#57 汚辱のアルバイト(汚辱の淵) 阿部譲二作
K大学に入学して一年、アルバイト斡旋所で仕事を見つけては学費や生活費を稼いでいた男が、郷里の母の入院で急に多額の金が必要になる。ホストクラブのヘルパーとしての仕事を見つけて契約するが、仕事は女性客に舌で奉仕する役目だった。しかも昼は低料金タイムで円筒の中に寝かされ、顔のあたりに開けられた穴に跨る女達に舌奉仕をさせられた。 |
三月半ばともなると、K大学のキャンパスにも、漸く柔かい日差しが注ぐ日が増え、あたり
の野山や木々に、うっすらと淡い緑の衣が掛かって来る。
学期末の試験も終り、四月の新学期までの所謂、春休みに入って、学生達は国元に帰省した
り、旅行に出掛けたりで、寮に残っている者は数える程だった。
その少数派のひとり、片岡利夫は、このところ全く憂欝な日々を過ごしている。
父親を幼時に無くし、毎日の暮しがやっとと云う家庭で育った片岡にとって、郷里を離れて
大学進学の夢を実現するには、可成りの覚悟が必要だった。
経済的には、勿論、家から学費を出して貰う余裕は無い。
それどころか、長男で、下に幼い妹を二人も抱えた彼の立場では、郷里で内職を続けている
母に、逆に仕送りをしなければならぬ状況だった。
従って、K大学に入学して以来この一年と云うものは、学業よりもむしろ、アルバイトの方
に力を注がざるを得なかったのである。
春休みも、帰郷するどころか、毎日フルに働いて、郷里への仕送りの分と次の年度の寮費や
授業料を稼ぎ出さねばならない。
そんな時に、彼の最も有力な資金源だった雑誌記事の校正の仕事が、印刷所の倒産のあふり
を食って、突然、無くなってしまったのである。
しかも、悪い時には、悪い事が重なるもので、今朝早く郷里の母が急性の十二指腸炎の為、
突然、入院したとの報せが入った。
幸い、緊急手術の結果、経過良好との事でホッとしたものゝ、今月中に第一回目の医療費の
支払いをしないと、療養が続けられない状態と聞き、ハタと困惑してしまった。
しかも、その費用の総額を聞いて、彼は途方に暮れた。
とても、彼の手に負える金額では無かったのである。
学内にある共済会の事務所は、毎朝九時に開くのだが、学期休みの間は、午後しか営業して
いない。
片岡利男は、昼食もそこそこに共済会の中にあるアルバイト斡旋所へ足を運んだ。
「アラ、片岡さん。又、仕事探しなの?」
こじんまりしたアルバイト斡旋コーナーのカウンターに座っている顔馴じみの事務員、山本
敬子がニッコリと微笑みかける。
入学以来、度重なる職探しで、すっかり親しくなり、これまで四、五回、デートもした仲で
ある。
と云っても、映画を見て、その後お茶を飲む程度だったが、片岡は彼女の整ったマスクと知
的な爽かさに、何か強く惹かれるものを感じていた。
「今度は大変なんだ。郷里の母が急に入院してね、少し纏まった金が至急要るんだけど、何か
良い口は無いかなぁ」
「困ったわねぇ。給料の前払いをしてくれる様な所は、どこにも無いわ。……そうだわ、職業
安定所に勤めている私の友達に、聞いてみて上げる。一寸待ってね」
彼女は電話に向かうと、可成り長い時間、熱心に話している。
時折洩れる言葉の端々から察すると、相手はどうも男性のようで、しかも大分親しい仲とと
れた。
熱い嫉妬に似た感情が、チラッと片岡の心をかすめる。
やがて、話を終えた彼女は、受話器を置くと彼の方に向き直った。
「生憎だけど、一般の職業斡旋所では、給料の前払い条件は認めてないんですって。……つま
り、雇われる側の身柄を、それで拘束することになるからだそうよ。……ホラ、昔の廓では。
女郎を前借で縛ったでしょう。うっかりすると、一種の人身売買になり兼ねないんですって」
がっくりと肩を落す彼を、気の毒そうに眺めながら、敬子は更に続ける。
「でもね、一種の契約金と云う見方もあって、別に法律に抵触する訳でもないんで、スポーツ
や、娯楽産業界ではよくある話ですって。……そうした水商売の求人を取り扱っている所に問
い合せて、折り返し電話してくれるって言ってたから、もう一寸待ってね」
「あ、有難う。……その、調べてくれてる人は君の知合なの?」
「そうよ、私のボーイフレンド」
「親しい人? 何時頃からの知合?」
「アラ、片岡さん。どうしたの? そんな顔して。……フフッ、妬いてるの?……そんな暇、
無いんでしょう。あなたにとって、大変な時だって云うのに」
と、敬子の後の電話が鳴る。
受話器を取った彼女は、片岡の方をチラッと振り向いて、軽く目くばせをした。
どうやら、先程の返事らしい。
それから、彼に背を向けて、敬子は熱心にメモを取り出した。
十分程、色々とやりとりしていた彼女は、やがて電話を切ると、首をかしげながら、片岡に
説明する。
「ひとつ変ったのがあったんだけど、これはとても片岡さんにはお薦め出来ないわ。……だっ
て、とてもひどい仕事らしいもの」
「ひどくたっていゝよ。この際、僕の方は、贅沢言える立場じゃないもの。……それで、給料
の条件は?」
「金銭面での条件は、貴方の希望にピッタリよ。……つまり二年契約だけど、一年分の給料が
前払い。それに、可成りの額の契約金まで上乗せするんだそうよ」
「そ、それで、どんな仕事?」
敬子は、カウンターの上に身を乗り出して勢い込んで聞く片岡の目を、ジーッと覗き込む様
に見詰めた。
「驚いちゃだめよ。求人元はホストクラブ。……そして、仕事の名称は、そこのホストのヘル
パーとなってるの」
「ホストのヘルパーって、ホスト見習いみたいなものかな?」
「よく判らないけど、単なる見習いじゃなさそうね。……だって、ホストの給料の倍以上も払
うのよ。……こゝは、同時にホストの募集もしてるけど、それには前払いも契約金も付いてな
いわ」
「勤務時間は?」
「これも全く異常よ。……二十四時間勤務で休日無し。……つまり、二年間、自分の時間無し
で、奴隷みたいに働かされるのよ。……しかも、仕事がホストの一種でしょう。……きっと、
明けても暮れても、女の玩具として嬲り者にされるんだわ!」
流石に片岡も、これを聞いては躊躇せざるを得ない。
しかし、念の為に給料と契約金の額を確めてみて驚いた。予想を遥かに越えた額だったので
ある。
(こ、これだけ貰えれば、母の治療費どころか、卒業迄の学費、それに数年分の仕送りを賄っ
てお釣が出る。……そうだ、二年間休学して、死んだ気になって勤めれば、すべてがうまく行
くんだ)
暫くの間、ジーッと俯いて考えていた片岡は、漸く決心して顔を上げる。
その目には、もう迷いは無かった。
「敬子さん。僕、やってみるよ。……だって他にチョイスがないんだもの。さっきの電話の人
に、そう伝えてくれないかい」
敬子は、何か言い掛けたが、片岡の真剣な目の色を見て取ると、黙って背を向けて受話器を
取った。
「じゃあ、このメモに書いた住所へ行って頂戴。……でも、片岡さん、お願い。良く考えて!
貴方の一生の問題よ」
メモを手に事務所を後にした片岡の耳に、その敬子の最後の言葉が何回もこだましていた。
メモの住所は、繁華街のまっ直中だった。
ケバケバしいネオンも、昼下りの陽光の下では色褪せて見える。
警察の取締りが厳しいせいか、人通りは多いものゝ、活気の点では今ひとつだった。
目指すホストクラブは、思ったより大きな店構えである。
地下に設けられたオフィスで、マネージャーと向かい合った片岡は、緊張で青白い顔をして
いた。
「まあ、そう固くならんで……お茶でもどうかね」
赤ら顔の、如何にも人扱いに慣れた感じの、でっぷり太ったマネージャーが、柔かい声音で
語り掛けた。
「実はな。この店に先日迄、年配の名物男が居てな。……ホストとしては年を喰い過ぎていた
んで、俺達はホストのヘルパーと呼んでいたんだ」
「………………」
「所が、その男が、急に脳卒中で倒れて再起不能になったもんで、大弱りさ。……それで、至
急、代りをやってくれる人を募集したって訳だ」
「あ、あのぉ。……じゃあ、その、ホストのヘルパーって……ホストの見習いじゃないんです
ね」
「勿論さ。ホストは、客の女性の相手をして店で遊ばせる役だから、丁度、クラブのホステス
の男性版だな。……しかし、このヘルパーは、舌で女性のセックスに奉仕する役なんだ。……
なーに、セックスの本番をする訳じゃない。……ただ、ソファーにくつろいでホストと身体を
寄せ合い、気分を出している女性客の足元で、足を舐めたり、裾から股間に顔を差し入れて、
舌で女性を昇天させるのさ。……君に出来るかな?」
「そ、そんなこと、やった事がありませんから、出来るかどうか……」
「そりゃ、心配要らん。ちゃんと、こちらで仕込んでやる。……まあ、他にも色々やって貰う
が、何でも、出来る迄丁寧に訓練するから、安心してなさい」
結局、その場で契約書にサインすることになり、片岡が、明日、勤務に付き次第、契約金と
一年分の給料を、直ちに郷里の母に送金して貰うことで合意した。
その晩、ひとり学生寮での最後の夜を過ごす彼の胸は、明日からの屈辱の生活を思っては、
千々に乱れ、中々寝付かれない。
山本敬子の面影が、何度も瞼に浮かんだ。
(二年間もの間、彼女は僕を待っていてくれるだろうか?……それに、あの電話のボーイフレ
ンドと彼女とはとは、どんな仲なんだろうか?)
翌日、学生事務所で休学の手続きを終え、寮での荷物を倉庫に預け、当座の着替えを入れた
バッグを手に、重い足を引きずって昨日のホストクラブを訪れる。
待ち設けていたマネージャーは、彼と同行して銀行へ行き、目の前で約束の送金をして片岡
を安心させた。
マネージャーは、彼を連れてクラブに戻ると、正面の入口を通り過ぎて、同じ建物の裏手に
回る。
驚いたことに、そこは、もうひとつの賑やかな通りに面していて、立派な入口が設けられ、
けばけばしいナイトクラブの看板が出ているではないか。
つまり、女性客専門のホストクラブと、男性客目当てのナイトクラブが、同じ建物の中に背
中合せに設けられていたのである。
後で判ったことだが、両者は壁で完全に仕切られていて、一応それぞれ独立してはいるが、
地下のオフィスからは、どちらへも行ける様になっている。
即ち 同じマネージャーが、両方のクラブを経営していたのだった。
マネージャーに連れられて、ナイトクラブのドアから入ると、そこでは夕刻からの開店に備
えて、掃除の最中である。
バーの背後にあるホステスの控え室では、数人の早出のホステス達が、鏡の前で化粧に余念
がない。
マネージャーは、その中の一人、既に化粧を終えて、ソファーで煙草をくゆらしている大柄
な女に、片岡を紹介した。
「これが昨日話したホストクラブの新入りのヘルパーだ。しっかり仕込んでやってくれ。……
オイ、この女がお前の訓練を引き受けてくれる玉枝だ。お前の先生なんだから敬語を使うんだ
ぞ。……訓練期間は、これから二週間だ。……それ以後は、裏のホストクラブで客を取って貰
うからな。……その積りで性根を入れて勉強するんだぞ。いいな!」
マネージャーは、彼を残してサッサと出て行ってしまった。
玉枝は、目の前で立竦んでいる片岡を、煙草を吸いながら、値踏みでもするかの様に、黙っ
てジロジロ眺めている。
やがて、たまり兼ねて、片岡の方から口をきった。
「あのー、訓練って……私はどうすれば……………」
「服を脱ぎな!」
玉枝が、唐突に命令した。
「エッ、こゝで……私が、こゝで服を脱ぐんですか?」
「そうよ、当り前じゃない。……私の前で、ストリップをやるのよ。フフフ」
彼と幾つも年の違わない、若い女の前で裸になるのは、流石にためらわれたが、玉枝の剣幕
に押されて、片岡は、オズオズと服を脱いだ。
ブリーフも取らされて、一糸も纏わぬ姿になって、女の前に直立する。
ソファーに座ったまゝで、玉枝は足を伸ばし、ハイヒールの先で、彼の股間の一物をまさぐ
った。
彼の顔は、屈辱感で真っ赤になる。
「ホーラネ、……段々元気が良くなるわよ。…ホラ、どおお? すごいじゃない!」
玉枝の靴の先で、男のシンボルがムクムクと硬直し、天を指す。
女の気まぐれのまゝに、いゝように嬲られる口惜しさに、片岡は思わず目が眩んだ。
「サー、その脱いだ服と、その汚ならしいバッグを、廊下の突当りにあるゴミ捨てに放り込ん
でらっしゃい」
「で、でも、これには着替えが……」
「馬鹿ね。お前はこれから二年間、ヘルパーとして裸で過ごすのよ。……暖冷房完備の室内か
ら外へ出ることは無いんだから、風邪をひくこともないわ」
服とバッグを始末して戻ってくると、今度は、玉枝の前に四つ這いにさせられ、犬の首輪を
穿められた。
「これでいゝわ。前のヘルパー爺さんも、この恰好で床を這い回っていたのよ。……許しもな
いのに、二本足で立ちでもしたら、いやと言う程、鞭で叩かれるから用心おし。……それから
返事は簡単に。……自分から口をきいては駄目よ。いゝわね」
玉枝は、彼の首輪に鎖を付けると、それを曳いてクラブの中を一周する。
生まれて初めて裸のまゝ四つ這いで歩かされた彼は、途中で、大きな鏡の前で立ち止まった
玉枝に、みじめな自分の姿をとっくり見せつけられた。
「たった二週間しか、無いんだからね。少しハードトレーニングをするから、頑張って付いて
来るんだよ。……サ、まず足舐めから、練習開始だよ」
控室に戻った玉枝は、ソファーに腰を下すと、目の前の床に這う片岡の顔の前に汚れた素足
を突き付けた。
「馬鹿、そこじゃないったら。……足の裏を舐めるんだよ。……そうそう、もっと力を入れて
汚れを舌で吸い取るの。……指の間も、丁寧に舐めるんだよ」
初めての経験にとまどう彼を、玉枝は巧みにリードする。
不潔感を辛うじて抑え、舌の腹を女の足裏へ這わすと、ピリッとした苦みを帯びた塩味が、
片岡の口中に広がり、彼の屈辱感を増幅した。
やりきれない思いで、舌を足指に這わせ、命じられるまゝにその指を口に含んで舐め、かつ
吸う。
蔑みの目で彼を見下ろす玉枝の顔が、彼の視野の中で、涙でボーッとぼやけて行った。
両足共、時間をかけて舐め清めさせた後、玉枝は腰を浮かせてパンティーを脱ぎ、それを、
わざと裏返して、股間の部分を彼の鼻に押し当てた。
ツーンと鼻の奥を刺激する生臭い女の性臭に、片岡は思わず頭がクラクラして、ウッと呻き
声を洩らす。
「この臭いを良く覚えておおき。これから二年間、お前は、この臭いの中で暮すんだからね。
……人によって臭いも少し宛違うそうだから、慣れてきたら嗅ぎ分けられる様になるわ。……
ウフッ、犬の様にね」
たっぷり臭いを嗅がせた後、玉枝は、その汚れのひどい部分を彼の口の中へ押し込み、舐め
清める様に命じた。
「唾を出して、汚れた所を湿すのよ。それから、軽く歯で布を噛んで汚れを吸い取るの。……
判った?……そうそう、それを何回も繰り返すと汚れが落ちるわよ。……勿論、その汚れの味
を頭に刻み込んで、自分の身分を認識しなさい。……いゝわね」
開店時間が近くなったと見え、控え室は、次第にホステス達で一杯になって来た。
女達は、前のヘルパーを見慣れていたせいか、余り物珍しそうでもなかったが、それでも、
玉枝にたっぷり辱められて、目を潤ませている片岡の姿を覗き込んでは、クスクス笑う者が多
かった。
「パンティーなんか、まどろっこしいじゃないの。……じかに舐めさせた方が、こいつも早く
諦めがつくわよ。……私が代りに舐めさせてやろうか?」
真顔で、玉枝に申し出る者すらいた。
「ダメダメ。蛇の生殺しって言うでしょう。少し宛卑しめて、口惜しがるところをじっくり見
てやるのよ。……誰か、うーんと汚れたパンティーを穿いている人なーい?」
忽ち、四、五枚のパンティーが集まった。
いずれも、澱物と便で股間がベットリと茶褐色に汚れている。
「ウワーッ、相当なもんね。……そうだ、臭いと味を同時に教えてやるわ」
玉枝は、一枚を彼の口の中にスッポリと押し込んだ後、もう一枚の足の通る部分を重ねて、
彼の頭に穿め込み、丁度股間の部分が鼻を覆う様にする。
強烈な異臭と、おぞましい味に、涙をポロポロ流して身を震わす片岡を、女達がニヤニヤ笑
いながら取り囲んだ。
「本当だわ。男が辱められて人格を失って行く有様って、迫力あるわね。……誰か写真を取っ
て置くといゝわ。後で、それを種に脅迫してやるのよ。……私の奴隷にならないと、この写真
をバラすぞってね。フフフ」
フラッシュがパッ、パッと閃く。
女達の残酷な言葉と仕打は、彼の脳裏に、我と我が身のみじめさ情けなさを、深く深く刻み
込んで行くのだった。
「そろそろ、この辺で、止めを刺してやろうか。……ウフッ、女が処女を奪われる時と同じ心
境にしてやるわ!……女が最初の男を忘れない様に、こいつも、私の辱しめを一生忘れないこ
とでしょうよ」
玉枝は、片岡の肩を軽く蹴ると、仰向けに床に倒れた男の顔を大きく跨ぐ。
そして、股の下で脅えの色を浮かべて震えている男の顔を、蔑みを湛えた目でジーッと見下
ろした。
下から見上げる立場では、目の前に聳える二本のたくましい円柱が、そして、その結合部の
陰りが、彼に無言の威圧を与える。
(敬子さーん、助けてくれーっ)
片岡は、思わず心の中で叫んでいた。
助けを呼んだ甲斐もなく、その二本の円柱がグラッと崩れ、陰りの部分がアッと言う間に降
りて来て、彼の顔面スレスレにピタリと止った。
ムーッと臭気が鼻を突く。
「覚悟は良いかい? 女の股の汚れの味を、存分に味わうんだよ」
玉枝の声が天上から降る。
同時にクレバスの秘肉が、彼の顔面をスッポリと覆った。
女の体重がぐっと掛かり、彼は首を反らして辛うじて呼吸を確保する。
「サー、舌を出して! 最初はアヌスをお舐め。……そうそう、どんな味だい? 女に尻の穴
まで舐めさせられた男はね、二度と女に頭が上がらないんだよ。……ソーラ、どうだい。ウフ
フフ」
玉枝の菊座が、繰返し彼の唇をにじった。
「今度は、前の方だよ。丁寧に舐めて、おつゆが出て来たら、吸って味わうんだよ」
男の舌と唇がクレバスに沿って上下する。
やがて、固く膨らんだ小さなクリトリスの部分が、彼の舌と唇の上に、何度も繰返し擦り付
けられ始めた。
同時に、臭みのあるねっとりした分秘液が彼の顔を濡らし出す。
玉枝のリードで懸命に舌と唇を使って奉仕する片岡には、最早、屈辱感を意識する余裕さえ
なかった。
ただ、ひたすらに忘我の境にある。
玉枝も、気分が出て来たとみえ、無言のまま彼の顔の上で腰をくねらせていた。
やがて、玉枝が腰を震わせて達した後、もの憂げな動作で、男の顔面から腰を上げた彼女は
傍のソファーに身を投げる。
他の女達が、一斉に彼の顔を覗き込んだ。
「ウワー、すごいわ。……この顔見て!……おつゆがべったりよ」
彼女等の視線に曝された片岡の顔は、哀れにも、ねっとりした女の分秘液で一面に覆われて
いた。
「こいつ、初めてにしちゃ、見所あるわよ。……私が次に使ってやるわ」
誰が持って来たのか、濡れたタオルが彼の顔を拭ったかと思うと、早くも、次の女が彼の顔
面に跨がった。
「ホラ、ぼんやりしてないで、しっかり舐めるのよ!」
女の尻の下で、ハッと正気を取り戻した彼は、慌てゝ舌を動かす。
そして、その女が終ると、又、別の女が彼の顔を蹂躙した。
このところ不景気のせいか、店の方もさびれ勝で、めったにホステス全員が動員される状況
にはならない。
従ってホステス達は、交替で控室に入り込み、訓練と称して次々と片岡に舌奉仕を強いたの
だった。
その晩、深夜まで女達に屈辱の奉仕を強いられた彼は、やっと開放されると、控室の片隅で
泥の様な眠りに陥った。
しかし、夢の中でも、女の尻が覆い被さって来る。
その女の顔を見ると、こともあろうに、敬子ではないか!
その敬子の尻に敷かれてもだえる夢に一晩中うなされて、目を覚ますと、もうとっくに朝だ
った。
ふと気が付くと、唇が腫れ上がり、舌の付根に鈍い痛みが残っている。
「お早う。漸く目が覚めた様だな。随分うなされていたぞ」
マネージャーの声である。
身を起すと、玉枝も傍に立っている。
彼女にジーッと見下ろされると、途端に昨夜のことが思い出されて我知らず身体が震えた。
「昨夜は、大分ハードトレーニングだった様だな。……一体、何人の女のケツを舐めさせられ
たんだ?」
マネージャーの蔑みを込めた問いに、彼は思わず顔を赤くして首をかしげた。
「十人……いや、十二、三人はあったと思います」
「最初の日にしちゃ上出来だ。玉枝も、お前は素質があると言ってる。……その内に数を増や
して、毎日、二、三十人は舐めて貰うからな。精々、舌を鍛えておけよ」
マネージャーが立ち去ると、玉枝が片岡の首の鎖をグイと引いた。
「サー、朝の食事よ。昨日は夕食抜きだったから、お腹が空いてるでしょう?」
四つ這いで連れて行かれたのは、キッチンの片隅であった。
客や、ホステスを含む従業員達の食べ残した、文字通りの残飯がポリ袋の中に捨てられてい
る。
「ホラ、この袋の中に首を突っ込んで、好きなだけお食べ。……後は、豚の飼料として業者に
売るんだからね」
歯形の付いたパンや、唾混りの色とりどりの食品が雑然と捨てられていて、思わず不潔感を
誘う。
しかし、空腹には勝てず、胃がグーッと鳴り、何時の間にか、片岡はポリ袋の中に首を差し
入れて、残飯をむさぼっていた。
「オーオー、まるで豚そっくりだね。情けない奴だこと。……食べ終ったら、又、トレーニン
グだよ。折角、私が泊り込みで、仕込んでやるんだからね」
こうして、片岡にとって、死ぬ程辛い屈辱の毎日が繰返され、漸く、長い長い二週間が終っ
た。
四つ這いの恰好でマネージャーに鎖を引かれ、地下のオフィス経由でホストクラブに行く。
途端に、受付の女の子が目を丸くした。
「アラッ、あのヘルパー爺さんの代りが出来たんですね!……あの爺さんの時の様に、私にも
時々サービスしてくれるかしら?」
「勿論だとも。……未だ新米だから、仕込みがてら、君も精々使ってやってくれたまえ。……
オイ、お前からも、宜敷くお願いするんだぞ」
マネージャーは、彼の腹をポンと蹴る。
こんな小娘にまで、……と片岡は口惜しさにむせんだ。
このホストクラブの営業は、毎晩六時から午前二時迄だったが、客が入り出して片岡に出番
が回るのは、早くて七時過ぎである。
それ迄は休養出来ると思ってホッとしたが、どっこい、そうはさせてくれない。
マネージャーの発案で、店の片隅にヤングレディスコーナーなる別室が設けられ、片岡は、
午後一時から六時迄、ずーっとこゝに勤務させらることになった。
若い女性の性欲の吐け口と言えば、ラブホテルでボーイフレンドとセックスするしか無いと
言うのが常識である。
しかし、こゝでは、女性が男の舌を使って楽しめるのだった。
何のことはない。金の無い若い女子学生やOLを狙った、女性専用の低料金制オナニールー
ムである。
羞恥心の強い若い女性には、顔が見えない方が良いとの判断で、片岡は、頑丈な円い細長い
筒をスッポリと頭から被らされ、部屋の中央に、両手足を縛られたまゝ仰向けに寝かされた。
勿論、筒には穴が明けられていて、彼の口だけが覗いている。
女性客はその円筒に跨がって、彼の舌と唇の奉仕を楽しむのである。
しかも、全裸の彼の下半身は、客の前に曝され、股間の一物の根元には紐が結び付けられて
いる。
そして、馬の手綱宜しく、女性が彼の舌の強さに不満な時は、これを引いて合図するように
説明が加えられていた。
十五分間で千円、街頭で配られたチラシを持参の女性は半額とした作戦が図に当り、初日か
ら、客は引っきりなしに詰め掛けた。
哀れなのは片岡であった。
若い女性にありがちの、不潔な局部を口に押し付けられ、少しでも舌の奉仕を怠ろうものな
ら、途端に股間の紐がグイと引かれるのである。
飛び上がる程の痛みに、慌てゝ舌を伸ばす時の彼の口惜しさ、情けなさは、例え様がなかっ
た。
こうして、文字通り女性のオナニー器具と化した片岡は、毎日午後、十五から二十名の若い
女性に使われる様になった。
しかも、そのあとの午後七時からは、ヘルパーとしての屈辱に満ちた奉仕が、本番として待
っている。
男性ホストと身体をピッタリと着けてソファーにくつろぐ女性客の足元に、這いつくばい、
その足を舐めるのである。
しかも鎖を引かれれば、女のスカートの裾から頭を入れて、その股間を舐めねばならない。
オナニー器具の場合と異なり、顔をはっきり見られているので、そのみじめさは、ひとしお
だった。
こうした生活を数ケ月続けると、或程度、羞恥心が麻痺して来る。
女性客の注文に応じて、犬の真似をしたり豚鳴きをして嘲笑されるのも、差程こたえなくな
って来た。
しかし、或夜、彼の思っても見なかった事が起ったのである。
それは、彼の魂を永久に泥の淵の中深く、沈めてしまう様な出来事だった。
何時もの様に午後の勤めを終え、ヘルパーとしての最初の客に呼ばた時である。
珍しくアベックの客で、ホストが付いていない。
と言うことは、ヘルパーが二人のペッティングの道具に使われると言うことで、そんな場合
は、決まって濃厚な奉仕を要求された。
幾分、憂欝な気分で、四つ這いのまゝ女客の足元に擦り寄った時である。
クックックッと女の含み笑いがして、聞き覚えのある声が上から降って来た。
「顔を上げて御覧なさい。……私よ、忘れたの?……山本敬子よ」
愕然として、上を降り向くと、そこには忘れもしない、敬子の笑顔があった。
「片岡さん。あなた、随分情け無い姿に成ったわね。……そんな仕事をしてゝ、私の顔がまと
もに見られる?」
「………………」
「私ね、結婚したの。ここに居る人が私の夫よ。……そう、御想像通り、あの電話のボーイフ
レンドだった人。……それでね、あなたの様子を見に来たの」
何と言うことだろうか!
彼女は待ってくれなかったばかりか、夫と二人で、彼の落ぶれた情けない姿を見に来たので
ある。
余りのショックに、彼は敬子の足元で、思わず呻き声を立てた。
「やっぱり、思った通りだわ。あなた、未だ私のことが忘れられなかったのね。……いゝわ、
きっぱりと私が忘れられる様に、今この場で、愛想尽かしをして上げる。……覚悟なさい!」
彼女は首輪の鎖を引くと、彼を足で蹴って机の下で仰向けにし、パンティーを脱いで彼の顔
に跨がった。
心にその面影を抱いていた、その人に辱められ、愛想尽かしをされる……その情けなさに、
彼は咽喉が詰まる思いだった。
しかし、習性は恐しいもので、女の尻に敷かれた途端、彼は殆ど自動的に、舌を伸ばしてい
た。
「馬鹿ね、誰が舐めなさいって言ったの。……あなたに舐めさせるのはね、今日の昼済ませた
わよ。……フフフ、忘れた? 今日の昼一番目の客を。……最後に臭いオナラを嗅がせて上げ
たでしょう。クックックッ」
彼は、頭をガンと殴られた様な気がした。
今日の昼、いつになくしつこい客に、一時間近くも奉仕させられ、しかも最後にガスまで嗅
がされたのである。……あれが、敬子だったとは!
彼は泣きたい思いだった。
「口を大きく開けるのよ。そうよ」
言われるまゝに開けた口に、チョロチョロと臭い液体が注がれる。
それが、次第に量を増し、懸命に飲み下す彼の咽喉を焼き、胃を汚して行った。
「どおお?……私の便器にされた感想は如何が?……フフフッ、これからは昼に来て、毎日の
様に飲ませてやるわ。……そうだわ、夫とのセックスの後も清めさせてやるから、楽しみにし
ておいで!」
敬子の声が、彼の胸を掻きむしり、彼の魂を汚辱の淵深く沈めて行くのだった。
(完)
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1988年1月スレッグ創刊号(スレイブ通信18号に再掲載
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2010/03/29