#101 新婚の部下の奴隷に                           阿部譲二

 私の名は……そうですね、とりあえず梅本四郎としておきます。
 大手商社の海外営業部の主任で、三十四才の独身です。
 私の身の上に、全く思いも掛けなかった大きな変化が起きたのは、忘れもしない三年前の春
の事でした。
 一流とは云いませんが、そこそこのレベルの大学を出て、この商社に入社して丁度六年目に
、私は海外営業部の主任のポストを射止めたのです。
 勿論同期入社の連中に先がけての昇進で、皆の羨望の目を殊更意識しながら、得意の念が込
み上げて来るのを抑えるのがやっとでした。
 仕事の面では、しかしそれなりの実績を上げていたのです。
 海外市場で大口の得意先を幾つか開拓して売上を延ばしたのに加えて、新しい扱い商品やユ
ニ―クな販売方法を提案して、上司から中々のアイディァマンとの評価を得ていました。
 私にとって前途は洋々、周囲がバラ色に見えたのも当然の成行でした。
 しかし好事魔多しとか、ふとしたことから禁じられている商品相場に手を出し、自分は専門
家との意識が災いし、市場の動きを甘く見た油断もあって、相当な金額の穴を開けてしまった
のです。
青くなって金策に駈け回りましたが、三十そこそこの若僧に信用で融資して呉れる様な所もあ
りません。
 元々両親を早く無くし、若くして故郷を飛び出して以来の一人暮しで、力を貸してくれる縁
戚も知人も無い私にとっては正に進退極まった状態でした。
 ところが、人生何が幸いするか判らないものです。
 たまたま中近東での戦火が拡大して現地の取引先が倒産し、可成の売掛金が回収不能に成る
事件が発生しました。
 担当だった私は、売掛金の額を水増して辛うじて穴を埋めることが出来たのです。
 勿論そのためには契約書類の数字をごまかす必要がありましたが、現地は戦時統制下に置か
れているため通信不能で、私の不正行為がばれる心配も無く、漸く安堵の吐息を付いた次第で
した。
 その頃私も永い独身生活にそろそろ嫌気が差し、周囲の女性への関心も高まり、彼女等を次
第にこれ迄の遊び友達としてではなく、結婚の対象として見る様になっていました。 同じ会
社の経理部に勤務して居る二十三才の影山京子と交際する様に成ったのは、丁度その頃の事です。
 週末の日曜日、一人で映画を見ての帰りに、近くの本屋であたりをはばかりながらSM雑誌
を立読みしていた私は、後ろから突然声を掛けられ、思わずドキッとしました。
「アラ! 梅本さんじゃありません!」
 慌てて、見ていた雑誌を閉じると、前の本の山の中に押し込んで振り返りました。
「やあ……影山京子さんか。びっくりしたぜ」
「御免なさい。あんまり熱心に本を見てらっしゃるので、つい声が大きくなったの」
 カジュアルな服装ながら、赤い派手なブラウスと白いプリ―ツのスカ―トに身を包んだ彼女
には、いつも見慣れた地味な事務服姿とは見違える様な花やかさがありました。
 面長な白い顔に大きな黒い瞳が私に微笑み掛け、豊かな胸の隆起が独身の私の目にまぶしく
写ります。
 かねて一寸した美人とは思っていたものの、これ程魅力的な女性だったとは、全く私の認識
不足でした。
 手に下げた買物篭から野菜や果物が覗き、形の良い足につっかけたサンダルからも、明らか
に近くのス―パ―マ―ケットで夕食の材料を仕入れての帰りと見えました。
 どちらからともなく連れ立って外へ出た私達は、夕日を浴びて輝く町並を背に会話を続けま
した。
「影山さん、ひよっとしたらこの近くに住んでいるのと違いますか? 僕はこの先の市営アパ
―トに居るんですよ」
 私のほのかな期待を込めた質問に対し、嬉しいことに彼女はニッコリと頷いたのです。
 その笑窪の魅力的だったこと!
「そうですわ。私はこの裏手のマンションですの。ほんと、目と鼻の先ですわね」
「そうかぁー。どうして今迄この辺で会わなかったのかな。……そうだ、僕は残業が多いし、
朝は寝坊してギリギリに掛け込むもんね。……お互いに生活のペ―スが駈け違っていたんだよ」
「そうね、でも週末は何してらっしゃるの?おひとりなんでしょう?」
「暇つぶしに映画に行くぐらいで、あとはテレビを見ながらゴロゴロしているんですよ」
「アラ、私も映画が好きですのよ。……先月までは姉と一諸に住んでたんですけど、
結婚してニュ―ヨ―クへ行ってしまったんで、今のところ一人暮しなんです」
 私の胸は明るく膨らみました。
 どうやら私に好意を持ってくれているらしい美しい女性が、すぐ近くに一人で住んでいるの
です。
「じゃあ、一度一諸に映画にでも行きましょうよ。今度の週末は如何がですか?」
「ええ、土曜日は叔母の所へ行きますけど、日曜でしたら結構ですわ」
 その辺でお茶でもと誘おうかとしたのですが、夕食の支度を邪魔してはと思い直し、その代
り重そうな買物篭を引きうけて、彼女のマンション迄送って行くことにしました。
 私の住んでいる市営アパ―トとは競べ物にならない立派なマンションに、いささか圧倒され
る思いでした。
 影山京子の部屋は二階の端とのことで、エレベ―タ―を使わずに階段を上る彼女に従いました。
 目の前で揺れる白いプリ―ツのスカ―トに包まれた彼女のヒップが、意外に豊かな張りを示
し、スラリと伸びた形の良い足が軽やかにステップを踏んで行きます。
「ここですのよ。よかったら上がって頂くといいんですけど、散らかしていますから」
 戸口を開けて別れを告げる彼女の肩越しに広々したリビングル―ムが目に入りました。
 それからの一週間は私にとって本当に張りの有る毎日でした。
 残業を止めるわけにはいかないので、出勤の時間を三十分程早めて朝彼女に出合う機会を作
ろうと努めたのです。
 その甲斐あって、ベ―ジュのス―ツに茶色のスカ―フをあしらった彼女の通勤姿に出合うこ
とが出来ました。
 にっこり微笑みを湛えた京子の顔を見るだけで、私の身体には生きている充実感がみなぎっ
たものです。
 最初のデ―トも、想い出に残る楽しいものでした。
 映画の後、訪れたしゃれたフランス料理店でのひと時、そして思い切って入った豪華なナイ
トクラブでの彼女と二人だけのダンス。すべて今から思うと夢の様です。
 彼女のしなやかな腰を抱き、かぐわしい吐息となまめかしい髪の香りを満喫しながら踊った、あの咽ぶ様なブル―スの曲が、今でも耳に残っています。
 それから一年、京子との交際が続き、彼女にすっかり魅せられた私は、暫く会わない日が続
くと、決って彼女の夢を見る程に熱を上げてしまったのです。
 そして恋する者の常として彼女の一挙一動が気になり初め、彼女のほんの気まぐれな言動に
も一喜一憂する様になってしまいました。遂に決心した私は、或日、デ―トの帰りに立ち寄っ
た喫茶店で、思い切って彼女にプロポ―ズしたのです。
「京子さん、お願いです。……僕と結婚して下さい。……幸い僕には世話をしなければならな
い親も親類も無いし、二人だけで新しい生活を築きましょう。……僕にはあなたを幸せにする
自信があります」
 月並なせりふではありましたが、熱っぽくかきくどく私と対照的に、意外にも彼女は如何に
もク―ルな態度でした。
「判ったわ。……でも暫く考えさせて頂けません? 私の方にも色々と事情があるのよ。それ
に梅本さんと私では、少し年が離れ過ぎているんじゃありません?」
「そ、そんな馬鹿な! 十才位の違いは問題になりませんよ。……それに今では僕は京子さん
無しでは生きて行く自信がありません。朝起きてから寝る迄、京子さんの事が頭から離れない
んです」
「アラ、そんなに私のことを想って載いて光栄だわ。でも、もう少し時間を頂きたいの。……
実は私、あなた以外にも交際している人がいるんです。その人も私との結婚を望んでいるの。
……ですから、私にも充分考えさせて頂戴」
 それは私にとって正に晴天のへきれきでした。
 彼女に、私以外にも結婚を前提に交際していた男がいたなんて、思っても見なかった事です。
 私はそれからと云うものは、不安な気持を抱いて落着かぬ毎日を過しました。
 手中にしかけた宝石が、失われるかも知れないと考えただけで、やるせない気持に駈られ、
私はせっせと想いの丈を綴ったラブレタ―を彼女へ送りました。
 そして、とうとうあの日が来たのです。
 彼女からの社内電話で、先日の御返事をしたいから、仕事が終った後、先日の喫茶店に来て
欲しいとの連絡でした。
 勤務中のこと故、手短な会話だったせいか、彼女の口調にやや冷たい事務的な響きを感じ取
って、私は悪い予感にさいなまれながら、待合せの場所へ急ぎました。
 それだけに、紺のス―ツに大きなフリルの着いたブラウスを身に付けた彼女が、あでやかな
笑みで私を迎えてくれた時は、何かこう、救われた様なホッとした気分になった事を覚えてい
ます。
 しかし、結果は私の予感通りでした。
 しかも思いも掛けぬ無残な結末が、私を待受けていたのです。
 私が席に着いて彼女と向い合うと、京子の顔からス―ッと微笑みが消え、冷やかなしかも、
人を見下だす様な表情が浮びました。
「梅本さん、早速ですけど先日のお話しね、お断りしたいの。……こだわる様だけど、やっぱ
り年の違いから来るギャップは無視出来ないわ」
 或程度覚悟していたとは云え、彼女の言葉は私の心に鋭く突き刺さりました。
「その……年の違いと云っても……」
 弱々しい声音で口を開いた私を、押止める様に京子が続けます。
「でも、本当の理由は違うのよ。……私、あなたの代りに、別の人を選んだの。……そうよ、
私が交際していたもう一人の若い彼氏。……あなたの部下の相沢洋介さんよ」
 それは、私をグサリと刺し貫いた第二のやいばでした。
 こともあろうに、私の部下の相沢洋介が彼女の意中の男だったとは!
 しかし、上背の有る苦味走ったハンサムな相沢洋介を思い浮べると、私のいきり立った心は
ス―ッと萎んで行きました。
 確かに彼は若く魅力のある青年であり、しかも仕事も仲々のやり手なのです。
 彼女の相手としては、残念ながら私より相応わしい男と誰の目にも写ることでしょう。 黙
り込んだ私を見詰めながら、京子は更に続けました。
「でもね、梅本さんの御好意は感謝しているのよ。そして私を死ぬ程恋いこがれている事もお
手紙から良く判ったわ。……それでね、私としては今後もあなたと密接な関係を続けてあげよ
うと思うの。……勿論、相沢さんの了解のもとにね」
 私は、京子の意図が全く理解出来ませんでした。けげんな面持の私を見やりながら、京子は
じらす様に中々核心に入りません。
「密接な関係と云っても勿論、男と女の関係じゃない事は判るでしょう。そうかと云ってお友
達でもないのよ。……フフフ、判る?……きっと判らないわね」
 京子は横の椅子の上に置いてあった封筒の中から、分厚い書類を取り出したのです。
「私が、経理部で社内仕損費の監査を担当していることは御存じね」
 私の会社の場合、社内仕損費とは商取引に付随した損金の事で、年に一回その内容をチェッ
クして果してその額が適正か、発生理由が正当なものかどうか判定するのが、経理部での監査
の仕事になっています。
 影山京子のグル―プは取締役待遇の担当監査役の下で、この監査業務を担当しており、京子
はその中でもベテランのやり手と目されていました。
「この書類を見て頂戴。これは先週中近東の出張所から届いた売掛金のリストよ。戦時統制令
で取引が停止されたから、この売掛金はすべて損金処理になるわ。……でもね、おかしい事が
あるの。こちらが海外営業部から提出されている売掛金明細書で、あなたのサインがあるわ。
ね、総計が大きく違っているでしょう」
 京子の私を見詰める目が鋭く光り、私は思わず顔を伏せました。
「私、早速、中近東の出張所にテレックスを打ったの。そしてこれが昨日届いた返事よ。ホラ
、売掛金の総計をコンファ―ムしているでしょう。……と云う事は、あなたの作成した明細書
の数字が、意図的に水増されていると云う事になるわね。それも、相当の額よ」「……………
…」
「これは、明かに業務上背任横領罪よ。あなたは首になった上に刑事裁判を受けて監獄に入れ
られるのよ。この金額では個人での弁償は難しいでしょうし、執行猶予も望めないわ……ね、
梅本さん、聞いてるの……アラ、あなた震えてるのね」
 私は全身が冷汗で濡れ、上体が細かく震えるのをどうする事も出来ませんでした。
 よりによってこんな時に、しかもプロポ―ズした相手の女性に、自分の不正を暴かれるとは!
 私は自分の不運を呪いました。しかし京子の鋭い追求は、意外な方向へと展開して行ったの
です。
「この件はね、私、未だ監査役に報告してないのよ。……調査自体も私の一存で実施したこと
だから、私が黙ってればあなたの不正は永久に露見しないでしょうね」
「お、お願いだ。……京子さん、頼むから助けてくれ! 黙っていてくれたら、僕はどんな事
でもする。本当だ。……頼む!」
 京子の言葉に微かな希望を繋いだ私は、手を合わせんばかりにして、彼女に懇願しました。
 しかし、それは京子の思う壷だった様です。
 と、言うより、私は京子の仕掛けた罠にずるずると落込んで行ったのでした。
「梅本さん。あなた、今、どんな事でもすると言ったわね。……その言葉に嘘が無ければ黙っ
ていて上げてもいいわ。……さっきね、あなたと密接な関係を続けて上げると言ったでしょう。
それはね、クックックッ……王女様と奴隷の関係なの。……あなたは使い込みの罰に、私の
奴隷に成るのよ。それを承諾すればこの件は一切黙っていて上げるわ」
 私は驚きのあまり声が出ませんでした。
 何か言い掛けても、口がパクパク動くだけで言葉に成りません。
「フフフ、びっくりしたの?……私ね、子供の頃、おとぎ話が好きだったの。
夢の中ではいつでも私は王女様。そして素敵な王子様と何でも言う事を聞く献身的な奴隷が出て来たわ。
それを現実のものにして見たかったの。……王子様は相沢さん。そして、奴隷にはあなたがピッタリだ
わ。……私、知ってるのよ。一年前、本屋で出合った時、あなたの見ていた雑誌の頁には、女
に踏付けられている男の写真があったでしょう。……そんなあなたにとって、恋いこがれてい
る女性の前に膝まずいて、奴隷として仕えるのも悪く無いでしょう」
 夢を語る京子の顔には、うっすらと赤味が差し、その大きな目がキラキラと輝いて見えまし
た。
「ど、奴隷って……一体、何をするんですか?」
 辛うじてかすれた声が咽喉から出ました。
「何って、私の言い付けた仕事は何でもやるのよ。あなた今言ったじゃないの、どんな事でも
するって。……でも安心なさい。これは私達と相沢さんの三人だけの秘密よ」
「相沢君も、売掛金の水増しの件を知っているのか? 出来れば、京子さんと僕だけの間の事
に出来ないものだろうか?」
 私は声の震えを懸命に隠して、冷静を装おうと努めました。
「それは無理よ。王子様だって王女さまの奴隷を使う権利はあるんですもの。……第一、売掛
金の件は相沢さんから、どうも数字が大き過ぎるって情報があったから調べたのよ」
 私は心の中で思わず〔畜生! 相沢の野郎どうするか見ていろ!〕と叫んでいました。
 しかしよく考えて見ると、彼女の言う様に、私は相沢にも奴隷扱いされるかも知れぬ身なのです。
 情けなさと悔しさが、どっとこみ上げて来ました。
 首ががっくりと前に倒れ、涙がツ―と頬を伝います。
「どうやら諦めたらしいわね。じゃあ梅本さん、承知するわね」
 私が無言で頷くのを見て、京子はニヤリと笑みを浮べました。
 内心、してやったりと思っていたに相違ありません。
「じゃあ、今週の週末に私のマンションに来るのよ。……奴隷としてたっぷり仕込んであげる
から」
 余りの大きなショックのため、アパ―トに帰ってからも、私はその晩殆ど眠れませんでした。
 何と云う事でしょう。
 私は恋する女性にプロポ―ズし、ノ―と言われたばかりか、彼女の奴隷に成るよう強制され
たのです。
 しかも、殊もあろうに自分の直属の部下が恋の勝利者で、その男にも奴隷扱いされる……こ
んな屈辱的な事があって良いものでしょうか。
 しかし、使い込みを表沙汰にされれば、首になり、冷たい獄舎に繋がれるのです。
 それを思えば、奴隷とは云え恋する彼女の傍に居ることが出来、会社でも現在の地位を保つ
事が出来る……それは未だ我慢出来る様な気が致しました。
 翌日は風邪と称して会社を休み、終日考え抜いた上で、漸く以上の様な心境になった次第です。
 しかし今から考えると、私は大きな誤りを犯していたのです。
 その後私の直面した、京子の奴隷としての汚辱に満ちた日々を思えば、あの時に思い切って
司直の手にこの身を委ねるべきだったのでした。
 その次の土曜日の朝、私は指定された時刻に足取り重く、しかし幾分たかをくくった気持で、
京子のマンションを訪れました。
 過去一年間にわたる彼女との会う瀬での数々の楽しい思い出が、現実の厳しさにベ―ルを掛
け、私の心に楽観的な気分を吹き込んでいたのです。
 しかし、それも長くは続きませんでした。
 京子のマンションのベルを押した私は、中央にソファ―を並べた広いリビングル―ムに招じ
入れられました。
「私の目の前で着物を脱いで、裸になって頂戴。……それから、これからは周りに人が居ない
時は私に敬語を使うこと。私のことは京子様≠ニ呼びなさい。梅本さんのことは、お前
でいいわね。名前を呼ぶ時は、当然呼び捨てよ。……そう、お前の名前は四郎だからシロ
にしましょう……フフフ、犬の名前にぴったりね」
 覚悟を決めて来たとは云え、ソファ―に深々と身を沈めた彼女の前で、無防備な裸身を曝す
気恥しさ、そしてお前と呼ばれ見下げられる屈辱は、いやでもこれ迄の彼女との対等の交際が
終りを告げ、彼女の所謂、王女様と奴隷と云う新しい関係に入る事を私に認識させたのです。
 ブリ―フも取って、文字通り一糸も纏わぬ姿で京子の前に直立不動の姿勢をとらされた私を、
彼女は品物の値踏でもする様に上から下までジロジロ見回しました。
「お前、案外痩ているのね。……後を向いて御覧。股を開いて。そう。……汚いお尻だこと!
 もう一度前をお向き。……フフフ、お前のジュニア元気ないじゃない」
 京子はソファ―から足を伸ばして、足指の先で私の跨間を突つきます。
 屈辱と恥ずかしさで赤くなった私の顔を、ニヤニヤ笑ってじっと見詰めながら、更に足指を
からめて来ました。
「お前、私と、今迄一年もデ―トを重ねて来たのに、一度もホテルへ誘わなかったわね。……
と云う事は、このジュニア君が役立たずなのかしらね。……それとも女を知らないため気遅れ
したのかしら?」
 彼女の足指が執擁に私の一物をなぶり続け、それは遂に私の意志に反してむっくり吃立し始
めたのです。
「アラアラ、随分固くなったわね。……それじゃお前、ひょっとしたら童貞なの?」
 真っ赤になって頷く私に、はじけるような京子の笑い声が浴せられました。
「ハハハ、そうだったの。……でも、もう手遅れね。私と正常のセックスが出来るのは相沢さ
んだけ。お前は奴隷として私のセックスにお前の舌と唇で奉仕するのよ。……さ、今度は犬の
様に四つ這いになって御覧」
 京子の前の床にみじめに這いつくばった私の顔の前に、彼女の素足がスッと伸びて来ました。
「さ、お舐め! 足の裏から指の間まで、お前の舌で清めるのよ」
 見た目にも薄黒く汚れた彼女の素足が、私を嘲笑うかの様に目の前で微かに揺れます。
 思い切ってそのかかとに唇を寄せ、足裏を舐め始めました。
 塩辛い味が舌を刺し、クックックッと彼女の満足気な含み笑いに、ぐっと悔しさ情け無さが
込み上げて来ました。
 かかとから土踏まずへ舌を走らせ、清め終ると指の付根に移ります。プンと微かに饐えた匂
いがして淡い苦味が加わりました。
 指の間に舌の先を入れ、うっすらと付着した垢を舐め取り、今度は指を一本一本口に含んで、唇と舌で吸い清めました。
「フフフ、お前、仲々素質があるわ。……今度はこっちの足よ。……それに、その格好、よく
お似合よ。そこの横の鏡を見て御覧!」
 言われた方向に首を曲げると、横手の大きな姿見に、彼女に足を舐めさせられている私の情
けない有様が写っています。
それは、私の転落した哀れな姿を、私の視覚にくっきりと焼付けました。
 この後、洗面所で口中を清めて来る様命じられ、京子の前に再び四つ這いになった私の髪が
彼女の手に握られたかと思うと、ぐっと前方へ引かれました。
 ソファ―に座った彼女が立膝をすると、ネグリジェに部屋着を羽織っただけの彼女の裾前が
はだけ、ピンクのパンテイ―が覗きます。
 薄笑いを浮べた彼女が尻を浮かし、パンテイ―を左手で器用に脱ぎ取ると、私の髪を掴んだ
右手が私の頭をぐいとばかり跨間へ引き寄せました。
 京子の跨間の淡い陰りがいきなり目の前に迫り、甘酸っぱい性臭が鼻を突きます。
「シロ! お前の初仕事よ。……舌と唇で私に虹の夢を見せなさい」
 京子の声が頭の上から降り、私の顔面は彼女の跨間にぴったりと捉えられました。
 催眠術にでもかかったかの様に、私は素直に唇を秘肉に這わせ、
舌をクレバスに差し入れます。ううーんと、けだるい声と共に、彼女の太腿が私の両頬を軽く締め付けました。
 舌の先が小豆大のクリトリスを捉えると、目の前の白い下腹部がピクリと震え、
やがてトロリとした分泌液がクレバス一面に湧き出て来ます。
 こうして可成の時間が経ち、私の舌の付根がだるくなって来た頃、漸く、彼女の跨間に小刻
みなけいれんが走り始めました。
 やがて太腿が私の頭をぐっと締付けたかと思うと、彼女は身体を反らす様にしてエクスタシ―に達したのです。
「馬鹿! すぐ舌を止めるんじゃないの。力を抜いてそっと続けるのよ」
 コツンと私の頭がこずかれました。
 そして彼女が余韻を楽しんでいる間も舌を休めることは許されず、やがて次の波を求めてク
レバスがうねり始めます。
 彼女は可成セックスにしっこい方と見えて、私は延々と舌奉仕を続けさせられました。
 しかし、それは未だ序の口でした。
 やがて尿意を覚えた彼女は、床の上に仰向けに寝かされた私の顔面に跨がり、私の口中に放
尿したのです。
 それは私にとって全身の震えが暫く止まらなかった程の辱めでした。
 その異臭を放つ汚水を口にさせられることよりも、つい先日迄恋人だった女性の尻に敷かれ
便器にされる精神的な屈辱感が私を圧倒したのです。
 私の開いた唇を彼女のクレバスが軽く抑え、コントロ―ルされた水流が少し宛私の咽喉に注
がれました。
 私の咽喉がゴクリと鳴ると同時にフフフッ、と満足そうな京子の声。
 それは、私を完全に征服し切った女性の勝利の宣言とも取れます。
 塩辛さと苦味の混合した朝尿の味は私の全身に泌み渡り、とめどなく送り込まれる多量の汚
水に私の胃は大きく膨れ上がりました。
 再び彼女の前の床に引き据えられた私は、恥ずかしさに京子の顔をまともに見る事も出来ま
せん。
 すっかり卑屈な気持になった私に較べ、当然ながら彼女の態度はまさに高慢な女主人、いや
彼女の言葉を借りれば王女様≠サのものでした。
 その日は一日中、彼女に命じられるままに部屋の掃除から便所の清掃、それに彼女の下着の
洗濯までやらされました。
 食事は彼女の残り物を犬の様に四つ這いで与えられ、彼女が尿意を催す度に便器として使わ
れるのです。
 そして、夜は今度はベッドの上で、彼女の跨間に顔を挟まれた私に、貧欲な迄に繰返し舌奉
仕が命じられました。
 疲れ果てて京子の跨間で眠りに落ちた私は、翌日の朝、目覚めた彼女にそのままの姿勢で小
水を飲まされました。
 こうして週末の二日間にわたって完膚なき迄に彼女に辱められ、征服された私は、それ以来
二度と昔の私に戻ることは出来ませんでした。
 そして以後、週末の度毎に彼女のマンションでの奴隷奉仕が続けられました。
 数ケ月後、京子と相沢洋介の結婚式の日、新郎の上役として披露宴に出席した後、私は二人
のハネム―ンの列車にこっそり乗り込みました。
 田舎の親戚に不幸があった事にして一週間の休暇を取った私は、京子の命令で、二人の新婚
旅行に随行させられたのです。
 勿論、京子の奴隷としての身分ですから哀れなものです。
 楽しげに腕を組んで語らいながら歩く二人の後から、首にショ―ルダ―バッグを、そして両
手に二人のトランクを下げてとぼとぼと従いました。
 夕闇が迫る頃ホテルに着き、予約してあった豪華な続き部屋に案内されて荷物を下ろした途
端、私は床に蹴り倒され、京子に溜っていた小水を飲まされました。
 職場では私の部下である相沢の目の前で、京子に顔に跨がられ、汚水を飲まされる屈辱は筆
舌に尽くし難いものがありました。
 しかしその晩、二人の初夜の床にはべらされた私は、更にみじめな経験をさせられたのです。
 先ず、ソフア―で抱き合う二人の足元で、四つ這いになって、京子の足裏をたっぷり舐めさ
せられました。
 そしてベッドへ移って仰向けに寝た彼女が立膝をし、その膝の下に出来た三角の空間へ横手
から首を差し入れて、彼女の局部を舐める様命じられました。
 頃合を見て相沢が上から覆い被さります。
「さ、シロ! 私達が楽しんでる間、私のアヌスをしっかり舐めるのよ。……そうよ。……今
度は私達の結合部を舐めて御覧。……そうそう。……フッフッフッ、お前今どんな気持?」
 私の顔は、極度の屈辱感で火の様にほてりました。
 相沢が腰を揺する度に、彼の陰嚢がピタピタと私の頬を打ちます。
 暫くすると二人の息遣いが荒くなり、動きが急ピッチに成ったかと思うと、突然、静止しま
した。
 彼が身体を離すと、結合部に舌を寄せていた私の唇の上にどっと生臭いジュ―スが溢れたの
です。
「しっかりお飲み! こぼさない様にね。……フフフ、これからお前は毎日こうして私達のセ
ックスに奉仕し、後始末をするんだよ。……そして、私が未だ満足していない時は、お前の舌
で私が昇天するまで続けなさい」
 チュ―ッとジュ―スをすする音に京子の嘲笑がダブり、私はめくるめく世界へと転落して行
きました。
 二人の奴隷としての現在の私の生活は、こうして初まったのです。
                                    〔完〕
=======================================================================
SMスピリッツ1985年 12.20 増刊号 154〜164頁# 新婚の部下の奴隷に(梅本四郎)


2010/04/11