#21転落の元重役 阿部譲二作

温泉地の豪華な別荘で早めの引退生活を送る元重役の男が妻を亡くし、妻のお気に入りだった女中に身の回りの世話をして貰うことになる。やがて女中の夫も同居するようになるが、二人のセックスの気配に刺激され、洗濯機にあった女中のパンティをこっそり持ち出して毎晩オナニーに耽る。それが露見して元重役の男は女中夫婦のセックス奴隷にされる。

 夫婦養子
「南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……」
 読経の声が物憂げに響く中で、参会者の焼香が、何時果てるともなく続いていた。
 機械的に頭を下げて、会葬者の挨拶に応えてはいたものゝ、杉田平造の胸の中は、ぽっかり開いて、虚しさのみが残されていた。
 時々、虚ろな目が祭壇の方をさまようたびに微笑みを浮かべた妻の静江の遺影に行き当たる。そして、その妻の笑顔は、そのたびに湧き出る新たな涙でボーッと曇るのだった。
 永年勤めた大手の証券会社の重役の座を、惜し気もなく投げうって、ここ南伊豆の豪華な別荘で、妻と二人で優雅な引退生活を始めた矢先の、この不幸である。
 もともと資産家の独り息子に生まれた平造は、かねてから五十歳になったら勤めをやめて、好きな事をして暮らそうと決めていた。
 恋女房の静江との間には、とうとう子供が出来ず、たまたま財産を譲るべき親族もいなかったから、金はうなる程あった。
旅行好きの静江の希望もあって、二人で年に二、三回は海外旅行を楽しむ事にしていたし、平造自身も好きな園芸を楽しむため、広い庭園つきの別荘を、金に糸目をつけず購入したのだった。
 それが……全く思いもかけない交通事故で、静江があっけなく亡くなってしまったのである。
「だ、だんな様。こ、このたびは、ほんとうに突然の事で……」
 聞き覚えのある声が平造の耳を打った。目を真っ赤に泣き腫らした三十がらみの女が、目の前で深々と頭を下げている。
 ほとんどが平造の会社関係の、言わば義理がらみの会葬者達の中では目立つ存在だった。
長年、女中として平造夫婦に仕えた事のある光子だった。十六歳で奉公に来て二年程前に郷里で縁づくまで、十五年余も杉田家で働いた女で、静江の大のお気に入りだった。
そう言えば、光子の郷里は伊豆と聞いていたから、今度の事故を耳に入れて駈けつけて来たに相違なかった。
 奉公に来た時は、頬を真っ赤にした健康そのものの大柄な田舎娘だったが、もともと顔立ちも整っていたため、都会の水に馴染むにつれて垢抜けし、女中とは思えない魅力的なグラマーな娘になっていった。
 気立てもよく機転もきくので、子供のない平造夫妻は、まるで自分達の娘のように光子を可愛がった。それが、かえって、光子の婚期を遅らす事になってしまったのである。
 郷里の役所に勤める男と結ばれ、人妻となった彼女は、この二年見なかった間に、心持ちふっくらと豊満さを増し、脂の乗り切った女盛りに見えた。
 葬式がすっかり終わり、骨壷が写真とともに祭壇に置かれると、平造は改めて全身の力が抜けたように感じ、何をするのも物憂かった。
光子は住居がすぐ近くとかで、忌明けまでの法要のたびに、夫とともに平造の別荘を訪れては、後を慰めてくれた。
 偶然、平造の住む、この同じ町の役場に勤めている彼女の夫、山田次郎は、がっしりした体格のスポーツマンで、地味な風貌だが、無口な真面目そうな男だった。
 子供がまだ出来ないのが唯一の悩みとかで、夫婦仲もよさそうである。
 通いの家政婦の作る食事が、口に合わないと平造がこぼすと、光子は、時折、手作りの料理を折詰めにして持って来てくれた。
 そのうち家政婦の病気を機に、光子が平造の食事の用意に通って来るようになり、掃除洗濯まで光子が手がけるようになった。
 昔同様、台所で立ち働く光子の姿を見ると、静江を失って傷心の平造の心も、幾分かは癒され、和むのだった。
 しかし、平造の家に光子が入り浸る時間が増すと、当然の事ながら、夫の山田次郎から苦情が出て来た。
 夫と平造の板挟みになった、光子の困惑を見ると、平造も黙ってはいられない。
 ある夜、山田夫婦を呼んで、三人でじっくり話し合う事になった。
 頃合いを見て平造は、彼としては思い切った提案を持ち出した。もちろん、平造自身、この数週間、考え抜いた末の結論である。
「なあ、どうだろう。私は、妻を亡くした今では、身の回りの世話をしてくれる者もないし、老後を見てくれる者もないんだ……もちろん、俺もまだ五十だから、後添えをもらう手もあるんだが、財産目当ての女に引っかかるのが落ちだ。第一、もう、わずらわしい事は沢山さ……ものは相談だが、光子は、私も、子供の頃から知っているし、気心も判っている。そこで、お前達を私の夫婦養子にするから、この家に住んで私の面倒を見てくれないか?」
「…………」
 光子夫婦は、思いもかけぬ平造の申し出に思わず顔を見合わせた。
 平造は熱心に続ける。
「もちろん、その代わり、俺の財産は、そっくりお前達に残す事になる。どうせ、俺の生きている間では、いくら使っても、半分も使い切れないさ」
 光子もさすがに即答しかねて、その晩は回答を保留して帰った。二人で、じっくり考えてみたいし、親戚にも相談してから御返事したいので、しばらく時間を貸して欲しい、と言うのである。
 だが、山田次郎、光子夫妻が再び杉田平造の前に二人で現れたのは、意外に早く、それから三日後のことだった。
 二人の返事は、平造の期待通り"YES"だった。
 しかし、条件があった。
 夫婦養子にすると同時に、この別荘の土地建物を二人の名義にして欲しい、と言うのである。理由は、もし平造が万一、今後気を変えて結婚したり、光子夫妻に譲るべき財産を全部使い果たしたりした場合に備えての、保証代わりとの事だった。
 如何にも言いづらそうな光子の口調からすると、恐らく親戚の誰かの入れ智恵なのだろう。それにしても、時価数億の不動産である。
当然平造が負担させられるであろう、名義書換えに伴う譲渡税の額も、馬鹿にならなかった。
 しかし、この三日間、光子のいない生活の不便さに、心底閉口していた平造は、それを拒否して光子を失う気は全くなかった。
 銀行預金も豊富にあるし、その気になれば、何時でも処分出来る広大な山林の資産も残されている。
 平造がその場で承諾の意向を伝えると、緊張していた二人の顔がほぐれた。
「よかったわ。私、旦那様に、こんな事お願いしたくなかったんですけど、周りの人がうるさいもんですから……でも、その代わり、しっかりお世話しますから、安心してらして下さい」
「僕も、昼間は、役所の勤めがありますが、家では光子を助けて何でもいたしますから、気兼ねなく、何なりとお命じ下さい」
 光子と、その夫の次郎は、ホッとしたように口々に話しかける。
「そうと話が決まったら、今日明日にでも、二人でここへ引越して来たまえ。僕は二階に移るからね。今僕が書斎代わりに使っている北側の応接室以外は、下は君達で自由に使っていいよ」
 こうして、平造と山田夫妻の新しい生活が始まったのである。
 光子は、昔にも増して、こと細かに平造の身の回りの世話をしてくれるし、夫の次郎も、控え目ながら、広い庭園などの外回りの仕事を買って出て、こまめに働いた。
 夫婦養子の手続きと同時に、土地建物の名義変更も終え、平造としては、まるで本当の娘夫妻と同居しているかのように、久し振りに充足した平和な日々であった。
 唯一の悩み、というより雑音は、近くの洋裁塾に通う光子の妹の富美子が、時折、同僚の女の子達とこの家に立ち寄り、かん高い黄色い声で、かしましく騒ぎ、広い庭園をはしゃぎ回る事だった。
 姉の光子に似てグラマーな美人の富美子は二十四歳でまだ独身。明るい、もの怖じしない性格で、平造も気に入っている。しかし、彼女達が去った後は、さながら台風一過、必ずと言ってよい程、何か荒らされていた。
 時には、平造の大事にしている山草の芽が踏み潰されていたり、盆裁の小枝が折られていたりするのである。
 光子夫妻は、しきりに恐縮して富美子をしかりつけるのだが、さっぱり効果はない。
そのうち平造も根負けして、むしろ若い富美子のピチピチした姿態を垣間見ては、ひそかに楽しむようになった。
 それに加えて、近頃ひと際目立つようになった光子のむせるような色気である。
 そして、夜半、光子夫婦の寝室から洩れる悩ましげな女の呻き声が耳に入るたびに、光子とその夫の次郎とのからみ合いの姿が、平造の目の前にちらついた。
 それもこれも、五十の坂を越えたばかりの平造に、熟年の性の悩みを惹き起こす引き金となるに充分な刺激である。
 もともと、平造がセックスに淡白だったせいもあって、妻の静江が生前、元気な時でも夫婦の行為はほんのおざなりで、それも、たまに行う程度だった。
 だから、このもやもやした気持ちも、そして、富美子や光子のしどけない姿を想像して独り行うマスターベーションも、平造にとっては学生時代以来の事であった。
 人間、初老の頃に、再び青春の蘇る時期があるという。平造も、重役の地位を捨てて、悠々自適の生活に入ったとはいえ、まだ引退して老け込む歳でもなく、女性とも、第二の人生で、もうひと花咲かせたいとの気持ちが湧き始めていた。
 ちょうど、そうした頃の初夏の一日の事である。
昼間買い求めた本を読み耽って、つい夜更しをした平造は、書斎の灯を消すと、二階への階段に通ずる廊下を辿った。
 光子夫婦の寝室の前で、そっと足を忍ばせ耳を澄ませる。
 中からは、平造の期待通り、光子の快楽の呻き声が、切れぎれに聞こえて来た。
 しばらく、耳を傾けた後、そっと階段を上がりかけて、ふと思いついて風呂場へ行く。
 脱衣場に置き忘れていた腕時計を取り上げ、ふと横を見ると、洗濯物の籠の中の汚れ物の一番上に、白地に花模様のパンティが乗っていた。
 明らかに、それは、つい先程風呂に入った光子のものに違いなかった。
 たった今、聞いたばかりの光子の声に、夫の次郎と抱き合っているイメージが、そして目の前の光子のパンティが重なり合って、平造の血を激しくかき立てた。
 彼は、衝動的に、そのパンティを摘まみ上げると、裏返しにする。
 股間の当たる部分がべったりと黄褐色に汚れ、プンと異臭が鼻を突いた。
 脱いでからまだ間がないと見えて、その部分は、じっとりと湿り気を帯び、白い照明の下で、ぬめっとした光をたたえている。
 平造は、それをポケットにねじ込むと、寝室に急いだ。
胸の動昏が高鳴っているのが、自分でもはっきり判る。
 寝巻きに着替えるのも、もどかしく、寝床に入った彼は、光子のパンティに顔を埋めて、オナニーに耽った。
 翌朝、早起きの平造は、光子夫婦の寝ている間に起き出し、いつものように、朝食前の散歩に出かける。
 もちろん、言うまでもなく、昨夜の光子のパンティは、こっそり元の場所に戻しておいた。
 それからというもの、病みつきになった平造は、毎夜、光子夫妻が寝室に入るのを見届けると、汚れものの入った洗濯籠を漁るようになった。
 しかも、そのうち臭いだけの刺激では満足しなくなり、汚れた部分を口に含んで、味わうようになる。
貯えた女の分泌物の刺すような酸味と、尿の臭味が、ミックスして、平造の理性を霧の中に閉ざし、彼をめくるめく陶酔の世界に引き込む。時折、加わる便の苦味が、その刺激を一層高めた。
 光子は下着を毎日替えると限らない。しかし、逆に下り物の多い時には、日に二回替える事もあった。
 そして、しばしば期待していた平造をがっかりさせたり、喜ばせたりした。
 二ヶ月程経った頃から、夏の暑さが増したせいか、光子のパンティを替える頻度が、急に増え出した。
 しかも、ナイロン製で、赤やピンクのフリルのついた、派手なものが混るようになり、これまでのものと生地が違うせいか、汚れと臭気が一段と目立った。

 攻守逆転
 蝉しぐれが耳につく、夏のある日の午後の事である。
 午前中、庭木の手入れに精出した疲れもあって、平造は書斎の長椅子で、快い午睡のまどろみの中にあった。
 と、庭先から、若い女達のおしゃべりと嬌声が、平造の耳に入る。
〔また、富美子達か。うるさい奴等だ〕
 夢うつつに不快の思いが頭をよぎる。
 そのうち突然、笑いの声に続いて、
「キャーッ」
 と悲鳴が起こり、ガチャンと何か割れる派手な音がした。
 ハッと目が覚めた平造は、悪い予感に駈られて、庭へ急ぐ。
 果たして、富美子を始めとする女達が、平造の大事にしている盆栽棚の前で、黙って立ちすくんでいた。
 その足元には、平造の丹精込めた赤唐松の鉢植えの盆栽が、無残な姿で切れぎれに散乱している。
 そして、その傍に、平造が中国旅行の際に、北京の骨董屋で大金をはたいて買い求めて来た青磁の鉢が、真っ二つに割れて転がっていた。
 平造の顔は、激しい怒りで、赤さを通り越して青ざめている。
 唇がわなわなと震え、握りしめた拳がぶるぶる揺れていた。
「富美子。みんなにすぐ帰って貰って、お前は書斎に来なさい。すぐにだぞ!」
 最後は、怒鳴るような口調になった。
 平造の剣幕に、富美子の友達は早々に退散し、静けさが戻ったものの、平造の怒りは募るばかりだった。
 書斎に呼びつけた富美子を前に、平造は、強い口調で叱責した。
 姉の光子も、傍につき添って頭を下げるのだった。
「いいか。今まで、何回も言い聞かせたはずだが、性根を入れて聞かないから、今度のような事になるんだ!」
「旦那様、必ず弁償させますから、どうか、お許し下さい……この子も、悪気があってした事ではありませんので」
 光子の取りなしも、ふくれっつらで反省の色を見せない富美子の顔で、帳消しである。
姉に似て、下ぶくれの顔だが、整った顔立ちで目元にそして唇のあたりに、どことない色気がある。
 ブラウスの大きくえぐった胸元から、豊かな胸の隆起の一部がこぽれ、形よくくびれた腰から、豊かなヒップへと続いているのだった。
「あれは、弁償出来るようなものじゃないんだ。第一、富美子は態度が悪いぞ! 自分のやった事を、悪いとは思わんのか……えー、どうなんだ? 恥ずかしいとは思わんのか?」
 富美子のふてくされた態度に、いらいらした平造は、我知らず声を荒げた。
 すると、今まで、俯き加減に目を反らしていた富美子が、きっと首を上げると、平造の顔をじっと見詰める。
「旦那様……それじや、旦那様は、自分のしてる事を、恥ずかしいとは思わないんですか?」
 口応えする富美子に、平造の怒りは、募る一方である。
「何を言ってるんだ! 俺が恥ずかしいと思うはずがないじゃないか。こうして怒っているのも、お前が憎いからじやないぞ。お前が、悔い改めるように、言い聞かせているんだ。
 口で言って判らなければ、身体に判らせてやってもよいんだぞ!」
「クックックッ……あー、おかしい」
 平造の言葉で縮み上がるはずの富美子が、突然、場違いな笑い声を立てた。
 怪訝な顔の平造に、光子が、あわてて富美子の袖を引く。
「ちょっと、あんた。一体どうしたっていうのよ! こんな時に笑うなんて……」
「だって、おかしいんですもの。この人ったら、私の言う意味が判ってないのよ」
「だって、お前、まさか今、ここで……」
「いいじやないの。自分だって、人に顔向け出来ない事をやってるくせに、私に向かって偉そうに……もう我慢出来ないわ」
 富美子は、背筋を延ばして、平造の方へ向き直った。
頬に冷たい薄笑いを浮かべている。
 平造は突然、漠然とした不安感に襲われた。
〔ま、まさか、あの事を、この娘が……〕
 しかし、続く富美子の言葉で、平造は彼の不安が的中したのを悟った。
「何よ。元重役だなんて、威張ってるけど、ひと皮剥けば、本当はいやらしい変態男じゃないの……何さ、毎晩、女の汚れたパンティを舐めてるくせに!」
 それはまさに、頭を、ガンと殴られたようなショックだった。
〔ど、どうして、それが判ったんだろう?〕
 狼狽の色を隠す事も忘れて、唇を震わせる平造の心を見透かしたように、富美子は言葉を続ける。
「お前のしてた事は、みんな姉さんに判ってしまっていたのよ……ねえ、お姉さん。言ってやりなさいよ」
 軽蔑の色を露わに浮かべた富美子に、お前呼ばわりされても、平造は一言もない。
 意外な展開に、最初はどぎまぎしていた光子も、富美子にやり込められて真っ赤になっている平造を見ると、気の毒さよりも、おかしさの方が先に立った。
「だって、朝、洗濯しようとして、よく見たら、汚れてるはずのパンティの、それも股のところだけが、綺麗になってるんですもの……誰だっておかしいと気がつくわ」
「それで、私が、姉さんに相談を受けたってわけ。でも、とても信じられないんで、こっそり二人で、朝早く、お前の寝ているところを見に行ったのよ」
「あんな驚いた事ってなかったわ。お前が、私のパンティを口にくわえて、眠り込けているんですもの」
「そこで、こっそり撮った写真がこれよ。どおう? よく撮れてるでしょう? これを、フォーカスか、フライデーに持ち込んだら、きっと採用されるわよ……"元重役、女のパンティを舐めるの図"なんてタイトルはどうかしら。クックックッ……ああ、おかしいわ!」
 身をよじって笑いながら、富美子がポンと投げて寄こした写真は、平造の寝顔の大写しである。
 そして、情けない事に、その口には花模様のパンティが、しっかりと、くわえ込まれていた。
 攻守は、今や、完全に逆転していた。
 勝誇った富美子は、なおも攻撃の手を緩めない。
一方、平造は、完全に打ちのめされて、がっくり首をうなだれたまゝだった。
「それからね、お前は知らないだろうけど、お前の舐めてたパンティは、姉さんのだけじゃなかったのよ。フリルのついたナイロン地のは、私の分。フフフ、どお? 違いが判った?」
〔そうか、道理で、急に数が増えたはずだ〕
 平造は、今さらのように自分の馬鹿さ加減を悔やんだ。
「ねえ、なんとか言ったらどうなの?……さっきは随分、偉そうな口をきいてたわね。えーと、口で言って判らなければ、身体に判らせてやる……だったわね。いいわ、お前みたいな破廉恥な変態は、どんな罰を受けるのがふさわしいか、私が、お前の身体に判らせてやるわ」
 富美子は、スッと立ち上がると、テーブルを回り込んで平造に近づいた。
「頭を上げてよ こっちを向くのよ」
 怪訝そうに見上げる平造の目の前で、富美子の白い手が躍り、彼の頬に彼女の平手打ちが飛んだ。
 アッと片手で頬を押さえる間に、もう一方の手が、反対側の頬を襲う。
「手を下げなさい! おとなしく私のお仕置を受けるのよ」
 富美子の剣幕に押されて、手を降ろした平造の無防備な頬に、ピシッ、ピシッと女の掌が高鳴り、みるみる平造の顔に赤味が刺す。
 自分が、若い女に、しかも、女中の妹に平手打ちにされている事を意識すると、どっと屈辱感が押し寄せて来た。
 しかし、自分の行為が如何に恥ずべきものだったか、彼女に鋭く指摘された事が、そしてあの写真を公開される恐怖が、平造の気力を奪い、抵抗を封じていた。
 これまで、富美子の側で、ニヤニヤ笑いながら、二人のやりとりを聞いていた光子は、さすがに見兼ねて妹を制する。
「ちょっと、もうやめなさい。いくら、旦那様が変態だと判っても、暴力はいけないわ」
「いいのよ。これで、こいつも目が覚めたはずよ。でも、これから二度と私達の前で威張れないように、歯止めがいるわ。姉さん、そこで黙って、私の手並みを見てらっしやい」
 富美子は、ソファに坐ったまゝ、悔やしそうに唇をわなわなと震わせている平造に向き直った。
「お前、変態のくせに、私達の前で格好つけるんじやないよ。二度と主人づら出来ないように、今日は、うんと辱めてやるからね……ホラ、床の上に正座するんだ!」
 平手打ちのショックが、平常心を奪い、平造を異常な心理状態に追い込いでいる。
 半ば夢心地で、長椅子に坐った富美子と光子の前の床に、膝を揃えてかしこまった。
 富美子は、薄笑いを浮かべながら平造の顔をジーッと見下ろし、腰をひねって器用にパンティを脱ぐと、それを平造の目の前に突きつけた。
「さあ、お前の好きなパンティよ。いつもやってるように、舐めて綺麗にして御覧!」
 平造は、まるで、催眠術にかかったかのように、手渡されたピンク色のパンティを裏返すと、黄色に汚れた股間の部分に、ためらわずに顔を埋めた。
 クチャッ、クチャッと、口の中でナイロンの布地を噛みしめる音が、淫靡に響く。
 光子が、思わず顔をしかめた。
「いやだわ! こんな男を、今まで、旦那様って呼んでいたのかと思うと、我ながら情けないわ……ソラ! 私のもあげるわ」
 今度は、光子のパンティが、ふわりと宙を舞い、平造の顔を覆う。白い木綿地に、黄褐色の汚れが鮮やかで、偶然、その部分が平造の鼻孔に被さった。
「アラアラ、お前、私のを味わいながら、姉さんの臭いを嗅げるなんて、幸せだわよ。ウフッ、これが、元重役だなんて笑わせるわ」
 二人の女の股間の味と臭いのミックスした刺激は、申し分なく強烈で、富美子の蔑みの言葉を忘れさせ、平造をしばしば、めくるめく陶酔の世界へと誘うのだった。
「もういいでしょう。二枚とも、綺麗になってるわ。フフフ、それ以上舐めたら、パンティが破れてしまうわよ」
 富美子の声に、ハッと我に返った平造は、思わず女達の顔を振り仰いだ。そして、二人の軽蔑しきった表情を見て取ると、さすがに恥ずかしさが込み上げ、顔を伏せる。
「姉さん。こいつの正体、よく判ったでしょう。もう、遠慮する事ないわ。二人で、うんと嬲ってやりましょうよ」
「そうね……でも、私、さっきは思わず反吐が出そうになったわ。こんな、いやらしい奴、初めてよ コレ、お前、こっちを見て御覧」
 光子は、おずおずと顔を上げた平造に、顔を近づけると、頬をすぽめ、いきなり、男の顔にぺッと唾を吐きかけた。
 つい先程まで、永年、女中として使っていた女に、軽蔑され、唾を吐きかけられる……それは、重役として人を使うのに馴れた平造にとって、耐え難い屈辱だった。
 ゆっくりと、額から鼻を伝って流れた光子の唾が、彼の唇を濡らすと、情けなさの余り紅潮した平造の頬に涙が伝う。
「アラ、この男、泣いてるわよ。フフッ、ようやく自分が辱められている事が判ったようね。いいわ、今度は私の番よ……ホレ、お前、口をお開けよ」
 風邪気味の富美子は、身を乗り出すと、鼻を二、三度啜って咽喉を鳴らし、カーッと平造の口中深く大量の痰を吐き込んだ。
 粘っこい青痰が、彼の咽喉の奥に張りつき、生臭い塩味が口中に拡がる。
 激しい不潔感と屈辱感で、平造の目は眩み、身体がおこりにかかったように震えた。
 若い女に痰壷にされる情けなさ、それにも増して、抵抗出来ぬまゝに女に嬲られる悔やしさが胸に込み上げ、思わず鳴咽が洩れる。
「ホーラ、泣き出してる。いいざまね……私の痰、よく味わうのよ……どおー? おいしい? アラ、返事がないのね。じやあ、アンコールよ。口を開けて……ソーラ……ウフフ、随分、悔やしそうね」
 側に坐っている光子も、最早、富美子を止めようとはせず、平造が嬲り抜かれるのを、ニヤニヤ笑いながら見守っている。
 明らかに、彼女も平造を辱めるのに、興味を持ち始めたのである。

「お前、こっちをお向き……ソレ、そこで、四つん這いになって御覧!」
 光子の声の調子には、先程までの怒りにも似た激しい軽蔑に代わって、コントロールされた調教師の冷静さと厳しさが伺える。
 もちろん、主人だった男に対する気遣いなどは、毛頭残されていなかった。
「ホラ、私の足をお舐め! 汚れを全部吸い取るんだよ」
 平造の顔の前に、スッと光子の脂ぎった素足が伸びた。
 薄汚れた足の裏が平造の口の上に押し当てられ、催促するように軽く唇をねじった。
 慌てて舌を一杯に出して、かかとから土踏まずにかけて、力を込めて舐め上げる。
 幾分、ザラザラとした感触と苦い塩味が口中に拡がる。それに加えて、汗ばんだ足指の間から、饐えた臭いが鼻を突いた。
「マーマー、情けない格好だ事! まるで犬そっくりね……どうだい、姉さんの足の裏の味は? おいしいかい?」
 横から富美子に罵られると、ひとしお惨めさが増す。
平造は、込み上げる熱いものを飲み下すようにして、ていねいに足指の間に舌を這わせ、指を一本一本、口に含むようにして汚れを清めた。
「今度は、こっちよ」
 足が組み替えられ、新たな汚れを帯びた、もう一方の足の爪先が、平造の唇を割って差し込まれる。
「さあ、私の顔を見ながら、味わって御覧! フフフッ、哀れなもんね。こんなお前が、今まで、主人づらして私に命令してたかと思うと腹が立つわ。いい事。これからは逆に、お前が私の召使い。私の事は、奥様、主人の事は旦那様、そして、妹の事は富美子様と呼ぶのよ」
「ちょっと、姉さん。召使いなんて、こいつには、もったいないわ……いっそ、私達の奴隷にしましょうよ」
「フフフッ、それもそうね……コレ、お前は、私達の奴隷になるんだよ。いいね、判ったわね!」
 平造の屈服を促すように、彼の口中の光子の足指が、ぐいぐいと彼の上顎を突き上げ
る。
「ウウーッ、わ……か……り……ま……た」
 平造の口からは、切れぎれに不明瞭なくぐもった声が洩れる。
 傍から富美子が笑いながらつけ加えた。
「クックックッ、ついさっきまで、旦那様で威張っていたお前が、急転直下、奴隷の身分に堕とされて、さぞや悔やしいだろうね……でも、お前の変態ぶりを世間に知られて笑い者になる事を思ったら諦めがつくだろう? フフフ、これからは、姉さんと私が、お前をみっちり仕込んで、何処へ出しても申し分のない一人前の奴隷にしてやるからね……さあ、今度は、こっちへ来て、私の足をお舐めよ!」
 こうして、光子と富美子の姉妹による平造への辱めは、何時果てるともなく続くのだった。

 奴隷宣言
 その晩、たまたま、夫の次郎が出張で留守だったため、その日は富美子が泊まって行く事になり、平造は二人に命じられるままに、家事にこき使われた。
 もちろん、今までのように、食事の支度をして貰うどころか、女達の夕食の給仕をさせられた後、二人の残飯を台所の土間で、それも犬のように四つん這いになって食べさせられたのである。ようやく許されて寝床に入ったものの、そのまま寝つかれるはずがない。
 予想だにしなかった今日一日の出来事が、そして、永年女中として使って来た光子とその抹の富美子に、文字通り嬲り者にされた悔やしさが、次々と込み上げて来る。
 結局、明方まで、まんじりともせず過ごした後、とろとろとした。
 ハッとして目覚めると、もう陽が高い。時計を見ると、昼を回っている。
 慌てて、身づくろいをして階段を降りて行ったが、階下の賑やかな話し声に、思わず足がすくんだ。
 気後れする心を励ましながら、そろそろと、広いリビングルームに入る。
 光子と何かい合って、出張から朝帰りしたのであろう、光子の夫、次郎が、陽の当たる窓際の食卓で、談笑しながら昼食を取っているのが目に入った。
「アラ、お目覚めね」
 光子の明るい声が、いつものように笑顔と
ともに平造を迎える。
 明るい窓を背にした光子のウェーブのかかった髪が、キラキラと光った。
 全ては平常で、昨日の事は、まるで現実とかけ離れた悪夢のように思えた。
〔何だ、彼女は許してくれたんだ〕
 心の中で呟くと、途端に肩の荷が下りたように感じ、ホッとして、平造は自分の席につこうとした。
「そこで、止まって!」
 光子の鋭い声が飛んだ。平造の心職はギクリと大きく震える。
「昨日の事を忘れたの! お前はもう奴隷なのよ。そこの床に正座しなさい」
 光子の声は、一転して、冷たく響いた。
「何してんの。さ、早く!」
 女の剣幕に気押された平造は、光子の足元にへたり込んだ。
「オイ、みんな聞いたぜ。お前は、呆れ返った変態野郎だったんだな」
 次郎の声にも態度にも、平造への軽蔑が、ありありと現れている。
「ホラ、旦那様に挨拶しないか! お前の新しい身分を申し上げるのよ。額を床に擦りつけてね……そう、その調子よ。さあ、私の言う通り、繰り返して御覧」
 昨日まで使用人だった二人が座る椅子の前に土下座して、屈辱的な挨拶をさせられる。
 平造の心は、みじめさで一杯だった。自然に咽喉が詰まり、声がかすれる。
「わ、わたしは、光子様と、富美子様に、昨日から、ど、奴隷の身分に……堕とされました……今日からは、お二人を、旦那様、奥様と呼ばして頂きます……ど、どうか、私を、末永く、奴隷としてお召使い下さい」
「フーン、奴隷ね! もっともお前みたいな変態には、ふさわしい身分かもな……何しろ女達の汚れたパンツを、それも、毎晩舐めてたって言うじやないか……お前も会社の重役まで勤めた男だろう。エ!、どうなんだ? 恥ずかしくないのか?」
 平造は一言もなかった。床に擦りつけた額が、そして肩が小刻みに震えている。
「ホラ、顔を上げて御覧。これを口の中に入れて味わうんだよ!」
 平造の目の前に、光子が突きつけたのは、じっとりと濡れた白いパンティである。
 プーンと、晒粉をまぷしたような、刺激臭がした。口に頬張ると、布地に吸い込まれていたもったりした粘液が、唾液に溶けて口中に拡がる。淡い味だが、しつこい臭味があって、思わず吐き出したくなる。
 平造が顔をしかめているのを見て取ると、光子はニヤニヤ笑いながら、言葉を継いだ。
「どうやら、余りお気に召さないようだね。でもね……フフフ、お前は、今日から毎晩これをたっぷり味わうんだよ……まだ判らないのかい。お前の旦那様と奥様のセックスの味だよ。さっき、この人が帰って来て早速一発やったのさ。お前が舐めているのは、その時の後始末をしたパンティさ……もっとも、今夜からは、お前の舌で後始末するんだよ……どうしたのさ……フフッまるで、鳩が豆鉄砲をくらったような顔してるじゃないか」
 平造は、頭をガンと殴られたようなショックを受けた。
 事もあろうに、女中夫婦のセックスの後始末を、舌でさせられるとは!
 次郎は、冷たい目で足元の平造を見下ろしながら、コーヒーを啜り終えると、腰を上げた。
「こいつは素質があるぜ。ホラ、SM雑誌に時々あるだろう……女にいじめられて喜ぶ男さ。マゾ、って言ったっけな。こいつを、お前と富美子でマゾ男に仕込んでやるんだな。俺は、ひと足先にシャワーを浴びて来るぜ。お前も、身体を洗う前に、まだあそこに残ってる分を、こいつに吸わせたらどうだ」
 この家のリビングルームは、いわゆるワンルーム方式で、食事コーナーの反対側で、ソファにくつろげるようになっている。
 その部分には、厚いペルシャ風の絨微が敷かれ、大型のテレビが置かれてあった。
 光子は、煙草に火をつけると、立ち上がってソファの方へ移り、平造を召く。
「こっちへおいで……オヤオヤ、足が痺れたのかい。いいんだよ、立ち上がらなくっても。そのまま、四つん這いで来るのよ。ウフッ、情けない格好だ事……どれ、パンティを出して御覧。まあ、唾でベトベトだわ。も
ういいから、後でよく洗っておくのよ」
 光子は、ソファに腰を下ろすと、前に屈み込んで、目の前に四つん這いになって控えている平造に、フーッと煙を吐きかけた。
「さっき、うちの人が言っている事、どう思う? お前、マゾ男に仕込んで欲しい?」
平造は、懸命に首を振った。
「アラ、いやなの……でも、お生憎様。私達は、お前を奴隷にしたのよ。お前がどう思おうと、御主人様である私達の意志が優先するの。でも、面白いじゃない、女にいじめられて喜ぶ男なんて……どうせ、お前は、この家で一生女の嬲り者になるんだもの。お前にとっても、そうなった方が幸せよ。どおお? そう思わない?」
 平造の顔は蒼白だった。次郎に、マゾの素質があると言われたのもショックだったが、光子に、この家で一生嬲り者にすると宣言されたのは、背筋が凍るような衝撃を彼に与えたのである。
「アラ、忘れてたわ。あの人が言ってたように、残りものを吸うのよ」
 光子は、平造を足元の絨毯の上に、テレビの方に頭を向けて、仰向けに寝かせた。
 リモコンでテレビのスイッチを入れると、平造の顔を跨いで立つ。
 スカートの下から見上げる平造の目に、何もつけていない彼女の股間の黒い繋みが、鮮やかに映った。
 スッとその繁みが落下して来て、彼の目の前でピタリと止まる。縮れ毛がミルク色の蜜にべっとり濡れ、その間から覗くピンク色のクレバスに、溢れ出した白濁した粘液が帯状にねっとりとへばりついていた。
 ツーンと来る刺激臭は、さっきのパンティと同じだが、グロテスクな肉襞にまつわりつく糊状の分泌液は、今からこれを口にさせられるのかと思うと、我知らず吐気を催す程の不潔感で平造の視覚に映った。
「さ、しっかりお舐め!」
 光子は前屈みになって狙いをつけ、じわりとクレバスを平造の唇に押し当てる。
 鼻が、濡れた繋みの中で辛うじて呼吸を許され、女の股間を通して見上げる平造の目は、光子の蔑みを湛えた視線に威圧された。
 光子の尻が、催促するように、グイと前後に揺すられ、平道は慌てて舌を延ばし、唇を柔肉に這わせて粘液を吸った。
 ズズッとびっくりする程大きな音がして、先程と同じ味の、しかし今度は質感に溢れた濃縮ジュースが、平造の舌を伝い咽喉を焼く。
ゴクリ、と咽喉仏が震え、胃が大きく上下した。
「その調子だよ。奴隷の身分がどんなもんかよく判ったわね。フフフッ」
 女の太腿に挟まれた耳には、光子の嘲笑が遥か遠くからの声のように聞こえてくる。
 それにしても、残りものとは思えぬ量の多さだった。
膣の空間に蓄えられた多量の精液に、女の分泌物が混った、文字通りのミックスジュース。それが、平造の舌の動きに誘われ、止めどもなくじわじわと流れ出て来る。
 光子は、テレビの画面に熱中していると見えて、その尻は次第に重さを加えて、平造の顔面を庄迫した。
 顔を女の股間に敷かれ、セックスの残滓を吸わされる屈辱に、平造の理性は痺れ、光子の意図通り、奴隷としての卑屈な従属性を彼の意識下に植えつけていったのである。
 シャワーの後で、ソファにくつろぐ二人の足元で、古い洗面器の中に捨てられた残飯に、顔を突っ込む平造の姿は、飼い馴らされた柔順なペットそのものだった。
 突然、家の前の通りにトラックの止まる音がして、オクターブの高い富実子の声が飛び込んで来た。
「姉さん、荷物を運んで来たわよ。アラッ、お義兄さん、帰ってらしてたの」
「今朝、富美ちゃんが出てったすぐ後さ。でも、早速、引越して来るなんて富美ちゃんらしいな……それで、荷物は全部ついたのかい?」
「それが、トラックが小さいもんだから、もう一往復いるの」
 声を明るく弾ずませて、ソファに腰を下ろした富美子は、四つん這いの平造を見て、思わずクスッと笑う。
「すっかり、奴隷らしくなったわね。そうだわ。姉さん、こいつに引越しの手伝いをさせていいでしょう。さ、お前、私と一緒に、トラックで荷物を取りに行くのよ」
 運転手の側に座った富美子に、荷台に乗るように言われた平造は、簡易舗装の曲がりくねった山道を飛ばして行くトラックの背で、懸命に荷箱にしがみついていた。
 富美子が、突然、姉と同居する気になった理由は、平造にも解し兼ねたが、どうやら姉の光子と二人で毎日、平造を奴隷としてこき使うつもりのようである。
 まだ独身の富美子は、両親の家で家事を手伝いながら、洋裁学校に通っていた。
 かなり広い農家の前庭にトラックを乗り入れると、富美子は、しょげかえっている平造にビシビシと命令して、積み残した荷物を運ばせる。
 家人がみんな、仕事に出払っていて、女に顎で使われる平造の無様な様を、見られないで済んだのが、せめてもの救いだった。
 荷台の荷物に埋まって引き返すと、今度は、前に運んだ分も併せて、二階に運び上げる仕事が待っている。
 驚いた事に、平造が留守にした間に、二階の筆筒や戸棚の中の平造の衣類が、すっかり空になっているではないか。
 あっけに取られている平造に、光子がニヤニヤ笑いながら、説明した。
「お前のものは、みんな古着屋に引き取らせたわ。奴隷には身分不相応なものばかしだもんね。お前は、主人のお古、それも、作業衣があればいいのよ」
 気ぜわしい足音を立てて、二階に上がって来た富美子が、じれったそうに声をかける。
「平造、何をボヤボヤしてるのよ。早く、荷物を運ぶのよ! これからは、二階は私が使うんだからね。お前は、今夜から下の納戸で寝るんだよ」
 それは、平造に、自分がこの家では奴隷の身分に堕とされている事、そして、それにふさわしい待遇を甘んじて受けねばならぬ事を、改めて思い知らせた。
 慣れない仕事で、ぐったりと疲れの色を見せる平造だったが、二人の女は容赦しない。
 床の拭き掃除から、トイレや、バスルームの清掃まで、次々と命令が飛んだ。
 床に這いつくばって額に汗を浮かべ、のろのろと雑巾を使ぅ平造の目の前に、富美子のスラリとした足が近づいた。
「疲れたのかい? 動きが鈍いよ……そうだ、気つけ薬をやろうか」
 片足が上がり、柔らかいピンク色の布地がスルッともう一方の足を滑り落ちて、女の形のよい足首にからまる。富美子の手が、それを裏返しながら抜き取ると、平造の鼻に押し当てた。
「さ、お前の好きな汚れたパンティだよ。 生理が近いから、臭いが強いだろう? さ、口を開けて! 掃除しながら、舌で清めるんだよ」
 ボンと頭を蹴られて、平造は慌てて雑布を動かす。
こんな小娘に馬鹿にされて……と思わず悔やし涙がにじむが、口中のパンティのむせるような臭いと味に、平造の頭は次第に痺れていった。

 禁治産者
 ひとわたり仕事を終え、トイレの隣にある納戸の戸を聞けると、淀んだ黴臭い空気が鼻を突く。
 小さな天窓からの光で、六畳程の広さの板張りの床と、その周囲を囲む整理棚が目に入った。隅には平造の下着頬と、光子の夫の次郎のものらしい染みのついた作業衣が、古布団の上に無造作に重ねてある。
 ここで今夜から寝泊まりするのかと思うと、情けなさで胸が一杯になった。
 ふと思いついて、書斎に入り、机の引き出しを聞けようとしたが、意外にも、どれも鍵がかかっている。戸棚の中に作りつけになっている金庫も、ダイヤルがロックされていて開けることが出来ない。
 あたりを、キョロキョロ見回していると、クックックッと女の含み笑いが聞こえた。
光子だった。
「お生憎様、鍵は私が預かってるわ。引き出しと金庫の中の書類や現金は、しばらく私達が保管する事にしたの。第一、この書斎は、主人が使ぅんだから、掃除の時以外は入っちゃ駄目よ」
 書斎を押さえられると、これで、この家は光子夫妻と富美子に完全に占拠された事になる。がっくり首をうなだれる平造に、勝ち誇った光子の含み笑いが浴びせられた。
 その夜の事である。
 夕食を終えてソファーにくつろぐ三人の足元で、四つん這いになって残飯の入った容器に首を延ばそうとした平造を、富美子が押し止めた。
 容器を持って部屋を出た彼女は、間もなくニヤニヤ笑いを浮かべて戻って来る。
「ホラ、味つけに、特製のスープを入れて来てやったよ。お食べ!」
 見ると容器の中の残飯に、たっぷりと汁がかかり、鼻を近づけるとプーンと異様な臭気がした。
「フフフ、判る? 私のオシッコをかけて来たのよ。お前みたいな変態奴隷には、ぴったりの御馳走だわ……そうだ、これからは、お前の食事は何時でも、私か姉さんのスープつきにしてあげる。よく、その味を覚えておきなさい」
 それは、まさに、平造の我慢の限界を越えた辱めだった。
 しばらく、四つん這いのまゝ首を垂れていた平造は、やがて意を決すると、身体を起こして三人の方へ向き直った。
「き、聞いてくれ。確かに私は変態かも知れない……しかし、こ、これは、あ、あんまりだ……た、たのむから、もう私を許してくれ……私は、この家から出て行く。財産も半分やろう……だ、だから、もう勘弁してくれ。お願いだ」
 咽喉から絞り出すような平造の嘆願に、三人は、思わず、お互いに顔を見合せる。
 しばし、沈黙が一同を包んだ。
 最初に口を開いたのは、光子だった。
「とうとう、音をあげたわね。でも、もう手遅れよ。今となっては許すわけには行かないわ。第一、この家を私達の名儀にしたのは、お前も同意した通りよ。そして、第二に、お前の残りの財産は、もう全て私達が処分済みよ」
 光子の夫の次郎が、後を続けた。
「お前が、毎晩女のパンティを舐めでいる事が判った時に、俺達は決心したんだ。こんな男を主人として仕える代わりに、俺達が主人になろうってな。だから、お前の不動産や証券頬は、こっそり全て処分したし、お前名義の銀行口座も、もうないんだ。もちろん、金庫の中の現金も、今は俺達のものさ」
「…………」
「法律的に完璧を期するために、お前の疾病診断書を作って、お前を禁治産者にする届けも出したんだ……病名は"色情狂"さ。ハッハッハッ」
「ちょうど、親戚に精神科の医者がいるの。でも、最初は診察しないと診断書は書けないって頑張るので、苦労したのよ。結局、あの写真がものを言ったわけ」
「だから、法律的にも、お前の財産は、俺達が全て相続済みさ。それに、"色情狂"の患者を、俺達"保護者"が世間に野放しにするわけに行かないのさ」
 光子と次郎が、交互に説明するのを、平造はまるで放心したかのように、ポカンと口を開けて聞いていた。実のところ、驚愕のあまり口も利けない状態だったのである。
 今まで、黙っていた富美子が、頃合いを見て平造の後ろへ回り、トンと背中を蹴る。
 前のめりに、四つん這いに戻った平造の首に足をかけ、目の前の容器の中へ、ぐいと平造の顔を押し込んだ。
「さ、お上がり……判ったろう。お前は、永久に奴隷の身分さ。諦めて、奴隷にふさわしい食事をするんだよ」
 容器の中から、クックッと嗚咽の声が洩れる。富美子の足に力が掛かり、平造の顔は、汚水のかかった残飯に押しつけられた。
 ピチャピチャと舌を鳴らして、臭味に満ちた汁とともに、残りものを咽喉に送り込む平造の浅ましい姿に、三人は強い蔑みを感じながら、見守っていた。
 それから一週間が過ぎた。
 過ぎてみればアッという間だったが、平造にとっては、毎日が、何倍もの長さに感じられる耐えがたい日々であった。
次々に、光子と富美子が考え出す新たな辱めは、その都度、平造を動転させ、やり場のない悔やしさと、みじめな諦めを交互に味わせる。
 中でも、午後になると、毎日のように富美子が連れて帰って来る洋裁学校の生徒達の前に引き出されて、彼女達の慰み者にされる辛さは格別だった。
 一見、優しそうな若い女達の本性が、弱者に対してはかくも意地悪く、冷酷なものであろうとは、平造も、つゆと思い至らなかった事実である。
 庭の芝生にたむろした総勢七、八人の女達の前に、素っ裸にされた平造は、犬の首輪を穿められて、富美子に首の鎖を握られて、四つん這いのまゝ引き出されたのである。
 ワーッという嬌声が、一せいに弾じけ、好奇心の塊りのような女達の視線に囲まれた平造は、恥ずかしさに身の縮む思いだった。
「コレッ、平造、皆さんに御挨拶をなさい!……どうしたの? 教えた通りに出来ないのなら、もっと恥ずかしい目に通わせるわよ」
 観念した平造は、言われた通り身体を起こして、両手首を胸の前で垂らし、芝生の上でしゃがんだまゝチンチンの姿勢を取って、クーンクーンと犬鳴きをする。
ドーッと女達の間で爆笑が起こった。
「ホラ、尻尾の代わりに、お尻を振るんだよ」
富美子が、おかしさをこらえながら、追い打ちをかけるように命令する。
 しゃがんだまま、懸命に尻を左右に振ると、前に丸出しになった男のものが、ブラブラ揺れた。
「ヒーッ、ヒッヒッ……ああ、おかしい!」
 ひとりが、それを指差して笑い転げると、女達の間に、たちまち漣のように、ゲラゲラ笑いが拡がった。
 平造の顔は、恥ずかしさの余り、赤さを通り越して、赤銅色になっている。
「プッ! 本当にいい格好だ事。お前が、そんな情けない身分に堕とされた理由を、みなさんに説明してお上げ!」
 富美子は、なおも容赦しなかった。
 平造は、もう半ば焼けくそ気味である。
 富美子の言葉に誘導されながら、毎夜女のパンティを舐める恥ずかしい性癖を、ポツリポツリ、告白させられた。
「それで、私のパンティと、姉さんのと、味がどう違っていたの?」
「そ、それは、富美子様のは塩辛くて……そして、光子様のは、苦味が混っていて……」
「アラ、いやだ。それは、私のパンティに残っていたオシッコの味と、姉さんのについていた下痢便の味の比較でしょう? 本当にいやらしいったら、ありゃしない!」
 富美子が、大げさに顔をしかめて見せるとまた、ひとしきり、失笑が起こる。
「ねえ、お前。ここまでみんなの笑い者になったんだから、恥のかきついでに、皆さんにお願いしてパンティを舐めさせて頂いたらどうなの? ウフッ、きっと堪能するわよ」
 平造は、カーッと頭に血が昇って、最早、自分の意志を失っている。繰り人形のように、富美子から言われるまゝ、正気なら到底考えられないような恥ずかしい願いを、我知らず口にしていた。
「キャーッ、へんた−い!」
「いやだー、いやらしい男!」
 口々に、嬌声があがる。
 そのうち、ざわめきが治まると、女達はクスクス笑いながら、相談を始めた。
 やがて、話がまとまったとみえ、大柄な派手な顔立ちの女が、一同を代表して、ニヤニヤ笑いながら、四つん這いの平造の前にしゃがみ込んだ。
「お前、私達の臭いパンティを舐めたいんだって? 恵んでやってもいいよ……どおお? 嬉しいかい?」
 頭から男を馬鹿にした口調だった。
 フレアスカートの裾が、膝まで持ち上げられて、平造の目の前に水玉模様のパンティがこぼれる。突然、ピシッと平造の頬を平手打ちが襲った。
「いやらしいよ 何処を見てるんだい」
 平造は、ぐっと、無念さをこらえて唇を噛みしめる。
「でも、条件があるわ……それはね、フフッ、これから、毎日ここで私達みんなのおもちゃになるの……判った?」
「…………」
「判ったら、返事をおし!」
 富美子が、四つん這いの平造の裸の尻を、後ろからイヤという程蹴る。
 ぐらっと彼の身体が崩れ、前のめりに女の股間に顔を突っ込む形で倒れ込んだ。
 目の前の水玉模様がぐっと近づいてぼやけ、鼻が股間の部分に押しつけられると同時に、ツーンと、あの饐えた臭いが、平造の嗅覚を刺激する。
「バッカー。こいつ、何処まで変態なんだろう」
 女は、じやけんに股間で平造の顔を押し上げるようにして、立ち上がった。
 重心を失った平造は、もろくも平蜘蛛のように地面に這いつくばる。
 その後頭部を、女のハイヒールが、ぐいと踏みにじると、彼の顔面は地面にビクリと押し付けられた。ムッとする芝の草いきれが鼻に飛び込んで来る。
「ね、ねえ。みんなで何かゲームをしない?……もちろん、この男を嬲る遊びよ」
 気まぐれで、自己本位の若い女達の発想は平造の想像の外である。たちまち、誰からともなく奇妙なゲームが提案された。
「そうだ! 唾入れ競争がいいわ」 
「それ、一体な−に? 初めて聞いたわ」
「そうでしょう。私が、たった今発明したんだもん……つまり、こいつの口を狙って、私達が、順番に高い所から唾や使を落とすの。ちゃんと入ったら一点、外れたら0点よ」

「へえー、面白そうじゃん。そう言えば、こいつ、富美子に痰を飲まされたそうよ。女の痰壷にされる男って、どんな顔するのか見ものだわ……ちょっと、お前、そこへ仰向けに寝て、大きく口を開けるのよ」
 それは、平造にとって、目の眩むような屈辱の行為だった。
事もあろうに、若い女達の唾や痰を口で受けさせられるのである。
 後に、痰壷ゲームと名づけられたこの遊びは、彼女達のお気に入りのゲームのひとつとして、毎日のように繰り返された。
 立ったまゝ、真上から平造の口を見下ろす女が、咽喉を鳴らし、口をすぼめる。
 と、たっぷり口中に溜められた痰混りの唾液が、平造の口をめがけて落下して来る。
 それが、彼の咽喉の奥に命中した。
 途端に、屈辱に歪む彼の顔を、上から嘲笑を浮かべて見守る女。その顔が、平造の視野の中で、悔やし涙でぼけていく。
 次々と、新手の女の唾や痰が、彼の口を襲った。平造の咽喉が、そのたびにごくりと上下する。
「わ−い、また、入ったわ。私、これで五点よ!」
 時には、狙いが外れて、彼の鼻や顎に、それが落下する。
「あらー、外れた。あ、でも見て見てぇ! 中に入っていくわ……ひゃ−っ、幸ぅじてカップインね」
 彼の唇に引っかかった唾の塊りが、ぬるりと口中に入り、ワーッと嬌声があがる。
「ねえ……こういうのは、○・五点にしようよ」
 弾ずんだ声が飛び交い、陽気な笑い声が溢れるうちに平造の顔は、みじめにもベトベトに汚れ、口中に溜まった汚物が次々に胃の中に送り込まれていった。
 しばらくして、次に、女達が考え出したのは、チンボールと称する、文字通り珍妙なゲームである。平造の一物の根元に、二メートル程の細い紐が結びつけられ、その先にプラスチックの練習用ゴルフボールが結びつけられている。
 女達は、四つん這いで走る平造を追いかけ、争ってそのボールを平造の急所めがけて蹴る。うまく当たれば十点、外れても身体の何処かに当たれば、一点という計算だった。
 プラスチックの軽いボールでも、急所に当たれば、かなりの痛さである。
 女達の嬌声に追われるように、真剣に逃げ惑う平造の額には脂汗が浮かんでいた。
 その日以来、こうした平造に対する辱めが、洋裁学校帰りの女達によって、毎日のように繰り返されるようになった。
 新しいゲームも、次々と考え出されていく。
二日目からは、代わりのパンティを持参した女達は、平造の目の前でパンティを穿き替え、次々と、汚れた部分を彼の口中に押し込み、清めを強いた。
 一方、光子と富美子の手による平造の奴隷教育は、日を経るごとに、効果を高めていった。
 一週間目には、平造は、もはや納戸で寝る事すら許されず毎夜、次郎と光子の夫婦の寝室のベッドに、犬のように繋がれ、毎晩のように夫婦のセックスの後始末をさせられた。
 光子のボリュームのある尻に顔を敷かれ、生暖かい夫婦のセックスの汁を啜らされるたびに、彼の胸には、新たな屈辱の念が呼び起こされる。
 それから数週間後、何時ものように、光子の尻の下で後始末をさせられている平造に、彼女は意地悪く宣言した。
「この部屋は、トイレが遠いでしょう。お前、今日から私の便器におなり! このまゝ口を聞けて、こぼさないように、私のオシッコを全部飲むのよ……フフフ、悔やしい?
ソラ、いくわよ」
 チョロチョロと、汚水が平造の口に注がれる。ゴクリ、そしてまた、ゴクリと彼の咽喉が鳴った。クックックッと光子の満足そうな笑い声に、平造は、めくるめく屈辱感の中に、奈落の底に転落していく自分を、強く意識するのだった。
(完)
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1986年8月スピリッツ8月号
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2010/06/04