#18 汚辱の濡衣(転落の夏山合宿)                  阿部譲二作

都内の大学に入学した男が美しく成人した幼馴染に出会い勧誘されて山岳部に入る。部のダンスパーティで彼女の親友の女性が暗闇の中で何者かに強姦され、彼に疑いが掛かる。その女性は彼を犯人と名指して自殺。濡れ衣を着せられた彼は女性達の夏山合宿でリンチを受けることになる。20名を超える女子部員に嬲り者にされ幼馴染の彼女の便器にされる。

 坂本国夫が都内の一流校K大学の山岳部員
となったのは、四月のK大の入学式が終った
直後のことである。
 それまで、特に山の経験があったわけでは
なく、大学に入ったら山岳部に入ろうと心に
決めていたわけでもない。ただ、小説や映画
に現れる美しい大自然の中での山のたたずま
いに、青年らしい一種のロマンチックな夢を
描いていたにすぎなかった。
 入学式に出席してみて、初めて、一年間の
浪人生活と苦しかった受験勉強がこれで報い
られるという実感、そしてワーッと大声を出
して小躍りしたいほどのみずみずしい解放感
を味わった国夫は、無意識の内に何か未来へ
の足がかりとなるような新しい経験を求める
気持で一杯だったのである。
 式場を出ると、広い玄関ホールの一角に飾
られた、抜けるほど青い空をバックにそそり
立つ、銀嶺の写真を大きく引き延したパネル
がまず彼の目を奪った。
 そしてその前に、机をカウンター代りに置
いて、熱心に新入部員の勧誘を行っている山
岳部員と覚しき一団、そしてその中に、活々
として、カウンターに立寄った学生達に応対
している数名の女子部員の姿が目に入った。
 そこには、何か、若者を惹きつける華かな
雰囲気が漂っていたことは確かである。
 後で判ったことだが、彼女等はK大山岳部
の所属ではなく、近くのS女子大にある山歩
きを主体にしたワンダーフォーゲル、略して
ワンゲル部員で、一時的に、ここへ手伝いに
来ていたものだった。
 しかし、K大とS女子大とは地理的に隣接
していることもあって、色々な面での交流が
盛んに行われていた。
 男子部員ばかりのK大山岳部は、S女子大
のワンゲル部に、常に積極的なアプローチを
行っており、年二回の合同ダンスパーティー
の外に、ワンゲル部の夏山合宿に登山指導者
を派遣したり、秋の高原で合同バーベキュー
を企画したりしている。
 従って、学生達が心の何処かで女性部員と
の接触に惹かれて入部に興味をもったとして
も……実は、それが山岳部幹事のひそかな狙
いでもあったが……その期待を大きく裏切る
結果にはならぬ筈であった。
 坂本国夫が大いに心を動かされたことは確
かだったが、未だその場で直ぐに入部手続き
を取るほどの積極性はなかった。
「国夫さん!……坂本国夫さんじゃないの!
……私よ、礼子よ!……忘れたの?」
 突然、そのパネルの前の女性の一人が、彼
に声を掛けたのである。
 ハッとして見ると、それは、国夫と中学ま
でずっと同級だった、と言うより、家が近か
ったこともあって、彼とは幼馴染みの西尾礼
子だった。
 彼女の父が途中で転勤になったため、高校
では別れ別れになってはいたが、異性ではあ
っても、もともと気の合った遊び友達だった
彼女を忘れる筈はなかった。
 しかし、近寄ってみると、四年間の空白を
置いて再会した彼女は、彼にとって見違える
ほど美しい女性に成長していた。
 もともと色は白い方だったが、黒目勝の大
きな瞳がしっとりと光沢を帯び、痩せて尖っ
ていた頬がふっくらとすると同時に、身体全
体に丸味が加わって、成熟した女の雰囲気が
備わっている。
「礼ちゃんかぁ。驚いたな……見違えたよ。
すっかり変って……」
 そう言いながら国夫は心の中では"すっか
り女っぽくなって"とつぶやいていた。
「あら、国夫さんも変ったわ。……第一、背
が伸びてたくましくなったわよ」
「そのへんでお茶でも飲んで話さないか?」
「いいわ。でも国夫さん、ここの山岳部に入
りません? 私はお隣りのS女子大のワンゲ
ル部員なの。来月にはこの山岳部と一緒に新
人歓迎の合同ダンスパーティーがあるのよ」
 国夫が礼子の勧めに応じて、即座に入部申
込書にサインしたのは言うまでもなかった。
「それから、ちょっと御紹介するわ。……こ
ちら、私の親友の栗原朋子さん……私の幼馴
染の坂本国夫さんよ。……じゃあ、そこまで
お茶を飲みに行ってくる間、お願いね」
 礼子の傍に立っていたほっそりした女性が
ニッコリと会釈した。良く見ると、礼子に劣
らぬ魅力的な美人である。
「あっ、坂本です。……どうか宜しく」
「朋子のお姉さんの幸子さんは、ワンゲル部
の部長で素晴しい美人よ。……そのうち国夫
さんにも紹介してあげるわ」
 いつも何か恩に着せるような言い方をする
のが、礼子の昔からのくせであった。
 近くの喫茶店で向かい合った二人は久し振
りで話がはずんだ。
 国男が三年前に父を無くして、今では家族
と離れて一人で暮していることを話すと、彼
女はしきりに気の毒がり、一度彼女の家へ遊
びに来るように熱心に勧めた。
 聞けば彼女の父は、今では都内の大手銀行
の支店長で、一家は経済的にも恵まれている
ようである。
 長話の末、彼女と分れて下宿へ戻る国男の
胸は、明るい希望で溢れていた。
 それから一ケ月がアッという間に過ぎた。
 新しい環境に新しいクラスメート、そして
始めての講義の内容等に馴染む過程での忙し
さで、時間が飛ぶように経過したのである。
 その間に西尾礼子とは、なかなか双方のス
ケジュールが合わず、一回デートしたきりだ
った。そして、待ちかねていたK大山岳部と
S女子大ワンゲル部の合同ダンスパーティー
の夜が来た。
 場所は近くのビジネスホテルのホールを借
り切り、K大の軽音楽団が演奏を担当、パー
ティー券は予定していた二百枚がすべて売切
れの盛況だった。
 西尾礼子も最初は栗原朋子と並んで受付に
座っていたが、パーティーが本格的な賑いを
加える時分から、一同に混って歓談し、華い
だムードをかもし出している。
 最初は気押されて壁際でビールのジョッキ
を傾けていた国夫も、礼子に誘われて新人部
員達のグループに加わり、ダンスに興じる一
方、皆との談話に花を咲かせていた。
「坂本さん、姉を紹介しますわ」
 栗原朋子に肩を叩かれ、振り向いた国夫の
前に、あでやかな大輪の牡丹の花のような大
柄な女性が立っていた。
「栗原幸子です、宜しくぅ。……坂本さんは
西尾礼子さんと幼馴染みなんですってね」
 朋子の二つ年上の姉とのことだったが、顔
立ちは朋子をぐっと派手にした、どちらかと
いうとエキゾチックな美人である。
 それにも増して人目を惹いたのは、紫色の
薄い沙のロングドレスを透して、グラマラス
な豊満な肢体のシルエットを惜しげもなく曝
していたことである。
「ええ……いや、ど、どうも、お世話になっ
てます」
 国夫のドギマギした応対がおかしかったの
か、傍で礼子がクスリと笑う。
「一曲、踊りません?」
 誘われて幸子とステップを踏む国夫の身体
は、コチコチに緊張していた。
 自分の魅力に参りかけているウブな青年に
興味を抱いたのか、幸子は殊更に身体を擦り
寄せてくる。
 太腿が触れ合い、幸子の香ばしい吐息を耳
に感じて、国夫はまるで夢心地だった。
 S女子大出身の有名なプロ女性歌手がステ
ージに登場すると、パーティーは最高潮に達
した。
 プロ歌手の歌に続いて、次々とノド自慢の
男女が飛び入りで登場する。冷やかしや応援
の野次で、場内の熱気は高まる一方だった。
 歌に興味の無い学生は、ホールに続く中庭
の芝生の上で談笑を続け、控室として借り切
った幾つかの客室で、休憩する女性もいる。
 ビールの酔いを醒まそうと芝生の上に出た
国夫は、いつしか中庭を横切って、花壇のあ
る人気の無い裏庭へ迷い込んでいた。
 近道をして引き返すつもりで建物のなかに
入り、控室に当てられた客室の並ぶ廊下を、
ホールに向かった時のことである。
 たまたま通り過ぎた客室のひとつの中で、
ガタンと物音がし、女の悲鳴らしい声がかす
かに、しかし、はっきりとドア越しに聞き取
れたのである。
 ハタと足を止めた国夫は、ドアに耳を寄せ
てみた。暫く静寂が続き、あきらめて立ち去
ろうとした時に、今度は中から〔助けて!〕
という女の声が聞こえた。
 ドアのノブに手を掛けてみたが、キイがな
いと外からは開かない方式になっている。
 それでも、ガチャガチャと把手を動かして
ここに誰かいることを中の女性に知らせよう
とした。
 と、突然、まるで国夫に中へ入ってくれと
いわんばかりにドアが中から開けられ、戸に
身体を押付けていた彼は、はずみで中へのめ
り込む。
 途端に何者かに足を払われ、暗闇の室内に
うつ伏せに倒れ込んだ。
 床の絨緞にしたたか顔面を打ちつけた国夫
は、鼻を強打して、瞬間フッと気が遠くなり
かける。
 その隙にバタンとドアが締り、誰かが外へ
逃げ出した気配を感じたが、直ぐに立ち上っ
て後を追う気力は無かった。
 少し時間を置いて、やっと立ち上った国夫
は、壁をまさぐって室内の明りを点ける。
 パッと照らし出された室内のベッドの方に
目をやって、国夫は思わずアッと驚きの声を
上げた。
 そこには、あの栗原朋子が、スカートをた
くし上げられ下半身をむき出しにしたまま、
気を失なって横たわっていたのである。
 しどけなく開かれた股間からは、赤いもの
に混ってドロッとした男の精液らしいものが
流れ出し、シーツを濡らしている。
 誰の目にも彼女がたった今、暴行を受けた
ことは明らかだった。
 生れて初めて出合った異常な事態に、国夫
の頭は混乱する一方、彼は、初めて明るみで
見る女陰の生々しさに、息を飲むほどの刺激
を受けたのである。
 ベッドの足元に落ちていたピンクのパンテ
ィーを拾い上げ、穿かそうとはしたものの、
股間を清める方が先と思い直し、無意識にそ
れをポケットに突っ込んで、浴室にタオルを
取りに行こうとした。
 その途端に、朋子がウウーンと呻き声を上
げる。意識が戻ったかと慌てて彼女に近付い
たが、依然目を閉じたままである。
 肩を掴んで揺すっても、手ごたえがない。
 途方に暮れて人を呼びに行こうとしたが、
せめてむき出しの股間を覆ってからと、ベッ
ドの横に落ちていた毛布を手に取った。
 そのまま毛布を掛けて助けを呼びに行って
をれば、その後国夫の運命が大きく狂うこと
は無かったであろう。
 しかし、初めて間近で見る女陰への強い興
味が国夫の手の動きを瞬時止めさせ、彼は誘
惑に負けて、意識を失なった朋子の股間に顔
を寄せた。
 プン、と鼻を打つ生臭い匂いに興奮した彼
は、そっと指を彼女のラビアに触れ、軽く押
し拡げてみた。下から現われた膣孔からは、
処女のあかしである鮮血が、白濁した男の精
液に混って流れ出している。
 その瞬間、朋子が身体を動かし、再び呻き
声を立てた。
 慌てて国夫は身を起すと、上へ移動して彼
女の顔を覗き込み、両手で軽く頬を揺すって
みた。
 その時だった。……意識を失っている筈の
朋子が頬に添えられた国夫の指に噛み付いた
のである。
 仰天した国夫は、慌てて彼女の口から無理
矢理指を引き抜く。
 途端に、朋子の〔助けて!〕と言う悲鳴が
響いた。
 動転して完全に理性を失った国夫は、身を
ひるがえしてドアに走った。
 廊下に出た彼は、向こうから一団となった
人の群が近ずいて来るのを見て、本能的に反
対の方へ走る。
 何人かが後を追って来るのを感じて、裏庭
から会場の外の道路へと逃走したのである。
 下宿へ戻っても、しばらくは胸の動悸が収
まらず、我ながら馬鹿なことをしたと、ほぞ
を噛む思いだった。
 このままでは済むまい、との予感があった
が、もしかして、朋子の意識が完全に戻って
なくて、彼の顔を識別していない可能性があ
ると自らに言い聞かせた。
 しかし、それはやはり、はかない希望に過
ぎなかったのである。
 一時間程して下宿を訪れた山岳部の幹事に
伴われ、彼は再び、深夜の会場に連れ戻され
た。……そして、パーティーも終り静まり返
った会場には、被害者の栗原朋子を除く関係
者全員が待ち構えていた。
 警察関係者の姿こそなかったが、一同の中
には、もちろん姉の栗原幸子や西尾礼子の顔
も見える。
 山岳部幹事の、質問、というより尋問に対
し、国夫はありのままをスラスラと語ったが
皆の前ではさすがに朋子の裸身に魅せられて
局部を覗き込んでいたとも言えず、意識を失
なっていた朋子を揺り起したところ、勘違い
した彼女に加害者と間違えられて叫ばれ、動
転して下宿へ逃げ帰ったとのみ陳述した。
「では、君は加害者と思しき男が逃げ去った
後、栗原朋子を揺り起した……つまり、君自
身は一切彼女に危害を加えていないと言うの
だな?」
 山岳部の先輩の言葉に、国夫は強くうなず
いた。
「嘘よ! この人、嘘いってるわ」
 横から栗原幸子の鋭い声が割り込んだ。
「朋子は今、病院にいるけど、私達にすべて
を話したのよ。……暗闇で襲われたので最初
は誰だか判らなかったけど、ふと気が付くと
明るくなっていて、あなたが彼女の下半身に
いたずらしていたと言っていたわ」
 更に、山岳部の幹事が、厳しい顔付で後を
続ける。
「君は知らなかっただろうが、朋子さんは大
分前から意識を取り戻していて、君のしたこ
とを一切見ていたんだ。……ただ、最初は、
意識が戻ったことが判ると顔馴染みの君に殺
されるかも知れぬと、恐怖で身体がすくんで
声が出なかったそうだ」
 そして今度は、西尾礼子が内心の憤りを抑
え兼ねたとみえ、咎めるような厳しい口調で
続ける。
「それが……あんまりいやらしいことをする
んで、たまり兼ねて、悲鳴を上げたんですっ
て!」
 国夫は傍目から見てはっきり判るほど赤く
なり、ソワソワしだした。
「そ、それは……でも、僕じゃない! 本当
だ……朋子さんは勘違いをしてるんだ!」
 その狼狽ぶりは、彼の無実を周囲に信じさ
せるより、逆に、皆の疑いを増したに過ぎな
かった。
 しかも、その疑いは、幹事の提案でその場
で彼の身体検査が行われ、ポケットの中から
彼がすっかり忘れていた朋子のパンティーが
出てくるに及んで、決定的なものとなった。
「これが朋子のものでないとは言わせないわ
よ。……これで、あなたが嘘を言っているこ
とがはっきりしたわね! 第一、潔白なら、
現場から逃げ出す筈がないわ」
 国夫の顔が、今度は蒼白になる。
 今や、状況は彼にとって決定的に不利なこ
とは明らかだった。
 何を言っても信じて貰えないと直感した彼
は、唇を固く噛んで黙り込んでしまう。
 それは、誰の目にも自分の有罪を認めたも
のと映った。
 警察へ突き出そうとの幹事の提案は、朋子
の世間体をおもんばかって一時保留となる。
 そして、朋子の回復を待って、もう一度皆
の立合のもとで国夫と対決させ、彼女の意志
で、彼を告訴するかどうか決めることとなっ
た。
 国夫が帰ることを許されたのは、もう午前
二時を過ぎている。
 とぼとぼと下宿への道を辿る彼の後から、
足音が追って来た。西尾礼子である。
 彼と向い合った彼女の目からは、先程の怒
りが消え、冷静さが戻っていた。
「国夫さん。一言いわせて頂戴。……私、あ
なたを見損なっていたわ。……勿論これ限り
絶交よ。でもひとつだけチャンスを上げる。
……明日、警察に自首して頂戴。あやまちを
男らしく認めて償いをするの。……私、朋子
の世間体より、あなたが人間としての道を踏
み違えないでほしいの」
 それだけ言って、くるりと背を向けて去っ
て行く彼女に、国夫は、自分の無実を訴えた
い気持で一杯だった。明らかに彼女は未だ彼
の味方だったのである。
 しかし、今は何を言っても、信じて貰えま
い。この上は朋子の回復を待って真実を認め
て貰うしかない……国夫は、そう心に決める
と、幾分気が軽くなるのを覚えた。
 翌日、国夫は一日中下宿で寝て過した。
 前夜のショックだけでなく、どうやら風邪
をひいたらしいのである。事実、かなり熱も
出て、それから四日ほど寝込んでしまった。
 そして五日目の午後、彼の下宿に、山岳部
の幹事に伴われて、栗原幸子が現われたので
ある。
 真っ赤に泣き腫らした彼女の目と、二人の
黒ずくめの服装から、悪い予感が彼の脳裏を
かすめた。果して、事態は彼の寝込んでいる
間に急転していた。
 あの日の翌日、栗原朋子が病院の窓から飛
び降りて自殺したことを告げられ、国夫は思
わずその場にへたり込んでしまった。
「彼女は処女を犯されたことで、想像以上の
ショックを受けていたんだな。……姉さん宛
の遺書には、君のことを名指しで、犯人が憎
い、何とかして仇を取ってくれ、とあったそ
うだ。……君も男なら、いさぎよく償いをし
たまえ」
「償いって言われても……第一、僕は……」
 口ごもる国夫の顔に、栗原幸子が怒りに燃
える瞳をヒタと据えて口を切った。
「私から言うわ。私ね、昨日まではあなたを
警察の手に渡すことしか考えてなかったわ。
でも、あなたが無罪を主張し続けて、証拠不
十分で釈放されるケースもあることに気付い
たの。それに、有罪になったとしても強姦罪
ではたかが知れてているわ……それに今日、
朋子のお葬式で、あの子の死顔を見詰めてい
るうちに、どうしても私の手で仇を取ってや
らなければ、妹も浮かばれないだろうという
気になったの」
 国夫の背筋に冷たいものが走った。そして
逃れようのない災厄が、ヒタヒタと押し寄せ
て来るのを直感した。
「でもな。……何も君の命まで取ろうとは言
わんさ。……皆で相談したんだが、君がこれ
から卒業するまでの四年間、死んだ気になっ
てS女子大のワンゲル部のリンチを受けるこ
とを承諾すればいいんだ。……約束するが、
身体を傷つけたりすることは一切ない。あく
まで君に精神的な懲罰を与えて、償いをさせ
たいんだそうだ。……もちろんK大の山岳部
としては一切無関係だ」
 その山岳部幹事の口調からは、この厄介事
から一刻も早く免れたい気持が、アリアリと
読み取れた。
「S女子大のワンゲル部でリンチ……精神的
な懲罰って、一体どんなことをされるんです
か? それが判らなければ、返事も出来ない
し……第一、僕が無罪だってことを少しでも
信じて貰えば……」
「あなたの見えすいた無罪説は、もう聞きあ
きたわ。こちらには朋子の遺言という絶対的
な証拠があるのよ。……折角、世間体も保て
るし学校も卒業出来る解決法を考えてやった
のに……でもいやなら、あなたを警察に渡す
わ。私自身の手で罰することが出来ないのは
残念だけど、仕方がないわね」
 国夫は、もがいても抜けられない蜘蛛の糸
に掛かった自分を実感した。
 朋子がこの世にいない以上、彼の無実を証
明する手段は絶えてしまったのである。
 恐らく朋子の遺書を疑うものはあるまい。
 全ては終った=c…諦めの念が国夫の心
を支配し、彼は二人の前で、がっくり頭を垂
れた。
     …………………………     
「じゃあ、今日の行程を説明します。……合
宿の目的地は、ここから約二十キロの高原で
す。夕方には到着して、今日中にキャンプの
設営を終える予定ですから、皆さん頑張って
下さい」
 夏の太陽がまぶしく照りつける山間の小さ
な駅に降り立ったS女子大のワンゲル部員に
向かって、リーダーの栗原幸子が声を張り上
げている。
 一行は二十名を越えているだろうか、健康
美に溢れた体格の良い女子部員にの中には、
西尾礼子の姿も見える。
 そして……一行の末尾にただ一人の男性で
ある坂本国夫が、重い足取りで従っていた。
 栗原朋子の自殺事件から早くも三ケ月が過
ぎ、漸く一般の人達には忘れ去られようとし
ていたが、S女子大ワンゲル部員としては、
そして姉の幸子としては、まだ昨日のことの
ように生々しい傷痕を残していた。
 心中、復讐を誓った幸子にとっては、自殺
の原因となった国夫に対し、積る思いを晴ら
す最初の機会でもある。
 S女子大のワンゲル部の夏期合宿は毎年の
恒例で、一ケ月の長期にわたっている。
 高原の元ホテルを、K大山岳部と共同で買
いとって以来、夏はS女子大、冬はK大が使
用するパターンが定着していた。
 ホテルといっても、山小屋に毛の生えた程
度のものだが、一応、二人部屋が十数室程あ
り、ベッドも備えられている。
 階下中央に、吹抜けの大広間が設けられて
をり、全員が食事や団らんを楽しめるように
なっている。
 早朝の汽車で高原の麓の村に到着した一行
は、栗原幸子の指揮のもとに、規律正しく行
動を開始した。
 坂本国夫が一行に加わった理由は、一同承
知のうえだったが、出発前に形ばかりの簡単
な紹介があった程度で、時折彼女等の好奇の
視線が露骨に国夫に浴びせられる。
 それは、対等の仲間に対するものとは程遠
く、これから一ケ月間、栗原幸子に、そして
彼女等全員にたっぷりなぶり物にされるであ
ろう〔いけにえ〕を、そして彼女等にとって
は興味ある〔えもの〕を観察する冷たい目で
あった。
 国夫には、既に彼女等全員に対し敬語を使
うこと、どんな命令にも背かぬこと、そして
どんな目に会わされても文句を言わぬこと等
が申し渡されている。
 そして、多分栗原幸子の指示によるのであ
ろう、女性特有の陰湿ないたぶりや辱めが既
に始まっていた。
「いいもの上げるわ。ちょっと口を開けて御
覧なさい」
 ニヤニヤ笑いながら近付いて来た部員のひ
とりが、口の中でクチャクチャさせていた噛
みかすのガムを、プーッと、彼の口中に吐き
込んだ。
「ちゃんとお礼を言うのよ! そして私の唾
をたっぷり味わいなさい。……フフフ、この
男、馬鹿面してぇ」
 周囲でじっと見守っていた部員達がクスク
ス笑う。止むなく頭を下げて礼を言ったもの
の、口惜しさで顔が熱く火照った。
 彼の無抵抗ぶりを確認した途端、彼女等の
〔いじめ〕は一斉にエスカレートする。
 連鎖反応のように、何人かがガムの滓を、
そしてある者は唾そのものを国夫の口中に吐
き込んでは、顔を引き吊らせて耐える彼の様
子を笑いながら見守った。
 出発して最初の一時間は高原への上り口の
ダラダラとした坂道で、それが次第に狭くな
り、急坂にかかる前の所で小休止となった。
 道の両側は深い熊笹の薮になっていて、皆
それぞれ、木の切り株や恰好な石を選んで腰
を下ろした。
「坂本、こっちへおいで。……どうしたの、
自分の名前を忘れたのかい!」
 西尾礼子の声が響いた。幼馴染みの礼子か
ら、生れて初めて呼び捨てにされ、それが自
分のことと判るまで、一瞬のずれがあった。
 こみ上げる情けなさを、ゴクリと飲み込ん
で彼女の前に立つ。
 いきなり礼子の右手が躍って、彼の頬が鳴
った。
「呼ばれたら返事をするのよ。判った?」
(はい)の答えたものの、ぐっと屈辱感が押
し寄せて、目の奥が熱くなる。
「そこへ四つ這いになって私の椅子になりな
さい!……どうしたの? 私の命令が聞けな
いの?」
 唇をぐっと噛みしめて道脇に四つ這いにな
った国夫の背に、ドスンと礼子が腰掛けた。
 重味が彼女の尻を通して彼の背中へ、そし
て地面に着いた両手と両膝に分散する。
「お前もとうとう、情けない身になったもの
ね。……もっとも、私の言った通り男らしく
自首しなかったんだから、当然の報いね」
「………………」
「まあ、これからは、私達全員に毎日毎晩、
なぶり物にされるのよ。私も手は緩めないか
ら覚悟するのね」
 彼女は、こぶしで国夫の後頭部をコツコツ
叩きながら宣言する。
「ウフフッ、やってるわね。……私も一緒に
座らせて頂戴。……ところでこいつ、どんな
顔してるかしら?」
 栗原幸子の声がして、途端に髪が握られ、
グイッと首が上へねじ上げられた。
 二人のさげすみをこめた視線を受け止め兼
ねて、思わず目を閉じる。
 目尻にうっすらと口惜し涙がにじんだ。
「オヤオヤ、もう泣きべそかいてるわ。……
そのうち涙がかれる迄、いじめ抜いてやるか
らね」
 幸子は国夫の顔を股間に挟み込むようにし
て肩の上に跨がった。
 両手にかかる重みがグンと増して、地面の
小石の粒が掌にくい込む。
 二人は彼を無視して、明日からの日程の打
合せを始めた。
 五分、十分と時間が経つに従って、彼女等
の重みがジワジワとこたえてくる。
 地面に接している両膝、そして両掌に刺す
ような痛みが走り始め、両膝と肩が、それに
礼子の尻を受けている背中が、押しつぶされ
るような重みを覚えて来た。
 額から脂汗が噴き出し、思わずウーッと呻
き声が洩れる。
「アラー、この椅子、もう音を上げてるよう
だわ。だらしないわねぇ。……少し鍛えて上
げる。ホーラ、これでどおお?」
 幸子は意地悪く、彼の背中の上で尻をくね
らせる。たまらず国夫の肘がくじけ、身体が
前のめりにひしゃげた。
 礼子はいち早く飛び退いたが、はずみで、
幸子の尻が国夫の後頭部の上へ滑り落ち、彼
の顔面を地面へ押し着ける結果となった。
 幸子の尻の下でクェーッと悲鳴に似た声が
あがる。
「しっかりしないか! こいつ」
 幸子は、なおも腰をそのまま左右に揺すっ
た。国夫の顔は、彼女の尻の下で土の上へ押
し転がされる。
 鼻血が流れ、呻き声が高まった。
 暫くして尻を上げた幸子の見下ろす下で、
国夫はのろのろと顔を上げる。それは泥と鼻
血でベットリと汚れていた。
「随分バッチくなったじゃないの。人に見ら
れたら変に思われるから、どこかで洗ってら
っしゃい」
 しかし、道は既に山麓に近く、あたりには
人家も川も見当たらない。
 キョロキョロあたりを見回す国夫の泥まみ
れの顔を、ニヤニヤしながら見下ろしていた
幸子が、
「いいわ、そこへ仰向けになりなさい。上か
ら水を掛けて上げるから。……そう、それで
いいわ。しっかり目をつぶっているのよ。…
…絶対、目を開けちゃ駄目よ!」
 やがて、生暖かい水流が彼の顔面に勢いよ
く注がれ、汚れの大部分を流し去った。
 身を起し、ポケットから手拭いを出して顔
を拭く国夫に、回りからクスクス笑いが浴び
せられる。
 キョトンとしている国夫に、幸子がおかし
そうに声を掛けた。
「どうだった? 私のオシッコで顔を洗った
気分は?」
 ハッとした国夫は、ムッとする草いきれに
包まれていた異臭に初めて気付いて、その場
に立ちつくした。
「随分鈍いのね。これが本当に蛙の面にショ
ンベンってわけね」
 どっと一同から笑いがはじけ、彼は耳まで
赤くなった。
負わされた国夫が、最後尾である。
一列になって進む。
 合宿に使う日用品を入れた大きな荷物を背
負わされた国夫が、最後尾である。
 上りが次第に急になって来ると、重量が肩
に食い込み、山道に慣れていない国夫はどう
しても遅れがちになった。
 一行は遅れた国夫が追い付くまで、時々足
を休めねばならない。
 それが次第に頻繁になり、たまり兼ねた先
導の幸子が後尾について、国夫を追い立てる
役に回った。
「グズグズしないで! 遅れないように頑張
るのよ。……ホラ、しっかり!」
 最初は言葉で叱りつけていたが、効果が無
いとみてとるや、手頃な木の枝を拾って手に
持った。
「言うことが聞けないなら、お前の身体に聞
かすわよ。……ホラッ!」
 バシッと国夫の尻が鳴り、ズボンの上から
かった。
 ウッ、と思わず呻いた国夫の足が一瞬、数
歩駈け上がる。
「ウフフ、尻を叩かれて歩くなんて、お前も
馬並みね。少しは恥を知るといいわ。……ソ
ラッ!」
 太股寄りに第二撃を受けた国夫は、歯を食
いしばって懸命に足を早めた。
 情けなさで、目頭がジーンと熱くなる。
 それから一時間の上り道の間、少しでも遅
れがちになると、幸子の手の棒が、容赦なく
彼の尻を見舞った。
 漸く一行が平地に辿り着き、休憩になって
ホッとしたのも束の間、再び彼は四つ這いに
させられ、女達の椅子の役を勤めねばならな
かった。
 これも必死に耐え、出発の合図が掛かった
時である。幸子が、薄笑いを浮かべて近寄る
と、彼の目の前に二枚の汚れたパンティーを
これ見よがしに差し出した。
「この内の一枚はね、亡くなった朋子のもの
よ。生理の時のウンと汚れたのが見付かった
の。……もう一枚は、私がここ迄穿いてたも
のよ。ホラ、三日間も替えなかったから、す
ごい汚れでしょう?……もう判るわね。お前
はこれを口と鼻に当てて、私達姉妹のおしも
の匂いと味にむせびながら歩くのよ」
 幸子は国夫の口を開けさせ、褐色に汚れた
朋子のピンクのパンティーを押込んだ。
 そして、自分の白いパンティーの股間の汚
れのひどい部分を彼の鼻孔に当てがい、ガム
テープで猿轡をする。
「ウフフッ、これでいいわ。朋子も草葉の陰
から、お前の情けない有様を見て満足してる
はずよ」
 それは、幸子の言うように、国夫の味覚と
臭覚の双方を同時に刺激して、二重の屈辱感
を味あわせようとしたものだったが、全く彼
女の考えた通りの効果を上げた。
 ガムテープの隙間から激しい息遺いと共に
吸い込まれる高原の空気が、幸子の汗と汚れ
にまみれたパンティーから、饐えた臭気を容
赦なく国夫の鼻孔に送り込んだし、一方、唾
を吸って口中に張り付いた朋子のパンティー
からは、苦みを帯びた渋い酸味がねっとりと
舌にからんでくる。
 気の遠くなるような臭気と味が屈辱感に拍
車をかけ、国夫の涙腺を刺激した。
 彼は涙で曇る目をしばたくながら、重い荷
物を肩に、一歩一歩道を辿って行く。
 登りに続く森を抜けると急に視界が開け、
美しい山間の景色が一同の目を楽しませた。
 暫く進むと渓流沿いの道になり、目の前に
高山植物の咲き乱れる草原が現われてきた。
「あそこで昼食にしましょう。エーッと、そ
うね、一時間の休憩よ」
 時計を見ながら、栗原幸子が声を掛ける。
〔ワーッ〕と歓声が上り、一同は草原の方へ
突進した。
 思い思いに草の上に陣取り、今朝駅の前で
配られた弁当を拡げる。
 楽しげなおしゃべりがあちこちで始まり、
くつろいだ雰囲気があたりに溢れた。
 弁当を貰っていない国夫は、荷物を下して
座り込んだものの、手持ち無沙汰である。
 あたりをそっと窺って、口のガムテープを
外し、唾でグショグショになった朋子のパン
ティーを吐き出した。
 鼻孔に当てられていた幸子のパンティーも
彼の吐息でジットリ湿っている。
 フーッと大きく息を吸うと爽かな高原の冷
気が胸一杯に満ち、生き返ったような気分に
なった。
「坂本! 誰がガムテープを外していいと言
ったの?」
 突然、背後から幸子の声がして、国夫は飛
び上った。振向くと、礼子も一緒である。
「私達が、ちょっと目を離すとこれね。……
こっちへおいで。たっぷりと罰を上げるわ」
 外した猿轡のパンティーを手に、シオシオ
と二人に従い、一同の輪の中に入る。
「そこへ仰向けに寝なさい」
 地面に横たわる国夫の顔の上に、礼子が、
おもむろに尻を乗せた。
 スラックスに包まれたはち切れそうな女の
尻が、彼の顔面をジワリと強圧する。
 同時に、汗の匂いで燻蒸された吸えた尻臭
が国夫の臭覚を占拠した。
 幼馴染みの、そして淡い恋心を抱いていた
女性に満座の中でこうして辱められるやるせ
なさ、辛さ、情けなさが頭の中に渦巻く。
「どう? 女に征服された男の気分は? 私
が食事している間によくこの匂いを覚えるの
ね」
 弁当を開く音がして、礼子は国夫の顔の上
に座ったまま食事を始める。
 時々、尻をわざと揺すって国夫の反応を楽
しむ様子だった。
 幸い柔かい草が国夫の後頭部を支えてくれ
たが、呼吸は礼子の尻割れに沿って僅かな空
気を臭気と共に吸い込むしかなかった。
 礼子が食事を終えると、代って、食べかけ
の弁当を持った幸子が、国夫の顔に尻を据え
る。礼子より長身の幸子の尻は、厚く重い。
 骨を殆んど感じさせないポッテリした尻肉
はピッタリと国夫の顔を覆い、呼吸は一層困
難になった。
 苦しさの余り彼が呻き声を上げると、幸子
は尻を僅かに浮かして彼に呼吸を許し、再び
圧力をかける。
 時々国夫が呻くのも構わず圧し続けたり、
呼吸の途中で遮ったりして、彼が苦しさに四
肢を動かしてもがくのを楽しむのだった。
 幸子の尻責めからやっと解放された時には
皆食事を終って、思い思いに草の上に寝転ん
だり、おしゃべりに熱中したりしている。
「ホラ、これがお前の食い物よ。みんなの見
ている中で、四つ這いになって犬のように食
べなさい」
 幸子の指差したのは、小さなバケツに集め
られた皆の残飯だった。
 色とりどりの食べ滓が、所々唾に濡れて光
っているのが、あたかも吐瀉物のように見え
て不潔感を誘う。
 国夫が四つ這いになってバケツに首を突っ
込もうとした時、何を思ったか幸子は彼を制
すると、
「ちょっと待って。お前、咽喉も渇いてるだ
ろう? 私のスープで味付けして上げる」
 不審そうな彼の目をニタニタ笑いながら見
下ろした幸子は、スラックスを下ろし、バケ
ツに跨がった。
 勢いのよい放尿の音がして、バケツの残飯
はみるみる彼女の尿で覆われる。
「目をつぶって、お前の舌で後を清めるの…
…馬鹿! トイレットペーパーの代りをする
のよ」
 国夫の髪が掴まれ首がぐいと上向きにされ
たかと思うと、プンと臭気のする秘肉が彼の
唇に押し付けられた。
 命じられるままに舌を出して跡を清める国
夫の唇が、生れて初めての屈辱にワナワナと
震える。
「さ、いいわ。目を開けて。フフフ、遠慮な
くお前の御馳走をお上り。……これからは、
お前の三度の御飯はいつもこれよ。 どお?
思い知った?」
 何時のまにか皆が集まって来て、幸子にな
ぶられる国夫のさまを、好奇の目で見守って
いた。                 
 思い切ってバケツに顔を入れて見たものの
鼻を突く臭気に口をつける勇気が出ない。
 突然、横から礼子が近付くと、足を上げて
靴を国夫の後頭部にかけた。
「さあ、地獄へ落ちなさい!」
 声と共に国夫の顔はバケツの中の残飯に押
し付けられた。
 皆の前でピチャピチャと音を立てて、幸子
の尿のかかった残飯を食べる国夫の咽喉の奥
から[ウウッウウッ]と嗚咽が洩れる。
 幸子の命令で、最後の汁……といっても、
彼女の尿が殆どだったが……まで吸わされ、
彼はバケツの中でチューチューと派手な音を
立てた。
「まあ〜、汚ない!」
「とても人間とは思えないわね」
「豚よ、豚そっくり!」
 周囲の女達から口々にさげすみの言葉が出
る。皆、一様に国夫に対する軽蔑の念を深め
たことが明らかだった。
 午後の行程は意外にはかどって、目的地の
手前にある渓谷地帯に一行がさしかかった時
には、未だ陽は傾くきざしもなかった。
 国夫の口には、又ガムテープが貼られ、口
中には、今度は幸子のパンティーが、そして
鼻孔には礼子のそれが当てられている。
 最後の休憩を省略して一気に山小屋を目指
した一行の足取りは、もう少しで到着との思
いでかなり早められていた。
 ハプニングが起ったのは、その時のことで
あった。
 最後尾に従っていた国夫が、濡れた岩に足
を滑らし、渓流の中に転倒したのである。
 幸い流れが浅く、怪我は無かったものの、
背中の荷物は完全に水につかり、中に入って
いた全員のキャンプ用の日用品はズブ濡れに
なってしまった。
 中でもティッシュやトイレットペーパーの
ような紙類、それに彼女等の生理用のタンポ
ンや綿類は、どっぷり水に浸かって、もはや
誰の目にも使いものにならなくなっていた。
 不注意を責められた国夫は、全員の前で幸
子の前に土下座させられ、頬が腫れ上がる程
強い往復ピンタを何回も受けさせられた。
 それでも腹の虫が収まらぬとみえ、幸子は
国夫に尻を出して四つ這いになるよう命じ、
皆に土足で彼の尻を蹴らせたのである。
 漸く目的の山小屋に突き、各部屋二人宛の
部屋割りが終って荷物を下ろすと、くつろぐ
暇もなく、全員が分担してキャンプ設営の作
業が始まった。
 幸子は国夫を呼び付けると、全裸になるよ
う命じた後、目の前に跪かせ、荷物の中から
取り出した犬の首輪を嵌めた。長い丈夫そう
な鎖付である。
 続いて取り出した黒光りする革の鞭を、彼
の目の前で威嚇するように振ってみせた。
「いいかい。ここではお前は私達の許可が無
ければ人間並に立って歩くことは厳禁よ。い
つも犬や豚のように四つ這いでいること。…
…それから、お前の部屋はこちらよ。おいで
……ソラ! 立っちゃ駄目。四つ這いでしょ
う。……今度から、少しでも私の機嫌を損じ
たら、この鞭で叩くからそのつもりでいるの
よ」
 哀れにも全裸にされ、四つ這いにさせられ
た国夫は、一階ホール横のトイレへ引いて行
かれた。
 元ホテルといっても一種の山小屋で、トイ
レも洋式便器が三つ並んでいるだけで、勿論
男女共用である。
 便器の間は一応仕切ってはあるものの、そ
れぞれについている扉は申し訳程度の小いさ
なものだった。
 反対側には、蜘蛛の巣の張った男子小用の
ものがこれも三ケ並んでいて、その間にやっ
と畳一畳半程の空間があるに過ぎない。
 只、窓からの光がふんだんに差し込み、壁
の色も明るくて薄暗いイメージが無いのがせ
めてもの救いだった。
「ここを奇麗にしなさい。掃除の間は特別に
人間並に立ってもいいわ。……それからね、
フフフ、このトイレがお前の部屋。……つま
り、お前はここに寝泊りするのよ」
「で、でも、皆さんがトイレを使う時は……
一体どこに居たら……」
「クックックッ、だからさ……その時は、ト
イレの中でお前の勤めを果たすのさ」
「勤めって……一体……」
「判らないの? お前のおかげで持って来た
トイレットペーパーは全部使えなくなったの
よ。だから、お前にはその埋め合せをする義
務があるわね。……そう、お前の舌が、皆の
トイレットペーパーになるのよ」
 それは国夫にとって、考えるだにおぞまし
い無慈悲な宣言だった。
 幸子の前で四つ這いになっている彼の首は
ガックリと前に落ち込み、背中がおこりにか
かった様に細かく震える。
「フフフ、大分こたえたようね。さっき昼食
の時にリハーサルしといたから、コツは判っ
たでしょう。だけど今度は大の方の跡も清め
るんだから、覚悟するのね。……きっと鼻が
曲るほど臭いわよ」
 幸子は震えの止まらない彼を満足そうに見
下ろしながら続けた。
「それだけじゃないわよ。私達の生理用の綿
類も駄目にしたんだから、その始末もお前の
口でしてもらうわ。……そして、お前の身も
心も二度と落ちない汚れに染まるのよ。……
それが、朋子に対するせめてもの供養だと思
いなさい」
 国夫の口から[ウウーッ]と獣のような呻
きに続いて、すすり泣きの声が洩れた。
 彼にしてみれば、逃れようのない無実の罪
に問われて転落の道をたどる我が身が、未だ
諦めきれなかったのである。
 突然ピシッと音を立てて最初の鞭が国夫の
背に鳴った。全身を貫くような電撃のショッ
クは、実際の痛み以上の強さで彼の脳裏に刻
み込まれる。
「めそめそするんじゃないのよ。これからは
私達の完全な奴隷として仕込んでやるから、
何時も私達の気持を察して積極的に奉仕する
のよ」
 幸子は鎖をトイレの中央の柱に掛けると、
小さな南京錠をとり出してロックした。
 一人残された国夫は手の甲で涙を拭い、長
い鎖を引きずりながら掃除にかかった。
 キャーッという嬌声を上げながら、突然、
賑やかにトイレになだれ込んで来た三人組が
あった。
 四つ這いになって床を拭いている国夫を見
てハタと立ち止る。
「ねえ、見て。こいつの哀れな姿!」
「とうとう落ちるところまで落ちたわね。…
…女のトイレットペーパーに成り下がるなん
て、男として良く我慢出来るものだわ」
「さっき誰か言ってたけど、こいつは人間の
皮を着た豚だわ。……遠慮せずにおしもの御
用に使ってやりましょうよ」
「そうだわ。こいつを思いきり辱めることが
朋子に対する供養だって幸子も言ってたじゃ
ないの」
 おのおの、便器に跨がった三人の小用の音
が、まるで競い合うように響く。
「ここへおいで、豚さん。私のを先に後始末
して頂戴」
 国夫はのろのろと呼ばれた方へ近ずくと、
仰向けに寝て扉の下から中へと首を突っ込ん
だ。
 白い便器に腰掛けた女の二本の足が、視界
に広がる。それが前に移動してくると、続け
て女の裸の尻が落下してきて目の前で止まっ
た。……独特の臭気が鼻を打つ。
「ホラ、早く! 丁寧にするのよ」
 間近に拡大されたグロテスクな女陰が細か
い滴で濡れそぼっている。
 舌を延ばしてそっと舐めとると、肉のひだ
がピクリと震えた。
 唇を尖らしてその部分へ当て、チューッと
水分を吸い取る。
「いいわ。なかなか素質あるわよ……フフッ
ただし豚の素質がね」
 隣りの便器でも、同じことの繰返しであっ
た。終った後の彼女等の視線や、言葉の端々
に、彼に対する極度の軽蔑が感じ取れる。
 三人目の女性は、いったん彼の顔の上に尻
を置きかけて、急に、また便器にバックして
しまった。
「ちょっと、お待ち。急にアレが出そうにな
ったわ」
 プスッと派手な音が頭上でしたかと思うと
ポチャンと高い水音。それは国夫にとって、
間もなく否応なしに新しい清めの味を経験さ
せられることを意味していた。
 再び、尻が異様な臭気と共に、落下してく
る。そのクレバスの縁にべったりと付着した
褐色の糊が目に入った時、国夫の口から微か
な悲鳴が洩れた。
「ウフッ、お前、初めてなんだね……私も、
人間豚にお尻の始末をさせるのは初めての経
験よ。しっかりね、豚さん!」
 それは、国夫にとって想像を絶するおぞま
しい経験だった。ねっとりした塊が舌の先に
すくわれて口の中に入ると、刺すような苦み
と渋みが口中一杯に広がる。
 ゴクリとそれを飲み込むと、腹の中まで汚
辱に染まったような気がした。ぐっと吐き気
が込み上げてくるのをやっと耐える。
 それを繰り返すと、やっとピンクの菊座が
現れてきた。唇を突き出して、それを軽く吸
うようにして清め始めた時に、突然、彼女の
括約筋が唇の上で震え、プスッとガスが彼の
口中へ放出された。
 風船を膨らますように、プクンと彼の両頬
が張り、続いてそれが鼻へ抜ける。
 強烈な臭気が彼の脳髄を痺れさせた。
「アラ、御免なさい。……でも、ちょっと待
って、もうひとつ出そう」
 彼女は尻を少し後へずらすと、今度は彼の
鼻孔にアヌスを押し当て、プスッと第二発目
を注入した。国夫はたまらず悲痛な呻き声を
上げる。
「失礼……アラ、豚に謝まることはなかった
のよね。フフフ」
 こうして、彼のとって気も狂わんばかりの
辱めが、入れ代り立ち代りトイレを訪れる女
子部員達によって続けられていった。
 そして、彼の前に礼子が現れた時には、国
夫の神経はズタズタに傷付けられていたので
ある。
「私ね。今、急にお客さんが来たの」
 便器に腰掛けた礼子は、その前に国夫を引
き据えて、静かに話し掛けた。
 これまで、女性に接することの少なかった
国夫は"お客さん"の意味を解しかねてキョ
トンとしている。
「あのね。お前はこれから私のメンスの始末
をするのよ」
 露骨な礼子の命令に、思わず国夫の顔が青
ざめた。
 しかし礼子は異細構わず彼の顔を太股に挟
み込み、腰をずらして彼の口を股間のその部
分へピタリと押し当てた。
「しっかり吸うのよ。最初は量が多いから、
そのつもりでね」
 ズズッと音がして、塩辛い汚液が彼の口中
に流れ込む。それは彼の咽喉を焼き、胃の腑
を汚し、彼の精神を蝕んでいく。
「お前も、こうして朋子に対する償いを続け
るのよ。……可哀そうだけど、幸子は決して
お前を許さないわ。明日からは、お前を自分
の便器にするそうよ。……お前とは小さい時
からの遊び友達で、こんなことさえ無ければ
きっと結婚してたかも知れなかったのにね。
……でも、こうしてお前は豚になって、地獄
へ落ちていく。……これも運命だと思って諦
めなさいね」
 じゅんじゅんと諭すような礼子の言葉の裏
には、今は転落の道をたどっている幼馴染み
に対する彼女なりの思い遣りが潜んでいた。
[ウーウウッ]
 とくぐもった国夫の嗚咽が、礼子の股間か
ら、いつまでも、いつまでも続くのだった。
(完)
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1985年12月スピリッツ12月号(スレイブ通信29号に再掲載)
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2010/06/07