#55B 転落の慰安夫(前編―Fall to Comfort Boy)            阿部譲二

戦時中に外務省の機密文書の翻訳を担当していた外語大学の学生がスパイ容疑で有罪となる。5年間慰安夫としての勤務が課せられ、毎日慰安婦達の股間を舐め清めるのが仕事だった。外地勤務になった慰安婦の部隊に伴われて南方の戦線を回るが、紙不足で女達のトイレの後を舐め清めさせられ生理の血も吸わされ、果ては便器として使われるようになる。

 1941年に、あの第二次世界大戦が勃発して間も無い頃のこと
である。
 日本は、国民皆兵を合言葉に、総力を挙げて戦争を勝ち抜こうと
、巷には熱気が漲っていた。
 急速に広がった南方戦線には、次々と兵士が送り込まれ、それを
支える民間……その頃は「銃後」と呼ばれた内地の一般市民は、毎
日の生活にも軍事色の濃い、所謂戦時体制を強いられていた。
 愛国心の高揚のため、戦争目的に疑問を抱く者や、自由思想を持
つものは、徹底的に弾圧された時代である。 英語の勉強ですら、
敵性語のレッテルを貼られ、学校の科目から外される始末だった。
 従って、敵国に情報を流す所謂、スパイには、最大級の憎しみが
向けられていた。
 その頃、地方の外語大学で英語を専攻していた遠山健にとっては
、文字通り肩身の狭い毎日であった。
 彼にとって、更に状況を不利にしたのは、彼の生立である。
 遠山の父が外務省に勤務していた関係で、幼時の大部分をアメリ
カで過した彼は、現地の中学で学んでいた頃に、両親を事故で亡く
し、傷心のうちに単身帰国したのだった。
 暫く郷里の親戚の家に身を寄せた彼は、得意の英語力を活かして
、独学で高専の検定試験をパスし、郷里を離れて地方の外語大学に
進んだ。
 大学の寮生活の傍ら、翻訳の仕事で生計を立てていたが、幸い父
の昔の知合から外務省の仕事を貰い、最近では授業に出る以外は、
専ら書留で送られて来る外交文書の翻訳に掛かり切りだった。
 極秘の印が押された分厚い英文の書類の中には、国際外交の舞台
裏が窺がわれる様な機密文書も混っている。 翻訳のペンを走らせ
ながら、遠山の胸が興奮で高鳴る様な際どいものまであった。
 しかし、それが禍のもとだったのである。
 或日彼は突然、憲兵の訪問を受け、翻訳中の文書と共に地方の軍
事本部まで連行された。
 そして、ロクな取調べも無いままに、建物内の獄舎に監禁された

 後から聞いた話では、遠山に翻訳の仕事を回してくれていた外務
省の父の友人が、機密漏洩のかどで逮捕されスパイ容疑で取調べ中
、ノイローゼになって首吊り自殺を遂げたとのことである。
 それが、自ら有罪を認めた証拠ととられ、遠山がその一味と見做
されたのだった。
 それに、押収された文書が、超極秘のものばかりで、それを、た
またま、翻訳のため所持していた遠山健は、明かにスパイと断定さ
れてしまった。
 一週間程して取調べが始まったが、頭から有罪と決めつけて拷問
まがいの厳しい尋問が続く。
 たまりかねて、相手に迎合する応答をしたのが誤まりで、軍政下
の略式裁判で、遠山の有罪が確定してしまったのである。
 東京に移送されることになった夜、彼は、裁判を担当した法務官
の許へ密かに呼び出された。
「君のことだがね。……有罪は確定したが、どんな刑に服するかは
未定だ。と言うより、これから東京で政治犯として改めて審議され
ることになっている。……君の場合は、国の運命を左右する超極秘
の文書が係り合っているので、最悪、死刑ということになるか知れ
ない」
「な、なんですって!……し、死刑とは……あ、あんまりです。第
一、僕は、……む、無罪なんです!」
 動転した遠山を冷やかに見詰めながら、法務官は言葉を続けた。
「それでだ。……もし君が、これから申し渡す処分を受けることを
承諾すれば、政治犯としての審議から除外されるんだ。……実は、
最近、政治犯の数が急増して、その審議はもとより、収容する刑務
所も満員だ。……我々としても、地区の裁判で犯人が有罪を認めて
刑に服すれば、中央での審議が省略出来て、大いに助かるんだよ」
「………………」
「そこで、君の刑だが、素直に有罪を認めれば、死一等を減じて、
無期懲役と言いたいところだが、さっきも言った通り、政治犯の服
役する刑務所に空きが無い。……従って、これから五年間、軍の慰
安班に所属して慰安夫として勤務して貰うことにした」
「じゃあ五年……五年間でいいんですか?」
 遠山の声に力が入る。
「そうだ。……しかし、軍の慰安班というのは、兵士の性欲処理を
目的とした、所謂、慰安婦達のグループなんだ。……そこで、君は
、唯一の男性として、兵士の性欲処理に奉仕する女性達の吐け口に
なるんだ」
「は、吐け口ですって?」
「ウム。……毎日兵士の性欲に蹂躙される女性達には、何か精神的
な吐け口が要る。……さもないと気が狂う女が出てくるんだ。……
具体的には言えんが、慰安婦達の……いわば慰み物が必要なんだな

「慰安婦達の慰み物とは……ひどい!」
「勿論、君は無罪を主張して、東京で軍の審議を受けることも出来
る。……だが、さきに言った様に、死刑か、それを免れても無期懲
役は間違いないな」
 法務官の説明には、一応の説得力があった。
 遠山は、泣く泣く有罪を認め、慰安夫に身を落すことを、承諾せ
ざるをえなかったのである。
 東京に移送された遠山は、直ちに郊外の陸軍慰問班の施設へ連れ
て行かれた。
 高い煉瓦塀に囲まれたその施設は、警戒も厳重で、まるで刑務所
である。
 昔は精神病院だったとかで、窓々には鉄格子が嵌められていた。
 慰安婦達は、総勢約三十名で、毎日十名が勤務についている。つ
まり、各自が三日に一日の勤めであった。
 殆どが農家出身の若い女達で、お国のためと言い含められ、可成
の報酬と引き換えに兵士達に身体を提供するのである。
 軍の所属と言うことを除けば、民間の売春婦と、何等違うところ
がなかった。
 勤務中は、各自がベッド付の小さな個室に入り、次々に、欲望に
目を光らせた兵士がそこへ送り込まれる。
 時間は三十分と決められてをり、その後一時間の休憩をとること
が許されている。
 従って、彼女等は、一時間半に一人の割でセックスの行為を繰返
す。そして、最大、一日に六人までを相手にするのだった。
 遠山は、到着早々、食堂へ連れて行かれ、仕事を終えて夕食をと
っている女達に紹介された。
「これが、皆さんに奉仕する慰安夫の遠山健です。……正規の訓練
を受けるひまが無かったので、ここの皆さんで充分仕込んで下さい

 女所長の紹介で、遠山に女達の視線が集まる。
「それと、この男は我が国の重要な機密を外国へ売った売国奴なん
です。……死刑になるところを、お情けで、ここへ送られて来たの
ですから、その罪を償なわせる意味で、皆の手でたっぷりと罰を与
えて下さい」
 途端に、皆の間にザワメキが起った。
「所長、じゃあ、この男は敵のスパイなんですか?……だったら、
すぐに死刑にすべきだと思います」
「そうだわ。……私達が、お国のために犠牲を払っているのに、国
家の機密を敵に売るなんて許せない!」
「死刑に出来ないんだったら、私達の手でうんと懲らしめて、い
っそ死んだ方がましだ≠チて、こいつに思わせてやりましょうよ!

「賛成。……皆で、なぶりものにしてやりましょう!」 女達の赤
い気炎を耳にして、所長の傍に立たされている遠山の全身が、恐怖
で震えた。
「皆さん、静かにして下さい。……この男は、五年間でその罪を償
うのです。今日から激しく皆にいじめられて身体でもこわしたら、
病院行きになって懲罰を受けることが出来なくなりますよ」
「所長、大丈夫ですわ。……私達、こいつの身体をいためつけるん
じゃなくって、精神的にいじめてやります」「そうだわ、うんとみ
じめな目に合わせて、思い知らせてやりましょうよ。……ねえ、み
んな!」
 食堂に集まった三十人の女達の熱気がムンムンして、遠山は圧倒
されるばかりだった。
 お国のためと言い含められているとはいえ、兵士達に身体を捧げ
、ただでさえ毎日みじめな思いをして暮している女達である。
 そのはけ口に売国奴の懲罰≠ニいう恰好の口実のもとに、自分
達の自由になる若い男が与えられたのだから女達が興奮するのも無
理なかった。
 男に身体を自由にされる仕返しに、別人ではあっても一応男
を征服して溜飲を下げることが出来る。……それは女達にとって、
この上もない憂さ晴らしであり、楽しいリクリエーションとも言え
た。
 反面、たまらないのは遠山の方だった。
 無実の身でありながら、スパイの汚名を着せられて、五年間もの
間、女達になぶり抜かれるのである。
 こんなことなら無実を主張して徹底的に争うのだったと、くやん
でもくやみ切れぬ気持だった。
 遠山への懲罰は、早速、その夜から始まった。
「お前は、ここでは、人間扱いして貰えないんだから、二本足で立
って歩くことは許されないんだよ。……そう何時も犬の様に四つ這
いでいること。……いいね!」
 そして、下着だけの格好で、四つ這いになった彼の頚に、犬の首
輪が嵌められる。
 鎖を曳かれて、女達の間を這いまわる遠山の哀れな姿に、皆の軽
蔑の視線が注がれた。
「皆に、ひとりひとり御挨拶をおし。……そうだわ、お前はスパイ
に相応しい犬の恰好になったんだから、犬の御挨拶がお似合だよ」
「そう、犬はね。クンクンって御主人の臭いを嗅いで覚えるの。…
…勿論、御主人の足もペロペロ舐めるわね」「御主人の臭いも、足
じゃ面白くないから、お尻の臭いをお嗅ぎ。……フフフ、お前にピ
ッタリだこと!」
 女達は、口々に遠山を侮辱し命令する。
 彼女等の前の床に曳き据えられ、次々に目の前に突き出される女
達の、パンティーに包まれた大きな尻に顔を埋める遠山の顔は、屈
辱で歪んだ。
「ホラ、もっと深呼吸して臭いを吸い込むの! そして犬の様にク
ンクン鳴いて御覧。……そうそう、ちゃんとやれるじゃない。クッ
クックッ」
 尻割れに当てた鼻孔からの悪臭に加えて、耳から入る女達の辱め
の言葉が、キリキリと彼の心をいたぶる。
 続いて、サンダル履きで薄く汚れのついた女達の足裏を、次々と
舐めさせらた。
「もっと、舌を伸ばして! ホラ、舌先の力が弱いと、汚れが取れ
ないよ。……そう、その調子。……なかなかうまいじゃない。……
お前、人間を廃業して犬になるといいよ」
 途端にまわりから、ドッと笑いの渦が湧いた。
 苦い刺す様な味が舌を覆い、不潔感がつのる。    女性の前
で生まれて初めて味わう激しい屈辱に、遠山の目は真っ赤だった。
 三十人からの女達に寄ってたかって尻臭を嗅がされ、足裏を舐め
させられるのである。
 延々と、長時間にわたって続くそのみじめさは、到底筆舌に尽く
し難いものだった。
 その夜は物置に閉じ込められ、まんじりともせず過ごす。……昼
間の屈辱が、走馬灯の様に脳裏を駈け回り、彼の胸を掻きむしった

 その翌朝、遠山を待っていたのは、新たな想像を絶する恥ずかし
めの連続だった。
 食堂に曳き出された彼は、ブリキの洗面器状の容器に入れられた
女達の残飯を、四つ這いのまま犬の様に手を使わずに食べる様、申
し渡される。
 昨夜は、とうとう食事抜きだったので、彼はなりふり構わず、床
に置かれた容器に鼻を突っ込んだ。
「一寸、お待ち!」
 周囲で見守る女達の中から声が掛かり、彼の鼻先で容器が持ち去
られる。……再びそれが戻って来た時には、残飯を湯気の立つ黄色
い液体が覆っていた。
 プーンと独特の臭気がする。
「ウフフ、判る? それ、私達のオシッコよ。……特別に汁掛け御
飯にしてあげたの。……売国奴のお前には、それがピッタリの朝御
飯だわ。クックックッ」
 残飯に顔を寄せたまま、流石にためらう遠山の後頭部を、誰かが
グッと踏み付ける。
 顔が、そして唇が、その汚液に一旦浸されると、遠山は、ふっ切
れた様にその汁と共に残飯を啜り込んだ。
「キャーッ、きったなーい! これ、犬でも食べないわよ。……へ
えー、おいしそうにガツガツしてる。浅間しい限りね」
「そう、こいつは豚なみよね。……その内、私達の排泄物をすべて
口にする様に仕込んでやりましょうよ。……つまり、人間の皮を着
たブタにしてやるのよ」
 やけっぱちで汚水漬けの残飯を平らげたものの、空腹が満たされ
ると、ドッと恥ずかしさが押し寄せて来る。 女達にブタ並とまで
言われて軽蔑を現わにされると、流石に、我ながら情けなかった。
 女達が兵士達を迎えるのは、週末以外は、午後のみと決まってい
る。
 午前中、暇を持て余している女達は、次々と新手の辱めを考案し
て遠山をなぶった。
 皆のくつろぎの場所である、食堂に隣接するラウンジに、女達の
手で大きな洗濯篭が持ち込まれて来た。
 絨緞の上にそれを空けると、色とりどりの汚れたパンティーが周
囲に散乱する。途端に異臭が拡がった。
「これ、私達の昨日の着古しよ。……いつもは当番が交代で洗うん
だけど、今日からは、お前の仕事にするわ。……でも、石鹸で洗う
前に、お股の汚れだけは、お前の口の中で清めるのよ。……塵紙の
配給が少いから、ここでは新聞紙を使ってトイレの後を拭くんだけ
ど、それも枚数が足りないんで、みんなパンティーが汚れるの。…
…で、毎日穿き換えるってわけ」
 その解説の通り、成程、どのパンティーも股間の部分が黄褐色に
変色していた。              女達の蔑みの視線を
受けながら、床に這いつくばってパンティーを一枚一枚、口に含ん
で唾で湿し、汚れを溶かしては吸い取る。……その行為の恥ずかし
さ、おぞましさは例えようがない。
 汚水漬けの朝食に続いて、遠山は、女達のしもの汚れをイヤと言
うほど味わされたのだった。
 いよいよ午後になると女達の内、本日が出番の十名は兵士達を迎
える準備にかかる。
 と言っても、二階のベッド付の個室に篭って身仕度するだけだが
、中には化粧に人一倍気を使う女もいた。
 二階のその個室の外側には、窓に沿って通しで木造のバルコニー
が、船のデッキ風に作られている。
 各部屋からバルコニーには出られないが、床に可成り大きな通気
孔が設けてあった。
 大きいと言っても、小さな子供が腹這いに成ってどうにかバルコ
ニーから部屋へ通り抜ける程度である。
 大の大人では、首や肩は通っても、腹や腰の部分は、とても無理
だった。
 女達が個室に入ったのを合図に、遠山は、非番の女達三人の手で
このバルコニーへ曳き出された。
 戸惑う彼が女達から受けた指示は、将に彼を仰天させるに充分な
ものだった。
 つまり、彼は、順々に、各部屋の通気孔から首を差入れ、女達の
セックス行為で汚れた股間を舐め清める役を申し渡されたのだった

「そ、そんな無茶なことをさせるなんて……第一、そんな不潔なこ
とが人間に出来る筈がないでしょう!」
「アラ、お前、未だ人間のつもりなの? 女の排泄物にまみれるブ
タに身を落したんじゃなかったのかい。……第一、スパイのくせに
贅沢言うんじゃないよ!」
 女に決めつけられたものの、中々諦めのつかぬ遠山を女達は三人
掛かりで端の部屋の通気孔に押し込んだ。
 未だ兵士達が来るには時間があったが、練習のためと言う口実で
ある。
 仰向けに寝た姿勢で通気孔に上半身を差し入れた彼は女の個室に
肩から上をのぞかせた。
 両手は、穴の枠に阻まれて部屋の中へ入れることが出来ないので
、丁度、上膊部を通気孔の枠で胸に沿って拘束された形である。
 部屋の中で待構えていた女は、彼が身を外へ抜かない様に、首輪
の鎖をベッドの足に巻くと、おもむろに彼の顔を跨いだ。
「いいかい。女が男のものを受け入れるには、お道具に湿りが要る
んだよ。……お前は、舌と唇で私のお道具を清めると同時に、私に
気分を出させてジュースが湧き出る様に奉仕しなさい。いいね!」
 女はパンティーを取り、遠山の顔面に腰を下ろすと、彼の唇に自
分の局部をピッタリと当てがった。
 排泄物の臭いと共に生臭い性臭がムーッと鼻を覆い、思わず頭が
クラクラッとする。
「ホラ、何をしてるんだい。……早くお舐め!……そうそう、その
調子だよ」
 実は未だ童貞だった彼にとって、こうした形で女性の秘所に初め
て接するのは、何ともやり切れなかった。
 一方的に女に征服される情けなさを存分に味わされた後、そとで
待機する女達に身体を引き抜かれ、次は、すぐ隣の通気孔に押し込
まれる。
 こうして、全員の股間を舐め終った頃、漸く兵士達が詰め掛けて
来た。
「いいかい、お客が部屋に居る時には、窓のスタンドが点いてるの
さ。……灯が消えたら、すぐに又、さっきの様に部屋に首を突っ込
むんだよ」
「そう、今度は、後始末だから、たっぷりジュースが飲めるよ。フ
フフ」
 バルコニーで待機させられている遠山に、監視の女が口々に説明
した。
「そうだ、この頃はコンドームが品薄でね。膣外射精って言うのか
、ソラ、男のザーメンを股で受けることが多いんだ。……だから、
あそこがベトベトになるのさ。……妊娠でもしたら大変だから、お
前が全部奇麗に吸い取るんだよ」
「お前もオチンチンを下げた男の端くれなのにさ、こんなことまで
させられて、よく生きてられるね。……しかも、これからこれが毎
日続くんだよ。……スパイなんかするから、生地獄に落されるんだ
。いい気味さ!」
 女達の嘲けりが繰返し耳にこだまする。
 そして、やがてパッと灯りが消えた最初の部屋に首を差入れた遠
山は、顔を覆う女の股間から、気の遠く成る様な生臭い粘液を吸わ
され、情けない我身の転落を心の底から味わされるのだった。
                      (続)
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1992年10月スピリッツ10月号

2010/03/16