#64 被虐の青春譜 阿部譲二
アダルトショップに勤める男が、品不足の匂い付きパンティを直接団地の妻達から仕入れるルートを開拓する。女達の前で商品の汚れた生パンティの匂いを嗅いで仕分けする彼は軽蔑の的になる。そして団地の一室でポルノビデオを見ているグループから自分達で撮影したいので主演してくれと言われ、屈辱的なシーンを取られた上女達の舌奴隷にされる。 |
「毎度、有難うございます……」
お世辞にも威勢が良いとは言えぬ湿った声で、馴染み客を送り出した清治は
陳列棚の照明を消して店じまいにかゝった。
終電車の時間には未だ間があるが、十一時の閉店時間はとっくに過ぎている。
「じゃあ、叔父さん、また明日!」
奥の帳場で今日の売上げの計算をしている店の主人に声を掛けると、清治は
軽い足取りでドアに向かった。
叔父の津村建造が経営するこのアダルトショップに勤め出して、もう四ケ月
になる。
「おい、一寸待て。……明日、仕入れに寄って来るのを忘れるなよ」
建造のしゃがれ声が念を押す。
「判ってるさ。……このリスト通りに品物を揃えてくりゃいゝんだろう」
清治は、ポケットから折り畳んだ紙を出してかざして見せた。
「そうそう、忘れてた。……先月から言っている匂い付きパンティ≠何と
か探して来てくれないか。……たしか、もう二、三枚しか残っていない筈だ」
建造は、帳場から立ち上がると、店の奥に並ぶショーケースを覗き込んで、
ストックを確認する。
「無理だよ、叔父さん。……先月だって、あちこち当ってみたけど、卸屋じゃ
あ、どこもみな品切れだってさ」
「そこを何とかするのが甲斐性ってもんさ。……それじゃあ、こうしよう。…
…もう、卸屋を当てにするのは止めて、直接仕入れる方法を考えるんだ」
「直接って……どうやって?」
清治は当惑気味である。
「いゝか、お前、卸屋がこのブツを集めるやり方を知ってるか?」
「………………」
「広告さ。……適当な新聞や雑誌に広告に出すんだ。……そして、女達が小遣
いかせぎにブツを送って来るのを待つのさ。……でも、高校生はダメだ。例の
ブルセラショップ事件で警察の目が光ってるからな」
建造は、店の隅の椅子に腰を下ろして、言葉を続けた。
「勿論、一流の新聞や雑誌がそんな広告を受け付ける筈はないから、読者の
幅がグッと限られてしまう。しかも、広告代だって馬鹿にならねえ」
「フーン、そうか。……三流雑誌じゃあ、読者も信用しないかも知れないな」
清治も、思わず吊り込まれる。
「そうさ。だから品薄になるし、値段だって高くなるってもんさ。……一方
、新聞じゃ、パンティ泥棒の記事が絶えたことがない。……ってことは、匂
い付きパンティ≠ヘ若い男の
オナニー用の必需品ってことだ。もし、うちが、このブツを大量に仕入れて、
今迄より安く売りゃ、爆発的に売れることは間違いないのさ」
「フーン。そうかもしれないな」
素直な清治の合槌に、えたりと建造は身を乗り出す。
「お前、行商人が戸別訪問で品物を売るのを知ってるだろう。……あれ、あれ
だよ。団地の奥さん連中を戸別訪問して、今度は、逆にブツを買い付けるのさ。
……勿論、前もってチラシを配っておいて、訪問日を知らせておくといゝだろ
うな」
「ひところの屑屋のやりかただね」
清治の目が輝いた。
「どうだ、お前、ひとつやってみないか?」
建造が、たゝみかける様に促す。
「ぼ、ぼくが? ひとりで?……そ、そりゃ無理だよ。……第一、恥ずかしく
って、とてもそんな度胸は無いよ」
「商売にはな、恥ずかしいなんて甘ったれた感覚は通用しないんだ。……いゝ
か、金儲けに徹するんだ。……もし、お前がこの仕事を引き受けたら、今の月
給の他に、これからの儲けの半分を歩合としてやろうじゃないか。うっかりす
ると、そちらの方が月給より多くなるかも知れないな。……どうだ?」
建造は、試す様な目付きでジーッと清治の顔を見詰めた。
「と言うことは、月給が倍になるかも知れないってことかい。叔父さん」
「そうさ、ブツが余れば、逆に卸屋へ売るんだ。……成績次第によっちゃぁ
、二倍にも、三倍にもなるぞ」
「少し俺にも考えさせてくれよ。……アッ、いけねぇ。終電の時間だ。じゃあ
また!」
店を飛び出すと、清治は最寄りの駅に向かって足を早めた。
春とは言えヒヤリとする夜気が、今しがたの会話で上気した彼の頬を醒ます。
終電に飛び乗った清治の頭の中では、女のパンティを買い集める仕事に対す
る気恥ずかしさが、次第に金の魅力で中和されて行くのだった。
それから二週間後、清治は、晴れ上がった青空のもと、郊外のニュータウン
と呼ばれる大規模な団地の入口で、思わず身震いを覚える程の緊張感に包まれ
ていた。
ワープロで作ったチラシを、目立たぬ様に封筒に入れ、各団地のメールボッ
クスに入れて回ったのが一週間前のことである。
今日が、彼にとってその反響を調べる初日と言う訳だった。
時間も、所謂団地妻が主人を送り出して、朝の家事を終え、くつろいだ気分
になる昼前を選んだし、女達の視線を避けるための黒のサングラスも用意して
ある。
清治は、大きく深呼吸をすると、最初の棟の入口に足を運んだ。
一階の端の家で、ドアのチャイムを鳴らしてみる。
自分の胸の鼓動がはっきりと聞こえた。
やがて、中から応答の声と共にスチールのドアが僅かに開き、主婦と覚しき
女が顔を覗かせる。
物売りを警戒してか、ドアの鎖を掛けたままだった。
「アノー、先日お宅の郵便受にチラシを配ったアダルトショップの者ですが…
…」
清治は、ドアの隙間からこちらが見える位置に立って、低い声で自己紹介を
する。
それでも未だ、うさん臭そうな女の表情を見て取ると、サングラスを取って、
精一杯、弱々しい笑みを浮かべて見せた。
「アー、あのチラシね」
女の顔が緩んだところを見ると、漸く思い出して納得したたらしい。
「そ、それで、宜しければ少し説明を……」
清治の言葉は、やゝ緊張気味に語尾を伸ばす。
それを、張りのある女の声が遮った。
「いゝえ、結構よ。……それから、あんないやらしいチラシ、二度と入れない
で頂戴!」
一瞬、気勢を削がれて立ち竦む彼の目の前で、ドアが音を立てゝ閉まった。
気を取り直して隣りの家のベルを押すが、留守と見えて応答が無い。
次の家も同様だった。
その次は、留守番の子供が居ただけ。
そして、漸く主婦とおぼしき若い女が顔を見せてくれた家では、先程同様、
話半ばで扉を閉められてしまった。
それでも二階のフロアーにに上がると、漸く、彼の何とか話だけでも聞い
て下さい≠フ嘆願が通って、狭い玄関口に入れてくれる家があった。
しかし、喜こんだのも束の間。
その女は幾分興味を示したものゝ、未だ彼に商売の実績≠フ無いことを知
ると尻込みしてしまった。
要するに、取り扱うものがものだけに、元来、近所の噂になることを人一倍
嫌う団地の主婦達に、なかなか信用してもらえないのである。
その日は丸一日、広い団地の中を歩き回って過したが、似た様な経験を繰り
返すだけでさっぱり実績が上がらなかった。
閉口した清治は、諦めて店に帰ると、叔父の津村建造の知恵を借りることに
した。
その結果、人目に付き易いチラシを止め、プライバシーの度合の高いダイレ
クトメールを、ドアの新聞受けから各部屋に投げ込むことにする。
しかも、中身をアンケートの形式にして、興味の有無をチェックさせ、説明
の為に担当者が訪問する日時を指定させる様にした。
同時に、趣意書として、女性のパンティを盗む青少年の犯罪を防止するのが
目的と述べ、切手付の返信用封筒を入れる。
宛先も、私書箱気付けの社会清風協会≠ネる架空の団体名とした。
更に念を入れて、アンケートに回答した方には、洩れなく粗品を進呈する旨
を付記。文字通り万全と思われる体制で、再出発である。
こうして、数百枚のダイレクトメールを配り終えて数日後、早速、何通かの
回答が返って来た。
胸を躍らせながら開封して行く清治の顔が思わずほころぶ。
回答の殆どが興味あり≠フ欄にチェックがあり、しかも訪問の日と時間と
を指定して来ていた。
飛び立つ思いで、清治は翌日からその指定の時間に、回答のあった家を片っ
ぱしから訪問して回った。
前回と異なり今度は社会清風協会です≠ニ名乗ると、警戒を解いて簡単に
ドアの中に招じ入れられことが多く、面白い様に使い古しのパンティが集まる。
しかし、物事すべてが順調と言うわけではなかった。
初対面のぎごちなさもさることながら、オドオドした態度で何とか説明に入
ると、彼を見る女の視線に一様に蔑みの色が浮ぶ。
彼への話し掛けの言葉も、ぞんざいになると同時に、時として、からかう様
な調子さえ加わるのだった。
それは、顔が火照る様な恥ずかしさと、やり場の無い屈辱感を彼にもたらす。
そして、女に軽蔑される我が身の悲哀を、たっぷり味わされる結果となった。
清治がその日持ち帰った可成りの量のパンティを、叔父の前にズラッと拡げ
て見せると、あたりに甘酸っぱい女の異臭が漂う。
色やデザインもまちまちだが、股間の部分が可成り変色しているものも混っ
ていた。
叔父の建造は、手際良くそれ等を幾つかの山に選り分けて行く。
時折、その汚れた部分を鼻に当てゝ、顔をしかめながら念入りに吟味した。
「このてのブツもな、最近は客の好みに合わせて、予じめ分類しておく必要が
あるのさ。ピンからキリまで区分無しの、ただの使用済みパンティじゃ、いず
れ客に飽きられてしまう。……ホラ、これが所謂シミ付き生パンティで匂いも
強烈だ。……ソレ、お前も嗅いでみな!」
建造から手渡されたピンク色のパンティは、股の付根の部分に黄褐色のシミ
ができ、しかも、そこがジットリ湿っている。
不潔感をこらえて、その部分に顔を寄せると、ムーッと生臭い異臭が鼻を突
いた。
ツンとくるアンモニア臭は、恐らく付着した尿のものだが、それに混って饐
えた女の性臭が漂って来る。
それは腐ったチーズに似て、いつまでも、しつこく清治の嗅覚にまつわりつ
いた。
「男には夢精ってのがあるだろう。……人によって量の多少はあるが、女だっ
て催した時には分秘物が出るもんだ。……それが、未だ乾燥せずに付着してい
るのが、所謂、シミ付き生パンティさ。……マニアの男は、この臭いだけでな
く、その部分を舌で味わって興奮するんだ。その点、これは性経験豊かな中年
向きかな。これに適当なヌード写真をつければ、羽が生えたように売れるさ」
建造は、淡々と解説を続ける。
「若い男がオナる時は、女のあそこを想像するだけで興奮するから、微かな臭
いだけでも充分なことが多い。……濃いシミが付いていたり臭いが強烈過ぎる
と、却って潔癖な男は反発するものだ。……ホラ、これがそのサンプルだ。…
…お前、嗅いでみな。微かに臭うだろう。……その程度がいゝんだ。よく覚え
ておけよ」
建造に言われて、一見新品の様な白いパンティの股間を清治が顔に当てると、
甘い性臭が鼻をくすぐる。
「それからな、人に依っては、尿や糞の付いたのも好む物好きがいる。所謂、
糞尿愛好者……コプロウロラグニスト略してコプロさ。……そこまでは行かな
いのが、強度の汚物拝崇者……フェチシスト略してフェチってやつだ。ホラ、
これだ。……ちょっと舌で味わってみな。……フフフ、いやがるのも無理ねえ
が、これも商売だ。すぐ慣れるぜ。……そう、そうだ。……どうだ、オツな味
だろう」
建造に言われるまゝに目をつぶってその部分を口に含むと、ピリッと苦い酸
味が舌を刺す。
「最後に、こゝには無いが、女の生理の汚れの付いたもの。……これは説明不
用だが、その他に変ったもので、所謂、ミックスジュース付きってやつがある。
これも中年の好事家には高く売れるんだ。……ソラ、女が男とセックスをした
後、パンティであとを拭うことがあるだろう。……男のザーメンと女のラブジ
ュースがミックスしたのがベッタリ付いたやつさ」
建造は口元に薄笑いを浮べる。
「ヘエー、そんなものを、一体どうするんだろう?」
清治は不審気である。
「そりゃー、嗅いだりねぶったりしながら、あの時の情景を想像して楽しむの
さ。……でもな、幅広く色々なパンティを集めようと思ったら、予め注文を出
しておくんだな」
「注文って?……」
「判るだろう。こうこういった汚し方をしてくれって、前もって頼んでおくの
さ。……ソラ、飲みに行ってバーで女の子を指名する様に、汚れ方を指定する
ってわけだ。……その代り多分指名料みたいに、余分に代金をはずむ必要があ
るだろうな」
「余分に払うのはいゝけど、汚れ方を指定するのは恥ずかしいな。……それに、
まさか初対面の女の人の前で、パンティを嗅ぐわけにもいかないしさ」
清治は、半ば当惑気味である。
「そんなことじゃ、この商売はやって行けないぞ。……まあ、生まれ変ったつ
りで、頭を切り換えるんだな。その内、時間が経てば自然に慣れるし、どんど
ん金が儲かる様にでもなれば、はげみも出るもんさ」
建造は、突き放す様に言った。
それから約一年、清治は叔父の建造が経営するアダルトショップを手伝いな
がら、昼間はもっぱら、このパンティの仕入れの仕事に専念した。
やはり、習うより慣れろとは良く言ったものである。
建造が予言した様に、その頃になると清治の羞恥心も薄らぎ、女達の蔑む様
な視線や、見下げる様な物の言い方も、さほど気にならなくなっていた。
あちこちに継続して品物を供給してくれる馴染みの固定客も出来、中には、
グループで定期的に可成りの数をまとめてくれるところもある。
一方、こうして清治が仕入れたブツを引き取ってくれるアダルトショップも、
叔父の店だけでなく、卸屋を通じての紹介でぐんと増えた。
しかも、最近女子高生のルートが壊滅したこともあって、需要が旺盛で、清
治の集める量では追い付かない程である。
勢い、彼も仕入先の新開拓を始めるなど、次第にこの仕事に熱中していった。
「ねえ奥さん、お願いだ。来月はもう少し数を増やして集めてもらえませんか?
何しろこのところ品不足で、目標の半分も集まらないんですよ」
こゝは、初夏の青空が拡がる昼下がりの団地である。
清治は、馴染み客の田島のぶ子の家の玄関先で、先程からねばっていた。
「あんたに急に言われたって、私も困るわ。第一うちのグループだって人数が
限られてるんだもの。……でもね、ミックスジュース付のなら、何とかなるわ
よ。このところ、お盛んな人が多いから。フフフ」
のぶ子は白い歯を見せて笑った。
水玉のブラウスの胸元から、微かに汗ばんだ、はちきれそうな若い肌がこぼ
れている。
丸顔に、黒目勝な大きな瞳と、熟れた厚目の唇が、どことなく官能的な雰囲
気を醸し出している。
中々の美人で、豊な胸とボリュームのあるヒップが魅力的だった。
「それもお願いします。……でも、一番人気のあるのはシミ付き生パンティな
んです。……それと、数はなくてもいゝですから、生理の汚れの付いたショー
ツも集めて下さい」
「判ったわ。……じゃあ、こゝにある今週の分を清算して頂戴」
のぶ子は、玄関先に腰を下した清治の前にふくれ上がったビニールの袋を差
し出す。
彼はノートを拡げ、袋の中から色とりどりの使用済みパンティをひとつ宛取
り出し、仔細に吟味した。
付着した汚れの種類を確めるために、目で調べた後、それを鼻に当て臭いを
嗅ぐ。
時には、一部を舌で舐めてみて酸味の程度から、尿と分秘物の混合度合を確
めた。
そうした清治の仕草を眺めるのぶ子の目には、何時ものことながら、強い蔑
みの色が浮ぶ。
「あ、そうだ、忘れてたわ。……あんた、私の今穿いてるのも持って行ってよ」
のぶ子は中腰になると、スカートの中に手を入れ、パンティを引き下ろした。
羞恥心を一切見せないその態度から、もはや彼女が清治を普通の男として意
識していないことが判る。
言い換えれば、それは、彼女が清治を心から軽蔑し切ってをり、男として認
めていないことを示していた。
「ハイ、これ。……臭いを嗅ぐんでしょう。……アラッ、あんた赤くなってる
のね!」
のぶ子は、汚れた股間の部分を、これ見よがしに清治の顔に突き付けながら、
流石に狼狽の色を見せる男をからかった。
「あんた、何時も商売を口実にしてるけど、実は、女のパンティが好きなんで
しょう?……ホラ、また赤くなった。クックックッ、あゝおかしい!」
のぶ子は文字通り笑い転げた。
清治も流石にのぶ子の前では、彼女自身が脱いだばかりのパンティを顔に当
てゝ嗅ぐ勇気が無く、そのまゝ、ほうほうのていで引き上げる。
それから暫くの間、清治の足は自然と彼女の家から遠のいた。
彼としても、ビジネスとして割り切っていた筈のこの仕事に、無意識ながら、
男としての興味と好奇心を抱き初めている自分に気付いていた。
だからこそ、のぶ子にその心を見透された様な気がしたのである。
その内、のぶ子から叔父の店の方へ電話があり、品物が溜っているから、今
週金曜日の午後一時に取りに来てほしいとの伝言があった。
丁度、品薄で仕入れをせかされていたこともあり、清治は気を取り直して指
定された時刻に田島のぶ子の家を訪れた。
彼女も今度は神妙な態度である。
例の如く品物を選り分け、清算を終えた後で、彼は彼女から意外な申し出を
受けた。
「実はね、今日はあんたにお願いがあるの。……私達のグループのメンバーが、
是非あんたに会ってみたいって言い出したの。……それで本当は、さっきから
奥の居間に全員が集まってるのよ。……あんたも今後、直接みんなに色々注文
をすることもあるだろうし、丁度、良い機会だと思うわ」
のぶ子のさそいの言葉には、清治に否応を言わせぬ調子がこもっている。
そう言えば、先程から廊下を仕切っているカーテンが揺れ、誰かが蔭からこ
ちらを窺っている様な気配がしていた。
風のせいかと気に止めなかったが、それにしても、のぶ子と二人だけだと思
っていたこの家に、グループの全員が集まっていたとは驚きである。
断る理由も無く、清治はのぶ子に導かれて奥に通された。
ワンルーム式の広い洋式の居間には、絨緞が敷き詰められ、壁際に置かれた
ソファーと反対側のコーナーの大型テレビとの間には、可成りの広い空間があ
る。
今まで声を密めていたらしい女達が、彼を見ると一斉にざわめいた。
数も、十人を下らない。いずれも近所の主婦連中らしく、思い思いのカジュ
アルな服装だった。
のぶ子は、彼を全員に紹介する。
とても一度では、全員の名前を覚え切れないが、清治の目から見て、何れも
女の臭いをムンムンさせた中流家庭の若妻達だった。
「紹介を終ったところで、みんなから、あんたにお願いがあるの」
のぶ子が改まった口調になる。
他の女達は、ソファーに座った清治を取り囲む様に、それぞれ腰を下ろした
り、壁に依り掛かったりしている。
「あたし達、正直言って退屈してるの。……何か、こう、皆がワァーッと言う
様な刺激が欲しいわ。……それでね、最近、この部屋に毎週集まって、ポルノ
ビデオを皆で見てるんだけど、中々良いのが無くって直ぐ飽きちゃった。……
そこで、今度は私達でポルノビデオを作ってみようってことになったの」
のぶ子の言葉の真意を計りかねて、清治は落着かぬ気持で耳を澄ました。
「幸い、あんたはアダルトショップの人だから、ポルノは専門ってことになる
わね。……そこで、あんたを主役に、こゝでビデオを撮影したいの。……協力
してくれるわね」
のぶ子は、きめつける様な調子で彼の同意を求めた。
意外なことの成行に仰天したの清治が、あたりを見回すと、既に幾つかの家
庭用ビデオカメラが三脚の上に据えられている。
部屋の隅には照明用のフラッドランプまで準備してあった。
「でも私は、……ど、どんな演技をしたら?……ま、まさか、こゝでセックス
を……」
動転した清治は、しどろもどろである。
「馬鹿ね。あんたは、地のまゝでやればいゝのよ。……そら、何時もの様に私
達のパンティをクンクン嗅いだり、ペロペロ舐めたりね」
のぶ子の言葉と同時に、女達の間にワーッと笑いの渦が広がった。
「見たわよ。……さっき玄関でやってたの!」
「あんたが最初に嗅いでたピンクのは、私のよ。……どう? いゝ臭いだっ
た?」
一同の中から、口々に声が出る。
「どおお? 協力する?……いやなら、皆であんたを縛ってでも、無理矢理
させるわよ。……フフフ、そう。言う通りにするのね」
のぶ子の言音に勝誇った驕慢さが篭った。
何と言っても多勢に無勢である。
抵抗しても無駄と覚った清治は、無念さをこらえながら、ガックリと首を垂
れた。
「先ずカメラリハーサルよ。……照明当てゝ頂戴。……ハイ、演技開始!」
のぶ子の掛声に合わせ、部屋の中央で絨緞の上に座った清治は、目の前のパ
ンティの山から上のひとつをとって、裏返し、股間の汚れがカメラにはっきり
写る様に両手でかざしながらそれにジーッと見入る。
すべて、先程来、まるで人形の様に、女達の注文に合わせて練習させられた
演技である。
頃合を見て、パンティを顔に当てた彼に周囲から声が飛ぶ。
「もっと音を立てゝ嗅ぐのよ。クン、クンってね。……本番の時、マイクに入
る様にね。……そう、良いわよ。クックックッ」
言われるまゝに鼻を鳴らす清治に、女達の嘲笑が浴びせられる。
「フフッ、まるで犬みたいね。……あんた、次に舐める時は、ピチャピチャっ
て音を立てるのを忘れちゃ駄目よ!」
のぶ子の傍で、助手気取りの大柄な女が、噴き出すのをこらえながら、おか
しそうに声を掛けた。
「さあ、本番行くわよ。……ハイ、カメラ、スタート!」
女達の見守る中で、清治の屈辱に満ちた演技が続いた。
商売の時と違って、こうした環境下では、同じ動作でも全く違った意味にな
る。しかも、それを女達に強制され、しつこく繰返させられるのだからたまら
ない。
カメラの前で、その汚れがすっかり取れるまで、パンティの股間を延々と舐
め、しゃぶらされる屈辱感は、通常の神経の持主としては耐え難いものがあっ
た。
「さあ、いゝわ。……パート・ワンはこれでオーケーよ。……続けてパート・
ツーに移りましょう」
のぶ子が、声高に宣言する。
てっきり、これで放免されると思っていた清治は、呆気にとられた。
「未だ、あとがあるんですか? それじゃあ約束が……」
「アラッ、私達、何も約束なんかしてないわよ。……サー、今度は裸になって!
パンツも全部取るのよ」
流石に、顔色を変えて尻込みする清治を、女達が取り囲む。
「サァ、これ以上ぐずぐずしてるんだったら、私達が手伝うわよ。……大体、
ポルノ映画の主役が、裸にならないなんて、さまにならないわ。……あんたは、
私達の言う通り演技してればいゝの!」
のぶ子に決め付けられて、清治の心に芽生えかけた反抗心も不発に終った。
しぶしぶ、着物を取るに従って現れる男の裸身に、女達の好奇の視線が集中
する。
「アラー、可愛いわ。……こんなに縮こまってる!」
女のひとりが、彼の股間を指して頓狂な声を上げると、また笑いの渦が広が
る。
清治は、赤くなって、思わず両手で前を隠した。
「だめねぇ。その手が邪魔だわ。……ちょっと、さっきの袋を貸して頂戴」
のぶ子は、部屋の隅に置いてあった紙バッグを受け取ると、中身を床にあけ
た。
ガチャッと音がして鎖付きの金具が、そして、黒皮の鞭が現れる。
一瞬、清治の目に恐怖の色が走った。
「これ、先日あんたの店で買ったのよ。……アラッ、あんた震えてるのね。…
…大丈夫、おとなしくしてれば鞭は使わないわ」
女は鎖付の金具を取り上げて、彼の手を背中で拘束した。
叔父のアダルトショップでSMコーナーに置いてある、簡易手錠である。
本物程、耐久力は無いが、ちょっとやそっとでは壊れない頑丈さが売りもの
だった。
のぶ子は、もうひとつを彼の足首に嵌め、完全に男の身体の自由を奪うと、
その髪を掴んで引き倒す。
たまらず床の上に仰向けにひっくり返った男の喉首に跨がったのぶ子は、
スカートをたくし上げて彼の顔をジーッと見下ろした。
「いゝこと。……パート・ツーではね、あんたをテストするの。……つまり、
男が、女のパンティの臭いや味に、如何に反応するかをカメラに収めるの。…
…勿論、あんたの男性自身の反応を記録するのよ。それも、反応が鈍いとつま
らないから、私達が、パンティを穿いたままであんたの顔に跨がってあげる。
……これが本当の生パンティよ」
のぶ子は説明を終えると、おもむろに腰を持ち上げ、彼の顔をじんわりと、
その豊かなヒップで覆った。
ムーッとする異臭が清治の鼻を直撃する。
それは、パンティを自分で顔に当てた時より遥かに強烈であり、顔面に掛か
る重圧とともに、彼の被虐感をかき立てた。
しかし、清治の場合、その被虐感が性本能を刺激するまでには至っていない。
「アラ、こいつ、未だ立たないのね」
のぶ子は、彼の顔の上で尻をくねらせてみたが、それは、彼の呼吸を一層息
苦しくさせただけだった。
「ホラ、それじゃ舐めて御覧。……ソラ、早く!」
しかし、彼女の尻の下で懸命に動かす彼の舌の先は、むなしく女のパンティ
の表面を擦るだけで、唾液はすべて、その厚手の生地に吸い取られてしまう。
「駄目ねえ。……いゝわ、特別に、じかに舐めさせてやるわ」
のぶ子は尻を微かに浮かすと、パンティを太股に押し下げ、白い双丘を惜し
げもなく露出させる。
そして、その割目でゆっくりと男の鼻と口を覆った。
「サアー、お舐め! 最初はアヌスから始めるのよ。……奇麗にしないと承知
しないよ」
それは、清治にとって生れて初めての、思い出すにもおぞましい経験だった。
女の汚れたアヌスが、繰返し彼の唇を蹂躙し、ねっとり湿ったクレバスが、
彼の鼻を覆ったのである。
菊座に付着した汚れが舌の先で溶けて、彼の口中で苦い汚液に変る。
同時に、鼻に接する秘肉からは、分秘されたばかりの女性の淫液の香りが漂
う。
そして、目の前ではピンク色のクリトリスが、悩ましげに息付いていた。
視覚、嗅覚、味覚そして顔の皮膚で感ずる秘肉の触感。それらは、一体とな
って清治の男を刺激した。
「ホーラ、とうとう立って来たわよ。……カメラは回ってるわね。……ウフフ、
男って、やっぱりスケベな動物ね」
のぶ子は、得意げに両手を挙げ、背を延ばした。
「ついでに前の方も舐めるのよ。……私が良い気持になるまで舌を休めるんじ
ゃないよ」
彼女は、尻を彼の顎の上にずらし、その大きめなラビアで男の唇を包む。
そして、小刻みに腰を前後に揺すって、男の舌と唇の感触を、貪欲にそのク
レバスに刻み込んだ。
彼女が、アーッと声を上げて達するまで、十分も掛からなかったが、その尻
の下で懸命に舌を動かす清治にとっては、十時間にも匹敵する長さに感じられ
た。
もの憂げに男の顔からやっと腰を上げたのぶ子は、自分の股の下に、女の淫
液でべっとり覆われた彼の顔を見出すと、急に激しい軽蔑を覚えたと見え、そ
の顔にペッと唾を吐き掛ける。
それを、まともに目のあたりに受けた清治の顔が、口惜しさにクシャッと歪
んだ。
同時に、その視界の中で、彼のみじめさを嘲笑うのぶ子の顔が、彼女の唾が
広がると共に、ボーッと、ぼやけて行った。
茫然として横たわる清治の顔を、タオルがぐいと擦る。
荒っぽく汚れを拭い去ると、別の女の尻が彼の顔に載せられた。
しかも、今度は最初からパンティを脱いだ裸の尻である。
彼の舌がアヌスを清め終るのを待ち兼ねた様に、その女は、濃い目のヘアで
彼の鼻をくすぐりながら、既に分秘液でベッタリ濡れたクレバスを唇に押し付
けて来る。
そこには、欲求不満気味な団地妻の欲望が露わだった。
こうして、清治は手足を拘束されたまゝ、十人もの女達に、次々と舌奉仕を
強制されたのである。
全員が欲望の処理を終えたのは、もう夕方近かった。
ソファーに座ったのぶ子の前の床に引き据えられた清治は、女の素足を顔に
当てられ、足裏を舐め清める様、命じられていた。
長時間に亘って酷使された舌の付根が、腫れ上って鈍い痛みを持っている。
それでも、のぶ子は許さなかった。
「今日のことは、誰にも喋るんじゃないよ。それから、あんたはこれからは毎
週、私達の慰み者になるんだよ。一寸でもさぼったり、反抗したりしたら、今
日のビデオをコピーしてばら撒くからね。……その代りパンティはこれまで通
り集めてやるよ。いゝね」
女の足裏が、彼の確認の返事を求めて、鼻と唇をこずく。
「ウ、ムー……は、はい……」
流石に、無念の思いに胸がつぶれ、彼の頬にポロポロと涙がこぼれた。
「そうだ、もうひとつ口封じのおまじないをしといてやるわ」
のぶ子は、彼の顔をぐいと蹴って仰向けに寝かすと、再びその顔に跨がる。
「口を開けるんだよ。……そうそう、零さずに全部飲みなさい」
のぶ子の言葉の意味を理解する前に、清治の口中には、女の汚水がチョロチ
ョロと注がれ始めた。
女の尻の重みが、しっかりと顎に掛かり、口を閉じることも、汚水を吐き出
すことも出来ない。
ゴクリと清治の喉が鳴り、最初の汚水が彼の胃の腑に送り込まれた。
あとは、堰を切った様に流れ込む女の汚水をゴクゴクと飲み込むしかない。
のぶ子に、自分の口を便器がわりに使われる口惜しさ、情けなさが胸を刺し
た。
未だ帰らずに見物していた女達が、思わずワーッと歓声を上げる。
「あとを奇麗に舌で清めておくんだよ。……そうそう、上手よ。……この次は、
大の方のトイレットペーパーの代りもさせてやるよ。クックックッ」
のぶ子の笑い声が、そして女達の嘲笑が、彼女の尻の下で汚辱に咽ぶ清治の
耳に、遠く近くこだまする様に、残響を伴なって何時までも残るのだった。
(完)
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1989年10月スレイブ通信13号
2010/03/14