#52転落へのメッセンジャー 阿部譲二作

隣の課の女性に恋心を抱く男に代わって、隣席の二人の女がメッセンジャーとして彼の手紙を彼女に届ける。内容を「彼女の奴隷にして」と書き直して彼女に手渡した二人は、彼女の「恋人として愛して」との返書を「奴隷になって」と書き直す。二人は彼を罠に掛けて自由を奪い嬲り物にする。そのビデオを見た彼女は、呆れた末に彼を性奴隷兼便器に使う。

 SK機械製造株式会社というといかめしく聞こえるが、実態はかなり昔か
ら工作機械の製造を手掛けている中どころの企業である。
 工場は郊外の工業団地の一角にあるが、数年前市内にある営業事務所を拡
張した機会に本社を市内のビルに移転し、総務部を始め購買部を含む殆どの
事務部門がそこへ移動した。
 そのためか、立石康治が大学の機械工学科を卒業してSK機械に入社し、
工場の現場に配属された時には、そこは、殆どが男ばかりの職場だった。
 二年経って本社の営業部へ転勤を命じられた彼は、そこで初めて、多くの
女性達と机を並べて仕事する経験を味わった。
 華かなOL達の言動に圧倒されながらも、立石康治の会社での毎日は次第
に心躍るものとなる。
 そして……遂に、彼のウブなハートを魅了する女性が現れたのである。
「立石くん、どうしたの?……ボンヤリ、むこうばかり眺めて……」
 隣りの席の鹿島節子から突然声を掛けられ、彼はギクリとして机の書類に
目を戻した。
「私、判っちゃった!……今まで立石くんが見詰めてたもーの……」
 思わせ振りな女の声が、今度は向いの席から飛ぶ。
 鹿島節子と同期入社の木村君江だった。
「今日が初めてじゃないわ。……このところ毎日よ。……節子、ホラ、隣り
の総務部でカウンターの手前の席に佐々木弘子の顔が見えるでしょう。……
立石くんったらいつも彼女の顔をウットリして眺めてるんだもの」
 なるほど、彼の向いの席から絶えずその視線を追っていれば、見破られる
のは時間の問題だった様である。
「アラアラ、それじゃ、立石くんは弘子におぼしめしがあるってわけ?」
「きっとそうだわ。何しろ彼女はミス総務部≠ナすもんね。……立石くん、
どうなの?……ウフッ、赤くなった!」
 立石の居る営業部の輸出グループは、両側を応接室と会議室に挟まれてい
るため、メーンフロアーからは一種の離れ島になっていた。
 外回りで出掛けている者が多いため、未だデスクワークが主の新参の立石
は、勢い、鹿島節子と木村君江との三人だけで取り残されることになる。
 彼女等は立石より年下ではあるが、営業部ではそろそろベテランの部に入
る経験者であるだけに、立石としても色々教えて貰うことが多かった。
 それだけに、彼女等にはどうしても頭が上がらず、立石くん≠ニ、まる
で目下の様に呼ばれても文句も言えず、上司に対する様にハイ≠ニ答えて
しまう。
「でも、立石くん、知ってるでしょう。……佐々木弘子は私達と一緒に入社
した、いわば同期の桜≠諱Bそれ以来どこへ遊びに行くのも、私達は何時
も一緒。……だから三人は、いわば一身同体。私達の了解無しに弘子に手を
出したら、承知しないわよ」
 鹿島節子は真顔だった。
「そうよ。……私達が許可しなければ、きみは弘子に近付けないの。ウフフ
フ……」
 木村君江も同調する。
「そ、そんな!……で、でも、それじゃあ……逆にあなた達に頼めば、弘子
さんに紹介して貰えるんだね」
 立石の口調が、あまりに真剣味を帯びていたので、二人は思わず顔を見合
わせた。
「それじゃ、立石くん。……きみは、本気なのね。……本当に弘子に紹介し
て欲しいのね」
 念を押す鹿島節子に、立石は黙って頷いた。
「でも、それは、少し虫がいゝと思わない?……私達が映画に誘っても断っ
てばかりいるくせに。……要するに普段の行いが良くないわよ」
 木村君江が、ねっとりと絡む。
 佐々木弘子はなるほど人目を惹く美人だが、この木村君江も鹿島節子も、
捨てたものではない。……いや、人によっては甲乙つけがたいと言うかも知
れなかった。
「す、すみません。……今度から、映画でも、どんなところへでも、死んだ
気になってついて行きますから……ど、どうか、弘子さんに」
 立石康治の口調は熱っぽくなる。
「なーにぃ、死んだ気になってですって?……私達とデートするのが、死ぬ
ほどイヤだとでも言うの?」
 鹿島節子が、憤然として抗議する。
 色を失なって、弁解これ努める立石だった。
「じゃあいゝわ。……立石くん、きみ、まず弘子あての手紙を書きなさい。
……私達がメッセンジャーの役をして、二人の間を取りもって上げるから」
「その代り、直接交渉は駄目よ。……あくまで、私達を通して弘子と文通す
ること。……もし約束を破ったら、二度と弘子に会わせないからね」
 鹿島節子と木村君江は、異口同音に念を押した。
 二人にしてみれば、最初にモーションをかけた自分達を無視して、ことも
あろうに、親友の佐々木弘子に熱を上げる立石康治の態度が面白くない。
 しかも、実は最近三人で社内の男子社員の品定めをした時に、佐々木弘子
が立石康治のことをベタ褒めにし、一度紹介してくれと二人に頼んでいたの
だった。
 やっかみ半分、何とか自分達が介入して、二人の間をブチ壊してやろうと
いうのが本心だった。
 しかも、自分達は表面上恋のメッセンジャーを装って陰からこっそり工作
しようというのだから、まことにもって陰湿極まりない。
 一方立石康治の方は、自分の気持を取り持ってもらえる喜びで二人の陰謀
には露気付かず、その晩懸命に書いた佐々木弘子あての恋文を、その翌日、
二人に託したのだった。
 しかし、その綿々と書き連ねた彼の思いの丈は、鹿島節子と木村君江の手
で、似ても似つかぬ文面に書き代えられ、佐々木弘子に手渡される。
 喫茶店の片隅で二人の前で立石の恋文を開いた佐々木弘子は、予想外の文
面に思わず顔を曇らせた。
「ネ、ネエ、何と書いてあるの?」
「私達だけには、内容を知らせてくれるって約束だったでしょう?……ネ、
言って!」
 しらばっくれて口々に迫る二人に、佐々木弘子は暫くためらった末、重い
口を開いた。
「じゃあ話すけど、二人共、このことは絶対秘密よ。……いいこと?」
 弘子の念押しに、真顔で頷く二人。
「実はね。……立石さんは、私のことをとっても崇拝しているんですって。
……それで、……私の恋人になるよりも、奴隷にして欲しいって書いてある
わ」
「へーっ、奴隷ですって?」
「そうなの。……私、こんなラブレター初めてよ。……二人とも、どう思っ
て?」
 弘子の当惑し切った表情に、節子と君江は、密かに心の中で舌を出す。
「でも、私、返事を書くわ。……私のことを崇拝して下さるのは有難いけど、
私はタダの女。……立石さんのことはとても好き。だから、恋人として愛し
て下さいって書くわ。……ネエ、それでいいでしょう?」
 それから数日後。今度は、別な喫茶店で二人の女が立石康治を囲んでいる。
「これが、佐々木弘子からの返事よ。……でも読む前に約束して。必ずあと
で私達に見せるって」
 性急に頷くや、立石は震える手で弘子の手紙を開封した。読んで行く内に、
その表情にくっきりと驚きの色が浮かび、期待で輝やいていた顔が次第に暗
転する。
「読み終った様ね。……じゃあ約束よ。見せて頂戴」
 鹿島節子と木村君江は、二人の間に手紙を置いて読みふけるジェスチャー
を取る。
「アラアラ、彼女は変った趣味があるのね。……君を、恋人じゃなくって、
奴隷にしたいんですって!」
「ホント、立石くんを目の前に跪かせて足を舐めさせたいって書いてあるぅ。
……立石くん、きみどうする? 弘子の奴隷になる?」
 二人は、立石康治のドギマギした表情を見詰めて、心の中でほくそ笑んだ。
「でも、自分の美しさを自覚する女は、えてして女王の様に振舞いたがるも
のよ。……そして、男を奴隷として侍らす夢に酔うことだってあるわ」
「そう、そんな女でも、一旦結婚してしまえば、そんなことはケロッと忘れ
て、普通の主婦になることが多いそうよ。……まるで、悪い夢から覚めた様
にね」
 節子と君江は、一転して同情的な口調を装う。
「じゃあ、僕が暫く我慢して演技をすれば、弘子さんは満足する。……そし
て、そのうち夢から覚めて、いずれは僕を恋人として扱ってくれる様になる
だろうか?」
 誰にともなく問い掛ける康治の呟きを肯定するかの様に、二人の女達は顔
を見合わせて頷いてみせた。
 その翌日、立石康治の書いた手紙を受け取った二人は一室に篭って、こっ
そりとそれを開封する。
「プーッ、おかしいったらありゃしない。……立石くんったら、あれが弘子
の本心だと信じ切ってるのね。……ホラ、こう書いてあるわ。……貴女に
気に入っていただけるのなら、どんなことも厭いません。でも、その内
私の愛の力で、きっと貴女を目覚めさせて見せます。≠ナすって!」
 節子は、君江にその個所を差し示した。
「大成功よ。……だって、立石くんは、曲りなりにも弘子の奴隷として演技
する決心をしたんですもの。……あとは、弘子が彼をうんと軽蔑して、奴隷
扱いする様に仕向ければいゝわ」
 君江が、息込みながら応じる。
「じゃあ、あともう一歩ってとこね。……文面は私が考えるから、早速、立
石くんの代筆を頼むわ。……エーッと、書き出しは、彼の文章をそのまゝ頂
いてっと……」
 節子は、頬杖をつきながら口述する。
「……頂いたお返事を繰返し繰返し読んでいます。……私を恋人として付合
って頂けるなんて身に余る光栄ですが、私は、やっぱり弘子さん……いや、
弘子様の奴隷にして頂きたいのです。……実は、私は学生時代から、美しい
女性に軽蔑され虐げられる自分を想像して興奮する性癖があったのです。…
…よく女子ロッカーから汚れたパンティを盗んで顔の上に拡げ、豊かな女性
のヒップに顔を敷かれている場面を頭に描いて、オナニーするのが常でした。
……」
「いいわぁ……名調子じゃないの。……でも、節子がそんなに変態男に詳し
いなんて、驚きだわ。」
 便箋の上にペンを走らせている君江が、感に耐え兼ねた様に言葉を挟む。
「ホンの付焼刃よ。……実はネ、SM雑誌を買って研究したの。……サ、続
けましょう。……エート……私は、その内、女性の汚れたパンティの臭いに
魅せられる様になり、その汚れを口の中で味わっては、あらぬ想像をする様
になりました」
「アラ、汚ないこと!……フフフッ」
 君江が合の手を入れる。
「そして、最近、健康法として自分の小水を飲む話を聞いた時、私の想像の
翼は、女性の小水を飲む……イヤ、飲まされる自分を思い浮かべる様になっ
たのです」
「アラアラ、随分と飛躍……じゃなくって、転落したものね。……女性のオ
シッコを飲む男なんて、最低じゃない?」
「……私の願いは、弘子様の奴隷として、顔を尻に敷かれ、貴女のパンティ
の汚れを口の中で清めさせられ、そして、便器代りに貴女の小水を飲まされ
る身になりたいのです。……どうか、私の願いを叶えて下さい」
「クックックッ、立石君ったら、可哀そうに。……これじゃ、弘子に軽蔑さ
れること受合いよ」
 その晩、いつもの喫茶店で、二人からこの手紙を見せられた弘子は、思わ
ず目を丸くした。
「私、自分の目が信じられないわ。……立石さんが、こんな変態だったなん
て!……でも、男の人って、こと女性に関しては、いろんないやらしい妄想
を抱くものでしょう?……立石さんだってこゝに書いてあることを、文字通
り実行するとは限らないわ。……そう、想像の世界と現実とは違うのよ。…
…私、立石さんの目を覚まして上げる!……明日、私の手紙を彼に届けて頂
戴」
 節子と君江は、思わず顔を見合わせた。
 弘子の反応は、二人にとって全く予想外である。
 彼女と分れた節子と君江は、連れ立って歩きながら、今後の進め方を相談
した。
 その結果、弘子に本心から立石康治を軽蔑させるためには、思い切った荒
療治が必要だということになった。
 例によって、佐々木弘子の手紙を全面的に書き変えた二人は、立石を呼び
出してそれを渡す。
 手紙に読み耽る彼の前で、二人は息を飲んでその反応を窺った。
 立石の顔が、次第に紅潮し、手紙を持つ手が震える。
 明らかに、大きなショックを受けた様子だった。
「そ、そんな馬鹿な!……私の気に入るためには、どんなことも厭わぬと
おっしゃるなら、その証拠を見せて下さい。まづ、私の奴隷になれるかどう
か、鹿島節子さんと木村君江さんにリハーサルをお願いしたので、詳細は、
お二人に聞いて下さい=c…こ、これは、一体何ですか!」
 立石の声は、完全に上ずっている。
「弘子はね、貴方の言うことが信用出来ないのよ。……口約束だけでごまか
されたくないって言ってたわ。だから、私達二人でリハーサルして欲しいん
ですって」
「奴隷のリーハーサルって……まさか貴女達二人の前に跪いて足を舐めろな
んて言うんじゃないでしょうね?」
「そんなに、深刻に考えなくても良いのよ。……ただ、適当に格好だけつけ
て、それをビデオに撮って彼女に見せれば、それでオーケーよ」
「ビデオですって?……」
「そう。……これは、立石君が弘子と交際を初めるための、一種の踏絵みた
いなものね。……きみが本当に弘子に憧れてるのなら、演技でも良いから、
それを証明しなくっちゃね」
「彼女との交際が実現したら、あとはきみの愛情で正常な男女関係へとリー
ドすればいゝのよ。……先ずは彼女の気まぐれを受け入れることね」
 節子と君江は、口々に立石を説得する。
 暫く考えさせてくれと一旦は即答を避けたものゝ、一晩考えた末、彼は節
子と君江にしぶしぶゴーサインを出した。
「……本当に、恰好をつけるだけだぜ。……弘子さんならともかく、君達に
奴隷扱いされるなんて、考えただけでも胸がむかつくよ」
 その週末、鹿島節子のアパートを訪れた立石康治は、すでにビデオカメラ
をセットした居間へ案内された。
 木村君江も、先に来ている。
「パンツひとつになって頂戴。……そして、なるべく奴隷らしく見せるため
に、犬の首輪を付けることにするわ。
……それから、これ、SMショップで買って来た玩具の手錠よ」
 節子は、立石に有無を言わせず、テキパキとことを運んだ。
勿論、君江も協力する。
 二人の女性は、彼を後手にして手錠を嵌め、さらに両足も拘束する。
 玩具とは言え、金属製の本格的なものだった。
 首輪まで嵌められ、居間の中央に正座させられた彼は、完全に身体の自由
を奪われ、不安な気持で一杯になる。
「じゃあ、始めるわよ。……カメラ、スタート!」
 節子は、ニヤニヤ笑いながら声を掛け、彼の前に椅子を持ち出して、腰を
掛けた。
「ホラ、きみの好きな女の足よ。……遠慮無く、舐めて御覧!」
 節子の素足がスッと彼の顔の前に伸び、足裏が男の唇を捉える。
 むれた足の臭いがムッと鼻を突き、汚れた足裏が立石の唇をにじりながら、
押しつけられた。
「駄目よ!……そんな舐め方じゃ。……もっと犬の様にペロペロ舐めなさ
い!」
 恐る恐る、申し分け程度に足裏に舌を這わせた彼の耳に、節子の叱咤が飛
び、首輪の紐がグッと引かれる。
 途端に屈辱感が、彼の背筋を電流の様に貫いた。
これじゃあ、……や、やくそくが、違う
 心の中で呟いたものゝ、立石は、不潔感と戦いながら首を上下に振って女
の足裏を舐める。
 苦味がピリッと舌を刺し、屈辱感を増幅した。
「今度は、こっち。……そうそう、その調子!」
 節子は、足を組み変えて、更に、執拗に足舐めを強制した。
「よく出来たわ。……ホラ、こんなに奇麗になったわ。……クックックッ」
 汚れのとれた足裏を示しながら立ち上った節子は、彼の目の前でスカート
に手を入れ、素早くパンティを脱ぎ取った。
「口を開けなさい!」
 命令すると同時に鼻を摘まみ、たまらず開けた彼の口の中に彼女のパンテ
ィが押し込まれた。
 ウッと呻く立石の口を、ガムテープが覆う。
「口の中でよく味わうのよ。フッフッフッ……なーに、その目は! ホラホ
ラ、涙が出て来たわ。……きみの言いたいことは良く判るわ。……約束が違
うっていうんでしょう?……でも、もう遅いわ」
 節子の横から、君江もニヤニヤ笑いながら覗き込む。
「あとで私のも舐めさせるから、節子のとよく較べるのよ。……ウフフッ、
そう、きみは私達の罠に落ちたの。……今日と明日の二日間、私達できみを
女の奴隷に仕込んであげる。……勿論、ビデオは編集して弘子に届けるわ。
立石くんは、こうしてリハーサルを受けましたってメッセージをつけてね」
「君江の言った通りよ。……でも、特別に、きみにはスケジュールを説明し
て上げるわ」
 節子は、手元の手帳を見ながら続ける。
「もちろん、これは佐々木弘子の注文なんだから、悪く思わないでね。……
エーッと。先ずこの次は、舌奉仕。……顔の上に跨がってあげるから、私達
に虹の夢を見せるのよ。……それから、アナル・キッスで奴隷の味をたっぷ
り賞味すること。……それからぁと、……アラアラ、可哀そうに。きみは私
達のお小水を飲まされるのよ。……ホーラ、また涙なんか流して!……フフ
フッ」
 佐々木弘子と立石康治の間をとりもつメッセンジャー達は、遂にその仮面
を脱いだのである。
 弘子へのひたむきな思慕が災いして、二人の女達から奴隷転落のリハーサ
ルと称して、思いも掛けぬ辱めを受けることになった立石は、節子と君江の
前で無念の涙を流し続けるのだった。
 ……そして、その翌週。
 会社の帰りに佐々木弘子と落会った鹿島節子と木村君江の二人は、その
まゝ連れ立って弘子の住むマンションへと向かった。
 佐々木弘子は、郷里に両親を残し、現在ナイトクラブで働く三つ上の姉の
麗子との二人暮しである。
 弘子とまるで瓜ふたつと言っても良い程似てはいるが、妹の美しさに、更
に熟れた女の妖艶さを加えた姉の麗子は、クラブのナンバーワンで、その男
関係はかなり複雑だった。
 たまたま居合わせた麗子も同席し、弘子の目の前で、鹿島節子と木村君江
の持参したテープがビデオデッキにかけられる。
 それは先日の鹿島節子のアパートでの奴隷のリハーサル≠一部始終、
録画したものだった。
 もちろん、ハイライト部以外はかなりの部分がカットされ、画面に登場す
る節子と君江に都合の良い様に、予じめ編集済みのものである。
 目の前に次々と写し出される異常なシーンに、弘子は思わず何回も驚きの
声を上げた。
「……私、自分の目が信じられない!……これ……本当に立石康治さんが、
自分から望んでしたことなの?」
 弘子が、たまりかねた様に途中で声を出す。
「そうよ、彼って、スゴイ変態なの。……ホラ、見て御覧なさい! 君江の
尻に敷かれて、しきりに咽喉を動かしてるでしょう。……あれ、オシッコを
飲んでるのよ。……彼ったら、ホントにおいしそうに飲むんだもの」
 ここぞとばかり節子の解説が入った。
「イヤだぁ……本当に飲んでるのね。いやらしい!」
 弘子が、軽蔑を含んだ嘆声を上げる。
「そう。……ホラ、見てぇ。アトをペロペロ舐めてる。……このあと、アナ
ルの方も舐めるわよ。……ホラね」
 君江に代って節子自身が画面に登場すると、シーンは一層ドギツクなった。
「ホラ、私のお尻に敷かれて、彼ったらしきりに舌を動かしてるでしょう。
……アレ、とっても感じるの。……あとで聞いたら、彼は正常なセックスに
は興味が無くって、もっぱら、ああして女性に奉仕したいんですって。……
勿論、弘子、あなたに使われるのが彼の望みよ」
 節子の説明を、後ろの方で聞きながら画面に見入っていた弘子の姉の麗子
が、身を乗り出した。
「いいじゃない、弘子。……使ってやりなさいよ。……あなたのあとで、私
も是非お相伴させて欲しいわ。……それに、こんなことぐらいでびっくりす
ることないわ。……SMクラブへ行けば、こんな変態の客はゴロゴロしてる
のよ。……ねえ、弘子。折角、奴隷になりたいって言うんだから、望みを叶
えてやりなさいよ。……ひとりで心細いのなら、私が一緒に立会って上げる」
 麗子の勧めに、弘子も次第に考えが変ってくる。
「私、立石康治さんを見損なってたわ。……彼の手紙に書いてあったことは、
すべて男特有のの妄想だとばかり思っていたの……」
「それを、彼が実行したもんで、弘子はショックを受けたのね。……無理も
ないわぁ」
 鹿島節子が、慰め顔に呟く。
「それに、節子や君江にあんなに穢された男なんて……とても、対等につき
あう気になれないわ」
「そうよ。……私達のおしも≠ペロペロ舐めた男の口に、弘子はキスす
ることが出来て?」
 木村君江が、ここぞとけしかける。
「でも、今の今まで、恋人にって思っていた人を、あのビデオを見たからっ
て、急に奴隷扱い出来るかしら?」
 弘子は、自信なげに姉の麗子に問いかけた。
「そうね。……弘子の目の前で、もう一度あの男に本性をさらけ出させれば、
弘子も諦めがつくわよ。……どうかしら? 私が、その役を引き受けてもいゝ
わ。……実は、今まで黙っていたけど、私、短期間だったけどSMクラブで
働いたこともあるのよ。……勿論、女王様役でね……」
 麗子の意外な告白に、一同は唖然とした。
 と同時に、麗子の提案ががぜん説得力を持つに至る。
「それはそうと、弘子がいま付合ってる清原さんはどうするの? 確かこの
前のデートで、プロポーズされたって言ってたわね」
 麗子の言う通り、弘子はもうかなり以前から、同じ総務部の清原と密かに
交際していたのである。
 勿論、とっくに身体の関係にまで入っていた。
 立石康二の後輩に当るが、もともと肌が合わず、両名はお互いに口もきか
ぬ不仲である。
「彼とは、いま倦怠期なの。……折角、新しい恋人と再出発出来るかと思っ
たのに……立石さんが、こんなじゃ清原さんと、よりを戻すしかないわね」
 弘子は憮然とした風情で答えた。
「弘子ったら、ずるいわ。……清原さんと立石くんを、両天秤に掛けてたの
ね!」
「そうよ。……始めからそう言ってくれれば、こんな手の込んだことまでし
なくてよかったのに!」
 鹿島節子と木村君江は、憤然として弘子をなじった。
「でも、私、もう一度立石さんの真の姿を見たい。……それも自分の目でね。
……それじゃないと、諦めがつかないもの」
 弘子は、未練がましく呟くのだった。
 それから数日後のことである。
 会社の終業後、行きつけの喫茶店で二人のOLが立石康治を囲んでいる。
……勿論、鹿島節子と木村君江だった。
 先日、彼女等に受けた屈辱が未だ覚めやらず、康治は表情を固くしてなか
なか打解けようとしない。
 それを二人の女が、なだめすかす展開になっていた。
「立石君、私達は、大成功だったと言ってるのよ。……弘子はあのビデオを
見て、君との交際を承諾したんだから、喜んでくれてもいゝじゃない?」 
  
「そうよ。……私達メッセンジャーの努力が功を奏したってわけ。……お礼
ぐらい言ったら?」       
 節子と君江は口を揃えて、仏頂面の康治を促す。
「君達は、僕を騙したんだ。……あんな……あんなひどい……口惜しい目に
会わせるなんて……」
「それは、すべて弘子の注文だったって、繰返して言ってるでしょう。……
私達だって、すき好んでやったことじゃないのよ」
「でも、口に出して言えない様な所まで舐めさせるんだもの。……それに、
あんな汚ないものまで飲ますなんて……ヒドイよ!」
「ウフッ、悪かったわね。……ホラ、私、思い出して、お尻がムズムズして
きたわ」
「私もよ。……それに、私達の股の下で、汚ないお水をゴクンゴクンとおい
しそうに飲んだのはどこの誰?……普通の神経の男だったら、恥ずかしくて
私達の顔がまともに見れない筈よ」
 売り言葉に買い言葉である。
 二人の反撃に、康治は顔を真っ赤にして俯いた。
……涙がポロッと膝に零れる。
「判ったらいゝのよ。……で、どうなの?……弘子とのデートは承知する
の?」
 たたみ掛ける節子。
 黙って頷く康治を見て、君江が慰め役に回る。
「心配しなくてもいゝのよ。……最初だけ、ほんとに最初だけよ。……最初
のデートだけ、我慢して彼女の言いなりになってれば、弘子は満足するわ。
……その次からは、康治君がリードして二人の間を正常な交際へともって行
けばいいのよ」
「そうよ。弘子だって、変態じゃないんだから大丈夫。……ただ一度だけで
いゝから女王様の気分を味わいたいって私達に言ってたわ。……彼女、女性
特有のロマンチックな夢を持っているのよ」
 節子も口を添えた。
 そして……立石康治と佐々木弘子の初デートの日。
 胸を高鳴らせて弘子のマンションへ向かう康治の脳裏に、フト、いつぞや
の屈辱のシーンが浮かんだ。
今日も、あの時の様な屈辱を味わうのだろうか?……いや、弘子さん相手
ならどんなことでも我慢出来る。……それに、どっちみち一度だけのセレモ
ニーなんだ
 ひとり胸に呟く康治だった。
 秋の陽はつるべ落しに暮れるとか。……康治が弘子のマンションに着いた
頃には、家々の窓や街頭に灯が入りそれが夕刻からの靄の中に滲んで見える。
 弘子のマンションのチャイムを鳴らすと同時にドアが開き、ネグリジェを
着た女の影が暗闇に浮かんだ。
 部屋の中はすべて電気が消され、僅にコンセントに差し込まれた豆電球が
廊下を照らしている。
 彼女の後を追う様にして康治が入ったのは、これも照明を落した彼女の寝
室だった。
「裸になりなさい!」
 凛とした女の声に押されて、康治は衣服を脱ぐ。
 ブリーフ一枚で絨緞の上にへたり込んだ康治の前に、ベッドに腰掛けた女
の足がスッと伸ばされた。
「四つん這いになって足を舐めるのよ!」
 何故か、節子と君江の足に蹂躙された時のことが、瞬間チラッと頭をかす
めたが、相手が、あこがれの弘子では拒み様がなかった。
 犬の様に四つ這いになって女の足裏を舐める自分の姿が、何とも浅ましく
思えるのも、リハーサルを経験した余裕からかもしれぬ。
 やがて、両足を舐め終ったところで、女は彼の後ろに回って両手を紐で拘
束した。
 不自由な身で床に正座した彼は、ポンと額を蹴られて仰向けに転がる。…
…その康治の顔面に女が素早く跨がった。
 ノーパンの股間からのムーッとする女の臭いに、頭がクラクラッとする。
 その後は節子と君江に受けたリハーサル通りだった。
 女の尻が彼の顔面をにじり、唇に押し付けられたクレバスがしつこく舌奉
仕を要求する。
 膣から流れ出た淫液が彼の咽喉に溢れ、両頬をしっかりと挟んだ尻丘の圧
力が彼に屈服を強いた。
 無限とも思える時間の後、頂点に達した女の柔肉が彼の顔の上で痙攣する。
 ホッと息を付いた康治の唇に、今度は女のアナルが押し付けられた。
 流石にためらう彼の唇を、その菊座が繰返しにじり、苦い汚物の粕を口中
に送り込む。
弘子が、こんなことまで……
 みじめさで胸が一杯になったものゝ、顔を背けることも出来ず、ゴクリと
汚れた粘液を飲み込んだ。
 クックックッと女の笑い声が耳に入り、康治は屈辱でカーッと顔が火照る。
 そして、尻がスッと後へずらされたかと思うと、女は今一度の頂点を求め
て、再び舌奉仕を求める。
 康治は、そのあまりに貪婪な女の性欲に、流石に辟易しながらも、疲れで
こわばり気味の舌を動かした。
 顔にぺったりとまつわりつく柔肉が、三度目の痙攣に震えた時には、康治
の舌の付根は余りに長時間の酷使で腫れ上っている。
「もう、その辺で終りにしたら?……あとは私達が引受けるわ」
 突然、可成距離を隔てた部屋の端から声が掛かった。
 聞き覚えのあるその声は、まぎれもなく弘子である。
すると、俺の顔の上にある女の尻は……一体誰だ!
 康治は、思わず心の中で叫んでいた。
 彼の頭上で、女の含み笑いがこれに答える様に響き、顔の上からスッと尻
が浮く。
 同時にパッと部屋の電気が点けられ、康治は眩しさに暫時視力を失った。
「姉さんも随分激しいわね。……アラアラ、立石さんの顔ったら、姉さんの
おツユでベトベトよ。……ウフッ、何ともみじめなもんね」
 慌てゝ身を起す康治の目に、二人の女の影がボンヤリと浮かぶ。
「紹介するわ。……これ、私の姉の麗子。……ウフフ、いままで私だとばか
り思って、姉さんに舌奉仕していたきみは、随分とウッカリもんね」
 弘子に言われてみると、二人共、顔はもとより背丈から身体つきまで、そ
っくりである。
 暗い常夜灯のみの室内では、麗子を弘子と間違えるのも無理なかった。
「それから、もう一人立石くんに紹介する人が居るの。……そら、総務部の
清原さんよ。……フフフ、びっくりした?」
 驚天動地とはこのことである。
 弘子の後ろから姿を現した男が、後輩の清原であることを認めた康治は、
驚愕の余り口もきけなかった。
「ずいぶん浅ましい男だな、お前は。……女の尻に敷かれるのが望みとは、
呆れ返った変態だ。……いいか、よく聞けよ。俺と弘子は、今日、正式に婚
約したんだ。……お前は、弘子の奴隷になるのが望みだそうだが、これから
は、俺達二人のセックスの慰み者として使ってやる。……今日はその手始め
に、俺達でお前の身分を思い知らせてやるからな」
 清原の言葉は、錐の様に康治の耳を貫ぬく。
 パニックに陥った康治は、未だ事情がよく飲み込めぬままに、この場を逃
げ出そうとした。
 両手を後手に拘束されていることを忘れていた彼は、立ち上る前にバラン
スを失って仰向けに床に転がる。
 その首を、弘子の足が踏み付けると、康治はピンで止められた昆虫よろし
く、身動きすら出来なかった。
「見苦しいわよ。……変態なら変態らしく、いさぎよく諦らめたらどうなの。
……フン、お前のビデオは、ここにいる清原さんと繰返し見たわ。……何サ、
節子と君江に散々なぶられたくせに!」
 弘子が蔑みの言葉を投げ掛けている間に、清原はニヤニヤ笑みを浮かべな
がらタオルで康治の顔を拭う。
 そして、ズボンを脱ぎ、康治の顔を見下ろしながら、その胸にドッカと腰
を下ろした。
 清原の男根が、グニャリと康治の顎に触れる。
「じゃあ、行くわよ……」
 声と共に、清原と向かい合って腰をかがめる弘子。
 その白いパンティに包まれた豊なヒップが、みるみる康治の視野一杯に広
がった。
 それが、彼の顔に触れる直前にピタリと静止し、目の前でパンティがスル
リと捲られ、陰りに包まれたクレバスが姿を見せる。
「最初は、奴隷の接吻。……私と清原さんが、上の方で熱い恋人の接吻をし
ている間、お前は私のお尻の下で、私の汚れたアナルに奴隷の接吻をするの
よ。……フフフ、きっと、私達との身分の差がたっぷり味わえるわ」
 ピンク色の菊座がぴたりと康治の唇を覆い、おぞましい汚辱の味を彼の脳
裏に刻み込む。……頭上で、恋しい女と憎い恋敵の男が唇を吸い合う音を聞
きながら。……それは、康治にとって生れて初めて経験する、全身が震える
程の激しい屈辱だった。
「フフフッ、姉さんのと較べて、お味はどおお?」
 存分に唇を蹂躙した後、彼女は、蔑みも現わに嘲笑を浴びせ、尻を彼の顔
を擦りながら額の方へとずらした。
 早くも粘気のある分秘液にまみれたクレバスが、康治の鼻と口を覆う。
 そこへ清原の男根が、まるで奴隷に転落した彼を嘲笑うかの様に、康治の
唇を擦りながら進入して来た。
 そして、二人が結合した後のピストン運動が、康治の顔面の上で始まる。
「舐めるのよ! 私達の結合部を舐めて奉仕するの。……それが奴隷として
のお前の役目よ!」
「お前は、俺達のセックスのつゆ受けになるんだ。……どうだ、自分ながら
浅ましいと思うだろう。ハハハッ」
 気も狂わんばかりの無念さが胸に突き上げてくる。
 しかし、康治の舌は、まるで意志を失ったかのごとく、命じられるまゝに
二人の肉の結合部をまさぐり続けた。
 延々と楽しんだ後、漸く頂点に達した二人が結合を解くと、ドッとばかり
にラブジュースが溢れ、康治の口中に吸い込まれる。
「まあまあ、ティッシュも要らないし便利なこと!」
「こいつには、お似合だぜ。……なあ、当分俺達のセックスの度に使ってや
ろうや」
「そうね。……ハネムーンにも連れて行こうかしら」 
「そりゃいゝ。それに俺達の新婚生活にも役に立つぜ。……昼は奴隷として
こき使い、夜は我々のしもの御用に役立たせればいいんだ」
 康治の顔の上で、驕慢な二人の会話は、次第にエスカレートして行く。
「アラ、私トイレに行きたくなった。……」
「トイレは君の尻の下さ。……さっきのビデオ、覚えてるだろう。……ソラ、
節子や君江に小水を飲まされてた場面さ。……君の後に俺も使ってやるよ」
「クックックッ、私も試してみようかしら。……ホレ、口を開けるのよ。…
…アラアラ、こいつ泣いてるわ。……意気地無し!」
 やがて、康治の口中にチョロチョロと注がれる弘子の汚水が、彼の咽喉を
焼き、彼の恋心を汚辱の淵に沈めて行くのだった。
(完)
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1992年2月スピリッツ2,3月号


2010/03/20