#13 M派作家のSMクラブ訪問記              阿部譲二

六本木のSMクラブ、ルージュで女王役の魔鬼ちゃんとプレイ。96cmのヒップを持つグラマーな女性である。身体のマッサージを命じられ、途中、尻割れに顔を埋めるように言われてオナラを嗅がされる。舌奉仕の後でパンティの汚れを舌で舐め清めさせられ、顔に唾を吐き掛けられる。バスルームでシャワーを浴びる彼女に小水を飲まされてしまう。

東京のSMクラブ、とひと口に言っても、
その実体は様々である。東京への訪問者を含
めた、豊富なSM人口に支えられて、その数
も相当数に上る。ただ、風営法で締め出され
たピンク産業が、SMをその隠れ蓑にしてい
るケースもあると聞く。
 ともあれ、栄枯盛衰の激しいこの業界で、
何年もコンスタントに続いているクラブは、
何と言っても、しっかりした経営者とサービ
ス精神に富んだ女の子達、そして、それに伴
なって必然的に生まれる馴染みの固定客を持
っている。               
 前置はさておき、M派のベテランを自認す
る小生が、東京は六本木の代表的な名門クラ
ブ@ルージュAを訪れたのは、七月の初め、
テレビで米国の独立際の実況が派手に中継さ
れていた夜だった。
予め、電話(475・6351)を回して、
予約を取る。快く応じてくれたクラブ@ルー
ジュAの社長は、この世界の経営者にそぐわ
ない真面目な、一見サラリーマン風の若い紳
士だった。
M派小説の作家の旨、自己紹介すると、私の
質問に応えて、色々と話してくれた。
 このクラブの特色は何と言っても、所属し
ている女の子の質と量にあると見て良い。
手元のSM雑誌の頁をパラパラと繰って見る
と、真っ先に目に飛び込んで来たのが、半頁
大の@ルージュAの広告だった。
 そのイラストに使われている@毛皮を着た
ビィーナスAこと、瀬里奈ちゃんを筆頭に、
マキちゃん、ケイ子ちゃん、アミちゃん、ユ
リちゃん、メグミちゃん、ナツミちゃんと続
き、外にM役で売り出し中の、愛子ちゃんと
ルミちゃん他を含めた総計十数名ががレギュ
ラーで、常時クラブに出勤している。
その他、繁忙時は、自宅待機組も何人か動員
出来るとか、午後一時から、深夜十二時迄、
客本位の水も洩らさぬサービス態勢を敷いて
いる。
 プレイルームは昨年秋、新装したと云う豪
華なインテリアで、広いフロアに絨緞を敷き
詰め、コントロール付のマルチ照明が、妖し
げなムードを醸し出していた。
 私がM派と云うことで、S役専門のマキち
ゃんが、このプレイルームで相手をしてくれ
ることになった。
キュートな顔立に、ウェーブのかかった髪が
良く似合う。美しく陽焼けした肌理細かい肌
が印象的だった。
一六五センチのスラリとした一見スリムな印
象だったが、ボデーラインを見てびっくり。
キュッとくびれたウエストからぐっと広がる
九六センチのヒップの質量感は圧倒的で、素
晴らしいグラマーな女性である。
しかも、横から見て形良くシェープアップさ
れた双球は、正に外人並で、後から社長に聞
いた、六本木の通りで外人の男に声を掛けら
れると云う話も、うなずけるものだった。 
 私の様に、女性のヒップに征服されたいと
の願望を持つM派男性にとって、これは正に
最大のチャームポイントである。正直言って
この瞬間、私は思わずクラクラッと成る程、
マキちゃんのヒップに悩殺されたのである。
「マキちゃんの名前、漢字でどう書くの?」
 と聞くと、その返事に又びっくり。
「魔法の魔に、オニ(鬼)よ。驚いた?」
 いたずらっぽい目で、クスリと笑う。
魔鬼とは又、変っている。しかし、男を征服
する魔性の鬼女は、Sの女王として、うって
つけなのかも知れない。
しかし、その可愛い顔のどこから、男に君臨
するS女の表情が覗くのだろうか? 私は、
すっかり興味をそそられてしまった。
 M派にも、実は色々ある。縄、鞭や蝋燭等
を好むハードな苦痛派、女性の下着の汚れや
ハイヒールの臭いに惹かれるフェチ派、便器
願望のコプロ派、そして精神的な屈辱感、転
落感を望むソフトな精神派等々、正に千差万
別である。
 これと別に、馬派、犬派、豚派と云う分類
の仕方もある。これ等は文字通り、女性に、
馬、犬、豚として取り扱われたいとの発想か
ら来ている。
 マゾッホの昔より、屈折したM派の思考の
多様性は、到底、S派の及ぶ所ではないと云
うのが私の意見である。
 話を本題に戻そう。私は、服を脱いだ後、
光度を落したプレイルームの中央に、生れた
まゝの姿で、うつ伏せに横たわるマキ女王の
横にはべった。私の好みは、予め彼女に説明
済みである。
「マッサージするのよ。私の身体を揉みほぐ
して頂戴」
 奴隷としての最初の仕事である。
セピア色に美しく焼いた、肌理の細かい肌に
手を触れると、若い肉の弾力がプルンと跳ね
返って来た。
 長い髪をかき分ける様にして、首筋から肩
を揉む。背骨の両側を両手の親指で押しなが
ら、徐々に腰の方へ移動して来た。
その間、彼女は黙っていた訳ではない。
「アー、そこ、もっと強く。・・・・・そこ
じゃないわ。その横、そう・・・・・そこを
押して」
 口やかましく奴隷に命令する。
ふっくらと盛り上がるヒップを、唾を飲み込
みながらスキップして、足に移る。
ふくらはぎから足首を軽く揉んだ後、足の裏
を土踏まずを中心に、親指で押す様にして、
しこりを取る。その内、揉みながら私は彼女
に話し掛けた。
「女性の足の裏って、人によって、とても敏
感な人が居るんですよ。・・・・・でも、舐
めると感じる人と、くすぐったがる人とあり
ますね。マキちゃんはどうですか?」
 私は、おずおずとさぐりを入れた。
「私、そうね。・・・・・別に、くすぐった
くはないわよ」
「じゃあ、少し、舐めさせて頂いて良いです
か?」
「いいわよ」
 と、彼女は優しい。
私は、柔かな土踏まずに口を寄せ、舌先で指
の根元迄一気に舐め上げた。
微かに足がピクリと震えた様な気がしたが、
委細構わず、指の根元を舌で攻撃した。
薄い塩味がしたが、不潔感は全く無い。
右足から左足に移り、又、右足に戻った。
「もう良いわ。今度は、お尻を揉んで!・・
・・・バカ、股の内側よ!」
 こんもりしたヒップから太股にかけての、
所謂、性感マッサージは、私にも初めての経
験だった。思わず、手が震え気味になる。
「ちょっと! 私、おならが出そう。お前、
顔を当てて嗅ぐのよ」
 まるで催眠術にかかった様に、私は彼女の
尻割れに顔を埋めた。プスッと控え目な音と
共に、それは私の鼻を直撃する。
息を吸い込むと、可成り強い臭いがツーンと
鼻の奥に突き刺さり、思わずクラックラッと
して、ウーッと呻いた。
 同時に、奴隷として扱われている屈辱感が
ぐーっと込み上げて来た。
「フフッ、私、お肉ばかり食べているから、
臭いでしょう?」
 彼女は、嘲る様に言うと、首をひねって私
の方を振り返った。
「今度は、お尻の骨のあたりを揉んで」
 そう言うなり、彼女は、くるりと反転する
と、仰向けに成り、身体を折り曲げて両腿を
抱え込む姿勢を取る。
それは、誠に挑発的なポーズであった。
淡い照明に漸く馴れた目の直ぐ前に、こんも
りと繁った花園が息付いているのである。
誘惑に抗し切れなかった私は、股間を揉みな
がら、恐る恐る女王の許可を求めた。
「いいわよ。心を込めて奉仕しなさい」
 彼女の声も、心なしか、しっとりと潤んで
いる。
 舌先に神経を集中して、クレバスをまさぐ
り、クリトリスを中心に、軽く力をこめて舌
マッサージを続けた。
暫くすると、やや濃い味の分泌液が湧き出し
て来る。その内、太股が軽く硬直して、頂点
が訪れたことを知らせた。
 少しの間、余韻に身体をまかせていた彼女
は、身を起すとバスタオルで腰を包み、壁際
の椅子に腰を降ろした。
「こちらへおいで。・・・・・ホラ、これを
見て御覧!」
 彼女の前で、四つ這いでうずくまった私の
顔の前に、白い柔かい布が示される。
それが、彼女のパンティーであることは直ぐ
判った。そして、壁際のスポット照明の光の
中で、彼女の指が拡げたその股間の部分に、
鮮かな黄色い染が浮上がっている。
「生理が終った後で、澱物が多いのよ。・・
・・・フフッ、嗅いでみる?」
 顔を赤くして、押し黙っている私の鼻にそ
れが押し付けられた。
饐えた刺激臭がツーンと鼻筋を襲い、私の理
性を痺れさせた。ふと、気が付いた時には、
その汚れた部分が、すっぽりと私の口の中に
収まっている。微かに苦い酸味が、私の口中
一杯に拡がった。
 唾で湿ったその部分を、繰返し軽く歯で噛
んでみる。クチャックチャッと音がした。
ふと、首を上げると、マキ女王の視線が冷た
く見下ろしている。
 煙草をくゆらしながら、やや細めた目には
軽蔑の光が満ちていた。私が顔を上げると、
彼女の唇が激しい軽蔑に歪み、ペッと唾を吐
きかけられた。
 額から目にべっとりとかかった女の唾が、
私の屈辱感をぐっと加速する。挑発する様に
クチャックチャッと音を立てると、再び、ペ
ッと唾が飛んで来た。
カーッと頭が熱くなり、こうして、私の心は
自ら望んだ転落の淵に、深く深く沈んで行っ
たのである。              
 その後、バスルームでシャワーを浴びる彼
女の傍で、その若々しいグラマラスな姿態に
見惚れていた私に、彼女の声がかかった。
「両手を出して! 私のお水を掬うのよ」
 慌てて、彼女の股間に差し出した両手に、
ジャーッと彼女の所謂@御神水Aが溢れた。
両手の位置はそのままに、口を寄せて、その
お水を啜り込む。思ったより淡い味だった。
 ごくりごくりと、咽喉を鳴らして飲むと、
やはり、女王にかしずく奴隷の身分と云った
設定が、真実味を帯びて実感される。
「有難うございました」
 と、お礼まで言わされて、転落感の総仕上
としての満足感を味わい、プレイを終った。
 後で聞いた所では、マキちゃんにプレイし
て貰ったお客から、翌日お礼の電話が掛かっ
て来ることもあると云う。当然、指名のお客
も多いそうである。
 前述した様に、M派の客と云うのは、その
好みが複雑で、ピッタリしたプレイをしてく
れる女の子に仲々巡り合わぬものだが、マキ
ちゃんの様に、M派の心理を的確に見抜いて
合わせてくれる、イヤ、嬲ってくれるS女性
は得難い存在である。
しかし、社長に聞いた所では、ルージュ所属
の外の女性達も、彼女に劣らぬテクニックの
持主とか、又の訪問を約して別れを告げた。
 久し振りに爽やかな、しかし未だ夢見る気
分で、ルージュのプレイルームを出た途端、
まばゆい夜の六本木のネオンと雑踏が、私を
現実の世界に引き戻したのだった。
                 〔完〕
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1986年12月スナイパー12月号
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2010/05/26