められるのだった。
時には、全裸の腰に小さなタオルを掛けた
だけの女体を揉まされることもあった。
目の前に女の豊かな尻が盛り上り、太股を
揉む度にその股の間から黒い繁みが覗く。
すると、研一の股間は彼の意志に反してム
クムクと膨張し、その付け根に穿められた革
の輪が食い込んで、思わず呻き声が出た。
「アラ、こいつ、生意気にサカってるわよ。
……お情けに、精を抜いてやるから皆で手伝
ってよ」
横で見ていたマキが声を掛け、研一は仰向
けに寝かされ、大の字に手足を抑えられた。
股間の付け根の革の輪がゆるめられ、猛り
立ったペニスにコンドームが被せられる。
「ソラ、これで遠慮無く昇天出来るわよ。で
もね、ただ良い気持にさせるのは勿体ないか
ら、お前にひとつ芸を仕込んでやるわ。……
お前、"条件反射"って言葉を聞いたことが
あるでしょう。……お腹の空いた犬が、食物
を見ると、独りでに胃液が分泌されるのがそ
れよ。空腹と胃液の組合せは自然の摂理だけ
ど、これを人工的な組合せに変えることが出
来るのよ。………判る? お前の射精が必ず
起る条件、それも女とのセックスじゃなくっ
て、もっと面白いものにして上げる」
研一のいぶかしげな目を見下ろしながら、
マキはさらに続けた。
「お前はね、女のお尻の匂いを嗅いで発情す
る様になりなさい。……ウフッ、傑作でしょ
う。女のお尻の臭い匂い、そう、おならの匂
いと一緒よ。……お前は、女におならを引っ
かけられて射精する様になるのよ」
研一の顔は怒りと屈辱で真っ赤になった。
「そんな馬鹿な! そんなことが出来るもん
か!」
「そう。信じられないのね。そりゃ少し時間
がかゝるわ。でも、細工は粒々よ。まあ見て
らっしゃい」
マキはパンティーを穿いたまゝ、研一の顔
をゆっくり跨いだ。下から見上げると彼女の
白いパンティーの股間が、ドキッとする程褐
色に汚れている。
「フフフ、朝からひどい下痢なの。匂いもう
んと強いわよ。お前に、女のお尻の匂いを覚
えさせるのには理想的だわ」
マキは徐々に腰を下げる。研一にたっぷり
征服される過程を味わせながら、男の顔面を
しっかりと尻に敷いた。
腰を少しずらして、研一の鼻孔にパンティ
越しながら、アヌスの部分をぴったりと当て
がうと、彼の足を抑えている女の子に合図を
する。
途端に、何時の間にか彼の股間に当てられ
ていたバイブレーターにスイッチが入った。
一方、彼の鼻孔からは、マキの饐えた強烈
な尻臭が遠慮無く侵入して来る。
めくるめく屈辱の思いがマキの尻臭にダブ
ると共に、股間のバイブレーターの刺激で彼
に頂点が訪れた。
研一が身を震わせて射精する間も、休み無
く彼の鼻孔に吸い込まれて行く女の尻臭は、
彼の脳髄を間断無く刺激し続ける。
暫く休んで、もう一度、同じことが繰返さ
れる。そして、更にもう一度。それから今度
は、マキの代りに別の女の子が彼の顔に跨が
り、四度目の射精を強いた。
その日から、マキの言う、女の尻臭と研一
の射精の条件付けの訓練が、毎日の日課とな
ったのである。
数ケ月経つと、成程、マキの言う通り、女
に尻臭を嗅がされる度に、研一は勃起する様
になった。そして、次にはバイブレーターの
振動を段々と弱くして行っても、射精が可能
になる。
一年後には、女が顔に跨がると、研一は忽
ち勃起し、軽くそれに触れられただけで、精
液が発射される様になってしまった。
当然、マキの予言通り、女の放屁を嗅がさ
れても同様である。つまり、研一は彼女の宣
言通り、女におならを引っかけられて、発情
する様に条件付けられてしまったのである。
マキに強制的に仕込まれた、この屈辱極ま
りない研一の「芸」は、当然、女の子達の笑
いの種にされ、新入りの女の子が来る度に、
実演させられた。
新入りの女の子と言えば、このクラブでは
会員の増加と共に、女の子の増員が定期的に
行なわれた。新しくこゝに来た女の子は、当
然ながらSプレーの経験がない。
新人の教育係りには、やはり最古参のマキ
が当たった。しかも、このクラブと提携して
いる幾つかのSMクラブから、新人の教育の
委託を受けるため、数ケ月に一回は、一週間
の教育コースがこゝで開設される。
そして、研一は、哀れにもその稽古台にさ
せられたのだった。
元来、SMプレーと云っても、M役の女の
子はとりたてゝ教育しなくても、ぶっつけ本
番で客の云われるまゝにしてれば良い。
しかし、Sの女王役となると、常にMの男
に対し積極的に仕掛けてやらねばならない。
だからこそ、新人のS女の教育は、客に喜
ばれる為に必須のものだったのである。
五、六人の新人をひとグループにまとめ、
このクラブのプレイルームで、一週間の間、
缶詰め教育が行なわれた。
新人の女の子達にとっては、女王役として
先ず男に気押されない様に、そして、その為
には、頭から男をのんでかゝる習慣を作るの
が第一課である。それには、自ら男を辱め、
征服する経験を持たせる必要があった。
研一の例の「芸」は新人の女の子達に、彼
を軽蔑させ、嬲り者にする気を起させる絶好
のオリエンテーションとなった。
女の子達にとって、自分達の尻を嗅いで発
情する研一は、滑稽でもあり、唾棄すべき存
在に映ったのである。
軽蔑のあまり、いきなり研一の顔に唾を吐
き掛ける女や、彼の顔を足蹴にしたり、顔を
足の裏で踏みにじる女が続出した。
研一にしてみれば、初対面の若い女の子達
に嘲笑され、辱められる辛さは想像を絶する
ものがあった。
しかし、良くしたもので、こうした経験も
度重なるうちに、いつしか自分が女に嬲られ
るのが、あたりまえのように思えてくる。
しかも、常時四つ這いで、女達を仰ぎ見る
習慣が身に付き、女の前で這いつくばって足
裏を舐め、尻臭を嗅がされるのに一切抵抗を
感じなくなってしまった。
食事は、人質時代の残飯に変りなかったが
奴隷に落された日から、その上に女達の唾や
痰がべっとり掛けられる様になった。
そして、飲み水が入れてあった洗面器には
必ず女達の小水が満たされている。
それ以来、研一は二度と普通の水は飲ませ
て貰えず、女達の排泄する臭い小水で、咽喉
の渇きを癒す様になったのである。
こうして二年の月日が流れた。
マキが何時もの様に、彼の昼食を持って檻に
近ずく。夜遅く迄起きている彼女等は、朝抜
きが普通で、従って研一も朝食は貰えない。
それ故、毎朝檻の中で目覚める彼に取って
マキの運んで来る昼食が、待ち遠しいものに
なっていた。
ところで、マキは、今朝はことのほか上機
嫌である。鼻歌を口ずさみながら、部屋に入
って来るなり、研一に話し掛けた。
「ケン、お前、今日がどんな日か知ってる?
………フフッ、今日はね、お前がこゝへ来て
から丁度二年目の記念日なんだよ。………そ
れでね、皆で相談して、お前に記念ランチを
食べさせることにしたの。ホラ、これよ。ど
おお?」
檻の小穴から首を出して食事を待つ研一の
目の前にマキが置いたのは、何時もの残飯に
何やら褐色のドロッとしたソースが掛かって
いる。途端に強い異臭が彼の鼻を突き、その
ソースが何であるかを研一に教えた。
女達の尻臭に良く似たそれは、明かに女の
大便に違いなかった。
「ウフフ、判った? これ、私のよ。昨日か
らまた下痢気味なの。……この香りは二年間
お前が嗅いで来たお尻の匂いの源泉なんだか
ら、馴れれば直ぐ抵抗は無くなるわ。それよ
り、二周年を記念して、今度はこの味を覚え
るのよ。そしてまた一段下に転落しなさい。
……判ったら、ちゃんとお礼を言って、私の
目の前で全部残さずに食べるのよ」
それは、研一の我慢の限界を越えるおぞま
しい行為だった。匂いこそ何とか恥を忍んで
受け入れて来たものゝ、喉自体が、この味を
受け付けようとしない。
思い切って皿の上の褐色の部分に口を付け
て一口呑み込んでみたものゝ、直ぐにもどし
てしまった。その様子を見守っていたマキの
表情が、途端に険しくなった。
「食べないのね。………私の命令に背くとど
んなことになるか、お前の身体に教えてやる
わ。さ、檻から出ておいで!」
檻の鍵が外され、二本の鎖が邪険に引かれ
て、研一は部屋の中央に引き出された。
と、全く不意討に、四つ這いの彼の背中に
焼ける様な鞭の一撃が加えられた。
「ギャーッ」
魂切る悲鳴とはまさにこのことであろう。
マキは、委細構わず第二撃を見舞った。
今度は彼の尻から腹に掛けて激痛が走る。
「ヒイーッ」
再び悲鳴が上った。
もともと、マキからハードな責めを受けた
ことの無い上に、不意を打たれて、心に我慢
する用意も出来ぬ間の鞭打ちである。
これ迄、何回か鞭を受けたことはあるが、
所謂、プレイ用の房鞭で、痕も残らない様な
ソフトなものだった。
それだけに、全身の力を込めて振り下ろす
マキの一本鞭の威力の前には、研一が全ての
意志を失って服従せざるを得ないほどの威力
があった。
第三撃のためにマキが腕を振り上げるのを
見て、研一は震えながら悲痛な声を出した。
「お願いです。ゆ、ゆるして下さい。………
た、たべますから、どうかお許しを」
しかし、無条件降伏の後には、無残な試練
が待っている。
吐気を懸命にこらえながら、皿の上の汚物
を全て胃の腑に送り込むのに、研一は悪戦苦
闘せねばならなかった。
こうして、彼の奴隷生活が三年目に入って
数ケ月がたったある日のことである。
いつもの時間に部屋に入ってきたマキは、
なんとなくあらたまった態度だった。
そして、入って来たのはマキだけでなく、
白衣を着た男が二人続いている。
共に黒眼鏡で人相を隠しているが、研一を
誘拐した連中ではなかった。
「悪いニュースよ。……私が、お前を連れて
来た連中の指示に背いて、お前を隠していた
ことがバレちゃったの。……直ぐにお前の口
を永久に封じなきゃ私の身が危ないのさ。悪
いけど、……覚悟するのね」
それは、まさに研一の恐れていた最悪の事
態だった。拘束された身体を恐怖で硬直させ
ながら、研一は声を振り絞って嘆願した。
「ど、どうか……生命だけは助けて下さい。
生かしておいて頂けたら、どんな事をされて
も構いません。……お、お願いでーす」
最後は、絶叫に近い悲鳴となっていた。
「可哀そうだけど、奴隷のお前には、許しを
乞う資格はないのよ。………お前の処置は、
私達が決めるわ」
マキは言い終えると、傍らの白衣の男に向
かって頷く。男は黒い鞄の中から太い注射器
を取り出し格子越しに彼の二の腕に刺した。
(アーッ、これで俺も終りか………でも注射
なら、楽に死ねるのかも知れないな………)
薄れ行く研一の意識の中で、この二年間、
心の片隅に絶えず抱いていた雅子の面影が鮮
かに浮んでいた。
あたり一面に、濃い白い霧が立ち込めてい
て、何も見えない。その中を、研一は出口を
求めて、懸命に歩き続けている。………それ
がポッカリ晴れたところで、うっすらと意識
が戻った。
先ず、白い磨りガラスが陽を受けて光って
いるのが目に入る。それが、彼の監禁されて
いたプレイルームの窓と判った時には、研一
は完全に意識を取り戻していた。
(よかった、未だ生きていた。………死なず
に済んだんだ!)
ホッと全身の力が抜けて、安堵の念が次第
に、じわじわと込み上げる喜びに変る。
気が付いて見ると、檻の中ではなく部屋の
中央に敷いた布団に寝かされている。
何時も、檻の中で毛布にくるまって寝てい
た身には、布団の柔かさは格別だった。
しかし、身動きして見ると、両手は前手錠
に拘束されているし、両足にも足錠が穿めら
れている。思わず身を起して見ると、やはり
今迄通り全裸の奴隷の状態だった。
「ウフフ、とうとう目が覚めたのね。………
お前は、いままで、もう三日間も昏睡状態だ
ったんだよ」
いつの間にか、部屋に来ていたマキの声で
ある。研一は、ビクッと思わず身震いした。
彼が深い眠りに落入る前に打たれた注射針
の感覚を、今やはっきりと思い出していた。
「じゃあ、あの注射は……単なる睡眠剤だっ
たんですか?」
そう言って見て、研一は、何か奇妙な感覚
に襲われた。
何か変なのである。……自分の声が聞こえ
ない。そう、声が出てないのだった。
「クックッ、どうやら気が付いた様ね。……
お前が、麻酔の注射で意識を無くしている間
に、一寸した手術をしたのよ。……そう、お
前の声帯に手を加えて、声が出ない様にした
ってわけ。………可哀そうだけど、お前は、
もう一生声が出せない身体になったんだよ。
それも、お前の口を封じるためさ。でも、命
をとられるよりは、遥かにましだろう」
それは、研一にとって、まるで雷にでも打
たれた様な衝撃だった。
(声が出ないだって?……そんな馬鹿な!
まさか、そんなことがあってたまるものか…
…)
研一は、懸命に喉を振り絞って見た。
しかし、聞こえるのは、ヒューヒューとい
うまるで、ふいごを鳴らす様な音が、むなし
くあたりに響くのみである。
「わかった? もう、諦めなさい。……お前
は、生命さえ助けて貰えたらどんなことでも
我慢するって言ったのよ。その喉だってね、
練習すれば、そのうち犬の鳴き声くらいは出
せる様になるんですって。………そう、お前
には、これからは私が犬鳴きの芸をしっかり
仕込んでやることにするわ。………ホホホ、
あゝおかしい」
マキは、腹を抱えて笑い転げる。
控え室にいた他の女の子達も集まって来て
ドッと笑いの輪が拡がった。
何と言うことだろうか。奴隷に落されたう
え、永久に声を奪われてしまうとは、余りに
も残酷な仕置だった。
ポロポロと流れる涙と共に、研一の声無き
むせび無きの声が、シューシューとあたりに
洩れる。その哀れな姿さえも、女達にとって
は単なる嘲笑の的に過ぎなかった。
それからの日々は、研一にとって、一段と
苦渋に満ちたものとなる。
マキは、彼女の残酷な公約を、着々と実行
に移したのである。
即ち、研一は、朝夕欠かさず犬鳴きの練習
をさせられた。そして、食事の度にその成果
を披露させられ、その出来栄えによっては、
食事の量を減らされたり、時には鞭を当てら
れたりもした。
数ケ月もせぬ内に、研一は本物の犬そっく
りの鳴き声が出せる様に、仕込まれてしまっ
ていた。
「クーン、クーン」
と、食事をねだり、命令に答える返事は、
「ウォン、ウォン」
そして、仕置を受けて許しを乞う時には、
「キャン、キャン」
と、鳴くのである。
研一にとってみれば、さすがに情けない限
りだったが、鞭と飴で執拗に毎日仕込まれて
るうちに、いつの間にか、彼女の思いのまゝ
にされていたのだった。
尻臭と射精との条件付け、即ち、女の尻臭
を嗅がされると発情し射精に至る、屈辱的な
条件反射は、それを研一の第二の天性として
植え付けるため、毎日必ず反復して繰り返さ
れた。
彼にして見れば、辛い転落の日々の中で、
射精時のめくるめく陶酔に浸れるのは、唯一
の楽しみだった。
その内に、現実から逃避して一時の陶酔を
求める研一の願望が強まると共に、その引金
になる女の尻臭を自ら求める様になった。
それは、マキの期待以上の成果である。
女達の足元に、四つん這いで擦り寄るばか
りか、今や、その尻を求めて顔を寄せるのが
習性となった研一の哀れな姿は、当然、彼女
等の軽蔑と嘲笑の的になった。
「キャー、私のスカートに首を突っ込んで!
この変態犬!」
「お前、よく恥ずかしくないわね。……ホラ
お嗅ぎ!……フフッ、いやらしい奴だこと」
女達の心からのさげすみの言葉も、もはや
研一にそのあさましい行為をためらわせる効
果は無かった。
やがて、彼はそのSMクラブで客を取らさ
れる様になる。それは、クラブの不況対策で
メンバー資格が変更され、女性会員が新設さ
れたため、格安の入会金及び会費で、風俗業
界の女達、それにOLや一般の主婦迄が続々
と入会して来たのだった。
普段、男に命令され、奉仕させられている
欝憤を晴らすかの様に、女達は研一を嬲り、
いたぶる。そして、普段抑えられていた彼女
等の性の不満を、彼に延々と舌奉仕させるこ
とで満たすのだった。
毎日、午後になると、ポツポツと女客から
の電話が入る。そして夕刻から深夜迄、彼女
等への奉仕が続く。研一の身体は女達の足蹴
や鞭打ちで生傷が絶えず、長時間の奉仕で舌
の付け根が腫れ上ることが多かった。
こうして、又一年が経った。
「ホーラ、三年目の記念ランチよ! 残さず
に食べるのよ。フフフ」
マキの足音を聞きつけ、檻の小穴から首を
出して食事を待っていた研一は、その言葉で
今更の様に、過ぎ去った屈辱の日々を思い起
し、感無量だった。
目の前に置かれた皿からは、一年前と同様
異臭が漂っている。残飯にかけられた褐色の
ソースは、今回は幾分堅めで、ひと目でそれ
と判る細長い塊の形を残し、微かな湯気さえ
立てゝいた。
傍に置かれた白い琺瑯の容器に入れられた
小水は、生理の近い女性のものらしく、黄色
が濃く、澱の様なものが浮き沈みしている。
共に、正常な人間であれば吐気を催す様な
おぞましい臭いと、無残な外観だった。
今や、転落の淵深く沈んだ研一もさすがに
ためらいを見せたが、一年前に食べることを
拒絶して経験させられたあの鞭の痛みを思い
起し、自らを励ましつゝそれに顔を寄せた。
いったん口をつけると抵抗がふっ切れる。
それに、正常人には耐えられぬその異臭も
毎日それに馴らされて来た研一にとっては、
もはや苦にならなかった。ガツガツと、その
「記念ランチ」を食べ、傍の小水を音を立て
て啜る研一の頭の上から女の声がした。
「呆れたあー。何とも浅間しい限りだわ……
…よくこゝまでなり下がったもんね」
マキのものとは違う、しかしどこか聞き覚
えのあるその声は、突然、彼に三年前の過去
を思い出させた。
ハッとして上を振り向くと、何時の間にか
マキの傍に大柄な女が立っている。
美智子だった。
研一が雅子の心を得るために利用し、そし
て捨てた女である。
"覚えてらっしゃい! その内必ず仕返しし
て上げるから"
泣き腫らした目で叫んだ美智子の言葉が、
はっきりと研一の脳裏に蘇ると共に、彼は、
一瞬のうちに全てを理解した。
すべては、この美智子の策謀だったのであ
る。雅子との結婚を妨げ、この三年間、研一
を転落の境遇に落したのは、みんなこの美智
子の企みに違いなかった。
「フフフ、どうやらわかった様ね。……そう
よ、あなたをこんな目に合わせたのは私よ。
……でもね、多分、あなたに未だ判ってない
こともあるわよ。……クックックッ、あなた
が今食べたり飲んだりしてるそれ、どちらも
私のなのよ。どう? おいしい?」
何と言うことだろうか。知らぬこととはい
え、こともあろうに、自分を汚辱の底に沈め
た憎い女の小水を飲まされ、排泄物を食べさ
せられていたのである。
「ウ、ウッウッウー」
激しい嗚咽が研一の喉から洩れたが、もち
ろん声にはならない。
「それに一年前、あなたが……アラいやだ、
"お前"で沢山ね。……そのお前の口を塞ぐ
ために、喉を手術することにしたのも私のア
イディアなのよ。……いずれ事の真相がお前
に判った時に、永久に沈黙を守らせるために
ね。フフフ」
美智子を仰ぎ見ている研一の目に、どうし
ようもない無念さと、激しい怒りの色が浮ん
だ。
「ウフッ、お前、怒ってるのね。そんなに悔
しい?………いいわ、これから、もっともっ
と悔しい目に合わせて上げるわ。まあ、期待
してらっしゃい。………それより、お前、ま
だ食べ残してるわよ。私の体内から出たもの
なんだから、良く味わって戴きなさい。……
いずれ、お前を私の便器にして毎日直接食べ
させるからね。フフフ」
悔し涙が、真っ赤に充血した研一の目から
皿の上にポタリポタリと落ちる。
あまりの無念さに、身体がブルブルと小刻
みに震えた。しかし、一時の激情が去ると、
今度は深い絶望が訪れる。
(一生声を奪われ、しかも鎖に繋がれ檻に入
れられた身で、どうして美智子の辱しめを逃
れることが出来ようか。………諦めるしかな
いんだ!)
我と我が心に言い聞かせると、研一は再び
皿に口を寄せる。それは、美智子に対し無言
ながら、完全な屈服を示す行為だった。
にんまりとした美智子は、言葉を続ける。
「この三年の間に、随分色んなことが起った
わ。………私は今では山城家の女中頭。運転
手の山崎さんと去年結婚して、お屋敷の中に
住んでるのよ。……雅子様は、お前が昔の女
とよりを戻して結婚式場から逃げ出したと思
って、別な男と結婚したわ。もう世間ではお
前の出る幕はどこにも無いのよ」
それは、美智子の企みを覚った時点で、薄
々予想されたことゝはいえ、研一にとって死
刑の宣告にも等しい残酷な現実だった。
屈辱の食事を終えた後、研一は檻から出さ
れ、全裸の姿のまゝ美智子に鎖を曳かれて、
四つ這いでクラブの扉から外へ出た。
「これからは、お前は美智子さんの奴隷さ。
逆らわずに、よく仕込んで貰うんだよ」
マキの別れの言葉を背後に、人目を避けて
黒眼鏡の男の運転する迎えの車に乗る。
もちろん、研一はシートには座らせて貰え
ず、助手席を一杯に下げて座った美智子の足
元に押し込まれた。女の股間に首を突っ込ん
だ姿勢で、身体を折り曲げる様にして狭い空
間に身を納める。
車が動き出すと、美智子は研一の首の鎖を
ぐいと引いた。途端に彼の鼻が彼女の股間に
押し付けられる。犬に主人の匂いを覚えさせ
る様に、彼女も一時間余りのドライブの間、
女の饐えた性臭をパンティー越しに研一に嗅
がせることで、彼にその奴隷の身分を認識さ
せたのである。
漸く車が停まって曳き出された所は、何処
か見覚えのある広壮な屋敷の中庭だった。
それが、山城家の中であることに気付いた
途端、悪い予感が研一の脳裏をかすめた。
美智子に鎖を曳かれたまゝ、庭の敷石伝い
に広縁の前へ出る。待ち受けていたように、
中から人影が縁先に現れた。
やはり、雅子だった。しかし、意外なこと
に、彼女に寄り沿う様に並んで縁側に立った
のは、かっての彼の同僚であり恋敵きだった
樋口光男だったのである。
「とうとう帰って来たわね。……でも情けな
い姿になったものね」
雅子は、庭に引き据えられた研一を縁先か
ら見下ろしながら、蔑む様な口調で言葉をか
けた。
「お前が、よりによって、結婚式の直前に女
と逃げたお蔭で、私達は大恥をかいたのよ。
……父は、その時のショックで持病の心臓が
悪化して、そのあと直ぐ亡くなったわ。今で
は、この光男さんが私の夫であり、会社の社
長でもあるのよ」
「……………」
「お前は、その後、その女に騙されて身を落
したらしいけど、本当に自業自得ね。………
私は、父の生命を縮めたお前を、決して許す
ことは出来ないわ。美智子が漸くお前を探し
当てゝくれたんだから、これからは、この家
で私達の奴隷として一生過ごすのよ」
雅子の宣言は、彼の心中に微かに残ってい
た希望を無残に砕き去った。
自由と声を奪われた研一にとっては、身の
証を立てる証拠どころか、雅子に彼女は誤解
していると訴えるすべさえないのである。
がっくりと頂垂れた研一の周囲には、呼び
集められたのであろう、この家の女中達が遠
巻きにして、珍しい動物でも見るかの様に好
奇の視線を注いでいた。
「ホラ、奥様のお言葉に返事をしないか!」
美智子が、ぐいと股間の鎖を引く。
急に襲った痛みに研一は思わずキャンキャン
と犬鳴きの悲鳴を上げた。
どっと、一同の間に笑いが起る。
「こいつは、手術で、もう人間の声は出せな
いようになってるのよ。それに、面白い芸が
出来てよ」
美智子は、ニヤニヤ笑いながら皆に解説す
る。おもむろに、スカートをたくし上げて、
研一の首の鎖を後ろから自分の股間に通し、
ゆっくりとたぐった。
四つん這いの研一が、ズルズルと美智子の
背後に引き寄せられる。そして、ピンクのパ
ンティーに包まれた彼女の豊満なヒップが、
ピタリと彼の顔に押し付けられた。
「ホラ、こいつの股の間を見て頂戴!」
一同の視線の集まる所、研一の股間の男性
が、遠目にもむっくり立上がったのが判る。
クスクスと漣の様に伝わる笑い声の中で、
吐き出す様な光男の声。
「呆れ果てた変態だな。女のケツを嗅がされ
て、忽ちサカるとは、犬畜生にも劣る奴だ」
一方、薄笑いを浮べながら、しきりに自分
の下腹を手で揉んでいた美智子が、突然声を
上げた。
「行くわよ! ソーラ、一発! 二発!……
…そして、三ぱーつ!」
高らかな女の掛声と共に、プーッ、ブスッ
ブーッと異様な音が連発し、誰の目にも研一
が美智子に、その顔面に臭いガスを引っ掛け
られたことが判る。
かゝる辱めを受けつゝある男の反応は如何
んと、皆の興味が集中した。
その中で、じっと屈辱に耐える研一が、皆
の視線のもとで大きく身を震わせたかと思う
と、その男根から白濁した液が噴出した。
女中達の間にドッと爆笑が湧き起った。
それは、女中達の心に、研一に対する決定
的な軽蔑が定着したことを意味していた。
縁側では、雅子が腹を抱えて笑っている。
「プーッ、お前は全く情けない身に落ちたも
のね。……女のオナラを嗅がされて射精する
なんて、本当に最低! この家の奴隷にふさ
わしい芸だわ」
射精を終えた研一は、なおも身震いを続け
ている。……それは、かっての恋人と恋敵き
の目の前で、むかし捨てた愛人から死に勝る
屈辱を与えられた我が身の情けなさを、繰返
し噛みしめているかの様であった。
その晩、彼は、雅子夫婦の寝室で、床に引
き据えられていた。鎖を手に、雅子は研一を
邪険に蹴り倒し、素足で顔面を踏み付ける。
「これからは、私達のセックスの度に、いつ
もお前を道具として使ってやるわ。お前の顔
や唇や舌を、私達の下半身でウンと汚してや
る。………フフフ、お前は一生私達のおしも
奴隷よ」
「そうさな。俺達のセックスの道具になり切
ったら、御褒美に雅子にオナラを引っ掛けて
貰うんだな。………アハハハ」
「オナラだけじゃなくって、後で私の便器に
してやるわ。楽しみにしてらっしゃい!」
その晩の、かっての恋人から加えられた屈
辱は、研一の脳裏に生涯残る程強烈だった。
絡み合う二人の股間に顔を敷かれて舌奉仕
を強制されたあげく、雅子のワギナから溢れ
出る光男のミルクを吸わされたのである。
しかも、傍らで寝息を立てる夫の横で雅子
は、延々と研一に股間への舌奉仕を強いた。
何度目かの頂点を迎えたあと漸く解放され
たものゝ、雅子は続けて残酷な命令を下す。
「これから美智子夫婦の寝室へ行って、同じ
様に使って貰うのよ。………フフフ、いいわ
ね。………それから、明日の朝は、この寝室
の前で待っておいで。朝の便器に使ってやる
からね。……そして、そのあとは、美智子た
ち女中全員に共同便器として使って貰いなさ
い。……ウフフッ、思い知った? ほんと、
いい気味だわ」
今や、限界を越えたその屈辱は、彼を狂気
に導きかねない程のプレッシャーを生んだ。
そして、自動的に開いた心の安全弁が研一
の理性を麻痺させて、めくるめく異常な陶酔
の世界へと導いて行くのだった。
〔完〕
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1987年6月スピリッツ6月号
(スレイブ通信37号に再掲載)
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2010/06/15